いつも誤字報告ありがとうみんな!
「機関!両舷全速!」
「ヘルシンキまで保てば良い!」
空母パブロフスクに乗り、ペテルブルクを脱出した502と乗り合わせた者たち。包囲されていた状況からも脱したものの、未だ敵は彼ら彼女らを追い続ける。
海に出たことにより、陸上型を気にしなくて良くなった。しかし追い縋る空戦型は強力な大型が多く含まれ、一筋縄ではいかない。
「サーシャ!弾くれ!二十粍!」
紫電改を履き、機関銃を握る管野。空母パブロフスクへと迫るネウロイに対し銃弾を叩き込み粉砕するものの、弾倉に残された二十粍弾はもうあと数発もないだろうことを悟る。
敵の数が多く、それに応じて消費する弾丸も増える。管野もベテランのウィッチ。焦りや恐怖から無駄弾をばらまくような真似はしない。それでも、大型を墜とすには必要な弾数の多さからストライカーの燃料が尽きるより早く手持ちの九九式が沈黙してしまう。
ここは一度補給に戻るべきかと考えるも勝手に下がるわけにはいかない。急に己が抜ければそこに穴が開く。下がるには他のウィッチ達とも話さねばならない、と考えたところで、甲板から補給を終えたウィッチ達が飛び上がっているのを見つけた。サーシャが銃弾を用意できることはウィッチ達には伝えられていた。管野はこれぞ天の恵みと言わんばかりに声を張り上げ、サーシャを呼んだ。
「呼ぶのなら無線を使って下さい。そんな大声出さなくても!」
「無線をいじる手間も惜しかった。それよか弾くれ弾」
「まったく……、どうぞ。他の人たちも射耗してしまっていますか?」
「あぁ。ひかりと西沢は他に弾渡して刀で戦ってる、それでもこうだ。孝美や下原も単射で節約してるが、弾倉一つ分も残っちゃいねぇだろうな」
パブロフスクの出向に合わせて扶桑組と交代する形で1度着艦していたサーシャ。管野の求めに応じて、具現化した二十粍弾を弾倉ごと渡す。管野によれば他の面々もとうに残弾は限界らしい。
消費した記憶に対応したページの記述は抹消され思い出せないこと、古い記憶であるほどに消費するオーラ魔力は減り、逆に新しい物ほど消費するという誓約と制約によって成り立つこの能力に、部隊長であるラルは戦場での補給役を求めた。その為、具現化した物品の存在を維持する分のオーラ魔力はそれを所持するガワに負担させることでサーシャ自身の負担を減らす取り組みを付け足させたのだ。
それでも、サーシャの魔力は有限であり、記憶とてまた同じだ。使いどころはある程度見極めなければならない。が、ここはその使い時だろう。何故なら、ペテルブルクとスオムスの首都であるヘルシンキは同じスオムス湾に面した近距離にあり、其処まで、いや、近づいてスオムスの防空圏に入ることさえ出来れば戦闘機やウィッチの援護を受けられることだろう。
流石にストライカーの燃料は空中での補給が出来ないが、其方に余裕があるのであれば弾薬さえ補給出来れば戦闘力を維持できる。一々パブロフスクまで取りに戻らせるだけの時間が惜しかった。
パブロフスクに乗るウィッチは11人。統合戦闘航空団の定数を満たすが、隊長であるラルと、一緒に残ったクルピンスキーがいない代わりにエイラ・サーニャのペアが指揮下に入っている。
全員が名の知れたエース級のウィッチ。唯一新人でウィッチの最低階級であるひかりですらペテルブルク防空戦とそれ以前の戦果でエース認定させるだけのネウロイを落とし、守備隊の間では名も知られていた。
余談だが、この頃に撃墜認定に改訂が入り、コアを持たない小型ネウロイをコア持ちの付属と見なすようになったため全ウィッチのスコア計算にやり直しが入った。
敵が迫る中、決死の思いで埠頭を離れて数時間。
一騎当千が11人。それぞれが奮闘し、互いに補い合う。パブロフスクに乗り込んだ高射砲師団もまた良く奮戦し、被害こそあれど浮力と推進力を維持したままスオムスの勢力圏へと入ることに成功したのだった。
