この素晴らしい二度目の世界を生き抜く   作:ちゅんちゅん

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この屋敷に除霊を!

 

「……ようやく戻ってきたって感じだな、この屋敷に」

 

「結構かかったものね。にしても、悪霊なんて……今回はまったく心当たりがないわよ?」

 

 街の郊外に佇む、一軒の屋敷。部屋数は屋敷にしてはそれほどは無いらしいが、日本にある一軒家の数倍の大きさがある。この屋敷はとある貴族……アクア曰く、アンナ・フィランテ・エステロイドの持ち物だったらしい。

 

 身体が弱くて外に出られなかった自分の代わりに、自分の死後は屋敷を、外の世界を見て回れる冒険者達に売って欲しい。そして、楽しそうに冒険話をするその様子を見守っていたいと遺言を残し、その遺言に従い、この屋敷は売りに出されている。

 

 と、前回アクアは言っていた。俺が死ぬ前の日も家にいたらしいので、ひょっとしたら最後のあの時も俺のそばにいたのかもしれない。

 

「立派な屋敷じゃないか。しかし、本当に除霊ができるのか? 聞けば、今この街では払っても払ってもすぐにまた霊が来ると言っていたが……」

 

「ちょっとダクネス。誰にものを言っているのかしら? このアクア、毎日共同墓地に出向いて迷える魂を送り返すついでに悪霊を払ってるのよ? 信じて頂戴な」

 

「おおー、てっきり途中で面倒になって結界でも張るものだと思ってました」

 

「うぐっ……」

 

 めぐみんに前回の行いを見透かされ、アクアはたじろぐ。俺もまさか毎日通ってるとは思わなかった。

 

「あれ? 前にウィズさんが送還してるときって、そんなに悪霊っていましたっけ?」

 

「そうなの! あいつら日に日に増えてるのよ! 迷える魂も、悪霊も!」

 

 思い出してイライラしたのかアクアの声が荒くなる。……おや?

 

「絶対に他から来てるわ、あいつら。共同墓地の魂はもう全員送り返したと思うのよ。にもかかわらず毎日毎日……ほっといたらまたどうなるかわからないから、仕方なく浄化してるけれど、いい加減にしてほしいんですけど! 最近は、墓地の外にまで悪霊が……墓地の外……? あ、あれ……? カズマさん……ひょっとして、私、またなにかやっちゃいました……?」

 

「……アクア。全力でやりすぎ。多分、毎回空になるまで浄化するから、評判聞いて各所から霊たちが集まり、墓地に入りきらなくなって、その溢れた霊が屋敷で問題起こしてるんじゃないか?」

 

「なぁんでよぉおおおおおおおおおお!」

 

 真面目に取り組んでいるのに問題を起こすとは……今回は素直に同情する。

 

 

 

このすば!

 

 

 

「浴場に、庭園、厨房も完備とは……至れり尽くせりだな。部屋も少ないと聞いていたが、5人で住むのであれば有り余る」

 

「ねぇねぇ、めぐみん! 部屋は隣にしない!?」

 

「たまには私以外のメンバーにもそれぐらいグイグイ行ったらどうです?」

 

「お前ら! 2階の一番デカい部屋は俺の部屋だからな!」

 

「私は一階の一番大きな部屋にしようかしら。カズマの隣も捨てがたいけど、やっぱり落ち着く部屋が一番よね!」

 

 屋敷内をみんなで見まわった後は、部屋決めを行う。俺とアクアは前回と同じ部屋を選んだ。ダクネスはいつでも訓練に出れるように中庭に一番近い一階の部屋、めぐみんは俺の隣の部屋、ゆんゆんはめぐみんの隣の部屋を選んだ。

 

 それぞれの荷物を決めた部屋に置き、屋敷内を軽く掃除し、風呂の順番で揉め、ギルドでテイクアウトした夕食を食し、みんなで入れ代わり立ち代わりボードゲームなどの遊戯に興じること数時間、時刻は夜半過ぎになっていた。

 

「あぁ……私、今日死んじゃうかもしれないです……こ、こんな友達みたいなことをいっぱいできるなんて……!」

 

「またぼっちをこじらせたかわいそうな娘が、何か言いだしましたね。というか、友達なんですし、いつでも付き合ってあげますよ」

 

「えっ!? めぐみん、今なんて言ったの!? 友達!? 私のこと友達って言った!?」

 

「いえ、知り合いと言いました。あんまり詰め寄らないでください。うざいです」

 

