この素晴らしい二度目の世界を生き抜く   作:ちゅんちゅん

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過去一の文章量です。

とはいえ、最近時間に追われてるのもありますが書けなくなってきました。
筆が乗るときは乗るんですけどね……

なるべく更新はしたいのですが、気長に待ってもらえると嬉しいです。

感想、大変励みになっています。ありがとうございます。


この天災に終焉を!

 《デストロイヤー警報! デストロイヤー警報! 機動要塞デストロイヤーが、現在この街に接近中です 冒険者の皆様は、装備を整えて冒険者ギルドへ! 街の住民の皆様は直ちに避難してください》

 

 そんな街中にとどろくほどのアナウンスで俺は目覚めた。頭が痛い。二日酔いか……? 起き上がると同時に右手に柔らかい感触がある。

 

「……んっ」

 

「…………はい?」

 

 なぜかアクアが俺の隣で寝ていた。その姿を目視した途端、急激に脳と下半身に血が巡る。生理現象! 生理現象だから! 誰に言い訳するでもなく心の中で叫び、そーっとアクアの腹に触れていた手を離すと、ベッドから出る。

 

「うぐっ」

 

「えぇー……」

 

 なぜかベッドの下では、めぐみんが力尽きていた。ほんとに何があったんだ。そのまま廊下に出るとダクネスが倒れており、その横を通り抜け、広間に戻るとゆんゆんが目を回して倒れていた。

 

「……鍋、片付けるか」

 

 昨日の夜のまま放置されている食卓を片付け、みんなを起こしてからギルドに向かうまでに、結構な時間がかかった。

 

 あと何があったのか聞いてもアクアとめぐみんは顔をそらし、ダクネスとゆんゆんは顔を赤くし、それ以上何もしゃべらなくなった。

 

 ……俺、何をされたんだ?

 

 

 

このすば!

 

 

 

俺たちが遅れてギルドに行くと、ギルドの職員たちと冒険者たちが会議を行っていた。適当な空いている席に腰掛けると、会議の内容に耳を傾ける。みんな真面目に対策を考えているのか、仲間たちは全員無言だ。今回はアクアも真面目に会議を聞いている。

 

 機動要塞デストロイヤー。それはどこかのチート持ちの日本人が、適当に付けた名前らしい。適当につけるなよと言いたいところだが、そのスペックを聞けば、納得というものだ。

 

 簡単にまとめると、

 

 機動要塞デストロイヤーは魔道技術大国ノイズで造られた、巨大蜘蛛型ゴーレム。

 

 強力な魔力結界が張られていて魔法は効かない。

 

 近づけば、八本の脚で挽き肉。

 

 めっちゃ速く動けて、どんな悪路も走破する。

 

 弓は装甲ではじかれ、動きが早いため、投石器は命中しない。

 

 空は小型バリスタで対空攻撃、乗り込めば戦闘型ゴーレムがお出迎え。

 

 

 うーん、あいかわらずの無理ゲー。

 

 次々と対策が講じられるが、冒険者たちが思いつくようなことはすでに試しているらしく、その対策のすべてが失敗に終わっている。

 

 機動要塞にロープか何かで乗り込めないかと言う意見が出れば、速過ぎて無理だと反対意見が出る。

 

 デストロイヤーを越える巨大なバリケードは造れないのかとの意見が出れば、職員が、壁を迂回して踏み潰して行った例があると告げ、静まり返った。

 

 魔法は効かない、接近したら踏まれる、空からの攻撃も撃ち落とされる。しかも、それらが迅速に行なわれる。

 

 ついに誰も声を上げることが無くなり、ギルド内に無理だろうという雰囲気があふれる。そんな中、聞き覚えのある声が響いた。

 

「さぁ、カズマくん。こんな時、君ならどうするんだい?」

 

 不敵に笑いながら、ミツルギがそう言った。その眼からは俺ならどうにかできるだろうという確信がありありと見て取れた。

 

