「オラーシャ第13独立戦闘機連隊が交戦開始」
「スオムス第15,16独立大隊から接敵の報告」
「リベリオン第17連隊長戦死!指示を求めています!」
"スリュムヘイム・スレファ"作戦が開始された。
ペテルブルグを囲むネウロイの軍勢に対し北と東側の二方向から攻撃を行う。北側はVKT線を守る部隊が攻勢に出ることで敵を誘引し、東側からは大口径のりゅう弾砲による長距離射撃による準備砲撃によって敵を混乱させることで突入を援護する。果たしてネウロイが混乱するのか、という問題は昔から議論されているがはっきりとしていない。そのため、準備砲撃も短時間の全力射撃によって少しでも数を減らすのが主流となっている。
航空機隊は戦闘機を中心に広い範囲で戦端が開かれる。わずかながらも制空権をとったところから地上部隊の援護に襲撃機が投入され、押されているところがあれば予備の部隊や余裕のある部隊から戦力が抽出されるのを繰り返す。
空陸両方からの同時攻撃による開囲、その後の戦線の維持を第一段階とするこの作戦。その歩み出しは当初の想定から大きく外れるものではなかった。陸軍が接敵し交戦、同時に空軍も交戦を開始するが次の段階への移行は空軍が"リフリゲーター"を撃破してからとなる。
そして、その任を与えられたのが502JFWはといえば、
「クソ、うざってぇ!」
「何をしている菅野、雑魚に構わず進め」
「無茶言うなよ隊長!」
リフリゲーターへと向けて進むことが出来ずに立ち往生していた。
当初の予定では護衛の空戦ネウロイをサーシャ率いる分隊は全速で振り切り、振り切ったそれに対し別動隊が足止めを行うはずだった。しかし、ネウロイ側の展開が速く、逆にサーシャ達の分隊が足止めを食らう形となってしまった。そのため、足を止めてその場での迎撃を余儀なくされたサーシャ分隊に後を追う形で進軍していたラル達の援護部隊が追い付いてしまった。
追いついたラルが辺りを見渡せば、分隊はそれぞれロッテを維持してはいるものの苦戦していることが見て取れ、このままではいづれ磨り潰されてしまうと判断した。
「どうする隊長!?」
「エディータ!発煙弾に詰め替えろ!サーシャ、予定変更だ。煙幕展張後にダイブして加速をつけ、包囲を突破してから折を見て登れ。私と戦闘機隊で援護する」
菅野が悲鳴を上げるように指示を仰ぐが即座に、そして矢次早に指示を返す。個人に対しての命令であったがその内容は無線で部隊全体へと共有されている。
ラルの指示を実行すべくロスマンが一時戦列を離れて後ろへ下がり、フリーガーハマーへの再装填を行う。その穴をニパがカバーし、他の者も一時的に攻勢に出て圧力を高めることでロスマンの安全を確保する。また、その間にラルは周囲の戦闘機隊に空戦を中断し上がれるものから上昇するように指示を出す。
「撃ちます!」
計9発のロケットが疎らに打ち出され、辺り一帯を白く覆い隠す。同時に分隊の面々は一斉に降下を始める。対して、ラルとクルピンスキーの2人は煙幕の内部へ向けて盲撃ちをし、降下する分隊が気付かれにくくなるよう意識を誘導する。
「晴れるぞ!」
ある程度の高度があることに加え、近くにはリフリゲーターによって吹雪が浴びせられているペテルブルグがあることによって煙幕が長続きしない。端の方から引きちぎられるかのようにほつれていく。
「今だ!」
≪全機突入!≫
煙が完全に薄れて用をなさなくなる直前。ネウロイの姿が見て取れるようになり不意の衝突を心配しなくてもよくなる程度に視界が開くと同時に上昇していた戦闘機隊が一斉に降下し、アタックを仕掛けて敵を削り落とす。
欧州機らしく、一撃離脱でもってその場を離れる戦闘機隊に対し、幸運にも被弾を免れたネウロイが追撃を仕掛けようとそちらへ機首を向ける。
「このタイミングだ」
「背中がら空きってね!」
