この素晴らしい二度目の世界を生き抜く 作:ちゅんちゅん
嬉しいです。書いたら出るって本当なんですね……
それはそうと、紅伝説のアクアにカズマが膝枕されながら頭なでられてるシーン、すごくツボでした。
めぐみんが、その小さい体に詰めれるだけ食事を詰め込み満腹になった後、俺たちは再びジャイアントトードの平原までやってきていた。ひときわ高めの丘から見渡すと眼下には2匹のカエルが見える。一匹は近いがもう一匹は遠いな。
「爆裂魔法は最強魔法。その分、魔法を使うのに準備時間が結構かかります。準備が調うまで、あのカエルの足止めをお願いします。ところで、狙うのは遠くのやつでいいですか? カズマ?」
「ところでめぐみん。雨も降っていない上に水源もないこの平原で、カエル達はどうやって体を乾かせずにこの太陽の下で生きていると思う?」
「む……確かに不思議ですね。なんででしょう。このだだっ広い平原で体表の水分を維持できる場所など……まさか、地中ですか!」
「理解が早いな、めぐみん。そのとおりだ。つまり、ここで爆裂魔法をぶっ放せばその音と振動でさらにカエルが湧き出るかもしれない。そこで、アクア!」
「ふぇっ!? なになに!? 私何かした!?」
珍しく話を真剣に聞いていたアクアが驚いて声を上げる。ちくしょう、なんだその声、かわいいな。
「今回のクエスト攻略のカギはアクア、お前だ」
「わ、私が……今回のカギ……!」
俺のキメ声にアクアが緊張した表情で繰り返す。
「まずはアクアが自分に支援魔法をかけて馬鹿力で地面を殴る。この衝撃により、地中で眠っているカエルを根こそぎ起こし、地面からはい出てきたところを誘導魔法で注意を引き、このルートで走ってめぐみんのいる丘のほうへ移動してくれ。そしてタイミングを見図り――」
「私の爆裂魔法で一網打尽ってことですね、カズマ!!」
「ふふっ、めぐみん。人のセリフをとっちゃあ、いけないよ」
「す、すみません……まさか、ここまで有用に爆裂魔法を使うことのできる作戦に思わず興奮してしまいました」
「そうだろう。そうだろう。この作戦は二人がいなければなりたたない作戦だからな」
「あ、あのーカズマ? 私の負担大きくない? 全力で地面殴ってから全力で走らないといけないんですけど。それに走るルート間違えたらせっかくのカズマの作戦が台無しになるんですけど!? それにそれにんむっ」
目をぐるぐるさせながらこちらに詰め寄ってくるアクア。真面目に実行しようと考えた結果できないと思ったのだろう。いつもの理由のない自信はどこに行ったのか。まだ続けてネガティブなことを続けようとするアクアの口に指を押し付け、言葉を止める。
「しっ! いいかいアクア。君はやればできる子だ。前回のアクアならまず、こんな役目は任せない。今の、できるアクアだから信じて任せるんだ」
俺の言葉に頬を赤めながら、うんうんと頷くアクア。その眼にはやる気がにじみ出てる。
「まっかせなさい、カズマ、めぐみん! この作戦、絶対に成功させて見せるわ! このアクア様を信じなさい! あなたを信じる私を信じなさい!」
「な、なんですか、その心揺さぶるセリフは……っ!」
アクアの言葉にめぐみんが目をキラキラ光らせる。めぐみん、そのセリフはアニメのパクリなんだ……
「あ、でも、カズマさん……」
「なんだよ?」
「一応、私も女の子? だし? その、馬鹿力とか言われると、少し複雑なんですけど……」
アクアは胸の前で人差し指をくっつけながら不貞腐れたように言う。前回のアクアだったら流しているところだし、今更そこ突っ込むのかとか色々思うところはあるのだが……
「……あれ? 女神かな?」
「現在進行形で女神ですけど!?」
今回のアクアは残念女神ではなく、かわいい水の女神らしい。
このすば!
「かあーじゅーまぁーさんーっ! 速いんですけど!? このカエル結構速いんですけど! さっきから虎視眈々と私を捕食しようとうひぃ!?」
「アクアー! 次はその先の木の前を右に曲がって!あとはそのままこっちに走ってこいー!」
すんでのところで捕食しようと伸ばしてくるカエルの舌を回避するアクアにルートをそれないように指示を出す。しかし、さすがに五匹もカエルが湧き出たときは食われるかもしれんと思ってたが、結構耐えてるな。『フォルスファイア』も合間合間で打ってるし、あいつ、ステータスというか、ポテンシャルはほんとに高いな。ただ、毎回思っていたが、なんであいつ走るとき両手を上げて走るんだ?
