苦手な方はご注意ください。
普段は『シスコン弟とAqoursの日常』という作品を連載しておりますが、今回は初めて短編作品を執筆しました。
キャラ崩壊や、至らないところがあるとは思いますが、最後までお楽しみいただけたら幸いです。
嗚呼、現実はなんと数奇なものなのでしょう。
あの方のことを好きになってしまうなんて・・・
それまでの私は恋愛などというものは生涯無縁なものだと思っていました。
相応の歳になれば家を継ぐため縁談で親が決めた相手と結婚する、そう思っていました。
しかし、私は彼を愛してしまったのです。
彼と私の関係はそう特別なものではありません。
穂乃果やことりと同じく小さい頃からの幼馴染。
一緒に笑ったり、泣いたり、遊んだり、叱ったり、喧嘩したりする「異性の友人」でした。
しかし、思春期というものを迎えると、その関係も徐々に変化していきました。
μ’sの活動や家での稽古、徐々に彼と会う時間も減り、異性と話すということを意識してしまい会話もうまく続かなくなっていき、私以上に彼と仲良くしている穂乃果やことりが羨ましく感じていました。
そして、次第に未知の感覚が私を襲うようになりました。
彼と話していたり、一緒にいるときに感じる異様な胸の高鳴りや、彼が穂乃果やことりと話しているときに感じる形容しがたい胸の痛み。
そしてある日、ついに私は気づいてしまったのです。
私は、彼の事をが好きなのだな、古くからの友達としてではなく一人の男性として。
初めて恋を知ったその日から私の心は千々に乱れました。
毎朝交わすあいさつもなんだかぎこちなくなってしまい、会話もうまく続かない。
矢を射ても乱れた心では的に当たらず、弓道部の皆や両親から不審がられる毎日。
かろうじて作詞はできるものの、真姫からは急に作風が変わったと指摘され、何かあったかと疑われる始末。
私らしくもないことはわかってますが、彼の気を引こうと、できることはすべてやりました。
そして、ついに意を決して彼に想いを伝えることにしました。場所は近所の公園、彼との多くの思い出を作った場所でした。
「あなたを・・・お慕いしております・・・」
その時の胸の鼓動は、気持ちの高まりは、初めて弓道の大会に出たよりも、初めて穂乃果たちとステージに立った時よりも激しいものでした。
しかし、私の想いもむなしく、現実は非情でした。
「海未ちゃん・・・ごめん!」
しばらくの沈黙の後、彼は下を向きながらそう言い残してその場から走り去っていきました。
薄々感づいていました、彼に想い人がいることは。
いつもは冷静な彼が、ことりの前だと急に仕草や口調がたどたどしくなったり、今まで身なりに無頓着だったのに急にファッションに気を遣うようになったりと、明らかに彼の身に変化が起こっていました。
それでも、もしかしたら私を選んでくれるのではないか、私の気持ちを受け入れてくれるのではないか、そんな希望がありました。
しかし、現実はそんなに甘くなく、もろくも私の初恋は崩れ去りました。
その夜は自室で声を殺して泣きました。
「どうして・・・、どうしてえ・・・」
その時、部屋の障子が開く音がしました。
「海未、どうしたのですか?そんなに泣いてあなたらしくもない」
「お、お婆様・・・」
部屋に入ってきたお婆様に私の心の内をすべて打ち明けました。
「・・・なるほど、ついてらっしゃい」
事情を聴いたお婆様は私を倉の前まで連れてきました。昔から親、特におじいさまからは絶対に近づかないように厳しく言われており、昔から少し怖い場所だと思っていました。
「お婆様・・・」
「お入りなさい」
お婆様が持つ提灯の薄明かりに照らされた倉庫の中は年季の入った木箱や古い時代の家財道具が置いてありました。何年も掃除されていないせいかどれも埃を被っており、思わずせき込んでしまいました。
そんな蔵の中をお婆様は何も言わず奥へ奥へと進み、一番入り口から光が入らない角の方までやってきました。
「御覧なさい」
「これは・・・!」
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「こんばんは、夜分遅く失礼します」
あの日から数日たった夜、突然僕の家に海未ちゃんが訪ねてきた。
「う、海未ちゃん!?どうかしたの?」
「お夕飯のお誘いに参りました。まだ食べていませんよね?」