そのネウロイを今度はラルとクルピンスキーの二人が襲撃する。ウィッチ故の投影面積の小ささから最後まで残った煙と太陽にギリギリまで紛れ、戦闘機隊の突入を隠れ蓑にネウロイたちの後ろをとったのだ。
「よし、後ろに構わず進めよ」
≪隊長、ご武運を≫
「そちらもな」
一連の攻撃によりごっそりと削れたものの、未だ残されたネウロイは多い。それらが二手に分かれ、戦闘機隊とラル達とにそれぞれ向かう。突破したサーシャ達に無線を返しながらラル達はそれを見ていた。
「今更ですけど隊長、こっちに2人だけってのは少なすぎたんじゃ?」
クルピンスキーが距離をつめ、肉声でもってラルにそう聞く。
「何、そこいらのウィッチならそうだったかもしれんがな。お前なら一人で申し分あるまい」
「嬉しいこと言ってくれるなぁ。前々から思ってたんですけど隊長も口説くのうまそうですよね」
「人を見る目もあることだしもしかしたらお前以上かもな。先に行くぞ」
そう言って言葉を切ったラルは眼前に迫るネウロイの一軍に向けて降下する。
「……いくら隊長でもちょっとそれは聞き捨てならないかな!」
クルピンスキーも後を追うようにして同じ群れに突入、その右手に持ったMP43でもって射撃を始める。
ラルとクルピンスキー、どちらもカールスラントの欧州撤退以前から戦い続けた猛者。
多勢に無勢など常であり、たとえこの場のウィッチが二人であってもそのことに恐怖を覚えたりはしなかった。
ネウロイの一群をせん滅しては新たな群れへと向かい、戦闘機隊と肩を並べてはまた別れと目まぐるしく戦場の様相は入れ替わっていく。そんな戦いが延々と続いていた。
「想定よりもかかっているな……」
新たな群れを切り抜け、周囲を確認する。傍に敵機がいないことを確認したラルが左手に巻いた官品の腕時計を見ると、当初の予定よりもネウロイの殲滅に時間がかかっているようだった。顔を上げると未だ吹雪にとらわれたペテルブルグが見える。サーシャ分隊もまた、想定よりも梃摺っているようだった。
「この……!」
クルピンスキーはというと目の前のネウロイをまた一機落としたところだった。どうやら、クルピンスキー達援護の部隊が気付かないうちにネウロイには一度増援があったらしい。いつ頃からか相手をしているネウロイの姿かたちが微妙に変わっていた。動きのパターンにも変化があり、突然加速する個体などが存在していた。
「ああっと、逃がさないよ!」
今もまた不意に加速する個体が現れ、他の個体がクルピンスキーに狙われている瞬間をついてその場から逃走した。クルピンスキーが今攻撃している群れは既に半壊しており、クルピンスキーから遠い個体から散り散りに別の群れへの合流を図っていた。今逃げ出した個体も、位置こそクルピンスキーに近かったがその特性と状況から逃げられると判断したのだろう。
しかし、クルピンスキーは手早く目の前にあった個体を撃破し、逃走を図った個体の後を追った。
追われるネウロイは右に左に上に下にと鋭い切り返しを繰り返し狙いをつけさせないように動く。そのような激しい動きを行えばいづれ失速し返って回避軌道がとりにくくなる。新人のパイロットやウィッチのような空戦における位置と運動のエネルギーの関係を理解していない者にありがちなミスである。
「はいはいそのままそのまま……」
クルピンスキーからすれば体のいい餌である。その動きも予備動作から十分に読むことが出来、照準にとらえ続けることも可能だった。空中での動きによる慣性で弾が逸れることの無いようクルピンスキーは慎重にタイミングを計る。
不意に、相手が機体を振ることを止める。余計なエネルギーの消費を抑え加速に集中しようとするその動きに、正に狩り時とクルピンスキーが引き金を絞ろうとする。
その瞬間にクルピンスキーの背後で弾丸がハジける音が連続して響き、続いて装甲が砕ける音。
