念能力者(?)なひかりちゃん(?)   作:シチシチ

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そういえば502の念能力考えたかったんだけどこれといったものが思いつかなかったので没になりました。

今回の話の後、話の続きを書くか以前の話の書き直しをするかでどちらを優先するか悩み中。書き方が違いすぎるのを統一したり後付けの設定を適用し直したりしたいな。多分する。


原作11話 ~フレイヤ作戦・原作崩壊の本格化~

 502基地は17世紀に建てられた古い城砦を改修したものだが、一応は居住施設なだけあって暖房は気が使われているほうだ。そのため、約一週間の独房入りではあったが、ひかり的に独房での生活自体は悪いというほどのものではなかった。

 ひかりに不満があるとすれば、暖房用ストーブの燃料である薪がもったいないからという理由で孝美と二人同じ部屋に入れられたことだった。佐世保で久しぶりに会えたかと思えば負傷で再び離れ離れになってしまったこと、ペテルブルグで再開したかと思えば仲違いを起こしてしまったこと等から孝美の"妹にかまいたい病"が発症していたのだ。

 本人からしてみれば、まだ未熟な妹が世界有数の激戦区に放り込まれていたのだから心配するのも当然といったところだろう。だがそのノリで構われ続ける身としてはたまったものじゃなかった。

 姉として心配する気持ちもわかる。しかし、人生二週目の人間としては、幼子のごとく身の回りの世話までされては耐え切れずに反抗的にもなろうというもの。

 結果として、作戦開始の数日前、独房を出るころにはひかりはプチ反抗期に突入していた。

 

 

 

 「フーンダ」

 「隊長……、ひかりが、ひかりが相手してくれないんです……」

 「……ああ、うん。そうか」

 

 フレイヤ作戦参加に当たって、502内での独自ブリーフィングが行われる。遅れて会議室へと入った瞬間、ラルは自身が呼び寄せたエースに泣きつかれていた。うわ面倒な……、とは思えど口には出さず。孝美に感づかれないよう意識しつつも押し付けられる相手がいないか部屋を見回す。

 

 「機嫌直せってひかり。ほら、もう部屋は別々なわけだし、な?中尉もなんか言ったげてよ」

 「ひかりちゃんは甘やかすプレイは苦手っと……」

 「おい、その不純な情報の詰まったメモ帳こっちに寄越せ。ぜってー俺達のもなんか書いてあるだろ」 

 

 ブレイクウィッチーズはブスッっとした表情で不貞腐れるひかりにかまっている。いや、それ以前にこいつらではまともに相手できないだろう。候補から外す。

 次に目に入った定子・ジョゼ組は完全に目をそらしてこちらにはかかわりたくないぞの姿勢だ。こちらが視線を向けた途端に会話が弾み始めた。こちらも駄目だろう。

 内心舌打ちしたい気分になりつつも、それならいっそこちらを無視できない奴らに振るだけだとラルは考える。502部隊の残った二人、部隊のまとめ役でこの会議の進行役であるエディータとサーシャはこのひっつきむしを、隊長たるこの身から引きはがさない事には会議を始められないのだから……!

 案の定、視線を向ければ、溜息と共に二人がこちらへと歩いて来た。

 

 「あの、孝美さん。ひかりさんだって、」

 「でも、ひかりは」

 「勝負には引き分けたじゃないですか。お姉さんなのですから妹のことを信じてあげてください」

 「うう、そう、そうですね…。お姉ちゃんですものね」

 

 目論見通り、押しつけた二人は孝美をうまくいなしたようで、内心ホッと一息ついた。

 あとは、押しつけられた二人に恨みがましい目で見られる前にこのことを有耶無耶にしてしまえば完璧だ。そう考えたラルは珍しく自らブリーフィングを切りだす決断をした。

 

 

 

 「ブリーフィングの終了後1300をもってひかりを除いた502は全機発進。戦力集結地にて作戦開始まで待機だ」

 

 ブリーフィングにて話される内容はさほど多くは無い。今後502がどう動くか、それ自体は隊長たち三人の間で既に決まっており、それを全体に周知するだけなのだから。

 

 「そして雁淵軍曹」

 「はい!」

 「お前は我々の発進後、明日1000をもって当基地を発進。作戦開始後、シレっと戦闘に混ざれるような距離を維持してもらう。専用の無線帯域を確保してある。当日はロスマンとつないでおくから指示に従え」

 

 フレイヤ作戦にひかりが参加する理由。本人的には原作の大筋を変えないことだが、それとは別に隊長達としての思惑もある。ひかりを502に留め置くことだ。

 激戦区である502は元々、各国から腕利きを集めている。しかしながらラルとしては未だ十分だとは思っていない。その上、既にあちこちから余り口には出せない手段も用いて人材を集めていることもあってこれ以上の増員は難しくなっていた。

