この素晴らしい二度目の世界を生き抜く 作:ちゅんちゅん
パジャマキャラ使うよりも、配布エーリカとメリッサ組み込んだ物理パのほうが火力出るってどういうことなんですかね……
いつも感想ありがとうございます。
大変励みになっております。
『緊急クエスト! 緊急クエスト! 街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください! 繰り返します。街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!』
あの状況を変えたのは、アクセル全体に響き渡るアナウンスだった。
「おや、もうそんな時期ですか。奴らは群れで行動します。これは爆裂魔法を撃つチャンスでは?」
「そんなことしたら、ほかの冒険者さんたちも巻き込んじゃうじゃない! めぐみん、絶対にやめてよね!?」
「フリですか?」
「ちがうわよ!」
「エ……クリスは逃げて、ダクネスはそれを追っかけちゃったけど、キャベツ狩り、どうするの、カズマ?」
「まぁ、合流できるだろ。このクエストをスルーするわけないしな」
アナウンスに従い、ギルドにやってきた俺たちは、受付付近で待機している。そのまま人込みに目を向けつつ、クリスとダクネスを探していると、後ろから声をかけられる。
「逃げ回るクリスをようやく捕まえることができた。ほら、クリス」
「うぅ……ごめんなさい。なんでもするので許してください」
ダクネスがクリスの首根っこを掴み、俺のほうへ差し出す。クリスは恥ずかしさと申し訳なさを混ぜ合わせたような複雑な表情をしていた。なるほど、何でもするか。
「ん? いま何でもするって言ったか?」
「……あんまりひどいことはダメだよ?」
何を要求されるのかビクビクしながら言うクリス。何を要求すると思ってるんだ?
「皆さん、突然のお呼び出しすいません! もうすでに気づいている方もいるとは思いますが、キャベツです! 今年もキャベツの収穫時期がやって参りました! 今年のキャベツは出来が良く、一玉の収穫につき一万エリスです! できるだけ多くのキャベツを捕まえ、ここに納めてください! なお、人数が人数、額が額ですので、報酬の支払いは後日まとめてとなります!」
ギルド内にルナさんの声が響き渡る。その言葉に冒険者たちの雄たけびが響き渡る。一玉で一万エリス。なかなかの高レートだ。
キャベツといえば畑でとれる野菜というのが一般的な認識だろう。しかし、ことこの世界では違う。この世界のキャベツは、飛ぶ。味が濃縮してきて収穫の時期が近づくと、簡単に食われてたまるかとばかりに。街や草原を疾走する彼らは大陸を渡り海を越え、最後には人知れぬ秘境の奥で誰にも食べられず、ひっそりと息を引き取ると言われている。それならば、一玉でも多く捕まえて美味しく食べようと、この時期になるとキャベツ捕獲クエストが発令されるのだ。
とはいえ、アンデッド以外に対しては攻撃手段が近接オンリーのアークプリーストに一発限りの超火力アークウィザード、攻撃が一切当たらないクルセイダーでは大した成果は上げられそうにない。そこで、俺は今回、作戦を用意した。そのためにはクリスの力が必要なのだ。
「と、いうわけで、クリス。今回の緊急クエスト、力を貸してくれないか?」
「んなっ!? つまりあたしはこの緊急クエスト、無報酬になるってことかい!?」
「お前、俺をなんだと思ってるんだ? 普通に分配だよ」
「へっ? でもそれじゃあ、キミへの償いにならないんじゃ……」
「だから気にするなっての。大したことじゃないから」
だって野郎のパンツだぞ。むしろ美少女が俺のパンツを握りしめるとか、ある意味ご褒美だろ。絶対に言わないけど。
「き、キミはいい人だね……! よっし! 任せて。あたしにできることなら最善を尽くすよ!」
「しかし、いいのか? カズマは公衆の面前の前で辱められたのだぞ? あんな仕打ち、私なら……くぅっ!」
「興奮すんな!」
「し、してない!」
想像で悶えているダクネスは放置し、みんなを集める。
「ということで、今回のクエストに限り、クリスが力を貸してくれる。この新生パーティーとして初めてのクエストだ。気を引き締めていくぞ」
「ふっ……我が爆裂魔法ですべてを薙ぎ払ってやりましょう!」
「捕獲だよ!? 捕獲クエストだよ!?」
「賑やかでいいな。私も尽力しよう」
「新生パーティーとしての初クエストがキャベツ狩りってどうかと思うんですけど」
「言うな。アクア……」
俺もアクアの言う通り一発目のクエストが金策クエストということに思うことがないこともない。カエルの次はキャベツ。正直派手さに欠ける気はする。
「あ、そうだわ! 今回の報酬は分配じゃなくて、それぞれが捕まえたキャベツの分にしましょう!」
「私は構いませんが。最悪ゆんゆんからむしり取ります」
「やめてよね!? 私もカズマさんが良いならそれでいいです」
アクアの言葉にめぐみんとゆんゆんはまんざらでもない反応を示す。しかし、こいつは前回のことを忘れたのだろうか。幸運が最低値のアクアはレタスを乱獲することになるはずだが……ん? だからか?
