この素晴らしい二度目の世界を生き抜く   作:ちゅんちゅん

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この湖で死線を!

「うじゃうじゃいるな。こりゃ先に片付けない事には湖の浄化どころじゃないな」

 

 タルラン湖までやってきた俺たち。ひとまず俺が全体を見渡せる高台から湖を観察する。キースに教わった『千里眼』を使い、湖を観察しつつ、初心者殺しを警戒し、念のため『敵感知』を使う。

 

 濁った湖の周りを取り囲むようにゴブリンが闊歩しているのが確認できる。初心者殺しは……いないようだな。それにしても数が多い。群れにして二つ分はありそうな数だ。

 

「千里眼に敵感知……冒険者って便利なのね」

 

「敵感知は私もできるし!」

 

「汎用性で言えば、冒険者ほど便利な職業はないぞ。半面、ステータスは低いし、スキルの質は中堅以上の専門職にはよくて五分か若干劣るけどな」

 

 ミツルギのパーティーメンバーの盗賊のフィオと戦士のクレメアが横から俺の様子を覗き込んでくる。

 とはいえ、俺はスキルポイントは潤沢だし、ステータスで勝負はしてないから問題はない。スキルは使い方次第で本職以上に扱える自信もある。

 

「道中でも結構助けられちゃったもんなー……」

 

「最弱職なんて言われてるけど、考えも変わるわよ」

 

「カズマ、カズマ! 撃っていいですか! あのモンスターの群れに爆裂魔法を撃っていいですか!?」

 

「おちつけ、めぐみん。作戦というか、手順を説明するから。問題は初心者殺しだからな。というわけで集合!」

 

 ほっとくと今すぐにでも 爆裂魔法をぶっ放しかねないめぐみんを制止し、みんなを集める。

 

「じゃあ、手順を確認するぞ。めぐみんの希望を尊重して、数が多いゴブリンを間引く。俺の予想では3割は倒せるな。「半分以上を灰燼に帰して見せましょう!」……えー、続いて、動けないめぐみんをゆんゆんが回収しつつ、数が減ったゴブリンをフィオとクレメアで追撃する。上級職の連中が倒すよりも経験値のうま味がデカい。俺は初心者殺しの出現を警戒して『敵感知』を使って待機、ミツルギはフィオとクレメアの援護だ。何かあってからじゃ遅いからな。いつでも助けに入れるようにしといてくれ。ダメージを受けたら声を上げてくれ、アクアが『ヒール』をする。初心者殺しが出現した場合は、俺がすぐに合図するから、ダクネスは前に出て『デコイ』を使ってくれ。アクアが支援魔法、俺が初級魔法で足止めしたりと、援護する。ミツルギは二人を後方へ下げた後、ダクネスと合流。協力して倒してくれ。何か質問あるか?」

 

「あ、あの……私、毎回めぐみんの護衛なんですが……」

 

「今日は特別におぶさってあげましょう」

 

「なんで上から目線なの!?」

 

「ゆんゆんは優秀だからな。中級魔法、上級魔法が使えるから、動けなくなるめぐみんの護衛にピッタリなんだよな。不満だったら役割を変えるけど……」

 

「あ、いえ。次は、違うこともやりたいかなー……なんて」

 

「ん、わかった。次は違う役割をお願いするよ」

 

「はい!」

 

「僕は、二人を見てるだけでいいのかい? そっちの手伝いとかは……」

 

「連携を組むにしても、いきなりはきついだろ。だったら呼吸がわかってる二人を見てもらったほうがいい。一番の戦力には変わりないから、初心者殺しが出た場合は、多少無理してダクネスと合わせてもらう」

 

「わかったよ、カズマくん」

 

「わ、私は! 私はゴブリン相手にどう殴られればいい!?」

 

「後ろで待機だバカ! なんで殴られる前提なんだよ!?」

 

「私は戦わなくていいの? 正直ゴブリンごとき素手で倒せるのだけれど?」

 

「お前が倒してもあんまり意味ないだろ。経験値の観点で考えて、ミツルギのところの二人に倒してもらったほうがいい。……あれ? 言ったよな?」

 

