念能力者(?)なひかりちゃん(?)   作:シチシチ

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いっけなーいスランプ☆スランプ☆

ここにきて先の展開を考えるのが難しく(めんどくさく)なってきてストップしてました。
大学の方が新学期入ったので前回書いた直後に8000字程度で放置していたものを手直しして4000字ほど書き足してあげました。

次回は完全に未定です。

ペテルブルグ開放編のプロットと502+α全員分の念能力は出来たのであとはモチベーション次第ですね。


2つのパブロフスク

 ペテルブルグの街の外れ。中心部に比べると建造物が疎らとなり、背の低いものが増える。さらに北へ進めばすぐに山林へと差し掛かるようなこの場所は、道も広く中心地に比べればより自由な空戦機動が比較的低高度で行える。

 だからこそ、歪な人型をしたネウロイと、西沢とひかりのペアの戦いは自然、この場所で行われた。

 

 ネウロイの方はその右腕から刀のようなモノを伸ばし、申し訳程度の牽制にのみ光線を放つ。片足にのみ取り込まれたままのクルピンスキーのbf109Kが回ることは無く、あたかも空戦ウィッチを模倣するうえでの要素の一つとしてでしかない、装飾品のようだ。

 対する二人は、手に九九式二号二型の本国仕様に二十粍弾を六十発入り弾倉で装着したものを持ち、その背にはそれぞれの愛刀を背負う。ストライカーは零式と紫電改、どちらも自分の愛機ではなく、それぞれ下原と孝美の予備機に手を加え、セッティングを変えたものを使っている。西沢が零戦でひかりが紫電改だ。

  

 

 「私が上に行きます!」

 「任す!あたしも本気で獲りに行くからしっかりと頭押さえて見せろ!」

 

 先刻までのインファイトとは打って変わり、両者は交わることなく距離をとった戦いをしている。正しくは、ウィッチの二人が距離をとって戦おうとしているためにネウロイが詰められずにいると言うべきか。西沢の動きを真似、相手の死角と裏を突く戦い方を覚えたネウロイを相手にするにあたって、二人は常に相手を視界に入れることのできる距離をとっての射撃戦を選択した。

 西沢の剣術をもとにしている以上、たとえ片方が見失ってももう片方の視界に映るよう立ち回る必要がある。とはいえ仮に他のウィッチが同じ事をしてもあっさりとその姿を見失い斬られたことを自覚することなく短い人生を締めくくっていた事だろう。

 動体視力に優れ西沢の動きを観察したひかりと、そもそもが自分の動きの西沢だからこそ、攻撃の起点をつぶすことも、動き出すタイミングを読むことも出来た。

 リベリオン軍の戦術におけるサッチ・ウィーブのような二機の連携による封殺。これにより、ネウロイは行動の起点のこと如くを潰されてしまい、西沢のみを相手にしていたころのような激しい攻勢が出来なくなっていた。

 

 しかしそれでも、ネウロイは接近戦を志向し尚も距離を詰めようとしてくる。

 このネウロイにはそれしかできなかったためだ。もし、他のネウロイ、それこそ501が出会った人型と同じような光線による射撃戦を行ったところで、片や扶桑最強(魔王か虎徹か)、方や優れた動体視力の固有魔法持ち。光線の投射量で大型に及ばない人型の弾幕程度では、この二人は堕とせない。逆に隙が生まれてしまうことになる。

 しかし、二人のどちらであっても距離を詰めることさえ出来れば、今のネウロイの技量ならば一太刀の元に切り捨ててしまえるだろう。

 

 つまるところ、ネウロイが勝つには剣しかない。 

 

 ちなみに、逆に人型の防御力はと言えば、それこそ二十粍はおろか7.92mmであっても人型にとっては致命傷になりかねない軽装甲だったりする。ネウロイの装甲というものは大きさに比例すると思っていい。大型であれば硬く、小型であれば脆い。小型で硬いネウロイというのは、実際の装甲厚はそこまでではなく速度と傾斜などの形状で打たれ強くしているのだ。

 なまじウィッチを模倣したがゆえに人型ネウロイの装甲は同サイズの小型以上に薄い。形状による避弾経始にも期待できない。対してウィッチにはシールドがある。

 このことも人型が射撃戦を避ける理由でもある。

 

 "───!!!"

