うちの大学は上半期在宅に絞るらしいのでもしかしたらやる気が継続する可能性が微レ存。
ペテルブルグの冬は去る気配を未だ見せず、殺意を感じる冷気と雪と太陽による意地でも目をつぶしてやると言わんばかりのコンボがここを人の暮らしていい土地ではないのではないかとすら感じさせる朝。
扶桑の中でも南の方の生まれであるひかりには厳しい世界だがそれでも数か月もここで暮らしていれば嫌でも慣れてしまう。
規律の緩い502でも一応は軍隊なので起床時間は比較的早いのだが、もろもろの修行をやる時間を作りたいひかりは起床時間よりも早くに起きるようにしている。
最近の修行の中でひかりは、じぶんは円の成長が速いのではないかと思うようになった。
H×Hの原作で"円"を使用した能力者が少ないので一概には言えないが、502に来てからも範囲が広がっているのがひかりには実感できている。そもそもの原作キャラで明確な半径が出ているのはノブナガの4mとカイトの45m、微妙なのがゼノ・ゾルディックの何百mかとピトーのkm単位なのだが、ひかりの円の半径は既に7~80mを超えている。
微妙組の二人を除いて残りの二人と比較してみると、ノブナガは強化系であり明確に苦手と言っている。ひかりと数値の近いカイトとの違いを考えてみると、カイトが念を修めてどれぐらいなのかはわからないのがネックとなる。ジンがまだそこまで歳が行ってない事とゴンに出会った頃にはジンからの最終試練を受けていることを考えるとまだ10年いったか言ってないかくらいだろう。そう考えると、始めた年齢こそ違うものの念だけのキャリアでいえば実はひかりと同じくらいだったりする。
ならばなぜそんなにもひかりとカイトで差が出るのかといえばおそらく"系統"の違いではないだろうか。
カイトの系統は原作で描写されていなかったはずだが十中八九具現化系だと思われる。六性図的に近しい変化形やほかの系統ということもあるかもしれないが、ジンに師事したカイトが自分の系統から外れた能力にするということもないだろう。性格別診断的にも具現化系で神経質というのはカイトっぽくもある。原作において"系統"が"円"のような応用に影響があるという明確な描写はない。しかし、そう考えると六性図的に放出系の真逆にいるカイトが同じキャリアで半分近いというのは納得できる。
そうなってくると逆に気になるのはゼノ・ゾルディックのほうだ。龍頭戯画はあれで変化系らしいがどう見てもそこまで得意じゃないはずのオーラの放出と変化の複合能力だとしか思えない。龍星群などその最たる例のように思えるし、飛ばすのが苦手だから落とすという形にしたのかもしれない。
能力が放出も含むことからもし、変化形ながら半径三ケタmの円が使えたと仮定するなら強化系の自分の場合はどれくらい伸びるのだろうか。
ひかりがそんなことを考えながらルーチン化した修行を行っていると、日が昇り起床時間を知らせる喇叭が響き渡る。修行の時間は終わり、今日の業務が始まる。なお、念のうち基礎的なことは日常生活を送りながらでもできることが多いので、ひかりは応用や系統別、剣の修行は起床後と就寝前にしている。
本日の業務のうちには新しく受領したユニットの慣熟訓練が含まれており、ユニット交換組のうち管野・ニパ・ひかりでラドガ湖の周囲を回ってくることになっていた。
「やっぱり紫電改はいいな!零戦とは段違いだ、特にメルス並みに速いのがいい」
管野はすっかり紫電改に惚れこんだようでありとあらゆる軌道を試しては満足そうにしている。
ニパもK型の動きには慣れたようだ。本人曰くG型とは大違いらしい。零式の運動性能は紫電改にはないのだが管野的には問題ないらしい。
三人で軽く背の取り合いなどしていると、ニパが不意に動きを止めた。
