この素晴らしい二度目の世界を生き抜く 作:ちゅんちゅん
エタらないのはみなさんのお陰です。
いつもありがとうございます。
「おやおや? そんな顔して、いかがしたのかな? 今なら精神安定に効くポーションが大特価で販売中である。まぁ、副作用で3日ほど寝込むことになるが。ほんとにこのポンコツ店主はろくなものを仕入れん」
やれやれと大げさな身振りで首を振った後に、バニルはゴミ箱と書かれている箱にポーションを投げ捨てる。
見てみると他にも様々なアイテムが放り込まれていた。俺たちを閉じ込めている間に店内のアイテムを整理していたらしい。
「失礼だが、貴方は何者だ。ことと次第においては……」
飄々とした態度のバニルからみんなを守るように、ダクネスが前に出て剣の柄に手をかける。
「おぉっと、自分の見てくれがそこの男の好みと聞き、内心気が気でないそこの娘よ! 吾輩に交戦の意思はない! その武器にかけた手を放してもらおうか!」
「んなっ!? て、適当なことを言うな! ……言うなっ!」
ダクネスが顔を真っ赤に染めながら、バニルに抗議する。ダクネス、気にしてたのか……
「今ならば多少押せばいい雰囲気になるのではないかと、邪な感情と格闘中のそこの男よ! 此度の件で焦燥感に駆られ、夜にどうやってお前の部屋に忍び込もうかと画策している紅魔の爆裂娘と、抑えきれないほどの幸福の感情を垂れ流しつつ、やさしくしてくれる男に少しドキドキしている紅魔のぼっち娘を止めてもらおうか! 今にも襲い掛かってきそうで吾輩とても怖い!」
「心にもないことを……! つか、いい雰囲気とか思ってねぇし!?」
「なななな、なんてこと言うんですか!? 撃っていいですか! すべてを灰燼に帰してもいいですか!?」
「こんなところで爆裂魔法撃たないでよ!?」
軽く阿鼻叫喚だった。見通す悪魔たるバニルにとっては食事なのだろうが、こちらはたまったものではない。
「そして……」
「なによ。見通せるものなら見通してみなさいな。まぁ? 悪魔ごときがこの神聖なるアクア様のことを見通せるわけがないのだけれど? 試すだけ試して自分の無能を噛みしめなさいな。ぷーくすくす!」
「底抜けのバカということしかわからんな。その何も考えてないお花畑さが外にまで滲み出しておるわ! よるな。こちらまでバカになってはかなわないからな」
「……はぁ? 自分の力のなさを棚に上げて何を言っているのかしら? そりゃそうよね。人の悪感情がなければ生きていけない寄生虫みたいな悪魔なんて、自分を顧みて是正していこうなんて思いはしないものね。成長もなく発展もない居るだけで問題をばらまくゴミどもが、誰に許可とって人の言葉を発しているのかしら?」
「おやおや? 自分たちの担当している世界さえ満足に管理もできず、耳障りの良い甘言で人をたぶらかし、外界から人を拉致し、身に不相応のアイテムを持たせて暴れさせている詐欺師集団は言うことが違うな。送るだけ送って放置して問題を起こしているのはどこの誰だったか……? 確かに成長もなく発展もないな! 自己紹介、お疲れ様である」
「ふー……『セイクリッド・エクソシズム』!」
「華麗に脱皮!」
「避けんじゃないわよクソ悪魔! 壊してやる。この仮面壊してやるんだから!」
「フハハハハハ! すぐに暴力とは。これだから野蛮人どもはってやめろ! 話してるときに仮面を引きはがそうとすんじゃない!」
「お前ら、ほんと仲悪いな」
取っ組み合いにまで発展したバニルとアクアの喧嘩を眺めつつ、近くのイスに腰掛ける。
「というか、あの悪魔? は誰なんです?」
「吾輩は地獄の公爵にして見通す悪魔。バニルさんである! そこの男の友人だな。吾輩の前では貴様たちのプライベートやあーんな隠し事まで全部丸っとお見通しである!」