反射的に機体をひるがえし回避行動をとる。元いた位置に目をやれば砕けてガラス片のようになったネウロイの破片が地上へと落下していくのが日の光に反射することで見えた。
「油断しすぎよ伯爵、明らかに釣りじゃない。幾らシールドで対処できる範疇と言っても避けれるものは避けなさい」
「うぇっ!?」
先ほどの金属音と同じように背後から今度は聞きなれた声がしたことに驚いたクルピンスキーが振り向く。ところがそこに思い浮かべた人物の姿はなく、北国の青い空だけが目に入る。
「えっ、あれ?」
クルピンスキーが思わず混乱しているとすぐ傍へとラルが寄ってくる。
「油断しすぎだぞクルピンスキー。鈍ったか?」
「や、それには返す言葉もないんですけど……。隊長、突入した分隊ってまだ」
「まだ戻っていないな。向こうも苦戦しているようだ」
「ですよね、じゃぁ今のは」
考え込むようにして口元に手を当ててしまったクルピンスキーを見てラルが声をかける。その口元はわずかに吊り上がっていた。
「なんだ、いるはずのない人間の声でも聞いたか?」
「!その通り、ってまさか何かしたんですか」
「フッ。さて、な」
「笑ってますよ!?」
背後からの追求から逃れるようにラルは降下した。
時間は巻き戻る。
行く手を塞いでいた護衛のネウロイの群れを突破したサーシャ達の分隊は、降下で稼いだ速度のまま一気にリフリゲーターへと接近していた。
ペテルブルグの上空を占有するリフリゲーターによって街を囲むようにして雪と暴風のドームが形作られている。分隊のウィッチ達はその手前から徐々に機首を上げ、運動エネルギーを失わないよう意識しながら緩上昇に移る。
上昇を続けるウィッチ。やがて、上空を包む鉛色の空をつき抜ける。
「いました!リフリゲーターです!」
下原の報告が他の者達の耳に入るが、雲海を超えたことで見えたため、全員が同時に目にしていた。
「で、でけぇ、あの時の奴よりもだ!」
そのリフリゲーターはオネガ湖に現れたものよりも大きく、各部のパーツや機能こそ同じなれどもその大きさは何倍にも膨れていた。従来のネウロイとは違い、幾つもの部品を継ぎ接ぎしたようなその異形のネウロイは、すぐそばにウィッチが来たことにもお構いなしに、あるいはその巨体故最初から視界になど入っていないかのように変わらず雪を降らせ続けていた。
「……ッ!まずはセオリー通り、魔眼の射程距離まで孝美さんをエスコートします!」
ネウロイから発せられる無言の圧力に全員が思わず気圧される中、最も早く立ち直ったサーシャが指示を飛ばす。遅れて反応した隊員達が返事を返し、セオリーに伴った陣形を形作る。
ジョゼ・下原組のツートップに、その後ろに菅野、そのさらに後ろに孝美・サーシャが横に並び左右をニパとロスマンが固める。左右に広がる二人の援護の元に先頭の二人が道を切り開くという陣形だ。
下原達以前戦ったことのある二人の経験から、コアがあると予想される敵の上部に向けて上昇する。陣形の都合上腹部をさらすことになるため危険ではあるのだが、当然隊員たち自身それをわかっているため警戒はしているため問題はないと判断された。
しかし予想に反し、ネウロイからは攻撃が飛んでこなかった。
「変だよ、反撃してこない!」
「……いえっ、そうでもないかもしれません」
「どういうことです?」
周囲の疑問に下原が返す。
「私たちの時も光線による攻撃はありませんでした。ネウロイの発する冷気でストライカーが凍ってしまうから接近し続けることが出来なかったんです」
「じゃぁ、もしかしてこの陣形のまま突撃なんかしたら……」
「コアを探るまでもなく凍り付いて全滅、だと思います」
「まずいわね、突撃は一時取りやめてこのまま上昇しましょう」
下原の発言によりサーシャは突撃の中止を決定、このまま上昇し相手の上方をとることにした。