「ねぇ二人とも、あっちのあれ見える?」
そう言って指さした先には、雲と地平線の間の青空に黒いシミのような影。
「ネウロイか!」
「こっちは補給線に近いからって制圧したばっかですよ!?」
そう、今いるラドガ湖東側はペトロザヴォーツクの近く、ムルマンスクからの補給線が通るということで制圧が行われたところなのだ。
「やべぇ!墜とすぞお前ら!」
「カンノ、一人で突っ込むなよ!ひかり、基地への連絡お願い!」
「了解!」
普段通り一番槍は管野でひかりとニパはそれに続く形で突っ込む。
相手はどうやら最近増えだした攻撃能力よりも防御にリソースを振ったタイプらしく、ニパの7.92㎜や管野の13㎜はおろかひかりの20㎜すらもはじく。普段なら20㎜ともなれば相手を削るくらいならできるのだがこのネウロイは全体が流線形になっており、弾を弾き飛ばしてしまう。
「ひかり!援護するからコア見に行け!」
言うが早いか管野は速度を上げて相手の比較的前部を攻撃し始める。それを受けてニパが右翼に回ったのを見たひかりは下から回り込む。後ろからまっすぐ中心線をなぞって行き半分を超えたところでコアを感知する。
「管野さん!この先8m前後、ほぼ中央です!」
「ッシャア、よくやった!あとは俺の仕事だ!」
このネウロイには銃が効かず、加えてフリーガーハマー持ちもいない以上、この場において有効的な攻撃は管野の固有魔法のみ。
相手の側面をかすめるようにして急上昇した管野は身をひるがえして急降下、そのままネウロイの中へと突っ込んでいった。
ひかりはというと下手に撃って管野に当てるわけにはいかないので、管野が投げ捨てた99式改をキャッチしてニパと合流していた。
しばらくするとネウロイは前触れもなく砕けて散り、中からは管野が飛び出してくる
「どぉーだ!紫電改を履いた俺に敵はいねえぜ!あっ、と、うぉ、おお、わぁ!」
管野が振り返って決め台詞をきめたと同時にストライカーからは黒煙が噴き出し、そのまま体勢を大きく崩す。そしてそのまま、
「マ、マジかよ!うわああああぁぁぁぁ」
「カ、カンノォー!?」「管野さーん!?」
頭からオネガ湖へと突っ込み盛大な水柱をあげた。
落ちた管野はニパが背負い、ストライカーはこっちで担ぐ形で基地へと帰投した。管野の墜落は連絡してあったため、格納庫に戻ってすぐに大尉が駆け込んできて管野に正座を言い渡す。
「管野さんも中尉になったのですからもっとユニットを大切に扱ってください!」
実はユニットの受領時に辞令を受け取っていた管野は昇進して中尉になっていたりする。その一方でひかりはというと、任官したてな上に扶桑側の書類上では後方基地であるカウハバ基地の非戦闘要員勤務扱いだったりするのでそういう話は一切なかったりする。
「今日はニパさんストライカーも銃も壊れてませんね!」
「うんうんそーなんだよ!これは今日の私はかなりラッキーかもね!」
られる菅野を後目にひかりとニパはヒソヒソと声を伏せて会話する。
じゃあなんで紫電改がひかりの分もあったのかと疑問に思うかもしれないが、北欧方面配備の扶桑ウィッチの補給一元化のためにとスオムスのカウハバ基地の部隊の名前で(勝手に)ラルが強請ったからだ。
「ひかりさん!」
「うぇ?!、はい?!」
突然話を振られたひかりが思わずどもる。口に手を翳して中腰で話し合っていた姿勢から一変、背筋を伸ばして顎を上げて目線は上に。ニパも隣で同様にしている。
「あなたはこの人たちみたいなブレイクウィッチーズになってはいけませんよ。既に一機やらかしてるんですから」
「あっははは…。気を付けまーす…」
輸送船護衛の際に海に落ちた紫電改はエンジンをさっそく予備のものと交換する羽目となってしまった。まだブレイクウィッチーズの三人のように頻繁に壊すようなことはしていないが新型を速攻で落としたことからひかりも警戒されているらしい。
