この素晴らしい二度目の世界を生き抜く 作:ちゅんちゅん
日課となった爆裂散歩も今日で6日目。俺たちは今日も足繫く廃城へと通っていた。外観は初日からすると、かなりボロボロになっているが、その形状、機能はなおも健在である。いやしかし、人類最大の攻撃魔法である爆裂魔法を5発も撃ち込まれて、ただの廃城が壊れないなんてことあるのか?
壊れない廃城……爆裂魔法……何かがつながりそうで未だにその記憶へとつながる糸口が見当たらない。
なんだ? 俺は何を忘れているんだ?
「どうしたのです? 難しい顔をして?」
「いや、爆裂魔法をすでに5発も撃ち込んでいるのに、廃城が壊れないなんてことあるのかと思ってさ」
「ですよね、カズマさん! ずっと不思議だったんですよね。誰かいるのかなぁ……」
「いやいや、使われてないから廃城なんだ――あっ」
「どうかしたのですか、カズマ」
ゆんゆんの言葉で完全に点と点がつながり線となった。あれ、魔王軍幹部の一人、デュラハンのベルディアの城じゃね?
「作戦会議。俺たちがこうして毎日、爆裂散歩をしているのはなんでだ?」
「えっ? えーっと、クエストが受けられないから、でしたよね? 毎日楽しくて、このままでもいいかなぁーなんて……」
「魔王軍の、幹部ですか……?」
俺の言葉にゆんゆんが恥ずかしそうに答える。その隣でめぐみんが冷や汗を垂らしていた。相変わらず頭の回転が早い。すぐに結論に行きついたらしい。
「アクセルの街付近に魔王軍の幹部がやってきたという情報、爆裂魔法を撃ちこまれても壊れない廃城、この城以外は付近に雨風を防げる、滞在できそうな場所はないこと……以上を踏まえて考えると、あの城に魔王軍の幹部がいる可能性が非常に高いと思うんだが……」
「ど、どどどどうしましょう、カズマ!?」
「お、落ち着いてめぐみん! まだ本当にいるかもわからないし、いたとしたのならもう手遅れだから!」
「……なんで、あなたは普段はポンコツなくせに、いつもいつも逆境の時は冷静なのですか」
「ポンコツっていわないで!」
俺の提示した可能性というか、確定事項なのだが、それにめぐみんが慌て、ゆんゆんは逆に冷静になっていた。普段はめぐみんに引きずられているゆんゆんが、こういう逆境の時は逆にめぐみんを引っ張っている。本当にしっかりとした子だ。さすがは紅魔族の族長の娘。
「落ち着いたか? めぐみん」
「ええ、甚だ遺憾ですが、普段はポンコツのゆんゆんのおかげですね」
「ねぇ、それ感謝してるの? 貶してるの?」
「もうやっちまったことは仕方ないし、俺たちが取れる行動は二つ。一つはこのまま何もせずに帰って、ここには近寄らないこと。今まで5発も撃ち込んでるのに、何もアクションがない辺り、結構我慢強いやつなのか、それとも駆け出し冒険だと見下していて、捨て置かれているのか……なんにせよ、ここでやめれば何か問題になることはないだろう……と、思う。そしてもう一つは……」
「「もう一つは?」」
俺があえてそこで言葉を区切ることにより、二人が聞き返してくる。
「もう一つは、問題になる前に、俺たちでデュラハンを討伐する」
このすば!
