この素晴らしい二度目の世界を生き抜く 作:ちゅんちゅん
「あー……疲れた……」
「緊張するカズマというのも新鮮だったな。思わず笑ってしまった」
俺とダクネスは馬車に揺られながら、自分たちの屋敷へと続く帰路を走っていた。
ダクネスとの婚約をお義父さんに許可してもらうためにダクネスの実家に行ってきたのだが、人生初の経験に俺はガチガチに緊張してしまい、そんな俺を見てダクネスとお義父さんは笑っていた。
とはいえ、娘さんください、あと他にも妻がいますとか言うのに緊張しないわけがない。最悪殺されても文句言えないとすら思ってたからな。
そこらへんは日本とは価値観が違うのか、身構えていた割には拍子抜けするほどあっさり受け入れてくれたのは喜ぶべきか、悲しむべきか。
ほら、こういうのってもうちょっとドラマチックなやり取りとかあるものだろ。いや、面倒ごとがないのは助かるけど。
「しかし、これどうするかな……」
「ああ、みんなで新婚旅行にでもと持たせてもらったものだな」
俺の手元には戻ってくる際にお義父さんから頂いた水の街アルカンレティアのエリス教信者向け宿泊施設の優待券もといタダ券と、行き返りの馬車のチケットが5枚。
「行先はアルカンレティア……温泉は有名だが、アクシズ教の総本山。そんなところにエリス教信者向けの宿泊施設とは、思い切ったな……」
「事実、エリス教徒はアルカンレティアでは歓迎されていなくてな。エリス教信徒であることを隠さなければ名物の温泉にも入れない。それに心を痛めたエリス教の貴族が法外な値段をふっかけられながらも、多方面から資金を工面し、計画、建築したものだ。ダスティネス家としても投資を行っているので、こうした優待券をもらえるのだが、最近も窓を割られたとか、壁に落書きされたりなどの噂を耳にしたな」
「あぁ、もう面倒ごとの予感しかしない」
完全に目の敵にされているじゃないか。建てるまででも相当大変だっただろうに、建てたあとも嫌がらせされるのか。
「無理に行くことはないのではないか? それに、新婚旅行など行かずとも、私はカズマと一緒に居れればそれだけで幸福だからな」
「んんっ!? お前そういうことを平然と……」
「いや、まて。アクシズ教徒の総本山でエリス教徒ということがバレれば、それはすごい辱めを受けれるのではないか……? やはり行こう、カズマっ!」
「台無しだよ」
はぁはぁと息を荒げて、ずいっとこちらに迫ってくるダクネス。なんだろう逆に安心している自分が嫌だ。俺もかなり毒されてきていたらしい。側は完璧なのにどうして中身はここまで残念なんだ、ほんと。
このすば!
「温泉ですか? まぁ、いいですけど。」
「い、行きたいです! みんなで温泉! すごく、すごく友達っぽい……」
屋敷に戻ってからアルカンレティアの温泉の件をみんなに話したところ、紅魔族の二人は割と乗り気だった。意外だったのは……
「ぜっっっっっっっったいに嫌っ!」
「……これは想定外だな」
「カズマ。アクアのここまでの拒絶は初めて見たぞ……?」
「何よりもアクアが一番乗り気だと思ったのですが」
「え、えっと、どうしてですか?」
まさかのアクアが拒絶した。正直アクシズ教徒がらみだから率先して行こうと言うと思っていた。
「私は、アクシズ教のご神体、水の女神アクアその人なのよ!? その私がアクシズ教の総本山、アルカンレティアで可愛い信徒たちに拒絶されたら、私、立ち直れないわ!」
「「「あっ、その設定まだ生きてたんだ……」」」
「設定じゃないんですけど!?」
ゆんゆんの問いかけに、俺以外の三人の声が重なる。いや、まぁ、そうなるよな……ましてや今となってはパーティーで一番まともなのはアクアだし、デストロイヤーが通っても生きていると言われている狂人集団のアクシズ教のご神体とは全然結びつかないからな。
「認めたくないけれど、あの子たちは少し周りが見えていないから、自分たちのコミュニティー外からは腫物のように扱われているの。そんな子たちを私まで見捨てたら、誰にも見向きされなくなって、不幸な未来しかないじゃない!」
目に涙を浮かべ、悔しそうにそう言うアクアは、まさしく女神だった。あのアクアは、自分第一で自己中心が服を着ているような、あのアクアはどこにも存在しなかった。ただそこには、自分の信徒をただ一途に思い続ける女神がいた。思わず目頭が熱くなる。
