この素晴らしい二度目の世界を生き抜く   作:ちゅんちゅん

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今日はこのすばの映画の発売日ですね。
届くのが楽しみです。


この素晴らしい世界で乾杯を!

「今日も一日お疲れ様、カズマさん。力加減はどう? 私の妙技に酔いしれてるかしら?」

 

「あぁー……いい、すごく、いい。だけど、毎日こんなことしなくてもいいんだぞ?」

 

 冒険者登録をしてから日々の労働に従事すること2週間。俺は労働後の風呂上りにアクアにマッサージをしてもらっている。これがまた心地よく、労働で悲鳴を上げていた全身の筋肉が癒されているのを感じるほどだ。

 

「ばっかねぇ、カズマ。一日の労働でイジメ抜いた筋肉はしっかりとケアしないといけないのよ。これを怠ると疲労が蓄積していくばかりか、傷ついていくのよ。寝て回復するなんて言ってられるのは若いうちだけなんだから。むしろ若いうちからこそ、自分の体はいたわってあげないと。それともなに? 若返って今までの経験全部忘れちゃったの? 大丈夫? 頭にヒールかける?」

 

「そこまで言うか? というか前回はこんなことしてくれたことなかったろって、あーそこいい。気持ちい」

 

「ふふん。腰がかなりこってるわね。肉体労働の基本は腰だものね」

 

「くたくたになるまで働くというか、体を動かすっていう感覚は、すっかり忘れてたな。この疲労感も心地いいもんだな」

 

「前回のヒキニートのカズマからは考えられない発言ね」

 

「ヒキニート言うな。ニートとひきこもりを足すんじゃない。それに、それを言うならアクアも前回からは考えられないほど落ち着いたっていうか、尽くしてくれるっていうか。前回がこんな調子だとうっかり惚れてたかもしれないってくらい転生特典してくれてるよな」

 

「あら、別に今から惚れてもいいのよ? 清廉なる水の女神たるこのアクア様に惚れるのも仕方ないことだもの!」

 

「はいはい。それで? どういう心境の変化なんだ? こっちに転生する前はもっと自分の好きなことやってなかったか?」

 

 こちらに来てから感じていた疑問をアクアに投げかける。なんというか前と比べて女神をしているというか、やけに俺の体調を気にしてくる。

 

「ねぇ、カズマさん。隣にいて当たり前だと思っていた人が急にいなくなるのって、辛いのよ? それこそ、自分が女神であるってことを忘れるくらいね。無駄に思い出の場所を巡って……そして、自分がその人のおかげで笑顔で過ごせてたことを思い知るの。ありがとうって伝えたくても、その人はもういなくて……」

 

「アクア……」

 

 アクアの言葉に、この世界に来る前を思い出す。めぐみん、ダクネスが屋敷を出て行ったあともアクアだけはずっと居座り続け、毎日騒いで問題起こしてエリスをせびって……あれ、なんかいい思い出があんまりないぞ。俺が結婚したときはカズマが結婚とかどんな冗談? あっ、ひょっとして妄想? と馬鹿にされ、嫁の料理に文句をつけ、俺がキレて追い出したら屋敷の前で一日中土下座して謝り続けるので嫁がかわいそうだから屋敷においてあげましょうとペットのような感覚で屋敷で一緒に住むことになり……思い出してたらイライラしてきたな。まぁ、でもこのころからある程度落ち着いてきて、子どもが生まれたときは祝福してくれて子守りも引き受けてくれたし、騒ぎを起こすこともなくなって、孫ともよく遊んでくれたし、嫁が先に逝った時は一緒に泣いてくれた。いろいろと迷惑はかけられたが、十分すぎるくらい返してもらっているし、寄り添ってくれた。ありがとうって言いたいのはこちらのほうだ。

 

「そして思い出したのよ。あっ、天界に行けば会えるじゃないって!」

 

「あぁー……」

 

 いくら落ち着いたといっても根本的な残念なところは最初から何も変わってないんだな。そういえばステータスも最初からカンストしててレベルアップじゃ成長しなかったもんな……

 

「そして、こうしてまたカズマさんと一緒にいられる。私は今も昔も何も変わってないわ。今を楽しく生きるためにやりたいことをしたいの! 今の私がやりたいことはカズマさんの力になることよ! まぁ、ちょっとした下心はあるけれど……」

 

「その……ありがとな。アクア……ん? 下心?」

 

「さぁ! カズマ! 私のマッサージで身体的に癒されたなら、今度は精神的に癒されるために晩御飯とシュワシュワとしゃれこもうじゃないの!」

 

 鼻歌交じりに馬小屋から出ていくアクアを見つつ、二度目の人生も絶対に退屈だけはしないだろうなと思いつつ、俺はアクアの後を追うのだった。

 

 

 

このすば!

