「ついに川まで凍ったか…」
ペテルブルグはさらなる寒気に襲われるようになりだし、基地内でも改めて注意事項が周知された。金属製のものに触るときはよく確認してから触るようにだとか頭上氷柱注意などだ。
「おーい、ひかりー!こっちこっちー!」
今朝はニパに呼び出されており、約束の場所へ来てみればニパと管野の二人がソリを用意して待っていた。
「管野さん重装備ですねぇ」
「"纏"覚えてからは余裕そうだったじゃないか」
管野は分厚い生地でできた何とも動きにくそうなコートを身に着けたうえでいつものマフラーを巻いていた。ポケットに突っ込まれた手にも出撃中に使う手袋もはめられているようでガタガタ震えていることも併せて見ているだけで寒さが伝わってくる。その割に下は何もつけておらず、ももをこすり合わせている
「慣れたら寝ながらでもできるってお前言ってただろ…」
「あぁ…、寝てる間に解けてたわけですか」
「お、おう。しかも寝る前は余裕だったから薄着でな…。そのタイミングで川が凍りだすレベルの寒波が来るとはついてねぇ」
寒さに耐えることで精一杯なのかいつもの覇気が微塵も感じられない。下原さんに見られたら帰ってこれなくなりそうだ。
「ラヴァ川は12月の初めには凍り始めるんだよ?今年は暖冬かなぁ」
「どこが暖冬だ!これだからスオムス人はぁぁぁ」
「まぁまぁ、それでソリがあるってことはこれで遊ぶってことですか?」
「そ!せっかく川が凍ったんだしね」
「意味わかんねぇ…」
「お、ようやく日が昇り始めたか」
「今のペテルブルグは10時日の出の16時日没だからね。スオムスだと一日中日が昇らない極夜になったりもするよ」
日中がどんどん短くなり、それに合わせて勤務時間も変化があったりもした。実は一番影響が出ているのが下原さんで、唯一の夜戦要員であるため睡眠時間をずらしたりで食事を作る回数が減って本人も、そして何よりもジョゼのストレスがたまりにたまっていた。
なぜか扶桑式が定着しているじゃんけんの結果ニパ管野がソリに乗り、"俺"が押す。
「やばいやばいやばい」「寒い寒い寒い」
「そんなおおげさな」
"纏"を貫通してくる冷気に全身が痛い。
スオムス生まれのニパはソリの前側にいるにもかかわらず、笑顔で気持ちいーねー、などと言っている。
ソリにある程度勢いがついた時点で飛び乗り、慣性の法則で滑っていくのを楽しむ。日が出てからは氷の表面が溶け出し、さらに滑る距離が延びだした。
「お、次は私が押す番だね」
「うーし、じゃあどっちが前に座るかだ」
「絶対負けないです」
写輪眼使ってでも勝ちにかかったがさすがにずるいと言い寄られ使用を禁止されてしまった。
互いに空戦で鍛えた動体視力であいこを続けたが、振り下ろす右手ではなく後ろ手に隠した左手を出す"スイッチ必勝法"で勝利をもぎ取り管野を風よけに使うことに成功した。
「日が出たらそこまででもなくなったな」
「あそこまでムキになることなかったね」
「なんだろう…この敗北感」
ソリで滑るのもすでに何回か繰り返しておりそのたびに方向を変えていた。
「あっ」
「どうした?」
突然ニパが声を上げ、前を指さした。
「…ここら辺氷が薄い気がする」
「お前の不運に巻き込んでんじゃねー!」
「脱出!」
ここで逃げられるようならニパは不運と言われていない。三人そろって川へと落ちる。
「まぁ、今回は特に備品も壊していませんし大目に見ますか…」
(大尉感覚おかしくなってないか?)