 俺が死んで生き返ってから、自分を見つめなおしたいと王都の方へ行っていたらしいが、戻ってきたのか。顔つきもいいし、すっかり持ち直したな。

 

 つか、この前のクエストから、俺を買いかぶりすぎじゃないのか、こいつ。まぁ、できるけど。

 

「まぁ、俺のパーティーなら止めるところまでは何とかなる。と、思う」

 

「本当ですか!? どうにかなるんですか!? 少しでも可能性があるのでしたら、私たちはそれにかけたい思いです!」

 

「結界は、アクアが何とかできる」

 

「えぇ、任せなさいな!」

 

「あとは八本の脚を止めるのに、範囲攻撃かつ足を破壊するだけの火力が必要になるわけだが、めぐみんと俺が爆裂魔法で足止めする」

 

「おぉ! 共同作業ですね、カズマ!」

 

 ゆんゆんとめぐみんの合体魔法は一点を打ち抜くことに特化してるから、複数の的を狙うには向いていない。今回は純粋な爆裂魔法が鍵となる。俺の爆裂魔法の威力には不安は残るが……

 

「当然、おれとめぐみんは動けなくなるから、有事の際は純粋に戦闘力の高いミツルギ率いる冒険者たちがデストロイヤーを制圧する」

 

 作戦もクソもない、個々の能力の高さに頼った脳筋プレイが、デストロイヤーにおける最適解となる。

 

「破れるんですか!? デストロイヤーの結界を!? 足止めさえできれば、可能性はありますね……! それでいきましょう、カズマさん。ご協力、お願いします!」

 

 二度目の蜘蛛退治の幕開けだ。

 

 

 

このすば!

 

 

 

「来たぞー! 全員、頭を低く! 踏み潰されないように、絶対にアレの前には出るんじゃないぞ!」

 

 誰かの檄が飛ぶが、周りの冒険者たちは皆、それを聞いている余裕など無い。それほどに、目の前のソレは圧倒的な威圧感を誇っている。ただ移動するだけですべてを蹂躙する。まさにデストロイヤー

 

 蜘蛛の様な八本の脚を、それぞれワシャワシャと忙しなく動かして、巨大なソレは、馬が駆けるに近い速度で、真っ直ぐにこちらに向かって突っ込んで来ていた。時速にして60キロくらいか? 近づかれたら終わりだな。

 

 しかし、そんなものの直線上にただ一人、大剣を地に突き立てて、それの柄の部分に両手の平を置き、ダクネスが街を守護するがごとく佇んでいる。危ないからやめろと言ったのだがあそこを頑なに動かなかった。ならば、ダクネスと接触する前に止めるしかない。

 

「よし、めぐみん。アクアが結界を打ち消したら同時に叩き込むぞ。俺が右側、めぐみんが左側な」

 

「ふっ……貴方とならば、どこまででも行きましょう!」

 

 めぐみんはローブを手で払い、杖を力強く構える。それに倣い、俺もギルドの冒険者から借りたマナタイト製の杖を構え、ポーションを飲み干す。今ので19レベルに落ちた。効果があるうちはどんなにレベルが下がっても魔力はアークウィザード並なので、爆裂魔法を撃つだけなら問題はないとはいえ、そろそろレベルを戻していかないとキツイな。ついでにポーションも補充しなければもうほとんどない。

 

『よし、アクア! やってくれ!』

 

「任されたわ、カズマ! 『セイクリッド・ブレイクスペル』!」

 

 めぐみんと目を合わせ、頷きあうと、俺は拡声器でアクアに指示を出す。全ての冒険者達が見守る中、それに応えるように、アクアが魔法を解き放った。

 

 デストロイヤー目掛け放たれたアクアの魔法はデストロイヤーに接触するなり、まばゆい輝きを放ちながらデストロイヤーの周囲に張り巡らされた結界を浮き彫りにする。そして、その浮き上がった結界が、音を上げ、バラバラになる。

 

「やるぞ、めぐみん!」

 

「はい!」

 