 そのタイミングで転がり込んできた魔眼持ち。その上、本人の経歴は訓練校を卒業もしていないため、部隊に取り込んだところで文句を言ってくるところもほとんど無い。唯一の障害が本来の配属先であるスオムスはカウハバであるが、より直接の問題はそれを言ってきたカールスラントのマンシュタイン元帥。そのマンシュタイン元帥はグリゴーリ討滅に当たってやってきた人間だ。

 つまり、フレイヤ作戦の完遂によってマンシュタイン元帥を本国に送り返し、502を北方方面司令部から東部方面統合軍司令部に戻すことでその影響下から完全に抜け出す。そのうえで孝美も部隊に留め置くために、大規模な作戦に502の隊員として姉妹両方とも参加したという既成事実を作ってしまおうというのだ。

 

 「質問いいですか!」

 「なんだ」

 「ペテルブルグから作戦集結地まではだいたい一日です。一日早く着くことになります!」

 

 ひかりは自身の動きを聞いて、疑問に思った。他の隊員達が早くに出るのはわかる。現地での配置等もあるからだろう。しかし、ひかりは飛び入りで参加するのだ。早くに参加しては万一も見咎められた時にいいわけが効かない。ひかりが作戦に参加したことがわかるのは502が東部方面統合軍司令部傘下に戻った後の方が都合がいいのだ。

 

 「うむ、作戦予定地の近くに廃棄された民家を確保してある。お前が独房に入っていた数日の間に物資を運び込んでおいた。当基地から直接飛んだ場合、戦闘中の燃料に余裕が持てない可能性があるから、そこで補給していけ」

 「付け加えるなら、そこに集積しておいた予備の弾薬等もなるべく持ってきてほしいのです。現地でひかりさんがいることを見咎められた際のいいわけにも使いますから」

 「あとは単純にそこそこの距離を飛行してからそのまま巣の攻略に参加させることへの不安もあるわね。一晩体を休めてから作戦に参加しなさいということよ」

 

 作戦中の弾薬欠乏によってやむ負えずひかりに補給を持ってこさせた、という言い訳も用意しておこうというものだ。言い訳の準備はあるだけ良いとのこと。

 物資の運び込みには他の隊員達が哨戒の名目で飛ぶたびに少しずつ運び込んでいた物だ。詰まるところこの計画は502全体がグルになって行っているのである。

 いつの間にか502は司令部からの命令を全員で無視するとんでもない不良部隊となっていた。

 

 

 

 ブリーフィングの終了後、つまむ程度に昼食をとった隊員たちは装備を調え、出撃した。空中で集合し、編隊を組んで北東へ飛んでいく姿を滑走路で見上げる。

 

 「軍曹」

 

 話しかけてきたのは502基地で管制官をやっている兵だ。

 

 「軍曹宛の電報はやはり届いてませんでした」

 「そうですか……。わかりましたありがとうございます」

 

 期待していた電報が来ない。

 やはり無理があったのだろうか、そう思いつつひかりは明日に備えて部屋に戻ることにした。

 

 

 1945年2月10日 08:56 フレイヤ作戦重砲兵部隊上空・502部隊

 

 白海にほど近く、比較的開けた土地がある。

 グリゴーリが動き出す以前から攻略戦に際しての戦力の集結地とみられていたその土地は、当初の予定を遥かに超えた陣地構築が行われていた。

 本来ならばそこはあくまで戦力の集結地に過ぎず、また、その戦力も航空機が主力のはずだった。なぜならグリゴーリは洋上に発生したからだ。しかし、突如としてそれがスカンジナビア半島へと動き出したこと、その進路上にこの地が存在したことにより、ブリタニアや周辺国に配置されていた陸軍戦力などもかき集められ、この地が決戦の場とされた。

 凍り付いた大地をリベリオン製の重機の力で強引に掘り返し、塹壕を作り、砲を配した。北方のムルマンスクからは既存の線路とはまた別の規格で新たな線路が何本も走り、数日前までは日に何本もの貨車が長蛇の列を作っては行き来していた。

 その線路の上を、今は黒い鋼の塊が2つ縦に並んでゆっくりと進んでいた。

 

 「デケぇ……」

 「あれがグスタフとドーラかぁ……」

 

 管野とニパがそう声を漏らす。

 視線の先にある、口径800㎜の化け物大砲を抱えた超巨大列車砲"グスタフ"と"ドーラ"はフレイヤ作戦に当たって投入された人類の切り札。カールスラントの技術力を結集して作られたこの巨砲がこの作戦の要となる。前方を曳かれるグスタフに積まれた"超爆風弾"はネウロイの巣を覆う暗雲を文字通りの爆風で消し飛ばし、そうして露わになった本体の更にそのコアをドーラに積まれた"魔導徹甲弾"でぶち抜くという作戦だ。この魔導徹甲弾には何人ものウィッチが魔力を込めており、巣に対しても効果が見込めるとされているものだった。

