鬼滅の刃~蒸の呼吸~【完結】   作:木入香

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 柱になったのに見回りしていないですね。刀がなかったから仕方ないですが。


第拾弐話 柱としての初任務

 集合場所となっている藤の家紋(かもん)の家へ向かう創里(つくり)。強力な鬼がいる可能性があり、下級隊士では太刀打(たちう)ち出来ないと見做(みな)され、鬼殺隊(きさつたい)の最高位九人で構成される柱の一人となった彼を派遣(はけん)する運びとなったようだ。

 トレードマークとなっているいつもの着物。右が橙色(だいだいいろ)生地(きじ)(そで)(すそ)水色(みずいろ)の大波、左が水色の生地で同じように袖と裾に橙色の炎を表す模様が(えが)かれた着物を着て、左だけ袖を通さずに浪人(ろうにん)風来坊(ふうらいぼう)を彷彿とさせるような()で立ちとなっている。

 その背には、大きな布で巻かれた巨大な日輪刀(にちりんとう)が背負われている。何となく『FFⅦ』に登場するバスターソードに似てなくもないその形も、今は(さや)に納められ、その上から布で分厚く巻き付けたことで(こと)でも運んでいるのではないかと周囲を誤魔化(ごまか)すことが出来ている。

 肩に届きそうだった白髪交(しらがま)まじりのボサボサの黒髪も、短く切られている。しかし、何度整えてもしつこく()ねる為、(あきら)めてボサボサのままで放っておいている。

 身長が五尺三寸(約160cm)と小柄ながらも、その目付きの悪さと雰囲気(ふんいき)から、とても数えで一七の若造に見えないと言われることもあるが、転生前の年齢と合わせたら十分中年レベルなので別に問題ないと本人は思っている。ちなみに身長に関しては、この時代なら平均だしと強がっていたりする。

 

「ここか」

 

 鬼の情報や本部からの伝令などを伝える、隊士一人一人にあてられる人の言葉を(しゃべ)(からす)鎹鴉(かすがいがらす)。創里の相棒は権三郎(ごんざぶろう)という名で、余計なことは一言も話さず職務に忠実(ちゅうじつ)という寡黙(かもく)な鴉である。その相棒の案内によって辿(たど)り着いた彼は、軽く周囲を確認して問題ないと判断してそのまま中へ入る。

 すぐに特殊能力のようにどこからともなく現れた家主の老婆(ろうば)に出迎えられ、隊士が集まっているとされる大部屋へ通された。座敷(ざしき)の中には六人の隊士。聞いていた情報と同じなので、創里が最後の到着のようだ。

 創里が入ってきたことで、一斉に振り向かれ注目を集めるが、特に気にする素振りも見せずドカドカと部屋へ入り、適当に出入り口に近い()いたスペースに胡座(あぐら)をかいて座る。

 

「悪い。遅くなった」

「お、お前!」

「あん?」

 

 声を荒げた男性隊士をよく見る。電気などないこの時代、当然蛍光灯(けいこうとう)やLEDなんてものがある訳もなく、夜間の部屋の灯りと言えば行燈(あんどん)蝋燭(ろうそく)である為、若干(じゃっかん)暗い。それ(ゆえ)に気付くのが遅くなった。

 

「お前……いや、お前等、最終選別の」

 

 そこにいた四人の男性と二人の女性、合わせて六人の隊士は、かつて最終選別で一緒になり、共に合格を果たした者達であった。しかし、着ている着物は皆バラバラである。鬼殺隊の隊服と言えば、詰め(えり)に背中の「滅」の字であるが、この江戸時代にはまだ詰め襟などない。よって、この頃には決まった服装がない。

 軍であれば、防具によってデザインが統一されているが、そのようなものを着るのも面倒な上、何より動くのに邪魔である。防御力も鬼の一撃を受けられるとは言い難く、それならばない方が良いということで、皆軽装なのである。

 

「柱が派遣されるって言ってたのに、何でお前が来るんだよ?」

「そうよ。他に隊士が来るとは聞いてないわよ」

 

 最初に声を上げた男性隊士に同調するように、気の強そうな女性隊士も文句を言う。最終選別の後の玉鋼(たまはがね)を選ぶ際に、他の皆が牽制(けんせい)し合っている中、真っ先に前へ進み出た勇気ある人だったと記憶している。

 

「いや、俺がその柱だし」

「は?」

「え?」

「嘘だろ?」

「本当かよ……」

 

 四人がすぐさま反応する。残りの二人の男女は言葉を失っていただけで驚いてはいるようだ。

 

「改めて紹介する。新しく蒸柱(じょうばしら)に就任した創里だ。で、早速だ。時間が惜しい。移動しながら状況説明と鬼探しとしよう」

「何でお前が仕切るんだよ」

「俺が柱だからだよ。仮に柱でなくとも階級が全てだ。俺は(きのえ)だが、それと同じ奴はいるか?」

 

 手の甲に階級を浮き出させて確認させる。それを見て、一同は黙りこくる。

 

「よし、それでは行くぞ」

「お、おう」

 