改めてリフリゲーターを上から見た一同はその大きさを再認識し、遠近感の狂いから衝突の危険性がある事も察した。
「デカすぎてどこにコアがあんのか見当もつかねぇ」
「私の魔眼でも一度の接近じゃ全体を見ることはできないと思います」
「厄介ね……」
スリュムヘイム・スレファ作戦の電撃的な進行作戦においてリフリゲーターの撃破が作戦の第一段階という早期に達成されると判断されたのは502での討伐経験と孝美の魔眼によるものだった。特に討伐経験においては直接撃破に参加した2人に加え、現場でその様子を見ていた3人もいるということから勝算は高いと見積もられていた。凍り付く前に魔眼でもって捕捉することが可能と判断されたのだ。
「あの時のあれは結局どうやって撃破したの?」
「燃焼材に至近距離から着火することでガラスの熱割れみたいなことをおこしたんです。そうしたらコアも露出して……」
「同じ手を取るのは無理ね……」
事前に考えられていた策が潰されてしまい、続く手も打ち出せずにいる状況だった。
「状況を整理しましょう。まず、我々はリフリゲーター撃破のためコアを探る必要がありそのためには対象に接近し隈なく魔眼で捜索しなくてはならない」
眉間にしわを寄せて考え込んでいたロスマンがそれをもみほぐしながら提案した。
「ただし、長時間接近すればストライカーが凍り付き作動停止してしまう恐れがあり、かつ対象は非常に巨大であるため短時間でコアを発見することが可能かはわからない、と」
「ついでに言やぁ、デカすぎてコアを見つけてもそれを砕く方法がねぇってのもある。都合よく表層にあるかはわかんねぇからな」
「私の対戦車砲も20㎜でしかないですから……」
その提案にサーシャと管野が返す。装甲を抜けないかもしれないという懸念に孝美も言葉をこぼす。孝美の使うS-18対戦車砲は管野達扶桑のウィッチが使う99式に比べ、一般の13㎜に比べれば口径が大きい砲であることから、より強力な魔道徹甲弾が使えるという特徴がある。が、それでもあの巨体に通じるかは怪しいところであった。こういう場合、カールスラントや扶桑の大型を相手取る部隊ではそれぞれ30㎜級の機関砲を採用していたりするのだが寄せ集めの502にそんな使いどころの限られる兵器は導入されていない。
「この中で一番破壊力があるのは……」
「俺のこれだろ」
"紫電一閃"は菅野の発。放出系でありながら魔力を体外に放出するのではなく体内に貯めこむという能力である。本人はため込んだ魔力を使ってあいてを殴るところまでで一つの能力と認識しているが実際にはため込むことまでが発であり殴ることに関しては管野の固有魔法である"圧縮式超硬度防御魔方陣"の応用で剣一閃の延長線上でしかない。
「破壊に関しては管野さんに賭けるしかないわね」
「近づかせてくれれば破壊する自信はある。だが近づく方法がねぇ」
「結局はそこに帰結するんですね」
何をするにしても近づけないことにはどうにもならない。
「前回はテーピングで最低限の断熱をしました。今回も一応用意はしてあります」
「ならそれはやるとして、あとは……」
「どれぐらい近づけるか試してみてもいいですか?」
そう声を上げたのは孝美。魔眼を使うべく接近するにしても具体的な距離や時間はわかっていない。それを試したいとそう言うのだ。
危険であるという意見こそあったものの最終的には避けられない事なのだという孝美の提言で実行が決まり、作戦の前の接近しての調査が行われることに決まった。
「エンジンオイル、92度。適温?です」
「では、始めてください」
声に従い、孝美がネウロイに接近する。傍らにはペアである菅野の姿もある。孝美は魔眼を使用しコアがあるか探るためエンジンオイルにまで気を使う余裕がないとして同型機を使いペアでもある菅野が共に飛ぶのだ。
「魔眼、射程距離に入りました」
