念能力者(?)なひかりちゃん(?)   作:シチシチ

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アニメ終わっちゃいましたね……。相変わらず最の高だったんですがこの小説で考えてたネタもいくつかつぶれる危機に瀕しています。


ペトロザヴォーツクにて

 オネガ湖湖畔にあるデレェフヤンノイェ飛行場はオラーシャ軍が管理する飛行場である。ペトロザヴォーツク南方に位置するこの基地は最前線のすぐ後ろというその性質から前線が突破されて以降、複数の飛行隊が進出。一大航空拠点と化していた。

 しかし、元の規模がさして大きくないこの基地では必要なキャパシティを満たすことが出来なかった事から、配備されたのはエアカバーを担当する戦闘機隊と必要面積の小さいウィッチ隊が集中していた。地上攻撃機等は北の氷上基地であるコンツポヒヤに、航続距離の長い双発機等はさらに後方のヒルバスに集められていた。

 502と507の統合戦闘航空団はその進出地をデレェフヤンノイェ飛行場とし、赴任からしばらくの間はそこから前線のエアカバーと支援攻撃を行っていた。前身である義勇独立飛行中隊の経験から対地攻撃能力を獲得している507を502が空中援護するという形である。

 

 彼女らが前線を維持している間、ペトロザヴォーツクの基地ではペテルブルグの解放策が繰り返し検討されていた。ムルマンスクからの戦力が各前線へと到着し戦況が膠着したことで、ようやくそちらにまで手が回るようになったとも言う。

 統合戦闘航空団両部隊の隊長であるラルとハッセ、その副官のロスマンとリーは司令部からの呼び出しによりペトロザヴォーツクまで来ていた。

 

 

 「すごい数の軍人ですね……」

 

 リーが運転するジープに乗る四人。後部座席から辺りを見回すロスマンが言うとおり、今のペトロザヴォーツクの街には多くの人間がいた。その殆どが軍服を着ており、また男性ばかりな事も伺え元の町人達が戻ってきたわけではないことが分かる。

 

 「今、この半島で展開されている三つの戦線のうちの一つだからね。戦前にこの街へ来たことがあるけれど、その頃よりも出歩いている人の数は多いよ」 

 「最前線に一番近い大規模な拠点ですからね。ただ、少し違和感もあるのですが」

 「違和感、とは?」

 

 リーの疑問の声に反応したのは助手席の後ろに座るラル。運転を担当しているのがリーであり、その後ろがロスマン、助手席にハッセ、その後ろにラルという組み合わせで乗っている。

 

 「見かける兵士の多くはオラーシャですがスオムスやバルトランドの兵もいる。現地の国ですからそこまでは納得出来るんですが、よく見ればリベリオンの歩兵やカールスラントの戦車兵も見えます」

 

 リーの言うとおり、通りに出ているのはオラーシャやスオムスなどの北方の国の兵士が殆どだ。しかし、町へと入る車両を整理していたのはカールスラントの兵士だったし積まれた物資にはリベリオン語が書かれている。目につかないだけであって実際にはもっと多くの国がこの地に関与していることだろう。

 

 「この地にこれだけの戦力が展開していることが違和感ってことかな?」

 「はい。主戦場のガリアに大規模な戦力が投入されているという話は耳にしますが、北方のこの辺りは仮に取り返したとしてもそこまでの価値があるかと言われると……」

 

 ネウロイの再占領が始まる前、人類が取り返せていた範囲は人類軍から見てそこまでの戦力的価値は無い。東に比べればまだ、モスクワに近く、西欧にも繫がる事から発展自体はしていた。しかし、それも欧州戦の中で破壊し尽くされて久しい。取り返されてからも前線のすぐ後ろと言うこともあり復興は後回しにされた地域だ。

