鬼滅の刃~蒸の呼吸~【完結】   作:木入香

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 何とか書けました。次も頑張ります。
 原作よりも260年前の話ということを念頭にお読み下さい。


第拾伍話 氷鬼

 謎の宗教団体の調査の命令を受けて行動を開始して一〇日程、早くも創里(つくり)はその足取りを大まかに(つか)んでいた。

 鬼そのものの動きは依然(いぜん)として不明であるが、民間人、それも幕府(ばくふ)が認知出来る程度に表の人間の動きがある。そして表の動きは、光と影の関係のように裏も同時に動くことになる。そして、裏の人間が動くなら創里が半年掛けて構築した全国に張り巡らせた遊郭(ゆうかく)の情報網が生きてくる。

 

「この地点は白。こことここも白だな」

 

 手に持つのは簡易地図。まだ伊能忠敬(いのうただたか)のいないこの時代。ちゃんと測量された地図はまだ存在せず、仮にあったとしてもそれは幕府が保管してあるだろうから、一般市民が目にする機会はない。

 とはいえ、前世の知識のある創里ならばこの簡易地図からでも十分に日本列島の形を想像出来るので、あまり不便はなかった。

 

大分(だいぶ)(しぼ)り込めてきたな」

 

 遊郭からもたらされる情報は大したことのないものが多い。だが、裏の人間世界に精通した商売だ。よって、不自然な人の流れには敏感(びんかん)となる。

 変な客がいた。金払いの良い武家の人が来た。足抜けがあった。新しい遊女が入った。(みごも)った。芸能の一座が泊まった。酔っ払い同士が喧嘩した。迷子がいた。身請(みう)けした。風邪(かぜ)を引いた。強盗があった。奉行所(ぶぎょうしょ)の視察があった。物乞(ものご)いがいた。三味線(しゃみせん)が上手く()けるようになった。人が死んだ。

 重要度で言えば様々で、事件化したものも(おおむ)ね表の役人で処理出来る案件ばかりであった。

 そういった情報を、創里は鎹鴉(かすがいがらす)(かくし)に一般協力者。時には遊女本人との直接の(ふみ)(手紙)のやり取りで集め、精査していく。本人とのやり取り以外のやり方に関しては、調査に時間を掛けると雲隠れしてしまう可能性を考慮(こうりょ)し、迅速(じんそく)に動くべく依頼した。

 一般市民の協力者に関しては、普通の町人ではなく、少しだけアウトローな存在、ヤクザとまでは行かないが、それなりのワルに依頼をすることで、お金次第(しだい)で受けてくれるので人材を見つけることは難しくはなかった。元々裏に片足突っ込んだ連中だ。余り大きな動きをすると役人に見咎(みとが)められる為、コソコソと動く必要のある今回の情報収集には持ってこいである。

 

「ここか」

 

 そして見つけた。地図のある一点を、指で(つつ)きながら(つぶや)く。

 遊郭から得られるのは街、もしくはその周辺の情報だ。当たり前だが、金持ちが利用する施設だけに、そういった身分の人は街にいることが多い。

 確かに一つの遊郭だけならば得られる情報はその程度だが、遊郭同士で競わせる為か、遠方から来た客のもてなしも(とどこお)りなく行うべく、割と情報のやり取りをしていることが多い。互いに商売敵(ライバル)でありながら、戦友ということなのだろう。そして、その情報の行き来に、当たり前だがこの時代にインターネットもテレビもラジオも電話すらない。人の足で運ぶ(ふみ)だけになる。そして、そういった人が移動に用いるのが街道だ。つまり、街やその周辺だけでなく、人が動く道の話も創里に入ってくるのだ。

 人の住む集落におおよその目星を付け、主要都市、表街道、更に別の鬼に遭遇(そうぐう)するであろう獣道のような細道も除外。そして、単独でなく最低でも二、三人。大体五人前後の複数で行動して違和感のない裏街道の情報を重点的に見つめたことで、割り出すことが出来た。

 

越後(えちご)(現在の新潟県(にいがたけん))か。それも北上(ほくじょう)しているな」

 