「まぁ、理由を聞いてだな。パーティー初クエストなのにいきなり出来高制ってのもな」
「そりゃ、私だけ大儲けできそうだっておもったんだもん!」
「さらっと最低なこと言い出したね……」
俺の質問にアクアが目をそらしながら答える。それを聞いたクリスが若干引きつつ頬を指でかく。
「はぁ……で、本音は? どれだけ長い付き合いだって思ってるんだ。嘘ってバレバレだぞ」
「うっ……私って幸運値低いから、たぶん、またレタスばかり捕まえてみんなの取り分減らしちゃうことになると思うの。それなら最初から個人個人で捕まえた分を報酬にすれば迷惑をかけないかなーって……だって仕方ないじゃない! 幸運値だけはどうあがいても上がらないんだもん! たまたま入ったアクセサリー店の100万人目のお客さま特典で購入した幸運のお守りとかも効果ないし……いろいろと手を尽くしたのにぃ!」
「すでに不幸なエピソードが飛び出してきたのだが……」
「まぁ、そういうことなら、いつも通り分配な」
「そうですね。アクアも大変ですね……」
「わ、私たち、な、仲間ですもんね!」
「え、えぇ!?」
アクアが困惑の声を上げる中、みんなで移動を始める。
「というわけだ。仲間なんだし、遠慮するなよ」
「……ありがとね、カズマ」
「ふっ……」
アクアの涙声のお礼に、俺はニヒルに笑うと先頭を歩き、ギルドを出ていこうとする。
「それはそうと、カズマさん」
「なんだ、アクア」
俺のキメ声にアクアは少し恥ずかしそうにこう言った。
「パンツを履かないまま、クエストに行くのかしら……?」
「んんっ――」
このすば!
アクセルの外に出ると、大量の緑色がキャベキャベと押し寄せてくるところだった。
「キャベツ狩りだーーーーーーーっ!」
誰かがそう叫び、全員がそれに続いて緑の嵐へと走っていく。いよいよクエストの始まりだ。
「よし、じゃあ作戦通りに行くぞ!」
「「「「おーーーーっ!」」」」
俺の号令の下みんなが動き出す。めぐみんが先頭へと歩き出すのを確認し、指示をだす。
「まずはめぐみん。キャベツを二分するぞ! ほかの冒険者を巻き込まないように、射程範囲ギリギリのところで、群れのど真ん中にぶち込んでやれ!」
「はっはっはぁーっ! この私を一番槍に……感謝しますよカズマ! あれほどの敵の大軍を前にして、爆裂魔法を放つ衝動が抑えられようか……いやない!! 光に覆われし漆黒よ。夜を纏いし爆炎よ。紅魔の名のもとに原初の崩壊を顕現す。終焉の王国の地に、力の根源を隠匿せし者。我が前に統べよ! 『エクスプロージョン』!」
俺の合図と同時にめぐみんが爆裂魔法を放つ。爆心地の中心のキャベツが断末魔を上げながら爆裂四散し、その余波によりかなりの焦げたキャベツが転がり、群れが中央から二分する。
「よくやっためぐみん! かなりの数がこちらに向かってる! ナイス爆裂!」
「ふっ……ナイス爆裂!」
俺の言葉に前のめりに倒れながらめぐみんが親指を立てる。めぐみんの安否を確認し、すぐさま、次の指示を出す。
「よし、アクア、ダクネス。立ててくれ」
「任されたわ!」 「承知した」
「いくぞ、クリス」
「わかったよ!」
『『バインド』』
俺の声にアクアとダクネスが土木工事現場の親方から借りてきた、5mほどの木材を地面に突き立てて支える。二人の間の距離はおおよそ3m。その木材と木材の間に俺とクリスが『バインド』を使用し、編み目状にロープを編む。
「「「キャベキャベキャベー!」」」
俺たちで作った木材とバインドの網が大量のキャベツを受け止める。しかし、ダクネスが支えている右側が押されだす。
「くっ……これは、なかなか……」
「ちょっ、ちょっとダクネス、傾きかけてるわよ!? 力だけが取り柄なんだからもっと頑張って! ほら、頑張って!」
「くぅっ!! この状況でその言葉攻め……たまりゃん!」
「うっわ……この状況で興奮してないか……?」
「でも持ち直したよ! さすがダクネス!」
アクアの言葉攻めにダクネスが馬鹿力を発揮し、キャベツを押し返す。そのまま網を前面へ押し倒しキャベツたちを抑える。
「よしっ! よくやった二人とも! これで詰めだ! ゆんゆん!」
「はいっ、任せてください、カズマさん! 『ライトニング』!」
地面と網で抑え込んだキャベツをゆんゆんが中級魔法の『ライトニング』で感電させ、動きを封じる。
「よしっ! 大量! 檻に移したら、同様の手段でどんどん捕まえるぞ!」
「「「「おぉーーーーーっ!」」」」
ギルドで用意した檻へとキャベツを移し、尚も襲い掛かってくるキャベツを同様の手法で乱獲していく。この日、俺たちのパーティーは一番の成果を上げたのだった。余談だが、『バインド』の使い過ぎで俺は魔力切れを起こし、倒れ、アクアにおぶってもらって帰宅したのだった。