ゆきちゃん可愛いです。
現在、
門を
任務とはいえ何日も帰らず、また連絡をすることもなかった。柱になる前であれば定住地がある訳でもなかった為、ずっと全国各地を転々と移動していたことであまり意識していなかったが、柱となったと同時にゆきと同居するようになってからは、彼女を寂しい思いをさせないようにと、長く屋敷を
走ってくる勢いのまま、再び地面に
「えぇと……」
創里は戸惑っていた。
広い座敷の中でポツンといる二人。正座する彼の前に置かれているのは、高級そうな
泣く子と地頭には勝てぬとは言うが、この場合の対処の仕方について、それなりの人生経験があるはずの創里も流石に分かるはずもなく、ただただ目の前に座る少女の機嫌が直ることを祈って、身を縮めることしか手段はなかった。
(俺、この屋敷の
心の中でそう思うも、今の状況を打破出来る手札を彼は持っていない。いや、持ってはいた。初手羊羹謝罪である。しかし、それが不発に終わったことは今の状態を見たら分かりやすい。
どれだけ沈黙が続いていただろうか。この微妙な緊張感の中、ふと、ゆきが「はぁ」と息を吐く。その息に含まれるのは呆れか、怒りか、それとも
「私を、
発せられたその言葉に創里は固まった。
それは、彼自身が何度も考え、何度も提案しようと思って、しかしそれは彼女の将来を考えると押し付けになってしまうのではないかという
だが、その言葉を教えた記憶はなかった。ならば何故知っているのか。この屋敷に住む人は、多少なりとも
とはいえ、それとこれとは別だった。
「何で……?」
震える口から出たのは、それだけであった。何故突然そんなことを言ったのか、彼には理解出来なかった。
経歴から何の知識も教養もない彼女であったが、それでもこの屋敷に来てからの月日で学んだことは数多く、それまで奪われていた期間を取り戻すように吸収していった。創里は気付いていないが、彼女の空間認識能力は、透き通る世界に半歩踏み入れることが出来るかもしれない状態にまで成長している。
「私は、ずっと、
彼女の独白をジッと聞く。室内にいるのは創里とゆきだけであったが、その外では、屋敷の中で一緒に暮らす
「つくりが、お仕事に行く時はさみしかった。お仕事はいつも夜で、夜はこわい。時々泣いちゃって、りつ(使用人の一人)と一緒に寝ることもあった。見えないけど、生まれた時からずっと見えなくて、暗くて、こわくて、さみしいけど、それでも、だれもいない、夜はこわい。こわいの……」
子供ながらに一生懸命に話そうとしている。だから様々な想いを
「つくりがいない夜はいや。つくりがいない家は、いや。つくりが、つぐりが、いっしょに、いてくれないと、いや」
ずっと
「もう、び、いとり、ひとり、は、いや、いや、なの……」
「でも……でぼ……わだじには、まつごど、じか、でぎない……もじが、じだら、このまま……このまま、いなぐ、なっぢゃうがも、じれない。かえっでこない、がもしれな、い、ってだがら……だがら……だがら……」
彼女の叫びを聞く彼等の手に、自然と力が入る。
「おには、ごわい、とおもう……でも、でも、ぞれよりぼ、づぐりがいなくなっちゃうことが、いぢばん、いやだ!」
想いを全て受け止めた創里は、少し置いてゆっくりと話す。
「それで継子か?」
それに静かに
「死ぬかもしれないんだぞ?」
それも何も言わずに首を縦に振る。
「俺と、
それにはビクッと身体が跳ねるが、それでもビクビクと
創里は、その様子を見続ける。継子にしたいとは考えたことは何回もある。しかし、今の彼女の言葉を受けて、彼の心を占めるのは、手放したくないという思いである。
鬼殺隊は厳しい。修行もそうだが、最終選別で隊士になることすら叶わずに死んでいく者が大勢いる。無事に合格して隊士になったとしても、最初の任務で死ぬかもしれない。その戦いを
この問答で、揺らいで欲しいと心の中で願っていた。もし、
最後の問い。しかしその問いは、問いではない。覚悟を決めている彼女なら、察することが出来るだろう。だから最後の質問を口にすることが出来ない。だが、それではゆきの思いを踏みにじることになる。それは、絶対にする訳にはいかない。
そして、彼も覚悟を決めて聞く。
「修行は、厳しいぞ?」
「……っ! うん!」
張り詰めていた空気が霧散し、彼女の両頬を流れるものが嬉し涙に変わったことが分かる。
「もう一度、覚悟を聞かせてくれ」
「うん! わだじは、ぐすっ、わだしは、つぐりと、わたしのかえる、この家を守る!」
鬼を倒す。
「そうか……」
それで良いのかもしれない。
あの時は成り行きで拾ってしまい、そのまま一緒に住むようになってしまったが、いつの間にか、立派なこの屋敷の一員、家族としていたことに遅く気付かされる創里であった。
「ようかん食べる!」
そして忘れられていた羊羹の包みを手にしたゆきは、包装を
「おいおい」
呆れつつも、ずっと部屋の外にいたであろう使用人に向けて「お茶をくれ」と言う。お菓子にはお茶が必須だ。しかし、切ることなくそのまま
「食べながらで聞いてくれ。明日から修行を始める。それはとても厳しいものだ。だが、生き残る為に必要なことだ。だから、やると決めた以上は、絶対に諦めずに付いてきてくれ」
本当は今日から始めたいが、創里はこれから上弦の鬼を討伐したことに関する報告書を作成しなければならない。鬼殺隊が結成され、
(報告書とついでに、継子を取ったことも報告しておくか)
目の前で手と口周りをベタベタにしながらも食べるのを
年配の使用人である
そんな平和な光景を守る為にも、頑張るかと気合いを入れて立ち上がる。
「お館様に提出する書類を作るから、その、あまり邪魔をしないように」
「うん!」
そう言い残して、部屋を出る。
戸を閉じていた為に気付かなかったが、すっかり夕刻である。空は
ちなみに、羊羹一本を丸ごと食べてしまったゆきは、その後の
江戸コソコソ話
炎の呼吸 捌ノ型・改 陽炎・摩利支天
摩利支天とは、仏教の守護神である天部の一柱。日天の眷属です。摩利支天は陽炎を神格化したものとされています。
陽炎は実体がないので捉えられず、焼けず、濡らせず、傷付きません。
隠形の身で、常に日天の前に疾行し、自在の通力を有すとされています。
これらの特性から、日本では武士の間に摩利支天信仰があったとされています。
※参考文献wiki