 

 この作戦における502の役割はこの"グスタフ"と"ドーラ"の護衛、そしてドーラが狙うグリゴーリのコアの特定となる。502以外のウィッチ隊や通常戦力から成る部隊は彼女たちの露払いとして敵戦力の誘因と撃滅を行うことで援護を行う。そのため、通常戦力から成る部隊は502や列車砲とは別の方面に展開している。カールスラントやオラーシャの陸軍部隊を主力にリベリオン・ブリタニア・扶桑の連合による空母機動艦隊や周辺国からのウィッチが支援に当たっている。

 

 「隊長、バルトラント軍の偵察ウィッチ隊が戻ったそうです。作戦開始予定に変更は無しとのこと」

 「そうか」

 

 線路に沿うように飛ぶ編隊、502部隊は作戦開始を目前にしても過度に緊張するような者はいなかった。この場にいる隊員は誰もが欧州撤退戦の頃からのベテランだ。近距離での乱戦を想定して機関銃を装備した隊員が多く、隊長のラルも普段使いのMG42ではなく取り回しのいいMP43を持っている。孝美もまた、いつもの対物ライフルではなく菅野や下原と同じ九九式改を持っていた。唯一、ロスマンはフリーガーハマーを装備していたが、もし重装甲の相手が来たときに打つ手無しでは不味いという理由からだ。その破壊力は小型ならば数機巻き込むこともできる。

 

 「総員に告ぐ。フレイヤ作戦の開始がもう間もなくだ」

 

 作戦開始の直前、ラルは部隊全体に無線を送る。

 

 「難しいことは何もない。我々の道をふさぐハエどもを叩き落とし、ついでにその巣を焼き払うだけだ。繰り返すが何も難しいことはない。黙って私についてこい。命令(オーダー)はそれだけだ」

 

 ラルの言葉に声で返す者はいない。ただ、誰もが己のうちに闘志を宿し、彼方に見えるグリゴーリをにらみつけることによってその意思を示した。

 

 「よし、サーシャ」

 「はい、フレイヤ作戦開始まであと、30、29、28……」

 

 事前に合わせられた時計により、作戦の開始時刻のカウントダウンが始まる。

 

 「……3、2、1!」

 「作戦開始!」

 

 

 1945年2月10日 09:00  同上

 

 作戦は、航空隊による敵の誘因から始まった。洋上の扶桑第三航空戦隊、ブリタニア本国艦隊から発艦した戦闘機隊による第一波。別方向から侵入する陸上基地からのオラーシャ陸軍航空隊による第二波など多数の航空機が巣を丸裸にするべく戦闘を始める。

 雲龍、葛城、レンジャー、ヴィクトリアス、フューリアス、その他護衛・軽空母数隻と複数の陸上基地からの総数は500を優に超え、1000にも届こうかという数になり、白海の空は黒煙と火球、砕けたガラスのような物が乱舞する。

 他方、陸上では多脚のネウロイの進行に対してダグインした戦車や榴弾砲等による戦闘が行われていた。素早く、左右にも動くネウロイに対して人類側は飽和火力によって万遍なく砲弾をばらまくことによって対峙。こちらは比較的損害が少なく、しかし陸戦故戦局に影響は与えていなかった。

 

 本命である列車砲とその護衛である502部隊もまた、ネウロイの脅威にさらされていた。味方航空機隊や高射砲部隊を越えてなお数えるのも億劫になる数の小、中様々なネウロイが彼女らを襲っていた。

 他の戦場では全滅する部隊も出てきた頃、遂に列車砲はその射程にグリゴーリを捉え、射撃態勢へと移行を開始する。

 先に放たれたのはグスタフの超爆風弾。魔道シリンダーにて発生した魔力の嵐をその砲身でもって指向性を持たせ、砲身の先に発生させた魔方陣で再加速させる。

 その魔力嵐はさながら光線のごとく付き進み、進路上のネウロイを掻き消しながら目論見通りにグリゴーリを覆う暗雲をかき消した。護衛につく502のウィッチ達もその余波に吹き飛ばされそうになりながらもそれを見届け、思わず歓声を漏らす。しかし、それも長くは続かなかった。

 

 その姿を現したグリゴーリ。それは余りに大きく、その装甲はフリーガーハマーも寄せ付けない。幾本もの触手はその先端から強力な光線を放ち大地を灼く。そのグリゴーリのコアを破壊するにはドーラの魔導徹甲弾が必要であり、502はその狙いを付けるべく孝美にコアを補足させなくてはならない。そのためにはコアを捕捉できる距離まで孝美を送り届け無くてはならない。それと同時に列車砲もネウロイの攻撃から守らなくてはならない。