(冬場に北陸(ほくりく)か……)

 

 心の中でぼやきながら移動を開始する。というよりも、(すで)に移動していた。特に確証があった訳ではない。完全な(かん)である。あの鬼なら寒い地方へ移動するだろうという、ただの偏見からである。仮に間違いだったとしても、やはりそこは何もなかったという情報を得られるということで、無駄足ではないと思っている。

 その時、創里の鎹鴉である権三郎(ごんざぶろう)とは違う、別の鎹鴉が飛んできた。

 

「どうした?」

上弦(じょうげん)ノ鬼ト遭遇! 上弦ノ鬼ト遭遇! (きり)含ム三名ノ隊士ガ交戦開始! 交戦開始!」

「っ! 位置は!」

「アッチダ! アッチダ!」

 

 ―― 全集中 ()の呼吸 一速(いっそく)

 

 すぐさま呼吸を使って身体強化を(はか)る。案内させるよりも自分で移動した方が速い。よって、位置だけ聞いた。

 雪の中、それも藁草履(わらぞうり)という決して雪道に適した()き物ではないにも関わらず、創里はどんどん加速し、あっという間に相棒の鴉達を置き去りにしてしまった。

 

(っ! あれは、寺か!)

 

 廃寺(はいじ)なのか()ちた寺を見つけた。そして、中からは濃密な死と血の気配(匂い)がする。

 日輪刀(バスターソード)を抜き、門を(くぐ)り抜け本堂の引き戸を勢い良く蹴破(けやぶ)る。

 

「遅かったか!」

「あれ? お前も鬼殺隊(きさつたい)か? 随分と到着の早い援軍だね」

 

 お堂の中は凄惨(せいさん)なものであった。血の塗料で真っ赤に染められた室内は、まだそれがたった今行われた所行であることを示すように、怪しく悲しく輝いている。血がまだ乾いておらず、酸化も進んでいない。

 床には三名の人間だったと思われる肉塊(にくかい)が、いや、人間であったかすら分からない程に損傷したものであった。

 

(鴉が来た時間から考えると早過ぎる。少人数でしかも階級が低かったのだろうが……コイツは、やはり上弦か!)

 

「てめぇが上弦の鬼か?」

「あ、知ってるんだ? あぁ、そうだよ。俺の名前は“童磨(どうま)”って言うんだ。上弦の“(ろく)”をやってるよ。よろしくね」

「よろしくすると思っているのか?」

「してくれないんだ? まぁ良いけど」

 

 のれんに腕押しとはこのことか。会話は出来るのにどうにも掴み所がない。何より、目の前にいる見た目若いイケメンの男は、表情こそコロコロ変わるのに、まるで言葉の上澄(うわず)みの部分だけを(すく)っているような、心を感じることが出来なかった。

 目の前に立つこの男。白橡色(しらつるばみいろ)の長髪に虹色の瞳で、左目には上弦、右目の瞳には陸の文字が(きざ)まれていた。血を(かぶ)ったかのような赤黒い模様の衣装も原作通り。

 

「気持ち(わり)い見た目してんな」

「あはは、(ひど)いなぁ」

 

 感情の動かない相手に舌戦(ぜっせん)は時間の無駄だ。一見会話は成立しているのに、何も響かない。

 

(ちっ、『キングダムハーツⅡ』のノーバディの方が、もうちょっと感情の欠片(かけら)があったと思うぞ)

 

「やることは変わらない。お前を斬る!」

 

 ―― 蒸の呼吸 二速(にそく)

 ―― 炎の呼吸 壱ノ型(いちのかた) 不知火(しらぬい)

 

 右目付近に色濃く(あざ)が浮かび上がった。そして強く踏み込んで接近。上段に構えた日輪刀(にちりんとう)を一気に(なな)めに振り下ろす。

 

「速いねぇ!」

 

 しかしそれは両手に持った一対(いっつい)(おうぎ)によって止められる。だが、創里のパワーに押され、(わず)かに後退する。

 

「すごい力だね!」

 

 ―― 血鬼術(けっきじゅつ) 蓮葉氷(はすはごおり)