「急に呼ばれたから、少し期待しちゃったじゃない、カズマ。てか何ここ、アンデッド臭がひどくて今すぐにでも浄化しちゃいたいんですけど」
「ん……ここは、昔に破棄した城だな。隣国と戦争していた際は、高所から全体を俯瞰できるうえに、山々に囲まれ、周囲に伏兵も忍ばせやすいことから、防御の要だったらしい」
「破棄した? しかし、詳しいな」
「ああ、いや、そういう話を聞いたことがあるだけだ。しかし、このようなところに集めて何の用なのだ?」
一度アクセルの街に戻り、アクアとダクネスを呼び、再び俺たちは廃城まで戻ってきた。
「あそこに、魔王軍の幹部がいます」
「ああ、いたわね、そんなの」
「なっ、どういうことだ!?」
俺の言葉に、アクアも思い出したのか納得といった具合に杖を構える。ダクネスは寝耳に水なので大きく狼狽えた。簡単に説明したところ、領民のためにも討伐するべきだとの賛同を得られた。
さて、これで準備は整った。正直、外道も外道な戦法な上に不意打ちもいいところなのであまり褒められたものではないが、相手は魔王軍幹部。手加減はいらないだろう。
「まずは、ゆんゆんの上級魔法、『ライトオブセイバー』を最大威力で展開し、それをめぐみんの爆裂魔法に組み込むことで、直線状にあの丘、というか崖に打ち込み、崖を突き崩して城を下に落とす」
ここの地形を調査したところ、あの崖の下はすり鉢状にくぼんでおり、周りは高い崖になっている。これが結構な深さで、下からも攻撃をされないために、あの位置に建城されたのだろう。そして、今回はそれを逆手に取り、廃城の下の分厚い崖を崩して、そのくぼみに城を落とす。
そのためには、爆裂魔法の威力だけでは心もとない。そこで複合魔法だ。『ライトオブセイバー』を展開し、それを爆裂魔法で直線状に打ち込み、崖を消し飛ばす。お互いを信頼していなければ決してできない芸当ではあるが、こいつらならやってくれるという確信が俺にはあった。
「ちょっ、ちょっと待ってください! 別の魔法を一つに組み込むなど、相当息が合っていなければできませんよ!? それにぶっつけ本番でできるほど――」
「しっ! これは、めぐみん。そしてゆんゆんにしか頼めないことなんだ」
「わ、私たちにしか……で、ですが――」
「なぁに? めぐみん。爆裂魔法に関しては、何を言われても譲らないあの、めぐみんが、ひょっとして怖じ気ついたの?」
「なっ、どーいうことですか、ゆんゆん!」
「あの時の私の決断を、間違いじゃなかったって証明しなさいよ、めぐみん! それで、あの時の貸しはチャラにしてあげる!」
「……ふっ、ふふふ……っ! あなたは、ほんとに……ええ、良いでしょうとも! 我が名はめぐみん! アークウィザードにして爆裂魔法を操りし者! 爆裂魔法こそが最大のロマンにして究極の攻撃魔法だということを証明してあげようではありませんか!」
真剣な顔で決意を固めている二人。でも、これから不意打ちしかけようとしてるんだよなぁ……
「そして、崖を崩して下に城を落としたら、アクア。お前の『セイクリッド・クリエイト・ウォーター』で城を水攻めする。下は崖に囲まれてるから、洪水級の水を出せるアクアならしばらく水はとどまる。普通のモンスターがいれば窒息死を狙えるし、アンデッドなら大幅な弱体化が狙える。そして水攻めしながら、ダメ押しで『セイクリッド・ターンアンデッド』を展開してもらう」
「「「えっ」」」
俺の言葉にめぐみん、ゆんゆん、ダクネスの声が重なる。まぁ、言いたいことはわかる。
「さらに、それで倒せず、目の前に幹部が現れた場合は、ダクネス。お前の出番だ。対面で時間を稼ぎ、俺とゆんゆん、アクアで援護して倒す。アクアがアンデッド臭いって言ってるし、幹部は多分アンデッドだ。目の前に出てくれば、水攻めで十分に弱体化しているはずだから、俺達でも十分勝負になる」
