※この作品に登場する山の翁、キングハサンは原作「fate」に登場するキングハサンとは異なります。

それでも「構わん、行け」と言う方々はどうぞご閲覧ください。

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目が覚めたら「山の翁」だった件

走る

 

走って、走って

 

()()から逃げ続ける

 

「…ハッ……ハ…ッ!!」

 

足の感覚が無い、息が続かない

 

それがどうした

 

胸が痛い、心臓が張り裂けそうだ

 

それがどうした

 

傷が痛む、血が足りない。このままではどちらにせよ死ぬことになる。

 

それがなんだ?

 

()()から逃げるのだ

 

それだけで済むのだから安いものだろう

 

走れ、決して立ち止まるな

 

()()から逃げ続けろ

 

足を動かせ、血を巡らせろ

 

仲間に託された思いを、自身のこの身に託された思いを胸に

 

行け、仲間の力をこの身に

 

行け、自身の思いをこの腕に

 

行け、仲間の命の意味をこの身に宿し全身全霊で勝利を掴み取れ──!

 

「うおぉぉぉぉおぉぉおぉぉぉォォォォォォォッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

瞳が光を吸収する。

 

辺りの光景を脳が認識する。

 

意識が完全に覚醒する。

 

目だけを動かして辺りを確認する。

 

辺りは()()草木に囲まれた森林地帯。その中では様々な獣が生を謳歌し弱肉強食等の自然の摂理を繰り返し進化を未だに続けている。

 

ふと肩を見れば自身の手のほどのサイズのリスが二匹飛び回って居たが覚醒した自身に気付いたのかすぐに地面へと飛び立ってしまった。

 

身を起こして二本脚で大地に立つ。

 

身の丈程ある大剣をその手に持ち、ボロボロの黒い外套をこの身に纏って歩き出す。よくも悪くもこの体はは目立つためボロボロではあるがこの外套は絶対に手放せない。

 

森林を歩き、目的のない人生を歩き続ける。忘れかけた約束の誓いをこの胸に抱いて未だ終らぬ罪滅ぼしのために歩き続ける。

 

今日もまた、この()()()()()()()から逃げたいがために。

 

 

 

 

自身は昔、ソレも今から数十年ほど前。

 

()()()()()自身はただの学生だった。裏の存在しない正直な夢を追いかける普通のありふれた学生だった。

 

そんな自身はある日、何者かに誘拐された

 

 

 

 

「離せ!くそッ何だよお前!」

 

暴れる自身はまだ子供だった。鍛えられたその道のプロ相手に勝てずもがく滑稽な姿は今でも笑ってしまいそうだ。

 

「クソッ、うるせぇ!黙ってろクソガキ!」

 

「ヒッ…」

 

大人は私にナイフを突き付けた。頬に感じる刃物独特の感触。頬を軽く切り裂き血が出ているがそれでも恐怖に固まって動けなかった。

 

初めてソレを身近に感じた

 

濃厚な“死”の感触。

 

「クソが……旦那の始める余興さえなけりゃ俺たちはお前を殺してんだ。旦那に感謝しろよ」

 

「ウッ…」

 

後頭部に感じる痛み、それは何かで殴打された痛みだった。考える暇もなく脳を揺さぶられ私意識はそのまま無くなった。

 

次に目覚めたときは檻の中だった。

 

それはまるで見物するための檻。

 

動物園のトラやライオンを収容する檻と同じそれはこちらも等しく外が見れた…が、辺りは暗闇に包まれており檻の外は照らされてはいなかった。

 

自身の他には同じ年代の子供が存在した。女も男も同じ年頃の子供を集めたような状況。やはりその顔は自身も同じ恐怖に彩られていた。

 

『Ladies and gentleman!』

 

司会者のような者が現れた瞬間この施設全てが満遍なく照らされる

 

そこは地獄だった

 

「ウワァァァ…ッ!!」

 

「嫌だ、嫌だァァッ!!!」

 

