この素晴らしい二度目の世界を生き抜く 作:ちゅんちゅん
気が付いたら翌日だった。
俺が魔力切れで倒れた後は、ほかの冒険者の手助けをしていたらしい。ゆんゆんは適度にキャベツを弱らせ、ダクネスはその体を盾にして他の冒険者を守り、クリスはキャベツの動きをスキルを使い止め、アクアはキャベツの攻撃に被弾した冒険者を癒していたらしい。俺がいなくても回るんじゃないかと少し不安になる。
そんなこんなで、多くのキャベツを乱獲した俺たちだが、特別やっかまれたりはしていないどころか、程よくキャベツを散らしたおかげで対処がしやすかったと感謝された。めぐみんは誇らしげに私のおかげですねと騒いでいた。
肝心の報酬をルナさんに確認したところ、キャベツとレタスを合わせ、六百十八万エリス、そこに貢献度による色付けで六百二十万エリスが支払われた。アクア、めぐみん、ゆんゆん、ダクネス、クリス、俺の6人で山分けして一人当たり百三万エリスを分配し、割り切れない端数はその日の祝杯に使おうとみんなで決めた。エリスの詰まった袋を手にしたクリスは終始ご満悦でハイテンションだった。
いざ飲み会が始まると、めぐみんがシュワシュワを飲むことにダクネスが反対し、一波乱起きたり、ゆんゆんのぼっちトークにクリスがダクネスと一緒だねと言い放ちダクネスがうろたえ、そのあとゆんゆんと友達になったり、クリスとスティール勝負の結果、またパンツを盗られクリスがなんで!? なんでキミからはパンツしか盗れないの!? と詰め寄られたりした。多分、報酬はアクアに預かってもらってたからだと思う。俺? クリスの取り分の報酬をスティールしたよ。号泣しながら謝られたので返したが。そんな俺たちをアクアはずっと笑顔で見ていた。スティール勝負の時は、目が笑ってなかったが……
そして、めぐみんがまだまだ飲めるといいつつダウンしたあたりでお開きとなり、翌日は集まらず、休日としようということで話がまとまった。らしい。スティール勝負の後からはほとんど記憶がないからな。
そして翌日、つまり、今日なのだが……
「あー……頭痛い」
「昨日は盛り上がったものね! 大丈夫? はい、お薬よ。それにしても流石はカズマね。6人もいたのに一人当たり100万エリス越えの報酬なんて正直驚いたもの」
アクアから二日酔いに効くと思われる粉末の薬剤を受け取り、クリエイトウォーターで出した水で流し込む。新生パーティー+助っ人の初クエストは大収穫で幕を閉じた。二重の意味で。そして当然のように二日酔いで動けない。あれだけ飲めや、騒げやとしていたからな……
「こっち来なさい、カズマ。効くかはわからないけどヒールしたげるから!」
アクアは藁の上に敷いたシーツの上で正座し、膝をポンポンと叩く。これは、男が憧れてやまない、女性側からの膝枕! こっちからお願いしてやってもらうよりもワンランク上の膝枕!
「……頭のっけていいのか?」
「それ以外何があるっていうのよ。つらいんでしょ? ほら、来なさい」
「うっす! 失礼します!」
「なによ、元気じゃない」
膝枕のことしか頭になかったので即座に反応してしまった俺に思わずアクアが苦笑する。その瞳には安堵の色がうかがえる。女神かな? 女神だったわ。
「お、おぉ……」
アクアの膝に頭をのせると、目に飛び込んできたのは絶景だった。豊かな二つのお山がありありとその存在を主張し、その奥には慈愛に満ちたアクアの表情がうかがえる。さらに我が子をあやすかの如く、やさしい手つきで俺の頭をなで、その頭部には女性特有の柔らかさを感じる。天国かな? ここを俺の聖域としよう。心なしか下半身にも力が……おや? そんなことを考えているとアクアの顔が段々と赤く染まり、狼狽えだしたぞ?