「えっ、そうだけど・・・よくわかったね」
「あなたのやりそうなことは大体見当はついてますよ。その様子だと、今日もどこかで外食するつもりだったのでしょう」
「えっ、で、でも・・・」
突然の夕食のお誘いに驚いてしまう。いつもなら二つ返事で応じるところだが、今日に限ってはこの間の件があったのでどうしてもためらってしまう。
「わがままで申し訳ありません。でも、これで私の中でのけじめがつくのです。どうかお願いします」
そう言って彼女は深々と頭を下げる。
「海未ちゃんが謝ることじゃないよ!その・・・僕もしっかり話さないといけないし・・・」
あの時はまさか自分が告白されるなんて思ってもみなかったので気が動転して、理由も告げずに断って立ち去ってしまったことを後悔している。
それ以来、彼女とはぎこちない感じにしか話せておらず、僕もいつか面と向かってしっかりと話をしなければいけないと思っていた。
「ありがとうございます。やはりあなたは優しいのですね」
ここから海未ちゃんの家まではそう遠くないが、今日はなぜか異様に長く感じた。
いつもならμ’sの活動の事などお互い学校であったことを話すが、今日だけは終始無言だった。そのせいか、いつもなら自宅からそう遠くないからすぐにつくはずの海未ちゃんの家までの道のりが異様に長く感じた。
「どうぞ、あがってください」
「お、おじゃまします」
海未ちゃんの家は大きな倉や弓道場がある日本家屋だ。自然と気が引き締まる。
「なんか久しぶりだね、海未ちゃんの家に来るの」
「はい、いつ以来でしょうか」
「あれ?そういえば家の人は?」
海未ちゃんの家は礼儀に厳しいことで有名だ。だから遊びに来た時は必ずあいさつに出向かなければいけないのだ。
「お婆様は、友人と旅行に、父は武道の大会の審査員、母は日舞の発表会で遠方に出ていてしばらく帰ってこれないそうです。普段のあなたと似たような状況ですね」
父は単身赴任、母も帰ってくるのはいつも夜中で基本いつも家では一人だ。そのせいか母親同士が旧知の仲ということもあり、幼いころはよく海未ちゃんや穂乃果ちゃんの家に預けられたりするなどよくお世話になっていた。
「つまり、この家には今日あなたと私の二人だけです」
『二人きり』その言葉にドキッとしてしまう。普段の彼女ならこんなことは言わない。その穏やかな表情も今日はなんだか少し寒気を感じる。
「食材は後は炒めるだけですので、少し待っていてくださいね」
「ああ、ありがとう」
しばらくすると、海未ちゃんが特製の炒飯と餃子を持ってきた。
「お待たせしました。召し上がってください」
「ありがとう、いただきます」
昔から変わらない少し薄めの味付けは美味しさと共に懐かしさを感じてしまう。
しかし、これを食べる機会はおそらくこれで最後だろうと考えるとなんだかすこし寂しく感じてしまう。
「お味はどうですか?」
「うん、おいしいよ。いつもとかわらずにね」
しばらくして、餃子を食べていると口の中にあるものに違和感を感じた。舌を起用に動かし、それを飲み込まないようにして口から出すと、その正体は長い髪の毛であった。
「あっ!失礼しました!」
「いいよいいよ、僕だってよくあるから」
慌てる彼女をなだめて僕は残りの餃子とチャーハンを食べる。
「・・・しだったのに・・・」
「えっ?何?」
「いえ、なんでもありません!申し訳ありませんでした」
食べている間、これを食べ終わったら彼女に謝罪して、はっきり告げないといけないと考えると次第に心拍数が上がってきた。
そしてついに、皿に残っていた炒飯の最後の人救いを口に入れ、続いてコップの水を飲みほした。
「ごちそうさま。ありがとう海未ちゃん、おいしかったよ」
「お粗末様でした。そう言っていただけて嬉しいです」
そして、彼女も僕の意図を察したのか食器を片付けた後、何も載っていない机を挟んで僕と向かい合った。
僕は一度深呼吸して気持ちを整えてから口を開いた。
「あの・・・海未ちゃん、この間は本当にごめん!その・・・いきなり逃げちゃったりして・・・」
彼女の目を見てそう告げた後、僕は深々と頭を下げる。
彼女は無言のままこちらを見つめたままだ。
そしてついに意を決して本題に入る。
「あの・・・海未ちゃん。海未ちゃんの気持ちは嬉しい、すごく嬉しいよ。僕になんかもったいないくらい。でも海未ちゃん、僕にはもう心に決めた人がいるんだ」
