鬼滅の刃~蒸の呼吸~【完結】   作:木入香

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 初めましての方は初めまして。
 以前投稿させて頂いた短編同様、今回も捏造設定盛り沢山でお送りしたいと思います。
 分からない所はとりあえず捏造。矛盾があれば都合が良いように捏造。矛盾がなくてもより都合良く捏造。気楽に捏造。
 ということで、とりあえず主人公をテンプレ的にそこそこチート化させて無惨をガクブルさせます。
 とりあえず、行ける所まで毎日投稿したいと思いますが、すぐに底を付く可能性があります。ご了承下さい。


 余談ですが……
 童磨に殺された胡蝶カナエが、100年後の日本に転移したと思ったら、そこは夜には吸血鬼が蠢く『月姫』の世界で、鬼とは仲良くなれなかったけど吸血鬼とは仲良くしたいと思ってアルクェイドといちゃいちゃするクロス-バーの話を思い付いたんですけど、誰か書きませんか?
 私は書きません。


第壱話 出遭い、出会い

 時代(とき)寛永(かんえい)二〇年。場所は尾張藩(おわりはん)尾張国(おわりのくに)。日はすっかり山の向こうへと姿を隠し、街は闇に(つつ)まれる。日中は多くの人で(にぎ)わうこの通りも、今の時間は人通りなどなく閑散(かんさん)としていた。

 (あか)りは、雲の切れ間から時折顔を(のぞ)かせる月と、道の途中に長い間隔で設置されている燈籠(とうろう)くらいだろう。

 そんな寂しい場所を、一人の少年がトボトボと歩いていた。少年の服装は木綿(もめん)の着物であったが、古く安い布きれを集めての()()ぎだらけの見窄(みすぼ)らしい。藁草履(わらぞうり)も泥に(まみ)れ、短い髪もボサボサになっている。

 

(兄ちゃんが死んだ……)

 

 長屋(ながや)で兄と二人暮らしの少年は、仕事に出掛けた兄を待ちつつ夕餉(ゆうげ)(夕食)の支度(したく)をしていた所に、突如(とつじょ)役人が現れ、兄が強盗に襲われたと伝えてきた。すぐさま飛び出して、担ぎ込まれたと教えられた町医者の下へ走った。

 そこで見たのは、腹を短刀のようなもので刺されて出血も止まらない、そして苦しさと痛みで息も()()えな兄の姿であった。懸命(けんめい)な治療を試みたものの、この時代に十分な医学はなく、少年が駆け付けて半刻続いた呼吸も次第(しだい)に弱まり、日没と共に息を引き取った。

 悲しみに打ち(ひし)がれた少年は静かにその場を去り、一人、人のいない通りをフラフラと彷徨(さまよ)うように歩き出した。

 

(俺は、一体何の為に……本当に、俺って、疫病神(やくびょうがみ)なのかもしれないな……)

 

 少年達の父親は元々頭領(とうりょう)で、少年はその次男であった。尾張の中でも腕利きの大工として知られ、裕福とは行かないまでもそれなりに良い暮らしをしていた。しかし、三年前の夏。突然暴風雨が街を襲い、父親は仲間達と共に建築中の建物の補強を行っていた。しかし、縛っていた縄が切れて材木が崩れ、父親を含めた三名が下敷きになり犠牲(ぎせい)となった。

 母親は元々病弱であったが、幼い兄弟の為にと働きに出て、野菜売りをしていた。だが、元々身体が弱かったことと、飢饉(ききん)による全国的な不作が重なってしまい、収入が得られず満足な食事も出来なくなったことで倒れてしまう。そして、そのまま回復することなく昨年に亡くなった。

 兄と少年は、元いた家を売り払って長屋へと身を寄せた。そして、兄弟で協力して日銭を稼ぎ、日々を過ごしていた。四つ歳の違う兄は父親の意志を継いで大工見習いへ、少年は私塾へ通って文字の読み書きや算術を教えていた(・・・・・)

 少年は、幼い頃より飲み込みが早く、特に算術の才能が高いと神童(しんどう)として持て(はや)されていた。いつか将来は、この算術を使って父と兄とで全国一の大工職人になることを夢見ていた少年だったが、その夢も今日、(つい)えた。

 

「これからどうしよう……」

 

 兄を失った悲しみは、先程()れる程泣いたので幾分(いくぶん)かは落ち着いた。忘れた訳ではないが、これまでに二人の身内の死と向き合ってきたこともあってか、嫌な表現だが慣れ(・・)てしまったとも言える。子供でありながら立て続けに様々な死を見せ付けられたことで、心がどこか擦り切れてしまったのかもしれない。

 その答えを出してくれる人はこの場にはいない。とにかく、今は明日からどう生きようか考えることだ。と、(はた)から見ると無理しているとも、空元気とも言える前向き思考で顔を上げる。

 

(私塾に行ってみるか?)