 「いい加減に墜ちろぉ!」

 「逸るなってばひかり。持久戦ってやつよ。じきゅーせん、わかる?」

 

 ウィッチの二人が若干有利ではあるものの、互いに決め手にかける状況。三機の戦いは膠着していた。

 

 その状況が変わったのは戦場に4人目が現れた時。

 

 それに、最初に気づいたのは人型ネウロイ。膠着していたその場において、新たに表れた一人はネウロイにとって間違いなく敵である。二対一が三対一になれば状況はさらに悪化する。

 しかし、同時に別の見方もあった。新たに表れた一機はまだネウロイには気づいておらず、人型からすれば隙だらけだ。また、こちらの二機も追いすがり見逃さないようにすることで必死であり上空の増援に気づいていない。この一機を即座に切り捨てることが出来れば、場をかき乱すことが出来るだろう。そうなればこの状況を打開する切っ掛けとなるかもしれない。

 

 ネウロイは、狙いを一点に絞った。

 

 

 

 

 アレクサンドラ・イワーノブナ・ポクルイーシキンはオラーシャ陸軍の大尉である。

 欧州撤退戦と以後の戦いの中で培った戦訓から独自の戦術を編み出し、それを母国の航空学校にて広めたことから戦闘教官としても高い評価を受ける。

 

 ひかりからの人型出現の報告を受けた時、サーシャはアドミラル造船所に係留された空母リュッツオウに居た。補助発電機が稼働したことから港湾部の倉庫より艦内へと指揮所を移した直後だった。

 事前の予定を繰り上げ、即座にロスマン達を南方組への交代へと向かわせ、自身は管野達を待たずにひかり達の救援に向かった。

 

 戦において戦力の逐次投入は愚策とされる。そのため、最善は戻ってくる管野達を待ち共に向かうことだっただろう。

 サーシャがそれをしなかったのは人型ネウロイの恐ろしさを知っていたためだ。以前の戦いでは、サーシャ自身も頭部からの出血を伴うケガを負わされたほどの強敵。なにより、接近するだけで発動するウィッチに対する洗脳・催眠能力。ひかり達も一度撃退するほどに戦っているとはいえ、二人だけで戦わせるのはあまりにも不安だった。

 前述の経歴も合わさりサーニャ自身の実力は非常に高い。故に単独での先行を選択した。

 

 

 

 戦域に近づいた時、サーシャの目にネウロイはまだ映ってはいなかった。しかし、断続的な銃声と時折閃光のような物は感じ取っていた。それが低い高度で発生していると気づいたサーシャは、徐々に高度を落としネウロイを捜して首を振った。

 

 

 突然、銃声が自分の方へと近づいた。

 咄嗟に警戒を強める。それと同時に連絡をしようと無線へと手を伸ばす。

 そんな彼女が自分へと高速で肉薄する人型ネウロイに気づいたのは、もはや手に持ったDP28機関銃を向けて構える時間もないほどに近づかれた後だった。

 まさかネウロイが狙いを此方に定めているとは思ってもみなかったサーシャ。警戒はしていたつもりだったが、当然の判断として無線へ意識を向けたことが致命的な隙となってしまった。

 

 ネウロイとひかり達はサーシャが思っていたよりもさらに低高度で戦っており、ほとんど建物に紛れるような高さだった。そのため、限界まで陰に紛れて飛ぶネウロイにサーシャは気づけなかった。また、距離を詰めようとする動きから突然逃げるように動きを変えたネウロイにひかり達も振り切られてしまっていた。

 

 爆発的な上昇力でもって接近したネウロイは、サーシャがこちらに気づいたと見るやそれまで気づかれないよう使わずにいた光線での攻撃を始めた。牽制も兼ねて放たれたそれをサーシャは避けようとした。その結果、運悪く光線は機関銃を掠め、その弾倉を弾けさせた。

