寝るまでは一日換算でええやろ
多くの国々が一つの陣営として参加する今次大戦。統合戦闘航空団もその例にもれず多種多様な国籍の人間が集まっている。そうなると当然発生するのは国家間の文化の違いである。
そんな中で、どの国にも必ず存在する行事が存在する。即ち年越しである。
502が設立されてから迎える年末はこれで2回目。ともなればそれぞれの過ごし方にも予想がつくというもの。
「管野さん、もう掃除はお済ですか?」
「あぁ。つっても荷物を片した程度だが」
「じゃぁ、始めちゃいますからその間は談話室にでも」
「頼むぜ」
年末の基地で慌ただしく動くのは3人。扶桑人の管野と下原、そしてジョゼ。年の終わりはその年の事に整理をつけて新年を迎える準備をするという考え方は扶桑独自の物らしい。二人からその話を聞いたジョゼはその考え方に感銘を受けたのか基地中を徹底的に掃除して回るようになった。
管野自身もできることからと自身の部屋の整理や普段ならやらないようなストライカーの点検などをやって他国の整備班から気味悪がられたりしていた。
「あれ、下原いねぇのか?」
管野が厨房を覗くと、最低限の処理をされた食材がいくつか出しっぱなしになっているのが見えた。部隊一料理が得意な下原は年末と年越しということでそれようの料理を作っているはずだった。管野もそれを手伝うつもりで訪れたのだった。
おかれていた胡桃を飴で薄く包んだものをいくつか拝借し、口に放り込みながら基地内を歩く。下原が料理を放置してどこかに行くというのに管野は違和感を覚えていた。とはいえ何か問題が発生したというわけでもないだろうと思いながら談話室までくる。
「お、思ったより人がいるな」
中へ顔を出せばそこには4人がいた。それぞれが別の事をしていたがソファやロッキングチェアでくつろいでいることに変わりはない。
「カンノじゃん。今日は遅かったね」
「部屋を整理してたんだよ。お前らの部屋にもジョゼが行ってるんじゃないのか?」
3人掛けのソファを占拠しながら雑誌を読んでいたニパが管野に顔を向けてくる。その声で管野が来たことに気づいたほかの3人もそれぞれの作業を中断して顔を上げる。
「あぁ、僕たちのところにも来たよ」
「というか追い出されちゃったわ。掃除の邪魔だって」
「汚くしていたつもりはないんですけど……」
上から順にクルピンスキー、ロスマン、サーシャの発言である。なお、ジョゼ的にクルピンスキーとサーシャの部屋はアウトだった。大人の葡萄ジュースの空き瓶が捨てられていないままなのと機械油の臭う部屋はNGだった。
「いらないもんを捨てて気持ちに整理をつけるって意味もあるから追い出したら意味ねぇ気もすんだがなぁ。あぁ、そうだ下原見てねぇか?」
「下原さん?厨房にいるはずじゃ?」
「って思ったから手伝いに行ったらいねぇでやんの。おまけに食材出しっぱなし」
管野が料理を手伝うという発言にギョッとしたようなニパと伯爵が顔を近づけてコソコソ話しているのを横目に見ながら管野が言う。
厨房の様子にロスマンとサーシャも違和感を覚えたのか思案顔だ。
「まぁ、知らないんならいいや。隊長とひかりは?」
「隊長なら今年最後の書類仕事よ」
「隊長が年末にまで仕事を残すたぁ珍しい。手伝わなくていいのか?」
「部隊長直筆のサインが必要な書類だったから仕方がないわ。あと、仕事自体は余裕をもって終わらせてあったのよ。飛び込みでスオムスから送られてきた補給物資に関する書類だったから仕方がないわ」
白海に出現した新たなネウロイの巣によって扶桑やオラーシャからの北極海周りのルートが遮断され補給が先細りしていった502.最近になっていよいよ限界かというところでスオムス側から補給の申し出があった。申し出があったとは言うが実際は隊長が手を回したのではないかと管野達は噂しあっていたが真偽はともかく補給があったのは確かで、年末年始にちょっとした料理をというのもこれが無くてはできなかった。
「じゃぁ隊長は仕方ないな。となると後居場所がわかんねぇのはひかりだけか」
雁淵ひかりは502の新人である。下原以来一年ぶりの追加人員であったが、実は本来の配属は姉である雁淵孝美の方であり、ひかりはカウハバにある507へ送られる予定であった。ところが、アルハンゲリスク港へと向かう最中の北極海上にて突如出現した新たな巣"グリゴーリ"による奇襲を受けた際に負傷し意識不明のまま扶桑へと送り返されてしまった。