最初に得られたのはスオムス軍が設営した監視所との通信。誰何の問いに返した答えはすぐにヘルシンキの司令部へと届き、其れは旗下の部隊への命令へと変わった。
まずパブロフスク上空へと到達したのは戦闘機隊、それと僅差で到達したのはスオムス空軍第24戦隊。エイラやニパの古巣だった。
「ラプラ!」
「前を向けニパ!ここを切り抜けてからにしろ!」
"こちらはスオムス空軍第24戦隊。これより戦闘に参加する"
との通信を皮切りに戦場へと突入した12人からなるウィッチ隊。ストライカーこそカールスラントデイのbf-109G-6型に統一されているものの、カールスラント本国では既に旧式とされている機体。しかしそれを感じさせない動きでネウロイへと襲い掛かる彼女たちは間違いなく精鋭で、各々の手に持った機関銃や装甲ライフルでもって次々とネウロイを落としていく。
24戦隊の現在の展開地点はカレリヤ地峡のすぐ北。彼女らも北部前線での防空に従事していたのだが、スオムス海軍からの通報が司令部へと行った後、脱出する艦を護衛するようにとの命令を受けたのだ。
部隊からは3人ものウィッチが統合戦闘団に参加。また、ニパ達の在籍していたころの隊長であるルーッカネンがあがりの年を迎えたこともあって、現在は残ったラウラ・ニッシネンが次期隊長として現場指揮を執っている。ラプラは彼女の愛称だ。
「ねぇ!ルーッカネン少佐は!?」
「もう上がりを迎えられた!まだ飛べなくなるほどではないが現場からは身を引かれたよっ!」
エイニ・アンティア・ルーッカネンはニパがいたころの24戦隊の隊長だ。45年現在、既に20歳を迎えて一年以上が経っている。本人もあがりを見越して隊長職をハッセに引き継いでいたのだが、その前にハッセが507の隊長に抜擢されてしまったため予定していた34戦隊への移籍を遅らせて24戦隊の維持に注力している。
「あっ、そうか。そうだったね……」
「ウィッチである以上致し方のないことだ。お前が気に病むことじゃない」
「うん……」
ニパが旧友との親交を温める中にも、空母パブロフスクはヘルシンキとの距離を縮め、それに伴って徐々に援護の戦闘機も増える。スオムス側も自国の領域への大規模な進行ということもあって国内のあちらこちらから戦力をかき集めている。前線から引き抜いて空いた穴をスオムス湾までは航続距離の足りない基地から飛び石のように経由させて前線の穴埋めを図っていたりもする。
飛来したスオムス空軍の戦闘機は新旧入り混じった雑多な編成で、中には複葉機まである始末。機体のハンデを腕で補うパイロットたちによって戦果こそ挙げられているが、空を見回せば落とされた味方機の吐く黒煙が海面から立ち上っているのもわかる。
それでもなお、ネウロイは空母パブロフスクへの攻撃を辞めようとはしなかった。
「あぁもう!コイツら何処から沸いて来てんだ!」
「ペテルブルクからついてきてる奴らだけじゃねぇ、大陸側からも飛んで来てんぞ!」
追撃を続けるネウロイがウィッチ達によって受け止められ、戦闘機隊の増援もあってその数を減らすと、スオムス湾の対岸、ネウロイの支配地域下にある土地からも追加のネウロイが現れ出すようになった。
ペテルブルクから追いかけてくるネウロイは航続距離の問題もあってか小型、中型のモノは徐々に脱落し、数を減らしていた。この為人類側に増援が来ると一気に戦力差がひっくり返ったのだが、この大陸側からの増援により、一進一退の様を呈するようになった。
「右をやる!続けひまり!」
「ひかりです了解!」
502部隊は当初、空母パブロフスクを中心に纏まって戦っていた。現在はスオムス空軍が援護に来てくれたこと、ネウロイの攻撃が彼らにも分散し圧力が下がったことからロッテごとにある程度分散してより多くのネウロイに対して圧を加えていた。
