この素晴らしい二度目の世界を生き抜く 作:ちゅんちゅん
二度目の転生を果たした俺の前には、あの日見た時と変わらない、アクセルの光景が広がっていた。透き通った川に飛び込む子供たち、街中を走る馬車、レンガ作りの家々。何もかもが懐かしく感じ、すっかりこの世界の住民になっていたのだと感じる。そして何よりも……
「おぉおおおお! 体が軽い! 声も高くなってるし力が湧いてくるようだ!」
「ちょっ、ちょっとカズマさん、周りの目が痛いんですけど!」
「もう、足腰の痛みに悩むことも、味の薄い料理ばかり食べなくてもいいんだな……!」
年老いてから忘れていたテンションだとか、フットワークの軽さなんかが沸き上がるようだ。今なら何でもできるような全能感に満たされている。
「さて、まずはギルドで冒険者登録ね。任せて、カズマさん。この女神アクア、今回は登録料の2000エリスを持ってきたわ!」
あの時とは逆に、アクアが今後の指標を語り、苦い思い出を打ち消すべく胸を張ってそう言い放った。
「ん? 2000エリスだけか?」
「……え?」
「いや、老後で結構エリスもたまってたし、もっと持ってくればよかったんじゃないか?」
「――いのよ」
「なんだって?」
うつむくアクアがきえいりそうな声で何か言ったので、とりあえず聞きかえす。どうせ登録料のことしか考えてなくて持ってこなかったんだろうな。
「カズマが死んじゃって、どうしようもなくやりきれなくなって散財にやけ酒で全部使っちゃったのよ! なによ私が悪いっていうの!? 何の未練もなく成仏しないでよ! 私だけ一人取り残すことを後悔しなさいよ! ねぇ、謝って! ほら、謝って!」
「あ、いや、すまん」
ジャージをつかみ俺を揺さぶるアクアに思わず謝る。いや、俺としてもアクアに関しては多少の引っ掛かりがなかったわけでもないけど
「まぁ、アクアには天界で会えると思っていたからな。なんだかんだで一番付き合い長い、その、相棒なんだし? 俺の最後には、隣にお前がいると信じてたから、未練なく逝けたんだよ。……いわせんなよ、恥ずかしいな」
「か、カズマさん……! も、もう、しょうがないわねぇ! さぁ、ギルドに行くわよ!」
「あ、おい、ちょっと引っ張るな! まだ体の感覚に慣れてないんだ、転ぶ!」
顔を真っ赤にしながら目に涙をうかべ、それをごまかすためなのか、俺の手を引いてズンズンと先を歩いていくアクアを見つつ、同じ歩幅で歩くことができる喜びを俺は感じていた。
このすば!
「いらっしゃいませ! お食事ならお好きなお席へどうぞ~ お仕事案内でしたら奥のカウンターへ~」
ギルドに入るとウエイトレスがシュワシュワを両手に声をかけてくる。俺たちが聞いたのを確認すると忙しそうに移動していく。あの子、二十歳くらいで寿退社するんだよなぁ……
「なに見とれてんのよ」
「いやいや、ギルドの雰囲気を懐かしんでるだけだから」
横腹をアクアにつつかれる。ギルドに来るのもかなり久しぶりだ。クエストを受けれなくなってからも食事には何度か来ていたが、動けなくなってからは来ることも叶わない状態だったしな。
「おいおい、ここはデートスポットじゃねぇぞ。それになんだ、その妙な恰好……」
懐かしの巨漢の機織り職人が声をかけてくる。デートって、そんな風に見えたのか。
「やぁねえ! デートだなんて……」
「あー、実は遠くから来たばかりでね。夢は大きく魔王討伐! を目指す冒険者になりに来たんだ」
「……ふっ、ああ、そうかい命知らずが。ようこそ地獄の入り口へ! ギルド加入の受付はあっちだ」
まんざらでもなさそうに否定するアクアを置いといて、冒険者になりたい旨を伝えるとギルドの受付を教えてくれる。あの時もこうして教えてもらったが登録料がなくて引き返す羽目になったんだよな。出だしからつまずいたせいか、結構覚えているもんだな。
「はい、今日はどうされましたか?」
「冒険者登録をしたいのですが……」
「それでは、最初に登録手数料が必要になりますが?」
「はい、2000エリスね! 感謝なさい、カズマ!」
「と、いうわけで、それでお願いします」
「あぁ……はい」
受付のお姉さん、ルナさんの俺を見る目が冷たいような気がする。この感じはヒモかなにかと勘違いされてないか。違いますよ、むしろ散々面倒見てきましたよ。まぁ、そればっかりでもないけど……
「では、改めて説明を――」
「説明は知り合いから聞いているので大丈夫です。その水晶に手をかざせばいいんですよね?」
「ご存じのようですね。であれば、説明はナシにして、登録しちゃいましょうか。それでは手をかざしてください」
にっこりと笑ってからルナさんは登録を促す。しかし俺も一度は天寿を全うした身。魂に刻まれた経験が、新たなスキル、才能として顕現して――
「えーっと、サトウカズマさんですね。ステータスは……どれも普通ですね。知力がそこそこ高い以外は……あれ、幸運が非常に高いですね! まぁ、冒険者に幸運はあまり必要ない数値ですが……これだけ幸運が高ければ商人になることをお勧めしますが……」
そんなことはなかったらしい。二度目になる冒険者適正が低いという現実を突きつけられてしまった。いやいやルナさん、俺、魔王倒してるんですよ? 本当ですよ?
「ねぇ、曲がりなりにも冒険者を目指してやってきた相手に商人を勧めるのって、ギルドとしてどうなの?」
「あ、いえ、冒険者としての適正がまったくないというわけではなくてですね。選択肢の一つとして挙げさせていただいただけでして……本当に適性が0の場合は、こちらからもその旨は伝えておりますので……その、不快でしたら、すみませんでした」
二度目の総評にアクアが不満げに抗議し、ルナさんは困ったように謝罪した。なんというか、アクアが俺を擁護するってのは珍しいな。それに二度目だし、そこまで気にもしてないんだが……
「アクア、お姉さんもただ仕事してるだけだし、俺も気にしてないから。というかどうしたんだお前、俺のためにわざわざ……あっ、俺の職業は冒険者でおねがいします」
「……これは、私も本腰を入れないといけないようね、カズマさん!」
「ん?」
俺が冒険者登録をしている間に、アクアは神妙な顔でそう呟いて、アクアは水晶に手をかざした。
「アクアさんですね……ってこのステータス! あっ」
「私はみんなを癒すアークプリーストになるわ! それと、あまり騒がれるのは苦手だから……ステータスについてはあまり触れないでもらえないかしら……?」
ルナさんが冒険者カードを読み上げる前にアクアは冒険者カードを手に取り、胸に抱えてそういった。これだけ見たら謙虚な美人なんだけどな。
「これは失礼しました。それではギルド一同。アクアさまの活躍を期待しています」
「ええ! 大船に乗ったつもりで見ていなさい! 後悔はさせないから! さぁ、行くわよカズマ!」
こうして俺とアクアの二度目の冒険が始まったのだった。
「あ、でもまずは馬小屋に泊まれるようにお願いして、身の回りのものを整えるのに日銭を稼がなきゃならないわね。労働が一日10000エリスで、諸雑費考えると貯金できるのは大体5000エリスだから、寝床の整理と装備を用意するには……大体ひと月くらいかしら? 前回はどうだったっけ、カズマ?」
「……そのくらいだったと思うよ」
……始まったのだった!