 

 各員がそれぞれの役割を全うする中、ラルは別の焦燥感に駆られていた。本来ならばもう戦闘に参加していて良いはずのひかりが戦場に見えないのだ。

 

 「エディータ、雁淵軍曹はまだか?」

 「ええ、無線も入れてきません。何かあったのでしょうか……」

 「くっ、確認することも出来ないか……!」

 

 これだけ多くのネウロイが戦場を舞っているのだ、もしかすれば誰の眼にもつかないような場所で撃ち落とされているのかもしれない。だがそれでも、今の502に確認に行かせられる余裕は無い。今一人でも抜ければ、作戦自体が失敗しかねないのだから。

 

 

 

 1945年2月9日 11:06 ラドガ湖上空・雁淵ひかり

【挿絵表示】

 

 

 作戦開始の前日。

 予定通りにペテルブルグを出て、ひかりは物資を隠した民家へと向かっていた。

 

 風に煽られて方向を見失ったがラドガ湖を越えるところまで来た。

 

 (下に見える島、岸にほど近いということはサルミのあたりまで流された?思ったより南東に来てる…)

 

 本来なら一直線に向かうはずだったのが余計な道草を食わされてしまった。現在地がわかった以上、進路を修正しなくてはならない。

 本来の進路上にロイモラという土地がある。数年前までの前線であり、時折戦いの跡であろう倒木やクレーターがある。サルミから元の進路に戻る目印として目指していた、丁度その上空にさしかかったあたり。

 

 高度を落としていたのが不味かった。地上、森の中から一条の光線が放たれた。幸い、寸前で気づきシールドで弾いたことによって致命的なダメージを受けることは無く、姿勢を崩す程度に終わった。

 

 「な!?この辺りはとっくに制圧されて……!」

 

 今の高度を保てばいい的だろう。追撃を避けるべく高度を落とし、森の木よりも低く飛んで見えたのは木々の間から覗くネウロイ。

 数は多くない、哨戒だろうか。いや、違う。ここは補給線確保の一環で他ならぬ502が制圧した土地なのだ。ここは奴らにとっての敵地なのだ。

 

 「哨戒、じゃない斥候!ネウロイがまた侵攻しようとしてるっ!?」

 

 思わず口から漏れた言葉で脳が事実を再認識して愕然とする。ネウロイの攻勢、それに気づいただけなら話は早かった。しかし、今、この地の連合軍は大規模な作戦でその兵力を集めている。もちろん前線から兵を引き抜くようなことはしていない。ならば今目の前にいるこいつらは前線を抜け、哨戒線を越えてここに居ることになる。前線は今挟み撃ちにされていて、しかもそのことに気づいていない。

 すぐに無線を使って周囲に呼びかける。帰ってきたのは雑音ばかり。

 

 (通信妨害!ネウロイが!?)

 

 本格的に、ネウロイが秘密裏に前線を制圧しようとしている、いや、或いはもう何処かでは戦闘が始まっているのかもしれない。しかしそれを、北方方面司令部やフレイヤ作戦司令部は未だ察知していないのだ。

 

 即座に、基地へ向けて引き返すことに決めた。前線に一番近い基地はペテルブルグであり、あそこなら有線で他の戦線と繫がっている。特に後方のヘルシンキと繫がっていることが大きい。

 途中経路にラドガ湖を含ませることで陸戦型ネウロイからの追撃を防ぐ。冬季で凍結しているとはいえ、迂闊に渡れば氷が砕けるかもしれない。縦横無尽に動き回るネウロイといえども大群で渡れば水の底だろう。

 

 逃げるこちらに対し、追撃は少ない。どうやら、航空型そのものがいないか少ないらしい。前線を突破するのに航空型は目立ちすぎるという判断だろうか。ネウロイに判断だなんて、そう思った瞬間“円”に光線が接触したことを感じ取る。航空型はいない、そう思った矢先に上からの光線を察知したのだ。

 

 体を左にスライドさせることで光線を回避する。光線の数は少なく、同時では無くある程度の間隔を置いて放たれていた。隠密行動である以上多くを連れてくることは出来なかったのだろうか、と思いつつ、相手を確認するべく体をロールさせる。小型が数機だろうとあたりをつけていた視界に入ったのは輝く銀。そして首と頭のような物が着いたネウロイ。

 

 (ひ、人型の、ネウロイ……?)