「「黒より黒く、闇より暗き漆黒に、我が深紅の混淆を望みたもう。覚醒のとき来たれり。無謬の境界に落ちし理。無行の歪みとなりて現出せよ!――」」

 

 まるで合わせたかのように俺とめぐみんの詠唱が重なる。お互いの魔力が漂い、混ざり合い、それでいて調和する不思議な感覚。まるで、めぐみんが俺の手を引いてくれているようだ。不安がないといえば嘘になる。だが、これならば行けるという根拠のない自信があふれてくる。

 

「「『エクスプロージョン』ッッッ!」」

 

 俺とめぐみんの頭上に魔法陣が展開され、掛け声とともに爆裂魔法が放たれる。二つの軌道は絡まるように螺旋を描き、デストロイヤーの目の前で二手に分かれ、左右の脚に着弾する。

 

「……やっぱり、めぐみんには勝てないかあ」

 

「いえ、これは勝ち負けではありません。貴方がいたから、ここまでの爆裂魔法を撃つことができるのです……」

 

 二人して前のめりに地面に倒れる。外壁から撃ったから、レンガの固く冷たい感触が高ぶった感情を冷やしてくれる。めぐみんが爆裂魔法を放った左側の脚はすべて消し飛び、俺が爆裂魔法を放った右側の脚は折れてはいるものの形をまだ保っていた。

 

「うぉおおおおおおおお! 本当にカズマたちがやりやがったぞ!」

 

「あ、あのデストロイヤーを本当に止めたんだよな……?」

 

「へっ、まさか本当にデストロイヤーをどうにかしちまうとはな。とんだ命知らずだぜ」

 

「「「カ・ズ・マ! カ・ズ・マ!」」」

 

「いいや、まだだっ!」

 

 完全勝利モードの雰囲気の中、始まったコールを打ち消すように、ミツルギが声を上げる。

 

「あ、あのあの! なんかすごい揺れてます!」

 

 ゆんゆんもミツルギに続くように声を上げ、デストロイヤーを指さす。ゆんゆんが言うように、大地が震えるようなこの振動は、明らかにデストロイヤーを震源としていた。

 

 『この機体は、機動を停止致しました。この機体は、機動を停止致しました。排熱、及び機動エネルギーの消費が出来なくなっています。搭乗員は速やかに、この機体から離れ、避難して下さい。この機体は――』

 

 冒険者達が不安げにその巨体を見上げる中、機動要塞の内部から、その機械的な音声は唐突に、繰り返し何度も流された。

 

「行くぞ、みんな! 内部を制圧してこの騒ぎを止めるんだっ!」

 

「……やるぞ。俺は」

 

 それは、誰の呟きだったのだろう。

 

「……俺も。レベル30越えてるのに、未だにこの駆け出しの街にいる理由を思い出した」

 

 そんな奴がいたのか。だが気持ちは分からんでもない。

 

「むしろ、今まで安くお世話になって来た分、ここで恩返し出来なきゃ終わってるだろ……」

 

「……ん? 待ってくれ、みんな。何の話をしているんだい?」

 

 ミツルギが周りの冒険者を見ながら困惑する。そっか、ミツルギは店の存在知らないもんな。

 

「機動要塞デストロイヤーに、乗り込む奴は手を上げろ!」

 

 迷うことなく一斉に男の冒険者達が手を上げる中、キースがデストロイヤーに向け高々と矢を放った。他の狙撃スキル持ちのアーチャー達も、次々とデストロイヤーに向けて矢を放つ。スキルによって飛距離を強化された矢は、重い矢じりとロープを物ともせず、巨大なデストロイヤーの甲板にも楽にとどき、フック状の矢の部分がデストロイヤーの甲板部分の障害物に引っ掛かる。

 

 すぐさま、張られたロープに男の冒険者達が次々取り付き、それらを伝い、デストロイヤーへと上って行く。

 

「あ、あれぇ!? カズマくんの作戦では僕が一番槍だっただろう!? みんな? なんで勝手に突入を……くっ、僕も行くぞ!」

 

 言っていても埒が明かないと考えたのか、ミツルギも同じように登っていく。純粋な使命感で向かっているの、あいつだけじゃないか?