「まぁ、というわけで、悪魔ではあるが、俺とアクアの友人だ」
「はぁ!? こんなのと友人なわけがないでしょう!? 頭沸いちゃったの、カズマ!?」
「吾輩としてもゴメンであるな」
こいつらが顔を合わせるといつもこんな感じで、大抵ウィズが被害を被るんだよな。
あ、ウィズがアクアの攻撃でのびてる。
「ん? ということは先ほどのは……」
「勘がいいな、鎧娘よ! その通り。吾輩嘘偽りは一切口にしていない。つまりおぉっと! これは三種三様の羞恥の悪感情! ゴチである!」
「やっぱり撃ちましょう」
「だ、ダメだってばめぐみん! 私も思うことはあるから!」
「あぁ……」
目をぐるぐるさせて爆裂魔法の詠唱を始めようするめぐみんをゆんゆんが顔を赤めて止める。ダクネスは顔を覆ってしゃがみ込んだ。
「御覧の通り、早いところ全員に手を出すか、丸め込むかしなければ、吾輩が好む感情を生み出すご飯製造機パーティーになりかねんぞ? 今必要なのは忍耐ではなく度胸と度量だとアドバイスをくれてやろう。到底理解はできないが、ソレを受け入れることができるのだ、残りもわけはないであろう?」
「いや、わかってはいるけど、どうもな……」
「ソレってなによ! ソレって!」
バニルのアドバイスに言いよどむ。簡単に割り切れればよかったんだけどな……
「ふむ……ところで前世においてタイミングを逃しに逃した我が友人よ。こいつを見てくれ」
「ん?」
バニルが俺に何かを手渡す。それはよく見慣れたものだった。
「……ライターじゃないか」
「吾輩、そこの駄女神とはいささか状況が違ってな。存在の上書きでなく、知識を共有している。ある日、そろそろ幹部をやめよーかなと思い、魔剣の勇者なるものに切り捨てられたことがあったのだが」
「そんなノリで倒されるなよ。というかミツルギがバニルを倒したのか」
「実に美味な悪感情を食すことができたので吾輩は満足である。そして、再び残機を送る際に一度限りではあるが、並行世界の吾輩から知識を受信してな。ここでは語りつくせない聞くも涙語るも涙なエピソードがあるのだが……割愛というやつだな。その知識の筆頭がこれなのだ」
「お前、まさか……」
「バカ売れした商品がこちらの世界ではないようなので、あらかた作らせてもらった。おぉっとこれまた特大の悪感情。大変美味である!」
完全にやられた。いつか手を出そうとは考えていたが、まさかバニルが自分で作り出すとは……
「あぁ、クソ。これならとっとと作って売っとけばよかった。製造ラインも確保できてないし、先手打って作るのは無理だな、これ」
「あくまでも吾輩が自分で考えたものであるゆえ、似たような商品が出てきた場合は権利を主張するのであしからず。悪感情を味わい、恒久的な収入が確保でき、吾輩大変満足である。そこでのびている万年貧乏店主には口が裂けても言わないがな。収入と同じだけ……いや、それを超える損害を出しかねんからな」
横でのびているウィズを見ながらバニルはため息をつく。その眼はどこか優しく感じた。いや、仮面で見えないけども。
早い話がバニルはこう言いたいのだろう。
手遅れになるぞ、と。
「高い授業料だな」
「フハハハハハ! 吾輩、悪魔である故」
「……ところでバニル」
「ん? なにかな?」
「宅配サービスって興味ないか? 労働力さえ何とか出来れば、売り上げは倍以上に跳ね上がるぞ」
「宅配……しかし、それをするにはすべてのエリアを均等に抑える必要がある。そうでなくてはサービスが行き届かないところから不満が出る」
「中継地点を設けるのさ。各所に人員を配置し、その区間のみを雇いの労働力で対処する。これより先は有料な」
「……詳しく話を聞こうではないか。いやいや、此度もまたより良い取引関係を結べそうであるな!」
そう言ってバニルは今日一番の笑顔を浮かべた。