 至近より殺傷力を伴って飛び散る破片から身を守るべくサーシャはシールドを使わざるを得なくなる。咄嗟の事でもあり、また同時に複数方向へシールドを張るという高度な技(504のパトリシア・シェイド)を実践レベルで咄嗟に使うような芸当はサーシャにはできなかった。

 

 

 

 此方が武器を失う一方で、ネウロイはすぐそこまで迫っており、しかし其方へシールドは張れない。

 

 

 

 迫りくるネウロイがサーシャの瞳に映る。

 

 

 

 相手に武器は無く、その身を守る盾も明後日の方向に掲げている。阻む物は何も無い。まさにこれ以上ない好機といえる。

 眼前の敵を切り伏せるべくネウロイは腕を振り上げた。

 

 

 

 

Заблудитесь в цене времени(思い出の中にて佇む)

 

 

 

 ネウロイに誤算があったとするならば、サーシャにはこの状況下でも取りうる反撃手段と、それを実行に移せる冷静な判断力があったこと。

 

まず3発、続けてもう3発。つい一瞬前までDP28の銃把を握っていた右手の中にはTT-30/33(トカレフ)拳銃が握られ、銃口から硝煙がたち昇る。シールドを張るにあたって後ろ手に回されていた左手には、いつの間にか茶色く厚い革表紙の本が開かれている。

 

 最初の三発は振り上げるにあたって晒された脇腹へと打ち込まれ、それによってバランスを崩し、かつ動きが硬直した瞬間に追加の三発が剣の生える右腕、その付け根へと叩き込まれそのままもぎ取る。

 脇腹に空いた3つの弾痕から伸びた罅はそれぞれ伸びては繋がり、胴の広範にまで達した。グラリと支えを失ったかのように頭が後ろへと倒れ、糸を断ち切られた操り人形のようにそのまま眼下へ広がる街並みへと落ちていった。

 

 「……っ、はぁ!はぁ、はぁ、ハァーー、あ、危なかった……」

 

 太刀の間合いまで入り込んでいたネウロイが視界から消えたことにより、呑んでいた息を盛大に吐き出すサーシャ。これでも故国で挙げた戦術では肉薄しての近接攻撃を挙げているバリバリのインファイターなのだ。言っていることやっていることはブレイクウィッチーズと変わらなかったりするのだが、彼女らと違うところは無駄な突撃と無理をしないことだろうか。

 

 

 「サーシャさん!」

 

 ネウロイの行方を見失っていたひかり達も上空で響いた自分達以外の発砲音に気づき、ネウロイを撃ち倒したサーシャの姿を見つけた。

 

 「大丈夫でしたか?!」

 「えぇ、咄嗟に″此れ″で迎撃できましたから」

 

 "Заблудитесь в цене времени(思い出の中にて佇む)"

 サーシャの作った具現化系能力。

 これまでサーシャが完全記憶能力の固有魔法で見て来たモノが全て書き込まれたハードカバーの本を具現化する。その中から好きなものを手元に具現化できると言う能力。

 ただし、一度使用すればそのものに関する記述は抹消されサーシャ本人も思い出すことが出来ない。また、具現化した物品は手に持った人間の魔力を消費して存在を維持し、手を離れた場合には内包した魔力量に応じて現界時間が変わる。

 

 サーシャは咄嗟に使える武器を求め、過去に見たトカレフ拳銃を具現化しそれでもって人型ネウロイを撃ち据えたのだった。

 

 「やるね~、えっと……大尉さん。あれだけ近づかれててよく咄嗟に迎撃できたよ」

 「同じことをやれって言われても、もう御免です」

 

 追いついて来た西沢も声をかける。刀の間合い、その内側に入りこまれてはいかな西沢であっても確実にうまく凌げるとは言い切れない。だからこそ出た素直な賞賛の言葉だった。

 

 「ひかりさん達こそ無事だったようでなによりです。どちらかだけでも洗脳されて連れていかれていたらどうしようかと」

 「や、なんかそういうのは使ってこなかったな。剣での決着に拘ってたようにも思うし」

 「あー、そうですね。今思えば、初めて戦った時の考えがまとまらない感じって自分が焦ってたからじゃなくて洗脳をかけられてたからだったのかな……」

 

