この素晴らしい二度目の世界を生き抜く 作:ちゅんちゅん
楽しみです。
「よお、ウィズ。久しぶり。約束通り来たぞ」
あれから結構時間が空いてしまったが、俺はみんなとウィズの魔法具店に顔を出していた。
「あっ、いらっしゃいませ、カズマさん」
「ここがウィズの店か」
「ほう、魔道具がびっしりですね。このポーションなど、なぜか心惹かれます」
めぐみんがなんとなしに棚のポーションを手に取る。
「あっ、それは強い衝撃を与えると爆発しますから気を付けてくださいね」
「うひぃ!」
「ちょっ! めぐみん! 手を離さないでよ!」
ウィズの言葉に思わずめぐみんが手を放す。落下したポーションをゆんゆんが既のところで受け止め、文句を言う。
「あ、あのー……ひょっとして、ここら辺のポーションって全部爆発したりしますか?」
「ええ、そこの棚は爆発シリーズの棚ですので」
「……カズマ。手を握って。アンデッドの気配が濃すぎて、今すぐにでもこの店を爆発させたい欲求に駆られてるの」
「ひ、ひぇえええええ! やめてください! やめてください!」
「お前、ほんとにアンデッドが嫌いだな。ほら」
アクアの物騒な言葉にウィズが悲鳴をあげる。アクアの言う通り、アクアの手を握ると、アクアが指を絡めてくる。そのままにへらと笑い、張り詰めていた表情が緩む。不快感よりも幸福感が勝ったらしい。アンデッド、悪魔のこととなるとアクアはアクアだなと再確認できる。それでも耐えてるだけ成長したか。
「ず、ずるいですよアクア! カズマ、カズマ! 私も手を繋いでほしいのです!」
「いや、別にいいけど、どんな状況だ、これ」
「え、えーと、皆さんは大変仲がよろしいのですね」
店内で手を繋いでいる男女三人。おっとりとしているだけなのか、大物なのか、この奇妙な状況をみてウィズはそういった。
「ところで、この腕輪はどんな効果があるんだ?」
「それは、盗賊職必須の『スティール』が使えるようになる魔道具です。ただ、盗賊職しか装備できないうえに消費魔力も普通より多いです」
「え、えっと、この玉? 水晶? みたいなものは何ですか?」
「お目が高いですね! それは自分の周囲10キロから100キロ圏内で、魔法が一切発動しなくなるフィールドを作り出す魔道具です。ただ、アークウィザードの方しか装備できないうえにフィールドを展開している間は魔力を継続的に消費してしまいまして……」
「さっきから、使い道がまるでないアイテムばかりではないか?」
「はぅ!? や、やっぱり、私って道具を仕入れる才能ないんですかね……?」
「いや、そうでもないぞ。最初の腕輪は使いどころが思い浮かばないが、二つ目の水晶はパーティーならかなり有用だ。これがベルディア討伐の時にあれば簡単に水攻めで窒息死させることができた」
「さらっと容赦ないことを言い出すな、カズマは……」
ダクネスが若干頬を赤らめ、俺を見る。何もしなくても好感度上がるんじゃないのか、コイツ。
「ベルディアさんといえば、カズマさんたちが倒されたんですよね。あの方は幹部の中でも剣の腕前で言えば相当なものだったはずなのに、すごいですね」
「ほとんど剣で戦ってはいなかったからな。水攻めで弱体化していたところを私が数度、打ち合ったくらいだ」
「カズマの周到かつ嫌らしい作戦は見事の一言に尽きます」
「すこし、デュラハンがかわいそうだったもの……」
「アンデッドなんだからもっとやってもよかったわ!」
「え、えっと……どうやって倒したんですか?」
「崖を崩して城を下に落とした後、上から洪水クラスの水をぶっかけて、命からがら転移してきたところをスティールで首奪って動き封じて浄化した」
「い、命だけはお助けを!」
「……いや、そんな気はないから」
俺の話を聞くなり数歩後ろに下がり命乞いをするウィズ。なんだ、俺はそんなにひどいことをしたか?
