この素晴らしい二度目の世界を生き抜く 作:ちゅんちゅん
リハビリがてらなので文字数少ないです
「……暇だなー」
「なー……」
広間のソファーで横になりながら、俺の腹の上でくつろいでる黒猫? のちょむすけをなでながら天井を見つめる。
デストロイヤーを倒した報奨金、十二億八千万エリスを手に入れた俺たちは、正直何もしなくても遊んで暮らしていけるレベルの生活を手に入れた。
その結果、俺はまた前の生活に逆戻りしていた。この二週間、朝訓練、昼爆裂散歩、夜ギルドで飲みと完全にルーチンワークと化している。
アルダープもいないし、前回のような裁判沙汰にもならず借金もないので報奨金も満額支払われ、屋敷は持ち家、五人分の衣服も食料も月々かかっても十五万エリス、多く見積もっても三十万エリスもあればお釣りがくる。完全なる衣食住を確保したことになる。
そう思うと生来の性格というか、引きこもり癖というか、俺の悪癖が出てしまい、もう、何もする気が起きない。
「なぁ、カズマ。そろそろクエストに行かないか? たまには外の空気も吸うべきだ」
「そうですよカズマさん!」
ソファーで横になっているとダクネスとゆんゆんが声をかけてくる。そんなこと言われてもな……
「毎朝、訓練で体動かしてるし、昼には爆裂散歩で外に出歩いてるしな。運動量は十分、クエストなんて危険なことしなくても身体的にも精神的にも満たされてるし、行きたくない」
「うっ……し、しかしだな、たまには実戦も行わなければ、せっかくの実力や才能も錆びていってしまうぞ?」
「いい事じゃない。平和ってことはそれだけ満たされているってことなわけだし、何よりも、有事の際にしか役に立たないような力は、本来使わないに越したことはないのよ。あっ、暖炉に火をくべてなかったわね。すぐにつけるから。寒くない、カズマさん?」
「ん」
「魔王がいるっていう前提がなければの話ですよね、それ……」
「まぁまぁ、少し長めの休息と思えばいいじゃないですか。デストロイヤー討伐から、まだ二週間ですし、一月ほどは羽を休めてもよいのでは? さぁ、カズマ。温めたコーヒーです。砂糖は一つでしたよね」
「おう、気が利くな」
俺の意見にアクアとめぐみんが賛同し、周りの環境を整えてくれる。最初は遠慮してたが、慣れてくると快適すぎてやばい。何もしなくても勝手に全部過ごしやすい環境になる。
「二人がそうやって甘やかすから、いつまでもカズマさんの気が抜けたままなのよ! まだカズマさんの抵抗があった内に止めておくべきだったわ!」
「私はカズマさんが幸せならそれでいいかなって……」
「正直なところ、自分でもどうかと思うのですが、いつも頼りになるカズマのだらしない姿を見ると、際限なく甘やかしたくなるといいますか……」
「完全にダメ男製造機じゃない! カズマさんがダストさんみたくなったらどうするの!? ダクネスさんも何か言ってください!」
「……いや、日々ダメになっていくカズマを見ていると、なぜか胸が切なくなってきていてな。最近、半分このままでもいいんじゃないかと思っている私が――」
「ダクネスさんまで!?」
ひどい言われようだが、俺は器が広い男だ。これくらいは笑って聞き流してやろうじゃないか。しかしゆんゆんがこの調子では、このパラダイスが崩壊しかねない。引き込んでおくか……
「ところでゆんゆん。俺の耳掃除してくれないか? 最近できてなくてな」
「わ、私まで引き込む気ですか!?」
一瞬で企みを看破し、戦闘態勢をとるゆんゆん。これだから知能の高い紅魔族は。
「耳なんて敏感な部分、信頼している相手にしか頼みたくない。友達のゆんゆんだからお願いしてるんだ」
「と、友達!?」
「俺はそう思ってるけど、ゆんゆんは違ったのか? 残念だな。それじゃあこれからはパーティの仲間としてだけ見て――」
「友達に決まってるじゃない! さぁ、カズマさん! 私の膝に横向きになって! 隅々まできれいにしてあげるから! 友達の! 私がっ!」
「いやあ、悪いなあ」
ちょろい。この子絶対将来、悪い男に引っかかる気がする。
「それにしても、カズマさんもかなり私の信者たちみたくなってきたわね。誇らしいわ!」
「……んっ?」
アクアの言葉に思わず固まる。
えっ、今の俺、アクシズ教徒みたいなの? いやいや、俺はただ単に働く必要がないから好きなことをだけして少し休んでいるだけで……二週間って少しか?