 

 私塾の先生は優しい人であるから、これからも教えに来てくれたら少ないながらも給金を出すと言ってくれるだろうし、何なら私塾に住まないかと(すす)めてくれるだろう。優しいというか甘い人だ。いつか悪い人に騙されないか心配になってしまうが、そんな人柄だから、多くの人から(した)われていたし、少年も慕っていた。

 

(よし)

 

 何はともあれ、相談してみないことには始まらない。そう決めたのならばと気合いを入れて改めて前を向き、明日訪れてみようと決意する。

 

「おやぁ? こんな時間に子供一人で歩いていては危ないよぉ?」

 

 突然背後から、ねっとりとした口調の男性の声がしたので振り返った。

 

「ひっ!」

 

 その様相を見て、少年は思わず尻餅を付いてしまう。

 月下の元に立つそれは、七尺(約2m)に届くであろうがたいの良い、ボロボロの着物を着た男性が立っていた。ただ普通の人間の男性と違うのは、肌の色が死人のように青白くて目が赤く、更に頭に二本のツノが生えていた。そして何より、ボロボロの着物には赤黒い染みが大量に付着し染み込んでいた。

 

「な、な……」

女子(おなご)でないことは残念だけど、好き嫌いはしないから安心してねぇ?」

「お、お、鬼……?」

 

 お伽噺(とぎばなし)などで出てくる鬼のような姿をしていた。

 

「そうだよぉ? そして、今から君を食べるんだけど、すぐには食べないからねぇ? まずは手足を一本一本折って、引き千切って。それを食べたら次に胴体を、それで最後に苦痛に(ゆが)んで固まった顔を食べるのが趣味なんだぁ」

 

 自身を(えさ)としか見ていないような視線に、恐怖で背筋が凍り、嫌な汗が出る。

 

(コイツ……サディスト(・・・・・)かよ! え? あれ? 何で俺? そんな言葉知らな……)

 

 突然頭の中に浮かんだ言葉に、自分自身で困惑する。

 混乱する少年の頭の中では、これまで自身が歩んできた歴史が走馬燈(そうまとう)のように駆け巡り、それに加えて(・・・)自分とは違う、誰かの、そして今よりも(はる)か遠く未来の記憶が(よみがえ)ってくる。いや、正確にはこの時代から先の未来ではなく、別の世界の未来である。

 

「っが!」

 

 極限状態の中で、突然の記憶の奔流(ほんりゅう)に気を取られた結果、少年は殴り飛ばされてしまう。手加減をされているのだろう、それ程距離はなく、すぐに地面に倒れた。

 地面に転がされ、痛みによって(うめ)く。殴られた脇腹を見ると出血しているのが分かる。初めて感じる痛み。そして血が流れ続ける様子を見て、全身の血管が脈打つ音が耳の奥で響いているように感じた。

 息は出来る。痛い。まだ立てる。逃げなきゃ。逃げられない。怖い。痛い。死ぬ。殺される。食べられる。死んだら、兄に会えるだろうか。痛い。諦めるな。暑い。痛い。寒い。痛い。痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い……

 大きく息を吸う。肺が痛い。

 立ち上がる。腕が痛い。脚が痛い。

 前に立つ者を見る。頭が痛い。

 その時、脳内で何かがカチリとハマった気がした。

 

「コォォォォォォォ……」

 

 息を吐き出し、前を向く。全身が燃えるように熱い。恐怖はあるが、(おび)えはない。痛みを感じない。

 鬼が右腕を引いた。

 

(殴られる!)

 

 そう思った瞬間、身体が動いた。わずか三尺(約1m)程度だが、身体をずらすことに成功し、(かわ)すことが出来た。反応出来た。

 

「お前、今のをどうやって!」

 

 相手の一瞬の動揺と痛む身体の両方を無視して、更に距離を開ける。少年は、ここで再び吐き出した分の空気を取り込んで、全身へ血を巡らせることに集中する。

 

この時代(・・・・)にはまだ酸素という言葉はないけど、とにかくそれを全身の、手足の先まで行き渡らせることに全集中(・・・)するんだ!)