そこで、何を考えていたのかひかりは502へ所属したいと居合わせたラルに直談判。ラルも奇襲を受けた際のひかりの動きとなにより姉と近い固有魔法から所属を許可した。
繰り上げで飛行学校を卒業したひかりだが、飛行には問題ないことや炬燵を持ち込んだりといったことから部隊に受け入れられ始めていた。
「普段ならもうとっくに起きている時間でしょうし。自室にいるのかしら」
「でも、それだったら私たちのようにジョゼさんに追い出されているはずじゃ?」
伯爵やニパも交じってあれこれ言っていると、廊下の方から何やら聞こえることにロスマンが気付く。
「……?なにかしら?廊下が騒がしくない?」
「本当だ。何か聞こえるね」
そう言ってクルピンスキーが廊下に面した扉のハンドルに手をかけると、開ききる前につま先がねじ込まれそのままか誰かが体を滑り込ませてくる。欧州派遣の扶桑ウィッチの間でよく使われるようになった陸軍式の行李を抱え、クルピンスキーを押しのけて入ってきたのは今まさに話題になっていたひかりだった。
「菅野さん、窓開けてください窓!」
「んなクソさみぃなに何言って「良いから早く!」あぁ?ほらよ」
管野は自分の横にあった窓のカギを指先で押し上げる。開けるのくらいは自分でやれ、というつもりでひかりに目線を戻そうとすると、その半ばで影が視界をよぎり、ばッと振り向けば開け放たれた窓。
「なにしてんのさひかり!ここ二階だよ!」
ニパが窓辺へと駆け寄り、続いて伯爵たちも視線を外に向ける。遅れて管野もみれば、雪原と化した基地内に足跡だけが残り、しばらくして降り積もる雪に埋もれた。魔力を使ってよく見ようと目を凝らしてみるがそれすらも数秒で消えた。他の者も同じようだ。
「あぁ、まぁ、ひかりちゃんなら平気なのかも?」
「野生児かあいつは」
無事そうなら良い。それより寒いから早く閉めてと窓を閉めようとしたところでまたも部屋の扉が開け放たれる。勢いよく開いたそれは蝶番の限界まで行ったところで今度は跳ね返って戻っていく。それを手で止める娘。
「に、逃げられた」
それは、管野がつい先刻まで探していた下原その人だった。制服の上に首からはエプロンをかけ、右手には包丁を逆手に握っていた。
その後ろには三角巾を頭に巻いたジョゼもいた。
「おいおいおいおい」
「なに?なんなの?」
思わず混乱する隊員達。
見かねたサーシャが切り出す。
「し、下原さん?色々聞きたいことはあるのだけど、とりあえずその包丁はどこかに置いてもらえないかしら」
「えっ、あっ!み、皆さんこれはその違うんです!」
そう言って下原は後ろ手に包丁を隠す。
先ほどまでの息を荒げ、迫力のあった姿とは打って変わった姿に他の隊員たちもいくらか落ち着く。
「包丁を持って追い回すだなんてもしかして下原ちゃんとひかりちゃんってそういう関係だったりするのかい?」
「何言ってんのさ伯爵。きっとあれだよひかりがつまみ食いしちゃったんだ。」
「いーや違うね。あれだ、なまはげだ」
「どれも違います!」
またもヒートアップしそうになった下原をサーシャが落ち着かせる。原因となった三人はロスマンに黙らされその場で正座させられる。
下原が再度落ち着いたところでサーシャが事情を聴く。
「それで、いったいどういうことなんです?いくら何でもやりすぎじゃぁ」
「いえ、包丁は手に持っていたからついそのまま持ってきちゃっただけで……」
流石に自分の状況がまずいと気づいたのか目が泳ぎ、しどろもどろに答える下原。見かねたのかジョゼが代わりに答える。
「実はひかりさんがまだ食料を隠し持っていたみたいで……」
「なに!?」
管野が反応する。
補給難により日々の食事ですら侘しいものとなった502。個人が所持していた缶詰や保存食品までもが供出させられたりもしたのだが、その中でひかりはかなりの量の食料を所持していた。欧州では扶桑の食品が貴重になるとわかっていたため持ち込める限界の量、なんなら姉の分のスペースまで活用して保存のきく食材を持ち込んでいた。
供出に当たって本人の抵抗もあったが味の濃い牛缶やイワシのオイルサーディンに隊員たちは舌鼓を撃った。