冷えた体をサウナで温めた後、朝食の席で大尉からお叱りを受ける。
軍人が朝から遊んだあげく被服を川の水でぐしゃぐしゃにしてくるのは大目に見ていいのだろうか。
「お食事ができましたよー」
下原が朝食を持ってきた。台車に大鍋が乗せられており、そこから全員に取り分けられる。現在の下原は朝と夜のみ食事を作っており、昼は各自で用意するか用意してもらうかだ。
「あー…、下原ちゃん。なんだい?これ」
「ニョッキに似てるわねぇ。これちゃんと煮えてる?」
「ん?んー…んぅ?」
「ピエロギ…じゃないよねこれ」
「具の無いペリメニ?」
「んー…。あむっ。…んぅ?んぇー…」
「これ、すいとんか?」
「味噌も醤油もなしだと一瞬わかりませんねぇ」
「すいません。今ある食材だとこれが限界で」
今日の朝食は味の薄い汁に入ったすいとんで、欧州勢には不人気だった。これがもっと味付けが濃ければ普通においしかったように思うのだが、他に具も入っておらずただ薄いスープに練った小麦粉の塊が浮いているだけでは受けも悪いのだろう。
「現在、ムルマン港からの補給が途絶えているうえに、先日の砲撃事件で備蓄のほとんどを焼失してしまっていますから…」
朝食後、ブリーフィングを行うために会議室へと移動する。そこで、現状に関する説明がされた。
現在のペテルブルグは陸の孤島ともいえる状況にある。
近隣の港は巣が近いこともあって使用できず、少し離れたところから陸路で送ってくるしかない。その陸路も線路は防衛しきれないことから使用されず、車両を用いて輸送するしかないが非常に効率が悪く、加えて一度襲われれば一瞬でせん滅されてしまうことからある程度の護衛を張り付ける必要がありおいそれと行えるものではない。
「スオムス側からの補給は」
「要請はしていますがあちらも残る補給線は北方からの陸路のみで余裕があるわけでは無いそうです」
「補給線の奪還作戦自体は立案中ですが、今の我々はその日の食料すら…」
「しばらくはずっとあれ食べることになるのかぁ…。えっと…ちんとん?」
「すいとんな」
「現状改善策は無し、か。現状維持しかないわけだな」
結局こちらからうてる手はなく、最悪の場合一時撤退すらもあり得るとの結論を出した。
「明日は基地恒例のサトゥルヌス祭がありますが…」
「今年は中止だな」
「えぇ~!!」
「な~にがえぇ~!だ。物資も補給もないのにどうしろってんだ」
「燃料不足で暖房停止。食料補給のめど立たず。あるのは武器弾薬だけ、それも基地にある分だけで余裕があるわけでもなし」
「武器弾薬じゃ祭りは出来ねぇよ」
会議後、ニパ管野の二人と基地内を歩く。ニパが会議の最後に声を上げてしまったことを管野がいじるので乗ってみる。
ニパはサトゥルヌス祭に強い思い入れがあるらしく悔しそうだ。
「うぐぐ...わたしは諦めないよ!何もごちそうや豪華な飾りつけがなきゃ祝えないわけじゃないんだ!つつましやかでも祝えればそれでいいんだ!」
「祝わないのが嫌ってことですかね」ヒソヒソ
「あぁなるほど。なんでもいいからとにかくこの時期に祝いたいってわけか」ヒソヒソ
いろんな人に相談してみる!というニパに付き合い、基地の人間たちに声をかけに行くことにする。
「というわけなんだサーシャさん」
「うーん、確かに一理ありますね…」
最初に尋ねたのは格納庫にいた大尉。いつ見ても格納庫にいる気がする。
「確かにつつましやかでも何かを祝うという気持ちは大切かもしれません。できることはあるでしょう」
「今更だがサトゥルヌス祭に欠かせないもんてなんだ?」
「本場のサトゥルヌス祭を知らないので何とも」
そう言っていると何か思いついたようで、
「小さいころ、木彫りの人形が枕元に置いてあったことがあります。木材なら自由に使える物が十分にありますし、全員が送りあうのではなく回す形にしましょう」
「輪になって隣の人間に送るってことか。手間もかからなさそうだしいいな」
「あとは、へそくりがある人はそれを出してくるかもしれませんね」
「ガリアではブッシュ・ド・ノエルって丸太みたいな見た目のケーキを食べるんだけど…」
「探してはいるけどやっぱり無いですねぇ」
「丸太…」
「食えんのか?それ」
「あくまで見た目だから…」
祝いの場、パーティーをする以上やっぱり何か食べる物は欲しいという管野の意見で今度は厨房組に声をかけた。
下原さんは棚に頭から突っ込んで何かないか探しているがやはり何もないそうだ。
「ペテルブルグの町にまだ人がいたころなら買いに行けたのだけど」
