ところで、最近になってフレイヤ作戦が実は3月5日に行われたという資料を見つけてしまった。なんかの特典なのか1945年使用のカレンダーが出たことがあるらしく、ひかりちゃんの書き込みでそう書いてあったらしい。一月近く繰り上がっちゃったよどうしよう。
1945/02/13 ムルマンスク港 基地司令部
グリゴーリ攻略を目的としたフレイヤ作戦が失敗に終わり、参加部隊はその多くがムルマンスク鉄道を伝って北方へと後退した。陸路を走る歩兵や機甲部隊はこれから数日をかけてムルマンスク港へと向かうことになる。
それに先行する、優先して退避を命じられた部隊。生き残った列車砲グスタフとそれを護衛する502部隊だ。複数の線路にまたがるグスタフは撤退するに当たって他の部隊の邪魔になると言うこともあり、まず最初に戦場を離脱した。追撃を警戒して502の殆どがその護衛についた。極一部、隊長であるラルとその副官としてロスマンだけが先行してムルマンスクへと向かっていた。
「此方になります」
「ああ、ご苦労」
ムルマンスク港の基地司令部。その内にある会議室の一室へとラル達は向かっていた。案内を担当した兵士がそのまま歩哨についたことを確認したラルはノックの後に室内へと入る。中には4人の少女がいた。
「502のラルだ。君たちが例の?」
「ハ!スオムス空軍飛行26戦隊です。私は当時分遣隊を率いるラウラ・オラヴィ・シヴォ中尉です」
入ってきたラルたちの姿を見て、椅子から立ち上がって敬礼する4人。所属を答えたのは薄いグレーの髪をした士官。空色の制服を着込んだ彼女らはスオムス空軍に所属するウィッチだ。フレイヤ作戦においては戦略予備として後方に控えていた。
しかし、前線が突然攻撃を受けたこと、そして他方面に通信が通じないことがわかったことで直接情報を伝える連絡員として出動した。直接作戦地へと向かった連絡機が戻らなかったこともあって第二派にはウィッチが出されたのだ。以降、スオムス軍司令部との間における連絡のやりとりも彼女たちが行っている。
「いろいろと聞きたいことは多いが……、まずは戦況についてと、ペテルブルグについて聞きたい」
ラル達は彼女達に会いに来た。そのわけは、自分たちで直接情報を得るため。軍から回ってくるのを待つのでは果たしていつになるか判らない。その上、欲しい情報が省かれている可能性もある。なにより、こうしてより多くの情報を得てこそ最も最適な行動がとれるものだとラルは考えていた。
「はい。戦況についてですが……」
「そうか……。攻勢は広い範囲でか」
「ペテルブルグですが良くは無いですが最悪でも無いかと。前線の奥に取り残される形となってはいますが抵抗は続いているそうです」
「抵抗が?彼処の守備隊で対応できる規模とは思えないが…」
ラルの考えた通り、ペテルブルグの守備隊は数こそそれなりではあるが、直接の最前線よりは後ろだ。戦力こそあれど、航空ネウロイを相手取るとなれば厳しい以上のものがある。前線を飲み込んだ敵の群れに抵抗と言えるだけの状況に持ち込めるとは、ラルは勿論ロスマンも思ってはいなかった。防空の要が502である以上、それが出払ってしまっては残るはオマケ程度の航空隊と高射砲部隊だ。航空ネウロイ相手では蟷螂の斧にも等しい。
「どうも航空ウィッチが守りについているようです。これはバルトランドの偵察機が撮影した航空写真です」
そう言ってシヴォ中尉が取り出した何枚かの写真。戦闘中のペテルブルグに近づくわけにはいかなかったのかかなり距離をとって撮影されている。
白黒のそれには雲を引いて飛ぶ何かが写っている。別の写真にはそれが複数写っているものもある。よくよく見ればその中には種類があり、広い主翼が見える物や陰影に差があるのが航空機だろうとわかる。それとは別に、明らかに異質なシルエット。小さく、影で殆ど塗りつぶされるような黒いシルエットは凹凸が少ないからだろう。注視してみれば人型が明確に判る瞬間の写された者やさらに詳しく判りそうな写真もある。
「なるほど。確かにウィッチだ」