 

「見てるだけってのが、つらいな」

 

「倒れていても下の様子は見えますからね。何もできないよりはましでしょう。私たちは十分に役目を果たしました。後はこのままここで――」

 

「『ドレインタッチ』」

 

 めぐみんの言葉は、そんな誰かの声で遮られた。それと同時に体に力が入るようになる。空っぽになった魔力が戻ってくる感覚がある。少し禍々しい感じの魔力だが。

 

「すみません。遅れましたけど、私も一応、冒険者登録はしていますので……」

 

 ウィズ魔法店の貧乏店主が申し訳なさそうにそういった。

 

 

 

このすば!

 

 

 

 ウィズに魔力を分けてもらい、動けるようになった俺とめぐみんは、ウィズを連れてデストロイヤーの甲板へと上がってきた。

 

「ゴーレムを囲め囲め! 大勢でロープ使って引きずり倒せ! 倒れた所をハンマーで叩けっ!」

 

 どちらが侵略者か分からない状態だった。一体のゴーレムに対し5人がかりで取り囲み、倒したところを打撃系統の攻撃で粉砕するレイドバトルが開催されていた。

 

 駆け出しの多いはずのこの街の冒険者達によって、既に多くの小型ゴーレムや戦闘用のゴーレムが破壊されていた。

 

「ハァ! ……カズマくん!? 動けたのかい!?」

 

「数が多い……! あっ、カズマさん!」

 

 その中でも一際目立つのが、よく知っているあの二人。ミツルギは次々と硬いゴーレム達を一刀の元に斬り捨て、ゆんゆんが特大の閃光を放ってゴーレム数体を粉砕していた。

 

 こういうのを見ると、なんか普通に冒険者らしく戦いたくなってくる。まあ、やろうとしたら十中八九死ぬかよくても大ケガだろうけど。

 

「おう、お疲れ、二人とも。ウィズに魔力を分けてもらってな。一応、追いかけてきた」

 

「私は完璧に置物ですけどね……」

 

「ぐあぁ……」

 

 そんな俺たちの横に、これまたよく見知った仲間が転がってきた。

 

「当たる! 動きが単純だから攻撃が当たるぞ、カズマ! おまけに周りの冒険者の代わりに攻撃を受ければ、一撃が重くて気持ちもいい!」

 

「お前、ほんとぶれねぇな」

 

 目をキラキラとさせながら、立派に変態クルセイダーをこなしているダクネスはそれだけ言うと、また再びゴーレムへと向かっていく。守ることに関してはスペシャリストだもんな、あいつ。それが性癖につながっているだけで。いや、致命傷だな。

 

「な、なんというか、美人なのにすごい性格なんだね、彼女は……っ!」

 

 若干引き気味にミツルギがそう言って、背後から襲い掛かってきたゴーレムを切り捨てる。なにその動き、すごく主人公っぽいんだけど。

 

「とはいえ、ダクネスのアレのおかげで私はカエル以来、一度も被弾していません。陰に隠れがちですが、ダクネスが抜ければパーティーは崩壊すると思いますよ?」

 

「腐りきってても仲間想いで立派な聖騎士だからな。ダクネスの耐久ありきの作戦も多い。うちには欠かせない仲間だよ。腐りきっててもな」

 

「あ、あの、そんなに言わなくてもいいんじゃ……」

 

「開いたぞーっ!」

 

 俺たちの会話を他の冒険者の大声が中断させる。砦の様な建物のドアを、冒険者達がハンマーで叩き壊したらしい。そのままぞろぞろと建物の中に突入していくのがみえる。

 

「いよいよ親玉か……準備はいいかい、カズマくん」

 

「それはこっちのセリフだ。頼りにしてるぜ、人々の味方?」

 

「まったく、敵わないな。君たちは僕が守ろう」

 

「……なんか、二人のやり取り、かっこいい……」

 

「紅魔族の琴線に触れるやり取りですね」

 

「あれ? ところでアクアは?」

 

「アクアさまなら先ほど他の冒険者さんたちと中へ行きましたよ。それまではゴーレムを殴り倒してました……一人で」

 

 ウィズが恐る恐るそう言った。そういや、『ゴッドブロー』って打撃技だったな。それにしても、一撃かあ……

 

 

 

このすば!