「こちら菅野。油温はどんどん下がってるぜ、マジで長くはもたねぇな」
魔眼の射程へと入った時点で管野と孝美の紫電改はエンジンオイルが冷え始めていた。エンジンの冷却という意味では歓迎すべきなのかもしれないが異常冷却は逆に害となる。
≪そのまま外周に沿って飛んでみてくれる?≫
「敵の中心部分まではまだこの距離では見えていませんが……」
≪いざという時の回収が難しくなるから中心部は後よ≫
サーシャの判断により、ネウロイの形状に沿ってぐるっと一周することになる。現在位置はネウロイの斜め上方であり、このまま一周すれば中央部を除いた上半分を確認できることになる。
ネウロイの下方ではストライカーに問題が発生した際に備えて他の隊員たちが二人を受け止めるべく展開していた。
「ッ!異常燃焼だ!」
ネウロイの外周四分の一を回ろうかというところで、菅野の紫電改のエンジンに異常が発生する。異音と共に排気管からは黒煙が吐き出される。見ればエンジンからほど遠いスピナの先端から凍りだしているのに気づく。
「いったん引き上げるぞ。焦るこたねぇ」
「ええ、……コアは見つからなかったわね」
「これで一周したことになるわね」
数度の調査が終えられ、おおよそのデータが集まる。どの程度の時間でオイルが冷え切るのか、その結果起きる現象とはなどだ。また、突入には他の隊員も順次代わる代わる参加し、それぞれのストライカーでの条件を慎重に探った。
そうして集まった情報をもとに再度作戦を検討するべく全員が集まる。
「一周してもコアは見つからず仕舞いか……」
「下部は冷気を送りこむ送風部分がありますからコアがあるとすれば上部だと思うのだけど、そうなると残る中央部分にあるということになるわね」
「厄介なところに……」
一番装甲が熱いであろう中央の部分。上部の巨大なパーツを支える柱がそびえ立つ、土台部分にこそコアがあるのではないかと予想されていた。しかし、そこに溜まる冷気は外周とは比較にならないレベルでありストライカーで突入などすればものの数秒で飛行体から落下物へとジョブチェンジしてしまう。
「やるしか、ないでしょう」
「危険よ。コアを見つけてもそのままネウロイに激突してしまうことになる。寒さで意識が途切れればシールドにも期待できないわ」
「かといって闇雲に攻撃したところでコアを露出させられはしないでしょう。今から地上に戻っていては今も足止めをしてくれている隊長や戦闘機隊の皆さんの奮闘が無駄になります。何より、ペテルブルグの開放はこれが最後のチャンスなんです」
覚悟を決めたような声で作戦の決行を進言する孝美。ロスマンからは当然反対され、続く声は徐々に小さくなっていき、最後には絞り出すような声で返す。しかし、声こそ小さかったもののそこに籠る思いは伝わった。ペテルブルグに取り残された仲間がいるのはこの場の誰もが同じであったが孝美にとっては唯一の妹でありそこにかけられた思いは他とは違ったものなのだろう。周囲の者にもそれが感じ取れたのだ。
「はぁ、仕様がないですね。菅野さん、あと"何本"ありますか」
本当に仕方なく、といった様子で額に手を当てながらため息をついたサーシャがそうこぼす。話を振られた管野は上着のポッケへと手を突っ込みそこから数本の髪飾りを取り出した。
「5時間分が2本と1時間のが3本。何なら5時間のをここで使っちまっていいと思うぜ、ひかりが居りゃまた作れるだろ」
「そうね、後のことを考えるとそのほうが良いかも。ニパさん、"周"はどうでした?」
「うん、やっぱり効果はあったよ。全力でやればしばらく持つかもしれない」
「上々ね。ならニパさんには孝美さんと一緒に突入してもらいましょうか」
「何のお話ですか?」
ニパたちの会話についていけないといった様子で困惑した顔の孝美がそう問いかける。それもそのはず、孝美にはまだ念について教えられていない。