「こっちの降下しているのは攻撃機でしょうか。と言うことはある程度制空権がとれているということでしょうか」
「極一時的なものだろうがな」
制空権がとれていなくては地上攻撃機は上げられない。爆弾や装甲を抱えて飛ぶ以上鈍重にならざるを得ない地上攻撃機は航空ネウロイに襲われれば無力だからだ。しかし、ペテルブルグにある戦闘機隊の規模ではこの規模のネウロイ相手では制空権をとる前に全滅だろう。ある程度ネウロイ相手に有利に立ち向かえるウィッチがいなくてはこの写真のようにはならない。
「実は、スオムス空軍からもペテルブルグに向かったウィッチがいるそうでして。無断で飛び出した、と言うのが正しいそうですが」
「ほう。素晴らしい敢闘精神だ、名前が知りたいな」
「またですか隊長……」
「ユーティライネン少尉と連れのリトヴャク中尉だそうです」
「なるほどな。ちっ、ミーナがキープしているからな……」
「言っておきますけどもうブリタニアからの電話は取りませんからね?」
「甘いな。今のミーナはマーストリヒト・アーヘンだ。一応カールスラントだぞ?」
「それから、ペテルブルグのウィッチですが先の2人を含めて4人はいるそうです」
「そんなに?」
「スオムス軍の監視がそう言ってきたそうです。明らかに航空機では無い動きをするものが恐らく4機以上と」
それを聞いた二人が手元の写真に目を落とす。目を皿のようにして見ていたロスマンが何かに気づいてに口を開く。
「隊長、こっちの、この陰。腕にしては長いし角度がついて……。何か持っています、両手、
そう言われてラルがロスマンの手元をのぞき込む。指で指示された先に写る影は歪な大の字をしている。下ろされた両腕は確かにどちらも異様に長く細い。その上反っているようにも思えた。
「ひかりか?」
「だと思います。扶桑でも二刀流は珍しいそうですから」
「…そうか。来たかいがあったな。孝美に良い報告ができる」
珍しく明確に口元を緩めるラル。ギョッとしたロスマンを見て引き締め直すと、シヴォ中尉達に向き直る。
「それで、反攻作戦については」
「そこまでは……、我々もまだ知らされてはいません」
「作戦となると軍令部の管轄か」
「我々は現場ですから、現場の情報は持ってても上の決めることまではわかりません」
「そうだな。ありがとう。世話になったが、無理を言ったな。こんなもので良ければ持って行ってくれ」
そう言ってラルはポーチからリベリオン製のチョコレートバーを出し、シヴォ中尉に手渡す。
情報を運ぶのが仕事の彼女等が他の部隊にそれを流すのは本来任務外である上、軍紀違反であると言える。そこをどうにかしたのはラルだ。無線が使えない以上、使える手段が限られている中でどうにかこの場をセッティングした。そして、情報を渡す側である彼女等だって危ない橋を渡っているのだ。その事に対する対価を渡すのは当然だろう。
対価にとラルが出したリベリオン製のチョコレート。ウィッチ達にも大人達にも大人気の品。特に、スオムスやオラーシャの者たちに対してはかなり喜ばれる。何故なら彼らは自国の防衛についているからだ。当然、支給されるものは自国の製品が多いから。そんな彼ら彼女等にとって舶来品の品質の良い菓子等涎の的だ。多国籍部隊だからこそ安定して供給される502の強みでもある。
これがブリタニアに駐留するウィッチ隊や他国から海を渡って派遣された部隊の場合、自国から送らせるよりもリベリオンが大量に送りつけた物資の中から調達した方が早く安いため食べなれておりそこまで喜ばれない。甘い物と言うだけで年頃の女の子にとっては、まして自由にものを手に入れられない軍属となれば貴重品なのだが。そう言う派遣部隊には逆にそれぞれの自国の物のほうが喜ばれる傾向にある。それだけ入手が難しいと言うことでもあるが。
「隊長、どうされますか?」
26戦隊の四人が部屋を出て行った後、ロスマンが問うた。傍から聞けば言葉足らずではあるがラルには伝わった。ラルが、ひいては502が、今後どう動くかを問うているのだ。
「正直、出来ることこそあれど明確な方針はあまり選択肢が無いな」