「ちょ、ちょっと、あんまり見られると恥ずかしいんですけど。それとも何? カズマったら心配してる人の胸を下からガン見してその反応を楽しむような変態だったの?」
「へ、変態じゃねーし!?」
アクアの言葉で我に返る。俺は何をして、何を考えていたのだろうか。大義名分を得さえすればどこまでもセクハラを実行できるという自負はあるが、こちらを労わってくれている相手にそういう視線を向けるなど……まて、この俺が、あのアクアに、そういう視線を向けた……だと!?
「す、すまん、早くヒールかけてくれ。なんか、急に恥ずかしくなってきた」
「なんでカズマが恥ずかしがるのよ! どういうことか説明しなさいよ! ほら、早く!」
いつの間にか、俺のストライクゾーンにアクアが居座っていたという事実を認識したとたんに、この状況がとても恥ずかしく思えてくる。えぇ? マジで? こいつだけは絶対にないわと思っていたのに……
軽く戦慄を受けている俺の気持ちを知ってか知らずか、アクアはいつものようにキーキーとわめいている。俺が、アクアを……ね。
「人生、何があるかわからないもんだな、アクア」
「……神生を変えてくれた人が今更なにいってるのよ……バカカズマ。『ヒール』」
そっぽを向いて顔を赤らめながら俺を罵倒し、アクアは回復魔法を唱える。今までは戦友としての相棒という認識だったが、心にともった火種を自覚してしまったのなら、もう知らないふりはできない。この先、俺とアクアの関係がどう変化していくのかは今の俺にはわからないが、アクアのその表情が、俺にはたまらなく魅力的に映っていた。
このすば!
「ねぇねぇ、カズマ! どこ行く!? どこ行っちゃう!?」
「防具と武器の調達って言ったろ」
「馬鹿ねぇカズマ。その後の話に決まってるじゃない! 流石にジャージじゃファンタジーぶち壊しだものね。前回と同じやつにしましょう。あと武器は弓と剣ね。ここまで決まっているのだもの、秒よ、秒! ならば! その後をどう楽しむかを考えるべきじゃないかしら!」
「へいへい。急に元気になったな、お前」
「だってカズマと二人きりでお出かけよ!? 戻ってきてからの一大イベントじゃない!」
「……そうか」
アクアのストレートな言葉に思わず赤くなる。いやいやいや、どうした、俺! いつもなら大げさすぎだろくらい言ってただろ! お前は中学男子かよ!
「んんっ? カズマ、顔赤いけど、やっぱり調子悪い? 今日はやめとこうか?」
「いや、平気だよ。早いとこ買うもの買って、どっかでゆっくりしようぜ」
アクアは心配そうに俺を見つめ、そして少しばかり残念そうにこちらをのぞき込み聞いてくる。こいつぅっ! わかってやってんのか!? これで全部意図的にやってるなら俺は人間不信になるわ。
「んー……あんまり無理しちゃイヤよ?」
「おう」
あれだな。無理しちゃイヤってのがいいな。無理したら体に悪いですよ、じゃなくてあなたに何かあったら私は悲しいですって感じの思いが伝わってくる。あーダメだ、どうあがいてもアクアを今まで通りに見ることができない。神よ、なぜ今更こんな……ああ、アクアが神だったわ。
「まぁ、せっかくだし、露店で買い食いでもするか」
「良いわね! このアクア様の一押しを教えてあげる。期待していいわよ、カズマ!」
「そりゃ楽しみだな」
このあと、本当に装備の調達はすぐに終わった。あの頃着ていた服をアクアの言う通り購入し、袖を通すと、何とも言えない懐かしい気持ちになった。武器はショートソードと弓を購入。自慢じゃないが、どちらもそこそこ扱える。伊達に人生経験を積んではいない。
買い物が終わると、飼い主を見つけた犬のようにはしゃぐアクアに連れられて、露店で食べ歩きをした。この前食べた串焼きも食ったが、やはり焼き立ては一味違ってよりうまかった。
「今日は夜ご飯はいらいないわね~」
「そういうやつって必ず夜には腹が減るんだよな」
