実はまだ誤字脱字とか言い回しとかチェックしてないので後日やります。ゆるして
「ひかり、パス!」
「パスて」
ラドガ湖北方、その上空にて。
監視哨からの通報を受け、502は襲来した大型航空ネウロイの迎撃に上がった。近頃のネウロイは以前までの活発な動きが減り、空戦の機会も幾分減った。これも数日振りの出撃で、以前までの日に数回の交戦ということはなくなった。
今回の敵も特徴のない航空型で弾幕で相手を近づけないようにするタイプだった。セオリー通り、距離をとっての射ちあいから始めた。大型であるため通用する火力が限られる上、コアの捜索範囲が広いことからこのまま攻めるのではなく、コアを見つけることを優先するように指示された。
少佐を中心とした集団が敵上方から徐々に圧力を強めて相手の気を惹き、その隙にブレイクウィッチーズで下方から距離を詰める。薄くではあるが雲が出ていることからそれに紛れ、接近する。敵火力の多くが少佐たちのチームへと集中しているが、下方にも砲台パネルはあり、近づいて気付かれればそこから攻撃を受けることになる。そこで、途中から更にチームを分割し、突入の援護としてニパ・伯爵組が突入方向にある相手の砲台パネルをつぶしてもらう。
エンジン全開で急上昇。4機の一斉射で相手の一点を制圧することで弾幕に穴が開くようにする。前側に突入組、その後ろに援護組の順で進む。突入組はシールドを頼りに前へと進むことに集中し、援護組はその陰から進行方向に近いパネルから潰していく。
途中、援護組が離れることで相手の火力をさらに分散させる。
そうして相手の抵抗が貧弱になったタイミングで管野の陰に隠れながら突破することで、ようやく"円"の範囲に相手を捉える。"円"が触れると同時に"写輪眼"がコアを捉える。相手の体が透け、その中に一点の光る場所。俺の眼がそれを認識すると同時にそれは相棒の管野にも伝わった。
「いっくぜぇぇぇぇ!」
機関銃をこちらにぶん投げて渡した管野は、コアに向かって真っすぐ突っ込んでいく。その右手は見てわかるほどにピッカピカに光輝いていてどれだけの魔力が込められているのか。
その拳がネウロイに触れたかと思えば、管野の勢いは止まることなく掘り進むように相手の中へと潜っていく。管野の姿が見えなくなった次の瞬間、ネウロイの動きが止まったかと思えばその内側から破裂するように砕け、辺りにはガラスのようになった破片が舞った。
「カンノー、ひかりー、お疲れー」
「いやー、さすがの威力だ」
ネウロイのコアを殴り砕いてそのまま飛び出してきた管野を見つけ、合流しようとしたところで援護組も追い付いてきた。特に怪我などはしていないようで、今のところはニパも特に不運は起きていないらしい。
「へっ、今月のスコアは俺が一番だな」
「大型は共同撃墜で私らにも半機分入るんでまだそこまで差はないですよ?」
「最近は数で攻めてくることがないからスコアがいまいち伸びないんだよねぇ」
「全機に告ぐ!直ちに基地へ帰投しろ!」
突然、少佐がそう言ったかと思えば、他の隊員たちも基地へ向けて移動し始めた。慌てて話を打ち切り、その後ろについて飛ぶ。近くにはいつの間にか3発の輸送機がぴったりとついて飛んでいた。
「マンシュタイン元帥に敬礼!」
基地へと戻ると着替えもそこそこにすぐにブリーフィングルームへと集められた。自分の席についてすぐ、入ってきたのはカールスラントの陸軍元帥だった。
「本日はどういったご用件で」
「うむ、以前から一部の者には内々に話していたペテルブルグ軍集団によるグリゴーリ攻略作戦である"フレイヤ作戦"についてだ」
北方方面軍はもともとヨーロッパ本土から北欧へと侵攻してくるネウロイに対する防波堤であると同時に、いずれ来る反攻作戦における一翼を担うという存在だった。しかし、反抗作戦が何時になるかわからないという状況で補給路の貧弱な北欧に大戦力をとどめておくことはできないため、その規模は守りに徹するには十分といったものでしかなかった。
ところが、グリゴーリの出現により補給路がほぼ完全に寸断され、このままでは北方戦線そのものを放棄しなくてはならない段階にまで来てしまった。よって、大陸反攻以前に北方を維持するために戦力の再編と集結が行われ、グリゴーリを撃破のための部隊”ペテルブルグ軍集団”が編成されたらしい。
今回のマンシュタイン来訪の要件は、この作戦への502への参加要請とのことらしい。要請ってことは拒否権でもあるのだろうか?20歳にもなってない小娘の集団といっても軍属なのでは?