「そうね、詳しいことは後で説明するから今は何も言わずにあるがままを受け入れなさい」
「は、はい?」
「いいから、ほらっ」
菅野は手に持っていたシンプルな棒状の髪飾りの内、比較的長い一本を抜き取り残りをポッケへ戻す。髪飾りは二つ一組で一体になっており、管野はそれを二つに割りそのうちの片方を乱雑に自分の横髪に突き刺した。そうして残ったもう一方を孝美に押し付ける。
「同じ感じでつけりゃいいから」
「髪につけさえすればいいから孝美さんはあんな乱暴につけなくていいからね?」
「んだとニパ」
突然ぎゃあのぎゃあのと言い争いを始めた二人を見ながら、孝美は言われた通り前髪に髪飾りをつける。瞬間、孝美の視界がグンッと後ろに下がったような感じがする。真っ暗な空間に自分の視界が浮かび上がっている。その横にまた新たな視界が映し出される。そこには口を開けてこちらを見るニパの姿。その後ろを飛ぶジョゼや下原の姿も見える。
「な、なに、これ!?」
「だぁから、っと孝美もつけたか」
「か、菅野さんこれは!?」
「まぁいきなりつけられたら混乱するよね」
「説明は後です。混乱するのはわかるけどそういうものだと思って今は受け入れてください。今はリフリゲーターを倒すのが優先です」
孝美はどうしても聞きたい衝動に駆られるがリフリゲーターを倒す、というサーシャの言葉を聞いてそれをぐっと飲みこむ。今優先されるべきことは自分ではないのだから。
サーシャから全員に改めて作戦が伝えられる。まずは孝美による魔眼での目標捕捉、その援護として最初にロスマンによるロケット弾での砲撃が行われる。砲撃でもって冷気を吹き飛ばそうというのだ。次いで孝美が中央部に向けて突入、コアの位置を管野へと伝えそれを受けた菅野がコアを破壊するというものだ。また、突入に際し冷気に対する防御としてストライカーの外装に"周"を行い魔力で外装を包み込むことでエンジンの熱を逃がさないようにすることとされた。"周"を行えない上、冷気へと突入する孝美に関しては強化系であり"周"も得意とするニパが補助につく。
ただし、"周"をしたところで冷気に対して無敵というわけではない。エンジンそのものには空気が必要でありインテークより吸気を行う必要がある。あくまで熱が逃げにくくなるだけであり、あまりにも低温の空気による異常燃焼までは防げない。
最初に、孝美とニパがネウロイの上方へと位置する。前回のリフリゲーター型ネウロイ討伐時の経験からひまわりのような円環のついている方向とは逆側の位置にコアがあると予測されたためその方向にだ。
ニパは孝美の腰に腕を回し、がっしりと固定する姿勢だ。孝美のストライカーが推力を失った場合そのまま飛行を継続するためだ。
作戦開始前に全員が配置についたことをサーシャが確認し、腕時計でに目をやる。10カウントが始まった。
「3,2,1、作戦開始!」
「発射!」
サーシャの声に間髪入れずロスマンがフリーガーハマーの引き金を引き絞る。コンマ数秒の間隔をあけて9発のロケット弾が白煙を引きながら飛翔する。コアがあると目される部位を覆い隠すように爆炎が瞬き、直後に温められた空気が冷却されてその場にうすい霧が広がる。
「突入!」
タイミングを計っていた孝美が突入を開始する。一度の交差で確実にコアを捉えるため、敵ネウロイに対して斜めに横切るようにして降下する。魔力による身体保護をつき抜けてくる冷気に顔をゆがめつつも目だけは少しも閉じることの無いよう力を籠める。
「見えた!」
ネウロイに対してほぼ横切ろうかというほどに接近した時、孝美の視界にコアが映る。それは今まで見たことが無いようなぼやけ方をしていたことから孝美はネウロイが魔眼の透過を阻害する新型の装甲を入手したかあるいは真コア持ちのように何らかのかく乱手段があるのだと考えた。
「菅野さんっ」
