この素晴らしい二度目の世界を生き抜く   作:ちゅんちゅん

21 / 31
この生き返りに騒動を!

 あの後、俺が生き返ると、めぐみんとゆんゆん、ダクネスに泣きながら抱き着かれた。服は三人の涙と鼻水、ダクネスの血で汚れた。どーしよ、あれ。

 

 もう浄化なんかやってられるかと三人が言い出し、心情を察したミツルギがブルータルアリゲーターもほとんど倒したし、僕たちのパーティーでアクアさんの護衛をするよと申し出てくれたので、一足先に帰宅した。

 

 

「さぁ、カズマ。ご飯ですよ。熱いので冷ましてあげますね。ふーっ、ふーっ、はい、あーん」

 

「……おう」

 

「どうです? 美味しいですか? あ、お水もどうぞです」

 

「…………おう」

 

「カズマさん! 痛いところありませんか? 私、マッサージしますよ!」

 

「カズマ! 何か欲しいものはないか? なんでも用意するぞ!」

 

「…………………おう」

 

 心の安寧が欲しいです。

 

 こいつら、俺が死んだのが相当ショックだったのか、馬鹿みたいに甘やかしてくる。

 俺が目の前で死んだのが原因なのかめぐみんが特にひどくて、何をするにでも俺について回り、自分で何もさせてくれない。

 

 

 

 食事も

 

「おい、めぐみん。子供じゃないんだぞ。自分で食える。フォークくれ」

 

「何を言っているんですか!? フォークやナイフでけがをしたらどうするんですか!?」

 

 

 

 風呂も

 

「さあ、カズマ。お風呂に入りましょう。隅々まで洗ってあげましょう!」

 

「いや、流石に一人で入るわ! 何言ってんだ!?」

 

「浴場でおぼれて死んだらどうするのですか!?」

 

「そんな死に方してたまるか!」

 

 

 

 トイレも

 

「流石にこれは駄目だ! 何が何でも抵抗するぞ!」

 

「転んで便器に顔を突っ込んで溺死したらどうするのですか!?」

 

「おっまえ、それ本当に起こる事象だと思ってんのか!? つかお前の中の俺はそんな死に方をする大馬鹿なのか!?」

 

「いーれーてーくーだーさーいーっ!」

 

「変態がっ、変態がいるぞ!? だれかァーーーーーーーっ!」

 

 

 

 寝るときも

 

「さぁ、カズマ。もっと詰めてください。私が入れないじゃないですか」

 

「まだマシだなと思ってる自分が嫌だわ……なにナチュラルに一緒のベッドで寝ようとしてるんだよ」

 

「寝てる間に呼吸が止まって窒息死したらどうするんですか!?」

 

「まだ、現実的だなと思ってる自分が嫌だわ……まて、なぜ抱き着く」

 

「どうせ私が寝たらどこか別の場所で寝るつもりでしょう。お見通しなのです」

 

「ぐっ……」

 

 

 心の安寧が欲しいです(二度目)

 

 というか、これあれだ、もはや介護だ。体が動かない老人に戻った気分だ。まぁ、こんな状態も長く続かないだろう。少し様子を見るか。

 

 そう思ったのが今から一週間前。

 

「カズマ、どこに行くのですか? ついていきますよ。あ、そこ段差があるので気を付けてください」

 

「おっまえ、いつまでそれ続ける気だ!? 一週間、一週間だぞ!? 見ろ! あのダクネスとゆんゆんのどうしたらいいのだろうって顔を!」

 

「う、うむ。流石に過剰だぞ、めぐみん」

 

「そうよ、めぐみん。万が一それをカズマさんが受け入れちゃったら見事なまでのダメ人間になっちゃう!」

 

「はぁー……いいですか、二人とも。今の私たちがあるのはカズマのおかげなのです。そのカズマを危険な目に合わせるなど正気の沙汰ではありません。目の前で飛び散る鮮血を浴びながら、必死に止血しようにも全く止まらず、大切な人が目の前で冷たくなっていく感覚がどんなに恐ろしいかわからないのですか!?」

 

「「…………」」

 

「おい、やめろ。それ言ったら何も言えなくなっちゃうだろ。……えっ、まって、俺そんな死に方したの?」

 

 めぐみんも相当なトラウマになっているのか、体を震わせ、自分を抱きしめる姿に二人が押し黙る。意識中途半端にあったら俺もトラウマになりそうな死に方してるじゃないか。どんどん力が入らなくなって目が見えなくなる死に方じゃん、それ。

 

「こんな時は爆裂魔法だ、めぐみん! 爆裂散歩に行こうぜ」

 

「行きません」

 

「よーし、それじゃあすぐに用意しておい、なんて?」

 

「行きませんと言ったのです。外出してモンスターに襲われたらどうするのですか」

 

「あのめぐみんが……!?」

 

「実際、めぐみんはこの一週間カズマにつきっきりで爆裂魔法は一度も撃っていないな」

 

「普段なら一日撃てないだけで気が狂ったように暴れてもおかしくないのに……」

 

「おい、言いたいことがあるなら聞こうじゃないか!」

 

 あのめぐみんが爆裂魔法を一週間も撃っていない!?