「なんというか……容赦ないな。カズマは……」
「アンデッド相手にはこれでも足りないくらいよ! よくわかってるじゃない、カズマ!」
「まぁ、思うところは色々あるかもしれないが、やるぞ。俺たちでアクセルの街を守るんだ」
「「「「おーーーーーっ!」」」」
俺が拳を天に突き上げ、みんなに言うと、みんなもそれに続く。こうして2度目のデュラハン討伐が幕を開けた。
「よし、まずはめぐみんとゆんゆん!」
「任せてください、カズマっ! いきますよ、ゆんゆん!」
「はいっ、カズマさん! タイミングを合わせてね、めぐみん!」
二人はそう言って片手を真横でつなぐ。途端、二人の周りに魔力の渦があふれ出す。
「あの時、ゆんゆんが私に爆裂魔法の道を行かせてくれたから、今の私があるのです!」
「めぐみんがいたから、いままでライバルとして此処までこれた!」
「『ライトオブセイバー』!」 「『エクスプロージョン』ッッッ!」
ゆんゆんの『ライトオブセイバー』が展開され、その前後におなじみの爆裂魔法の魔法陣が展開される。めぐみんの掛け声とともに一直線に崖を射抜き、爆裂した。支えがなくなり、城がそのまま下へと自由落下する。同時にめぐみんが前のめりに倒れ、ゆんゆんも息が荒い。結構無理をしたみたいだな。
「よしっ! 成功だ! 間髪入れずに次行くぞ! アクア! 落下途中の城ごと、下にたたきつけてやれ!」
「任されたわ、カズマ! この世にあるすべての我が眷族たちよ……水の女神、アクアが命ず……我が求め、我が願いに答え、その力を世界に示せ! 『セイクリッド・クリエイト・ウォーター』!」
この機会を逃すわけにはいかない。俺の指示にアクアが答え、詠唱を始める。先ほどまで快晴だった空は暗雲に覆われ、落下途中の城の上空から大量の水が降り注ぐ。
「おぉおおおおお!? なんて量の水なのだ!? ……ん? 多すぎはしないか!?」
「全力出しすぎだ! アクアぁああああああああ!?」
「間髪入れずに水攻めとは、あぶないとこあばばばばばばばばばば」
「えっ!? なんか今変なのが、あぶ……! ちょ、おぼ、溺れま……!」
「めぐみん!? めぐみーん!! 摑まってて! 流されないで!」
洪水級の水量という言葉に偽りなく、結構な深さがあったにもかかわらず溢れて俺たちの方まで水が押し寄せる。周りの木々をなぎ倒し、めぐみんは流されかけ、ゆんゆんはそれをみて叫んでいた。
完全に目測を誤った。前回は外壁を倒壊させた水量だぞ。この程度で収まるわけがなかった。やがて水が引いたその後には、全身びしょ濡れで地面にぐったりと倒れ込む俺たちと、そして……。
「何を考えているのだ貴様……ば、馬鹿なのか? 大馬鹿なのか貴様は……!?」
同じく、全身びしょ濡れでぐったりしていた魔王軍幹部、ベルディアの姿があった。
「貴様は……!」
「ふっ……ふふふ……俺は、つい先日、そこの城……そこの沈んでいる城に越してきた魔王軍の幹部の者だが……」
ダクネスはすぐさま起き上がり、前に出てベルディアと対峙する。そんなダクネスにベルディアは手に持っている自分の首をプルプルと小刻みに震わせ続ける。
「まままま、毎日毎日毎日毎日っ! おお、俺の城に、毎日欠かさず爆裂魔法撃ち込んでくる、ああ、頭のおかしい大馬鹿は、貴様らかァァアアアア! 俺がァ? 魔王軍幹部だと知っていて喧嘩を売っているなら、堂々と城に攻めてくるがいい! その気が無いのなら、街で震えているがいい! ねぇ、なんでこんな陰湿な嫌がらせをするのぉ!? どうせ雑魚しかいない街だと放置しておれば、調子に乗って毎日、毎日ポンポンポンポン撃ち込みにきおって……っ! 頭おかしいんじゃないのか、貴様らっ! そしてなんだ! ついには城じゃなくて崖を壊して? 城を物理的に落とした挙句、しまいには水攻めとか、どういう育ち方をしたらそんな陰湿なことばかりできるのだ!?」