「まぁ、それはともかく、なにか有用なスキルを教えてくれよ。ベルディアの『魔眼』みたいなさ」
「え、ベルディアさんの『魔眼』を使えるのですか?」
「実際に目で見て、使い方というか、効果というか、それがわかっていれば習得できるからな。言い方は悪いが目で見て盗ませてもらった」
「え、えっと……カズマさんって、人間、ですよね?」
「人間です」
信じられないといった表情でウィズが俺を見る。まぁ、実際は、前回に様々なスキルについて調べたり、習得したりしたおかげで、今回は見ただけで習得できることが多いだけなんだよな。
「で、何か有用なスキルはあるか?」
「これ以上カズマさんにアンデッド系のスキルを覚えさせたくないんですけど。ちょっとウィズ、空気読みなさいよ。あっ、ちょっとカズマさん、手を振りほどこうとしないで! 悪かったからぁ!」
「それなんですが、そ、その……。私のスキルは相手がいないと使えない物ばかりなんです。つまり、その……。誰かにスキルを試さないといけなくてですね……」
「ああ、それならダクネス、頼めるか?」
「ああ、任せろ。できるだけ痛みを感じられて気持ちいいやつを頼むぞ、ウィズ!」
「え、ええっ!? え、えっと、それなら、『ドレインタッチ』とか、リッチー固有スキルの『不死王の手』……とかですね。『ドレインタッチ』は対象から魔力を吸ったり、逆に与えたりできるスキルです。『不死王の手』は触れた相手に毒、麻痺、昏睡、魔法封じに弱体化などの各種状態異常を発生させるスキルです。えっと、どちらを……」
「両方頼む! 毒や麻痺に侵され、身動きがとれない状態で、じわじわと体力を削ってくれ!」
「え、えぇー……」
流石のウィズもダクネスの主張には引き気味だった。すみません。うちのドMクルセイダーが本当にすみません。
「え、えっと、それでは行きます! 痛かったら言ってくださいね? 止めますので……」
「むしろ望むところだっ!」
「……『不死王の手』、『ドレインタッチ』」
それ以上は何も言うことなく、ウィズは淡々とスキルを使い、両手でダクネスに触れた。
「お、おぉおおおおおお!? カズマ! どうしよう、カズマ! 体が動かない! 状態異常耐性が限界まで高まっている私が、麻痺状態になっている! さらにこの、どんどんと体力を奪われる感じ……たまりゃん! さぁ、ウィズ! もっとだ! もっと私を苦しめてみせうぐっ」
「あ……昏睡の状態異常が発生したみたいです……ど、どうしましょうか……?」
「すみません。ほんとウチの子がすみません……」
「移動させるの、手伝いますね」
ウィズに謝りつつ、マントを床に敷き、その上にダクネスを横にする。ゆんゆんは手伝ってくれたが、手を離された二人は不満そうだ。
「あー、わるいな。お詫びになるかもわからんが、なんか買い物してくよ」
「本当ですか!? 助かります! ありがとうございます! もう何日も固形物を口にしてないんです……」
「あ、うん。これなんていいじゃないか? 一つ三万エリスのポーションだなんて、効果もすごいんだろ?」
「それは、たとえ魔力が0の人でも一時的にアークウィザード級の魔力を手にすることができるポーションですね」
「へぇ! すごいじゃないか! で、副作用は?」
「その……あまりに強すぎるのか、使ったらその人のレベルが1下がります。レベルが1の人が使うと、死にます」
「捨ててください、カズマ! 今すぐその悪魔のアイテムを捨ててください!」
「そうですよ。せっかく上げたレベルを下げるなんて……! レベルを一つ上げるだけでもどんな苦労があると思ってるの!」
紅魔族の二人がものすごい拒絶反応を見せる。ウィズもですよねーと肩を落としている。しかし、レベルが下がるのか……ふむ。
「ちょっ、カズマ!? なに飲んでるの! ぺってしなさい!ぺって!」
「おお、すごいなこれは。今なら爆裂魔法も撃てるぞ!」
アクアが止めてくるが、ポーションを飲み切る。途端に体に魔力が巡るのがわかる。それと同時に、状態異常の弱体化、つまりレベルダウンする感覚がある。これ、自分の経験値を魔力に変換してるな……文字通り魂を削っている。
「か、カズマ……? なにも、爆裂魔法を撃つためにレベルを下げる必要はないんですよ……?」
「めぐみん、俺の冒険者カードを見てくれ」
「なんですか? ……おや、スキルポイントは減ってませんね……?」
「冒険者はレベルが上がりやすく、俺はレベルアップでスキルポイントが倍もらえる……」
「そ、それってつまり……!」
「我が名はサトウカズマ! 数多のスキルを操り、数々の強敵と渡り歩き、いずれは魔王を倒すものっ!」
「「お、おぉおおおおおおおおおお!」」
俺の名乗りに紅魔族の二人が興奮して声を上げる。目が眩むほどギラギラしてやがる。
「カズマ、カズマ!「はい、カズマです」爆裂魔法です! 爆裂魔法を覚えましょう!」
「カズマさん、カズマさん!「はいはい、カズマです」上級魔法を! 一緒に上級魔法で戦いませんか!?」
「カズマ、カズマ「カズマだよ?」ここは宴会芸スキルも覚えてはどうかしら!」
三人が、あのスキルを、このスキルをと俺に詰め寄る。レベリングが必要にはなるが、これは全部とっちゃうのもいいかもしれない。
「とりあえず、このポーション、あるだけもらうよ」
「あっ、ありがとうございます! ありがとうございます! あぁ、ようやく固形物を……固形物を食べられる……」
ウィズが涙ながらに感謝しながらそう漏らす。どんな生活してるんだ、この人。リッチーだから人ではないけど。
「失礼。ウィズさんはおられますか?」
そんななか、一人の老人がウィズの店を訪れた。あれ? 不動産屋のおっちゃんだ。この後、あの思い出の屋敷を見繕ってもらおうと思ってたんだよな。
「実は、売り物の屋敷に悪霊が住み着いておりまして……」
おっちゃんの言葉に俺はすぐにアクアを見たが、アクアも不思議そうに首を傾げたのだった。