突然槍玉に挙げられたニパが思わず反論したり、管野は戦果上げてるんだからブレイク上等と言ったりで反省の色が見えないと感じた大尉が二人にキレたり、整備の人がうっとおしいなぁという目で見てきたりでその場に居づらくなったひかりは、一言お疲れさまでしたとだけ言って逃げるようにその場を離れた。
その日の夜。
消灯後に部屋を抜け出したひかりは格納庫へと行く。ここ最近は寝つきが悪く、こうして抜け出しては体を動かしてから床に就くようにしていた。もっぱら校長謹製ぶっとい鉄心入り木刀を使った"練りモドキ"、つまりは剣を振っている。そうなるとある程度広い空間が必要となるため、ひかりは格納庫を選んだのだ。
今日も同じように剣を振るつもりでいると格納庫についたところで後ろから声をかけられた。
「何してんだお前」
「ひゃあ!管野さん!?脅かさないでくださいよ…」
「お、おお、悪いな」
月明かりが差し込む以外で明かりの無い格納庫で後ろから声をかけられれば驚かないはずがない。一方で管野もド深夜に見るからに異様に太くて重たそうな木刀を片手で握りしめて出歩く姿に若干引いていた。
「で、なにしてたんだ」
「その、寝付けなかったんで、少し体を動かそうかなと…。そういう管野さんは?」
「あぁ、俺も寝付けねぇんだ。足のしびれが引かなくてな…」
「今日は長かったですものね!」
管野が格納庫の隅にある椅子に腰かけたので、ひかりは机をはさんだ反対側にある椅子に座る。しばらく互いに無言の時間が続くも、管野の方から口を開いた。
「なぁ、孝美のこと何か連絡あったか?」
ためらいがちに口を開いて聞いてきたのはここへ来る前に墜とされたひかりの姉、孝美のことだった。
「ムルマンスクで恩師に電話した時に、少し。容体は落ち着いてるし傷はもうふさがったそうなんですけど、まだ目は覚めてないそうです」
扶桑でも有数のエースウィッチである孝美の撃墜と本国送還、入院は騒ぎになったらしく、特に地元である佐世保ではそれが大きかったらしい。そのこともあって入院先には離れたところにある舞鶴が選ばれたらしい。
「そうか……。なに、心配すんな。孝美はそう簡単にくたばるわけがねぇ、あいつはすごいんだ」
無事に扶桑で入院できたと聞いて管野としても人心地ついたのか、表情がすこし柔らかくなる。
「アイツはとんでもなくつえーからな。呉の海軍学校で一目見た時から、俺の相棒はコイツしかいねぇと思ったもんだぜ」
"管野の相棒"
それは原作のひかりにとっても重要なキーワードであった。身近な先輩ウィッチで熟練のエース。原作ひかりのその言葉への執着心ははたして姉への対抗心もあってのことだったのだろうか。
なら、同じようにその言葉へと惹かれたひかり自身の理由はなんなのだろうか。
「管野さん、管野さんの相棒って私じゃいけませんか?」
「はぁ?おめぇが?」
ひかりの思い、それは強くなりたいという思いだった。
ウィッチになることを決めた理由こそ原作ひかりとは違うものの、それでもこの思いは同じであり、それは管野もまた同じだ。そのことを知ってからは、一緒に強くなれればと同じ空を飛んでそう思った。
ただ一人がむしゃらに、修行するのは大変だった。
佐世保の山で一人、一日中成果が出るともしれない念の修行に打ち込むのはつらくひかりも幾度となく思い悩んだ。
だが二人でならば、身近な目標でもあったといえる管野の隣に並び立てるようになれば、前より確実に強くなったと言えるだろう。そのまま二人で強くなれれば、原作よりも強くなったウィッチ二人でならより確実により良い未来が迎えられるんじゃなかろうか?念能力がある以上決して妄想どまりの話じゃない。ひかりの頭の中ではそんな内容がグルグルとめぐっていた。