 

 

 

 建物の奥に入ると、ある部屋の前で人だかりが出来ていた。皆一様に沈んだ表情を見せ、今までのテンションはどこへ消えたのかと言う感じだ。

 

「……おっ、カズマ。良い所に来たな。……見ろよ、これを」

 

 そう言ってきたのは、部屋の中央にいたテイラー。ダストのパーティーのリーダーで上級職のクルセイダー。店で何度かあったことがあったな。そのテイラーも、なんだか寂しげな浮かない顔だ。テイラーが指を差している方向をみる。

 

 部屋の中央の椅子で白骨化した人の骨が鎮座していた。

 

「なんだろう。すごく嫌な記憶がよみがえりそう」

 

「……例にもれず、すっかり成仏しちゃってるわね。日記もあるわ。読む?」

 

「いらない」

 

「おいおい、何言ってんだよ、カズマ! どうしてこうなっているのか、何かわかるかもしれないんだぞ!?」

 

「あ、はい」

 

 テイラーが食い気味に詰め寄ってくるのを見て、アクアがあきらめたように日記を開いた。

 

「――○月×日。……国のお偉いさんが無茶言い出した。こんな予算で機動兵器を作れと言う。無茶だ。そもそも桁が二つおかしいだろ。それを抗議しても聞く耳持たない。泣いて謝ったり拝み倒してみたが、ダメだった。今までもやってきたんだ今更無理は通らないとかいいだすから、辞めさせて下さいと辞職願いを提出した。目の前で破り捨てられた。バカになったフリをしてパンツ一枚で走り回ってみたが、女性研究者に早くそれも脱げよと言われた。この国はもうダメかも知れない。仕方がないので白紙の設計図と予算を奪い取るように受け取った」

 

 アクアが日記を読み進めることにより、皆の視線が白骨化した骨に集まる。ん? なんか、ちょっと違う……?

 

「――○月×日。設計図の期限が今日までだ。どうしよう、まだ白紙ですとか今更言えない。物は作れても設計図だぞ? 仕組みだって書けないし、俺自身作ったものはどうやって動いてるのかわからんものすらある。ヤケクソになって、貰った報酬の前金、全部飲んじゃった。どうしようと白紙の設計図を前に悩んでいると、突然紙の上に俺の嫌いなクモが出た。悲鳴を上げながら、手近にあった物で叩き潰した。叩き潰してしまった。用紙の上に。……このご時勢、こんなに上質な紙は大変高価なのに、弁償しろとか言われても金が無い。……知るか。もうこのまま出しちまえ」

 

 微妙な空気になってきた中、アクアがヤケクソ気味に読み進める。

 

「――○月×日。あの設計図が予想外の好評だ。それクモ叩いた汁ですけど、そんな物よく触れますねなんて絶対言えない。て言うか、あんなちっこい染みをなんで設計図だと思えるの? 何の説明もなければどう動くのかすら書いてないよ? えっ、なんで、ドンドン計画が進んでるの? どうしよう、俺のやった事って、クモを一匹退治しただけ。……大丈夫か、こいつら……?」

 

 なんていうか、前回よりもまだ人格がまとも……?