「アクアはカズマがいなければ、ダメ男にハマって際限なく不幸になりながらも最後までそのダメ男と一緒に居るタイプですね。その慈愛の矛先は致命的に間違っているのでは?」
「そのあり様はひどく心を打たれるが……すまない。めぐみんと同意見だ」
「あ、アクアさん……うぅ……」
「なんかひどい言われよう何ですけど!? わかってないわねぇ、最近は信徒たちからの信教が強まっているのよ! 私の行動も無駄じゃないの! ねぇ、カズマさん、私がおかしいわけじゃないわよね!?」
みんなの反応に納得できないのか、アクアが何か言ってやってくれとこちらを振り返る。だが、俺には返す言葉がない。いや、それどころか、声が出せない。視界はぼやけ、嗚咽が漏れる。
この前、最近邪魔してくる頭のおかしい女がいるけど私たちは負けずにアクシズ教を布教しています。見ていてくださいアクア様って祈ってるアクシズ教徒を見かけたから、たぶんそういうことだと思う。
過去のアクアの行いがまわりまわっての現状だが、同情を禁じ得ない。アクアの成長がうれしく、そして今置かれている状況がたまらなく悔しい。これだけ思って尽くしているのに、奴らはそれを歯牙にもかけない。それどころか疎ましく思っているのだろう。まさに親の心子知らずというわけだ。
かといって時間が解決するわけではない。なぜならアクアとアクシズ教徒はどこまで行っても他人だから。どこまで行っても平行線。それでもアクアはアクシズ教徒を見捨てはしないのだろう。これからもかかわり続け、心を痛めるのだ。
「えっ、泣いてるの? カズマさん……? わ、私何かしちゃったかしら!?」
「い、いや……お、おまっえは……わるく、ないっ」
「かえってつらいんですけど!? だ、大丈夫だから! ほら、カズマさん、ぎゅーってしてあげるから泣き止んで、ねっ?」
「うわぁあああああああああ!」
「ガチ泣き!? そんなに温泉行きたかったの!? わかったわ! 行く! 私もアルカンレティアに行くから! お願いだから泣き止んでちょうだいな!」
違う。違う、そうじゃないんだ……
おろおろするアクアとガチ泣きする俺を他の三人は黙ってみているのだった。
このすば!
「ウィズ、いるかー?」
アルカンレティアの温泉に行くことが決まったので、用意をしようと、俺はウィズの店に顔を出していた。
「あら、カズマさん。いらっしゃいませ」
「フハハハハハ! 鎧娘を手籠めにし、次を誰にしようかと悩んでいる我が友人よ。今日も今日とてご贔屓にしていただき感謝である」
「感謝してるやつの言葉じゃないよな!?」
ふんわりとはかなげにほほ笑むウィズに、こちらを笑いながら煽るバニルに迎えられる。
なんか、ウィズの様子がおかしいな。
「ウィズになんかしたのか?」
「えーっと……これは、こっちで……あぁ、在庫がたしか……ふふっ……ふふふふふふふふふふっ」
忙しそうに店内をパタパタと動き回るウィズが突然立ち止まり、笑いだす。
なにあれ、怖い。
「どう見てもなんかやっただろ!?」
「吾輩は何もしていない。ただあのポンコツ店主が三日三晩寝ないで動き続けることができる薬なるものを仕入れてきたので、今度はどんな副作用があるのかと思い、試しに飲んでみろと言っただけである」
「おもいっきりしてんじゃねぇか」
「はて? 吾輩が飲ませたわけではないのでな。ちなみにあの薬の副作用は少しでも動きを止めるとああなることである。今なら在庫処分でお安くしておくが如何かな?」
「絶対いらん。それよりも、ポーションをいくつかくれ。明日、アルカンレティアの温泉に行くんだが、行きは馬車なんだ。道中、モンスターも出るかもしれないしな」
木箱一杯のよくわからない薬をこちらに押し付けようとするバニルをあしらいつつ、ポーションの棚を物色する。注意しないとネタポーションが混ざっている場合がある。それも正常なポーションに紛れ込ませる形で。
「ふむ……それならばそこのポンコツ店主も連れて行ってはもらえないか? 明日の早朝には薬の効果がきれてしまうのでな。またわけわからん商品を仕入れられてはたまったものではない。それに吾輩は悪魔ではあるが、鬼ではない。三日三晩の労働には休暇も与えてしかるべきであろう」
「ここぞとばかりにこき使ったんだな」
「仕入れを行わない純粋な労働力としては、なかなかに優秀でな」
「鬼か」
「悪魔である」
何はともあれ、ウィズも温泉に同行することになった。
「ふふふ……ふふふふふふふふふふっ……」
本人の意思とは無関係に。
ウィズの分のチケット買っておかないとな……