 

 より速く血を走らせようと、鼓動(こどう)が速く力強くなる。あまりの激しさに、耳へは血の音しか聞こえないような錯覚(さっかく)(おちい)る。しかし、そのおかげで余計な情報を遮断(しゃだん)し、集中して目の前の相手を見据(みす)えることが出来ていた。

 

「ふん、だがぁ、その程度では!」

「っ! はやっ……!」

 

(避けられない!)

 

 これまで相手は油断していたのか、先程の不意を突く形での回避行動で距離を作ることが出来たが、本気を出したのか、その作った距離を一瞬で詰めてきて、丸太のように太い腕を振り上げているのが目に映る。

 恐怖と驚きで一瞬動きが固まってしまうが、それでも目を閉じることだけはせず、相手の動きをしっかり見、何とか威力を相殺(そうさい)出来ないかと身体を(ひね)ろうとする。

 だが、そんな努力(むな)しく、残酷にもその命を散らそうとしたその瞬間。

 

 ―― 炎の呼吸 壱ノ型(いちのかた) 不知火(しらぬい)

 

 今ここにいる二人とはまた違う男の声がした。それと同時に、鬼の右腕が何かによって斬り飛ばされていたことに気付いた。

 

「なっ! おめぇは! 鬼狩(おにが)りか!」

「貴様の相手は私だ!」

 

 鬼と自身の間に、いつの間にか大人の人間の男性が立っていて、その手には刀が(にぎ)られていた。男は、構えを取り視線も鬼から外さないように気を付けつつも、軽く首だけを回して力強い声で後ろにいる少年に話し掛ける。

 

「そこな男児、無事であるか!」

「え? う、うん」

僥倖(ぎょうこう)! 今から、私が此奴(こやつ)を斬る! 安心せよ!」

「邪魔を……するなぁ!」

 

 対する鬼は、先程までの余裕を完全になくしているのか、相手を舐め回すようなねっとりとした口調ではなく、ひたすらに怒号だけが響く。それと同時に、斬られた腕が断面から生えて元通りになった鬼が、今度は剣士へ向けて襲い掛かる。

 

「遅い!」

 

 ―― 炎の呼吸 弐ノ型(にのかた) (のぼ)炎天(えんてん)

 

 鬼の動きを上回る速度で切り上げられた斬撃が、相手の動きを封じる。

 

 ―― 炎の呼吸 伍ノ型(ごのかた) 炎虎(えんこ)

 

 その(すき)(のが)さず、すかさず放たれたのはこれまた先程の技以上の熱き闘気をまとった斬撃であった。

 轟音響かせ、まるで虎のように相手へ食い付く攻撃は、勢い良く鬼へとその刃を届かせる。

 

「なっ!」

 

 驚きを口にしたのは少年か鬼か、それとも両方か。いずれにせよ鬼の(くび)は斬られ、頭が跳ね飛ばされた。そして落ちてくる間に灰のようにボロボロと崩れ、消え去ってしまった。

 その様子を、ただ呆然(ぼうぜん)と眺めているしか出来なかった少年は、いつの間にか腰が抜けて、地面へへたり込んでいた。

 

「男児、大丈夫か?」

 

 刀を(さや)に納めた剣士の青年は、片膝(かたひざ)()いて少年の様子を確認する。

 

「え、あ、は、はい。その、えぇと……」

「良い。動揺(どうよう)しておるのだ。今は休息が必要だな。それと、治療(ちりょう)か。男児、お(ぬし)の家は? 家族は?」

 

 確かに少年は動揺していた。しかし、それは鬼という非科学的存在に襲われたことでも、それを助けてくれた剣士の強さのことでも、ましてや自身の怪我のことでもない。その原因は……

 

(ここ、『鬼滅(きめつ)(やいば)』の世界かよ!)

 

 少年の心の叫びが目の前の青年に届くはずもなく、また、ずっと気を張っていたことも事態が収まったことで緊張の糸が途切れ、その意識を埋没(まいぼつ)させていく。

 少年と青年しかいない暗闇に支配されたその通りに、青年が少年へ呼び掛ける声だけが響いていた。




 江戸コソコソ話

 本文に登場する飢饉とは、1642年前後に起こった(前兆はもっと前からあった)江戸四大飢饉の一つ、寛永の大飢饉のことです。このせいで、せっかく1636年に製造開始したかの有名な貨幣、寛永通宝の価値が大暴落し、全国的にてんやわんやしました。
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