それがまだ残されていた。かれこれ数年のほとんどを欧州で過ごし、扶桑食に飢えていた菅野からすれば見過ごせない。そしてそれは食べること大好きジョーゼットちゃんとお料理大好き定子ちゃんも同じだったというわけだ。
「ひかりさんのお部屋をお掃除しようとしたら邪魔はしないからいさせてくれっていうの。そしたらあの行李を見つけてしまって……」
「ジョゼはそれも整理しようと開けようとしたところでひかりさんともみ合いになったみたいでその中でふたが開いてしまったそうなの」
「中にはいろんな缶詰が……。文字は読めなかったけどいっぱいの種類の……、どんな味なのかしら……」
「ほかにも乾燥した昆布みたいなのもあったみたいで、それを見られたひかりさんはそれを抱えて逃げ出してしまって、それをジョゼが追いかける途中で私もそれに合流したんです……」
曰く、厨房の前を慌ただしく走り去っていったのを追いかける途中でジョゼから中身を聞いたらしい。以前、下原が扱ったことがあったため昆布や他の食材についてもいくつか見当がついたジョゼはそれを下原に伝えたらしい。
「ふーっ、そういうことなら俺も手伝うぜ」
「だね、水臭いじゃないか頼ってくれてもいいんだよ?」
味に飢えた菅野とお祭りごとも下原の料理も大好きなクルピンスキーがひかり狩りに参加表明。
「そうときまりゃ追うわけだがどこ行きやがったアイツ」
菅野が窓に目を見やる。外の視界はそこまで悪くないが降り積もる雪によって足跡は当に埋まっている。
「そうね。サーシャさんどっちに行きましたか?」
「えっ、足跡は建物に沿ってそのまま滑走路の方へ向かってましたけど」
「なら早くいくわよ。恐らく格納庫にとどまっているということもないでしょうから」
サーシャに声をかけて行先のめどを立てたのはロスマンだった。サーシャはひかりの足跡をよく見ようと魔力を使って見ていたことをロスマンは視ていたのだ。
「うぇっ!ロスマンさんも参加すんのか!?」
「あら、いけない?どのみち暇を持て余していたし捕まえたら景品まであるなんて参加一択じゃない」
ロスマンはヒスパニア戦役からのベテランであり教導を行うことからもお堅い教官という印象がある。けれど実際の本人の気質は享楽家であり給料を高級キャビア缶につぎ込んでいたりもする。
「ここまでノリがいい先生が見れるのも年末だからかな」
「かわいそうなひかり……サーシャさんはどうするの?」
「えっ、そうですね。食料類回収令に違反していたってことで何か海産物があったらそれをもらうことにしましょうか」
こうしてペテロパブロフスク要塞を舞台としたひかり狩りが始まった。
格納庫にたどり着いた一行は年末にも拘らず作業着を着た整備班たちと遭遇する。何もしないでいるのはむしろ落ち着かなくなってしまったと語る彼らからひかりが格納庫に入ってきていたことを知る。そのまま基地内へと入る扉を抜けていったとの証言から基地内へと逆戻りする。
「外から来たということは雪でぬれた足跡があるはずよ」
「あったぜこっちだ!」
足跡が伸びるのは基地の比較的外側を通る廊下。そのまま後を追えば普段は使われていない区画へと入る。
「こっちはあんまこねぇからよくわかんねぇな」
「元が要塞だからね。複雑なのも仕方ない」
格納庫から距離があるところまで来たことで足跡を作っていた水分が減り、ほとんど用をなさなくなっていた。
基地内は複数階に分かれており、手分けして探そうかと話し合われる中、ふいにロスマンが足を止める。
「どうしたの先生?」
「あの談話室でひかりさんはジョゼさんと下原さんを撒いたと思ったはずよ。外にはいられないから格納庫、格納庫には人がいたからこの区画へと来たはず。逆に言えばこの区画まで来てひかりさんはようやく腰を落ち着けることができたということ。腰を落ち着けることで今後どう動くべきかを考えている、と私は想像したのよ」
「おお、探偵ものみたいだ」
「つまり、どういうことなんですかロスマンさん?」
「つまり、――そこよ!」
突然振り返ったロスマンが普段から持ち歩いている指示棒を縮めた状態のまま投げる。
「チィ!」
バシッという音と共に払われたそこにいたのはひかりだった。
「ええっ、そんなところに!」
「忍者じゃないんですから……」
