この素晴らしい二度目の世界を生き抜く   作:ちゅんちゅん

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このリッチーに情けを!

「カズマが、ちゃんとした冒険者みたいに見えるのです」

 

「すごく似合ってます、カズマさん!」

 

「ジャージじゃファンタジー感ぶち壊しだものね。ジャージもいいけど、やっぱりカズマはこうじゃなきゃ!」

 

「見違えたじゃないか、カズマ。……しかし、ファンタジー感?」

 

 昨日、アクアと購入した服に着替えて冒険者ギルドに行くと、みんなが俺の格好を見て感想を述べた。みんなも休日に装備を整えたのか、ダクネスは鎧が新調され、めぐみんは真新しい杖を、ゆんゆんはステッキをそれぞれ所持し、アクアは俺がやったかんざしを髪に挿していた。

 

「ふっ、やはり身だしなみはしっかりとかないとな。あと、めぐみん。ちゃんとしたってなんだ、ちゃんとしたって。しっかりと地に足のついた冒険者だぞ。いずれは魔王を倒す、カズマさんだぞ」

 

「いえ、正直あの格好は浮きまくってましたよ。まぁ、私は気にしませんが」

 

「……マジでか」

 

「あ、あはは……」

 

 ゆんゆんの愛想笑いがめぐみんの言葉は真実だと物語っている。あの頃のことを思い出すからしばらくジャージで過ごしていたのだが……そうか、俺は浮いていたのか。やだ、恥ずかしい。

 

「そ、そうだ、カズマ! どうだ、この鎧は? キャベツの報酬で新調したのだ」

 

「おう、見た目だけならどこに出しても恥ずかしくない、立派なクルセイダーっぽいな」

 

 ダクネスが強引に話をそらすし、新調した鎧の感想を求めてくる。気持ちはうれしいが、もっとなんかあるだろう。

 

「見た目だけなのか!?」

 

「お前、中身残念過ぎるじゃん」

 

「んんっ! 私だって、素直にほめてほしい時があるのだが……カズマは、容赦ないな……」

 

「興奮してんじゃねーよ!」

 

「してない!」

 

 即答する割には、表情が戻り切っていなくて息も荒い。隠す気あるのか、コイツ。

 

「アクアはずいぶんときれいな髪飾りをしていますね。似合ってますよ」

 

「透き通るような青色で……アクアさんにピッタリですね!」

 

「ふふん。いいでしょ? 私の宝物なのよ!」

 

 ダクネスと戯れていると、隣で三人がそんな会話をしていた。なんというか、気恥ずかしい。だが、あそこまで喜んでもらえると贈った甲斐があるというものだ。

 

「それで、二人は武器を新調したのか?」

 

「ふっ……よくぞ聞いてくれました、カズマ! 見てください、この杖を! 魔力溢れるマナタイト製の杖のこの色つや……はぁ、あはぁ……」

 

「その……めぐみんはたまに変になるというか……ごめんなさい!」

 

 杖を取り出し、息を荒らげ体をくねらせながら杖に頬ずりするめぐみんを見て、ゆんゆんがフォローをするように謝る。

 

「今のめぐみんはダクネス以上の変態だな」

 

「んっっ!」

 

「お前、今、変態って言われて興奮しただろ」

 

「……してない」

 

 

 

このすば!

 

 

 

「カズマ! 肉をっ! その肉をよこすのです!」

 

「だめよ、めぐみん。お野菜も食べないと。はい、ピーマン」

 

「パスです。ゆんゆん」

 

「私が取ってあげたのに、私の皿に投げないでよっ!」

 

「友達のゆんゆんへ私からの贈り物です」

 

「と、友達……! ありがとう、めぐみん!」

 

「ふっ、ちょろいです。これだからぼっちは……」

 

「お前、すごい顔してるぞ……」

 

 街から外れた丘の上。俺たちは現在、バーベキューをしていた。もちろん、ただ遊んでいるわけではない。この丘の近くには、お金の無い人や身寄りの無い人がまとめて埋葬される共同墓地がある。

 

 この世界の埋葬は、日本とは違い、火葬ではなく土葬。しかも共同墓地ともなれば、棺桶なんて上等なものは存在せず、そのまま仏さんを土に埋めるだけの簡易なものだ。

 

 そして、今回受けたクエストは、この共同墓場に湧く、アンデッドモンスターの討伐。その名もゾンビメーカー。ゾンビを操る悪霊の一種で、自らは質のいい死体に乗り移り、手下代わりに数体のゾンビを操るのだが、その性質上、基本的な活動時間は夜である。

 

