この素晴らしい二度目の世界を生き抜く 作:ちゅんちゅん
酔った状態で書いたらだめですね。
今度はシラフで書いたので大丈夫です。
バニルと物流の取引ついでに向こうの世界で覚えているゲームの物語をパクリもとい参考に小説を書いて売り出してみたところ、これがプチヒットした。
だいぶ記憶が風化していて、覚えているのもドラクエとかの有名どころしかないうえに大まかなあらすじどまりのため、かなりの遅筆だが、意外と馬鹿にならない収入になっている。
難点をあげるとすれば……
「カズマ、早く続きを書いてほしいのです!」
「二巻はまだですか、カズマさん!」
「そんなすぐに書けるわけないだろ」
我が家にファンが二名ほどいることだろうか。毎日続きはまだかと紅魔の二人がせっついてくる。
アクアに挿絵を頼んだこともあり、出てくるモンスターがどこか愛嬌があって、初見殺しをしてくるような即死級のいやらしいヤツもおらず、楽に倒せるあたり現実感がなく、一般受けはあまりよろしくなかった。モンスターが出てくるとか、変に現実との共通点があるのがいけなかったのだろうか。というか、それで受けが悪くなるこの世界が本当にわからん。
半面、王道ファンタジーということもあり、モンスターなんて気にも留めない紅魔族にはかなり受けが良かった。
「なんだ、またやっているのか二人とも」
訓練終わりの湯浴みから出てきたダクネスがこの見慣れた光景に呆れぎみに言う。
「続きが気になって仕方ないのです。この想いは止められません!」
「だって最後、主人公がドラゴンのブレスで焼かれて終わるんですよ!? 生きているのか、はたまた死んじゃうのか……うぅ、生きていてほしい!」
「あぁ、それなら」
「「ネタバレしないで続きを書いてください!」」
「えぇー……?」
ネタバレはダメらしい。
「朝からみんな元気ねー……あ、今日も私出かけるから」
疲れが落ち切っていない様子のアクアが、けだるそうに広間へと入ってくる。
「今日もか? バイトのシフト多すぎじゃないか?」
「そうですよ。言っては何ですが、ウチはお金には困っていないですよ?」
「体を壊したら元も子もないぞ、アクア」
「そ、そうですよ、アクアさん!」
俺に続いてみんなも口々にアクアへと声をかける。目に見えて疲れてますって感じだから、みんなも心配なんだろう。
「あー……いや、バイトって言うわけじゃなくてね? その……うん、大丈夫だから。夕飯までには帰るわね」
歯切れ悪くそう言い、アクアが広間から出ていく。出かける前に外出する旨を伝えに来ただけらしい。
「……どう思う?」
「見るからに大丈夫ではないでしょう」
「私もそう思います!」
「私たちに言いにくい事なのか、それとも隠しておきたいことなのか……」
「まさか……男か!?」
「「「それはない(です)」」」
俺の仮説は即座に全員から否定された。ありえなくはないと思うんだけどな。今のアクアはかなり魅力的だし、男が寄ってきていても何ら不思議ではないからな。まぁ、その場合は、その相手とちょっとお話しすることになるが。
「あのアクアにかぎってそれだけはないな」
「ええ。カズマにべた惚れですし」
ダクネスの言葉をめぐみんが肯定し、ゆんゆんも首を縦に何度も振っている。そういわれると照れる。
「しかしそうなると……なんだ?」
「いっそ後でもつけてみるか? ははは、なんてな」
「「「それだ(です)!」」」
「うえっ!?」
ダクネスの提案(冗談)は即座に承認されたのだった。
このすば!
「ダクネスの提案で後をつけていますが、おかしなところはありませんね」
「そうだな。ダクネスの主導で尾行を決行しているが、今のところおかしなところはないな」
「なぁ、カズマ、めぐみん。アクアにバレたとき私に罪を擦り付けようとしてないか?」
ダクネスが何か言っているが、俺とめぐみんには何も聞こえない。
時刻は昼時。午前中は特に目立ったことはなく、アクアはいろいろと買い物をしている。服に小物、あと大量のパンにペンキ。何に使うんだ?
「カズマさん。前に出すぎです。めぐみん、歩くときは静かに。ダクネスさんは一番後ろで動かないでください。デカいので目立ちます」
「くっ、鎧をはぎ取られた上にこの言葉攻め……ゆんゆんもなかなか素質が――」
「あっ、今はそういうのいいので」
「はぁん!?」
ゆんゆんのスニーキングがガチすぎて若干引いている。てか目からハイライト消えてない?
「ゆんゆんはボッチをこじらせて、友達役の人を一人決めて尾行し、一緒に出掛けている気になるというヤバイ趣味を持っています」
「知りたくなかった」
なんなのあれ? とめぐみんに視線を向けると、俺の視線から逃れるようにそっぽを向いてめぐみんがそう答える。闇が深い。
「あっ、裏路地に入りましたよ!」
「裏路地? こっちになんかあったか?」
「んん? こっちはエリス教会の裏手だな。中には入れないぞ?」
ダクネスが不可解そうに言う。なんだ? 忍び込む気か?
