そして、旅立ちの朝。
「本当にありがとうございます!みなさんがいなかったら、ぼく……」
かばんが礼を言うと、見送りに来たフレンズたちが口々に別れの言葉を言う。
「こっちこそ、パークの危機まで救ってもらったよ!」
「おかげさまでぐっすり!かばんさんもちゃんと寝てくださいね」
「かばんといると、新発見がたくさんあったわ!」
キタキツネがうんうんとうなずく。
「かばんさんのおかげで、わたし、あこがれの、仕事に……!」
マーゲイが涙ながらに感謝すると、ペパプが笑う。
「おまえならなんだかんだ大丈夫ですよ」
「なのです」
ハカセたちも珍しく笑顔だ。
「気楽にやりゃーいーよー」
「うん!そのまままっすぐ行け!」
ライオンとヘラジカが優しく見守る。
「心配だけど……みんなで必ず帰ってくるのよ」
「心配っすよ……」
トキとアルパカは心配そうだ。
ビーバーとプレーリーは涙ぐむ。
それを見てカバがしっかりとした口調で言う。
「本当につらいときは、誰かを頼ったっていいのよ」
かばんはうなずき、微笑むとさっと大樹の元に駆け寄り、登り始めた。
「うみゃっ……うみゃみゃみゃみゃ……見て!みんな!」
かばんはあっという間に登り切り、そして枝を飛び移って地面に着地した。
「よっ、ほっ!」
そして軽やかにステップを刻み、素手での攻撃動作の型を見せる。
「ごはんの探し方も教えて貰ったし、安全な眠り方も聞いたし、
木登りだって、狩りだってできるようになったから……!
だから、だから大丈夫!」
おおー、と関心の声がフレンズたちから上がる。
ヘラジカとライオンはこちらを見て、
何かを理解したようで大きくうなずいていた。
私とイエイヌは口を開いた。
「かばんさん!
短い間でしたけど、いっしょに練習できて楽しかったです!
ずっと、ずっと私たちは待ってます!いつでも帰ってきて下さいね!」
「優秀な教え子よ。さらばだ、また会おう。
血を恐れたまえよ……いや、良い旅を」
かばんはこくりとうなずき、手を振る。
「ありがとう、じゃあ行ってきます!」
その顔はもう振り返らない。新しい冒険に向けられているのだ。
さあ行くんだ。顔を上げて、風を一杯にその身に受けて。
「かばんちゃん!早く早くー!」
「しゅっこーう!なのだ!」
「みんなー!ありがとねー!」
サーバル、アライさん、フェネックの三人が手を振り、かばんを迎える。
ボスがしゃべり出して船が動き出した。
「来タネ、カバン……ジャア、イコウカ」
「うん!」
ポッポーッと汽笛が鳴り……青空の下、大海原に向かって船は進んだ。
「おーい!平気か-!」
「だいじょぶそうかー!」
かばんたちとフレンズは手を振り合い互いを見送っていた。
私も帽子を脱ぎ、手といっしょに振る。
「帰りましょう、ゲールマン。
……かばんさんたちは、帰ってきますよね?」
「ああ、信じよう。それだけの力はもうあるのだから。
ヒトの……そして、フレンズの可能性はどこまでもあるのだ」
イエイヌは自然に私に杖を差し出してきた。
私もうなずくとそれを取る。
やはり義足では杖があった方が楽なのだ。
「はい!信じて、待ちましょう!」
「帰ろう、イエイヌ。私たちの家へ」
「はい!」
■
それから、数年が過ぎた。
ごくまれに、島々を横断する渡り鳥のフレンズからかばんの噂を聞く。
どうやら、元気でやっているらしい。
「今日も良い天気だ……」
私は安楽椅子に身を横たえて暖かい春の日差しの下、うたた寝をしている。
眼下には私たちが手入れをした庭が見える。
一面にお茶用のハーブや、七色の花々が咲き乱れている。
「ゲールマン!来ましたよ!かばんさんたちが、みんな!帰ってきましたよー!」
空を見上げれば、ババババという奇妙な羽音と共にヘリコプターという図書館で見た飛行機械が遠くに見える。
手を振る影はサーバルだろうか?運転席には美しく成長したかばんと、フェネック。
アライさんもサーバルの反対側から、手を振っている。
ヘリコプターには大きくジャパリパークのマークが描かれていた。
「ああ、知っている。お茶を入れよう、イエイヌ。
やがて、かばんたちを出迎えるために……」
「はい!」
かばんの冒険がどのような結果になったのか。
それは分からない。
だが、皆無事で帰ってきた。それだけでいいのだ。
好きに生き、好きに死ぬ。誰のためでもなく……
自由とは、そういうものだ。
人は皆、挑む権利を持っている。
その結果が失敗であったとしても、
それは絶望を意味するものではないのだろう。
これにて「老いたフレンズゲールマン」は完結です!
みなさん本当にありがとうございました!
皆さんの応援なしにはここまでこれませんでした!
ありがとうございます!
蛇足ですが、続編を書いてます!「醜いフレンズルドウイーク」がそれです。
よろしければぜひ!