「よし、いまだ、めぐみん詠唱を!」
距離を測り、タイミングを見計らいめぐみんに指示を出す。
「詠唱を考慮したうえでの指示! あなたはどこまで私を驚かせれば気が済むのですか! それでは、我が盟友の期待に応えましょう!」
めぐみんは大げさにローブを翻すとハイテンションで詠唱を始める。
「アクアーっ! 振り返ってジャンプした後にカエルに向かって全力でクリエイトウォーターだ!」
「えぇっ!? 『クリエイトウォーター』ぁあああああああああああ!? ぐべっ」
初級魔法にもかかわらず、ものすごい勢いでアクアの手から水がはなたれ、カエルをその場にくぎ付けにし、空中のアクアはその反動で俺たちのほうへ飛んでくる。そのまま俺の横をすり抜けて、はるか後方へ着地した。すごい声上げてたけど大丈夫か、あれ。
「黒より黒く、闇より暗き漆黒に、我が深紅の混淆を望みたもう。覚醒のとき来たれり。無謬の境界に落ちし理。無行の歪みとなりて現出せよ! 踊れ踊れ踊れ、我が力の奔流に望むは崩壊なり。並ぶ者なき崩壊なり! 万象等しく灰塵に帰し、深淵より来たれ! これが、人類最大の威力の攻撃手段! これこそが! 究極の攻撃魔法! 『エクスプロージョン』!」
詠唱に合わせ、魔力の奔流がめぐみんの杖へと集まり、天に円形状の雨雲が現れ、その直下に3つの魔法陣が展開される。そして、掛け声とともに目も眩む強烈な光とともに、天から閃光が落ちる。キラキラと煌めく光を瞬かせ、カエルは爆裂四散した。そして遅れて爆風と轟音が響き渡る。
「んー……興奮からか力が入ってるな。威力は上がっているが、その分精度が荒れたな。だが、威力の高さからくる爆発の壮大さ、そして後から来る爆風とそれを浴びながら、骨身にズンッとくる轟音……79点だな。ナイス爆裂!」
「おぉ……! なんと的確な総評でしょうか! 確かに肩に力が入っていました……まだまだ精進が必要ですね。次は80点は超えて見せましょう! ナイス……爆裂……!」
俺の評価に満足さの中にも悔しさをにじませ、めぐみんは前のめりに倒れ、丘の法面を頭から下っていく。もうちょい後ろで打たせればよかったな。
「おーい、めぐみん、大丈夫か? 今――」
今起こしに行くと声をかけようとして、めぐみんの目の前の土が不自然に盛り上がっていることに気が付く。まさか、丘のすぐ下にいるとは想定外だ。丘の下なら出てくるのにも時間かかるだろうとは思っていたが、そんなギリギリのところにいたとは……
「ぷへっ……。我が奥義である爆裂魔法は、その絶大な威力ゆえ消費魔力もまた絶大。……要約すると、限界を超える魔力を使ったので身動き一つ取れません。近くからカエルが湧き出すとか予想外です。……やばいです。食われます。すいません、ちょ、助け……くぷぁっ……!?」
「め、めぐみーーーーーーんっ! おい、アクア! すぐにめぐみんを助け――」
消え入る悲鳴をあげ、捕食されためぐみんを助けるべく、後ろにいるはずのアクアに声をかけながら振りかえる。ん? なんでカエルがいるんだ?
「あー……なるほど、ね」
何度見てもカエルがいる。しかも上を向いて、もそもそと何かを咀嚼してる。あの足はもしかしなくてもアクアだよな……
「お、お前らぁああああ! 食われてんじゃねぇーっ!」
俺は、二度目になる叫び声をあげながら、咀嚼してうごけないカエルに切りかかった。
このすば!
「くっ……うぅうう……生臭いよぉ……生臭いよぉ……」
「カエルのなかって臭いですけど、いい感じに温いんですね」
「すまん。俺の落ち度だ。また、こうなるとは……」
泣きながら歩くアクアと粘液まみれで俺におぶさっているめぐみん。なんとかアクセルまで戻ってきたが、今回も、仲間を守れなかった……
「わたしぃ……がんばったのにぃ……いっぱいがんばったのぃ……うえぇぇええ……」
「また……? なんにせよ、助かりました。ご迷惑かけます、カズマ」
あれからアクアはずっと泣き、めぐみんは心底申し訳なさそうで、口数が少ない。
「アクアはほんとうに頑張ってたもんな。俺にできることがあれば何でもしてやるからいい加減泣き止めよ」
「本当に!? 本当に何でもいいの!?」
「お、おおう。可能な範囲ならな?」
「休日に一緒にハイキングとか!」
「おう」
「夜にすこしおしゃれなお店でディナーとか!」
「あんまり高くなければ……」
「たまには宿で一緒に寝るとか!」
「その場合は別室です」
「なんでよぉーーっ! 女神なのよ? 私、女神なのよ!? いいじゃない! 私とも少しくらい甘い感じになってくれてもいいじゃないーっ!」
「え?」
「あっ……」
アクアがものすごいことを口走る。甘い感じってなんだ? いや、もう、これもしかしなくてもアクアは俺のこと……
「あ、アクアさん? それってもしかして……」
「あ、あの……私、先にお風呂に行くわね!」
顔を真っ赤にさせながら、街中へと走っていくアクア。なんだろう、すごい主人公になった気分だ。二度目の世界でようやく、本当に、俺、モテ期、入りました!
「カズマとアクアは付き合っているのですか?」
「付き合いは一番長いけど、そういう関係ではないんだが……」
そうは見えないよなという言葉は飲み込む。これで? 俺の勘違いだったらすっごい恥ずかしいし?
「そう、ですか……ところで、私は本当にこのパーティーにいてもいいのでしょうか? 今回も最後は食べられちゃいましたし……」
「おいおい、逆に抜けますと言われても困るぞ? もうめぐみんは、うちの重要な仲間で火力役なんだからな。それに言っただろ? めぐみんの最大の理解者になる、ってさ」
少しくさいかもしれないが、めぐみんにはこれくらいがちょうどいいだろう。俺の服を握るめぐみんの手に力が入るのを感じる。
「本当に、いいんですね? 私、甘えちゃいますよ? ここまで……ここまで、そのままの私を受け入れてくれた男の人はカズマが初めてなのです。いまさら、やめたといわれても、どこまでもついていきますよ!?」
「そんなことはしないから安心しろよ。そっちこそ、いまさら別のパーティーに入りますってのはナシだからな。今後ともよろしく頼むぜ、めぐみん?」
「もちろんです!」
こうして、二人目の仲間、めぐみんが加わった。次はダクネスだが……まずは風呂だな。
「風呂、入るか……」
「……セクハラですか?」
「ちゃ、ちゃうわ!」