 昨年の夏に501部隊によってガリアが解放されて以降、各国の戦力はその地へと集中して投入されその地に残るネウロイの排除と復興を行いながら前進を続けていた。その状況でこの北欧州にこれだけの戦力が集中して投入されていることにリーは違和感を抱えていた。

 

 「いや、その逆だよ。価値があるから取り返すんじゃなくて、価値あるところまで食い込まれる前に取り返すんだ」

 

 リーの言葉を聞いて助手席に座っていたハッセが言葉を返す。

 

 「確かにネウロイに再占領された地域にそこまでの価値はない。けれど、その先にあるスオムスやバルトランドは小国とはいえ連合軍の一翼を担っている。それを失う事が無いよう、先んじて戦力を集めたというわけさ」

 「付け加えると、ガリアの戦線に見込みがついたと言うのもある。あくまでライン川までの進軍と割り切り慎重に進軍していることもあって、まだブリタニアからガリアへと渡る前の戦力が残されていた。その中で動かせるところから投入されているのだろう」

 

 ハッセとラルの講釈に納得がいったようにリーが唸る。それを傍から聞いていたロスマンは、言わなくて良いことは言わずとも良いという判断かと察した。

 ロスマンが察した内容。それはガリアが主戦場であり、北方がそうではないというリー自身が言ったことについてだ。詰まるところ連合軍の上層部は本気で北方からの進軍で欧州を奪還するつもりはない。取り取られ、取られて取り返す。そうしてペテルブルグ以南の地域を緩衝地帯とすることでネウロイの戦力を誘引し漸減するつもりなのだ。それをもって欧州の主戦場たるガリア方面、ひいてはベルリン攻略に対する援護とするのだ。

 それはその地をさらに荒廃させる事となる作戦であり、決して気分が良い物ではない。知らなくて良いのなら知らなくて良いことだろう。

 

 

 四人を乗せたジープは歩哨の誰何を抜け、司令部へと入っていった。

 

 司令部として使われている施設は元は教会であった建物で、大勢が同時に話を聞ける空間としてその礼拝堂が使われている。昔に受けた襲撃の跡なのか屋根の一部が吹き飛ばされており、今は雨除けにキャンパス布で塞がれている。

 礼拝堂に元あった長椅子は運び出され、中央へ代わりに置かれたテーブルの回りには雑多な制服や階級章をつけた軍属が立ち並び、それぞれの副官や同行者、或いは見知った周囲の者との歓談で時間をつぶしていた。

 ラル達四人が入ったところで、最奥に立っていた人物にその副官であろう者が何やら耳打ちする。それを受けた軍人は咳払いの後、そちらに注目させるよう声を上げた。

 

 この場に集まっているのはこの東カレリア地方の防衛に着いている部隊の指揮官達だ。ラドガ湖とオネガ湖に挟まれたこの地方にはスヴィリ川が二つの湖をつなぐようにして流れている。その川を防衛戦として活用し戦線を構築している。

 

 

 「グリゴーリの接近により、もはや猶予は残されていない。ペテルブルグに残された将兵並びに工員を助け出すのは之が最初で最後の機会になる。その事を念頭に置いて話を聞いて欲しい」

 

 この東カレリア戦線には戦線を守る部隊に加え、502達ペテルブルグの解放作戦に参加する兵力も展開している。本来ならばあくまで解放作戦開始まで駐留するだけのところを戦力不足故に戦線の一翼を担う存在として展開せざるを得なかった。それがムルマンスクに陸揚げされた増援が到着したことによりようやく動かせるようになった。

 彼ら彼女等がペテルブルグに向かうことで再び生じる戦力の穴埋めにどの増援部隊をどう投入するかなどについてもこの場で話し合われるのだ。

 

 現在東カレリアで最高階級となるカールスラントの将軍の話の次はペテルブルグ解放作戦の指揮を執るオラーシャ陸軍中将が話し出す。

 従兵達によって地図とマーカーが机に置かれる。作戦に関する物だろう情報が書き込まれた地図は、見る者が見ればその内容を一目で看破出来るであろう代物だった。

 