「ことりのことですよね」
鋭く凍てついた心臓に突き刺すような声が耳に入った。
「し、知ってたの・・・」
ばれていた。その事実に全身が総毛立ち、一気に背筋が寒くなる。体も小刻みに震えだす。
「残念ながらことりはあなたの事を愛してはいません。誰に対しても思わせぶりな態度をとって、人を傷つけるだけの女です」
「な、なんてことを言うんだ!ひどいじゃないか!」
全身にまとわりつく得体のしれない恐怖を振り払うかのごとく大声を出して対抗する。
「いいえ事実です」
「た、たとえことりちゃんが僕のことを好きじゃなくても、、同じμ’sの仲間に対してそんな言い方をするなんてひどいよ!」
「あなたとの関係にμ’sも友情も関係ありません」
普段なら考えられないようなことを平然と言ってのける彼女の姿に驚くと同時に、今までとは明らかに違う彼女の様子に戦慄を覚え、先ほどからまとわりつく得体のしれない恐怖がさらに強くなった。
それからしばらく周囲を静寂が支配した。彼女は表情一つ変えずにこちらを見ている。
自分でも心臓の鼓動が早まり、全身の震えが強くなっていくのがわかる。
「何を言われても僕の気持ちは変わらない。僕はもう帰る」
そしてしばらく後、そう言って立ち上がる。とにかくこの恐怖から逃れたい一心で。
「待ってください!一生あなたに尽くします!私はあなたの事をだれよりも考えてます!!ですから・・・」
すると彼女も立ち上がって小走りで僕の方までやってきて腕をつかむ。絶対に返さないと言わんばかりの強い力だ。
「じゃ、じゃあ僕の事を第一に考えてるなら今この手を放してよ!」
とにかく帰りたい一心で思わず虚勢を張ってしまった。
「今帰られては困るのです!!!」
「なんでさ!身勝手じゃないか!!とにかく僕はもう帰る!」
そう言って強引に彼女の手を引きはがし、襖に手をかけた。
が、その手に全く力が入らない。
最初は頭に血が登っただけかと思ったが、明らかにおかしい。
そのうち体に力が入らなくなりその場にへたりこむ。次第に瞼が重くなり、意識が朦朧としだす。
「う、海未ちゃん・・・」
「帰しませんよ」
次第に僕の意識は遠退いていった。気を失う最後に僕の目に映ったのは不適な笑みを浮かべた海未ちゃんの顔だった。
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「懐かしい。何十年ぶりかしら」
「お婆様、ここは・・・」
階段を下りた先には長い廊下があり、その奥にはいくつもの部屋が存在していた。
「ちょうどこの上はあなたがいつも使っている弓道場です。昔は離れがありましたわね」
「い、一体何のためにこんなものが・・・」
「ここは代々我が家に嫁いできたものが最初に暮らす部屋。普段は上の離れでここで園田家の人間になるべく相応しいl教育lを受けながら過ごすのです。中にはこの家に
人間もいたそうですが、
聞いた話によれば、おとなしくなるまで暮らしたそうですよ。あなたの父親が嫁いできたときに離れを壊して弓道場にしたので使われなくなりました。あなたの父親はすんなりといった珍しい方です。やはりあなたも園田家の女ですのね」
そう言ってお婆様は私の顔を覗き込みました。
いつもの穏やかなものとは違う今まで見たことのないような不敵な笑みで。
そこでようやくお婆様が言わんとしていることの意味がわかりました。
「し、しかしそんなことをしては・・・」
「良いのですか?そのことりとやらに想い人を取られて、悔しくないのですか?」
お婆様の言葉で普段との彼と穂乃果達の会話が思い出されてしまいます。
『ねえねえ!今度家に来ない?新作の和菓子食べてほしいんだ!穂乃果が考えたんだよ!』
『ねえねえ数学教えてくれない?だって海未ちゃん怖いんだもーん、間違えるとすぐ怒るし!』
『あっ!髪型変えたんだ♪・・・どうしてわかったかって?だってことり、あなたのこと毎日見てるから・・・』
『えっ、良い匂い!?確かにシャンプー変えたけど・・・そんなこと言われたらことり恥ずかしいよ・・・』
『ことり、おいしいスイーツのお店見つけたんだけど・・・一緒に行かない?』
何の気兼ねもせずに無邪気に話す穂乃果が、彼に心の底から想われていることりが羨ましい。
思えば、私は彼に対して厳しくしすぎではなかったでしょうか?