「まぁ、百年はえぇだろお前じゃ」
「それなりには飛べます!魔眼もあります!」
管野の反応は芳しくないものだったが、それでもひかりは食い下がる。
「だめだだめだ。まだよえぇ、なりたきゃ孝美みたいに強くなけりゃな」
管野の中で理想は孝美で固定されてしまっているようだった。
それでもひかりは食い下がる。
管野と二人でならもっと強くなれると信じて。
「なら、強くなって見せます。姉よりも管野さんよりも!」
「は、おめぇなんぞに負けてたまるか。俺だって強くなる。もっと、もっとな!今のままじゃクルピンスキーとかのがもっとつええ。だがいつか、俺は強くなってネウロイの奴らを全滅させてやるんだ一分一秒でも早くな!」
「じゃぁ、私も一緒に全滅させます!一緒に強くなって!」
「…まぁ、強くなったら考えてやるよ」
そう言って管野は立ち上がり、ゆっくりとした足取りで自分の部屋へと戻っていった。
502に軍司令部から新たな任務が下った。
オネガ湖北東部にグリゴーリから大型の飛行型ネウロイが出現し補給線を脅かしている。目標はペトロザヴォーツクへと向かっているらしく早急な対処が求められるらしい。
出撃に当たったのはウィッチは7機。クルピンスキーは未だ退院できず、ラルは動けない。
最初にネウロイを察知したのは遠隔視の魔眼を持つ下原だった。
「ネウロイ確認!まだ動きはありません!」
下原からの報告を聞いてからしばらくして、他の面子の視界にも入る。
いわゆる大型に分類される大きさだが、一目見て全員が警戒を強める。このあたりのネウロイの多くはそこまで複雑な形をしていないものが多い。対してこいつは四方八方に体が伸びており、こういう形状が特殊なネウロイは何か隠し玉を持っていがちだからだ。
「管野一番突撃する!」
下手に散開すれば互いが互いの邪魔となりかねない。全機一斉に密集体系で突撃する。その中で管野だけが突出して前に出ている。サーシャが離れないようにと声をかけるが無視して前に出続けている。
幾分距離を詰めた段階で相手のネウロイはゆっくりとひかり達の方へと向きを変え、正対した瞬間、濃密な弾幕を浴びせかけてきた。
通常のものよりも強力な光線が視界を埋め尽くし何も見えなくなる。部隊の多くはその場で足を止めて防御に徹さざるをえなくなり、魔力量の関係でシールドに不安のあったひかりとロスマンだけが咄嗟に高度を下げて雲に紛れる選択をしたことでそれを回避する。
途切れることなくぶちまけられる光線に防御を選択した面々はその場から動くこともできなくなり、打開策を打てるのは弾幕から逃れることのできたひかりたち二人だけだった。
「この攻撃パターンは…、もしかしたら!」
冷静に敵の観察に集中していた曹長はそうつぶやくと高度を上げ、部隊とは別の方角からロケット弾での攻撃を始める。
三発放たれたうちの二発がカーブを描きながら敵の側面をすり抜け、背面を吹き飛ばす。大きく砕けた装甲の中からはコアがのぞいていた。
「やっぱりこの攻撃パターンはコアを守るためのモノだったのね」
「さっすがロスマン先生!」
この中で最も長いキャリアを持つロスマンは扶桑海事変よりもさらに前、ヒスパニアにネウロイが現れたころから戦い続けているベテランだ。その中で培われた観察眼がコアの位置を見抜かせたと言える。
「なるほど、管野さん!」
「おう!」
コアがむき出しになったことで敵が動きを止めている隙をついて管野とサーシャが飛び出し、一気に距離を詰める。前に出た管野をサーシャがフォローする形だ。
ネウロイの方もすぐに再起動し、弾幕でけん制。初見ではないため、2機は光線の雨の中をすり抜けて近づき続けるが、逆に反応が遅れたニパ達3人がそれに捕らわれ、シールドを張ったまま動けなくなる。