「ですね。それに、最終的な目標をどうするにしても上からの命令待ちであることに変わりはありません」
「だな」
軍属である以上、その行動には制限がかかる。502独力で動くことなど出来ないのだ。出来ることも限られる。比較的独立性の高い統合戦闘航空団と言えど受け身になって命令を待たざるをえないこともある。
しばらく口に手を置いて考えていたラルだが、やがてそれを外し視線のみをロスマンに向けて話し出す。
「ならばいっそ、思いつくままに動いてみるのもありか」
「思いつくままに、ですか?」
「感情のままに行動することは人間として正しい生き方だぞ曹長」
「……そうですね。感情のままに行動してその被害は何時もこっちに押しつけますからね、隊長は」
「……」
ムルマンスク鉄道。
半島の付け根まで伸びる鉄道は戦前と違う点として各地の駅が整備され直し、ある程度の兵力が屯することが出来るようになっていることがあげられる。撤退中の502部隊も夜間は駅沿いに建てられた兵舎を転々とし利用している。
割り当てられた今日の部屋にて、やることも無い、さっさと寝てしまおうと考えていた管野。薄く硬いベッドへと身を投じる直前で扉を叩く音に動きを止められた。
「ちっ、誰だ」
「ボクだよ直ちゃん」
「ワタシもいるよ」
不機嫌を滲ませながら戸を開ける。戸を開けた向こうに立つのはクルピンスキーとニパの二人。互いにこの数日の行軍ですっかり草臥れた制服と油の固まった髪。航空ウィッチ故、地を這う兵隊より多少マシとはいえ汚れはつくし落とせない。
「ンの用だ。言っとくがふざけた内容だったらただじゃおかねぇ」
「怖い怖い。まぁ、用があるのはボク達じゃないんだけど」
「あぁ?」
ガンを垂れ、低いうなり声を上げる管野をあしらうクルピンスキー。傍らに立つニパも予想で来ていた反応だと苦笑する。
「集合だよカンノ。隊長達が帰ってきたんだ」
「は?ムルマンに先行したんじゃ無かったのか?」
当初の予定ではムルマンスクでの合流予定となっておりその間の指揮は戦闘隊長であるサーシャがとることになっていた。サーシャの指揮能力は確かだし、燃料を無駄にしてまでわざわざ戻ってくる必要は無い、と管野はそう思った。
「ワタシ達だってそう思ってたよ。でも戻ってきたんだ」
「まぁ、集合をかけるってことは何か話があるって事なんだろうし行ってみようよ」
どのみち呼び出しなのだから行かないという選択は無い。持つものも無いと管野はそのまま戸を抜け、後ろ手に閉める。そのまま何も言わず歩き出せば二人もそれに続いた。
「来たか」
502の今日の宿舎として割り振られた建物は他のウィッチ隊とも共用で使っている。元々は宿として作られた建物で、集合をかけられた隊員達が集っているのも食堂として使われる空間の一角だ。
木から削り出された長テーブルには既に他の隊員が着いており、各々の手元には湯気を上げるカップ。とはいえ茶や珈琲などと言った洒落た物は無い。白湯だ。
「これで揃ったな」
場を仕切る、と言うか声を出しているのは上座に当たる、見る者によってはお誕生日席とも言う席に着いたラルだけだ。他の者は目線を手元にやる者や無言で寄り添い合う者たち等様々だが声を上げる者はいない。
遅れて入ってくる形になった管野達も同じように声を出すことも無く席に着く。
「空気が暗いな」
「判ってて言わないでください。さぁ、全員傾注!」
空気を読めていないのか壊しにかかったのか、ラルが茶化すもロスマンがそれを咎める。その声にノロノロと顔を上げた隊員達の顔には疲れと何かが浮かぶ。ロスマン達、と言うかラルを見る目つきは何処か厳しい。
「貴方達がそうなるのは判るから簡潔に行きましょうか。ちょっとした希望を持ってきたわ」
そう言って手元のファイルを開く。取り出され、机の上へ滑らせるように投げ出されたのは数枚の写真。サーシャがそれに手を伸ばし覗き込めばそれは白黒の世界に写る何か。一目見ただけでは分かり難いこれも、完全記憶能力を持つサーシャには思い当たる光景がある。
「スオムス湾からペテルブルグを見た光景、でしょうか?もしやここ数日の?」
「ああ、つい数十時間前に撮られた物を入手してきた」