 

「――○月×日。俺何もしてないのにどんどん勝手に出来ていく。これ、俺いらなかったじゃん。そもそも設計図もいらなかったじゃん。いや、クモの染みだけど。そうなるとあの前金何なの? 流石にめちゃくちゃなもの作られて責任取れとか言われても対応できない。どうなってるのか見ようとしたら開発部門から口を出してくれるなと言われた。こいつら俺の部署が手柄ばっか上げるからって嫌味なマネを……なんか動力源をどうこう言われたけど知るか。俺最初から無理って言ったじゃん。おまけに中身も作成過程も見せてくれないんじゃ手の打ちようがない。もう知るか。亡命しよう。時間稼ぐために、永遠に燃え続けるって言われている超レア鉱石、コロナタイトでも持って来いと言ってやった。持って来れるもんなら持って来い、その間に荷物まとめよう」

 

 ……周りの視線が同情を帯びてきた。

 

「――○月×日。持って来ちゃった。どうしよう、本当に持って来た。なんで昨日の今日で持ってこれるの? まだ何にも準備できてないよ? なんか動力炉に設置を始めた。どうしよう、マジでどうしよう、持って来れる訳無いと思って適当に言ったのに、本当に持って来た。これで動かなかったらどうすんだ。俺どうなるんだ。えっ、死刑? これで動かなかったら死刑じゃないの? 動いてください、お願いします!」

 

 ……………

 

「――○月×日。明日が機動実験と言われたが、正直俺何にもしてねえ。やったのはクモ叩いただけ。この椅子にふんぞり返っていられるのも今日までか……。そう思うと、無性に腹が立ってきた。敵は魔王軍なんじゃない。自国の中にいたんだ。滅びちまえ、こんな国。しかし、魔王を倒したいという思いも消えちゃいない。最終調節とか上に伝えてコードを見よう。最後だからってガードも緩いし、行けるだろ。で、実際に見てみたが、これがひどいの一言に尽きる。まずコードが全部ベタ打ちで行数が十万越え。とてもじゃないが見てられない。ここの処理は四万二千行目というコメントに従い確認したらまるで関係ない処理が書かれてた。ふざけんな。何人いじくってるんだ、このコード。スパゲッティだよスパゲッティ。もういい、飲もう。今日は最後の晩餐だ。どうせ責任取って死刑だ。思いっきり飲もう! 機動兵器の中には、今日は誰も残っていない。どんだけ飲んでバカ騒ぎしても、咎められる事は無いだろう。とりあえず、一番高い酒から飲んでいこう!」

 

 ついに現実逃避を始めた日記の主にみんなが微妙な顔をする。

 

「――○月×日。目が覚めたら、なんか酷い揺れだった。何だろう。何だろうこれ。俺どれだけ飲んだっけ。覚えてない。いや、昨日の記憶が無い。あるのは、動力源のある中枢部分に行って、コロナタイトに向かって説教してた所までしか覚えてない。いや待てよ。その後、お前に根性焼きしてやるとか言って、コロナタイトに煙草の火を…………」

 

 皆が息をのむ。

 

「――○月×日。現状を把握。そして、終わった。現在只今暴走中。どうしよう、これ間違いなく俺がやったと思われてる。俺、絶対指名手配されてるよ。今更泣いて謝ったって許してもらえないだろうな……。やだな……。このまま機動兵器ぶっ壊されて、引きずりおろされて死刑だろうか。身から出た錆というやつか。いつからか自分の信念はすり減り、国に使われるだけになっていたんじゃないか。そんなことばかり考えてしまう。いや、よそう! まずはこの起動兵器を止めなければ……え、この十万行を超えるスパゲッティから強制停止コードを発掘しなきゃなんないの? いや、そもそも永遠に燃え続けるコロナタイトって核エネルギーみたいなもんだろ? 動き止めたらエネルギーを処理できなくなって、この起動兵器、爆発するんじゃね? ……もういい、酒飲んで寝よう。幸い食料と酒には困らない。寝て起きてから考えよう」

 

 ……やがて、誰ともなく拳を握り、

 