 

 ラドガ湖を越えて戻り、ラオトゥの上にさしかかった辺りで交戦する。人型を振り切ることが出来ず、かなり接近されてしまったことからやむを得ない。

 人型は右腕のような部分の先から棒状の物を伸ばし、そこから光線を放ってくる。下に短い円筒のような物をつけたそれは何処か九九式20mmのようにも見える。こちらは追われる形となるため、何とか相手にオーバーシュートさせ、後ろに着こうと繰り返す。互いに機首を右へ左へと振り合い徐々に高度が落ちていく。

 これは不味いと感じ、早めに勝負に出ることにする。左に試製を傾け機体を縦に、エンジン出力を左右で変えて行う変則的な燕返し。高度が下がりすぎれば使えなくなる、その前に手札を切る。どうやら人型なだけあって外部を頭部でのみ認識していたらしく、こちらを見失ったネウロイの動きが硬直する。ほんの数秒であろうと真っ直ぐ飛ぶ相手など的にもならない。格闘戦こそ厄介な相手だったもののこちらの動きが変化した途端に反応がお粗末な物になる。なんともちぐはぐな印象を受ける。

 

 ―――とっとと片して基地へ戻らなくては

 そう思いながら引き金を引く。手中の九九式が撃針を開放し雷管を叩く、装薬が弾けて産まれる反動を肩に感じるのとほぼ同時に下から来た光線が九九式の銃身を消し飛ばす。銃身内を邁進中だった20mm弾が半ばで掻き消され、中の炸薬が熱に耐えきれずに炸裂、その威力はそのまま弾倉内の弾薬にまで届き、誘爆を起こす。

 

 (―――もう1機!?)

 

 咄嗟に右手をグリップから離しそのままシールドを空との間に割り込ませる。九九式の燃える煙の向こう側、既にかなりの低空を飛んでいるが、その更に下。先ほどの陸戦型と同じく木々の間からその姿を覗かせる黒の人型。先ほどの物よりもスマートな足つきをし、腕から生える棒状の、銃のような物が短い。

 息つく間もなく此方へ突っ込んでくるそれは最初の機体よりも明らかに動きがいい。こちらの回避に合わせた攻撃にシールドで対処せざるを得ない。

 

 (こいつ、こっちの動きをずっと観察してたな!?)

 

 もともとシールドが頑丈な質では無いため、使えば思うように飛べず、体が弾かれる。徐々に自分の心が焦っていくのがわかる。銃を喪失し、残る獲物は腰から下げた二振りのみ。新たに出てきた黒い方はなかなか近寄らせて貰えず、動きの悪い方のフォローまでしてくる。

 さらに速度が落ち、このままではなぶり殺しにされると感じた。

 

 二機のネウロイは刀の間合いに決して入らず、やがて徐々に距離を詰めてきた。撃つまでもないと判断したのだろうか、光線も減り、牽制する程度。しかしこちらは反撃も満足に出来ない。

 疲労からだろうか?体の動きが鈍い。いや、思ったような動きが出来ない。振り切ることも出し抜くことも出来ず、段々と太刀筋は鈍り、頭がぼんやりとしてくる。いよいよ瞼が落ちそうになるのに逆らえなくなり、これはダメか、という思考を最後に意識が途切れる。

 霞む視界の中で、最後に銀の鈍い反射光が1つから3つに増えた気がした。

 

 

 1945年2月10日 10:12  フレイヤ作戦司令部

 

 フレイヤ作戦参加部隊は今まさに窮地に陥っていた。

 作戦の要、超巨大列車砲ドーラに敵の攻撃が当たってしまい、トドメの魔導徹甲弾が撃てなくなってしまったのだ。複数のビームを束ねた一射が護衛についていたウィッチのシールドを貫通。そのまま砲身をかすめていってしまったことによりバターのようにとろけた砲身は、もう砲弾は撃てなくなっていた。

 

 これにより、グリゴーリはその場にもはや脅威はないと判断したのか周囲にいるウィッチ達への攻撃も打ち切り、悠々と移動を再開した。

 

 「ドーラは後退させろ!グスタフに予備の魔導徹甲弾を装填!」

 

 これに対し、司令部は超爆風弾を撃ったグスタフに予備の魔導徹甲弾を装填することでトドメ役を代替させようとしていた。

 

 ≪司令部!グリゴーリの進路が変化!予想進路の先にはペテルブルグです!≫

 「なにぃ!?」

 

 前線にてグリゴーリの観測を担っていた部隊からの報告。移動を開始したグリゴーリは当初の進路をやや南に逸れ、その先にあるのは人類の最前線拠点の一つ、ペテルブルグ。なぜ、ペテルブルグに向かうのか、それは今の司令部の人間にはわかるはずも無い事であったが確実なことは、急ぎグリゴーリを破壊しなくては人類の版面は再び大きく狭まり、数年前の欧州撤退戦のような悪夢が繰り返されるということだけだった。