それを聞いて、他の者たちも反応する。サーシャに隣り合う者はその手元をのぞき込み、そうでないものは机の上に残された写真を手元に寄せる。やはりそれも白黒のわかりにくい物だったがペテルブルグの光景と言われてみればわかる物もある。
「空戦ですか?」
航空ウィッチなだけあってやはり同じ結論に至るらしい。一般人や兵卒では大規模な空戦を見る機会も無い、空に幾本も筋が走っている写真など見せられても首を捻るだろう。
「あぁ、ペテルブルグでほんの少し前に空戦が行われていた。で、この写真だ」
新たに懐から撮りだした写真を机に弾く。見ればその写真には赤で丸が書き込まれており、その中には一つの影。一目見ただけでは異様なシルエットとしか言いようのないそれを見て反応する者がいる。
「ひかりだ!」「ひかり…!」
それを聞いて他の者たちも、顔を声を上げた者たちから写真へ戻す。
言われてから見てみれば長さの揃った影は手足の組み合わせに見える。太い方の陰の付け根に括れを見つければそれがストライカーと足の段差だと判る。腕から伸びる影は扶桑刀だろうとも。
「あっ、あー!ホントだひかりだ!」
「間違いない、よく見ればこっちの写真のこれもそうっぽくないかい?」
「えぇ、この雲の引き方には覚えがあります」
食堂の空気は途端に明るくなり、隊員達の声が上がるようになる。疲れを感じさせ無い会話はさらに気力を回復させる。
「良かった……無事だったんだ」
「よかったですね孝美さん!……孝美さん?」
喜び合う中で、下原は孝美に声をかける。亡くしたと思った妹が生きていたのだ。作戦中断が伝えられたときの有り様は酷かった、死人のような顔つきで飛ぶ様子は見ていられなかった、きっと彼女も嬉しいだろうと思ってのことだった。ところが声をかけた先の本人からは反応がない。
「すぅ、すぅ」
「寝てる……」
下原が顔を向けた先、片腕だけを机の上に出した姿勢の彼女は手に写真をつかんだまま首をかしげるようにして寝息を立てていた。その顔は険がとれ、穏やかな顔つきだった。
「安心したんだろうね」
「で、気が緩んでそのままぐっすりとってこと?」
「なら、ベッドに移してあげましょうか」
サーシャが立ち上がれば管野やニパも手助けを申し出る。クルピンスキーも勿論立ち上がったが、ロスマンのインターセプトが入った。
どうやら話に一段落がついたことで他の隊員達も眠気を感じだしたようでこの場は解散ということになった。ぞろぞろと食堂を出て行き、最後にラルとロスマンの二人が残る。
「これが思いついた事ですか?」
「そうだ。ムルマンで待っても良かったのだがな、知らせてやりたかった」
そう言うとカップの白湯を一気に飲み干し机に置く。そうして立ち上がったラルはロスマンの方へ顔を向ける。
「エディータ。もう暫くつきあってくれ、そろそろ仕上げておきたい」
「仕上げて、って″発″完成の目処がついたんですか!?」
「なんとなく、だがな。後は数をこなせば何とかなる」
連れだって食堂を出る二人。その足先は他の隊員達とは違い自分達の部屋では無く、外へと続く扉へと向かっていた。
1945年2月15日 ムルマンスク港 司令部
グスタフを護衛してムルマンスクに着いたのは2月も15日となってからであり、作戦から4日が経過していた。
到着した502部隊の各員は基地の誘導に従い臨時滑走路へと降りた。格納庫代わりの資材倉庫ではどこの部隊から来たのかもわからない整備士達が待機しており、ストライカーを預けろと言ってくる。それと同時にその場で軍部からの呼び出しを受ける。《502部隊は至急司令部へ出頭せよ》と。
出頭、と言っても呼び出された先は基地指令の執務室でも無ければ軍事裁判所でも無い、ごく普通の会議室。入口の脇には第3会議室とオラーシャ語で書かれた木板が打ち付けられ、左右には小銃を持ったオラーシャ兵が歩哨についていた。502の隊員たちはラルを先頭にそのドアをくぐる。大きな長机が縦に2つ並ぶその会議室。そのうちの片方の机には、既に複数の人間が席についていた。
「ラルお姉様ッ!」