 「これは、"ベロモルカナル"ですか」

 「そうだ!我が帝国の誇る偉業!運河を使ってペテルブルグまでの補給線並びに退路を確保する!」

 

 "ベルモルカナル"とは、白海から幾つかの湖を経由してペテルブルグ近郊のバルト海までをつなぐ巨大運河である。1930年代に完成したそれは、オラーシャ帝国によって行われた大規模な工事によってつくられた長大な人工物である。啓蒙専制君主を自称した時の皇帝によって強硬されたそのプロジェクトには多くの人命が費やされ、各国からの非難を浴びた。

 

 「偉業ねぇ」

 「従事した人間はどう思っているのやら」

 

 そのことを知る人間からの反応は当然冷ややかなものとなる。

 

 「もう3月がそこまで近づいている以上ラドガ湖の氷上を渡るのは厳しくなるやもしれん。だが、それは言い換えれば氷は薄くなり破壊しやすくなっていると言うことでもある!そこで、我が祖国の航空艦隊によって爆撃を行い之を破壊!その後は砕氷船と合わせて運用していく方針である!」

 「そのためにはラドガ湖まで船を持ってこなければならない。戦前に放棄されたものから使えそうな物を見繕ってはいるが到底足りん。白海から持ってくる必要がある。そこで、北を守る連中や君達にも戦線を押し上げて貰い!一時的な制海権成らぬ制川権を取って貰いたい!」

 

 ラドガ湖には元々スオムス、オラーシャ共に小規模ながら艦隊がいたのだが1939年以降の戦いで戦線が下がったときに放棄されている。運良く状態の良かった物のレストアや列車を用いたヴェネツィア海軍水雷艇部隊の輸送などで数を増してはいるが、ペテルブルグに残された万を超える人員を引き上げるには足りない。

 そこで、白海から運河を使って運び込もうというのだが、運河は絶賛防衛戦として活用されている。よって利用のためには一時的に運河から敵を引き剥がす必要があるわけだ。

 

 「簡単に言ってくれるよ、全く」

 「之だからオラーシャ人は」

 

 無論容易なことではない。古来より渡河作戦は困難極める物でありその犠牲となる物は多いのだから。一人でヒートアップするオラーシャの将軍の様は異様とも言え、会議といった様相ではない。計画を立て、指揮をするのはこの男とその作戦参謀たちだろうが、前線で実際に戦うのは彼に冷ややかな目線を浴びせる彼らなのだから。

 

 

 二時間もした頃、ウィッチ4人の姿は再び車上にあった。作戦に関しての情報の共有こそ行われたが、集められた者達はそれが済めばもう用はないと言わんばかりに我先にとその場を離れた。離れた者達がその後、どう動いたのかはそれぞれだが、この4人の場合はその場に集められていたうちの一人であるウィッチと会っていた。

 

 「交代の相手が"ノルマンディ"だとは思いませんでした」

 

 東カレリアを離れる統合戦闘航空団に代わり、その地の防衛、並びに一時的な戦線の押上を担当する部隊として連合軍から派遣されてきた部隊。そのうちの一つがガリア空軍の"ノルマンディ"と呼ばれる部隊であった。

 "ノルマンディ"は、欧州撤退により散り散りになったガリア空軍が自由ガリア空軍として再び再編された際、オラーシャからの支援をもとに結成された部隊だ。結成にあたってそれこそ戦術の教導レベルからの一からの編成となったため使用する機材等含めてオラーシャの色が濃い。

 

 「そういえば、そちらのジョゼさんの事は何も言わなくてよかったですか?」

 

 ハッセがそう尋ねる。

 ノルマンディは502のジョーゼット・ルマール少尉の原隊でもある。アフリカからリベリオンへと渡り、自由空軍へと所属したのち、オラーシャの地にて彼女は練成に励んだ。同じ502のサーシャともそこで出会っており502へもその縁で声をかけられた。