 ラドガ湖の西岸で初めて人型ネウロイと戦った時、ひかりは2体の人型ネウロイを相手に徐々に思考能力を奪われていっていた。なんとか抗おうとするも″円″の中に入った相手にがむしゃらに切りかかる事しか出来ず、撃墜されてしまったのだった。西沢の介入とそれによって一機が落とされていなければこの場にひかりはいなかっただろう。

 

 「それだけ西沢さんとの戦いがあのネウロイにとっては印象的だったのでしょうか」

 

 

 

 「……というか、あのネウロイって破壊されたんですか?」

 

 ふと思いついたような口調でひかりが言った。

 一瞬、誰ともなく発した息を呑むかのようなヒュッっという声と共に全員が動きを止め、次いで弾かれるようにして銃口を下に向けて構える。

 その先にはただ人がいなくなっただけの建物群が広がり、人間大の金属の塊が落ちたような跡もネウロイの姿もなかった(空中で立て直した)

 

 「サ、サーシャさんの弾がコアまで届いてたとか……」

 

 そうであって欲しいと言うかのようにひかりが溢す。

 

 「脇や肩にコアがあるとは思えません。もし仮にあったとしてもその場で砕けていたでしょうから……」

 「あちゃー…取り逃したってわけか」

 

 その言葉をサーシャが否定し、西沢が結論を言う。

 破壊できなかった以上、また戦うことになるだろう。この場での撃ち漏らしは後々に響く、不味いことをなったとサーシャは思った。

 

 「あの落ちていったのは死んだふりってことかぁ……」

 「どんどん賢くなっていてる気がしますね」

 

 人型ネウロイはたびたび出現しているが、この北方では目撃例が多い。また、1度の接触で撃破することが出来ず複数回の戦闘を行う事もある。その中で以前の戦いを踏まえた戦い方をする個体が多い。

 過去にもウィッチを真似た個体はいた。

 

 「仕留めそこなった身で言うのもなんですが、ここに居ても出来ることはありません。造船所へ戻りましょう」

 

 結局、北側からペテルブルクへと侵入していたネウロイの影響は大きなものではなかった。より、中心部へと近い南側に戦力は集中している事が分かったと言うこともあり、哨戒は切り上げとなる。

 

 サーシャ達が連れ立ってリュッツォウへと戻ると埠頭ではちょうど管野達が上がろうとしているところであった。

 燃料の余裕の問題からひかり、西沢最後にサーシャがの順に降りる。救援にと急いで補給したのであろう管野達も、無事に3人で戻ったことにホッと息をつく思いであった。

 

 

 

 「どうかしたんです?隊長」

 

 オネガ湖湖畔の前線基地。滑走路の規模こそ小さいものの、ほどよい距離にあることから"スリュムヘイム・スレファ"にあたって司令部が立てられることとなり、作戦にむけて確保と整備が行われた。その基地も、現在は少数の部隊がとどまっているに過ぎない。作戦開始によって駐留していた部隊は皆前線へ向かった。ペテルブルグから多くの兵を脱出させることに成功してからはそれの護衛に当たっている事だろう。

 

 "スリュムヘイム・スレファ"作戦の露払いとしてペテルブルク市外に残ったラルとクルピンスキーは市を覆っていた吹雪が晴れた後、502と合流を図ろうとしたが司令部の命で渋々外に留まった。

 司令部としては、内部がどうなっているか分からない状況で貴重なエース級ウィッチを手元から失いたくないという思惑が会ったのだろう。現に、二人は507と共同で使っていた基地ではなくこちらに留め置かれているのだから。

 

 二人に割り当てられた宿舎は見慣れたかまぼこ型宿舎のクォンセット・ハットだが、滑走路と格納庫に一番近い物だった。果たしてこれが優遇されての物なのかいざという時は真っ先に上がれという意味なのか、はたまたただの偶然かは分からなかったが。

 

 そんな立地の兵舎の窓から外を覗くラルが唸るように声を上げた事に夕食後のティーブレイクに興じていたクルピンスキーは気がついたのだ。

 

