この時点ではまだ何も決まっておりません。そもそも鬼殺隊目指す予定もありませんでしたし……困った困った。
まぁ、この子に刀は似合わないでしょうし……さて、どうしますか……(無計画)
翌日からゆきの修行が始まった。
まずは基礎体力を身に付ける所から始めるのだが、ただ走るのではなく、屋敷のある山全てを使った
ゆきは盲目だ。目が見えないというハンデを
そもそも透き通る世界に入る為には、
(まずは、見えなくても自由に動き回れる察知能力の鍛錬からだな)
屋敷内だけでなく、外の世界でも問題なく十全以上の力を発揮させるべく、体力作りと同時に、山という不規則な地形、雪という不安定で余計に体力が奪われる足場、そして行く手を
無駄に休憩を挟むようならこちらから攻撃をして、多少痛め付けるという鬼教官を務めるつもりだったが、あの覚悟の言葉は嘘ではなかったようで、息を切らし、
ただ無闇矢鱈に逃げ回るだけではない。ゆきに山の地形を覚えさせないように、様々なフェイント等を使うことで妨害をする。
地形を覚えることは良いことだが、この訓練では、まず覚えることよりも体力を付けることを優先させている。地形を把握してしまえば、効率の良いルートを独自に算出し、無駄を減らした行動を取ることが出来るようになってしまう。その訓練は後だ。今はただ、我武者羅に走って走って走りまくって、剣士として必要な技術を習得出来る為の身体作りを行う。
それを毎日休みなく、晴れだろうが雪だろうが吹雪だろうが関係なく午前中一杯を使って訓練をする。
午後からは呼吸の訓練だ。
ゆきは、とにかく泣く。泣いて泣き散らかすが、それでも弱音も文句も言わず、ひたすら創里の後ろを行く。
夜は創里の柱としての任務がある為、全て面倒を見ることは出来ないが、明け方前には毎回帰宅して、日の出と共に訓練を開始した。
そして春。雪が溶け、山肌が
雪は音を吸収してしまうので、聴覚を鍛えるのに有効。盲目な少女にとって、耳からの情報はとても重要だ。それに加えて体温と体力を奪い、
地形を把握させないようにすることは変わらずだが、三ヶ月近くに及ぶ走り込みと呼吸の訓練、そして元々屋敷にいた頃より
ただ足場が冬場と違って安定した上に、体力が付いたからだとも思ったが、いつの間にか全集中の呼吸・常中を使用出来るようになっていたらしい。
勿論、剥き出しの岩肌など、怪我をするリスクが雪で
そうなると、次の段階へ移行する必要が出て来た。
これまでは
何度も木から落ちた。木登り何て初めての経験に戸惑いながらも、逃げる創里を追う為に頑張る。木から木へ飛び移る際は、距離感が掴めずに地面へ真っ逆さまになったが、本当に命や隊士生命に関わりそうになることになれば、迅速に創里が受け止めてくれる。それ故に、この厳しすぎる修行が成り立っている。
そうして春が過ぎて夏になる。
相変わらず天候や環境に関係なく、鬼ごっこは毎日例外なく行われている。
梅雨だろうが雷雨だろうが台風だろうが関係ない。
秋。
創里が山に罠を張るようになった。流石に半年以上も同じ山で修行を続けていると、意識していなくとも地形が頭に入っていく。それを見越した上で、山のあちこちに罠を仕掛けた。
落とし穴、ロープ、投石。最初の内は簡単なもの。何も知らずに山へ入ったゆきは、その
段々と罠の難易度を高めていき、山全てが罠だらけになった。時々、正規ルートを外れた
(そもそも罠を張るって言ってあるし。しかし、
それに
(まぁ熊は自力で脱出出来るから問題ないだろ)
そうして季節は巡り再び冬。修行を開始して一年が過ぎた。
遂に彼女は痣を発現。場所は、創里と同じ右目を囲む形の鬼のような模様。冬場という体温が上がりにくい環境でも安定して高温を維持することが出来、それによって爆発的に身体能力が向上した。