「――いくぞ」
「「「「えっ?」」」」
「クエストに行くぞ、お前ら! こういう時こそ冒険者としての本質を忘れるな! 来るべき決戦に備え、日々牙を研ぎ続ける必要がある!」
「……さっきと言っていることが百八十度変わってないか?」
「アクシズ教徒みたいと言われたのが相当嫌だったみたいですね。まぁ、何もないところに爆裂魔法を撃ちこむのも飽きてきていたので、カズマがクエストに行くというのであれば異論はありません」
「ねぇ、ちょっとカズマ。めぐみんがすごく失礼なこと言ってるんですけど。訂正してほしいんですけど」
「まずはウィズの店でアイテム調達だ! 準備は大事だからな!」
「ちょっとカズマ? 嘘よね? 本当にうちの子たちみたいって言葉で急にクエストに行こうとしたわけじゃないわよね……?」
「あと。めぐみんも爆発ポーション買い込んで、自衛もできるようにしないとな! 少々高いが金には余裕がある」
「カズマさん!? 嘘よね? 嘘って言ってよ、ねぇねぇ、カズマさん!」
ついにアクアが俺につかみかかってきたので優しく手を掴み、俺から離す。
「俺、アクシズ教徒と一緒にされるのだけは嫌なんだ」
「う、うわぁああああああああ! なんでよ!? 何がそんなに嫌なのよぉおおおおおおお!?」
「ははは」
アクアに揺さぶられ視界がグワングワンと乱れる。
アクアはいつだって俺の力になってくれるなと再確認した。そして、ウチのパーティは俺が機能しなくなると崩壊するということも分かった。多少変わってても前回と本質が何にも変わってない。ゆんゆんを加えて安定感が増したとはいえ、俺、アクア、めぐみん、ダクネスのどれか一つでも欠けると立ちいかなくなる。
あれ? ゆんゆん……
「……耳かき……友達……あ、でもカズマさんがまともに……耳かき……」
揺れる視界でゆんゆんを見ると、耳かき棒を片手に何かを葛藤していた。精神安定剤としても潤滑剤としても、ゆんゆんの存在も必要不可欠だな。
このすば!
「あ、カズマさん。いらっしゃいませ」
「ちょっと、ここは客にお茶の一つも出ないのかしら?」
「す、すみません、アクア様! すぐにお持ちします!」
「ウィズに当たるな。お茶も出さなくていいぞ、ウィズ」
「ぐぬぬ……」
奥へと駆けていくウィズの背中に声をかけ、アクアをたしなめつつ必要なものをレジへと置いていく。
比較的取り扱いのしやすい爆発ポーションをいくつかと、おなじみのレベルダウンポーション……は、3つしかないか。あとは……
「ん? なんだこの匣……固いな」
比較的安全な商品が並んでいる棚にある手のひらサイズの中くらいの匣が目に付く。説明書きは特になく値段は強気の二十万エリス。白紙のプレートが近くにあるから、これから何か書くところだったのだろうか。軽く蓋を持ち上げるがびくともしない。
「どれ、貸してみろ。力には自信がある。ん、たしかに固いな……ふんっ!」
「うわ、本当に力だけで開けましたよ」
「何が入ってるんですか?」
「あ、あぁーーーーーーーーーっ! そ、その匣を開けてしまったのですか!?」
ダクネスが俺から匣を受け取り、力任せに蓋を開けると同時に奥から戻ってきたウィズが声を上げる。
「あれ、開けちゃまずかったか? それなら買い取って―――」
そういいつつ、ウィズの方へと振り返るとダクネスの持っている蓋から眩いほどの光があふれ、視界が白く染まる。ようやく光が収まったとき、俺たちの目の前には巨大なすごろくのマップが広がっていた。
……いや、なにこれ