 「あれは、KG76、か?」

 「KG76?って第4航空艦隊でしたっけ?てことはオラーシャのウラル側に展開してたはずじゃ?」

 

 カールスラント空軍第76爆撃航空団。主要装備はJu88。原隊は1935年からある古参ウィッチ隊だ。所属の第4航空艦隊はその多くがオラーシャ南部戦線へと集中して投入されている。その部隊章を描いたHe115水上雷撃脚がオネガ湖に降り立ち、基地へと向かってきたのだ。

 

 「いや、あれは2中隊だ。彼処(あそこ)は戦力損耗に伴い本国に戻って、42年からはヴェネツィアに展開している」

 「えぇ?わざわざ地中海から援軍ですか?あっちも余裕があるわけじゃないでしょうに。今、ガリア奪還のあおりを受けてるって聞いてますよ?」

 

 昨年9月に行われた501によるガリアを占領していたネウロイの巣の破壊。これに伴い、以前から計画だけはされていた欧州逆上陸作戦が修正された上で実行された。ガリアにおける拠点を喪ったネウロイはニュルンベルグやプラハの巣から戦力を放出。その余波で比較的距離の近いヴェネツィア方面での戦闘が増加。

 しかも、ヴェネツィア防衛を任務とする504が直近に行われたトラヤヌス作戦で壊滅的被害を受けた上、新たに従来型とは違う、さらに強力なネウロイまで現れるといった有様。なお、その新たな巣は再建された501が担当することとなっているのだが、諸般の事情もあってこちらも戦力不足である。

 その状況でアルプス戦線の貴重な防衛戦力である部隊が引き抜かれてくるというのはおかしい。

 

 「……クサいな」

 「おっ、何か感じ取りましたか?」

 

 口元に手を当て、考えを纏めようとするラル。クルピンスキーはそれをちゃかした。

 

 「部隊章がな。意匠は元のを踏襲しているようだが、何か付け加えられている。それに一機だけというのもな」

 「前を横切った一瞬で良くそこまで。一機だけというのは先ぶれとか連絡役ということもあるのでは」

 「ふむ、少し出てくる」

 「行ってらっしゃ~い」

 

 

 しばらくして。

 カフェインの効果も切れ、眠気を感じてきたクルピンスキー。明日になればまた、ペテルブルグに対する新しい作戦でもあるかもしれない、あるいは今の司令部ではこれ以上の戦力損耗を嫌って、今脱出させられた人員で十分と判断されてしまうか……などと考えつつ、ならばもう寝てしまおうと椅子から身を起こした辺りでクォンセン・ハットの入り口が開かれた。

 

 「KG76じゃなかった」

 

 当然と言えば当然だが、入ってきたのはラル。

 入ってくるやいなや、足を止めることなく自分のベッドへ向かい、荷物を漁りだす。とはいえ、作戦後に直接こちらの基地へと移った以上彼女の手荷物など身につけられていた手帳の類がせいぜいだが。

 

 「はい?」

 

 バサバサと慌ただしい様子で手帳をめくる自身の上官の姿に面くらいつつ、開口一発に言われた言葉について聞き直す。着水して基地に収容された機体の部隊章がKG76の物だと言ったのはこの人自身ではなかっただろうか。

 

 「フェイクだ。部隊章はまやかしだろう。機体を見た時点で気づくべきだった」

 「何がです?」

 「水上脚だぞ。爆撃飛行隊が何でそんなものを持ってる、スオムスでもあるまいし」

 「あぁ」

 

 世界的に見て、水上機はウィッチ、非ウィッチ問わず減少傾向だ。クルピンスキーの感覚がおかしくなっていたのはここが機体というだけで貴重が故に水上機だろうと中古複葉機だろうと最前線で使ったあげく戦果を挙げている連中の国の近くだったからだろう。

 

 「おまけに出迎えが中佐だぞ?たかが一爆撃ウィッチに自ら足を運んでいた」

 「そういうこともあるのでは?」

 「無論、裏付けはとった。連中、近衛軍諜報部だ」

 

 "近衛軍諜報部(親衛隊保安諜報部)"