「最寄りの町まで買い出しに…いや駄目か」
ストライカー用の燃料も節約したがっている少佐は許可しないだろう。
「いつもニパさんが採ってくるキノコは?」
ジョゼがそう言う。
「なるほど、それなら任せておいて!」
「なら、今晩中にレシピを考えておきます」
ニパが採ってくるキノコは基地の周りにある森や少し離れたとこにある公園にあったもので自生している。
出汁も取れて体も温まるキノコはまさにうってつけと言えるだろう。
「あとは、クルピンスキーさんにも聞いてみようか」
「アイツかぁ…」
「ふーん。じゃぁいい話をしてあげよう」
自室で私物だろうコーヒーを飲んでいた中尉は、サトゥルヌス祭に関して何か知恵はないかと尋ねるとまずは快く部屋に入れてくれた。
「実はこの基地ではサトゥルヌス祭の夜、銀髪の狐女が現れるんだ」
「「「狐女?」」」
「身長は151㎝、本人は19歳と言っているが実際はサバを読んでるバァさん狐で夜な夜な若いウィッチの生き血をすすりに来るんだよ…」
「う、うぇぇ。生き血を…」
「ん、んなのいるわけねぇ」
(151㎝で狐で19歳って答え言ってるようなもんでは)
「ほら!後ろに!」
「「うわあぁぁぁぁぁ」」
「え!?行くんですか、置いてかないでくださいよ!」
「あっははははは」
ダッシュで部屋を出ていく二人を追って部屋を出る。明らかに特定個人を示すような特徴ばかりで怪しくもなんともなかったはずなのだが
ウワアアアアアア>
後ろから聞こえてきた悲鳴は、きっと悪事がばれたということなのだろう。
サトゥルヌス祭当日。
格納庫で木彫りにいそしんでいるとゲートからモミの木を抱えたクルピンスキー中尉が入ってくる。
「いやー、やっと運んでこれたよォ。いっちばんでっかいのを持ってきたからねぇ、おーい!」
「おおー、いいの持ってきたね」
「こんだけ立派なの持ってくれば先生も許してくれるでしょ」
例の狐女呼ばわりの罰として木こりの真似事をやらされていたらしい。
「あぁ、そのことなんだけど」
「ん?何か聞いているのかい?」
「私の代わりにキノコをとってくるようにだって。その間に私たちはツリーの飾りつけしてるから」
「そりゃないよぉ…」
「ロスマン先生も一緒に行くってさ」
「え、それほんと?急にやる気出てきた」
そう言って中尉は中へ曹長を捜しに行った。その場に残った組はツリーを立てた状態で固定することから始めた。
「そろそろ厨房に行ってみようか。おなかすいたし」
ツリーを立て、急ごしらえの飾りで飾り立てた後、良い時間になったので昼食をとりに行くことにした。
夜に出す本番の前にスープを作ってくれるらしいと聞いた。
厨房に入るとそこには曹長と下原・ジョゼ組がいたのだが様子がおかしい。
「プックッヒヒ」「グッ、ウィヒ、ヒ」「ウッククククク」
「えっなにこれ怖い…」
「ど、どうしたの皆!?」
三人は机に突っ伏して口を押えていた。顔は真っ赤で肩は震え、時折噴き出すと手の隙間から汁が飛び出す。ホラーか何かを見せられているような気分だ。
「このキノコを料理にしたら、ブッ、ククク」
曹長がそう言って器を差し出してくる。ニパが受け取ったそれには湯気の立った濃い色のスープにキノコが入っており、においも相まってとてもおいしそうだ。
しかし、それを見るニパの顔は引きつっており信じられないものを見たような顔をしている。
「これって"ワライタケ"じゃん!なんでこんなの!?」
どうやら毒キノコの類だったらしい。器にはまだ結構な量が入っており、実際に口にしたのはそこまで多くないのかもしれない。
「クルピンスキーさんが絶対おいしいって、ぷっ、くひひひ」
「えぇー…」
(下原さんのこんな顔はレアかもしれない)
そんなことを考えていると食堂の方からクルピンスキーが入ってくる。一人だけそちらで食事していたらしい。
「ニパ君ごめん、せっかくの祭りを台無しにして。ぐっひゃっはっはっはっはっはっ!」
(うわぁ…)
前半のセリフをかっこつけて言ってた分、後半の爆笑が凄いやばい奴にしか見えなくて正直引く。ニパも顔を暗くして「これじゃ祭が…」と言っている。周囲との温度差が凄い。
どう慰めたものかと悩んでいると突然、辺りにブザーと警報が鳴り響いた。
≪中型ネウロイ1機が基地北方より接近中!≫
「こんな時にネウロイだなんて!」
格納庫まで連れ立って走る。補給の問題で哨戒に出る回数まで減らさざるを得なくなっており、ペテルブルグの防衛は監視所だよりとなっていた。
「カンノー!サーシャさん!ってこっちもかよぉ!」