ひかりと西沢のペアも自分たちで選んだ目標に対して攻撃を加えていた。先任である西沢の判断の元、周囲の味方機の戦況も踏まえて対処すべき相手を見極めて仕掛ける。
前に出るのは西沢。左手に九九式二十粍機銃を、右手には昭和12年に制定された海軍制式軍刀を握る。銃弾を自分の前方へとまき散らしながら、銃口の先とはまた別の敵機をすれ違いざまに切りつける。斬りつけられたところを中心に砕けた装甲。そこからはネウロイのコアが存在することを示す紅い光が漏れ出す。
西沢はそれには目もくれずに更に新しい敵へと向けて飛翔する。代わりに、西沢について飛んでいたひかりが同じくすれ違いざまに一撃。右に握ったひと振りを瞬時にコアに突き立て最小限の動作で終わらせる。
「終わりが、見えない!」
「とか言ったところで敵が減るでもなし。やるしかないでしょ!次、中型3」
ペテルブルグも日中は似たような敵の襲来頻度だったが、あの時と違うのは下の状況だろう。ペテルブルグでは被弾や燃料切れを起こしても味方の勢力圏に向けて強引にでも降りてしまえばあとは隠れていれば回収に部隊がやってきた。
ところが今は海の上。着陸に比べて難易度が上がるし長くは浮いていられない。味方の部隊にだって回収する余裕はないだろう。
「"眼"を使います!」
「ん、コレはつけてるよ」
次に西沢が目標に選んだ中型の集団は味方の戦闘機隊が敵機と乱戦を行っている空域に横合いから割り込もうとしているのが見て取れた。戦況は五分五分だったがそこに装甲を持つ、さながら重戦闘機ともいうべき中型が大挙して押し寄せれば機動に何のある戦闘機などあっという間に駆逐されてしまうだろう。
故に一早く処理する必要があると判断したひかりは魔眼とそれを共有する髪飾りの使用を決めた。どちらも無制限に使えるわけではないため使いどころを選んでいる。
「見えてますね!」
「ばっちり!」
三機アローヘッドで飛ぶ敵中型ネウロイ。その先頭を飛ぶ機体を隊長機とみなし、二人の機銃の火箭を集中させる。ピンポイントで装甲を削り飛ばされ、そのままコアまで粉砕された敵機は爆散。それについて飛んでいた二機はそれを避けて散開する。
「そこ!」
「切り捨て、御免ッ!」
別れた敵機も先頭機の破片が自分たちの前から落ちてしまえば再度編隊を組んだことだろう。そのほうが火線を集中できるし迎撃する側からすれば厄介だ。
故にこそ、敵機が破片を避けようと二手に分かれた瞬間に二人は攻撃を仕掛けた。
どちらも扶桑刀を用いてコア部分を切りつけ、最小限の一撃のみで撃墜する。傍からは刀身の厚み分の切断痕しか見えなかったことだろう。
「よし次!」
「はいっ!」
破片に巻き込まれないよう離脱しつつ、ひかりは魔眼を収め刀も鞘に仕舞い銃を改めて構え直す。西沢は既に新たな敵集団を見定めたらしく吶喊している。それに遅れぬよう、ひかりは紫電改の魔道エンジンを吹かして加速する。
時間が経つにつれて戦況が細かく推移するなかで周囲の割を食った者達がいた。艦隊後方から大陸側にかけてをカバーしていた雁淵孝美・管野直枝のペアである。
「孝美!」
「管野さん!あれを!」
こちらが有象無象と戯れている間に眼下を通り抜けようとした中型を孝美は見逃さなかった。孝美はその魔眼でもって見抜いたコアの位置を正確に狙い、引き金を引く。続けて放った次弾でもって露出させたコアも撃ち抜くが、其方に気を取られて別のネウロイに近づかれてしまう。
もはや同時に気を払える限界を超える数のネウロイを孝美は引き受けてしまっていた。
無論、周囲が手を抜いているというわけではない。誰だって限界なのだ。首都へと近づいているだけあって味方の数は増えてこそいるものの、スオムスという国の規模が足枷でしか無かった。