そして、ひかり達もまた、身動きが取れなくなっていた。突撃した二人とネウロイの距離が近すぎて火器を使った援護ができないでいるのだ。
突然、ネウロイの攻撃がやむ。かと思えばまた、パネルから光線を打ち出す。ただし、攻撃組の接近が看過できない距離になったのか、また新たな攻撃パターンをとり始めた。自分の前方に光線を収束させ、さらに巨大かつ弾速の速い光線を撃ちだしたのだ。
管野はそれに反応しきれず、ギリギリのところでシールドが間に合ったものの弾き飛ばされてしまい、そこに次弾が迫る。
これはまずいと飛び出すが間に合うはずもなく、誰かが墜とされる。墜とされたのは管野をかばったサーシャで、地表に落ちる前に下に滑り込むことに成功したロスマンが受け止める。
「大尉!」「サーシャ!サーシャ!」
頭からの出血がぼたぼたと垂れ、うめき声をあげる。その姿を見た管野がひどく取り乱す様子を見せる。
「撤退します!ニパさんが先導、下原・ジョゼ組が後ろです!」
サーシャが指揮をとれる状態にないと判断したロスマンが全体に指示を出し、それを聞いて動き出したニパの後ろにつくようにして徐々に高度を上げる。
事実上、補給路を再び諦めることとなってしまった。
ペテルブルグに戻った部隊はサーシャを軍病院へと搬送した。道中、敵との距離が開いてからはジョゼの治癒魔法で応急処置を行いつつだったものの、意識は戻らないまま、入院という形となった。
部隊内の空気は沈み、食堂での食事は皆口数も少なく食器の立てる音だけが響いていた。
「管野さん?」
その中で管野は食事に手をつけることなくうなだれていた。
自分が無茶をしたせいでサーシャが墜とされたのだと気に病んでいるようで、ニパが慰めるもさらに気が沈むだけのようだった。
空気が変わりはしないと考えたのか、ラルが明日に再度の攻略作戦を行うことを告げ、その場は解散となった。
食後、管野の様子が気になったひかりが基地内を捜して回ると、サーシャの病室にいるところを見つけた。声をかけると、顔を下に向けたままつぶやくように返事を返した。
「ひかりか……。……なんだ」
「……いえ、休むよう言われていたので」
すると、管野が反応を返すよりも前にベッドに横たわっていたサーシャが目を覚まし、口を開いた。管野が無事だったことに安堵したようだったが、対する管野は自分をかばったせいだと悔やむ。サーシャは自分のカバーが甘かったせいだという姿勢を崩さず、管野には突っ込むことこそが持ち味なのだと言い、最後にあのネウロイを必ず墜とすようにと言った。
「ああ、必ず俺が墜としてやるぜ!」
「ひかりさんもお願いね」
「はい!」
その後はサーシャが目覚めたことを看護師に伝えた二人は、宿舎に戻る。
「でしゃばんなよ」
それぞれの部屋へと別れる前にひかりは管野にそう、声をかけられる。
「管野さんこそまた向う見ずに突っ込んだりしないでくださいね!」
「んの…!少しでも遅れるようなら置いていくからな!」
「絶対ついていきますよ!相棒ですからね!」
まだ認めてねぇ!などという声を聴きながらひかりは自分の部屋へ入る。まだ、ということは目があるということなのかと思いながら。
翌日の管野は朝から士気旺盛といった感じで走り込みには気合が入り作戦ブリーフィングでもいつも以上に真剣な表情だった。
ブリーフィングにおいて、地上班からの観測では敵の火力は前方への火力の集中砲火に特化しておりそれ以外の角度は口ほどにもないとのことだった。そのため部隊を二つに分け、おとり役のロスマン班と攻撃役の管野班に分かれて作戦を行うこととなった。管野班にはひかりとニパが下につく。現地での作戦指揮はロスマンが執ることとなった。
出撃してから発見はすぐだった。