「あるあるね。なんでおなかって減るのかしら……」
「何小学生みたいなこと言ってんだ。何歳だよ、お前……って、あれ?」
中身のない会話をしながら露店を歩いていると、いつの間にか隣にアクアがいないことに気が付く。後ろを振り返ると狙撃屋なる出店の前でアクアが足を止めていた。
「何見てるんだよ。はぐれるだろ」
「カズマ! あれよあれ! あれが欲しいわ!」
そういってアクアは的のぬいぐるみを指さす。アクアが指さす方向に視線をやると、けだるそうな表情でどことなく目つきがいやらしい人形が鎮座していた。なんかやれやれ、仕方ないなとか言いそう。
「あんなのが欲しいのか? 正直、どこにほしくなる要素があるのかわからん。やる気なさそうな顔だし、なんか目元がどことなくいやらしいというか……」
「えっ、カズマさんに似てるなって思ったからほしかったんですけど」
「……帰る」
「ちょっ、待って! 待ってよカズマ! 欲しいのよ! あのカズマが欲しいのよぉおおおお!」
「俺じゃねぇから! つか似てねぇからな!? アレをカズマと呼ぶな」
「いいじゃない! ああいうパッとしないものが後々は思い出になるのよ!」
「お前がパッとしないとか言うなよ! もう俺がパッとしないやつみたいだろ、それ!」
「うわっ、今のカズマさんてば、ちょ一めんどくさいんですけど」
「……やっぱり帰る」
「あぁーっ! 帰らないで! 取ってよ! お願いだから、ねぇ、お願いだからぁ!」
「だーっ、わかったわかった!」
アクアが俺に組み付き無理やり狙撃屋の射撃位置へと押し込む。背中に柔らかい感触を感じながら、仕方がないのでおっちゃんに五百エリスを払い、おもちゃの弓を構える。戻って初めて構える弓が狙撃屋でおもちゃの弓とは……俺が放った一矢は真っすぐに目当てのぬいぐるみに当たると、そのまま後ろへと落下する。
「へー……うまいもんだね。アーチャー職かい?」
「いや、最弱の冒険者さ」
「素質あるんじゃないのかい? そら、景品だ」
「ありがと、おっちゃん。ほら、アクア」
「うわぁ! ありがとう、カズマ!」
おっちゃんにお墨付きと景品のぬいぐるみをもらい、そのままアクアに手渡す。アクアはぬいぐるみを受け取ると、それを抱きしめた。なんか、悪い気はしないな。
それ以降は特に何もなく、俺たちは馬小屋に戻った。アクアは終始ご満悦で、あのぬいぐるみを抱きしめたり、見つめたりしている。そして俺の目の前には一つの包み紙がある。中身はなんてことはない、ただの髪飾りだ。特殊な効果もなければ、特別高価なわけでもない。どこにでも売っている普通の髪飾り。露店で見たとき、思わず購入してしまったものだ。
「あれ? カズマ、それ何?」
「これか、これは……」
そこでなぜか言葉が出ない。いや、言えるわけないだろう。お前に似合うと思って思わず買った髪飾りだ、なんてな。
「ふふふ……なになに? 何買ったのよ。見せなさいよ!」
「あっ、おい」
子どもがいたずらするときのような表情でアクアは俺から包み紙を奪い取ると、その中身を検める。
「なにこれ? 髪飾り? 日本のかんざしみたいね。それにきれいな青色……」
「……それ、つけてみてくれないか?」
「えっ、いいの? 私もちょっとつけてみたいなって思ってたの。さすが、私のことを良くわかってるわね!」
鼻歌交じりにアクアが髪飾りをつける。うん。やっぱり似合うな。
「似合うな」
「えっ、ほんと? 鏡ないかしら? 鏡!」
「それやるよ。あと、疲れたからもう寝るわ」
「えっ、ほんとに!? 返せって言っても返さないわよ? 私の宝物にするんだから! って寝るの早すぎじゃない? やっぱり体調悪いの? ゆっくり休んでね。私も、もう寝ようかしら」
俺は今の表情をアクアに見られないように顔を伏せ、目を閉じ、より機嫌がよくなったアクアの鼻歌を子守唄に眠るのだった。