 今の時刻は夕方を回ったところなので、どうせならと、こうして夜を待っているわけだ。説明終わり。

 

「しかし、先ほどからめぐみんは野菜を一切食べてないじゃないか。ちゃんと野菜も食べないと大きくなれないぞ」

 

「ダクネス! 私をお子様扱いするのはやめてもらおうか! しかし、大きく……」

 

「な、なぜ私の胸を見るのだ!?」

 

 ダクネスの胸を凝視しながら、光を映さない、虚無の目をしてめぐみんは野菜を口に運ぶ。あいつ、そんなこと気にするのか。ゆんゆんは友達発言でトリップしている。そんな様子を見ながら、俺は肉と野菜を焼いてはそれぞれの皿へと投げ込んでいく。

 

「カズマも食べなさいよ。ほら、良いところ焼いておいたわ! それに育ちざかりなんだから、カズマはお肉を食べなさい。お肉は筋肉をつくるタンパク質が豊富で体を作る元なのよ?」

 

「さんきゅー、育ちざかりって言葉には違和感しか感じないが」

 

 アクアから肉が大量に乗った皿を受け取り、一度焼くのを止め、食べる。肉体的には育ちざかりなのだろうが、どうにも違和感はぬぐえない。しかし、量が多いな。

 

 何とか肉を消費しきり、野菜へと手を付ける。完食するころには結構な満腹感があった。やはり、食後はコーヒーだな。俺は、マグカップにコーヒーの粉を入れ、『クリエイト・ウォーター』で水を注ぎ、マグカップの下を『ティンダー』で炙る。

 

「あっ、カズマさん。私もお水もらっていいですか?」

 

「ん、ほれ、『クリエイト・ウォーター』」

 

 ゆんゆんが俺のほうへと差し出しているコップに水を注ぐ。初級魔法は生活魔法とよく言われるが、実際、結構使い勝手がいい。

 

「それにしても、カズマさんは初級魔法を器用に使いますよね」

 

「そうか? まぁ、ただ水を出すだけ、風を起こすだけ、火種をつくるだけ、土をつくるだけ、だからな。他の魔法と合わせて使うと意外と有用だったりするんだよな。一番効く理由は初級魔法と大多数の人間がこちらを侮ってくれるってところだけどな」

 

「私も、うまく魔法を使えるようになって、カズマさんの役に立ちたいです」

 

「……別に役に立つとか考えなくていいぞ。ただ、俺が困ったときに助けてくれるとうれしい。仲間って、友達ってそういうもんだろ。役に立つ、立たないとかじゃなくてさ」

 

 ゆんゆんは、今までの経験からか、行動や発言が割と重い。これが、力になりたいとか手助けしたいとかなら俺もこんな柄じゃない臭いセリフは言わないんだが……

 

 しばらく付き合ってきて感じたが、ゆんゆんは常に自分から相手が離れていくことに怯え、異常なまでに相手に尽くしている節がある。それは、友達の関係じゃないと俺は思う。気が付いてるかはわからないが、友達が欲しいと理想を語る割に自分からは決して友達になろうとはしてくれないのだ。

 

 なればこそ、こちらからも距離を詰めてやる必要がある。ゆんゆんがめぐみんみたいにみんなと接することができるようになったとき、俺たちは本当の友達というやつになるのではないだろうか……

 

「か、カズマさん……!」

 

 キラキラと目を紅く光らせ、ゆんゆんが俺を見上げる。これは……感動してるのかな。

 

「さて、そろそろあいつらを黙らせるか」

 

 いまだにギャーギャーと言い争っているダクネスとめぐみんにむけて『クリエイト・アース』を唱えるとそのさらさらな土を二人に向けて構え、『ウインドブレス』を唱える。

 

「いったぃ、目がァーーーーーーッ!」

 

「ぐあああああ! あ、でも嫌いじゃない! 嫌いじゃないぞ!」

 

 突風で吹き飛ばされた土が二人の顔面を直撃し、目に砂ぼこりが入った二人は地面を転がり回っている。

 

「ほら、いつまでやってるんだ。完全に暗くなる前に片つけるぞ」

 

「カズマさんは、本当に初級魔法を魔法使い以上に器用に使いこなしますね……」

 

 

 

このすば!

 

 

 

「……冷えてきたわね。ねえカズマ、引き受けたクエストってゾンビメーカー討伐よね? なにか忘れている気がするというか、引っかかるというか……私、そんな小物じゃなくて大物のアンデッドが出そうな予感がするんですけど」

 

 月が昇り、時刻は深夜を回った頃。アクアがそんな事をぽつりと言った。

 

「幸運が低いアクアが悪いこと起きる気がするというと、ほんとに起きるからなぁ……ひとまず、敵感知をしておくか」

 

 現在全く反応はなし。特段でかい魔力の動きもないとなると、杞憂か? そう、毎回毎回何かが起こるわけがないよな。……ん?

