この素晴らしい二度目の世界を生き抜く 作:ちゅんちゅん
「カエル一匹でレベルが4……冒険者であることを考慮してもレベル上がりやすくないか?」
「実際、前回よりもレベル上がってるものね。魂に刻まれている経験が関係しているのかもしれないわ」
「魂の経験……『経験値ブースト』みたいなものがかかってるってことか? 丸っきり一からってわけではないんだな」
アクアの話通りなら前回よりもレベルが上がりやすいってことか。スキルの習得も早くなるし、便利だな。
「えーっと、魂の経験、とかって何ですか?」
「ふっ……俺にも隠された力があったってことさ、ゆんゆん」
「お、おぉー……! かっこいいです! カズマさん!」
「ゆんゆんってたまに特有の感性を出してくるわよね。やっぱり紅魔族なのね」
「えぇ!?」
俺のキメ声のセリフにゆんゆんが感嘆の声をあげ称賛してくれる。なんでもいい反応をしてくれるからゆんゆんはいい子だと思う。
「それで、今日のクエストはどうだったんですか?」
「ゆんゆん。世の中には聞いちゃいけないことがあるのよ……」
「アクアが調子にのってカエルに捕食されたんだよ」
なんか深刻そうな雰囲気を出しているアクアを遮るようにやさしくゆんゆんに教える。
「ちょっ! なんで言っちゃうのカズマ! 信じられないんですけど! 馬鹿なの!? 人の気持ちも察することのできない馬鹿なの!?」
「はっはっはっ!」
ゆんゆんを気にしながらアクアは俺の服の胸元を掴み揺さぶる。やめてくれ、新品レベルまで復元された俺のジャージがダルダルに伸びる。あ、でもなんかアクアって感じがする。
「ほ、捕食されたんですか……?」
「ああ、それはもうどろどろのぬちゃぬちゃに――」
「あーら、カズマさん。そのどろどろのぬちゃぬちゃの私を背負って前かがみになっていたのは誰だったかしら? 体が清くなって耐性まで消えちゃったの? 若い純情を持て余しちゃってるの? これだから童貞はいやねぇ。プークスクス」
「え、えぇ!? そ、それってぇ……」
ぷつんと何かがキレる音とともにアクアが口撃してくる。ゆんゆんの視線が俺の股間に向いた気がする。娘みたいに思ってるゆんゆんに近寄らないでくださいなんて言われた日にはショックで寝込むぞ。あぁ、そうか、アクアも同じような気持ちだったのか。しかしそれとこれとは話が別だ。たとえ俺から吹っ掛けた喧嘩だとしても言ってはいけないことがある。
「てっんめぇ、それを言ったら戦争だろうが! この駄女神が!」
「あぁー! 駄女神って! 駄女神って言ったぁ! ひどい、ひどいわカズマ! 私だって一生懸命やってるのに! こうしたほうがいいかな?って思ったことは極力ほとんどやらずに、カズマのことを考えて行動してるのにぃ! この鬼畜、悪魔、カズマ!」
「その結果がぁ? カエルに捕食されてぇ? ぬっちゃぬっちゃになってれば世話ないよなぁ?」
「う、ううぇぇええええええん! そんなにいわなぐでもぉいいじゃあないのよぉおおおお!」
「はぁん? いっつも最後には泣きやがって。いっつも、いっつも、俺がどれだけお前のことで……ことで……」
前回の記憶が強くていつものかんじで売り言葉に買い言葉で罵倒していたが、今回のアクア、なにも問題起こしてなくないか?
「ううぇぇええええええん!」
「あ、いや、その……」
「……カズマさんが悪いです」
「……はい」
このすば!
「……なぁ、アクア」
「つーん」
「悪かったって。その、言い訳にもならんかもしれんが、若返ってテンション上がってたっていうか、前みたいに喧嘩できて少しうれしくて、止まらなかったって言うか……」
「つーん」
馬小屋に戻ってきてから何を話しかけても『つーん』しか返してくれないアクア。仕方ない。こういう時はよりインパクトの強いことをぶつけて気を引くしかない。言いたくはないが……
「あぁ、もう! なんか最近アクアが魅力的に見えてて、前回みたいなところを見て安心して暴走しました! わるかった!」
「えっ、私が魅力的? どこ? どんなところが!?」
「うおっ」
アクアが目をキラキラさせてこちらに詰め寄ってくる。
「今回は問題全然起こさないし、いろいろ尽くしてくれてるし。残念な部分が見えないから、すこし意識してしまうというか。俺の知ってるあの頃のアクアとの差が激しくて困惑するというか」
「うんうん! ほかには? ほかには?」
「いや、そんなところかな」
「もっとあるでしょ! 自慢じゃないけど見た目は結構いいところいってると思うのよ! 私って! だって女神だし!」
「今のは残念っぽくて安心する」
「はぁ!? どういうことよ!?」
あ、やばい。また機嫌悪くなりかけてる。
「あぁ、いや、風呂上りは水に濡れた髪が色っぽいし、やさしい声にはドキッとすることもないこともないし、夜も前回とは違って腹出して寝てないし、距離近いから結構気が気じゃないし? もう魅力的過ぎてやばいわーまじ女神だわー」
「そうでしょう、そうでしょう! だって女神だもの! カズマが劣情を抱いてしまうのも仕方がないってものよ!」
「れつっ!? いやいや、そんなんじゃねぇからな!?」
「もうっ、仕方ないわねぇ、カズマさんったら!」
「うごっ!?」
「あ、ごめん。カズマ」
照れながら背中をたたいてくるアクア。筋力値が高いからすごい痛い。でも機嫌が直ったからひとまずはいいか。ふっ、ちょろいぜ。致命傷で済んだな。
「まぁ、でも。助かってるのは本当だよ。いつも気遣ってくれるし、俺のことを考えて勝手な行動はしないようにしてくれてるし……その結果、何か問題が起きたとしても、俺が責任もって何とかしてやるよ」
「へっ!? あ、そ、その……ありがと、カズマ」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてからほんのりと頬を赤く染めてうつむきお礼を言うアクア。その所作や表情に思わずドキッとしてしまう。
「いまのは……少しドキっとした……」
「うぇっ!?」
このすば!