戦闘機隊はともかくウィッチ隊が僅か二個。それも、首都防空の34戦隊のみならずカレリア北方を守る24戦隊も入れて二つだ。502を含めても50人に届かない。
ウィッチとて無敵ではない。弾切れ・損傷・時には負傷で下がらざるを得ない者もいる。ウィッチはまだマシだ、多少無様でも無理矢理空母パブロフスクに落ちてしまえば助かる。パブロフスク側もそれを見越してシーツや毛布を積み上げて緩衝材の足しにしている。戦闘機隊は墜とされれば助けは無い。キャノピーを開けられるか、スピンに陥ってないか、機体にぶつからずに脱出できるか、パラシュートは開くか、光線が当たらないか。
これだけの条件をクリアしたラッキーガイに与えられるのは未だ氷の浮かぶ3月のスオムス湾に浮きも無しに放り出されるという結末だ。墜とされてなお戻ってこれる者が果たして何人いるか。
そうして減った味方が引き受けていた筈のネウロイを今度はだれが相手するのか。誰かが引かざるを得ない貧乏籤を孝美が引いたというだけの話だ。
攻撃こそ最大の防御。
飛び回りながら、敵が撃つより早く自分が撃ち墜とすことで身の安全を保っていた孝美。とうとう、シールドで凌ぐがざるを得なくなる。あっという間に光線で身動きがとれなくなった。
ペアである管野は、自分が対処しなくては、と考える。眼前の小型を手早く撃破した次は、孝美を襲う一気に中型との距離を縮めにかかる。
「うあっ!ッ、邪魔すんじゃ、ねぇ!クソォ!」
近年、ネウロイの進化は著しい。局所的には戦術まで使ってくるほどだ。そんな彼らからすればウィッチを、それもエース級ともなれば確実に捕殺したい相手だろう。
その妨害となる管野に攻撃型が浴びせられるのは当然の帰結であった。
孝美に雨あられと光線を浴びせ身動きをとれなくしている中型は3機。その距離は遠く、闇雲にバラ巻いたところでコアはおろか装甲すら抜けないだろう。
かと言って妨害してくる個体を墜としていたら間に合わない。シールドは個人差があるとは言ってもそう何発も光線を受けていられるものじゃない。極一部の例外を除き、あれだけ浴びせられていれば遠からずシールドが解け、孝美の肉を灼くだろう。
(如何すればいい、何か手は、誰かいないのか、どうしてオレは──!)
管野の頭は限界まで回っていた。相方の危機、なのに今それをどうにかする手立てが目の前に無いということがこの数十秒後に何を意味するようになるのかを理解してしまっているから。
『管野さんは放出系ですね!』
ふと、この場に似つかわしくない抑揚の声が聞こえた気がした。
『放出ぅ?ふーん…』
『カンノのイメージにあわないなぁ』
『まぁ、アレを見てるとね。放出、ていうより溜めて固めるって感じだ』
次々と声が聞こえてくる、いや思い出していた。耳にしているのではない、脳裏によぎっているのだ。この場にいるはずの無い者の声も交じっていたことから気づいた。
これは、初めて水見式を行った時の会話。基地の談話室でグラスに木の葉を浮かべるという傍から見たら奇妙な図の中で水が薄っすら色を増し橙色になった時のことだ。
『圧縮式超高密度魔法陣、でしたっけ。うーん…でも固有魔法が性質と関係するかって言われると違う気もするし…』
『私、あんなに小さくなった魔法陣を見た時は内心ビックリしてたんだよね』
『あぁ、わかるわかる。シールドとして使ってるときは普通の大きさだったからね。解放したらあの大きさになのに?ってギョッとしたよ』
シールドを圧縮して拳に展開し、敵に向かって突撃する"剣一閃"。魔力の"放出"からは程遠いというあいつらの言葉も理解できなくもない。
それよりも気になったのはあのエセ伯爵が何気なしに言った言葉だ。
"解放したらあの大きさに?"