 それ以上は特に声が上がらなかった。人数が増えて管理しきれるか不安が残るところだが、あとはなるようにしかならないだろう。今まで通り、指示を出せばある程度は従ってくれるし、俺がとちらなければ問題ない。

 

「うっし、じゃあ、めぐみん。撃っていいぞ」

 

「待ってましたよ、カズマ! 行きます! 我が内より溢れし、深紅の奔流を以って、彼の者たちに永久の救済を与えよう! 『エクスプロージョン』ッッ!」

 

 めぐみんの掛け声により、魔力が渦巻き、いつものように魔法陣が展開される。

 

 湖の手前、その真上に

 

「はい? ちょ、ちょっとまて、めぐみん。なんで湖を目標に爆裂魔法を撃っているんだ!?」

 

「湖を中心に最大範囲で爆裂魔法を撃ちこんだほうが、ゴブリンを一掃できるじゃないですか!」

 

「いやいやいやいや! 浄化しなきゃならない湖に撃ち込んで、湖が崩壊したり、形が変わったらどうするんだよ! 最悪、街の水源の一つを失うことになるんだぞ!? それに湖が無事だったとしても、そんなことしたら、湖にいるブルータルアリゲーターまで――」

 

「あ、もう無理です。爆裂します」

 

 そんな声を最後に湖が爆ぜた。盛大な水しぶきを上げ、空に大きな虹がかかる。即座に『千里眼』を使い、湖を確認する。水源としての機能こそ問題なさそうではあるが、盛大にえぐれ、水深が変化している。

 

 半数以上のゴブリンが同時に焼死しており、何事かとゴブリンたちが集まってきている。そして、空からブルータルアリゲーターが降ってきてた。

 

 あれは……爆裂魔法でふっ飛んだのか……水の深いところにいたのか、ダメージは期待できそうにない。

 

「お前なあ!? あれか、今までと違って撃つ位置を指定しなかったからか!? そうだよな、そうとしか考えられないですわ。一番油断してたのは俺だったわ、畜生が!」

 

「え、えっと、ご、ごめんなさい、カズマ……」

 

「……あぁ、もう仕方ねぇな! そんな顔するなよ。何とかしてやるから!」

 

 考えろ、考えろ。この手札で敵意がすごいゴブリンを相手にしつつ、次々と空と湖から出てくるブルータルアリゲーターを処理する方法を……っ!

 

「ゴブリンだ……! ゴブリンを湖に投げ込む! 生餌にして湖のブルータルアリゲーターをひきつけさせる! 俺とフィオは『バインド』でゴブリンを捕まえる! ダクネスは拘束したゴブリンを湖に投げ込んでくれ! 空から降ってきたブルータルアリゲーターの数はさほど多くない。ミツルギとアクアで各個撃破していく。クレメア、ゆんゆんはめぐみんを守ってくれ!」

 

「「「「了解!」」」」

 

 ミツルギ、ダクネス、アクアとつかず離れずの位置から『バインド』でゴブリンの動きを封じてはダクネスの方へ投げ、ダクネスはそのゴブリンを湖に投げ込む。湖に投げ込まれたゴブリンは、無数のブルータルアリゲーターに咀嚼されている。

 

 ミツルギは魔剣グラムでアクアは得意の『ゴッドブロー』でブルーアリゲーターを処理しつつ、ゴブリンとブルータルアリゲーターの攻撃から俺とフィオを守ってくれる。

 

「か、カズマさん、魔力が……!」

 

「こっちも限界が近い。あと、生餌も尽きそうだな」

 

「カズマ! 『バインド』はまだか!? 殴られながら無理やり投げ込んでいるのだが、こんな状況なのにどうしよう。興奮している自分がいるっ!」

 

「お前、こんなときに、ほんっと、お前!」

 

「カズマくん! 陸のブルータルアリゲーターはほとんど倒したよ!」

 