『また宿題を忘れたのですか!一体これで何度目だと思ってるんですか!』
『はぁ・・・、穂乃果と一緒にいたずらに加わるなんて言語道断です!少しは反省してください!』
『まったく・・・、あなたという人はだらしなさすぎです!』
もしかして、彼の中での私の印象というのはいつも怒っている人といったものではないでしょうか?
もし、そうだとしたら・・・
私の事など頭の片隅に追いやられてしまうのではないでしょうか。
彼の心が私からどんどん離れて行ってしまう。
そう考えると私の頭の中を支配するものは不安から恐怖に変わっていきました。
嫌だ、私から離れてほしくない。彼と一緒にいたい。添い遂げたい。
例え、どんな手を使ってでも。
その瞬間、私の心の奥底から言葉にできないような、これまでと全く違う道の感情があふれ出てくる感覚がしました。
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目が覚めると知らない天井が広がっていた。
部屋は薄暗く、感触から布団の上に寝かされているのだなということに気づく。
なんだか重たい体をゆっくりと起こして裸電球の薄明かりが照らしている室内を見渡す。部屋には窓がなく、襖や畳などがあるから和室のようだ。
「えーっと・・・僕は海未ちゃんの家でご飯食べて、その後喧嘩して・・・」
必死に何があったか考えてみても記憶があやふやなので断片的にしか思い出せない。
しかし、気を失う直前の海未ちゃんのいままでに見たことのないような不敵な笑みと『帰さない』とうい言葉がははっきりと頭に焼き付いている。
「てか、今何時だ?」
時間を見ようとポケットに入っているはずのスマートフォンを取り出そうとする。
「・・・あれっ・・・」
しかし、入れていたはずのポケットにはなく、周囲を見渡してもそれらしきものはない。それどころか、財布や家の鍵、さらには腕時計までなくなっていた。
とにかく誰かに起きたことを知らせないと、そう思い襖を開け、辺りを見回すが先の見えないほど長い廊下が伸びてているばかりだ。
「おはようございます。調子はどうですか?」
すると、別の襖が開いて海未ちゃんが姿を現した。
「海未ちゃん・・・僕に何をしたんだ!帰してくれよ!」
「少々手荒な真似を使ってしまったのは謝ります。しかし、帰すわけにはいきません。私と一緒にここで暮らすのですから」
そう言って彼女は笑みを浮かべる。先ほどと同じ不敵な笑みだ。
「冗談はよしてくれよ・・・。そもそも、ここはいったいどこなのさ」
「冗談ではありません。ここは私たち二人の住まい、いわば愛の巣です。あなたは園田家の人間・・・いえ、ここに来たからにはもうすでにあなたは私の伴侶となる運命なのです」
彼女は薄明かりが照らすその顔に笑みを浮かべながらで全く意味の分からないことをさも当然のように僕に告げてくる。
「あ、愛の巣?伴侶?な、何を言ってるんだ・・・」
「なにもおかしなことは言ってませんが?」
そう言って彼女は首をかしげる。あまりにも自然な様子に何が何だかわから分からなくなる。
「子供は今はさすがにまだ早いので、もう少し後にしましょう。・・・やっぱり3人ぐらいがいいでしょうか。一姫二太郎と言いますから最初は女の子がいいですね。あっ、働いてる間の子供の面倒は両親が見てくれるので昼間の育児に関しては問題ないですよ。3歳ごろになったら塾やお稽古事を・・・」
彼女は頭の中にある僕との将来の計画らしきものを延々と話す。
今の彼女は正気じゃない。何としてでも逃げ出さなければ。
「う、海未ちゃん、僕喉乾いたんだ、だから・・・」
「わかりました。夫に尽くすのは妻としての当然の務めですから。少し待っていてくださいね」
「あ、ありがとう・・・」
そう言って彼女は部屋を後にした。
彼女の足音が聞こえなくなると、僕はすぐに行動を開始した。
重い体に鞭打って気づかれないようにそっと襖を開け、音を立てないように早歩きで廊下を進む。彼女に見つかり、また何かされないかという恐怖と、早く逃げ出さなければならないという緊張で、全身の汗が止まず、心臓の鼓動も激しくなる。
