この素晴らしい二度目の世界を生き抜く   作:ちゅんちゅん

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この休暇期間に休息を!

「あれ、なんだこれ。依頼がほとんどないじゃないか」

 

 ゾンビメーカーの討伐クエストは失敗したため、比較的簡単なクエストをやろうとギルドの掲示板を確認したところ、普段は所狭しと大量に貼られている依頼の紙が、今は数枚しか貼られていない。

 

しかも貼られている依頼というと……

 

「見事に高難易度のクエストしか残ってないな。私としてはこの山に出没するブラックファングと呼ばれる巨大熊の討伐クエストがやりたい。一撃が重くて気持ちいい、凄く強いモンスターだと私の勘が告げている!」

 

「却下だ却下。てか今、気持ちいいって言ったか?」

 

「言ってない!」

 

「もうそのやり取り、飽きてきたんですけど」

 

「ダクネスももう否定する必要ないですよ? 別にそれで私たちの対応が変わるわけではありませんし」

 

「ダクネスさんはダクネスさんです!」

 

「……こういうプレイは……好みではないんだ……」

 

 みんなの言葉を聞き、真っ赤になった顔を両手で隠して消え入るようにダクネスが言う。プレイってお前……

 

「なんにせよ、これじゃあクエストは受けられないな」

 

「申し訳ありません。実は最近、魔王の幹部らしき者が、街の近くの古城に住み着きまして……。その影響か、この近辺の弱いモンスターは隠れてしまい、仕事が激減しておりまして……来月には、国の首都から幹部討伐のための騎士団が派遣されますので……」

 

「それまでは、この残っている高難易度のクエストしか受けられないって事か……」

 

 掲示板の前で立ち往生している俺たちにルナさんが声をかけてくる。結論だけ述べると、来月まではまともなクエストは受けることができないということだ。

 

「しかし、どうするよ。することがないぞ。幸い、キャベツの蓄えがあるからひと月くらいは無収入でも余裕でどうにかなりそうだが……」

 

「私は5日以上何もしていないと、昔みたくだらけちゃいそうだからバイトでもしようかしら」

 

 俺の言葉にアクアがそんなことを言い出す。自分のことを客観的に見ることができるようになったんだなぁ……思えば結構前から、アクアが2日以上は何もしていないところを見たことがないな。あのアクアが自分で自分のことを良く理解して是正しようとするとは……感動を覚えざるを得ない。

 

「私は……実家で筋トレでもしようかと思う」

 

「わ、私は、ご迷惑じゃなければカズマさんと一緒にいれたらなー……なんて……」

 

「何を言っているのですか、ゆんゆん。カズマはクエストの無い間、しばらく私に付き合って貰うのです。あなたといる時間はありません」

 

「えぇ!?」

 

 ダクネスは実家で筋トレ、めぐみんとゆんゆんはアクセルに滞在、か。そういえば、このころからめぐみんと爆裂散歩を始めたんだったかな。確か毎日廃城に爆裂魔法を撃ちこんだんだよな……今回もそれでいいか。

 

「大方、爆裂魔法を撃ちに行くんだろ? ゆんゆんも一緒でいいだろ」

 

「めぐみん……まだやってたの? あれ……」

 

「もちろんです。紅魔族は日に一度爆裂魔法を撃たないと死ぬんです」

 

「それが本当なら、めぐみん以外の紅魔族はみんな死んじゃうじゃない!」

 

 めぐみんに詰め寄るゆんゆん。あの感じだと、紅魔の里にいたときからの日課だったんだな、爆裂散歩。

 

「あと、ダクネスは俺と剣の特訓な。筋トレなんかしなくてもすでに腹筋われてるだろ」

 

「腹筋が割れているとか言うな! しかし、特訓?」

 

 ダクネスが腕を組んで首をかしげる。あのアクアがここまで変わったんだ、基礎を叩き込めばダクネスも化けるかもしれん。この暇な期間に、仲間を強化することが俺の目標だ!

 

 

 

このすば!