「その作戦ですが、501がガリアを開放した例に倣う物なのですか?だとすればあまりに危険すぎるかと思われますが」
「ムッ……、ウィッチは耳も早いな。安心したまえ、ネウロイのテクノロジーは人の手には余るものだ」
少佐の言うネウロイの巣の破壊事例とは原作一期主人公様達501が半年ほど前にドーバー海峡でやったときのものだ。あまりに危険というのはその方法が"ネウロイのコアを流用した兵器が案の定暴走したから、撃墜したところ、倒しきれてなくて味方の空母を沈めたあげくその空母に取り付いて再生したので、撃破したら何故か海の向こうの巣が消滅した"という、報告書を上げられた上層部としても"は?"の一言しか出ないようなわけのわからない事例だったためだ。
やろうと思っても再現できないでしょこれ。途中途中の関係が意味不明すぎる。
当然連合軍としても巣の破壊は正攻法で行うつもりらしく、ペテルブルグ軍集団他連合軍の勢力でネウロイ相手にドンパチ派手にやってネウロイの戦力を減らしたのち無防備になった巣を80㎝列車砲の直射でぶち抜くつもりらしい。
力技もいいところだが確実性は高いらしい。まるでどこぞのエロゲのハイブ攻略戦みたいだ。そして、列車砲という巨大な的をグリゴーリの近くまで護衛するのに腕っこきのウィッチが必要というわけだ。そういえばムルマンに紫電改を取りに行ったときでっかい砲身を見たような覚えがある。
「なお、グリゴーリに対する列車砲での直射を行うにあたってコア発見の役割を担う魔眼持ちのウィッチもすでに選定済みである」
「んな!?」
「それって!?」
この場の魔眼持ちといえば俺しかいない。502の隊員たちからすれば巣の攻略という一大作戦における重要な役割を新米に任せようとしていると思うかもしれない。
けれど、この先を知っている身には別の意味がある。"ノート"に書き記しておいた原作知識にははっきり誰が来るのかが書かれていた。
「あの、担当するウィッチというのは誰なのでしょうか!」
「あぁ、雁淵軍曹だったか?無論、今作戦における大役故その役を担うものもそれ相応の者が選定された。……まだ少し早いが、もう間もなく見えてくるだろう。ムルマンはどっちだね?」
「左手側の窓ですが……」
元帥が左手側の窓を気にしだすと他の隊員たちもそちらを向く。ところどころに雲のある青い空に、白く輝く物体が一筋の線を描きながらこちらへと向かって伸びてきているのが見えた。
「ああ、あれだな。うむ……、ちょうど時間通りといえよう。少佐、私はこれで失礼する」
「はっ」
後ろでは元帥が部屋を出ていくところだったが、そちらを見ているのは少佐だけだ。元帥が退室したことで規律が緩んだというのか、ウィッチ達は走り寄るようにして窓際へ集まった。
しばらくの間まっすぐに伸びていた一筋の線はやがて降下したかと思えば、勢いそのままにブリーフィングルームのある塔をかすめるようにして今度は急上昇していった。
「今のウィッチだよね?」
「でも一体……?」
「管野さん!」
「ひかっ、グエッ」
窓際に寄った隊員たちが口々に過ぎ去っていったウィッチの後を追うように視線を左右に振っていた。
そんな中で俺は即座に横にいた管野を担ぎ上げ、オーラで足を強化して走り出した。
「あっ、あの、時代遅れのクソでか対戦車銃は!」
「おい、ひかり、やめ、グエ、降ろせェ!」
基地からネヴァ川の方へと延びるウィッチ用の単距離滑走路。肩から聞こえるうめき声を無視しながら追いすがれば、先導するかのように飛んでいたそのウィッチは徐々に速度を落とし、こちらへ背を向けるようにしてその先端へと降り立った。
純白の第二種軍装にほとんど身長と同じ長さの対戦車銃を担いだ彼女は紛れもなく、あの日北極海で墜ちた姉・孝美だった。
振り返ってこちらを見た姉は病み上がりのようなそぶりを一切見せない墜ちる前の彼女そのままだった。
あと、管野は振り返る前に落とした。
「……け、怪我はもう大丈夫なの?」
これまで、あまり自分から進んで話かけに行くことがなかったため、どこか気恥ずかしく感じてしまう。つい、どう話しかけたらいいかわからなくなってしまい声が固くなってしまった。
対して声をかけた姉の表情は真顔、というかどこか冷たいものを感じさせるものだった。
「ひかり」
「どうしてあなたがここに居るの」
「、えっ…?」
姉が口を開いて最初に出た言葉はこちらを責めるような言葉だった。目つきは険しくなり、苛立ちを感じさせる。記憶の中にある姉の姿からの豹変ぶりに、思わず息を漏らすことでしか反応できなかった。
「あなたの任地はカウハバだったはず。……ひかり、ここは貴女の居ていい場所じゃない。今すぐ荷物をまとめてカウハバへ行きなさい。これは正式な辞令です」
こちらが反応できないでいるうちに、畳みかけるようにしてそう姉は言った。思わず凍り付いたこちらをしり目に、ストライカーのエンジンを少し吹かした姉はそのまま横を通り過ぎていこうとした。
「お、おい。孝美!」
ここまで空気を読んでか何も反応がなかった菅野が起き上がって声をかけた。無視されていたのか、それとも姿勢が低かったので見えていなかったのか姉も管野には何も言及していなかった。
「あら、管野さん。お久しぶりですね」
「あぁ、お前も元気そうだな。って、ひかりが移動ってどういうこったよ!?」
声をかけられて気づいた、といった風に顔を向けて返事する。管野も元気そうだという言葉もそこそこに移動について確かめるように声を上げる。