暗く長い廊下には窓はなく、先が見えない不安からか、延々と続いのではないのかという気さえしてきた。
そんな廊下をしばらく進むと階段があり、窓のない土壁と合わせて、ここは地下室だということに気づく。
「どこなんだよ本当に・・・」
急な階段を足音を立てないように登り、その先にあった倉庫らしき空間を抜けると、ようやく外に出ることができた。
「やった!出れた!」
周囲を見渡すと広い日本庭園と先ほど食事をとった母屋があり、後ろを見返すと今出てきたばかりの建物は古い蔵だということに気づいた。ここは海未ちゃんの家に間違いない。
見知った場所に出られたという安心感から今までの緊張から解放され、安堵して大きく息を吐きだす。
後はこの家から出るだけだ。そうすればこっちのものだ。この家には幼いころから何度も来ているので無論構造は把握しているので外に出られる門にたどり着くことは容易い事だ。
よし、あと少しだ、そう思い、一歩踏み出そうとした。
ヒュン
空気を切るような音がしたかと思うと、次の瞬間、目の前にあった松の木に何かが突き刺さった。
矢だ。
「逃 げ ま し た ね」
建物の縁側の方から、今一番聞きたくない声がした。声音から怒りに打ち震えているということがわかる。
頭が真っ白になり、全身の血の気が引いていく。恐る恐る声が発せられた方を見ると、彼女が普段弓道で使っている弓を持って立っていた。
月明かりに照らされた彼女の瞳は怒りと狂気に満ちているということがはっきりとわかる。
そして彼女は弓を置き、ゆっくりとこちらに近づいてきた。
砂を踏みしめる足音が近づいてくる。しかし僕の体は金縛りにあったように動かない。
「う、海未ちゃん、や、やめてくれ・・・」
「あなたが逃げたりするからです」
「嫌だ、僕はあんなところで暮らしたくなんかない、嫌だ!嫌だ!」
「そうですか・・・では、こうするしかありませんね」
そう言うと彼女はポケットから取り出した小瓶に入った何かを飲み干し僕を押し倒た。
そして、強引に唇を重ねた。
「むぐぅ!」
そして、彼女の口から液体が入ってきた。唾液ではなく、ねっとりとした何かが。
そして、しばらく押し倒された状態が続いた後、彼女は体を起こした。顔は火照っており息も上がっている。
「う、海未ちゃん・・・いったい何を・・・」
「今にわかりますよ」
次第に体が熱くなっていき、頭の中もなんだか気持ちよくなっていく。
そして、目の前にいる彼女にだんだんドキドキしてきた。
「さあ、始めましょう、私たち二人だけの幸せな日々の第一歩を」
そう言って彼女はにっこりと笑った。今日一番の笑顔で。
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結局彼は家の都合で引っ越したということになりました。
表向きには。
ずいぶんと驚き、悲しんでいた穂乃果とことりの二人には悪いですが、それはしかたがないことです。
彼には園田家流の
何度か反抗したり、逃げ出そうとしましたが、その時は 厳しく 躾けて差し上げました。いくら愛すべき人と言えども、園田家の人間となるからにはしっかりとしていただかないといけませんからね。他の女に目移りするようでは困ります。
私だけを愛していればよいのですから。
「それにしても海未、今回はずいぶんと変わった歌詞を考えてきたわね。凛と希が驚いてたわよ」
「そうなのですか、真姫?」
「ええ、タイトルからして変わってるじゃないの『乙姫心で恋宮殿』だなんて」
「ちょっと趣向を変えてみただけですよ」
「そうかしら?最後に『離しません』なんてセリフも入ってるから。もしかして、何かあったの?」
「そうですね・・・しいて言えば、最近ものすごくいいことがあったので、その影響ですかね」
「良い事?」
「はい、とっても幸せなことです」
最後までお読みいただきありがとうございました。
感想、評価、文字の誤脱等の報告お待ちしております。
また、よろしければ他の作品もお読みいただけると幸いです。
それではまたどこかで。