 

「めぐみんにも時間が必要だと思って一週間は待ってあげたけど、もういいんじゃないの?」

 

「アクアまでっ――」

 

「めぐみん、貴方、辛そうよ?」

 

「そんな……ことは……」

 

 それまで黙っていたアクアが不意に立ち上がり、めぐみんを見つめてそう言った。めぐみんは否定するが、その声色には力がない。

 

「それに、本心を隠したままじゃ、貴方の想っているカズマが可哀そうよ?」

 

「うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 アクアの言葉にめぐみんはダムが決壊したように泣き出す。

 

「か、かずま……ご、ごめっ、なさい! わた、わたし、のせいでぇ……」

 

「大丈夫、大丈夫よ、めぐみん。落ち着いて……ほら、深呼吸。すってーはいてー」

 

 嗚咽交じりに俺に謝罪するめぐみんをアクアが優しく抱きしめ、諭すようにゆっくりとめぐみんを落ち着かせる。

 

 しばらくして、呼吸が整ったあと、意を決したようにめぐみんは俺を見つめた。

 

「失礼しました。そして、ごめんなさい、カズマ」

 

「おう、別に気にしなくていいぞ? こうして生きてるわけだし……むしろこの一週間の態度を謝ってほしいわ」

 

「うっ……私は、怖かったのです。爆裂魔法を撃つとき、カズマなら私がどんなことをしても受け入れてくれる、何とかしてくれる、そう思って撃ちました。その結果がアレです。私は何もできず守られているだけ、カズマは死にました。私の居場所がなくなるのではないか、カズマに拒絶されたらどうしよう。そう思うと、私は気が狂いそうなくらい、怖かったのです。」

 

「めぐみん……」

 

「そして何よりも、私の隣からカズマがいなくなるかもしれないと思うと……それならば、ずっとそばに居ようと思ったのです。謝罪もせず、自分の想いも伝えず……恩知らずで恥知らず、醜い女なのです、私は……」

 

「そんなことは――」

 

「おねがいします! 私を……私を、貴方の隣に居させてください!」

 

 俺の言葉を遮り、涙が溢れそうになりながら、めぐみんは俺の目を見てそう告げた。

 そんな決意を込めたような目で見られてもな。俺の答えは最初から決まっている。

 

「言ったろ、俺はみんなを幸せにするってさ。こんなことぐらいで投げ出したりなんかしないって。むしろ、俺の隣にいてくれよ」

 

「か、カズマァ……」

 

 俺の言葉を聞き、めぐみんが俺の胸へと突っ込んでくる。俺はめぐみんを抱きしめると、頭をなでる。

 

「さっ、日課に行こうぜ。一週間もお預けだったんだ。特大のやつ、見せてくれよ?」

 

「――せん」

 

「ん?」

 

「私は、爆裂魔法が撃てません」

 

「「「えぇええええええええええ!?」」」

 

 めぐみんの特大のカミングアウトに俺たちはそろえて声を上げた。

 

 

 

このすば!

 

 

 

「ふっ……爆裂魔法しかない私から爆裂魔法が失われた今、私にはカズマしかいないのです。ですので戻りましょう? 無理ですって。敵を前にしたら急に撃てるようになるとかそんなこと絶対ないんですって!」

 

「なら暴れるなり何なりすればいいだろう」

 

「カズマのおんぶは心地よいのでこのまま戻ってくださっあぁ! ダメです! 行っちゃだめですっ!」

 

「わざとか? わざとなのか?」

 

 特大な爆裂魔法をお願いしたら特大なカミングアウトをされたので、荒療治を行おうとめぐみんを街の外へと連行している。

 

 目指すはジャイアントトードの生息地。ちょうどクエストがあったので受けてきた。

 

「ねぇ、やめましょう? ほんとに撃てないんですよ。詠唱をしようとするとあの時の光景がフラッシュバックしちゃって動けなくなるんです」

 

「なおのこと何とかしなきゃいけないだろ。めぐみんはそれでいいのかよ。この先、一生爆裂魔法を撃てなくても」

 

「いいわけないでしょう! 爆裂魔法はロマンなんです! 夢なのです! しかし、これが罰だというのなら、私は甘んじて受け入れましょう。カズマが戻ってきてくれて、私を受け入れてくれた。これ以上求めると、バチが当たってしまうというものです……」

 

「いーや! 俺が我慢ならないね。めぐみんには心から笑顔でいてもらいたい。俺は何があっても、あきらめない。だから、勝手にあきらめんなよ、めぐみん」

 

「……カズマ」

 

 それ以上、めぐみんは何も言わず、俺の背中に顔を押し当て黙ってしまった。心なしか、背中の服が濡れて、熱を帯びていた。

 

 そこから歩くこと10分程度、いつぞやのジャイアントトードの生息地の平原へとたどり着いた。

 