魔王軍幹部、ベルディアは、それはそれはお怒りだった。気持ちはわからんでもないが、こいつだって『死の宣告』をかけて城に閉じこもって相手が死ぬのを待つとかいうクソみたいな戦法取ってたし、人のこと言えないだろ。
「やれっ、ダクネス!」
「えぇ!? あ、いや、わかった!」
「ちぃっ! 人が話をしているときに切りかかってくるなど! 騎士の風上にも置けんな、貴様は!?」
「私も正直どうかとは思うのだが……その、カズマに強く命令されると、こ、断れないのだ……!」
「き、きちぃ……」
はぁはぁと言いながらベルディアへと切りかかるダクネス。これは、特訓の弊害かな? その様子にベルディアも思わず声を上げる。
「くそっ、なんか無駄に神聖な魔力の水をもろにかぶったせいで力が出ん! というか何なのだ、貴様のその馬鹿力は! 受けているこっちの体が悲鳴を上げておるわ!」
特訓の成果が出ているのか、全く当たらないなんてことはなく、意外にも打ち合えている。フェイント、ディレイなどを混ぜられるとすぐにやられてしまうだろうが今の相手にはそんな余裕はない。相手が弱体化かつ片手で両手剣を扱っていることもあり、ステータスが高く、体力が有り余っているダクネスが若干押している。
「ねぇねぇ、カズマさん。ダクネスに何かしたの?」
「ちょっと特訓をな。ほら、ダクネスを援護するぞ!」
「ちぃっ! お前ら二人が頭おかしいことなど分かり切っているわ! 遊びなどなく、一気に決めてやる」
ベルディアは、俺に向けて叫びながら、自らの首を空高く投げ、両手で大剣を構えて精一杯の威厳を放つ。あの動作は『魔眼』か! 上空から俯瞰の視線で見通し、合間を抜けるように切り捨てる奴の十八番だ。なんでも魔力の流れまでも見えるようになって魔法も回避できるようになるらしい。そして、空高く投げらたベルディアの首の真後ろに巨大な目のエフェクトが現れる。
あれを使われては初心者に毛が生えた程度のダクネスは切り伏せられてしまう。ならば、その攻撃手段を断つ!
「『スティール』---------ッ!」
俺は、全魔力を込めたスティールを炸裂させた! それと同時に、硬くて冷たい手応えと共に、ずしりとした重さが両手に伝わる。
「あ、あの……首、返してもらえませんかね……?」
俺の両手の間で、ベルディアの頭が呟いた。……これ前もあったなあ
「ダクネス。力の限り切り付けてやれ」
「言われるまでもないっ!」
ノーガードのベルディアの体をダクネスが渾身の力で切り付ける。ダクネスの一撃は、ベルディアの黒い鎧を打ち砕き、胸元にざっくりと大きな傷を与える。
「ぐはぁ!? なぜだ……なぜこんなことをするっ! 毎日毎日いつ来るかもわからない爆裂魔法に怯え、撃ち込まれた後は配下とともに片付けをする毎日。ついには城ごと崖下に落とされ、間髪入れずに水攻め。とっさの機転で転移が間に合ったと思えば、あまりの水量で結局、弱体化……それでも……それでもようやく真っ当に戦えると! そう思っていたのにこの仕打ちっ!」
「……せめてひと思いでやってやるよ。アクアっ!」
アクアを呼び、ベルディアの首を体の方へ投げる。
「任されたわ! 『セイクリッド・ターンアンデッド』!」
「ちょ、待っ……! ぎゃああああああー! この、俺が……浄化される、とは……」
アクアの魔法を受けたベルディアの悲鳴がひびきわたり、光がやんだ時、あとには何も残っていなかった。アクアの冒険者カードにベルディアが記載されていることを確認する。問題なく倒せたみたいだな。
「さて、めぐみん、おんぶはいるか?」
「いえ、今日はゆんゆんにおぶってもらうことにします……友達、なので」
「そういうことは本人に言ってやれよ」
こうして、魔王軍幹部、二度目となるデュラハンの討伐は達成されたのだった。
当初はカズマに死の宣告をかけたベルディアがキレたアクアにぼこぼこにされる話でした。