部屋に入った瞬間、椅子を蹴り飛ばさん勢いで立ち上がった少女がいた。そのまま駆けだそうとしたところを左右にいた別の少女達によって止められるが羽交い絞めにされてなお暴れている。
管野は見た。先頭で入ったラルが足を止めた瞬間の表情を、遠い目を。隊長にもやっぱり苦手な奴っているんだなぁ、と管野は思った。
それと同時にこいつは苦手になるのも当然な相手か……とも。というのも管野にもその少女に見覚えがあった。
迫水ハルカ。扶桑海軍中尉であるが、悪い意味でスオムスでは有名な人物。39年という戦争の初期も初期からいるベテランだが腕前以上に女好きとして有名。節操なく声をかけては手を出そうとすることで知られ、所属基地のカウハバは魔境だの背徳の地などと呼ばれるようになってしまった。
「わぁ、ハルカちゃん。ってことは……」
「お久しぶりです。ヴァルトルートさん」
「やぁヴェスナ。元気してた?」
「はい。そちらもお変わりないようで」
続いて部屋に入ったクルピンスキーも暴れるその少女をみて、その名前を口にする。そのまま目を横に滑らせると思っていた通り、クルピンスキーにとって見知った顔もそこにいた。
部屋にいたのはスオムス空軍義勇独立飛行中隊の面々。去年の4月に作戦を共にしたウィッチ達だ。ヴェスナはオストマルクのウィッチだが後にカールスラント空軍JG52にてロスマンの教導を受けたり、クルピンスキーの毒牙にかかったりした子だ。
「どうも、ラル隊長」
「ああ、ウィンド少佐。昇進と507への改編おめでとう」
「ありがとうございます」
ラルに声をかけたのはニパとおそろいのセーターを着たウィッチ。スオムス義勇独立飛行中隊、今の第507統合戦闘航空団の隊長、ハンナ・ウィンド少佐だ。
4月の戦いの後、公にはされていない戦果が元ではあるが義勇独立飛行中隊は7番目の統合戦闘航空団となっていた。ただし、改編は作戦終了から暫く立ってのことであったため、改編後に顔を合わせたのは是が初であった。ウィンド少佐は507への隊長就任に伴ってふさわしい階級をということで大尉から少佐へと昇進した。
「スオムス防衛の507がここにいるということは」
「ええ、領地奪還のために我々も攻勢に参加するということです。ここはそのための作戦について聞かされる場所ですよ」
502がカールスラント奪還を主任務とする攻勢部隊とすれば507はスオムス、ひいては北欧を防衛することを目的に編成された部隊。そのため、作戦によっては基地を大きく移動することもある502と対照的に507は基本基地を動かない。それが、44年4月の作戦のように再び合同で作戦を行うということは、またそれだけの大規模な防衛、領土奪還が行われるということだ。
詳しくは担当の軍人からと言うウィンド少佐の言葉に作戦に関する話はそこで打ち切られる。隊員ごとにそれぞれのグループへと自然に分かれ、話に花を咲かせる。原隊が同じで仲の良いニパはウィンドと。クルピンスキーとロスマンはヴェスナと。また、ラルもそこに入っていった。そのまま迫水もトレイン。迫水中尉に付き纏われ、逃げようがない、加えて一対一では分が悪いと判断しての事だった。面倒な物まで持ってこられたと思うヴェスナのラルに対する視線がキツくなる。
「あぁ、そういやあんなんだったなそっちの戦闘隊長……。忘れたまま思い出したくなかった」
「えぇ、相も変わらず節操なく声をかけてますよ。最近はもう自室とかでは無く持ち込めそうなら何処でもヤる勢いです」
「どさくさに紛れて後ろから案がかなり真剣に話し合われるぐらいには問題になってるよ」
管野と一緒にいるのは下原にジョゼ。507からは同じアジア圏から来ているシャムロ王国人のプロイ曹長とリベリオン軍所属のアフリカ系リベリオン人であるリー・アンドレア・アーチャー中尉。そして、
「もしかして新人さんですか?」
「扶桑海軍、三隅美也軍曹です!」
佐世保海軍兵学校でひかりと欧州行きを争った相手。三隅美也が新たに507に加わっていた。当然、昨年の作戦に参加していないため502との面識は無い。孝美を除いて。
「三隅さん、元気そうね」