 ―― 血鬼術 蔓蓮華(つるれんげ)

 

 しかし鬼の力も凄まじく、その腕からは考えられないような怪力を見せて創里を(はじ)き飛ばす。そしてすぐさま血鬼術を発動して扇を振るってきた。

 蓮の花の形をした氷が複数生み出され、それが一斉に蔓を伸ばして次々と創里へ襲い掛かってきた。お堂の中を走り回りながら、回避しつつ、隊士の遺品である日輪刀を回収する。回収した三本の刀の内、二本が折られ、もう一本もボロボロである。しかし、折られた刀身も器用に拾い上げていた創里は、適当な布で巻き付けて(ふところ)へ仕舞ったり(こし)(おび)に差したりした。

 

「? 変なことするね。遺品回収かい? それとも武器にするのかな? どちらにしてもそんなことしても意味はないよ?」

 

 開けられた戸や隙間(すきま)等で密室ではないものの、外の冬の冷気と童磨の血鬼術の影響で、どんどんと気温が低下していくのが分かる。しかも彼の繰り出す蓮の花から漏れ出す冷気は、触れるだけで容易に人間を凍らせる程の力がある。

 ジュッ……

 

「あれ?」

 

 しかし、それは予想外の出来事であった。目の前の隊士の肌に触れたはず冷気が、全く効いていない。

 

「変だな? 外したのかな?」

 

 だが、ただ(かわ)されたか何かで、気のせいということにした彼は気にしなかった。躱されたのなら、躱せない程の範囲で攻撃すれば良いだけのことである。

 

 ―― 血鬼術 粉凍(こなごお)

 

 術発動と同時に、童磨の周囲には赤い霧が発生する。赤いのはあれが童磨の凍らせた血であり、それを微細な霧状にしたものである。それを二枚の扇を振ることで広範囲へ散布される。

 吸い込むと肺が破壊されてしまう、呼吸を扱う鬼殺隊の隊士にとっては驚異的な術が発動される。そしてそれは、(またた)く間に室内へ充満する。

 

(肺での呼吸を停止。これから呼吸の一〇割(100%)を細胞呼吸で(おぎな)う!)

 

 ―― 蒸の呼吸 三速(さんそく)

 

 体温を上昇させても、気温が低いおかげで継戦能力を維持出来ると踏んだ創里は、ギアを更に一つ上げて体表に貼り付こうとする冷気を遮断(しゃだん)する。更に、普段は薄い橙色(だいだいいろ)の刀身が、真っ赤になり赫刀(かくとう)の状態となる。

 

 ―― 炎の呼吸 肆ノ型(しのかた) 盛炎(せいえん)のうねり

 

 刀を横へ()ぎ払い、未だに襲い掛かってくる邪魔な蓮の花を斬り飛ばす。刀と触れた部分は一瞬で蒸発して蒸気が発生、血鬼術の粉凍りとは別のもので視界が(せば)まる。その場には、赤い霧と白い蒸気が混在していた。

 

「何だいそれ? すごいなぁ、俺の攻撃が全然効いていないみたいだ」

「……」

 

 互いに互いの姿は視認出来ないが、どちらも動揺することはない。最も童磨がその程度で感情が揺らぐことなどあり得ないのだが。

 

 ―― 炎の呼吸 参ノ型(さんのかた)・改 野火(のび)怪火(かいか)

 

 地面を()うの炎の(ごと)き激しい闘気を飛ばす攻撃である参ノ型、野火。しかしそれは本来なら一筋(ひとすじ)のみで、しかも直線でしか繰り出せない。だが、創里はそれを改良して複数本同時に放つことが出来るようにしていた。

 

「うわっ」

 

 霧の向こうから驚いたようにみえるだけの声が聞こえる。そこへ向けて、躊躇(ちゅうちょ)なく踏み込んだ。

 

(回転数四〇〇〇)

 

 ―― 炎の呼吸 壱ノ型・改 不知火・電光石火(でんこうせっか)

 

「おっとー! すごいすごい。斬られちゃった!」

「ちっ、浅いか」

 