修行を開始して僅か一年足らずで痣者まで到達したのは、ゆき自身の努力もあるが、創里が痣を既に出していることも関係していると思われる。まるで共鳴するかのように周囲へ伝播すると言われており、痣が出やすくなるというものだ。一概にそれが正しいとは言えないが、現に彼女は達人の領域へ足を踏み入れた。
そうなると、そろそろ次のステップへ移行するものだが、相変わらず鬼ごっこは継続して行われ、呼吸の訓練も変わらずである。むしろ何も変えていない。
痣を出すことは透き通る世界へ入る為の登竜門。むしろここからが本番だ。
ここから木刀を使用した型の訓練を開始する。
両手首、両足首に重りを巻き付け、負荷を掛けながらの素振りである。いきなり剣技を行うことはしない。今まで刀を握ったことがないのだ。まずは正しい姿勢、正しい動作で刀を振るえるように指導する。
かの天才、
ただ、木刀の鍛錬にはもう一つの思惑があった。それは、ゆきに合った型を見つけることである。
蒸の呼吸は、そもそも痣を無理矢理発現させる為に創里がオリジナルで組み上げた呼吸だ。そして、既に自力で痣を出しているゆきには必要ないものだ。そもそも身体を壊したり、改造したり、生死の
そうなると、炎の呼吸が有力だが、果たしてゆきに合うのかは疑問が残る。
(周囲の音を察知するのだとしたら、雷の呼吸、またはその派生。空気の流れであれば、風の呼吸系統になるだろうが……どちらも専門外だ)
指導する型が見つからない為に素振りだけをさせているなんて、口が裂けても言えない。
(いっそのこと、更にオリジナルで呼吸を作るか……それでも、やはり元となる呼吸は必要か……)
そこで、ふと、ゆきが趣味で
(琵琶の弦を
完全な悪ノリである。しかし、彼女がもしかしたらなったであろう鬼のことを思うと、琵琶を武器にするのも
(『
そもそも、糸と言えば原作の
(まぁ刀、型は追々決めるとして、今は、透き通る世界に入ることが先決だな)
元々それが目的だったとはいえ、痣を出してしまった以上は寿命までのカウントダウンが開始したことになる。それを止めるには、透き通る世界は必須。その為に、普段の日常生活から創里と同じように決まった行動を行うようにしている。
(俺の頃よりも飲み込みが早いな。こりゃ思ったよりも早く到達しそうだな)
そう思いながら、創里はこの一年のことを振り返る。
基本的に日中はゆきの修行に付き合い、夜は鬼狩りの業務。強い鬼との遭遇はほとんどなく、一回だけ下弦の鬼と戦って勝ったくらい。
(
「つくり?」
唐突にゆきから声を掛けられる。
いつの間にか規定回数の素振りを終えたのか、振り下ろしたままの軸のブレがない、綺麗な姿勢を維持したまま創里に顔を向けて首を
「ん? あぁ、
「どうしたの?」
「うーん、そうだな……もっと沢山鬼を狩らないとなって考えてた」
「何で?」
「あー、えーと……嘘吐いて良いか?」
「だめ」
「駄目か……」
素直に上弦の鬼を倒す為と言えれば良いのだが、その動機が原作を少しでも楽にという思惑がある以上、どうにも堂々と言うことが出来ない。そこでふと、丁度良い言葉が浮かんだ。
「そうだな。未来の為かな」
「未来?」
「あぁ、未来を生きる人達、その中にはゆき、お前も入っているが、そんな未来の人達に少しでも夜を安心して歩けるようにしたいなって」
間違ったことは言っていない。実際に最強の一角を崩しただけで、どれだけの未来の人が救われることとなるのか想像も出来ない。
(とりあえず、
「私もつくりのお手伝いがんばるね」
「おう。期待している」
空を見上げ、透き通る青が広がる寒空を眺めながら、未来が少しでもマシになっていると良いなと思う。
しかし数日後、この屋敷に新たな住人が加わることを、創里達はまだ知ることはなかった。
江戸コソコソ話は、ネタ切れです。また次回!