「うわぁ大尉が爆笑してる」
さっきまで木彫りをしていたであろうテーブルの上には器とスープ、それに入った例のキノコ。机に突っ伏して何とか顔が見られないよう隠しているのが大尉で思いっきり背をのけぞらせているのが管野だ。
≪ニパ、雁淵聞こえているな?今出られるのはお前たちだけだ≫
「りょ、了解」「了解!」
ニパの後に続いて空に上がる。上がる直前のタイミングでネウロイの攻撃が始まり、基地周辺にビームが放たれる。
格納庫のすぐ近くにもはなたれ、ツリーに引火する。そのままツリーが吹き飛ばされて炎が格納庫をふさぐがシールドで強引に突き破る。
「くっそーよくもぉ!」
≪敵の発見が遅れたのは何らかの能力によると思われる。十分に注意しろ≫
「了解!隊長はまともで良かった」
「少佐はキノコ食べずに済んだんですね」
方向指示どうりに飛翔してすぐに目標を見つける。ニパは急上昇して上方から射撃を浴びせ、こちらは真後ろについて射撃する。
「ニパさん!コアは中央線と翼前側の付け根の交点!」
「わかった!」
ニパが加速しネウロイの前半分に火力を集中する。少しでも足を遅らせるためであり、その間にこちらも上方へ移り20㎜の火力を活かして装甲を削ると同時に弾痕でコアの位置を示す。
こちらが射撃を開始した瞬間、ネウロイは空気に溶け込むようにして姿を消す。
「カモフラージュ!?」
「こっちの射撃に危機感を覚えたからか…」
とはいえ、写輪眼にはまだ見えているので、射撃ができるのが"俺"一人になってしまったが攻撃は続けられる。
射撃を続けているとカモフラージュが無駄と悟ったのか解除して今度は火力でこちらを抑えようとしてきた。
「見えるようになった!私も攻撃するってうわぁ!詰まった!」
「このタイミングで!?」
見ればニパのMG42は弾を発射しておらず、それに気づいたネウロイがニパに火力を集中する。
「…ニパさーんそのまま引き付けておいてくれませんか」
「早く墜としてひかりー!」
返事を聞く前に飛び出し、射撃を続ける。途端、後ろからロケット弾が飛んできてネウロイの後部で炸裂した。
「え!?誰!?」
≪よォお前、コアはそこでいいんだナ?≫
こちらが返事をする前に後ろから伸びた̠火線はコアを撃ちぬきネウロイを撃墜した。振り返ってみてみるとそこには派手な真っ赤な衣装を着たウィッチが二人いて片方はニパと話していた。
「サトゥルヌスの贈り物を持ってきました」
「いい子にしてたカ~ニパ」
「イッル!どうして!?」
話を聞くに第501統合戦闘航空団所属のウィッチらしく、つまりは原作主人公の同僚ということだ。既に顔も声も忘れて久しいが久しぶりの新規原作キャラクターだ。
サトゥルヌスの贈り物というのはスオムス空軍からの補給物資らしく、ニパの古巣の人間がニパの窮乏を聞いて搔き集めたものを送り届けに来てくれたらしい。
「わぁ、ハムだ!」
「こっちにはリンゴジャムも!」
「ひかり見てこれ!」
「おおーミニチュアのツリー!」
サトゥルヌス祭用ということで用意された大量の蝋燭に火が灯され、並んだ火が作る光景は何とも幻想的だ。
「よお、イッル」
「ねーちゃん!」
下原さんの即興料理を手伝いながら声のほうを見てみれば陸戦部隊の隊長とユーティライネン少尉が話していた。苗字が同じということは姉妹なのだろう。
陸戦部隊は少佐がスオムスから引き抜いてきた部隊で、墜落の多いニパ達を戦場から回収してくることを目的としている。ニパと同郷のため会話しているとこを見たことがある。
サトゥルヌス祭は一般的な行事でもあるため各部隊が基地内のあちこちで集まって騒いでいるらしい。この場にはウィッチが集まっており陸戦ウィッチ隊もいる。
「しばらくこっちにいるのか」
「何日かダケナ」
「よしよし積もる話もあるだろう、後で聞かせろ。ニパも一緒にな」
「皆さん料理が出来ましたよー!」
「あぁ、なら運びましょう」
補給物資を使った料理は祭りにふさわしい豪勢なもので、持ち込まれた酒も相まってとても盛り上がった。普段かかわりの少ない陸戦ウィッチとの交流の機会もあり、いろいろなことを聞いた。
料理そっちのけであちこちのウィッチたちの写真を撮っていたデビーさんの提案で、最後に全員で写真を撮ることになった。
一枚は502隊員のもの、もう一枚は陸戦ウィッチたちのもの、最後の一枚は全員の入った20人近くが収まった写真となり、サトゥルヌス祭の良い記念ができた。家族や友人に送る写真にいいかもしれない。
閑話書くのに読み直さなきゃいけない資料が多くてめんどくさいです