ひかりは上の階を支える梁をアーチ状に塗りかためた部分の裏に陰に潜むようにして貼り付いていたのだった。
「私がすでに"円"に手を出していたことは知らなかったでしょう!」
指示棒を払いのけたひかりは重力に任せて廊下へと落ちると、ゴムボールが跳ねるかのように足で跳びそのまま菅野達に背を向けて走り出した。
「なんで追手が増えてるんですかー!」
「待てー!ひかりー!俺にも食わせろ!」
「イヤです!」
魔力で足を強化して爆走するひかりに残りの面子も同じように強化して走り出す。系統ごとに強化に差が出るため、徐々についてこれないものが出てくる。
「これは私が買ってもらったから私の物なんです!」
「けち臭いこと言わないでください!私もおいしい物食べたいです!」
「食料品供出令は絶対ですよー!私もキャビア出したんですから」
ギャアのギャアのと言い合いながら逃げるうちについに最後まで追いすがっていた菅野もひかりを見失う。
「クソっどこ行きやがった!」
「これは参った。完全に見失っちゃったよ」
見わたす範囲には人気が無くこの先には隊員たちの私室がある宿舎棟しかない。宿舎等はほぼC字状になる基地の片方の端となっておりここから出るには途中で他の階に行くのを見逃してしまったか吹雪の中外に出たかだった。外の吹雪はかなり強まっており、幾ら強化したところで愛をとられて動けないだろう。もしかすれば逆方向に逃げられたかと管野が踵を返そうとするとロスマンたちが追い付いてくる。
「いいえ、ひかりさんはこの先の宿舎にいるはずよ」
「なに?なんか理由でもあんのか?」
「もちろん。強化系のひかりさんに私たちじゃ追いつけないことは最初から分かっていたもの。だから途中からあえて逸れるようサーシャさんたちには言っておいたの。私の"円"を中心に他の道にそれぞれ向かわせてね。だからひかりさんには宿舎しか逃げ場はないってワケ。宿舎から他への通路の内ここ以外の階の防火扉も閉じてもらったわ」
唯一の強化系であるニパをそれとなく追手のチームから離脱させ、先回りして宿舎という袋小路を作らせ、同じく向かないサーシャ・ジョゼ・下原とロスマンで網を広げるようにして追い込んだというわけだ。
「僕たち何も知らされてないんだけど」
「聞かれなかったから」
「どうやって聞けってんだよ……」
本人は景品付きのイベントと軽い風に言っておきながら披露された本気の追い込み漁に
菅野とクルピンスキーが軽く引いていると他を担当していた三人が集まってきた。
「よし、行きましょうか」
「待ってください、ニパさんがまだ……」
「いえ、むしろだからこそよ」
そう言うとロスマンは宿舎等へと延びる廊下をにらみつける。
「ニパさんは一番最初にここへたどり着いているはずなの。だから、私たちと合流するのならサーシャさんたちよりもニパさんの方が先。それが来ないということは……」
「合流できない状況にされたってことですか……!」
ニパは誰よりも早くこの宿舎棟に来ている。他の階をふさぐという仕事があったとしても十分余裕があるはずなのだ。
「まさかひかりがそんな直接的な手段に出てくるなんてな……」
「こりゃぁこの先油断しないほうが良いかもしれないよ。いつどこから奇襲を受けるかわからない。幾ら数の利があるとはいっても向こうも必死の抵抗をしてくるだろうからね……!」
正直ノリで食料類供出令違反とか言っていただけでそこまで熱意を持っていなかったサーシャが何だか凶悪犯を追い詰めているみたいになってきてしまった、とか思う中、追撃チームは宿舎へと足を踏み入れた。
宿舎は3階建てで内、ひかりを追撃チームが追い込んだのは二階の渡り廊下からだった。
このうち、ウィッチの宿舎として使われているのは2階と3階のみで一階には部屋を持っている者はいない。冷気は下へ向かう関係上とても冷えるからだ。よって追撃チームは二手に分かれ、2階渡り廊下を守るサーシャ・クルピンスキー組と突入するロスマン・菅野・ジョゼ・下原組だ。均等に分けなかったのは接敵する可能性が高い突入チームが確実に捕らえるため、戦力の逐次投入とならないようにするためであった。
ひかりは追手チームを待ち伏せ不意打ちで仕掛けてくるだろうというロスマンの読みにより、もし接敵した場合にはその場で無理に捕まえることを目指さず、逃げ出した場合に守備チームと挟み撃ちにすることを目的とした二段構えの策である。