「どうもこうも、もともとカウハバに配属されるはずだったのがなぜか北方司令部についた時点で指令が変更され、しかもそれが大本営に届いていなかったんです。それが正されるというだけです」
そう言い切った姉はもう言うことはないとばかりにこちらへ背を向け、格納庫へ向けて加速していってしまった。
その日のうちに、姉・孝美は病み上がりということで今の実力が見たいという少佐の要望で伯爵との模擬空戦を行った。機動で振り回そうとする伯爵に対し、要所要所で弾丸を叩き込むことでそのペースを乱し凌ぐ孝美との間で持久戦の様相を呈したが、最終的に本気を出した伯爵に同じく本気を出した孝美が合わせることで互いに銃口を向けあう形での引き分けとなった。怪我による後遺症や長いこと寝たきりだったブランク等を感じさせない実力は部隊の皆にも歓迎されたらしい。こちらは部隊員たちとは離れたところから眺めていたためどのような会話をしていたかはわからないが。
部屋に戻って、原作知識を書き出したノートを改めて見る。ここに書かれているのは大まかに"孝美の復帰"と"姉妹勝負"そして"ひかりの敗北"だった。続くページを見れば502の一時離脱と途中からの合流、最終決戦での断片的な様子があることから、辞令通りにこのままカウハバへと送られるということはないのだろうとは思っていた。しかし、ああも強く出ていけと言われるとは思わなかった。
有無を言わさないというような強い語気には逆らい難いものを感じさせ、このままでは本当にカウハバへと送られてしまうのではないかと考えてしまう。
このままカウハバへ行けば、フレイヤ作戦には参加せずに終わるのだろう。けれど、それは原作の展開から大きく外れるということになる。そうなれば、作戦に参加する502の皆がどうなるかわからない。この身が主人公のそれである以上、必ず作戦成功へのキーとなったであろう活躍があったはずだ。それが無くなる、ひいては作戦の失敗にまで繋がるのかもしれない。
もともと、ウィッチになったのはそういった原作を外れたことによって起きる悲劇を恐れての事だった。なにより、自分のこれまでの努力を、備えを否定されたように感じ、そのことに対する苛立ちも覚えた。
夕食を食堂で取らず、自室の備蓄で済ませる。
窓にはカーテンをし、明かりを灯すこともなく床の上で座禅を組んで息を整える。そのまま苛立ちを、気を抑えるように"纏"を行う。
考えたところで軍部からの正式な辞令をはねのける方法は思いつかないだろう。ただ静かに、これまで修めた"念"を反芻するかのように繰り返す。水面が凪ぐようにオーラをとどめ"纏"い暫く、今度は"練"り上げたオーラを一度に全身から振り絞り、そしてそれをとどめる。そのオーラを体の末端へ"流"し"凝"らしたり衣服へ"周"わせたり。
そうして頭を空に、ただ夜が明けるのを待つ。
朝日を迎えるのと時を同じくして、ネヴァ川の堤防へと上がる。先生からもらった剣を振り、今度は静かに闘志を燃やす。『闇雲になるな、腹を立てるな、手は綺麗に、心は熱く、頭は冷静に』とはどこぞの眼帯をした先生の教え。その通りに、ただ目的意識だけを高める。
狙いはノートに書かれていた"姉妹勝負"。薄れた記憶をもとに書かれた断片的な記述ではあるが、読み解くに"姉妹勝負"に"ひかりが敗北"したから"502から一時離脱"し"作戦に途中参加"したのだろう。途中参加の方法がわからない以上、作戦には最初から参加することを目指す。そのためには孝美との"姉妹勝負"に勝つしかない。ならば、今できることはそのために己を高めることだけだ。
「ひかり!」
一連の動作を振り終わり、鞘へ納めたところで声をかけられる。肩越しに見れば、まだ薄暗い中城壁をこちらへ向けて歩いてくる姉の姿。パリッとした軍服をまとった姿は寝起きといった様子ではなく、あちらも起きてからしばらくたつのだろう。
「こんな無駄なことはやめて早くカウハバへ行く支度をなさい」
その言葉に思わず頭に血が上る感覚がしたが、それを抑えるように息を吐く。顔を上げ、正面から相手を見据えて口を開く。
「無駄かどうかは私が決めることにするよ。私はまだ502で戦いたいし戦えるだけの力を身に着けたと思ってる」
なんだか煽りっぽくなったが、決意を口にするというのは"燃"における"舌"にある通り心を強くする。孝美にはこちらを502から出ていかせたいという思惑があるようだがこちらもそれに対抗する自らの意思をぶつける。
一瞬、驚くように目を広げたがすぐに眉間にしわを寄せた硬い表情に戻った。
「ここは貴女の居場所じゃない、あなたはここに居てはいけないの!」
そう言ってまた、こちらに背を向け堤防を下りていく。滑走路の時と違うのは、あの時がただ言われるまま言い返せなかったのに対し今度ははっきりと向こうの意思に反するということを言えたことだろう。これで明確に姉と、孝美と対立することとなったわけだ。
勝負のチャンスはその日のうちに訪れた。
朝食をとってすぐに招集がかかり、ブリーフィングルームへと集められた。進行役を務めたロスマン先生曰く、バレンツ海にて伯爵以下4名で討伐した球体型の大型ネウロイが再生したらしい。グリゴーリの監視を行っていた部隊を殲滅し、そのまま北へと移動を開始したとか。
どうやら少佐は自ら出てこれを撃破するつもりらしい。普段は空に上がることはあまりないのだが、クルピンスキーが撃ち漏らしたのであれば少佐が出るしかないとの判断らしい。また、その相方に孝美を選んだ。伯爵との模擬戦だけではなく実戦でもその実力を確かめておきたいらしい。