「ということで今日は仲間を募集します」
「任されたわ! 「任せてないよ?」 すでに求人は作成して掲示板に張り付けを依頼しておいたわ! 「無駄に仕事が早いな」 これですぐにでもめぐみんとダクネスが釣れるわ!」
「えー、なになに?」
アクアが張り出したという張り紙を確認する。
『急募!!
アットホームで和気あいあいとしたパーティです。最弱職ながらそれを補って余りある戦術眼の持ち主である冒険者、カズマと美しく気高きアークプリースト、アクアと共に旅をしたい冒険者はこちらまで。
周りに理解されなくとも自分のこだわりを貫きたい方、大歓迎! 私たちは個人の意見を最大限に尊重します。
※採用条件、上級職の冒険者に限ります。』
これはひどい。気持ちのいいことを言いつつ上級職に限定しているので上の言葉がすごく薄っぺらい。だが同時にめぐみんとダクネスは必ず来るだろう。
「よくここまでピンポイントな求人を書けたな」
「へっ? なにが?」
「お前、これ素かよ……」
きょとんとしているアクア。本能のまま書いたとしたらすごいな。こいつなりに仲間のことを考えていたってことか? そのまま二人で席に着き、駄弁って未来の英雄候補様を待つこと半日。ついにその時が来た。
「募集の張り紙、見させてもらいました」
どことなく気怠げな、眠そうな赤い瞳。そして、黒くしっとりとした質感の、肩口まで届くか届かないかの長さの髪。黒マントに黒いローブ、黒いブーツに杖を持ち、トンガリ帽子まで被った、典型的な魔法使いの少女。俺たちのよく知る仲間の一人、めぐみんの姿がそこにはあった。
「ふふふっ……この邂逅は世界が選択せし運命……私はあなたがたのような者を待ち望んでいた! 我が名はめぐみん! アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者!」
「おぉー……」
この懐かしい名乗り。めぐみんに違いない。そして何より若い! 結局、俺はめぐみんもダクネスも選べなくて、めぐみんは紅魔の里にゆんゆんと戻り、ダクネスは貴族と政略結婚をした。あの時、どちらかを選んでいれば、あんな日々がまだ続いていたのだろうか。もし、もし今回の旅で同じように機会に恵まれたら、どんなに悩んで、つらくても、どちらかを選ぶべきだろう……なんて、少し自意識過剰か?
「ふふんっ、あまりの強大さゆえ世界に疎まれし我が禁断の力を汝も欲するか。ならば、我とともに究極の深淵を覗く覚悟をせよ。人が深淵を覗くとき、深淵もまた人を覗いているのだ」
「ふはは! 俺も待っていた。己の道を突き進むという強い信念と実力を併せ持つ未来の英雄候補の存在をっ! 今、満を持して名乗りを上げよう! 我が名はカズマ! 最弱職の冒険者にして、やがては魔王を打倒せしもの! この過酷な旅についてくるという気概を持つのであれば、俺のこの手を取るがいい。さすれば、俺は盟友として汝を迎え入れ、最大の理解者となること約束しよう!」
「お、おぉおおおおお! なんですか貴方は!? かっこいい! かっこよすぎます! これは認めざるを得ません。私の名乗りよりもイカしてます!」
びしっと決めるめぐみんに俺も同様に大げさな身振りとポーズで名乗りを上げると、めぐみんはものすごく興奮しながら目を爛々と光らせ、俺の手を握った。第一印象は前回を大幅に更新したらしい。
「ちょっと、二人で盛り上がらないでよ。私の名前はアクア! アクシズ教のご神体たる水の女神にして、カズマさんをサポートする者よ!」
「な、なんということでしょう! 恐れ多くもあのアクシズ教のご神体を名乗るとは! あなたも、己の道を突き進んでいるということですね!? なんという運命でしょう! 私は今、猛烈に感動しています!」
「いや、ほんとに女神なんですけど」
「もうわかってるだろ。それは信じてもらえねぇよ。まずは飯でも食おうぜ? 見るからに顔色悪いぞ、めぐみん」
「なんと……一目で私の状態まで見抜くとは……」
俺の言葉に緊張の糸が切れたのかそのまま前のめりに倒れるめぐみんをキャッチする。
「あ、ありがとうございます……もう、3日も何も食べてないのれす……何か食べさせていただけませんか?」
「おう、好きなだけ食えよ、盟友!」
俺の言葉にめぐみんは嬉しそうにほほ笑んだ。