チーム分けを行い、突入した管野達。二階を端まで見て回り、三階へと上がる。
「これは……!」
「ドアが全部開け放たれている!」
三階にある扉が全て開かれ、廊下を半ばまで塞いでいた。見通しが悪い上、体を隠すことのできる影が大量に発生し奇襲を仕掛けやすくなっている。
「うぅぅぅ~は、早く閉めちゃいたい……」
「まずい。ジョゼの掃除欲が高まっている」
「落ち着いてジョゼ。慎重に行きましょっ」
一つ一つ慎重にドアを確認し次いで部屋も確認する。一度に連続して襲われることの無いよう各々距離を取り、複数方向を見張る。そうして廊下の半分へとたどり着こうかという時、突然、窓が開け放たれ目の前にいた下原が組み敷かれる。
「きゃん!」
「ふぉぉっと、ふぉほなひふひへへね(おぉっと、おとなしくしててね)」
「!?ニパ!」
「ニパさん!?」
窓から奇襲をかけてきたのは警戒していたひかりではなく行動不能となっていると予想されていたニパだった。
「ふぉふぉん!ふおうふふあえおわふぁふぃなふぁふぉのふぁうふぁのふぁふぁえもふぁひふぁふぁへひぇひはへふっふぇふぁふは!(ふふん!スオムス生まれのワタシならこの寒さのなかでも待ち構えていられるってわけさ!)」
「何言ってんのかぜんっぜんわかんねぇよ!つか、お前何食ってんだ!」
「むぐっモグ、ゴクン。これ?シャケトバって言うんだってこっち来てから作ったらしいんだけどおいしいよ。焼いてもいいらしい」
口の中にあった欠片を飲み込んだニパがセーターのポケットからちらりとみせたのは赤い棒状の物。鮭の切り身を干して作る東北の風物詩。お酒に合うが塩味が強く、また酒のうまみが凝縮されていることもあってそのままでも非常においしい。
「買収されてんじゃねぇ!」「「「なんで買収されてるんですか!」」」
管野達が思わずそう叫ぶ。
「だってひかり可哀想だったし、手伝ってくれたらまたくれるって言ってくれたしね」
「うがぁ!ぶっ飛ばしてそれも貰ってやる!」
「待って菅野さん!」
飛び出そうとした菅野の襟首をロスマンが魔力で強化した腕で捕まえて止める。グエッという声と共に菅野がクタァとなるが気にも留めずロスマンがニパに話しかける。
「ニパさん、雁淵さんはどこにいるのかしら?」
「え、言うわけないじゃん」
「……」
「……」
「しまった……やられた!」
そう言いながらロスマンが廊下を振り返る。つられてジョゼも見るが特に変わった様子はない。
「ど、どうしたんですかロスマンさん」
「ひかりさんに逃げられた!」
「えぇ!」
時間が無いと言外に言うかのようにロスマンは早口でまくしたてる。
この場にいるニパは囮兼足止めであると。
「じゃぁ、ひかりさんは!」
「もう封鎖チームに仕掛けているかあるいは……」
「ちなみにひかりは自分の部屋から鍛錬用だっていう木刀持ち出していったよ。すごい重たい奴」
つまり、本来なら封鎖チームが僅かなりとも時間を稼ぐ隙に突入チームが全力で戻り挟み撃ちにする計画が、突入チームが足止めを受けてしまった上、ひかりに武器が渡ったことにより封鎖チームが危機を告げるよりも早く制圧され、突破されてしまったということだった。
「や、やられた」
「また振り出しかよ!」
ニパに組み敷かれた下原とロスマンの手の中の管野が悔しそうに呻く。それを見たニパは、
「んー、こんだけ時間稼いだら十分かな。あのね、ひかりはこの追っかけっこをいつまでも続けるつもりはないって言ってたよ」
「……どういう意味かしら」
「じゃぁ、それを教えるためにサーシャさん達とも合流しに行こうか」
そう言うとニパは下原の上から退き、手を指しだす。素直に下原はその手を掴み、立ち上がる。管野も立ち上がり、ニパを先頭に宿舎の二階渡り廊下まで向かう。
入り口には頭にたんこぶを作って倒れる伯爵と特に服の乱れたところもないサーシャが立っていた。
「……どういう状況?」
「一階からひかりさんが上がってきて足止めしようとしたのだけど、何を言うまでもなくクルピンスキーさんがのされてしまって…」
「で、降参したってことか」
「木刀でガンッはちょっと……」
クルピンスキーを小突いて起こし、道すがら事情を説明しながらニパに続いて歩く。