「あとは任せろォ!」
すでに、接近により孝美のストライカーは凍り付き回っていない。それを支えるニパも出力は低下してしまい、もはや水平に飛ぶことさえままならない。孝美とニパにできることはなく、後を託すしかないという状況。
一方、後を託された管野はというと孝美の視界にコアが映ると同時に反転急降下、コアへと向けて一直線に降下する。高速故、孝美以上に冷たい空気が肌に突き刺さるが纏がある分幾分マシだ。降下する速度はストライカーの限界ギリギリを迎え、紫電改が悲鳴を上げる。そうして得たエネルギーにため込んだ己の魔力を開放し後乗せする。
「貯蔵全魔力開放ッ!いくぜェ、"紫電一閃"ンンンッ!」
そうして一筋の矢と化しネウロイへと突き刺さった管野の一撃はまず、対象の表面装甲を爆砕し、そのまま侵徹し大穴を残す。そうして傍からは穴しか見えなくなったころ、ネウロイの全体へと罅が広がり、巨大なその身が丸々白く輝く物体となって砕ける。
「イィヨッシャァ!」
大穴の反対側。コアを殴り砕いてそのままつき抜けてきた管野が振り返って全身で喜びを表現する。
撃破した勢いそのままに管野は落下していく。
「カンノ!手、手!」
「あぁ?」
頭上から聞こえる声に管野が目を向けるとニパと孝美が手を伸ばしているのが見える。最初、降下する前は孝美の腰に腕を撒く姿勢だったニパだったが、孝美のストライカーが止まったからだろうか今はニパの肩に孝美が担がれている。
「へっ、あんな奴殴ったくらいで俺の拳は痛まねーぜ」
「ちーがーうってば!手ぇ伸ばせよカンノ!」
「ストライカーはどこに行っちゃったんですか菅野さん!」
「は?」
菅野は言われて自分の足を見る。胡坐を組んで両腕を伸ばして喜びを表現していた菅野の足に紫電改の姿は無い。降下制限速度ギリギリでネウロイへと突っ込んだ紫電改はネウロイの体内を通る中で限界を迎え、ついには砕け散ったのだった。オートエジェクション機能によって自動で足を射出したことによって管野が巻き込まれることはなかったものの、生憎落下傘など背負ってはいなかった。
「やべぇ!!!おいニパァ!もっと手ぇ伸ばせェ!」
「ふざけんなよこれで精一杯だよ!管野こそもっと伸ばせよ!」
「菅野さんこっち!私の手の方が近いわ!」
三人がそれぞれ全力で手を伸ばし合いながら少しずつ距離を詰めていく。管野達の視界には映っていないものの彼女らの上方では他の隊員たちも菅野を受け止めようと必死で降下している。しかし、それで管野と同じように降下制限速度を超えてしまっては意味がないため追い付けずにいる。
「つか、まえ、たぁ!」
「いよぉし!」
管野が降下速度を緩めようと大きく体を広げ抵抗を増し、ニパが限界をギリ超える速度を出し、孝美が大きく身を乗り出す。三人は努力の末、一つになることに成功したのだ。ニパはそのまま墜落することを防ぐべく、自らの体を振る事で姿勢を入れ替え二人を支える位置へとつく。
「よくやったニパ!あとは減速するだけだ!」
「ちょ、ちょっとまってね……。二人も抱えたもんだからバランスがって」
バン!という音と共に空へ金属板が舞い上がっていくのが孝美と管野の視界に移った。それは、長方形の、緩やかな弧を描く白く塗られたものだった。
「「……フラップ?」」
息の合った二人のつぶやき、次いでそれに答えるようにして今度はエンジンが黒煙を上げる。
「うわわわやばいやばいやばい!」
「てめぇ!久方ぶりの不運に俺達を巻き込むんじゃねぇ」
「はわわわわわ」
強引な減速を行おうとしたことでまずフラップが風圧に耐え切れずはじけ飛び、次いでエンジンが息絶えた。"周"によってなまじガワが強化されていたがために機体の限界を見誤ったことによる自壊だった。
慌てるニパ。そんなニパに管野はつかみかかり、孝美は顔を青く頭の中は真っ白にしていた。
「おーちーるー」