「とはいえ、どうするのです? 今、詠唱を始めると大泣きして泣き崩れる自信があります。実際、今もちょっとやばいです。もう涙がそこまで来てます」

 

「なんで強気にそんな情けないことが言えるんだ……?」

 

 見たところ立つのもやっとという状態だ。瞳は溢れそうなほどの涙で潤み、足は生まれたての小鹿のように震えている。

 

 この状態で、口だけとはいえ、虚勢がはれるのは流石だと思う。

 

「まぁ、見てろ。俺の初めてをお前にやるからさ」

 

「なっ、何を言ってるのです!?」

 

 俺の小粋なジョーク(下ネタ)にめぐみんがうろたえる。緊張をほぐそうと思ったのだが、裏目に出たかもしれん。

 目の前の一匹のカエルを見つつ、ウィズから購入したレベルが下がる魔力ポーションをのどに流し込む。

 

「か、カズマ……?」

 

「ふっ……我が名はカズマ! 数多のスキルを操り、爆裂道を歩む者! さぁ、見るがいい、我が原初の一撃をっ! 黒より黒く闇より暗き漆黒に、我が色彩の混淆を望みたもう。覚醒のとき来たれり。無謬の境界に落ちし理。無行の歪みとなりて現出せよ! 我が力の奔流に望むは激励なり。盟友に捧げる激励なり。万象等しく灰塵に帰し、深淵より来たれ! これが我が原初の一撃にして、盟友に捧げる想いなり! 『エクスプロージョン』ッッッ!」

 

 俺の詠唱とともに、ポーションによって魂から分離した経験値という名の魔力が巡る。自分の中からごそっと力と魔力が抜けていく感覚とともに、おなじみの魔法陣が展開され、空から閃光が一直線に落ちる。凄まじい轟音と爆炎を起こし、カエルは跡形もなく爆裂四散する。

 

 やべぇ、ちょっと楽しい

 

「燃え尽きたぜ、真っ白にな……」

 

 ついに立つことすらままならなくなり、そのまま前のめりに倒れる。こんな感覚だったのか。マジで身動き一つとれないし、しゃべるのも若干億劫だ。

 

 爆炎が収まると同時に、地中からカエルが這い出して来る。その数は目視できないため不明。

 

「か、カズマ……今のは……」

 

「さぁ、めぐみん。出てきたカエルに爆裂魔法だ。お前の、爆裂魔法への愛を思い出すんだ! というか打ってくれないと身動きが取れない俺はカエルに咀嚼されて死にます」

 

「あ、貴方という人は……本当に……貴重なポーションを使い、レベルを下げてまで、今、爆裂魔法を撃つ必要がありましたか? でも、不思議です。今まで見た、撃った爆裂魔法の中で、一番温かく、やさしい爆炎でした……我が名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を操りし者! 万感の思いを込めて、最高の一撃をお見せしましょう! これが人類最大の威力の攻撃手段、これこそが! 究極の攻撃魔法にして最大のロマン! 我が夢、我が想い、私の、愛だぁああああああ! 『エクスプロージョン』ッッッ!」

 

 それは、地面しか見えていなくても今までで最高の爆裂魔法だと肌で感じた。地面から伝わる振動、体を強く叩く爆風、心臓に響くほどの爆音。

 

「ぐへっ……燃え続けろ、私の想い……カズマ、今の爆裂魔法は何点ですか? 過去最高の出来だと自負しています」

 

 めぐみんが俺の真横に倒れ、爆裂魔法の点数を確認してくる。その言葉には自信があふれている。

 

 そんなの決まっているだろう。俺は力を振り絞り、横のめぐみんを見る。

 

「百二十点」

 

「……ふふっ」

 

 俺の採点にめぐみんは花が咲いたように笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、ここで終わっていれば最高だったんだが、そんな感慨深い良い雰囲気を何かがはい出る音が邪魔をした。

 

「かかかか、カズマ……? すごく、ものすごく嫌な予感がするのですが!?」

 

「奇遇だな、めぐみん。俺もだ。真後ろから沸くか? 普通。それなら最初の俺の爆裂魔法で出てくるだろ。あれか? やっぱり威力か?」

 

「あ、あぁ……目の前が、暗く……そこに、そこにいますよ、もうすぐそこにいます、カズマ!」

 

「無理。身動き一つとれない。少し時間をおいてからダクネスとアクアには来てくれって言ってあるけど、正直間に合わないだろう」

 

「い、いいいい嫌です! カエルの胃袋でカズマと一つになるなんて絶対に嫌です! もっと、もっと別のくぷぁ」

 

「め、めぐみーーーーーーーーんっ! だぁらっしゃあ! こい! 覚悟はできて……できて……ないですぅうううううう! アクアーーーーーーーっ! ダクネーーーーーーーーーースっ! 助けてくれっ! こんな、こんなところでこんな初体験は嫌だ! できれば一度たりとも経験ぐぼっ」

 

 あ、温い


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。