「この先って、事務棟?」
ジョゼの思った通りニパの目的地は事務棟。そのまま一行がたどり着いたのは、
「執務室じゃねーか!」
「てことは……」
「カタヤイネン他六名入ります!」
「あぁ、入れ」
部屋の主からの許しもあり、一行が部屋に入ると執務室の正面にある机にラルが座っておりその後ろに行李を足元に置いたひかりがニヤニヤ笑いながら立っていた。
「それで?」
「六人から聞きたいことがあるそーです!」
そう言ってニパはひかりの方へと歩いていってしまう。ひかりはというと行李から巾着を取り出すとそれをニパに渡す。パンパンに膨らんでいる上、通常の物よりも大振りなそれをニパは開くと、中からひとかけの鮭とばを取り出し咥える。
「んにゃろ~!」
「雁淵の持つ食料品についての話だろう?」
「はい……」
「それに対する返答は"認められない"だ」
「食料品の供出はあくまで非常時故の判断だ。その停止を明確に告知していなかったのはこちらの落ち度だが今改めてその効力停止を通告する」
隊長の決定には流石に何も言えない、ということを思いついたひかりは自らの"円"に単独で行動するニパが引っかかった時点で行動を開始した。足止めを任せている間に隊長に助けてもらうようお願いしたのだ。
「他になにかあるか?」
「いえ、ありません」
「では、退出せよ。……雁淵」
「はいはーい。何にしますかー?羊羹・落雁・和三盆とありますけどあと一つだけですからね?」
「うむ。……よし和三盆をくれ、茶もだ」
「りょーかいでーす」
悔しがる管野を抑えたりしながら各々談話室へ戻る。その中で下原だけは厨房へ向かう。作りかけてた料理の惨状を目にし、そっと一息ついて作業にかかる。その日の夕飯も豪華なものにするため手間がかかるが年明けに向けた料理の用意も必要だ。複雑になる段取りについて思案しながら腕を振っていると厨房の入り口から声をかけられる。
「下原さん」
「あっひかりさん」
行李を抱えたひかりが厨房へ入ってきていたところだった。
「あの、さっきはごめんなさい」
「お願い聞いてくれたら許してあげてもいいですよ?」
「お願いですか?」
「私お正月はどーしても伊達巻が食べたい人でして……」
「伊達巻ですか!?」
渦上に焼いた卵焼き、のような物。ひかりはこれの甘い味付けが好きだった。新年の集まりでは誰よりも早くそれに箸を伸ばし、どの具材よりも早く空にする。何年文句を言われ続けてもそれを続けていた悪ガキだった。
「つく、れないことはないですね。白身の魚はあります」
「そして、それを私にちょぉっと多く持ってくれるならこれもあげます」
「そ、それは昆布!」
後ろ手に行李から取り出されたのは折りたたまれ、ひもで縛られた乾燥昆布。大ぶりなそれは一目で良い出汁が出るだろうと下原に思わせる。
「ふふふ、これさえあれば下原さんの腕ならかなり扶桑のおせちを再現できるはず……」
「ち、ちなみに煮干しなんかは……」
「あっちゃうんだなこれが!」
「そそそそれもください」
瓶に詰められた煮干しは既に頭と内臓が取り除かれ、料理をする人間によって処理されたものだと一目でわかる。ひかりはこれを実家の料理場からパチってきた。
「ならわかってますね~?」
「おいしい伊達巻を作らせていただきます」
「お願いしまーす!単純作業で良ければ手伝いますから言ってくださいな」
「あけましておめでとうございます」
「「おめでとうございます」」
年が明けて元日。扶桑組の朝出会って直後の一糸乱れぬ挨拶にギョッとされたりもしたが朝食の時間に全員が集まった。
「今年は扶桑風づくしですよー!」
「うおおお、おせちだ!」
目の前に並べられた料理に興奮する管野。使っている食材の微妙な違いこそあれど扶桑の調味料で味付けされ彩華やかなそれは懐かしのそれだった。
「隊長!早く、早く!」
「あぁ。では、皆今年もよろしく。頂きます」
「「「いただきます!」」」
新年最初に騒がしさに食堂は包まれるのだった。
皆さん今年もよろしくお願いします。
なお、アンケート結果ですがペテルブルグは引き延ばさず脱出ということになったのでエイラーニャの501復帰の遅れの確定や508に代わる空母航空団ルート、第51統合戦闘飛行隊設立は消滅しました。
ひかりパワーアップフラグは何とかします。