そう話す少佐たちの会話に横から割り込む。
「そのネウロイ、私にやらせてください!」
「なっ!あなたには無理よ!」
即座に孝美が反応し、こちらの言葉に反発してくる。相変わらずの強い口調だ。それに対し、城壁の時と同じように正面から反攻する。
「無理かどうかはやってみないとわからない!第一、孝美ねぇさんが私の何を知ってるっていうのさ!」
真っ向からの睨み合う形になる。"本気"で"勝つ"という感情を込めるように"オーラ"に攻撃的な"意思"を込めて"出す"。
それに反応したのは姉の方ではなく少佐だった。
「フッ、いいだろう」
「そんな!ラル隊長!?」
姉の方が焦ったような声を上げるがそれに構わず少佐は言葉を続ける。口には笑みを浮かべどこか楽しそうな表情をしている。周囲の隊員たちは口をはさむのをためらっているのか、椅子から腰を浮かした者、手をアワアワ動かすだけのものなど様々だがそれ以上動こうとはしない。
「雁淵、あー、軍曹。お前の魔眼が孝美のそれを上回ると証明できたのならどんな手を使ってでもお前を502に置いてやろう」
「ほんとですか!?」
「ただし……」
少しの溜めの後、一度目を閉じてから少し語気を強めたうえで続きを話し始めた。
「その場合、お前に代わってカウハバには孝美に「やります!」行って、いいのか?」
「私は!502で戦いたいんです!誰であろうと譲るつもりはありません!」
食い気味に、そしてはっきりと告げる。漏れ出たオーラからもその意思が伝わっている事だろう。
「ほう…、良いだろう上等だ。孝美はどうする?」
問われた孝美はといえば下唇を噛み、悩むようなそぶりを見せたがやがて顔を上げ、こちらを見据え、
「良いわ。どちらがこの502にふさわしいか勝負しましょう!」
そう言い放ってきた。
出撃は502の全員でとなった。
勝負の方法はコアの位置を探り、それを少佐に伝えるというものであった。あくまでコアの位置を探るまでであり、コアの破壊自体は少佐が行う。より早く、より正確に伝えたほうが勝ちだという。
今回の戦い、例の髪留めは使ってはいけないことになっている。そもそもこの勝負で勝った方は、グリゴーリのコアの位置を列車砲の砲手に対して伝える必要があるのだ。念をなるべく秘匿するつもりである以上少しでも疑われるようなものは表に出せない。
「11時の方向、ネウロイです!」
最初の発見はいつも道理、下原さんの遠視の魔眼だった。天気は雲が多い物の晴れているため視界は明るい。対象は雲よりも低く、いつもより低い高度を飛行していた。狙いがムルマンに集結しているペテルブルグ軍集団だというのなら対地攻撃を意識しているということでの高度だろう。
空戦に突入した時の陣形は、俺達雁淵姉妹をツートップにその後ろに他の隊員が扇状に並ぶ。
ある程度接近したところで、ネウロイからは迎撃の光線が照射される。火力そのものは大したことはないが数が多い。その̠火線の中で、一歩先んじたのは孝美の方だった。豊富な魔力から成るシールドを頼りに最短距離をまっすぐに飛び、コアを視界へ納めた。対してこちらはシールドに頼らない、回避主体の飛び方だ。攻撃に対していちいち動きを加えて射線から逃れる分、余計な距離を飛ぶことになる。加えて俺は、コアを視界に入れた時、報告をためらった。
「隊長!距離1610、グリッドG7デルタ11風力無!」
「早いな、さすがだ!」
孝美の報告を受けた少佐が即座に狙い撃つ。固有魔法の偏差射撃だろう、銃を持ち上げてから狙いを定めて撃つまでが早撃ちとでもいうべき速度で行われ、報告された場所を射抜く。
が、
「こ、コアが再生した!?」
撃ちぬかれ、砕けたように見えたコアは逆再生のようにもとの形へと再生した。外装も一瞬力尽きたかのようにずり落ちたが即座に浮かび上がり、元のままのネウロイがそこにあった。
再生したコアを見続けていた姉の報告ではコアと思っていたモノの中に不規則な軌道を描いて動き回るものが見えるらしい。
「なるほどな、そういうカラクリか!」
少佐の判断はコアの中に"真のコア"とでもいうべきものがあってそれを倒しきれていなかったからこそこのネウロイは再生したのだという。
俺が報告をためらった理由もそれを裏付けるのではないかと思った。単純にコアが異様に大きいのだ。大型のネウロイとはいえコアのサイズはおおよそ一定だ。だというのにあのネウロイは通常の何倍も大きなコアが見えたのだ。内部に通常のコアを収容し、かつ動き回るだけの空間を確保しているとなればその大きさも当然だろう。
俺がこの真コアの位置を見抜くにはより近くへと近づき視る必要があるだろう。
再生したネウロイは光線での攻撃を止めると、その球状の体を真っ二つに割り、かと思えばボウルのようになったその内側から鉛筆かロケット弾のような子弾を雨あられと飛ばしてきた。
「な、くう!」
子弾は光線とは違いシールドにはじかれることなく、さながら鍔迫り合いのようにぶつかり合ったかと思えば数瞬の後自爆する。そんなものが数えるのも嫌になる数飛んできているとなればさしもの佐世保のエース様も足を止めて守りに徹して数を減らさない事には迂闊に動けない。そこに勝機を見た。
「うおあああああああ!」
「、ひかり!?」
飛んでくる子弾を写輪眼で見切り、燕返しで避け、堅で弾き、紫電改の限界までエンジンを吹かして前へと進む。
孝美の魔眼よりも近づかなくては真コアが捕捉できない以上、ここで距離を詰められなければ勝ち目はない。だが同時に、ここで距離を詰められれば後ろで動けない孝美としても勝ち目がないと言える。