 ハッセも507という一つの部隊を率いる身である。当然部下の経歴は把握しているし、戦場を共にするウィッチ、ましてエースのみで編成される統合戦闘航空団の者ともなればその経歴には目を通す。ジョゼのこともそうして知った。

 

 「いや、その必要はないだろう。私の知っている部隊長と顔が変わっていたからな」

 

 ノルマンディは損耗の多い部隊だ。他国の援助を受けて結成された部隊であることからその国の利益となる形で戦線に投入される。ノルマンディの場合は激戦区となるオラーシャ国内の戦線へと投入され、既に幾度か隊長が変わっている。無論、広く知られている事ではないが。

 

 「珍しいことではないとはいえ、知らせるようなことでもありませんか」

 「まぁ、通達を受け取っている可能性はあるのだけど。掘り返すようなことになるかもしれないし言わないに越したことはないわね」

 

 隊員が欠ける、定数割れの部隊、被弾に伴う次席への指揮権移譲からの臨時部隊長。時には部隊ごと消滅するようなこともある。この場にいる4人とてそれぞれの戦場の中で亡くした戦友の数は知れない。

 もしかすれば、この作戦の中で新たに戦友を失うかもしれない。戦場にいる以上決してありえない話ではない、いかなエースの集団と言えど絶対はないからだ。

 

 

 

 「やっぱロクなモン無かったな」

 

 デレェフヤンノイェ飛行場に併設されるようにして建てられた宿舎。リベリオンから供給される、クォンセット・ハットというかまぼこ型の兵舎を幾つも並べて用意されたその区画の一部が統合戦闘航空団の面々に割り当てられていた。

 そのうちの一つ、談話室のように使われている一棟の戸が開かれ管野が入ってくる。普段よりも幾分厚着をしていることから兵舎間の移動程度ではない、外出をしてきたのだろうことがわかる。管野が戸を離れれば続いて下原、ジョゼが入ってくる。

 

 「料理やんねぇ俺でもわかるくらいしょっぺぇ食材しかなかったぜ」

 

 この3人は自分たちの部隊へと割り当てられる補給物資の確認を命じられ、飛行場の倉庫へと赴いていたのだった。三人がそこで見た食材はなんとも侘しい物であり、量こそ十分なれど生鮮食品や食材と言えるようなものは質が悪いかそもそもが存在せず、あとは缶詰やレーションの類で補填されていた。

 

 「グリゴーリの通り過ぎた後とはいっても油断はできませんから仕方がないです」

 「護衛に割ける戦力もないって感じがするし……。欧州撤退の頃を思い出しちゃう」

 

 二人の言に付け加えるならば、土地そのものの問題もある。未整備の山林も多い北欧で、その土地に住む人間以上の軍人が展開するという異常事態、加えて補給されるのは食料だけでなく燃料や弾薬もある。道路や線路といったインフラ自体がその補給物資の量に耐えられなくなっているのだ。

 そういう意味ではオラーシャの将軍が提起する一時的な戦線押上げとそれに伴う運河の開放が軍令部によって承認されたわけもわかる。遠くムルマンスクから貧弱なインフラを経由して送るのではなく直接現地に揚陸してしまおうというのだ。"ベルモルカナル"は全て手作業で掘られた割に規模が大きく、最初にその川を利用したのは軍艦であったほどだ。

 

 「しょっぺぇ、というのは扶桑の言い回しですか?美也。塩辛いという意味そのままではないように思いましたが」

 「えっと、どうなんだろう。私は聞いたことないです……」

 

 管野の発言に反応したのは先んじて兵舎まで戻っていたヴェスナと美也。二人も自分たちの部隊への補給品の確認に出ていた。自分たちへと割り当てられた仕事が終わった事もあり、談話当棟へと戻っていた二人は暇を持て余し雑談に興じていた。管野の発言に対する反応もその話のネタの一つである。