「お久しぶりです、雁淵中尉!」
10月に撃墜された孝美は扶桑に送り返された後、舞鶴で目が覚ました。その後、佐世保を経由して欧州までの道中を三隅と共にしていた。北郷校長の手配でちょっとした指南をして以降の付き合いだ。
「本来ならもっと早くに補充が来るって聞いてたんだけどねー」
「余り表だっては言われなかったがそっちに持って行かれたとか聞きましたよ」
「あぁ、ひかりさんは元々カウハバに着任予定でしたっけ……」
「どうせ隊長が書類上は誤魔化したんだろ。書類上は」
元々507への補充要員として、佐世保の航空学校では欧州行の志願者の募集が行われた。カウハバは実際かなりの僻地と言え、前線にはスオムスの首都ヘルシンキの方が近いくらいだ。507の元になった義勇独立飛行中隊はある事情から左遷されてそのような場所にいたため、学徒兵であっても問題ない任地と判断されたという経緯がある。ところが、その学徒兵がカウハバに着任していないとなった。扶桑海軍の人事にどのような形で話が通ったのかは不明だが、カウハバには改めて別の学徒兵として三隅美也が送られる運びとなったのだ。
「あの、そのひかりさんは何処に?」
「あー……、その、だな」
管野が思わず口を濁していると、それを見かねたのかジョゼが口を開く。下原はともかく孝美が口を開かなかったのはなぜだろうか。
「ひかりちゃんは今ペテルブルグに取り残されて……」
「ぺ、ペテルブルグって今包囲されてるって」
取り残されていると聞いて顔色を変える三隅。彼女達も今の前線がどのあたりにあるかは知っている。当然502の拠点であるペテルブルグの位置も、それが既に敵の前線に飲み込まれて敵陣のただ中にあるということも。
「いや、いや!無事らしいのは確認してるから!おいジョゼ!もうちょっと、こう、なんかだなぁ!」
「でも、他に言い様もないし」
「だがよお、見ろって顔真っ青だぞ!」
「あの、巻き添え食らった孝美さんの顔色も……」
「だ、大丈夫。そうよね?ひかりが強いのは知っているもの。だから、だい、大じょ、うぅ!」
数日前の宿でひかりの写された写真を確認して以降、孝美の精神は持ち直していた。が、時折不安に襲われては呻くようになり、その時その時で近くにいた隊員がフォローするようになっていた。
呻く孝美の制服の内側にはひかりが写された白黒写真が入れられており、そこに手を当てている。その際でうっかり他の目があるところで呻いたせいであらぬ噂がたっている事に孝美は気づいていない。
「収集つかなくなってきちゃった」
「口にはしなかったがミヤもその、ヒカリ?だったか?に会えることを期待していたようだったからな」
にわかに騒がしくなる場。なんだなんだと他の隊員達もよってくる中で、プロイとリーは自分達ではこの場を収めることは出来ないだろうなーと考えた。二人は誰かが空気を変えてくれることを待つことにアイコンタクトで合意し、それまでは三隅のフォローをしておくことにした。
喧噪が止んだのは、部屋の入口の方から咳払いが聞こえてから。即座に気づいた両部隊の隊長が敬礼するのに一拍遅れて他の隊員たちも敬礼をする。咳払いをしたのはカールスラントの大佐。その後ろから会議室へ入ってきたのはスオムス軍のマンネルハイム元帥。フレイヤ作戦においても参謀として参加していた人物だ。
ブリーフィングを始める、という大佐の声に全員が席に着く。部屋の明かりが消され、部屋の前に張られたスクリーンに半島の戦線の様子が投射される。
「現在の北部方面の状況は皆も聞いていることだと思う。前線を突破され、そのまま攻め込まれた。現在はその後方、以前の前線として用いられていたラインを再利用する形で何とか防衛線を張りなおした」
投影される地図には半島の付け根を半ばから断ち切るかのように伸びる線。前線を指し示すそれはスオムス湾から白海までを途中の湖や沼を結びつけるようにして伸びている。
「現在の前線は一度落ち着いたと言ってよかろう。敵の勢力が最も多いのはこの、カレリヤ地峡のVT線を攻める一軍だ。現在ここは戦略予備となっていたスオムス軍を中心とする軍でもって防衛が行われている」