少しでも時間を稼ぐため、飛んでくる子弾はなるべく避けて姉の方へと誘導し、弾いたモノもそちらへ流す。
「っ、この!ひかりィ!」
無線からは余裕の消えた孝美の吠えるような声が聞こえるが、そんなものは無視だ無視。というか余裕がなくなってきているのはこちらも同じ。相手に近づくにつれて飛んでくる子弾の密度は増え、そのすべてを見切る必要がある。両の眼はグルグルとせわしなく動き回り、視界は子弾の未来予測位置で埋まる。その中を針の穴を縫うようにしてジグザグと飛び回り徐々に距離を詰める。
「くっ、このぉ!」
「あ、おい孝美ィ!」
「中尉!?」
無線がまた騒がしくなる。恐らく孝美がネウロイの包囲を強引に突破したのだろう。その皺寄せが一気にほかの隊員に向かったことによる悲鳴か。
バレルロールをするついでに肩越しに姉の姿を見る。どうやら立ち止まってシールドの陰に隠れながら捕捉するのでは無理があると判断したのか、こちらと同じように機動力任せに強引に接近しコアを補足するつもりらしい。
「右、左、下、中央、また右、ぐぅおおおお!」
「いけ!ひかりぃ!」
「目標、捕捉を……!」
「中尉無茶です!数が多すぎるます!」
距離を詰め、視界に移るコアにうっすらと違う色の点が見えてきた。
「距離1410、グリッドG7デルタ12風力無!」
「よしっ!」
空中機動の連続で体を捻りながら、顔だけはネウロイに向け続ける。見て取ったコアの位置を少佐の位置からのものに直し、口早に座標を伝える。ここ最近は見るだけで共有できていたうえ、座標で伝えるなんて真似は初めてやった。それが悪かったのだろうか。
「ああ!」
「再生しちゃってる…ってことは」
「隊長が外すはずがない、ひかりさんが間違えたのね……」
弾丸は僅かに目標地点をそれ、偽コアを砕くに終わった。
打ち砕かれたコアは先ほどの焼き直しのように再び一つとなり、外殻もそのままだ。違いを上げるとすれば、先ほどは出ていなかった子弾だ。コアに近いものは再生すると同時に再び浮かび上がり飛んできたが、502の隊員たちの近くにあったモノは再生が間に合わなかったのか落ちて砕けるものもあった。
「そんな!」
思わず動揺してしまい集中が途切れた隙をついてか、近くまで来た姉が今度は座標を告げる。
「距離1400、グリッドG8デルタ7風力無!」
まずい、そう思うと同時に体が動いた。少佐に座標が伝わるより早く、動いた腕は今まさにネウロイから飛び出たばかりの子弾に弾丸を浴びせた。
数体を巻き込んで弾けた爆風がネウロイをも削り、その余波なのか、それとも、もともと座標が外れていたのか。少佐の放った弾丸はまたも真コアを外し、偽コア部分を砕くに終わった。
「な、ひかりあなた!」
「勝敗はあくまで正確に伝えたほうでしょ?本番でも妨害はあるかもしれないしダメとはいわれてないね!」
「いいんですか隊長?妨害、になったかもしれませんが」
「どうしたものか、とは思うがさて言っていることも間違ってはいない」
孝美は非難するような声を上げるが少佐は思案顔だ。
少佐は悩むそぶりを見せたがすぐに顔を上げ、
「よし、ひとまずこの場はあれを落とすまで続けてみろ。その結果如何で私が判断する」
と言って再び銃を構えた。
「よしっ、距離1356、グリッドG8デルタ8風力東に3!」
「このぉ!」
こちらが言い切るが早いかというタイミングで相手のコアギリギリの外装を弾丸が叩き割る。砕けた破片が少佐の銃弾に当たって軌道がそれる。
銃弾はまたもコアを砕くに終わる。
「そっちがそのつもりならこっちだって!距離1396、グリッドG9デルタ9風力無!」
近くを飛んでいた孝美が妨害したのだ。
二人ともが妨害を始めてしまったため、もはや勝負は互いの妨害をすり抜けながら少佐に狙い撃たせるか、妨害を読んでその先を撃たせるかの変則的な形となってしまった。
放たれた弾丸の通るであろう軌道の前をかすめるように飛び、こちらを狙っていた子弾を射線上に飛び込ませる。案の定炸裂した子弾の爆風により弾丸はあらぬ方へと飛んでいく。
「距離1400、グリッドG8デルタ7風力東へ2!」
少佐の弾丸が届くよりも早く孝美の弾丸が偽コアを砕く。真コアが重力に引かれて一瞬落ちたことで銃弾がその上をかすめていく。
「距離1401、グリッドG4デルタ6風力無!」
放たれた弾丸にオーラを纏わせた銃弾をかすめさせ、オーラで弾丸を絡め捕り軌道を変える。また、ネウロイが崩れては巻き戻る。
「距離1400、グリッドG6デルタ5風力無!」
孝美はネウロイをはさんで向こう側にいた子弾に弾丸をかすらせ、こちらへ向かわせた。孝美へ向かって突進する子弾は道半ばにてその身を横合いから撃ち抜かれ、慣性を無視した動きをするそれはネウロイへと衝突しコア事その外殻を砕く。
「距離1496、グリッドG8デルタ5風力東3!」
「距離1403、グリッドG6デルタ13風力無!」
「距離1398、グリッドG9デルタ4風力東1!」
「距離1401、グリッドG11デルタ7風力東1!」
ラル隊長の撃った7.92×57㎜弾に弾切れの九九式が叩きつけられる。
上官の手元から放たれた弾丸に直接別の弾丸がぶつけられる。
少佐の放ったその弾頭が真っ向から唐竹割に両断される。
部隊長のFG42が火を噴くが敵へと届く前に半ばで発生したストライカーの気流で軌道がブレる。
ネウロイのコアが砕け、外装が落ちるが、またすぐに浮き上がり元の形へと戻る。