 

 「グスタフへの装填はどれだけの時間がかかる!?」

 ≪再照準も含めて一時間はかかります≫

 「そ、それでは間に合わんではないか、射程の外に出られたら終わりなのだぞ……」

 

 マンネルヘイム元帥の問いに対し、返ってきた答えは覆しようのない数字。作戦参謀も思わず声をこぼす。

 司令部に言いしれない絶望感が漂い始めた。

 

 

 1945年2月10日 10:20 フレイヤ作戦重砲兵部隊上空・502部隊

 

 「どうしよう、このままじゃ逃げられちゃう」

 「けど、俺たちの武器じゃ歯が立たねぇ」

 

 彼女たちもまた、呆然とグリゴーリを眺めることしか出来ずにいた。

 列車砲が破壊された時点で攻撃がやんだ事、手持ちの武装では最大の火力を持つフリーガーハマーですら傷もつけられない事から何もすることが出来ずただその場にとどまることしかできなかった。

 

 その中で、孝美の目線は撃破されたドーラに向いていた。下方に見えるドーラはこれ以上の損害を防ぐべく、連結された機関車に兵が乗りこみ動き出そうとしていた。線路にはドーラ、グスタフの順で並んでいるためドーラは前進することでグリゴーリの射程から逃れるつもりだ。その先は別の路線から北へ戻るのだろう。

 孝美の目に映ったのはドーラの損害状況。砲身に光線がかすめたという報告の通りどろりと溶けた鉄の塊が地面へと垂れ落ちている。だがそれだけだ。それ以外は無事なのだ。つまり、魔導徹甲弾は誘爆をおこしていない、装填されたままなのだ。

 

 「あっ、おい!孝美どこに行く!」

 

 管野の叫びを背に受けながら、孝美は真っ直ぐ降下する。ドーラの上までくると手に持った機銃を投げ捨てる。ドーラの上にいた兵が驚くような顔をしているがお構いなしに尾栓を腕力で強引に開放する。解放された薬室からは3,4mもある巨大な砲弾が滑り落ちあたりに轟音を響かせる。それを見た孝美は砲弾の下に腕を突っ込み、力を込める。

 

 「魔導徹甲弾……まさか!」

 「弾を持ち上げようとしています!」「直接ぶつけようというのか!?」「魔導徹甲弾の重量は数トンもあるのに無茶です!」

 

 上空からそれを見ていた他の隊員達が口々に止めるようにというも、

 

 「諦めるわけにはいかないの!」

 

 何と言われようと孝美は持ち上げるのを止めようとはせず、より一層力を込めるばかりだった。そうして孝美が力を込めていると、その指先の隣に別の指が挿し添えられる。

 

 「一人じゃ無理だろ」

 「管野さん!」

 

 ムスッとした顔で言う管野とは逆の側にも手が添えられる。砲弾を挟んだ向かい側にも続々とウィッチ達が降りてくる。

 

 「そうそう。こういうのは皆でやらなくちゃね」

 「私もお手伝いさせてください」

 「ニパさん、ジョゼさん、皆さんも!」

 

 ウィッチ達が集まり、皆が砲弾を持ち上げようとする。その中に混ざらず、空にとどまるものが二人。ラルとロスマンだ。

 彼女たちは悩んでいた。グリゴーリからの攻撃が止み、手隙となった今なら連絡の取れないひかりを捜しに行けるのでは、と。しかし、今グリゴーリを逃がせばまた重大な被害が出る。孝美が持ち上げようとした魔導徹甲弾はそれを未然に防ぐ最後のチャンスでもあるのだ。

 

 「隊長……」

 

 ロスマンも自分に納得がいく決意を固めきれず、ラルの意見を求める。

 見つめる先のラルの顔は、何処か何時もよりも険しく思えた。

 

 「……行くぞ、私たちもあれを持ち上げる」

 「よろしいのですか?」

 「私の見通しが甘かった。責は負う」

 

 ラルはそこで会話を打ち切り降下に入る。ロスマンも黙って後に続いた。

 

 

 1945年2月9日 11:34 作戦前日 ラドガ湖西岸、オレホヴォ郊外・雁淵ひかり

 

 目を覚ましたひかりはしばらくの放心の後、何処か違和感を感じていた。最初は自分がなぜ雪に埋もれているのか、眠っていたのかをボンヤリとした頭で考えていた。そう思ってすぐに自分が飛んでいたことを思い出す。すると新しい疑問が沸く。体を打ったような痛みはあるものの、空中から落ちてこの程度で済むだろうか。そもそも、何故自分は落ちたのか。