"解放したら″
"解放″
管野の念能力は魔力のストックだ。
欧州戦線を戦い抜いてきた管野にとって、戦場で一番気にかける物といえば魔力の残量だった。拳一つでネウロイを墜とす身からすれば、残弾がたとえ尽きようとも魔力さえ有ればネウロイは墜とせるという考えからだった。
故に、魔力の消費を抑える、あるいは魔力そのものを多く持つという発想へと至り、それは日々使い切らなかった余剰魔力を少しずつ右腕に呪印の画数という形で貯め込むという能力となった。
能力のメモリ・容量はなるべく小さくするべき、というひかりの助言と、自身の魔力を圧縮するという固有魔法から形になるのは比較的早かった。
ニパとも相談を重ねた上で出来上がったそれを管野は気に入っていた。ただ、他の隊員達の能力を聞くに、なんとも爆発力に欠ける力だ、と能力に名前をつけることもなくただひかりに対するびっくり箱程度にしか使っていなかった。
その考えは間違っていた。
爆発力に欠けてなどいない。
爆発させようとしていなかっただけだ。
「"解放"…っ!ブッ飛べ、オラアアァァ!」
開放作戦からこっちチマチマ使い続けて残った3画全て惜しむことなくつぎ込み放たれた一撃は管野の行く手を塞いでいたネウロイを真っ向から撃ち抜き、そのまま孝美に集っていた中型の一機に命中し炸裂した。
貫通せずに表面で炸裂した魔力光線を受けた中型は拉げて折れ、悲鳴のような金属音を響かせて爆散した。副次効果なのか強い衝撃波を伴って拡散した破片は他のネウロイへも襲い掛かる。
「今ならっ」
近くにいた孝美もそのあおりを受けて吹き飛ばされるが、もともとシールドを張っていたことも相まってダメージを受けることなく、逆に吹き飛ばされることで危機的状況から脱することに成功した。
体勢を立て直した孝美の目に入ったのは、破片と衝撃のダブルパンチに襲われたネウロイがバラけた光景。体の大きいものはより多くの破片を浴びて再生に手間取り、小型はと言えば衝撃波に耐えられず海に突っ込み砕けたものもあった。再生にエネルギーをとられて動きの鈍ったネウロイなど的でしかない。厄介な中型から順に魔眼を駆使して排除していく孝美。
(今のは管野さんよね、とっておきの一撃ってことかしら。それだけの威力はあったわね)
手と目は休めずに狙い撃ちつつ、この惨劇を引き起こした管野の一撃について考える。
「うお、すっげ……」
当の放った本人はと言えば自分のはなった一撃が思った以上の威力を見せたことに呆けていたのだが。
『やるじゃん!……うえーっと、ああ。菅野!』
「うお、見てたのかよ」
孝美のピンチを見ていたのはなにも管野だけではない。パブロフスクには大勢が乗り込んでおり見張りを行っているものもいる。その者が艦橋に報告をあげ艦橋からウィッチ達へ至急救援に向かうようにと伝えられていたのだった。
その中で最初にたどり着いたのが西沢だった。
「けっ。見てたんなら早く来いよ」
『やぁ、それはごめん。いやあたしも急いだんだけどさ』
「まぁ、孝美も無事だしそこはいい。それよか、」
他の戦況はどうなっている、と管野が続けようとしたとき、大気を振わせる轟音と共に空が割れた。
「うおおぉお!?」
「なんだ!?」
突然の暴風に躰を煽られ、管野も西沢もひっくり返る。
手足を振り回し、その反動も活用して何とか落ち着くまでに三十秒近くを要した。
見上げた先では曇天の空が二つに割られ、その向こうには青空。そして、その青に落ちた一点のシミ。黒く細長いそれは次第に近づいてきており、日差しの向きでその明暗がはっきりすることでそのディティールが徐々にわかる。
「んだよ、ありゃ……」
「大型も大型、あのクラスは……それこそ扶桑海以来かな?」
前後に伸びたその形状。上部には艦橋のような突起を、本体の大部分は上下に二枚の開放型バレル。その後部、中央で薄い煙を纏う赤い発振部からそれが超大型ネウロイにして超大型砲であることが伺えた。
高度3000程の位置に鎮座するそれに、動けずにいる管野達。その視線の先で、発振部が赤く輝きだしバレルの間は紅く放電しだす。
「ヤベぇ!第二射だ!」
『全員衝撃に備えて!』
無線から飛び込んでくるサーシャの叫び声。
次の瞬間には視界が発射の閃光で白く染まり、さらに光線で紅黒く上書きされる。