 

 

 

「かぁーーーっ! やっぱり一日の締めにジャイアントトードのから揚げとシュワシュワは外せないな! シュワシュワを飲めるっていうだけで精神ポイントが回復する気すらするぞ! あとなによりも、このから揚げ! 油っぽいものを連日食べても腹を下さないし、翌日に胸やけがすることもない! あーっ、最高だっ!」

 

 こちらも日課となっている締めにギルドでの夕飯と乾杯。若いからだというのは素晴らしい。好きなものを好きなだけ食べれる。

 

「いい飲みっぷりね、カズマ! でもシュワシュワは2杯まで、から揚げもおかわりは一皿だけだからね?」

 

「お前は俺の母さんかよ……しかし、毎日吐いてたアクアのセリフとは思えないな」

 

「今生においては私がカズマの前で吐くことは絶対にないと断言してあげるわ! もう駄女神だなんてこと言わせないんだからね!」

 

「気にしてたのか……」

 

 俺とアクアは話しながら、から揚げを頬張り、シュワシュワで流し込む。そして同時にジョッキを机に置くと、三つ隣の席から注がれる視線に気が付かないふりをしながら話し始める。

 

「今日で4日目だぞ、どうする?」

 

「私としては、そろそろこちらから声をかけてあげるべきなんじゃないかと思うわ。私たちの話を聞いて一緒に笑ったり、驚いたりしてるもの。気分だけでも一緒に飲んでるつもりなのよ、あの子」

 

「俺たちが帰るときの悲しそうな顔が頭を離れないんだよな。すごいいい夢みてたのに起こされた子どもみたいな顔」

 

「あと、店員さんにも声かけられないから最初に頼んだシュワシュワをちびちび飲んでいるのも私の心をくすぐるわ」

 

「グイっと飲みたいのに飲んだらなくなるからな。初日は俺たちと同じペースで飲んで、途中で飲み物なくなってたからな」

 

「どうしようカズマ。私すごく、一緒に飲まないかしらって声かけたいんですけど」

 

「俺もそうしてやりたいが、自分から人に声をかけるという大いなる一歩を踏み出してもらいたいっていう老婆心があってだな……」

 

「でも今日は一席詰めてきてるし、気が付いてほしいっていうアピールじゃないかしら?」

 

「……あの子見てると父性が湧いてくるんだよな」

 

「奇遇ね、カズマ。私も母性が天元突破しそうよ。今すぐ抱きしめてあげたいもの」

 

 俺たちはあえてこちらを見ている少女に聞こえる声の大きさで話をして、ちらっと少女のほうを見てみる。

 

「はっ……!? うぁあ……えと、えと……」

 

 見るからにうろたえ、声をかけるかどうしようかと必死に考えているのか声にならないうめき声をあげながら顔を真っ赤にする少女。

 

「……あれは、ダメじゃないかしら?」

 

「仕方ない。今日は帰るとするか。また明日来た時にでも――」

 

 これ以上は少女がパニックを起こしかねないので今日のところは帰ろうとアクアと意見が一致する。席を立とうとしたとき、その少女がすごい勢いでこちらの席までやってきた。

 

「わ、我が名はゆんゆん! 上級魔法をあやつるアークウィザードにして、やがては紅魔族の長となるもの!」

 

「「…………」」

 

「あ、あの、その、あ、あわわわ……」

 

 いきなり紅魔族特有の自己紹介を披露し、そのまま顔を真っ赤にして固まる少女改め、ゆんゆん。あれは勢いで来たはいいけど、何を言えばいいのかわからなくてとっさに自己紹介をしてしまい、その自己紹介が一般受けするものではないことを思い出した顔だな。

 

「まぁ、とりあえず座りなよ。ゆんゆん。我が名はカズマ! 最弱職の冒険者にして装備を整えるため日銭を稼ぐ者!」

 

「私はアクア! カズマさんをサポートする者よ!」

 

「あっ、その、まさか返してくれるとは……し、失礼しましゅ!」

 

 紅魔流の自己紹介で返す俺たちに感動しながらガチガチで席に座るゆんゆんを横目に俺はアクアに確認する。

 

「ということで、アクア、もう一杯いいか?」

 

「仕方ないわね! すみませーん、キンキンに冷えたシュワシュワを三つくださーい!」

 

 こうして俺とアクアに飲み友達ができたのだった。


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