 

 

 

「ということで特訓です」

 

「それは、いいのだが……何をするんだ?」

 

 早朝、馬小屋の前でダクネスと待ち合わせ、話していた特訓を行う。

 

「ダクネスは両手剣を使っていたが、『両手剣』スキルは取ってないんだよな?」

 

「ああ。私のスキルは『物理耐性』と『魔法耐性』、各種『状態異常耐性』で占めてるな。後は『デコイ』という、囮になるスキルぐらいだ」

 

 俺の言葉にうなずき、ダクネスは自分が取得しているスキルを教えてくれる。見事なまでに防御極振り。いっそ、大盾でも持ったほうがいいんじゃないのか。

 

俺は軽装のダクネスの肉体に目を向ける。引き締まった四肢に、ブレのないただずまい……筋トレによる下地はできているのか、肉体のコンディションは良さそうだ。

 

「や、やめろ、カズマ。そんないやらしい目で見ないでくれっ! ……興奮してしまう」

 

「見てねぇから! というか本気で照れてるんじゃねぇよ!」

 

「んんっ! コホン。とはいえ、私は『両手剣』スキルを取る気はないぞ?」

 

「もう突っ込まないからな。スキルを取れとは言わんが、せめて剣を当てる努力はするぞ」

 

「ふっ、カズマ。自慢じゃないが私の剣は……当たらないぞっ!」

 

「威張るなよ……」

 

 少し誇らしげに胸を張るダクネス。なんでこいつ自信満々にこんなこと言えるんだよ……

 

「いいか? 『片手剣』、『両手剣』といった各種武器スキルはあくまでも武器の扱い方を後天的に才能として付与するものだ。つまり、本人の素質にもよるが、スキルを取らなくても反復練習を繰り返せば、スキルを取得した人と大差なく武器を扱うことができる。はずだ」

 

「なるほど!」

 

「というわけで……」

 

 俺は冒険者カードを取り出すと、『両手剣』スキルを習得する。スキルポイントが潤沢にあると、こうした使い方もできるからいいな。前回では考えられない。

 

「お、おい! スキルポイントをこんなことのために使うなど――」

 

「しっ! 俺は、ダクネスには期待しているんだ。お前の中の輝きを信じてるんだ」

 

「わ、私の中の、輝き!?」

 

 流石に本物の大剣は筋力不足で持てないと思うので木製の訓練用の大剣を用意した。手に取ると、妙になじむ感じがある。『片手剣』スキルを習得したときにも感じたこの感触。武器を扱ううえでの下地がスキルを習得するだけで出来上がっている。スキルレベルを上げていけば達人並みに扱えるようになるのだろう。

 

「しかし、カズマは大剣を使ったことがないのだろ? 私に教えることなんてできるのか?」

 

「これでも、実戦経験は豊富にある。戦い方を教えることくらい訳ないさ」

 

 魔王軍相手には絡め手ばかりで真っ向から戦ったことなんてほとんどないが、魔王を倒した後は、普通の戦いに憧れて少しばかり特訓した。ちゅんちゅん丸をまともに使ってやりたかったしな。

 

「さて、とりあえず打ち込んでこいよ。軽くいなしてやるからさ」

 

「カズマ、私はこれでも上級職のクルセイダーだ。甘く見ないでもらおうか! はぁっ!」

 

 ダクネスがこちらに駆け寄り、木製の大剣を俺めがけて振るう。一撃目右からの二撃目上段、重心が右足に傾いているから一撃目をいなしてからの足払いだな。よし、まずは右払い切りいなして……ん? あれ?

 

「くっ、なかなかやるな、カズマ……私の攻撃をよけるとは……」

 

「いや、一歩も動いてないんだが……とりあえずお前、普段は力任せに剣を振ってるだろ。剣を振るう時、バランスが崩れてる。木製のは軽いから遠心力も軽い。あと、剣の切っ先を見てるだろ。相手を見ろ、相手を」

 

「お、おお! これは目からうろこだな!」

 

「基礎訓練すらやったことないのか、お前……」

 

 ダクネスとの特訓は、前途多難らしい。

 

 

 

このすば!