 カールスラントに存在する組織。余人にわかりやすく誤解を承知で直すならスパイ組織だろうか。ただし、カールスラントには正式な諜報組織である国防軍情報部"アプヴェ―ア"が存在する。こちらの方が歴史ある組織だ。

 

 「……わぁーお。あの悪名高い?」

 「そう、あの悪名高きKDだ」

 

 皇帝の、という意味でKが付くもののその設立に皇帝はかかわっていない。

 カールスラント本土がネウロイの手に落ち、彼らがノイエ、と呼ぶ南米へと居を移した後の事。これまで築き上げてきたものの多くを失ったカールスラントが今次大戦を切欠に凋落することを恐れた者達がいた。彼らはありとあらゆる手段を用いた。それこそ同盟国への工作や国内における意にそぐわないものの殺害などありとあらゆるものをだ。

 "カールスラントが必要とされる状況を作り出す"

 本土から持ち出せたもので最も価値があったのは、技術者たちと軍だった。彼らが必要となる戦場を探り当て、頼りとされる状況を演出し、その障害となるものを消す。

 そうして国際社会における国家の立場を用立て、他国からの支援を引き出す。いずれ本土奪還を果たした後も列強国であり続けるために。

 

 「防諜を旨とするアプヴェ―アとバチバチにやってるってのは聞きますけど、なんだってこんな北方、それも作戦中の基地なんかに乗り込んでくるんです?」

 「お前もなかなか情報通のようだな」

 「まぁ、女の子ってどこにだっていますからね。そういうのにどっぷりな子も……って」

 

 話をそらされたのかと思ったクルピンスキーがラルに向けた目を細める。

 

 「わかっている。奴の、奴らの目的だろう。ハッキリと言うが、わからなかった」

 「ちょっと隊長?」

 「この短時間にそこまで探れるか。あのウィッチがKG200とかいうところの第一中隊所属というところまでだ」

 「それはそれでどうやって知ったんです……?」

 

 見ろ、と言ってラルが見せてきた手帳には『"ND"から"KD"へ移管』『"任務内容:不明"』の文字と共に書かれたKG200についての細々とした情報とそのエンブレム(部隊章)

 

 「ともかく、我々にできることは二つだ。無視か、行動か」

 「で、どちらに?」

 

 「動くぞ」

 

 そう言ったラルは手帳の他に野戦服のポケットに詰められるものだけをもって踵を返す。それについてクォンセン・ハットを出るクルピンスキーの方は手ぶらだ。

 

 「いいんですか?何か後ろ暗いところがありますよ、と喧伝しているようなもんじゃないですか」

 「向こうの目的が最初から我々なら今更、そうでない時用に出先で適当な命令書もでっち上げておく」

 「命令で移動しただけだからしょうがないんですって?」

 「疑いこそすれど問い詰めようはないさ。してくるようならばそれをきっかけ(ネタ)に探り返す」

 「おお怖」

 

 「それでどちらに向かうおつもりで?」

 「北、それから西だ」

 「(ムルマン港)はともかく西(国境越え)?スオムスに入るんですか?」

 

 歩哨をやり過ごし、格納庫へと忍び込む二人。それぞれのストライカーを確保し、オネガ湖の方へと走る。

 

 「連中の目的はわからなかったが面白い話は聞けたのでな」

 「と言いますと?」

 「リベリオンのF-9(偵察型B-17爆撃機)が夜間の高高度偵察でペテルブルグからの無線を拾っていたらしい」

 「何も聞いていないんですが?」

 「連中にとって不都合だったのだろう」

 

 先ほどからKDの目的についてはわからなかった、という話を繰り返されているような気がするがそれはそれとしてさっきの所属についての話も今の話に関してもさっきの短時間で探れるものじゃない。むしろ、探れてしまう隊長だからこそ、探れなかったことに思うところがあるのかもしれない。

 ストライカーを肩に担ぎ、雪原を走りながらクルピンスキーはそう思った。

 

 「取り残された502も独自の脱出を計画しているようだ。海に出るつもりのようだがあと3,4日はかかるだろう」

 「なぁ~るホド。ここに居ても出させてくれるわけないから、スオムスの側から迎えに行こうと」

 「彼女らが海に出ればスオムス側も何かしら動かざるを得ないだろう。すぐに出せるのは魚雷艇が精々だろうが今から働きかければ幾らでも動かしようはある」

 