「――○月×日。間に合わなかった。国滅んだ。やべえ、滅んだよ、滅んじゃったよ! 国民とかお偉いさんとか、人はみんな逃げたみたいだけど。でも俺、国滅ぼしちゃった。ヤバイ、何かスカッとした! もうコード見なくていいってことだよな! やった、やったよ! 正直前半三万行の処理を呼び出してる部分がコメントアウトされてるの見たときに心折れてたからな。満足だ。俺、もう満足。よし、決めた。もうこの機動兵器から降りずに、ここで余生を暮らすとしよう。だって降りれないしな。止められないしな。これ作った奴、絶対バカだろ。おっと、これ作った責任者、俺でした!」

 

 行き場のない想いを皆心にくすぶらせていた。

 

「――○月×日。可能な限りの調査が完了した。時間がありすぎるってのも困りものだ。わかったことだけまとめておく。こいつが暴走したのはコロナタイトのエネルギーが過剰で、常に消費しないと機体が持たないことに所以する。一番エネルギーを消費する行動が、結界を維持したままの走行らしい。この機能のせいで八割のコードは意味をなしてなかった。一割はコメントアウトされてた。泣いた。コロナタイトをどうにか取り外すってことも叶わない。外せばコロナタイトが自身の熱に耐えられなくなり爆発するからな。あと残りの一割のコードな、自爆コードだったわ。動力源を失うなどにより、機能を停止する際に各機関に過剰にエネルギーを流し込んで爆発させるらしい。止めるには、その前に破壊するしかない。動きが止まれば爆発、動力を外せば爆発、残った機体も自爆……ふっざけんなよ、マジで! どれだけ爆発させたいんだ、この国のやつらは! って国なくなってたわ! 国が爆発してたわ。ざまぁ! この日記、誰かが見てるならこの機動兵器止まったってことだろ? こんなことしてないでとっとと逃げたほうがいい。あと、そうだな。止めるって気概があるなら、コロナタイトを魔王城にでも転送して、爆裂魔法でも使って機体を壊してくれ。まぁ、魔王城をテレポート先に登録するような酔狂なアークウィザードも、爆裂魔法とかいうネタ魔法を使えるアークウィザードもいるわけないか! でも、うん、すっきりした! 引き金引いたのは俺だが、こんなのどのみち暴走して終わりじゃん。一日早まっただけだもん。俺悪くねぇ! あぁ、すっきりした!」

 

「……終わり」

 

 最後まで読み上げたのだろう。困った顔で、アクアが言った。

 

「「「なめんな!!」」」

 

 アクアとウィズ以外が見事にハモった。

 

 

 

このすば!

 

 

 

「……これがコロナタイトか」

 

 大人数で行ってもしょうがないと、皆に任され、俺のパーティとウィズ、ミツルギの七人で要塞の中枢へとやってきていた。いや、七人って十分大人数じゃないか?

 

 その部屋の中央には、鉄格子に囲まれた小さな石、コロナタイトの姿がある。今は、それが赤く輝いていた。だが、鉄格子に囲まれたそれは、どう考えても取り出せない。

 

「僕がグラムで鉄格子を破壊しよう。ウィズさん、『フリーズ』で冷却してみてください。ハァ!」

 

「は、はい! 『フリーズ』! 『フリーズ』!」

 

 ミツルギが切り離したコロナタイトをウィズが冷却する。一瞬は冷まされたものの、また再び赤く輝きだす。永遠に燃えるというだけはある。火種があればそれを半永久的に燃やし続けるらしい。

 

「……マズイですね、時間がないですよ、カズマ。そろそろボンッていきそうです。それに、日記が正しければ、この機体も爆発するそうじゃないですか」

 

「そうだ、日記にテレポートを使えって書いてあったよな!?」

 

 日記の主が書いていたはずだ。魔王城にでもテレポートして、爆裂魔法で機体を破壊しろってさ。

 

「い、一応私、魔王城をテレポート先に登録していますが、不可侵条約を結んでいてですね……」

 

「そ、それなら、私を魔王城までテレポートしてください!」

 

 そう言って、ゆんゆんは自分の冒険者カードを取り出し、『テレポート』を取得した。

 

「ウィズさんは、ただ、魔王城に行きたいって言った私をテレポートしてくれるだけです」

 