「お母さん!お父さん!助けて!嫌だ!死にたくないよ!痛いのいや!いやぁぁぁぁ!!!」

 

子供が大人に犯され、殺され、痛め付けられ、拷問される。

 

全ての大人は仮面を付けておりその顔は分からなかった。だがそれでも分かる。

 

──笑っていやがる、と。

 

『ここは自由の楽園!heaven hole(天国の穴)!この穴の中はあなたの思うがまま!子供を使って自由に!楽しく!!遊ぶ場所ですッ!!』

 

英語を話すその司会者は観客席に声を出して何かを言っていた。子供だった私はその言葉が理解できなかったが悪意ある言葉なのは理解した。

 

すると檻が開いた。

 

子供達の脚に付けられた鎖はカチャンと外れ、いっせいに子供たちは逃げ出した。当然、私も。

 

しかし逃げ場は存在しなかった。

 

heaven hole(天国の穴)からは出ることのできない、それは天国ではなくまさしく蟻地獄だった。

 

男に服を引ん剥かれ小さな穴に大きな棒を突き入られ弄ばれ泣き叫ぶ無力な少女たち

 

鞭を打ち付けられ踏みつけられナイフで刺され皮膚が避けて血が吹き出し気絶か死んで行く少年たち

 

幸い私は顔も体も良かったらしい。とある肥満なご婦人が私を高い有り金を払って持ち帰った。

 

その後の生活は地獄だ

 

同じ奴隷として買われた仲間たちと共に生き、そしていつも通り貪られる。好きでもない相手に貪られる毎日は地獄だ、快楽すら感じない地獄の日々。

 

新しい新人だった私は特に貪られた。

 

食は充実していたがこき使われ味がしなかった上にゆったり食事している暇は与えられなかった。

 

だが、それでも仲間たちと共に支え合い真に愛せる者と出会い私は生きる意味を見出だした。

 

愛する者は長く短い年月でお互いに認めあった。彼女は私を求めてくれた、だから私はそれにできる限り答えた。

 

幸い奴にテクニックは仕込まれていた。

 

真に愛するものと抱き合うのは心が満たされた、私に充実した気持ちに至らせた。

 

だから私は決意したのだ。

 

私達は奴が仕事をしている内に逃げ出す算段を立てることにしたのだ。

 

城の警備は手薄、この首に付けられたGPS付きの爆弾の首輪さえ取り除ければ訓練された肉壁である私達は雇われた大人程度越えることができる。

 

そう思っていた、慢心していた。

 

恐ろしく順調だった。首輪のキーを監視室で手に入れて首輪を外し私達は敵を暗殺し順調に城の外へと出ることができた。皆も彼女も私も「これで普通の生活ができる」と喜んでいた。

 

 

だがソレだけでは終わらなかった。

 

 

この首輪はGPSと爆弾だけではなかった。充電しなければ爆発する程度のものではなかった。

 

この首輪は会話を聞き取ることもできていた。

 

この首輪は、すべてあの悪魔に会話を送り届けていたのだ。

 

森で奴らは武装して待ち構えていた。

 

仲間の多くは処刑され、女は男に捕まりまた犯され男は銃で撃たれ死亡した。

 

愛する彼女も私以外に抱かれるのはもう嫌だと私を逃がし爆弾を使って敵を道付けれにした。

 

私は生きる意味を失った、だがここで諦めると仲間の思いを無駄にすると感じた。

 

ソレだけはできなかった。

 

私は仲間の思いが心の原動力へと変わり彼女の行いを無駄にしてはならぬと体を突き動かした。

 

必死に逃げた。

 

森林は大きく紛争地帯だった。

 

だから奴らはゲリラ相手にすぐに殺された。

 

私は逃げ続け────

 

 

 

 

そして気が付けば私はこの姿──「山の翁(ハサン・サッバーハ)」となって森に立っていた。

 

名前は頭に浮かんだ事からそれが理解できた。そして自身が肉体が存在する幽霊のような存在だということも理解した。

 