「おまっお、お前ェ!」
「ひかりー!ひかりぃー!」
ニパと孝美が管野を捕まえたことでほっと一息ついていたサーシャ達も三人が止まらず落下を続けしまいには黒煙を吐いたことで、慌てて再度降下を始める。が、到底間に合う様子はない。
すがるように上を見上げた結果、他の隊員たちを見て現状を認識してしまった3人。簡単なことしか言えなくなってしまった3人はただ叫び声を上げることしかできなくなってしまっていた。
「慌ててないで少しは体勢整えてくださいよ!」
「「え?」」
しっちゃかめっちゃかになっていた3人の耳に、3人以外の焦るような声が聞こえる。
3人が声のした方へと同時に顔を向けると、いつの間にか隣を並走するかのようにして紫電改を履いたウィッチが降下していた。他の誰でもない、三人の良く知る顔だった。
「掴んだ!このまま水平に戻しますから暴れないでくださいよ!」
驚いた顔をする三人をよそにひかりは全員の体に腕を回すようにして抱きかかえると緩やかな角度で姿勢を変更し、ペテルブルグの建物スレスレをかすめるようにして水平移動へと移行する。抱きかかえられた三人は現実に頭が追い付いていない様子だった。
街を横断するようにして飛び、その中で徐々に速度を落としたひかりは三人を近くの建物の屋上へと下ろす。
「一体全体どういうことなんですか!?なんで降ってくるのか、ていうかなんで管野さんはストライカーを履いていないんですか?!」
地に足着いたことで気が抜けたのか三人が座り込む。訳が分からないといった様子でひかりが問いかけるが3人に答える様子はない。3人が言葉を発したのは孝美とニパの足がストライカーから射出され、機体が床に落ちた音がした時だった。
「お、お前、ひかりっ!」
「ひかり!」
「ひかりぃ……!」
正気に戻った3人は三者三様の反応を見せる。管野は写真越しでないひかりの姿を見て気が抜けたのかその場にへたり込み、ニパはパァっと輝くような笑顔を浮かべて詰め寄ろうとする。が、ニパよりも早く立ち上がった孝美がそのままの勢いでひかりへと抱き着いた。
「苦しいんだけど……何も状況がわからないぃぃ」
なに?なんなの?と混乱するひかりをよそに孝美はその存在を確かめるように腕に込める力を強める。
先を越されたニパがやり場を無くしていると、遅れて降下していたサーシャやロスマン達も追い付いてくる。
「あっサーシャさん」
「また壊したわねニパさん!まったくもう……」
「アハハ……その、」
「それに見合った戦果は挙げてますから勘弁してあげませんか?。それよりも今は、っとひかりさん」
抱き着かれたままになっているひかりにロスマンが声をかける。
「助けに来ましたよ、ペテルブルグから脱出します。今すぐに!」
「はい???」
唐突に吹雪が止んだかと思えば空からは姉と相棒と友人が降ってくる。まるで状況がつかめていないひかりはさらに混乱した。
今3時なんで起きたら清書しまう (←しました)
今後に展開に関してなのですが、以前のアンケートの結果プロットを一部省略しグリゴーリ戦までを駆け足で行く予定でいました。しかし、ペテルブルグからの脱出において当初のプロットからの短縮が思ったよりも難しく予定ほど短くできそうもありません。
具体的にはこのままペテルブルグから脱出させる予定であったのがどうしても違和感が出る形となってしまうため2段階に分ける必要が出てしまいました。これにより消滅予定だったルートがいくつか復活することとなりましたが一応当初のプロットよりも短縮自体はします。5割減の予定が2割になった印象です。話にまとめてしまえば一話か二話くらいの差なので気長にお待ちください。
現在のプロットはこの後のペテルブルグ脱出とその後のグリゴーリ討伐までを大まかにまとめてあります。ウィッチーズ最終話ということで大規模な内容にするのが大変でした。