フェイクコアが粉砕され、外装が色を無くして崩れるがやがて元の姿を再び形作る。
最も重要な場所が破壊され、外装が罅われその欠片を大地へと落とすが元のとおりに。
砕かれてはいけない所に被弾、外装が力なく地面を目指すが徐々に元の形状を復元する。
「アイツ、なんか再生速度落ちてねぇか?」
もう何度同じ光景を見ただろうか。重力に引かれた光る破片が動きを止め、浮かび上がったかと思えば忌々しいネウロイの姿をとる。数秒後にはそのコアを撃ち抜かれ、その身を光る破片へと変える。
数えるのも億劫になってきた頃、その光景を眺めていた菅野がポツリとこぼすように言った。管野達502の隊員達がいる少し離れた場所では、子弾がやってくることもなくなり手持無沙汰になった者達がネウロイの砕ける様を見ていた。
「あ、直ちゃんもそう思う?明らかに破片が浮かび上がってくるのが遅くなったよね」
「そ、それだけじゃないと思います。破片が元の形をとってからネウロイになるまでも遅くなってます」
「装甲自体も薄くなってるみたいです。最初の頃なら弾いていただろう位置への弾丸でもかなり大きく削れています」
安定した姿勢からじっくりと観察できる状況にある彼女たちだからこそ気づけた光景だった。ネウロイのありとあらゆる動作が徐々に遅くなっている。
唯一の例外は矢継早に飛んでくる座標に合わせて腕を動かしては引き金を引く機械と化しているグンドュラ・ラルカールスラント陸軍少佐にして502JFWの隊長だ。不規則なインターバルでかけられる声に答えるために常の集中を強いられ、その姿勢を崩すことも出来ない。カールスラント撤退戦ではこの何十倍もの時間を連続で戦ったものだが、デスクワークに慣れた体は鈍ったことを感じさせ、何より自由からほど遠い戦い方が彼女を苦しめていた。
「……」
「ラル隊長も大変だよね、表情は余裕って感じだけど」
「多分ですけどやせ我慢してますよね」
「プライド、なのかしらね」
その時ふと、少佐の動きが止まった。
周囲の隊員達が何事かとそちらを見るとラル少佐は無線に手をやり告げた。
「すまん。弾切れだ」
続けて、
「倒せるようならお前たちで倒してしまえ。この場の者たちを向かわせてもいいが?」
そう言った。
言い終えた時、彼女の視界にはネウロイに向けて突っ込む2つの紫電改が見えていたが。
銃を背中に背負い、腕を下したラル少佐にクルピンスキー中尉が近づく。
「ボクたちのモーゼル弾マガジンに詰めなおします?」
「やめろ」
どことなく色がくすみ、表面に欠片の形が残るネウロイの上では二つの戦いが繰り広げられていた。
一つは当然、ネウロイのコアを砕く競争。ひかりの方は弾切れを起こした九九式を妨害のために投げつけてしまったため、今は両手に持ったその刀を振るってコアを狙う。対して孝美の方も残弾に余裕があるとはいいがたい。単発で、しかし再生するよりも早く、同一の点を撃ち続けることで確実にその装甲を砕こうとしている。
ではもう一つの戦いとは何か。互いの妨害がいまだ続いているのである。体当たり、かすめる、わざと相手の軌道に割って入る、子弾を殴り飛ばして相手にぶつける等々ネウロイ相手以上に激しい戦いが繰り広げられていた。
状況的に妨害合戦で不利なのはひかりの方だが、真コアに近いのもひかりであった。
刀という近接武器である以上、どうしてもネウロイに張り付いて戦う必要がある。つまりあまり動けないのだ。すれ違いざまに切る、という方法では妨害や子弾をかいくぐる間に再生してしまう。そのため張り付くようにして飛びながら相手の装甲を切り裂き、砕いているのだが孝美からすれば妨害し放題だった。
その孝美はと言えば内心では焦っていた。時折飛ばされてくる子弾は自由に動き回っている孝美には当たるはずもなく、それを除けばひかりの方に妨害の手段はなく一方的に攻撃できる。しかし、残弾は心もとなく、加えて動き回る真コアを狙い撃つのは簡単ではない。対して高い動体視力を持つというひかりの魔眼と刀の組み合わせなら距離の関係もあって真コアを捉えるのは容易だろう。
互いに同じ結論に至りながらも劇的な打開策はないまま時は過ぎ、最初に訪れた変化は孝美の方だった。九九式の弾が尽きたのである。残るはせいぜいが護身どまりの十四年式拳銃だけ。即座に、これではコア以前に装甲すらも砕けないと判断した。故に、次に孝美のしたことは武器の確保だった。ネウロイから一定の距離をとってランダムに子弾を避ける軌道から一転、コアがあるであろう位置、ひかりのいる場所へと向けて加速した。ひかりも"円"でそれを感知し即座に振り向くが視界に入ったのは姉との間、自分へと投げつけられた九九式機関銃だった。
とっさに切り払うが九九式の陰に隠れて投擲された十四年式に対しての対処が間に合わず、加えてそれが顔面への直撃コースだったことからも思わず目をつむってしまった。
瞬間、左腕に激痛が走り、極められていると悟る。握力の抜けた腕から滑り落ちた越前守助広を持っていかれる。こちらが怯んだ隙に、こちらの左手をとった孝美がそのまま捻じり上げたのだ。
「私は士官学校の出だもの、当然こういった物の扱いにも慣れているのよ?貴女の講導館剣道と私の海軍高山流抜刀術。どちらが上かの勝負と行きましょうか、ひかり!」
「人の名を!ずいぶん気やすく呼んでくれるじゃあないか!一刀での講導館剣道も私は視て写させてもらった!二刀でなくなったからと言って弱くなったとは思わないでもらう!」
「うわぁ、なにあれ何時の時代の人?」