 移動しながら鬼の情報を確認する。対応にあたった部隊はほぼ全滅。四人死亡、二人重症で再起不能とのことであった。その全滅した六人の部隊が、最終選別を突破した同期の残りの六人とのことらしい。鬼の情報はその生き残った二人の証言によるものだが、ただ強い男の鬼という話しかなく、かろうじて分かったちゃんとした情報は槍を使うということくらいであった。

 

「槍……か。武器を持つ鬼とは珍しいな」

 

(知っているのだと、上弦(じょうげん)(いち)黒死牟(こくしぼう)くらいか。一応童磨(どうま)(おうぎ)があるか。まぁでもアイツはどっちかと言うと血鬼術(けっきじゅつ)が印象深いからな……)

 

 鬼であるから元々の戦闘力が高いのは確かだろうが、そこに槍という武器を扱うともなると、更に並の剣士では厳しいものになると思われる。それはリーチの差だ。刀よりも遠くへ攻撃が出来る槍と、鬼の身体能力、そして血鬼術もあるかもしれない。それらが合わさることで、凶悪なものとなる。

 

遭遇(そうぐう)場所は街の(はず)れか。ふむ。街道が延びているな。だが、関所が襲撃を受けたという話は聞いていないから、恐らく近くの森の中を移動しているか」

「あぁ、話を聞いた(かくし)も街道を外れて移動したと言っていたらしい」

 

(伝言ゲームかよ。まぁ今の時代だとそれが普通か)

 

「それじゃあ二人一組で散策(さんさく)。遭遇時は遅滞戦術(ちたいせんじゅつ)へと移行し、他の隊士、ないし俺が到着するまで(ねば)れ」

「分かったわ」

「おう」

「分かった」

 

 それぞれ三班と一人に別れて四方へ散る。

 創里の担当は、街の西側。他の探索地点と比べると森に近い場所だ。

 

(静かだな……他の地点へと移動したか? だが、他に手掛かりもないしな……)

 

 辺りをキョロキョロと見渡しながら、すっかり静まり返っている街並みを眺める。通りや家々の隙間の闇の奥を見ようと目を凝らすも、特に何も感じない。しかし、感じないにも関わらず、創里は納得しない様子であった。

 

(直感か、勘か。何となくとしか言えないが、きっとこの近辺に(ひそ)んでいるはずだ)

 

 行動理念や心理など知るはずもない。この思考も行動も無駄足となる可能性だって十分ある。だが彼は諦めず、しかし焦らずにしっかりと一つ一つの可能性を目で見て潰していく。

 気配だけに頼らず、五感全てを使うことを意識し、どんな些細(ささい)痕跡(こんせき)(のが)さないようにと確認する。

 その時、離れた隊士の状況を素早く知る為に、(あらかじ)め上空を数羽で周回させていた鎹鴉の内の一羽が「鬼ヲ発見! 隊士ガ交戦開始!」と告げた。

 

(位置は……良し、それ程離れていないな)

 

 ―― 全集中 ()の呼吸

 

 エンジン(呼吸)を始動させ、すぐに地を蹴って民家の屋根に飛び移る。

 

 ―― 一速

 

 一直線で目標地点へ向かう。

 

 ―― 二速

 

(見えた!)

 

 イメージ内の回転数が三〇〇〇に到達(とうたつ)した所でキープ。刀を抜き、屋根から飛び降りて低い姿勢で駆け抜ける。

 その鬼は大柄な男で、刃が三つ付いた、まるで十字のような形になっている長い十文字槍(じゅうもんじやり)を振り回して、それと対峙していた男性隊士二名が苦戦しているようだった。無闇に戦おうとせず、先程の忠告通りに間合いに気を付けつつ、決定打をもらわないようにと連携して時間稼ぎに(てっ)していた。

 

「遅くなった!」

「はやっ、あ、いや、助かった!」

「気を付けろ! コイツ、かなり強い!」

 

 新手、それも今相手にしていた二人とは明らかに力量の違う鬼狩りが登場したことで、その鬼の視線が厳しくなる。対して創里は刀を右肩に乗せ、左腕は肩から露出させる『FFⅩ』のアーロンと同じスタイルとなってジッと相手を見つめる。

 

「そのまとう空気。噂に聞く柱というものか」

「知ってんのか」

「強い人間ということだけだ」

「十分!」

 

 合図はない。ほぼ同時に二人は駆け出して一気に間合いを詰める。いくらバスターソードのように大きな刀とはいえ、槍のリーチには負ける。しかしそれでも(なお)、一直線に突っ込む。

 相手が槍を突き出してきたタイミングに合わせて、振り下ろす。

 ガァン! と重い金属同士がぶつかり合う(にぶ)い音が響き、互いの動きが拮抗(きっこう)する。しかし、その状態も一瞬のこと。そのまま力任せに振り抜いた創里が、相手の槍を地面へと叩き付けた。

 しかし鬼は軽く(まゆ)を寄せる程度で大した反応を見せず、すぐに槍を引いた。

 

「力の勝負で(わし)が負けるか」

「その割には驚いてないな」

「驚いている。この下弦(かげん)()の儂に力勝負を挑んで勝ったのだからな」

 