 そこまで思考が回った後、弾かれるようにして上を見る。あの敵はどこだ、あの人型のネウロイは。なぜ、自分は殺されていないのか。瞬間、突然耳に音が飛び込んできた、認識できるようになった。今まで無意識のうちに音をシャットアウトしていたのだろうか。聞こえたのは光線の飛び去る音と当たった地面がそれで炸裂する音、そして慣れ親しんだ栄エンジンの音。

 見上げた先の空ではマフラーを巻いた見知らぬウィッチが戦っていた。

 

 

 

 1945年2月10日 10:20 フレイヤ作戦空域・502部隊

 

 「せぇーの!」

 

 下原の掛け声で一斉に力を籠める。一度持ち上がってしまえば持ちやすいように姿勢を変えることができた。指先だけで持ち上げていた姿勢から掌や肩に乗せられるようになったのだ。

 

 「いくぞ!」

 

 ラルの掛け声でウィッチたちは一斉にに魔道エンジンの出力を上げる。機種もエンジンも多種多様なストライカー9機であってもふらつくことなくまっすぐに上昇できたのは彼女たちの練度の高さが故だろう。作戦司令部も、もはや他にとれる手段はないとして、彼女たちの判断を追認することにした。

 

 「まさかこんなの抱えて突撃することになるとはね」

 「むこうはまだこっちに気づいてないよ!」

 「余裕こきやがって、今に見てろよ」

 

 何処か間抜けな光景だが、たしかに何トンもある砲弾を上空まで持ち上げることに成功していた。眼下にはうねらせていた触手を一つにまとめ、ゆっくりと飛ぶグリゴーリの姿。

 

 「敵の直上600m、目標地点です!」

 「コアの位置変わらず、直上今です!」

 「降下ァ!」

 

 サーシャの判断した位置で502全機は突撃に移る。砲弾を上に支えたまま、より威力をつけるべく加速をつけようとさらにエンジンを吹かす。

 

 「隊長!」

 「全機!私を残して離脱!あとの誘導は私の固有魔法でやる」

 

 ラルの固有魔法は偏差射撃。自らの放つ物の動きを予測する力。砲弾に取り付き、ネウロイに向けての最終誘導を担当する。

 

 「全機、隊長の援護を!」

 「「「了解!」」」

 

 突入するラルは身動きが取れず、また、砲弾の大きさからシールドを張ることも出来ない。そのため、戦闘隊長であるサーシャはシールドでの防御とグリゴーリの触手自体への攻撃を隊員たちに命じた。

 

 「いくぞ、3,2,1、行けェ!」

 

 そうして援護のもと、投下された一弾は敵の妨害をすり抜け、敵のど真ん中へと突き刺さる。数トンの重量とおまけ付きの速度の合成体はその装甲をたたき割り、半ばまでコアに突き刺さった段階で派手に炸裂。その身をバラバラに引き裂き破片の雨を降らせる。

 その結果は、

 

 ≪グリゴーリ健在、再生しています!≫

 

 無情なものだった。光の粒子となり完全に終わったかと思われたそれは、さながらテープの巻き戻しのように元の形を取り戻す。喜びの声を上げた誰もが裏切られ、歓喜の雄叫びとともに振り上げたその腕を力なく下す。

 

 「どういうことだ!?」

 

 現場の誰もが呆然とし、やがて疑問の声を上げる中、ただ一人現状を把握していた者がいた。グリゴーリがその身を巻き戻す瞬間、その中心を見ていた者が。コアの位置を見る魔眼を持つ孝美だ。

 

 「し、真コアです……!」

 「っ、こいつも真コア持ちか!」

 

 以前のネウロイの件から事情を知るラルを通じて、孝美の見た真コアの情報が司令部へと伝えられた。同時に、再生した偽コアの外殻がシールドとなり真コアが見えなくなっていることも。

 

 ≪司令部より502へ≫

 「こちら502」

 ≪敵の狙いが変化した。奴ら、グスタフに魔導徹甲弾が装填された瞬間そちらに狙いを変えおった!≫

 「なんですって!?」

 

 真コアに関する報告に対し、司令部から返ってきたのはグリゴーリの狙いが変わったという連絡。連絡を受け取ったラルが見やると、グリゴーリの触手が再展開されグスタフとの間に居る部隊に対して攻撃を始めたところだった。高射砲や対空戦車も反撃を行うが聞かないかそもそも届かないかのどちらかで反撃の光線で蒸発・爆発していく。

 咄嗟に、ラルが部隊に対しグスタフの守りにつくよう命じようと口を開きかけた瞬間、その脇を抜け、孝美がグリゴーリへ向けて飛翔した。

 

 「雁淵中尉が本体に向かっていきます」

 「おい孝美ィ!」

 

 サーシャと管野が声をかけるも意に介さない。

 

 「早まるな孝美!」

 「発動、絶対魔眼」

 