「扶桑の魔女はおかしいとミーナが言っていたのを思い出すな」
頭鎌倉武士と頭平安武士がバチバチにやりあうその遥か後方にて。
高みの見物と言わんばかりにもはやリラックスした姿勢の者もいる中で、クルピンスキーとラルが溢した。ラルはもはや取り繕うのも面倒になったのかジョゼに回復魔法を当ててもらっている。
「いやいやいや」
「私たちも同じくくりにされるのはちょっと……」
それに反応して文句を言ってきたのはおかしい奴と一括りにされた管野と下原。真剣同士で斬り合い、その片手間に装甲を剥いでは偽コアを砕き、再生するまでの余暇でまた斬り合う姉妹と同じ分類にされるのは困ると言う。
「ていうかあれ大丈夫なの?真剣同士なんてやっぱり危ないよ!今からでも止めなきゃ!」
純粋に二人のことを心配し、そう意見するニパ。サーシャも同意するように首を縦に振る。
「見てて怖いですよ。実の姉妹同士で斬り合いだなんて」
「んー、だがなぁ」
ニパに続くように言ったサーシャに管野が反応する。
「いや、あれはむしろ息があっているから大丈夫というか……」
「えぇ、びっくりするくらい息があっています。あそこまでのレベルとなると相当な実力者同士、それもお互いのことをよく理解していないとできない芸当ですね。見事な立ち合いです」
管野に同意したのは下原。下原は学者の家の出で、扶桑の文化というものを大切にしており文化そのものへの造詣も深い。下原自身、弓術を修めていることもあり、そういった立ち合いに理解もある。管野も孝美と同じで海軍兵学校の出で剣術には慣れ親しんだ身だ。
「あれに理解を示すのかぁ、そっかぁ……」
「やはり扶桑のウィッチはおかしいのでは?」
「そんな、定ちゃん……」
「えぇ!?」「いや待て!一回話し合おう!」
慣れ親しんだ文化なのは扶桑出身の二人だけだったので、結局周囲の理解は得られなかったのだが。
切る、斬る、伐る。
互いに既に幾度となく刃を交えたが、戦況は互角と言えよう。自ら練り上げた剣と師の練り上げた剣の写しという違いはあれど、互いの多くを考慮すれば互角という結果になる。
ひかりの剣はズルをしているともいえるが、成熟した成人女性の振る剣を14歳が写し取ったところでそのままでは使い物にならない。ひかりが振るに当たって使いやすいように改めている。それ故どこか歪なところもある。
対して孝美は、剣を振る事事態が士官学校以来な上、空中で振ることなどありはしなかった。それでもリバウを経て扶桑皇国欧州派遣艦隊として転戦するにあたって剣を使う扶桑ウィッチは多く見てきた。ウィッチとして天才ともいえる彼女は過去の記憶を頼りに自分だけの空中剣術を編みだし始めていた。
互いに∞を描くように飛んでは互いの剣をぶつけあう。紫電改の推力と重力加速度を組み合わせて生み出された運動エネルギーを最大限ぶつけ合ううちに両者は自然と同じ動きをしていた。
時に相手の剣に、時にネウロイにと攻撃をぶつけあっていたが、何時しか二人は互いの剣にしかぶつけていないことに気づいた。
「あっなんか気づいたっぽいですね」
「やっとか……」
「じゃぁ、行きますか」
傍から見ている者たちにとっては一目瞭然もいいとこだった。
何度目かのネウロイ攻撃の後、再生したはずの装甲が自然と砕けコアがむき出しとなった。次の打ち合いでついにコアが切断され、何とも弱弱しい断末魔のような物を上げてネウロイは消滅した。
最初の頃はネウロイ、剣、ネウロイ、剣と交互にぶつけあっていた彼女らもいつしか加速しすぎてネウロイ、剣、剣、ネウロイ、剣、剣、剣、と剣同士で連続して撃ち合う回数が増えていったからか気づかなかったのだろう。最終的にネウロイが消えた後も互いに剣をぶつけあい、勝負のことなど頭から消えた壮絶なただの姉妹喧嘩となってしまっていた。
無線が聞こえていないのか声をかけても止まらない上、加速してもはや残像が見える2人に割って入ることも出来ず自然と止まるのを待つしかなくなっていた。
ネウロイが姿を消したことに気づいた二人はその動きを止め、互いに正面から相対していた。
「……ここで終わりにしましょうって言ったら納得できる?」
最初に口を開いたのは孝美。口ではそう言いながらも構えは刀を顔の横で立てた八相。
「逆に聞くけど……出来る?ああ、中断じゃなくて勝敗を決めるって意味なら納得」
対するひかりは刀を右後ろへ向け、斜めに倒す。刀の長さを分かりにくくする脇構えの構えだ。
「中断?まさか、ええ、
――決着をつけましょう」
「ああ、
――決着をつけよう」
「やめんか馬鹿ども」
両者飛び出す前に他の隊員たちによって拘束された。
羽交い絞めだったりストライカーに抱き着いたりと方法は様々だったが、とうに限界を超え気力で戦っていた二人はそれだけで力が抜け、倒れこむように動きを止めた。
刀もそれぞれについた扶桑組が回収し鞘に納めたが、納得できないというように二人が呻く。それに対し、ラルは厳とした声で、
「ネウロイの撃墜という任務はもう果たした。貴様らの私情でこれ以上燃料もストライカーも損耗するのは看過できん。なにより既に帰投するのでギリギリの分の燃料しかない者も多い」
自分たちだけでなく、周りの者たちまで含む問題となると流石にわがままを通そうとは出来ないようで姉妹そろって黙ってうなだれた。
「では帰投する。念のためその二人は離して常に誰か張り付いとけよ」
「了解しました。――燃料持ちますか?隊長」
「む、メルスは足が短すぎるな。――アウロラを呼び出せ」