 会話を交わしながら二人がたどり着いたのはオネガ湖でもまだ氷の残る部分。氷上は臨時の飛行場としては上等な部類だ。基地の滑走路を使ったのでは脱走だ何だと騒がれてしまうかもしれない。バレ難いよう距離をとってそれへ上がり、翌日の朝にばれるよりも前にでっち上げの命令文を基地宛に送ってしまえば、何時基地を出たのかわからない以上最低限の言い訳は立つ。

 

 「まずはここからムルマンだ。強行軍で行く」

 「やれやれ。大変だけど502の可愛いみんなのためだ、頑張るとしよう」

 

 静かに空へと上がった二機はあっという間に、月明かりを逃れるようにして雲へと潜った。

 

 

 

 

 ひかり達3人が人型ネウロイと戦った日の晩、ネウロイからの襲撃は無かった。エイラ、サーニャ、下原、ひかりが数時間ごとに区切って交代で待機こそしていたものの、見張りにも電探にも敵影は映らず哨戒も無駄に終わった。

 

 襲撃が始まったのは夜明けと共にだった。

 

 最初に上がったのは交代を待っていた下原とたたき起こされたひかりのペア。襲撃のあったタイミングでサーニャは艦へ戻るところだった。そのため、疲れた状態(ほぼ徹夜明け)で向かわせることはできないと判断され一度戻ることとなりひかり達の後を追うようにしてロスマンやニパといった昼間要員が期初時間よりも早くに起こされることとなった。

 

 「昨日までよりも数が多いよ!」

 「しかも大きめの奴も混ざってる!」

 「これは……夜戦用の個体までまとめて投入したというの?」

 

 敵は昨日に引き続き南方からの侵入であった。しかし、陸戦の個体とそれを援護する小型が多かった昨日までと比べて明らかに中大型の数が多かった。

 夜間に投入されやすい大型大火力の個体を昨日までの部隊と纏めて送りつけてきたのだった。

 

 敵の規模が強大であることから、ペテルブルグ臨時司令部は午前中のうちにこの場での迎撃を断念。リュッツオウでの脱出を急ぐこととなった。

 

 

 「陸戦ウィッチ隊、ユーティライネン大尉が戻られました!」

 「全速で戻ったぞポクルイーシキン。これで次にいけるな?」

 「えぇ。限界まで粘っていただきありがとうございます」

 

 地上部隊で最後まで残っていたストライカー回収部隊が艦内へと引き上げられる。なお、タラップでの乗艦のできない陸戦ストラカーは海中に投棄されてしまった。

 陸戦ウィッチ部隊に先駆けて、歩兵や整備兵などからの志願による一般兵部隊は下がっている。こちらも装備のほぼすべてを海中投棄している。

 

 「タグボートに牽引の開始を指示しろ!」

 

 安全に出航するためにはある程度船体を岸壁から引きはがしてから自艦のエンジンで動き出す必要がある。そのため、三隻のタグボートが用意され、ワイヤーでもって牽引が開始される。

 

 徐々に船体が動き出したのを乗員が感じ取った瞬間、すぐ近くの工場区にて爆発。現在上がっているウィッチ達では攻め寄せる敵を受け止めきれず、漏れ出た小型機が放った光線がリュッツオウを掠めて工場の壁を貫通。内部の空気を一気に膨張させてそれが爆発と化した。

 

 「敵小型による長距離射撃によるものと思われます!」

 「煙幕展張!無いよりはいい!」

 

 空いた金属缶に薬剤を詰めただけの簡易煙幕装置が整備員たちによって甲板に置かれたり海中へ蹴り落とされたりする。化学反応によって湧き上がる白煙がスクリーンとして船体とその周囲の空間を覆い隠す。同時に煙突からは不完全燃焼による黒煙が立ち上り辺りに漂う。

 果たしてネウロイが視覚によって目標を捉えているのかは定かではないが、対戦当初から有効な手として使われてきた。

 