「カズマ! この後どうするの!? 経験上、私は自分の考えでは何もしないほうがうまくいくって思うのだけれど、そうすると今なにもできずに棒立ちすることになるわ!」

 

「生餌も魔力も底を尽きそうだったから助かる! よし、ここからは湖から上がってきたブルータルアリゲーターを倒して……」

 

 そう、言いかけたとき、俺の真横を何かが鋭く駆け抜ける。同時に感じる腹部への痛み。

 

「しょ、初心者殺しじゃない!? ちょっと、大丈夫、カズマ! 『ヒール』!」

 

 あれだけの強敵と渡り歩いてきているというのに二度目の世界での初めての負傷は初心者殺しの爪による裂傷だった。

 

 アクアの『ヒール』により傷はすぐにふさがるが、地味に心に傷を負った。俺、もっとうまくやれるとよくわからない自信にあふれてたんだな。情けない。

 

「くっ、ブルータルアリゲーターに加え、初心者殺しまで……!」

 

 ミツルギが苦し気にグラムを構えなおす。その表情には余裕がない。誰かを守りながらとなると、流石に一太刀で、とはいかないか。

 

「固まれ! こちらに襲ってくるのを優先して倒していくぞ!」

 

 黒い獣型モンスターの初心者殺しは知能が高く狡猾なモンスターで、実際に相手にすると非常にめんどくさい。ブルータルアリゲーターの邪魔にならないところで構え、ブルータルアリゲーターの攻撃によりできた隙に一撃を入れては離脱し、ジワジワとこちらを追い詰めてくる。

 

「か、カズマ! 攻めきれん! 守るのは得意だが、こうも敵が多くては間に入ることも叶わん!」

 

「素早くて、魔法もあたりませんし、離れるときはよけれる射程ギリギリに陣取られてます、カズマさん!」

 

「カウンター気味に倒すことはできるけれど、必ず一撃はもらってしまう……! このままではじり貧だ……隙さえできれば、踏み込んできたと同時に切り伏せれるけれど……」

 

 なんだ、この初心者殺しは。今までの敵で一番強いんじゃないのか。

 

「……ん? ミツルギ。隙さえあれば一撃で倒せるんだな!?」

 

「え? あ、ああ。このグラムはどんなものでも切り捨てることができるからね」

 

 ミツルギの言葉に確信する。

 

 いける、いけるぞ!

 

「いいか、俺が隙を作る。ミツルギは初心者殺しを頼むぞ。『クリエイト・アース』!」

 

「あっ!」

 

 俺の意図が分かったのか、ゆんゆんが短く声を上げる。

 

 突っ込んできたブルータルアリゲーターを切り伏せたミツルギ目掛け、初心者殺しがとびかかる。

 

 いまだっ!

 

「『ウインドブレス』ッ!」

 

 そう、いつぞや使ったあの手だ。手の平に生成された一握りの良質の土を俺の放った風の魔法が吹き散らす。

 

「ギャンッ!」

 

 飛びかかろうとしていた所を、突然顔面に砂粒の直撃を受け、目に多量の砂が入った初心者殺しはそのまま地面にうずくまる。

 

「フシャーッッ!」

 

 そして、目が見えないながらもこちらに向かって威嚇した。だが、それまでだ。ヤツの目の前にはグラムを振り上げたミツルギがいるのだから。

 

「本当に、カズマくんには驚かされる、よっ!」

 

 そのまま、脳天から真っ二つになった初心者殺しが地面に伏した。

 

「よっしゃあ! 残りのブルータルアリゲーターとゴブリンもやっちまうぞ!」

 

「「「「おーーーーーーーーーっ!」」」」

 

 そこからは破竹の勢いだった。ミツルギが切り伏せ、アクアが殴って星にし、ゆんゆんが魔法で薙ぎ払い、ダクネスが地味に倒し、俺とフィオとクレメアがゴブリンを数体倒した。

 

「これで、おわりかな……?」

 

「や、やった……い、生きてる! 生きてるよ!」

 

「死ぬかと思った……」

 

 ミツルギパーティーが喜んでる。ミツルギはともかく二人はしたこともないような体験だったことだろう。俺も死ぬかと思った。

 