最終的に、基地まで帰れるだけの燃料が残っていたのは管野と下原だけとなり、それ以外の者たちは誰も墜落したわけでもないのに呼び出されたアウロラ達ユニット回収班の世話になることになった。
「さて、今回の勝負の結果についてだが」
基地の端にある塔状の部分。その中のブリーフィングルームにて。外は日が暮れ、全てを赤く染め上げる時間帯。夕食をとる前に部隊全員がそこに集められた。内容は当然、雁淵姉妹のどちらが502に残るのかの勝負、その行方である。
「どちらもネウロイのコアを特定するという意味では十分な結果を残したと言える。が、もう面倒なのでぶっちゃけるがどちらも502以前に軍人として問題ありだ」
「いや、それはその……」
「絶対に負けられない戦いがそこにはあったっていうか……」
「黙れ馬鹿ども。はぁー、ロスマン。あとは任せる」
腕をさすりながら部屋を出ていくラルは如何にも早く寝たいという雰囲気を駄々洩れにしておりそのまま部屋を出ていった。残された隊員も仕方ないだろうといった反応のものが大半だ。そうでないのは申し訳なさから顔を向けられない雁淵姉妹。
「さて、あなたたちについてだけど」
退出したラルに代わって前に立つのはロスマン曹長。こちらを見る目はかわいそうなものを見るような目だった。
「命令無視、備品の私的使用、私的な乱闘、あげく破損、損失、紛失……。正直つけようと思えば幾らでも罪状がつけられるのだけど……」
頭が痛いとでもいうように目頭を押さえ、溜息を吐くその姿に申し訳なさから涙が出そうになるひかり。これまで品行方正で通ってきた孝美は自分の経歴に残る傷の数々に既に気を亡くしそうだ。
「諸々ひっくるめてとりあえず二人とも営倉入りね」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
突きつけられた実刑に思わず声が漏れる孝美。一方のひかり的には『ブレイクウィッチーズ的には入っといたほうが良いのかもしれない』とか考えていた。本職軍人、それも士官として勤めてきた孝美と軍隊に入るのは手段でしかなかったひかりの意識の差だろう。
「ひとまずだいたい一週間かしら。ああそれと、」
そう言って言葉を一度切ったロスマンは置かれていた映写機を起動し、部屋の電気を消す。すると、部屋の隅に待機していたサーシャがカーテンを引く。暗くなった部屋でスクリーンにはフレイヤ作戦のものであろう作戦概要図が映し出された。
「一週間後のフレイヤ作戦において我々502は作戦決行日数日前に当基地から発進。作戦に参加することになっています。その際、孝美中尉にはグリゴーリのコア発見の任を担ってもらいますが……」
「ひかりさんに関してはカウハバには今回の件を送付し、"度重なる問題行動により営倉にいれざるを得なかった"という風にしておきます」
「それって……!」
「おいマジかよ!」
それは、つまり"作戦に参加する502の魔眼ウィッチは孝美だがひかりも参加できる位置に留め置く"というもの。どうするつもりなのかはわからないがひかりも作戦に参加させようというものだった。
「ひかりさんの移動命令を出したマンシュタイン元帥はペテルブルグ軍集団の指令として新しく連合軍から派遣されてきた人間よ。従来の北方方面司令部長官とは別の人物なの。それ以前に502は元々東部方面統合軍総司令部の指揮下にあるからグリゴーリ討伐戦が終わればまた元の命令系統に帰順することでしょう」
「グリゴーリが倒されればペテルブルグ軍集団は解散。戦力自体は北方方面軍に入るかもしれないけど司令部要員は確実に何処かへ配置転換されるでしょう。そうなってしまえば現地にいない人間の古い命令書の一枚ぐらいどうとでもしてみせるって隊長が」
既に部屋を出ていった隊長の背を追うように出入口を見る。苛立って出ていったように思えたが実際は気づかいをしたことが気恥ずかしくて出ていったのではあるまいか、なんてことをひかりは考える。
「ただし、問題行動は確かなので営倉入りとその他作戦後には何かしらの罰を受けてもらいますからね!」
「とりあえずは営倉に入っている間は床で正座でもしてもらおうかしら。歴史を感じられる素敵な石畳よ?」
未だ雪が残るペテルブルグの石畳など想像を絶する冷たさだろう。ひかりが剣術の一環で正座に慣れていることから罰にならないということを知っているサーシャだからこそのチョイスだろう。姉妹そろって顔をゆがめ、嫌という感情が言葉にならずとも伝わってくる。
「営倉、営倉かぁー」
「思いだすねぇ、ペテルブルグにきた最初の日を」
「スオムススキー駅で暴れたカンノの巻き添え食らって留置所入れられた時でしょ?懐かしー」
そうやって囃し立てるのはここまでおとなしくしていた問題児三人組。普段は自分たちが怒られる側だが今回は何の落ち度もなく終わり、しかもいじれる相手が目の前にいる。隊長の采配にテンションが上がったニパも悪乗りしだした。
「孝美、ひかり!これでお前らも俺らの仲間入りだな!」
「ヒュー!ブレイクウィッチーズもなかなかの陣容になってきたじゃない?」
「プッ、くく、ようこそっていえばいいのかな?アハハハハ」
「嫌ぁぁぁブレイクウィッチーズ入りなんて……」
「ああ、姉さんあての手紙にあったんだっけ問題児三人組が居るって」
「問題児5人組は勘弁してほしいのだけど……」
原作:敵を減らしてからの重捕捉
今作:雑魚が大勢残ってしまったことからひかりと同じように近づいて捉えようとする→大乱闘スマッシュ☆シスターズ