下原が敵を発見した時点で二手に分かれ、攻撃班は低高度から進攻する。囮班は右から迂回する形でひきつけ、攻撃班が背面へ突撃しやすくする。
「ほんとに全然撃ってこない!」
「コアの位置もわかってるしこれならいけるね!」
急上昇し側面につくと同時に3機で火力を集中する。装甲が剥がれ落ち、このまま攻撃を継続しようというところで、
「な、なに!」
「分離ですって!?」
攻撃を担当していた前半分とコアのある後ろ半分に分かれ、さらに前部は5つの部分へと分かれ多方向から囮班に対して猛攻を仕掛ける。
「落ち着け、コアをつぶしゃあいいだけだ!」
「でもカンノあれ!」
「へ、変形してこっちも攻撃側に…!」
後半部分の形が変わり、今まで火力を担当していた前半部分と同じ形になったかと思えばひかり達にも猛烈な弾幕を浴びせかけてきた。ネウロイはそのまま東へ向けて動き出し、巣のあるであろう方向へと逃げ出した。
「コアだ!コアを見つける!ひかりィ!」
「はい!」
管野の指示で三機一塊になって突っ込む。距離が近づくにつれ弾幕は濃くなり回避が間に合わず、やむなくシールドではじくことも出てくる。魔力をストライカーに回しがちでシールドが弱いひかりにはつらい状況だ。
「お、おい、ひかり…」「カンノ!危ない!」
一度に距離を縮めすぎたのかネウロイは突然攻撃パターンを切り替え、サーシャを撃墜した収束光線を放ってきた。またも管野は反応が遅れ、ニパがカバーに入る。幸い、逃げの態勢から放たれた光線の威力は落ちており、防御に定評があるニパは難なく防ぎ切り、振り返って管野に注意を促すがなぜか管野はその場から動こうとしない。
「おいどうしたカンノ!」「足止めてる余裕はありませんよ!?」
「お、俺には無理だ。作戦は中止にする」
そういった管野の体は震え、顔はこわばっていた。こちらを見る目も弱弱しく思える。
「どうしちゃったんだよカンノ!」
「俺じゃお前らを守れねぇ…、クルピンスキーやサーシャみたいに強くねぇから…」
その情けない姿を見たひかりは、激情を覚えた。
「……じゃあ!私とニパさんだけで行きます。管野さんはそこで縮こまっててください」
ひかりがそう言うと管野は顔を上げるが、それでも何も言わない。
「あのネウロイを倒すんだってあんなに言ってたのに。強くなるんだって言ってたのに」
「いいです。私だけ強くなりますから、ニパさんとコンビを組んだ方がもっと強くなれるかもしれないですし」
「弱い人にお姉ちゃんの相棒は務まんないでしょうし!ここでビビるような奴がこの先生き残れるとも思いませんから!」
矢継ぎ早にまくしたてられるが、管野は顔をゆがめこそすれ反論すらしてこない。
ひかりは、一緒に強くなりたいと思った相手の縮み上がった姿を見ていたくなくなり、逃げるように背を向け、敵ネウロイへと向かう。
「おい、ひかり!あぁ、クソッ!」
悪態をつきながらも二パが追い付いてきた。何も言わず、加速しながらロッテを組む。
「なんであんな厳しく言ったんだよ」
横についたニパに声をかけられるひかりだったが、感情のままにぶちまけただけなのでうまく言葉にできなかった。腑抜けた姿が嫌だった、そんなところだろうか。
「お姉ちゃんの相棒になるって言ってたのに、強くなるって言ってたのに、なのにあの様。思わずカチンときた、そんなところです」
「カンノだって中尉で分隊長で命を預かる立場なんだ。それはわかってあげなよ……」
「……」
ひかりはニパのその言葉に答えることなく、そのままやがて敵の射程ギリギリまで接近する。
「作戦はあるの?」
「ニパさんを盾に突っ込んで、魔眼の射程まで入って、それで斬る!」
「嘘でしょぉ……カンノ並みの脳筋じゃん・・…」