 「ブロホノウ指令、ローテーション的にユーティライネン少尉・リトヴャク中尉は燃料弾薬共に限界です」

 「ウィッチ隊に帰投命令!同時に扶桑ウィッチ隊は直掩に上がれ!ここからが正念場だ!」

 「了解、≪甲板待機中の全機は順次発艦!≫」

 

 南側での遅滞戦闘に従事していたウィッチ達が呼び戻されると同時に甲板上の発進促進装置で待機していた扶桑海軍の5人が発艦を開始する。この場の扶桑ウィッチは全員海軍所属であり、一番経験の浅いひかりですら最低限の発艦訓練はこなしており、なんなら実戦での発艦経験まである。残りは扶桑の海外派遣古参ウィッチだ。

 

 「機関室!状況はどうか!」

 『試験無しのぶっつけではありますが、今のところ主缶に問題は見られないようです。回転数も正常、あとはギアとの接続ですな』

 「頼むぞぉ……やってくれぃ!」

 「了解、主機接続!」

 

 号令と共にギアが接続される。大気の48倍もの気圧を誇る蒸気が噴き出すパワーから生まれた回転がそのままシャフトへと伝達され、フライホイールがうなりを上げる。これによりスクリューが回転を始め、わずかな揺れと共に乗員の多くがその推進力を感じた。

 

 『タービン回転に問題なし!』

 『シャフトへの動力伝達に異常は見られません!異常振動等もありません!』

 「敵機接近!」

 「作業員は至急退避!対空戦闘用意!」

 

 敵機接近の報に艦全体に警報が響き渡る。甲板に残っていた作業員たちは発進促進装置と共に昇降機で艦内へと戻り、入れ代わるようにして機銃座にはそれを生業とする者達が慌ただしく駆け寄っていく。パブロフスク要塞に配備されていた空軍第12高射砲連隊は第9高射砲師団隷下で長年戦ってきた者達であり、慣れない艦の上でもこれまでの経験から良い動きをした。

 

 「指令、後は」 

 「そうだな。では、行くとしよう!

 

 ──"ペテロパブロフスク"発進!」

 「了解!総員配置につけぇい!」

 

 "ペテロパブロフスク"

 脱出の間際になって、この艦は少数の人間と共に小規模な竣工式などをやった。追い詰められた極限の状況だからこそ、つかの間の息抜きとして行われたそれは見物に来た兵たちによって少しばかり華やかなものとなった。

 

 その中で、本来ならば進水式の際に行われる艦名の発表、あるいは付与ともいうべきものが行われた。 

 

 リュッツォウとはあくまでカールスラントの重巡としての艦名。オラーシャ側に引き渡されたのち命名される予定となっていた艦名があった。

 そしてそれは、どういった偶然なのか、502が使う要塞と名を同じくしていた。

 

 502はウィッチだけの隊ではない。整備兵や炊事洗濯等を行う者達もいる。要塞に住まうという意味では直接の指揮下になくとも高射砲連隊の者や憲兵隊の人間だって502の仲間だ。

 長く過ごした要塞に愛着を持つ者だっている。ネウロイのただなかに置き去りにしてしまうことを悔しく思う中で、せめてその存在を少しでも思えるようにと艦名の変更に賛成するものは多かった。

 

 "パブロフスク"というなの基地に屯する部隊。ウィッチーズではない、【統合戦闘航空団】がそこにはあった。




設定メモからコピペ

サーシャ
 ・思い出の中にて佇む/Заблудитесь в цене времени(時間の代償に惑わされて)
  →自分が見て記憶したものを具現化する能力。手に持った人間からオーラを徴収して具現化し続けるジョイント型としての一面を持つ。
「ジョジョの奇妙な冒険」より蓮見琢馬の幽波紋「The book」/「FF7」よりクラウドのセリフ/「仮面ライダー電王」より桜井侑斗


前々から言ってたガンダム書きたい病が悪化していて今00で14話分書いたストックがあったりする。SEEDでも宇宙世紀でも書きたい。これの序盤をリメイクもしたい。ペテルブルグにひかりちゃんが来た辺りまでひどい出来だから。
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