「か、カズマ、その……」

 

 流石にへこんだのか、めぐみんが俯き、すごく申し訳なさそうに声をかけてくる。原因自分なのに動けないから何もできなかったもんな。

 

「まぁ、何とかなったんだ。今後はもう少し――」

 

 油断があった。すべて終わったと。乗り切ったのだと。

 なぜ、この時俺は、ゴブリンの数が異様に多かったことを忘れていたのだろうか。群れにして二つ分はありそうな数のゴブリン……それはつまり

 

「カズマくん!? 初心者殺しだと!? もう一匹いたのか!?」

 

「か、カズマ!? い、嫌です! カズマァ!」

 

 俺は背後から忍び寄っていた初心者殺しに首元をかみちぎられる。止まらない流血の中、意識を失う瞬間に見たのは、絶望に染まっためぐみんの顔と、初心者殺しを切り殺すミツルギの姿だった。

 

 

 

このすば!

 

 

 

「ようこそ死後の世界へ。私は、あなたに新たな道を案内する女神、エリス。佐藤和真さん、あなたは亡くなりました。辛いでしょうが、あなたの人生は終わったのです」

 

 目が覚めると、そこは中世の神殿の中みたいな部屋だった。そこで、俺は椅子に座り、目の前のエリスさまと見つめ合っていた。

 

 ゆったりとした白い羽衣に身を包み、長い白銀の髪に白い肌。凄まじい美貌ながらも、その表情にはどこか陰りが感じられる。その青い瞳が、俺を哀しげに見つめていた。

 

 改めて自分が死んだ事を自覚する。なんか、すごく久しぶりな気がする。最後に来たときは老衰したときか。

 

「佐藤和真さん。せっかく平和な日本からこの世界に助けに来てくれたのに、この様な事になり……。異世界からの勇敢な人。せめて私の力で、次の人生は、平和な元の世界、日本で、裕福な家庭に生まれ、何不自由なく暮らせるように。せめて、そんな所に転生させてあげましょう」

 

 ただ呆けるように椅子に座っている俺に、エリスさまがそう告げる。

 

「あっ、お構いなく」

 

「えっ?」

 

「もうすぐアクアが『リザレクション』をかけてくれると思うので」

 

「えっ!?」

 

《カズマさーーーーーーーん! 『リザレクション』かけたから、いつでも戻ってこれるわよ! 早くエリスに門を開けてもらいなさいな!》

 

「あ、来ましたね。門、お願いします。おし、待ってろアクア! 今そっちに帰るからなっ!」

 

「ええっ!? ちょっ、ちょっと待ってください! カズマさんは亡くなったんですよ!? なんでそんなに落ち着いて……というか、天界規定で、どのような人も生き返りは一度までと……」

 

《カズマさーーーーーーーん! まだかかりそう? めぐみんは泣き叫ぶし、ダクネスも血がにじむほど拳握りこんでるし、ゆんゆんは珍しくオロオロしてるし、ミツルギも何が勇者だってグラムを湖に投げちゃったんですけど! 早く戻ってきてくれないと収拾付かなくなるっていうか……》

 

「おいアクア、聞こえるかー!? すっかり忘れてたけど、天界規定とやらで、もう生き返る事はできないんだってよー!」

 

《はあー? ちょっとカズマ、目の前の女がそれ以上何かゴタゴタ言うのなら、その胸のパッド取り上げてやんなさ「わ、分かりましたっ! 特例で! 特例で認めますから! 今、門を開けますからっ!」

 

 アクアの声を遮り、エリスさまが門を開く。毎度毎度、すみません。多少マシになってもアクアはアクアなんです。

 

「門は開けました……全く、こんな事普通は無いんですよ? この事は、内緒ですよ?」

 

 今まで、ずっと哀しげな目をしていたエリスさまは、イタズラっぽく片目を瞑り、少しだけ嬉しそうに囁いた。アクアがどんなに成長してもアクアなのと同じように、どの世界でも、エリスさまはエリスさまらしい。


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