ならば代案があるのかとひかりが問えば渋い顔をして無い、とニパは言う。雨あられと降り注ぐ光線を避けるのは慣れたもので、ある程度まで距離を詰めるのは決して不可能ではなかった。
問題は、
「ひかり、またあれだ!しかもでかいのが来る!」
すべての光線を束ねてはなってくる収束光線であり、これの対処方法が確立できていなかった。先ほどニパがはじいたものはサーシャを墜とした物よりもずっと格下だったが、今放たれようとしているこれは強力なほうだ。
強力な物もニパが防げると信じて任せるか、あるいは501のもっさんよろしく両断しにかかるか、理想は回避だが接近する以上いつかはあれに相対することになるのに変わりはない。
これ以上悩んでいては何もできず手遅れになる。そう考えたひかりは、いた仕方なく対処法は後回しに回避を選択しようと口を開いた時、ひかり達を追い越して正面から光線にぶつかっていく影を見た。
「うおぉぉぉぉりやぁぁぁぁ!」
それは固有魔法を拳に纏った菅野であり、わずかな拮抗ののち徐々に押し返していき最後にはそれを突き破った。
「管野さん!?」
振り返った管野はこちらに近づくとそのままひかりに拳骨を落とす。戦闘中も常に"纏"をしている以上ひかりからすれば大して痛くもないが、それでも管野は満足そうな顔をした。
「散っ々、ふざけたこと抜かしやがってくれたなコノヤロウ。そこまでデカい口叩いたんだ。ぜってー死ぬなよ!」
そう言った彼女は自信に満ちた笑みを浮かべており、いつもの頼れる管野の姿だった。ひかりはそのことが無性にうれしくなり思わず口角が吊り上がる。
「菅野さんこそまたビビって動けなくなっても今度は誰も助けてあげられませんからね!」
「はっ、言ってろ!じゃぁ行くぜ!俺の後ろにピッタリ付いてろ!」
陣形を管野、ひかり、ニパへと組み直し、再度突っ込む。魔眼の射程に入るまでは管野が光線を防ぎ、ニパが相手の光線パネルを射撃でつぶして圧力を減らす。
「くるよカンノ!」
「おぉっしゃぁぁ!」
再び固有魔法でぶつかり、突き破る。紫電改の性能もあって一度抜ければもう射程内だった。
「!、あそこです!」
位置を示すべく、ひかりは20㎜でコアを覆う部分の装甲を砕く。しかし、相手は最後のあがきと言わんばかりに分離し、残りのパーツでコアをかばいつつコアを持つ本体だけが逃げようとする。
「へっ、コアの場所がわかればこっちのもんだぁ!」
管野はコアへと向けて一直線に加速し、その右手に固有魔法を展開する。
ニパの援護で障害となるパーツが一つ砕ける。残るパーツの間をすり抜けた後、コアのある本体の前へとたどり着く。
「見てろひかりィ!これが本邦初公開のぉぉ!」
そう言って管野は固有魔法を纏わせた右腕を引き絞り、それを思いっきり突き出した。
「紫電ッ、一閃!」
声があたりに響くと同時にネウロイが空間ごと歪んで見えたかと思えば、次の瞬間にはコアを持った本体が半分消し飛んでおり、遅れて爆音が大気を揺らす。
「な、なに!?」
「まさか!?」
どうだと言わんばかりの顔をしている管野へと詰め寄り問う。
「"発"を作ったんですか!?」
「おうよ。どんなもんだ」
さながら、普段の剣一閃を複数束ねて一度にはなったかのような威力であったとひかりは思う。同時に、いったいどうしたらそんな威力が出せるのだろうかとも思う。"発"とはいっても無尽蔵に力が湧き出るわけではないのだから。
「あの威力はなんですか!?」
「溜めてたんだよ、何日分か。ただ剣一閃を飛ばすだけじゃそこまで意味がねぇ。だからあらかじめ溜めといた魔力を何回かに分けてぶっ放してんだ」
ひかりが聞くと管野がネタをばらしてくれる。何日もかければ今程度のものなら3回分は溜めれるのだそうだ。説明だけ聞いていると某アルター能力のようだとかひかりは思った。