「また、我々には別の問題もある。先のフレイヤ作戦にて奮闘むなしく見逃すこととなった"グリゴーリ"のことだ」
写真が切り替わり、グリゴーリが映し出される。それを見たウィッチ達もそれぞれの反応を返すが総じて悔しそうだ。
「作戦終盤の観測通り、"グリゴーリ"の進路はペテルブルグに向いているものとされる。到着にはまだあと数週間はかかるだろうとの見方だ」
「グリゴーリを放置することはできない。もしこのままペテルブルグにグリゴーリが到着することとなれば、そう遠くないうちに人類はこの半島からたたき出されることとなるだろう」
ペテルブルグ、そしてそれが存在するカレリヤ地峡は人類軍にとっての重要拠点。なぜならば工業地帯だからだ。戦前からオラーシャ・スオムス両方にとっての要地であり、その生産力は北方を支える一因でもあった。特に貴重な造船能力のあることがあげられる。ペテルブルグからはスオムス湾をはさんでそう離れていないスオムスの首都ヘルシンキでは既に疎開が始まり、政府機能も移転の用意が始まったという。
「連合軍の最終目標は"グリゴーリ"の撃破と戦線を以前の大陸側まで押し戻すことにある。が、しかしだ……」
そこまで言った大佐が言葉を濁す。無理もないことだろう。戦線を押し戻すまではこれまでのネウロイ大戦の中で幾度もあった事だ。しかし、"グリゴーリ"の、ネウロイの巣の撃破というのはほとんど前例がない。その前例もインチキじみたものであり、まっとうな方法で挑んだフレイヤ作戦の失敗は記憶に新しい。人類がかき集めた戦力はその多くが蹴散らされ、あげく替えの利かない超兵器はその片方を完全に喪失。もう一両も砲身交換と整備には時間がかかる。どのみち、フレイヤ作戦と同じ手は使えなくなってしまった。もはや打てる手は無い。
口をつぐむ大佐に代わってマンネル兵務元帥が口を開く。
「はっきりと言えば、今の人類にグリゴーリがペテルブルグへ行くことを阻止することは不可能だろう。今、我々に残された手札はあまりに少ない。これ以上は援軍を待つほかない。君たちにはそれまでの間、この半島の維持をやってもらいたい」
「発言、よろしいでしょうか」
マンネルヘイム元帥の言葉が切れたところを見計らってか今度はラルが口を開く。
「現在ペテルブルグに残された部隊に関してはどのようにするおつもりでしょうか」
「無論、見捨てたりはせん。君たちにはまずそれに従事してもらうつもりだとも」
再度、写真が切り替わる。写されたのはラドガ湖を中心とした周辺地図。元帥が手に持った棒で指示したのはラドガ湖の東側、東カレリアと呼ばれる一帯。オネガ湖との間に防衛線を示すラインが引かれている。
「今の時期、ペテルブルグへとアクセスするのにスオムス湾側からでは危険だと軍令部は判断した。よって、その反対側。凍り付いたラドガ湖を脱出路として確保するという作戦が持ち上がった」
ラドガ湖の一部を意図的に破壊し陸上型に対する防御として用い、空戦ウィッチを主体に護衛しようという作戦。しかし、凍っているとはいえその厚さは一定ではなく、人類軍にとっても危険な道のりとなる。しかし、南は敵側、北にも敵の前線、西は使えない状況では唯一の活路でもある。
「諸君らにはこれより、東カレリアはペトロザヴォーツクへと向かってもらいそこで、戦線の押上、ひいては脱出作戦へと参加してもらう。以上!」
「総員、マンネルハイム元帥に敬礼!」
隊員の念能力も頑張ってはいるんですが中々決められず、特質系の隊長をよりにもよって早くに決めてしまう始末。あと決まってるのもはさんだけなんよー。
感想のコメントありがとう!原動力って大事。でもやっぱり序盤の方は書き方が甘いというかなんというかなので新規読者が増えそうにない原因なのかなって思ってる。新話の投稿、序盤の書き直し、さぼって先に進めた閑話とやることが多い。特に閑話は肝心の念関連だからどうしたもんか。
503の情報が欲しい…
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