この森林は山としては狭く、何かの組織に保護された森林だったようだ。

 

この森林の生物は皆等しく生かされていた。

 

ある日、この森に侵入した者と出会した

 

だがその者達は私の横を私に目線を向ける事なく通りすぎていった

 

まるで私が()()()()()()()()()()()

 

その者達は森を破壊する算段を立てていた

 

私は森の獣達を見て、とある事を思い出した。

 

 

 

『私ね、「森」って言うのを見たいの!大きな山々に住んでいる生き物を観察したり、食べたり…私もいつか死んで、その森の一部となる……そんな自然の摂理を感じてみたいの!』

 

 

 

 

 

──この者達に森林を壊させてはならぬ

 

その時私の体が無意識的に動いた。この体に蓄積された数多くの経験がその手に持った大きな大剣を使い相手に悟られる事なく剣を振るう。

 

それはまさしく完璧な暗殺だった

 

一瞬、瞬きすら許されない刹那の時間。

 

その一瞬で敵対者の首は跳ねられた

 

この私の手によって。

 

手の震え等無かった。

 

殺人に私は慣れてしまっていた。

 

この森を守るためとはいえ私は殺戮マシンへと変貌したのが心で理解できてしまった。

 

だが同時に私に目標ができた。

 

「私はこの森を守護する。彼女の言葉を、約束としてこの胸に刻みこの森を守ると誓おう。」

 

私は歩き続ける。

 

この森を守るために。何年も何十年も、ずっとこの森を歩き続ける。

 

彼女の約束を忘れないために。

 

 

 

 

数十年経過した今、私はこの森に立ち続ける。

 

外の世界へと旅立つ事は出来なかった。そとの世界は地獄だからだ。

 

汚染された大地は広がり続け人々に平等に死を与えていた。

 

まるで森を守護するため侵入者を排除する私のように。

 

違いはない、あるのは守るものがあるかないかの違いだけだ。何も変わらなかった。

 

「……『シェリー』よ、私はいつになればこの世界から旅立てるのだろうか…?」

 

この生き地獄に、生きるだけの無限地獄に吐き気が出そうだ。

 

私も早くそちら側に行きたいよ…そちらで仲間達とはどうだ?シェリー……

 

 

 

 

 

 

「ここがそうなのね…」

 

少女が銃を持ってその場所を見つめる。巨大な硝子のようなドームに包まれたその場所はその中に美しい大地が広がっていた。

 

誰もが手に入れようとしたもっとも近く、もっとも遠い手に入らぬ楽園……

 

「気を引き締めろ、ここは数々の歴戦の傭兵が手に入れようと踏み込み誰一人として戻らなかったこの世界唯一の安全圏。しかし誰も手に入れられず戻る事すら不可能の大地……別名『全て遠き理想郷(アヴァロン)』、その名は伊達ではないのだからな。」

 

三つ編みをした眼帯の少女が話すその言葉に少女達は脂汗を滲み出す。

 

そう、その地は数多くの実力者が出向き通信はおろか消息すら不明になる唯一残った自然の大地ある場所。

 

練度が一番高い()()()()の部隊すら()()()()()()()()()()()()しか戻らなかった。

 

自分達が生き残る確証は限りなく低いのだ。

 

「この作戦は極秘に行われるわ。私たちの体の回収はおろかバックアップデータすら回収されない。十分に警戒して挑んで…」

 

「「「了解」」」

 

彼女たちはAR小隊、極秘に作られた高性能の戦術人形と呼ばれる人間を模して作られた戦闘隠密可能自立思考二足歩行兵器。

 

感情を持った人間のような兵器だった

 

彼女たちが目指すは食料問題で苦しんでいる人類を生かすために人々を生かすことができるこの地区。

 

果たして彼女たちは目的を果たせるだろうか?

 

強力な守護者のいるこの大地を、手にすることはできるだろうか?

 

 

 

 

「無駄な足掻きなどするな、貴様達には等しく『死』を与えるのが私の役割……

 

その首を出せ…ッ!!」



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