 そう言って、鬼の二つの目とは違う、額にあるもう一つの目が開眼し、そこに“下肆”の文字が(きざ)まれていた。

 

「やはり十二鬼月(じゅうにきづき)だったか」

 

 刀を中段の構えにして、(つか)を握り直す。(さら)した肌からは(わず)かに蒸気が出ている。

 

「蒸柱、あの鬼の構えと動き、もしかして宝蔵院流槍術(ほうぞういんりゅうそうじゅつ)の流れを汲んでいるのではないかと思うのだが」

「長いな。何だそれ?」

「俺もそう見たことがある訳じゃないが、十文字槍といい、あの動きといい、そうなのかもと」

「なるほどな。よく分からんが、そういう流派かもしれんってことだな。気を付ける。お前等は周囲の警戒と、周りに被害が出ないように注意を払え。後から合流する連中にも伝えろ」

「お前はどうするんだ?」

「俺か? 決まってるだろ? あの鬼を狩る」

 

 ―― 炎の呼吸 壱ノ型(いちのかた) 不知火(しらぬい)

 

 瞬間、踏み込みから一気に距離を詰め、相手の槍の間合いの内側まで飛び込む。

 

「むっ!」

 

 ―― 血鬼術 槍操葬(そうそうそう)

 

 すると、創里の足下から突然真っ赤な槍が飛び出して来た。それを、上体を()らすことで(かわ)して、しかし斬る動作を中断することもなくそのまま流れるように型を変えることで即応する。

 

 ―― 弐ノ型(にのかた) (のぼ)炎天(えんてん)

 

 不知火の為に上段の構えになっていたことから十分な威力は見込めないが、上体が大きく反り返った状態だった故に、咄嗟(とっさ)に切り上げの動作にて技を繰り出すことに成功した。

 そのまま刀は地面から突き出された赤い槍と接触し、またも重い金属音を響かせながら軌道を逸らした。

 しかし、その崩れた姿勢は明らかな(すき)であり、そこに鬼はすかさず左腕で殴り掛かってきた。右手の槍を戻す時間で立て直されると読んだのか、徒手(としゅ)による攻撃は意表を突くものであった。

 だが、それを予想していない創里ではなかった。叩き付けられるような腕による攻撃を、昇り炎天の切り上げた勢いのまま後ろへ跳び、バック宙する形で回避する。下半身に集中していた重心を捨て、全てを刀に預けることで、勢いの付いた非常に重い刀に引っ張られる形で彼の小さい身体は宙へと投げ出された。

 その動きは完全に想像の外だったのか、鬼が驚愕(きょうがく)の表情を浮かべて一瞬固まる。

 そんなものは知ったことではないと、創里は着地した際に大きく(ひざ)を曲げ、そこからカタパルトで射出されるように再び正面から飛び込んだ。

 先程の血鬼術で生み出した槍は、発動時間に限りがあるのか(くだ)けて地面へ落ちていた。

 

 ―― 炎の呼吸 参ノ型(さんのかた) 野火(のび)

 

 今度は相手の間合いの外から、熱量を持った闘気を真っ直ぐに飛ばす斬撃を放ち牽制しながら接近する。

 

(あの地面から生えるのが一本とは限らん。だけど、距離がある時に使わず、間合いに入った時に使ったということは、もしかしたらあの手持ちの槍の間合いが、そのまま血鬼術の間合いだったりするのかもしれん。試すか)

 

 どちらにせよ、近付かなければ(くび)は斬れない。

 

(あの手に持った槍も、多分血鬼術で強化しているんだな。普通の槍だったら俺の刀と打ち合ったら壊れるぞ)

 

 槍の間合いに入る直前、創里は急激に左へ方向転換して、今度は相手の右から攻める。長物(ながもの)を持った側は必然大きな動きがしづらく、対応が難しいとされる。だが……

 

「舐めるな!」

 

 ―― 血鬼術 槍操葬

 

 今度は五本の血塗れのように真っ赤な槍が地面から飛び出して来た。予測した通りの結果に満足し、早々に離脱する。

 

「なるほどな。確かに並の隊士では無理かもしれないな。それにお前自身の技術も(ぼん)じゃねぇ」

 

 もしかしたら元武士なのかもしれないと考えつつ、攻略法を見つけていた。

 

「だけど、それだけだ」

 

 ―― 二速

 

(三〇〇〇から五〇〇〇へ)

 

 ―― 炎の呼吸 壱ノ型・() 不知火・電光石火(でんこうせっか)

 

 勝負は一瞬だった。

 熱風が駆け抜けたと思った瞬間には、鬼の()が宙を舞っていた。

 

「じゃあな」

 

 創里の呟きは、鬼の怨嗟(えんさ)と苦痛と怒りの()もった断末魔(だんまつま)によって掻き消され、そのまま灰のように崩れて消えていった。




 江戸コソコソ話

 この頃はまだ統一した隊服はありません。本作の設定では、江戸後期から統一した着物を着るようになったということになっている予定ですが、本作の舞台が江戸初期ですので、まぁ主人公生きていないでしょうね。ということで、表に出ない設定です。

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