バレないように俺たちも後に続いて裏路地に入る。
「……落書きを消してるな」
「あれは、アクシズ教徒がたまにやっていくイタズラだな。私も何度か消すのを手伝ったことがあるぞ」
「すごく低レベルな落書きですね」
「えーっと……アクシズ教に入らないと不幸になります……? ほかには……あっ、消されちゃった」
アクアは買ってきたペンキで教会の壁に描かれた落書きを上から塗りつぶして消していた。
「……えーっと」
「もしかしなくてもアクシズ教徒の仕業ですねあれ」
過去は率先して落書きをしていたアクアが今はアクシズ教徒の尻拭いをしているらしかった。人って変わるもんだなぁ……女神だけど。
「あ、移動します。そのまま表に回るみたい?」
ゆんゆんが音もなく後をつける。ふとした瞬間にゆんゆんのスニーキングスキルの高さに引きつつ、みんなで後をつける。
「……あの、カズマ」
「何も言うな。涙が出そうになる」
アクアは教会の神官に何度も頭を下げながら買ってきた大量のパンを渡していた。聞き耳を立てると、アクシズ教徒がエリス教会のミサに来た人に配るパンを強奪していったらしく、その弁償をしているらしい。
やべぇ、泣きそう。エリス教の神官は拝金主義の腐った奴が多いが、こういった慈善活動を行っている神官もいるらしい。そこにピンポイントで嫌がらせしていくあたり、アクシズ教も質が悪い。
その後も、尾行を続けた。アクアは様々なところを回り、ある時は頭を下げて物品を弁償し、またある時は頭を下げて心から謝罪をしていた。
「すまん、俺もう限界かもしれん」
「流石に私も耐えられなくなってきました」
「そもそも、なぜアクアが謝罪回りを……?」
「静かに。また移動します」
仕事人かな?
このすば!
「あーーーーーーーーっ! またあんたね! 私たちの布教活動を邪魔して回っている不届き者!」
「あ、あのね? あなたたちのアクシズ教を広めたいっていう想いはすごくうれしいし、尊いものだけれど、手段に問題があってね?」
「何を偉そうに語ってるのよ! 張り紙の回収に、妨害工作の邪魔……どこまで私たちアクシズ教徒が嫌いなのよ!」
「嫌いなわけがないじゃない!」
「行動と言動が一致してないのよ!」
ついにアクアはアクシズ教に絡まれていた。いや、なんだ、この構図。横を見ると、みんな気まずそうに押し黙っている。今までの行動を見てきただけに、これはつらい。
「布教活動をするのは素晴らしいわ。でもね、人に迷惑をかけちゃうとむしろ逆効果……」
「エリス教徒にしか迷惑はかけていないのだけれど?」
「エリス教徒にしかちょっかいかけてないものね……というか、迷惑かけているという自覚はあるのね」
かつて、こんな状況が訪れることを想像できただろうか。いや、ない。あのアクアが自分の教徒に常識を説いているとは……俺は、かつてないほど感動している。
「布教活動がうまくいかないのは世間が悪いのよ。アクシズ教徒はやればできる。できる子たちなのだから、上手くいかなくてもそれはあなたのせいじゃない。上手くいかないのは世間が悪いとアクア様も説いているわ!」
「うぐっ」
あっ、いいの入った。
「さらに、自分を抑えて真面目に生きても、頑張らないまま生きても、明日は何が起こるか分からない。なら、分からない明日のことより、確かな今を全力で生きなさい。とも説いておられるわ! 私たちは全力でエリス教徒を陥れ、アクシズ教を布教しようとしているだけよ! 邪魔をしないで!」
「はぅあ!?」
過去の自分からの容赦のない援護射撃にアクアは膝から崩れ去る。
言い方はあれだが、何が起こるかわからない未来を不安に思うよりも、未来に何が起きても後悔のないように、胸を張れるように今を頑張りなさいってことだろ。良い教義だと思うけどな。いや、あのアクアなら悩まずに自由に生きろぐらいのニュアンスかもしれんが。
「とにかく、もう邪魔しないでよね。ぺっ」
「……う、うぅ」
唾を吐き捨て立ち去るアクシズ教徒を見送り、アクアは静かに涙を流した。いたたまれない。いたたまれなさすぎる。みんなも一言も発しない。
「…………あっ」
「「「「あっ……」」」」
あんまりな光景に隠れることも忘れて棒立ちしている俺たちと、アクアの目が合う。
「…………みた?」
「「「「……はい」」」」
「う、うわぁあああああああああああん! 笑いなさいよ! 自分の信徒にすら唾を吐き捨てられる女神を笑いなさいよ! どうせ私はダメよ! どんなに向き合ってもまるで相手にされないのよ! でもかわいい子たちなの! 私が見捨てれるわけないじゃない! さぁ、笑えーーーーーーーっ!」
アクアはガン泣きしながら、ものすごい勢いでこちらに詰め寄り俺の服の首元を掴みグワングワンと揺さぶる。返す言葉がねぇわ。
「その……お疲れ」
「うぅっ……ぐずっ……なんで……なんでぇ……」
俺に抱かれてさめざめと泣きだすアクアを見て、しばらくは優しくしてやろうと俺たちは心に誓ったのだった。