話を聞いているとニパが近づいてきた。
「やったねカンノ!でもいきなり実戦で使う必要あった?」
どうやらニパは管野の"発"の修行に付き合っていたらしく、二人で試行錯誤した結果が事前に魔力を貯めておくことだったらしい。放出系の系統別修行は以前から伝えられていたため、魔力を溜めるという感覚を掴むのに時間がかかったそうだが去年のうちから既に手を付けていたらしい。
「言ってくれてもよかったのに!」
「私もそう言ったんだけどカンノがさぁ」
「あーうるせぇうるせぇ!」
『『『バスンッ』』』
「「「えっ」」」
「三人ともそこに正座ぁ!」
囮組の三人につるされるようにして基地へとストライカーを壊した3人が基地へと戻ると、格納庫には頭に包帯を巻いたサーシャが目の笑っていない笑顔で待ち構えていた。
管野が聞けば、これで紫電改の撃墜は2回目、管野機も複数回の撃墜を経験しており、早くも予備部品に不安を覚えるのだという。
「いやぁ、これでひかり君も立派に502の、ブレイクウィッチーズの仲間入りだねぇ」
「ほんとですか?いやぁ、私もついに仲間入りかぁ~」
未だ松葉杖をつきながらだが、基地へと戻ってきていたクルピンスキーも茶化すように言い、ひかりも同じく茶化すようにそれに返す。
「なにちょっとうれしそうにしてるんですか!?クルピンスキーさんもそこに正座ぁ!」
「えぇっ、僕足折れてるんだけどぉ!?」
騒ぐ二人を横目に管野の方へにじり寄る。
「管野さん管野さん」
「あんだよ」
「これで、相棒だって認めてくれますか?」
「はぁ?!こんなんじゃまだまだ認めるわけにはいかねぇな!」
「でもでも、今回かなりいい感じだったじゃないですか!特訓したら絶対もっと強くなれますよ!私たち相性いいですって!」
「むむむ……仮、ってことなら認めてやる。ただし、少しでも情けねぇ真似したらそっこークビだかんな!」
「いぃやったぁー!」
「ちょっとそこの二人!」
同日、扶桑・舞鶴の海軍病院
「ここは…」
「舞鶴のウィッチ病院です。雁淵中尉、北極海で大けがして三か月以上眠っていたんですよ」
「三、か月…!」
舞鶴の海軍病院で目を覚ました孝美は、そこで治療を担当していたウィッチから長い時間が経過していたことを告げられていた。彼女の最後の記憶はネウロイとの戦いであり、その前は妹とのことだった。目が覚めて開口一番妹のことを訪ねたが知らないと言われてしまう。
「あの、中尉」
愕然とする孝美にためらいがちに話しかけたのはウィッチと共に治療にあたっていた看護師で彼女はベットわきの棚からいくつかの雑誌を取り出し、孝美に手渡した。
「中尉のご家族が以前来られた際に置いていかれた物なのですが、ここに…」
そういって彼女が指し示したページには欧州の統合戦闘航空団についての記事。502について書かれたそこには新たに加わったウィッチとの題と妹の写真。
「そんな、なんで。だって、あの子は後方のカウハバにって」
強いショックを受け、愕然とした表情で思わず雑誌を取り落とす。しばらく目を見開き固まっていたが、ふと気が付いたように動き出したかと思えば、つかみかからんばかりの勢いで二人に詰め寄る。
「ちゅ、中尉?」
「すぐに行かないと!」
「中尉は3か月も眠っていたのですよ!?回復には一月以上…」
「そんなに、待ってられないわ!」
「すぐに行くわひかり…。だからお願い、無事でいて…!」
「管野さん管野さん特訓しましょうよー。特訓ー」
「なにやんだよ連携だったら普段の訓練で十分じゃねぇか?」
「念能力を交えてやりたいんですよー。一月もあったらちょっとした形程度にはなると思うんで」
「新しいのを作ろうってことか?どんなのつくんだ?」
「へっへっへ…これがあったら私たちのコンビはもっと強くなりますよ…!」