空中にいるウィッチに捕まれる物など有るはずもなくい。気休め程度に体に力を入れグッと待ち構える。
着弾の衝撃か、大気との摩擦の熱によって瞬時に大気が膨張したからか。或いは両方か。
遠目には白い靄の様に見えたそれは、次の瞬間には自分の体を包み込んでいた。
靄の様に見えた衝撃波はあっという間に戦場を包み込み、そのまま後方へと抜けていった。
突き出したシールドが受けたこともないような振動で腕ごともぎ取られそうになる。
躰が揉みくちゃにされてねじ切れそうになるのを必死にエンジンを噴かすことで抵抗する。
時間にしてみれば僅かな間だっただろう。体感には何倍、何十倍にも思えた時が去った後、管野の目には一見何も起きていなかったのように見えた。
「あ……?」
衝撃波によって薄く掛かっていた雲が晴れた事で視界が明るくなってこそいたものの、眼下の海上に変わりは無く、空母パブロフスクも浮かんでいる。
いや、違う。無事なのはそれだけだ。
管野の後方で何かが水に落ちる音がする。気安く其方に目を向けたことを管野は後悔した。
ウィッチは捕まる物こそ無かったがシールドで身を防げたし幾分衝撃波その物を緩和することも出来た。
では、そうで無かった物は?その答えが管野の後ろには拡がっていた。
海面には人類側の戦闘機と大小様々なネウロイの残骸が波間を漂っていた。機体の制御を失い海面に叩きつけられた戦闘機は原形をとどめておらず、折れた翼やグシャグシャになった胴体がまばらに浮き、管野の見る前で沈んでいった。
水を苦手とするネウロイも自ら離水することも出来ずに沈み、やがて海中で光となって消えていった。
「うえっ……」
人類の仇敵、そう頭で分かってはいたもののもがき苦しむようにしてやがて力尽きる様を思わせる光景に思わずえづく。
「管野さん!」
「サーシャか……」
「パブロフスクへ。皆さん集まってます」
パブロフスクでは負傷したウィッチや海面から引き揚げられたパイロットが収容されると同時に、燃料や弾薬の補給も行われていた。燃料の過剰な消費を無視すれば専門の艦載ウィッチでなくとも垂直発着艦ができる全通甲板空母型の利点を生かした前線基地だ。
「俺たちが目障りだからってあんな奴まで投入してきやがるのかよ」
502の面々は優先して補給を受けるとともに直掩も兼ねて艦上空に集合していた。
「さっきのもだけどさ、あいつ何処狙ってんの?」
大型砲ネウロイの射撃間隔は空いていた。最初の一発と次弾こそ間隔が短かったがそれ以降は照射されていない。
「下原さん」
「見えています、狙われたのは戦艦です。戦艦が2、いえ1隻すでに沈んでいますので元は3隻だったみたいです」
魔眼を用いてネウロの観察を行っていた下原が対象を海上に向けると、小規模な艦隊が航行しているのが見えた。すでに舳先が海面に残るのみとなった大型艦のほかにも大なり小なり被害を受けた艦が10隻ばかりだ。
「艦名は分かりますか?」
「スオムスの……。えぇっと何でしたっけ、海防戦艦が1、それからかなり古いタイプの戦艦が1です」
『それはカールスラントのシュレスヴィッヒホルシュタインだ。前大戦の頃の物だから古く見えるのも当然だろう』
ほのかなノイズ交じりの音声が502の部隊内無線に割り込んでくる。
「隊長!」
『お前達の脱出計画をうまく拾えたのでな。迎えの艦隊を、と思ったらこれだ。』
『助けに来たのはこっちのはずなのにね』
半島をぐるっと反時計回りに横断し、スオムス軍との連絡を図っていたラルとクルピンスキーがこの艦隊には乗り合わせていた。正確には、ペテルブルグを艦で脱出する組がいることの通達とその回収に艦隊を出すよう根回しをしたのはラルなため乗り合わせたという表現は正しくないのだが。
「隊長、我々はあの大型を」
『ああ。あれは私たちの獲物だ。──これより502JFWは敵空中砲台の排除を行う。ロッテごとに集合、突入する』
「「「了解!」」」
およそ一月ぶりに、502の全員が揃った。
「なし崩しに私らも混ぜられてないか?」
「そうね、終わったらオラーシャに……。あぁ、でも今は北回りでもオラーシャに行くのは大変そう」
「んー、ここで協力する代わりにあの隊長さんに手配して貰うか。やり手みたいだし」
「扶桑経由で東側から…。いえ、切り抜けてから考えましょうか」
「だナ」