 

 

 

 ダクネスとの特訓の後、俺はめぐみんとゆんゆんと共に、街の外へと出ていた。現在、街の近くには危険なモンスターはおらず、魔王の幹部の出現により、弱いモンスターは怯えて身を隠している。

 

 俺とゆんゆんは、クエストが請けられない事で爆裂魔法が撃てず、悶々としているめぐみんに付き合い、爆裂魔法を撃つ場所を求めて散歩していた。

 

「ねぇ、めぐみん。もうその辺でいいでしょ? 適当に魔法撃ってもどらない?」

 

「駄目なのです。街から離れた所じゃないと、また守衛さんに叱られます」

 

「また? ねぇ、今またって言った? 音がうるさいとか迷惑だって怒られたんでしょ!?」

 

 ゆんゆんの言葉にめぐみんはコクリと頷く。ゆんゆんは大きくため息をつくと仕方ないわねと先を歩く。

 

「その、カズマは嫌じゃないのですか?」

 

「んー? 思えば、こうして外をぶらぶらする事はあまり無かったからな。こんな暇な期間くらいは遠出もいいだろうと思ってな」

 

「おぉ! 流石はカズマ! 器が大きいですね!」

 

「ねぇ、めぐみん! あれはどうかしら?」

 

 話をしながら歩いていると、ゆんゆんが足を止め、どこかを指さす。そこは遠く離れた丘の上。そこに、ぽつんと佇む、朽ち果てた古い城。

 

「いいですね! アレにしましょう! あの廃城なら、盛大に破壊しても誰も文句は言わないでしょう」

 

 そう言って、ウキウキと魔法の準備を始めるめぐみん。

 

「紅き黒炎、万界の王。天地の法を敷衍すれど、我は万象昇温の理。崩壊破壊の別名なり。永劫の鉄槌は我がもとに下れ! 『エクスプロージョン』!」

 

 のどかな雰囲気には場違いな、爆裂魔法の詠唱だけがその場に響き、すさまじい轟音と爆炎を上げて廃城は燃え上がった。

 

「燃え尽きろ……紅蓮の中で……はぁ……最高、でぇす……」

 

 こうして、俺とめぐみんの新しい日課が始まった。アクアは毎日バイトに励み、ダクネスは俺と時間を合わせて特訓をしている。

 

 特にやる事のないめぐみんは、その廃城の傍へと毎日通い、爆裂魔法を放ち続けた。

 

 それは、寒い氷雨が降る夕方。

 

「『エクスプロージョン』!」

 

「今日は冷えますね。あ、でも今の一瞬だけあったかかったですね」

 

「いい爆風と温度だな。この寒い中、心に一筋の安寧をくれる」

 

 

 それは、穏やかな食後の昼下がり。

 

「『――ジョン』!」

 

「はい、カズマさん。このサンドイッチ、一応、その、私の手作りなんですっ!」

 

「本当か! おいしくいただくよ」

 

「あの、カズマ。私にも食べさせてください。身動き一つとれませんので」

 

 

 それは、早朝の爽やかな散歩のついでに。

 

「「爆裂~爆裂~爆裂~」」

 

「あ、あぅ……爆裂~」

 

「『――――ン』ッ!」

 

「60点。音圧が物足りない」

 

「それにしても、全然壊れないわね、あのお城……」

 

 どんな時でもめぐみんは、毎日その廃城に魔法を放ち……めぐみんの傍で魔法を見続けていた俺は、その日の爆裂魔法の出来がより分かるようになっていた。極めたと思っていたが、長い月日で俺も鈍っていたということか。

 

「『エクスプロージョン』ッ!」

 

「おっ、今日のは良い感じだな。爆裂の衝撃波が、ズンと骨身に浸透するかの如く響き、それでいて肌を撫でるかのように空気の振動が遅れてくる。ナイス爆裂!」

 

「ナイス爆裂! ふふっ、カズマは爆裂道がわかっていますね! どうです? いっそ本当に爆裂魔法を覚える事を考えてみては?」

 

「うーん、でも将来、余裕があったら習得してみるのも面白そうだな」

 

「いい心がけです。ゆんゆんもどうですか?」

 

「確かにかっこよくて使ってみたい気もするけれど……」

 

 そういってゆんゆんは言いよどむ。ロマンだけではやっていけないということか。今日の爆裂魔法は何点だった、次はここを意識しよう等、そんな事をめぐみんと、戻ったら食事をしよう、午後は何をしようかとゆんゆんと語りながらアクセルへの帰路につくのだった。


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