 

「敵感知に引っかかったな。こちらに敵意をもっているヤツがいるぞ、一、二……三、四……んん? 多いなゾンビメーカーの取り巻きってせいぜい二、三体のはずだろ?」

 

「そうですね。カズマの敵感知を信じるのであればいささか多いですが……」

 

 瞬間、墓場の中央で青白い光が走る。それは、妖しくも幻想的な青い光。それは、大きな円形の魔法陣。また、その魔法陣の隣には、黒いローブの人影がうかがえる。

 

「臭う……臭うわ! アンデッドよ、カズマ! すんすん……すんすんすん……リッチー……? リッチーがノコノコこんなとこに現れるとは不届きなっ! 成敗してやるっ!」

 

 リッチー。魔法を極めた大魔法使いが、魔道の奥義により人の身体を捨て去った、ノーライフキングと呼ばれるアンデッドの王。そんな大物がこの駆け出し冒険者の街、アクセルに居るのか……あれ? たしか、そんな人物に一人心当たりが……

 

「まっ――」

 

「『ターンアンデット』----ツ!」

 

「ぼぇえええええええええええ!」

 

 俺の制止むなしく、アクアの『ターンアンデット』が炸裂し、共同墓地の悪霊、ゾンビは皆一瞬で浄化された。リッチーことウィズを巻き込んで……ほんと、アンデッドが絡むと容赦ないな、アイツ。

 

「えーっと、生きてるか?」

 

「だだだ、大丈夫です。一瞬、川の向こうで昔の仲間が見えましたが……危ないところを助けていただき、ありがとうございます。私は、リッチーのウィズと申します」

 

「あっ……ウィズ……」

 

 アクアがやらかしたという顔をする。それと同時に昔なじみと再会した懐かしさと、アンデッドが目の前にいるという不快感が入り混じった複雑な表情になる。

 

「すごい顔してるぞ」

 

「カズマさん。もし部屋に蚊がでたとして、そいつはオスの蚊だから血を吸わないので無害だから殺しちゃダメと言われて我慢できるかしら?」

 

「ひどい例えだな」

 

 アクアにはアクアの葛藤があるらしかった。

 

「そ、その……。私は見ての通りのリッチーでして「見てわからないよ?」、迷える魂達の話が聞けるんです「へぇーそれはすごい」。この共同墓地の魂の多くはお金が無いためロクに葬式すらしてもらえず、天に還る事なく毎晩墓場を彷徨っています「それはひどいな」。それで、リッチーの私としては、定期的にここを訪れ、天に還りたがっている魂を送ってあげているんです」「女神かな?」「女神は私なんですけど!?」

 

「この街のプリーストは拝金主義が多いですからね。共同墓地など供養どころか寄り付きすらしないのでしょう」

 

「まったく、嘆かわしい限りだ」

 

「ウィズさんは優しい人ですね!」

 

「事情はわかった。でも、ゾンビを呼び起こすのはどうにかならないか? 俺達がここに来たのって、ゾンビメーカーを討伐してくれってクエストを受けたからなんだが……」

 

「そ、その、呼び起こしている訳じゃなく、リッチーの私がここに来ると、まだ形が残っている死体は私の魔力に反応して勝手に目覚めちゃうんです。えーっと、私としてはこの墓場に埋葬される人達が、迷わず天に還ってくれれば、ここに来る理由も無くなるんですが……その、どうしましょうか?」

 

「アクア、今度はさぼるなよ」

 

「わかってるわよ!」

 

 その後、アクアが、定期的にあの墓場に浄化しに行くという事で折り合いがついた。モンスターを見逃すという事に若干抵抗があっためぐみんとゆんゆん、ダクネスも、ウィズが今までに人を襲った事がないと知り、ウィズを見逃す事に同意してくれた。これで、浄化したら血も涙もない。

 

 俺は、ウィズに渡された一枚の紙切れを眺める。そこには、ウィズの住んでいる住所が書かれている。今度、あいさつしに行くか。

 

「そういえば、ゾンビメーカー討伐のクエストはどうなるのだ?」

 

「「「「あっ」」」」

 

 俺とアクアが忘れていたのは、ウィズだけでなく、このクエスト自体だったらしい。クエストは失敗し、違約金を払う羽目になるのだった。

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