 

 「あー、なんつうか大したことないとかしょぼいとかそんな意味だよ」

 「語源は相撲からですね。関東圏で使われる方言のようなものだとか」

 

 「方言とかよりもさー、お昼はどうするの?補給はあったんでしょ?」

 

 会話に割って入りそう声をかけたのはニパ。管野が目を向ければ兵舎の中にはほかの隊員たちも集まっていたことに気づく。とはいえそれもそのはずで、ここ以外にいる場所があるとすれば自分の割り当てられた兵舎かユニットのとこぐらいであり行くところが無い。まぁ、ペテルブルグやカウハバの基地にいたころと変わらないと言われればその通りでもあるが。

 クォンセット・ハットと共に支給された簡素な長椅子。木製の骨に幌を巻き付けたハンモックのようなそれの上に転がるニパはけだるげな様子で自分の腹をさすって空腹をアピールしていた。

 

 「補給つってもつまんねぇレーションばっかだ」

 「えぇ~。もうあの紙箱の奴飽きたよ」

 「まぁまぁ。僕たちは一日一品自前の缶詰を足せるだけマシだよ。他の部隊じゃそれも出来ないとこも珍しくないだろうし、それに日に三度食べれるだけありがたいと思わなくちゃ」

 「そうかもだけどさ~」

 

 紙製の箱をセロハンで包装したKレーションはその手軽さからありとあらゆる戦場で使われている糧食であるがメニュー内容は限られているため即飽きるという欠点があった。502では料理上手な下原の手により他の糧食のセットとの組み合わせや一手間の追加、場合によっては『頂いて来た』調味料で味変したりとよその部隊よりは恵まれた食生活を送っていた。

 ちなみに、一時期のペテルブルグと食糧事情はどっこいどっこいだったりする。あのころも貯蓄の缶詰やレーションで補給難を乗り切った。

 

 「そういや飛行場にまた新しいウィッチ隊が来てたぜ」

 「おっそれホント?かわいい子いた?」

 

 ぶー垂れるニパを無視し、管野が話題の転換を図る。補給を受け取りに行った先の飛行場でまさに到着した直後といった部隊を見たのだった。ウィッチと聞いたクルピンスキーが飛びつくようにやってきた。

 

 「かわいい子っつーかカールスラント軍だったぜ」

 「えっどこだろう」

 「あれは第4航空艦隊でした」

 

 管野とクルピンスキーの会話にヴェスナが入る。管野がその飛行隊を見た時、ヴェスナと美也も共にいたのだ。第4航空艦隊はカールスラント空軍の中でも比較的欧州の南側によく派遣されている。それが欧州に来たことに違和感を覚えたクルピンスキー。

 

 「それも装備を見るに爆撃航空団ですからクルピンスキー中尉とはかかわりあいの無かった部隊だと思いますよ」

 

 なお、そのことについて詳しく聞こうと考えたところでうっすらと笑みを浮かべながる喋るヴェスナをみて、クルピンスキーはああ、そうなのかい?とだけ返した。それを見たカンノは小声で話しかける。

 

 「中尉まだ微妙な感じなのか」

 「先生がいるときなんかはこんな感じじゃないんだよ!先生が居なかったり顔を向けてないときにだけあんな感じで笑うんだ!」

 

 欧州撤退戦の頃は同じ部隊で生活していたクルピンスキーとヴェスナ、そしてロスマン。そのころは新人だったヴェスナに強い影響を与えたのがクルピンスキーであり、そしてそのころからクルピンスキーの女好きは発揮されていた。

 そのこともあって関係をこじらせていた三人だったがスオムスで再会して以降、そのわだかまりは解けた……はずだった、と管野は思っていた。

 そのこともあり、気になった管野は直接問うてみることにした。クルピンスキーを遠くへと追いやり、代わりに今度はヴェスナに対して小声で話しかける。

 