 一言つぶやいたかと思えば孝美の髪は毛先から徐々に朱く変色し、その体は魔力に覆われる。孝美の固有魔法を知る者みなが何をするつもりなのかを悟った。絶対魔眼による多数の目標に対する同時捕捉。あるいは重捕捉とも呼ぶそれを使って外殻に覆われた真コアの位置を把握しようというのだろう。

 

 

 《フレ……作戦に参…する全軍に通達、…方主防…線にてネウ…イの大規………より、全軍…退!……へ》

 

 グスタフを守るべきか、いや、ここは絶対魔眼の発動中は無防備になる孝美を、いくつかの考えがラルの頭をよぎるが耳に入った無線でそれらの考えは霧散した。

 

 「っ!待て孝美、撤退命令だ!」

 「、何故です?!今落とさなければペテルブルグが!」

 

 朱く染めた髪を振りながら孝美が振り返る。視界に写る、振り返った先にいたラルの顔は感情を表に出した、見たことの無いような顔。悔しそうに歪んだ口元、何処を見るでも無く睨みつけた眼。

 

 「主防衛線が、破られたそうだ」

 

 主防衛線

 ペテルブルグの南、セルトロヴォの北・メドノエオセロのあたりをスオムス湾からラドガ湖までを結ぶように位置する防衛線。1941年、まだ欧州撤退がなされていなかったころに築かれたそれはスオムスとオラーシャの陸軍を主力に欧州各国からの連合軍によって守られていた。それが破られたのだ。

 

 「主防衛線が……!?」

 「そうだ。敵は既にVT線目前まで迫っているらしい」

 「そんな!ペテルブルグはどうなって、速く向かわないと!」

 

 そう、主防衛線。北方司令部がそう定義した場所はペテルブルグの後方約40㎞の地点にあるのだ。それが破られたということは彼女たちの帰る場所であるペテルブルグは疾うに敵の支配地域ということになる。ペテルブルグにはまだ基地要員や動員されなかった歩兵部隊や集積された物資がある。孝美は思う。急げばまだ、助けられるかもしれない、生き残っているかもしれない。それに動員されるのはウィッチ隊である自分たちを於いてほかにない。

 

 「……いや、我々はムルマンスク港へ向けて後退する」

【挿絵表示】

 

 

 しかし、ラルの言葉は孝美の予想を裏切るものだった。

 

 「なぜ!?」

 「グスタフの護衛がある。今、残り一発の魔導徹甲弾を失うわけにはいかん。主防衛線の後方、VT線には戦略予備になっていたスオムス軍が防衛に入った」

 

 それはつまり、ペテルブルグを見捨てるという判断。孝美の中ではそんな判断を下した司令部への怒りやグリゴーリを倒せずに終わってしまった自分への無力感などが渦巻き、ぐちゃぐちゃになった脳はやがてこれまで気づかずにいたことに気づいてしまった。

 

 「……ひかりは?ひかりはどこにいるんです?」

 

 作戦途中に合流するとブリーフィングでは言っていた。なのに、それらしき姿はない。上にも下にも、他の隊員たちの中に紛れているといった風でもない。脳裏によぎる予感を必死に考えないようにしながら、救いを求めるかのような顔で眼前のラルに詰め寄る。詰め寄られたラルが一瞬、背けるような目の動きをしてからじっと見つめてきたことに背筋を冷たいものが走るような感じがした。

 

 「合流予定は、とっくに過ぎている。無線も入っていない」

 

 そう告げられた言葉を脳が理解するまでに数瞬。同じ話を聞いていた管野やニパ、クルピンスキーが何かを探すように頭をあちらこちらに向けているのが視界に入る。胸の前で手を押さえるジョゼとその肩を抱く下原。目をつむり、心を落ち着けるかのように息をするサーシャと深い悲しみを湛えるような目をしたロスマンを見て、彼女の、孝美の感情は噴出する。

 

 「ああ、ああ、ああああ。そんな、なんで……、どうしてよぉ!!」

 

 オラーシャの二月の寒空に、身の毛もよだつ禍禍しさのグリゴーリを背にして顔を覆った孝美の空を裂くような悲鳴が響く。




原作なぞるだけじゃ面白くないとはつくづく思っておりましたが作中で一月分くらいは何とかオリジナル編に入れそうです。一月すると504が壊滅するくらいの頃ですかね。もうちょっと行けるかな。

今回からの話がどうしても書きたくて間に挟む閑話を4つ5つ省いてます。ロスマン先生からの教導や新技、502内での念に関するお話などですがいつか書けたらいいな。うん。

今後の投稿の目安に

  • 新しい話!
  • 閑話!
  • 投稿済みの話を直して!
  • 設定とか見たい!
  • その他・コメントくれ

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