「ぎりぎりアウトな気もしますが……わかりました。いきます、ゆんゆんさん」

 

「はい!」

 

「『テレポート』!」

 

 魔法陣が現れ、ゆんゆんの姿が消える。

 

「まったく、あの子は……こういう時は迷わず行動するんですから。テレポート先を登録するだけとはいえ、魔王城に一人で行くなど……」

 

「も、ものすごい、魔物がいたんですけど!?」

 

 めぐみんが感慨深く何かを言おうとした瞬間、ゆんゆんが戻ってきた。早いなぁ

 

「よ、よし、ゆんゆん。頼む」

 

「はい! 『テレポート』!」

 

 今にも爆発しそうなコロナタイトが消えると同時に機体が大きく揺れる。どうやら自爆機能が作動したらしい。

 

「まったく、余韻にすら浸らせてくれないとはな。カズマとめぐみんは私が抱える。ミツルギ殿はゆんゆんを頼む。アクアとウィズは自分で飛び降りてくれ!」

 

 言うや否やダクネスは俺とめぐみんを両脇に抱え、外へと走り出す。

 

「まてまてまて、今飛び降りるって言ったか!?」

 

「そうですよ! 下までどれだけ距離があると思ってるんですか!?」

 

「大丈夫だ。頑丈さには自信がある。筋力にもな。二人は落とさないさ」

 

 言い終わると同時に外へと出る。そのままダクネスは躊躇することなく下へと飛び降りた。

 

「そういうことを言ってるわけじゃねぇえええええええええええ!」

 

「あっ……そら、とんでます」

 

 顔をたたきつける強風、目を開けてられなかったのは逆に幸運か。ものすごい衝撃とともに、意識を飛ばしかけ、気が付くと下に降りていた。めぐみんは気絶している。

 

「……すまん。足の骨が折れたみたいだ。なかなかの衝撃だった」

 

「嘘だろ、お前。今のでも興奮できるのか……?」

 

「こ、興奮などしていない!!」

 

「うぉおおおおおおおおおおおおあああああああ!」

 

「ひぃいいいいいいいいいいいいい!」

 

「いくらステータス高くても、この高さは無理じゃないかしら!?」

 

 俺たちに続く形でみんなが落ちてくる。ミツルギも足の骨を折ったのかゆんゆんを傷つけないように下ろすと倒れた。ゆんゆんはダウンしてる。

 

 リッチーなウィズは普通に落ちたが無傷だった。最後にアクアが羽衣を気球にしてふわりと降り立つ。アクア、それができるならせめてそっちの三人は何とかしてやれよ……いや、きっとミツルギとウィズが先に勢いで飛び降りたんだろうな。

 

「で、爆裂魔法だが、肝心のめぐみんは気絶してるし、俺はもうポーションがないから撃てない」

 

 赤く明滅しだしているデストロイヤーを見上げる。時間もなさそうだな。

 

「ここは、私にお任せください。私も、爆裂魔法は使えますので。皆さんは下がってください!」

 

 声を張り上げ、ウィズが言う。周りの冒険者たちに一応確認をとりつつみんなで後退する。

 

「では、行きます! 『エクスプロージョン』ッ!」

 

 無詠唱、それも杖もなしに放たれたウィズの爆裂魔法は、めぐみんの爆裂魔法にも引けを取らないほどの威力で、デストロイヤーを消滅させた。これが、リッチーの力か……

 

「あっ、……テレポートも使っていたので、魔力がそこをつきてしまいました……す、すみませんが、どなたか運んでくださりませんか……?」

 

 リッチーの力かぁ……

 

 この後、街に戻って大宴会が催されたり、ウィズが魔王軍のなんちゃって幹部なことが判明したりと一波乱あるのだが、それは別の話。

 

 何はともあれ、こうして俺のパーティーの輝かしい経歴に、機動要塞デストロイヤーの討伐が加わった。天災とすら呼ばれている人々の恐怖の対象が、この世から消滅した瞬間である。


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