 「なぁ、ミコヴィッチ曹長。おれはてっきり……」

 「私はヴァルトルートさんたちのことを応援すると決めたのです」

 「なに?」

 「"あの時"、クルピンスキーさんにどういう事情があったのかはまだわかりません。けれど、あの二人の関係を壊してまで私がその位置につこうとは思わない。それだけです」

 

 声は小さいながらもはっきりとした口調。まっすぐと管野を見据えたまま語るように喋るヴェスナに管野は少し気圧される。けれど、言っている事の内容を理解すると気圧されるような感じは消え管野自身もヴェスナの思いに納得するところとなった。

 

 「……そうか。ちなみに、今ちょっと笑ってみてくれるか?」

 「はぁ、こうですか」

 

 そう言われて彼女の浮かべた『ニゴォ...』とした笑みを見て、管野はああ、単純に不器用なだけじゃんかと思いあれこれ無駄に考えるのをやめた。これ以上は邪推にしかならないと。

 彼女に一言礼を言い、元居た座席に戻る。のけ者にされていたクルピンスキーがそばににじり寄ってくるが管野はそれを軽くあしらう。

 

 「何話したんだい直ちゃん」

 「うっせぇうっせぇ。エセ伯爵は黙ってろ」

 「ねぇ、ほんとに何話したんだい!」

 

 

 

 

 作戦当日。日が昇ると同時に全軍が慌ただしく動き始め、一斉に渡河を開始した。気温が上昇し始めたこの季節においても早朝ともなればまだ氷点下を下回ることもある。日中の気温で地面がぬかるむ前に機甲部隊を中心になるべく移動距離を稼いでおきたいという考えからだ。

 作戦の開始と同時に陽動を兼ね、バレンツ海側での空母機動部隊による対地攻撃が行われる。バレンツ海からバルト海までを跨ぐ一大作戦が幕を開けた。

 

 この作戦において、502はペテルブルグ突入を担当する最前衛に参加する。対して、507はそれまでの道中における援護並びに退路の確保を行う。少しでも土地勘があるほうが良いだろうという現場判断による振り分けだ。

 

 

 また、作戦の開始前ブリーフィングでの情報共有の場にて……、

 

 「先日から繰り返し行われていた偵察により、ペテルブルグとの連絡はより一層困難を極めもはや不可能と言える状況にあることが分かった」

 

 ロスマンが機器を操作するとスクリーンに写真が映し出される。数秒ごとに切り替わる数枚の写真、最後に映し出された一枚を見て下原とジョゼが思わず立ち上がる。

 

 「このネウロイはオネガ湖の!」

 「私たちが倒したはずなのになんで……」

 

 スターリングエンジン、あるいはレコード盤の再生機やひまわりのような正面を向いた円盤状の物とそれを支える首のついたネウロイ。季節の変化によるネウロイの動向に対する偵察作戦の中で哨戒任務中に下原達が出くわしたそれは、確かに彼女たち自身の手によって撃破された。しかし、写真に写されたそれは記憶の中にあるままの姿で、今度はオネガ湖ではなくペテルブルグの上でその機能を発揮していた。

 

 「こいつ……、確か雪を降らせたとかいう?」

 「そうだ。こいつの事は以後"リフリゲーター"と呼称する。下原達3人によって撃破されたこいつは、他ならぬオネガ湖の上空に現れ猛吹雪をおこしペテロザヴォーツクを完全に雪と氷で覆った。その時の影響は私たちがいたペテルブルグにまで及んでいたことは覚えているだろう」

 

 オネガ湖にこのネウロイが出現していた時、このネウロイが起こした寒波は遠くペテルブルグにまで直撃。建物そのものが凍りつくまではいかずとも、その暴風と大雪は当時遭難していた下原達への捜索隊を出すこともかなわない状況を作り出したのだった。

 