 下弦(かげん)の肆を仕留めた、知覚出来ない程の速さの移動からの攻撃。しかもあの時は二速であったが、今回は三速。少なくとも十二鬼月(じゅうにきづき)相手なら通用すると思っていたし、それは半分正しかった。しかし、相手は反応こそ遅れたものの、鬼ならではの動き、自身の身体を痛め付けることを躊躇しない動きで無理矢理身を(ひね)ることで、右腕を半分斬るに留まった。

 

(やっぱ上弦は化け物だな)

 

 そう再認識した。

 

「変だな? 普通はすぐに再生するんだけど。もしかしてお前何かやったかな?」

「知りたければ(くび)を斬ってから教えてやるよ」

「それは遠慮しておくよ」

 

 ―― 血鬼術 枯園垂(かれそのしづ)

 

 扇に冷気をまとわせて攻撃してくる。右腕はまだ再生が追い付かず本調子とまではいかず、左腕のみでの攻撃だ。

 それを創里は刀で受け止め、鍔迫(つばぜ)り合いとなる。扇には鍔はないが。

 周囲の空気に含まれる水分まで凍結させるが如く冷える扇と、全てを燃やし尽くすのではないかと思われる程の熱を帯びた刀。その二つがぶつかることで、接触面からジューという激しく蒸発する音が発生する。

 

(こっちは両手、向こうは片手だってのに、ほぼ互角かよ! 何つうパワーだ。コイツでこれだということは、猗窩座(あかざ)とかはもっとやべぇかもしれないな!)

 

 創里は諦めず、半歩踏み込むことで相手を押し込む。

 

「すごいなお前。お前柱だろ? 今までこんな強い柱と戦ったことなかったよ」

「そりゃどうも!」

 

(五〇〇〇回転!)

 

 そこから左足を出して勢い良く相手の腹を蹴る。童磨は数歩後退したのに比べ、蹴った本人である創里は大きく飛ばされた。距離が出来たことで、互いにまた霧によって姿が隠された状態となった。

 

「フシュゥゥゥゥゥゥ」

 

(体温は四六度くらいか。一度回転数を二〇〇〇まで落として体温も四五にする)

 

 上がりすぎた体温を調整すべく、口から蒸気を吐き出す。

 

「おっかしいな。そろそろ息が出来なくなるはずなんだけど、お前、全然変わらないね」

 

 まだ肺や内臓を認識していないのか、ハッキリと肺と口にしなかったが、その赤い霧が呼吸を封じる役目を持つことは知っていたようだ。

 

「俺には効かねぇよ」

「それは厄介だね」

「っ! 逃がすか!」

 

 相手がお堂の外へ駆け出すのが分かり、すぐに追い掛ける。

 

 ―― 蒸の呼吸 壱式(いちのしき) 雲蒸竜変(うんじょうりょうへん)

 

 見えなくとも位置は分かる。

 それは不知火・電光石火にも匹敵する速度で接近しての水平斬り。確実に頸を狙って放たれた。瞬間、逃げようとする童磨と目が合った。相手は咄嗟(とっさ)に満足に動かない右腕を出すことで防御した。それによって、ギリギリ頸には届かず、右腕の(ひじ)から先を斬り飛ばすに終わった。

 

「追い付かれるとは思わなかったよ」

「テメェは逃がさねぇよ」

「んーでも、このままだと不利だからね。だから頑張って逃げるよ」

 

 ―― 血鬼術 結晶ノ御子(けっしょうのみこ)

 

 その術を見て、創里は改めて気を引き締める。

 第二ラウンド開始である。




 江戸コソコソ話

 炎の呼吸 参ノ型・改 野火・怪火
 
 野火の本来の意味は、野原の枯れ草を焼く火のこと。野原で草木などが燃える火事ですが、ここに怪火が付くことで日本の妖怪となります。
 土佐国(現・高知県)の長岡郡に伝わる妖怪で、山中や人里を問わず出現するそうです。
 簡単に言うと、花火のような火の玉の妖怪ですね。多い時は数百も出るそうです。
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