「うざっ!?」

 

 少し歩み寄っためぐみんがすぐに距離を開けていた。素直になるのはまだ時間がかかるらしい。

 

「な、なぁ、カズマ……どうだろうか、みんなが寝たら、一緒に一杯……」

 

「おお、いいな。いつもみたいにどんちゃんやるのもいいが、気の知れた仲間とゆっくりと飲むのも悪くないと思ってたんだ」

 

「そ、そうか! 引っ越し祝いにと、少し奮発したモノがあってだな!」

 

「なら、つまみは俺が簡単に作るか」

 

 俺の返答に、うれしさをにじませながらダクネスがほほ笑む。ダクネスの誘いに乗っかり、大人の一杯というのも中々乙なものではないか。

 

「そうだ! 今日はみんなでこの広間で寝ない? 旅行みたいで楽しそうじゃない? それに、悪霊が来るかもしれないし、固まっていた方が絶対に良いわよね!」

 

「んなっ!? あ、いや、うん……そうだな……そのほうがいいな……」

 

「仕方ないな。ダクネス、また今度な?」

 

「う、うむ! 待っているからな!」

 

 アクアが珍しく……もないか? まともなことを言いだし、決まったばかりのダクネスとの一杯はお流れとなった。目に見えてがっかりしつつも、安全面から考えてそのほうがいいと判断したのか、ダクネスが賛同したので、後日なと小声で伝えておく。

 

「ふ、ふぁあああああああ! 友達っぽいですね! 絶対にそうしましょう!」

 

「私の布団はカズマの隣でお願いします」

 

「じゃあ、反対は私ね!」

 

「では、私はアクアの隣だな」

 

「私はめぐみんの隣ね!」

 

「最近、ゆんゆんが私のことをそういう目で見ているのではと不安なのですが」

 

「違うわよ!」

 

 好かれて悪い気はしないが、女子に囲まれて俺は寝ることができるのだろうか? いそいそと布団をどこからか引っ張り出して引き始めたみんなを見て、そんなことを思った。

 

 

 

このすば!

 

 

 

 俺は、ふと夜中に目が覚めた。いったい、どれだけ眠っただろうか。左右からは整った寝息が聞こえる。周りに人がいるというのは存外安心するものだ。ふと右を見る。

 

「……っ!?」

 

 いつの間にか俺に添い寝をしていた西洋人形と目があった。あ、アクアが持ってきたのかな……? アクアも意外と女の子っぽいところあるじゃないか、とアクアが寝ている左を見る。

 

「ひぃっ!?」

 

 これまたいつの間にか俺に添い寝をしていた西洋人形と目があった。これは夢だ。わけわからん悪夢だ。こういう時は何もかも忘れて寝るに限る。寝ればきっと朝になってて、目が覚めるはずさ。

 

「……ぁっ」

 

 天井にびっしりと張り付いていた西洋人形と目があった。人間、本当に驚いたときは声が出なくなるらしい。ヤバイヤバイヤバイ! こうなったらすぐにでもみんなを起こして……ん? なにか胸のあたりに違和感が……

 

「……ぉお?」

 

 布団をめくると、俺の胸に張り付いて、西洋人形が俺を見上げていた。あ、漏れる……

 

「『セイクリッド・ターンアンデッド』ッ!」

 

 俺が心身ともに老人に戻りかけたとき、アクアの声とまばゆい光が広間にあふれた。ほとんどの西洋人形たちは瞬時に蒸発するように消え、数体の西洋人形だけが床に転がった。

 

「あ、アクアさまぁあああああああ!」

 

「もう大丈夫……怖かったわね、カズマ」

 

 とりあえずアクアを拝んでおく。女神かな? 聖母かな? しかし、あの人形たちなんなの? 怖い、超怖い。何あれ、前回より怖い。なんで俺だけピンポイントで狙ってきたんだ?

 

「なんだ!? 敵襲か!?」

 

「ふぁ……もう朝ぁ……?」

 

 先ほどの光と俺の声でみんなが起きる。ゆんゆんは大物かもしれない。

 

「あれ? めぐみんはまだ寝てるのか?」

 

「……めぐみん。目を開けたまま気絶してるわね」

 

 どうやら第一被害者は俺ではなかったようだ。そっとめぐみんの瞼を下ろし、しっかりと布団をかけると、ダクネスとゆんゆんに事の顛末を説明し、朝方まで除霊作業に勤しむのだった。

 

 

俺たちは屋敷を手に入れた!


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