 「このネウロイがペテルブルグにいると!?」

 「そうだ下原。現地は暴風の壁に覆われ中を視認することは不可能だそうだ。これにより、救出しようにも脱出はおろか内部との接触も出来ずにいる」

 「でも、この吹雪の中ではネウロイだってまともに動くことはできないはず。つまり、この暴風雪はあくまで足止め。本命は…」

 

 言葉を切ったロスマンが再度写真を切り替える。

 

 「グリゴーリの到着」

 

 映し出された写真には幾本もの触手を折り重ね円盤のようにしたものを纏うグリゴーリの写真とそれがどこにいるかを示すしるしのついた地図。日付ごとの位置とその経路が示されているが、一目見ればそれがペテルブルグへ向けて一直線に進んでいることがわかる。

 因縁深い相手の写真に502の面々の顔がこわばる。 

 

 「通常戦力による削り合いは無駄と判断したのだろう。グリゴーリの圧倒的な戦力でもって一気にすりつぶすつもりらしい」

 

 地図を見るにグリゴーリの接近はあと一週間足らずというところにまで来ており、進路上の住民や部隊は既に避難が済んでいるようだった。また、常に張り付いて様子を報告している部隊がいることによりその動向は全軍に対して共有されている。

 

 「早くひかりさん達を助けに行かないと!」

 「そうだ。だからこそペテルブルグへの突入にはあれとの交戦経験のあるお前たち二人を主軸として行う。そこで502部隊はさらに2つに分ける」

 

 ペテルブルグに展開するネウロイは暴風を発生させるネウロイが出現して以降、それを護衛するように周囲を飛び続けている。一体目が単独で行動していた結果撃破されたことから学習しているのだろう。そのため、それに対するウィッチ達も"リフリゲーター"とそれを護衛するネウロイとを相手にする部隊とで2つに分ける必要がある。

 

 「主目標となる"リフリゲーター"への攻撃は下原・ジョゼを主軸に戦闘隊長であるサーシャ、コアを視認できる孝美とペアの管野、火力のあるエディータ。ロスマンのペアには臨時でカタヤイネンに入ってもらう」

 「えっワタシがロスマンさんのペアですか?」

 

 普段、ロスマンとはクルピンスキーがペアを組み、サーシャとはニパが組んでいた。ラルが一人浮く形となるが古傷のこともあって出撃を控えめにしているラルに固定のペアはない。

 

 「そうだ。固有魔法の"マジックブースト"で機動力のあるクルピンスキーには護衛機の群れへの対処に当てたい」

 「そういうことなら了解です隊長」

 

 クルピンスキーが答える。

 

 「……隊長」

 「わかっている。孝美、"リフリゲーター"撃破後はそのままペテルブルグへ突入し現地の部隊と合流してよい。当初の作戦計画とは少し逸脱する形となるが構わん。あとでどうとでもしてやる」

 「ありがとうございます!」

 

 孝美本人も自分の願いが軍機を逸脱する命令違反となることはわかっていた。けれどもし、いざ現場に入ったときに我慢できるかわからない。そうした思いからの発言であったがラルはそれを受け入れ自分の裁量でかばうとまで言ったのだった。

 孝美の発言の後、口を開くものがいないのを見て、ラルが宣言する。

 

 「よし、ではこれよりペテルブルグ開放作戦"スリュムヘイム・スレファ"を開始する。全機発進用意!」

 「「「了解!」」」




この後の展開について手早くいくか考え付いたネタを少しでもぶっこむかのアンケートを年末の一日だけで取ります。

ひかりちゃんはペテルブルグから脱出する?それとも?(脱出の場合はグリゴーリ戦。引っ張る場合は脱出劇みたいな話が挟まるし後にも微妙に影響する)

  • 脱出しちゃおう!(グリゴーリ戦)
  • まだ引っ張れる!(脱出劇)
  • それよりも古い話書きなおして?
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