鬼滅の刃~蒸の呼吸~【完結】   作:木入香

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 修行回はダイジェストでお送りします……と思ったら、途中から不穏な流れが……?
 この時点ではまだ何も決まっておりません。そもそも鬼殺隊目指す予定もありませんでしたし……困った困った。
 まぁ、この子に刀は似合わないでしょうし……さて、どうしますか……(無計画)


第拾捌話 修行はいつも通り

 翌日からゆきの修行が始まった。

 まずは基礎体力を身に付ける所から始めるのだが、ただ走るのではなく、屋敷のある山全てを使った創里(つくり)との鬼ごっこを始めた。鬼はゆきで、逃げる創里を追い掛けるものだ。勿論(もちろん)、手加減はしているが、現時点では絶対にクリア出来ないような難易度に設定している。

 ゆきは盲目だ。目が見えないというハンデを(かか)えているが、屋敷内の行動はほとんど不自由なく行うことが出来ている。これは、創里が教えた透き通る世界に入る為の訓練を極々簡略化したものだが、それによって間取り、配置、物、人、生き物の位置を正確に把握することが出来るようになっていた。だが、あくまで簡略化したものであり、基礎ですらない。

 そもそも透き通る世界に入る為には、(あざ)を発現する必要がある。この寒さの中で安定して体温を上昇させることは難しいだろうが、心拍数に関しては限界を超える程の運動量を課せば到達出来ると考えた。

 

(まずは、見えなくても自由に動き回れる察知能力の鍛錬からだな)

 

 屋敷内だけでなく、外の世界でも問題なく十全以上の力を発揮させるべく、体力作りと同時に、山という不規則な地形、雪という不安定で余計に体力が奪われる足場、そして行く手を(さえぎ)る木、木、木。平地よりも薄い酸素の中で、休みなく行われる鬼ごっこ。これを日の出と同時に正午まで延々と繰り返す。

 無駄に休憩を挟むようならこちらから攻撃をして、多少痛め付けるという鬼教官を務めるつもりだったが、あの覚悟の言葉は嘘ではなかったようで、息を切らし、嘔吐(おうと)をし、何度転び、身体中に様々な傷を作り、涙と泥と血で顔中ドロドロにしながらも、それでも必死に創里の後ろを追い掛ける。何度も倒れ、手足が疲労と寒さで震え、言うことを聞かなくても無理矢理立ち上がって、フラフラになりながらも追い掛ける。

 ただ無闇矢鱈に逃げ回るだけではない。ゆきに山の地形を覚えさせないように、様々なフェイント等を使うことで妨害をする。

 地形を覚えることは良いことだが、この訓練では、まず覚えることよりも体力を付けることを優先させている。地形を把握してしまえば、効率の良いルートを独自に算出し、無駄を減らした行動を取ることが出来るようになってしまう。その訓練は後だ。今はただ、我武者羅に走って走って走りまくって、剣士として必要な技術を習得出来る為の身体作りを行う。

 それを毎日休みなく、晴れだろうが雪だろうが吹雪だろうが関係なく午前中一杯を使って訓練をする。

 午後からは呼吸の訓練だ。

 疲弊(ひへい)した身体だからこそ、無駄な思考をする余裕もなく、呼吸に集中することが出来る。炎柱(えんばしら)(もと)で修行をしていた時よりもかなり厳しくしているという意識はある。とにかく、彼女自身に死ぬかも知れないという思いを(いだ)かせる。そういう極限状態でこそ、人は一歩所か二歩、三歩先へと進むことが出来る。

 ゆきは、とにかく泣く。泣いて泣き散らかすが、それでも弱音も文句も言わず、ひたすら創里の後ろを行く。

 夜は創里の柱としての任務がある為、全て面倒を見ることは出来ないが、明け方前には毎回帰宅して、日の出と共に訓練を開始した。

 そして春。雪が溶け、山肌が(あら)わになる。草花が芽吹き、冬に眠っていた生き物が顔を出す。

 雪は音を吸収してしまうので、聴覚を鍛えるのに有効。盲目な少女にとって、耳からの情報はとても重要だ。それに加えて体温と体力を奪い、(すべ)りやすかったり、足がはまって身動きしづらかったりする等の役割を持つ自然の障害物。つまり足枷(あしかせ)。それらがなくなったことで、ゆきの動きは劇的に変わった。

 地形を把握させないようにすることは変わらずだが、三ヶ月近くに及ぶ走り込みと呼吸の訓練、そして元々屋敷にいた頃より(みが)いていた察知能力の更なる成長により、彼女の走るペースが格段に上がった。

 ただ足場が冬場と違って安定した上に、体力が付いたからだとも思ったが、いつの間にか全集中の呼吸・常中を使用出来るようになっていたらしい。

 勿論、剥き出しの岩肌など、怪我をするリスクが雪で(おお)われている頃よりも増えているので決して油断は出来ないが、それも所々危なっかしくもクリアしていく。

 そうなると、次の段階へ移行する必要が出て来た。

 これまでは地面を走るだけ(・・・・・・・)であったが、ここに木登り等の立体的な動きを追加しての鬼ごっこへと変化させる。当然だが、創里はジャンプするだけで木の上に立つことが出来る。しかしゆきに出来るはずがない。だが、やらせる。出来ないことを繰り返し行わせることで現在の限界を見つける。そして、その限界を突破した時に、大きく成長していることが実感出来るのだ。

 何度も木から落ちた。木登り何て初めての経験に戸惑いながらも、逃げる創里を追う為に頑張る。木から木へ飛び移る際は、距離感が掴めずに地面へ真っ逆さまになったが、本当に命や隊士生命に関わりそうになることになれば、迅速に創里が受け止めてくれる。それ故に、この厳しすぎる修行が成り立っている。

 そうして春が過ぎて夏になる。

 相変わらず天候や環境に関係なく、鬼ごっこは毎日例外なく行われている。

 梅雨だろうが雷雨だろうが台風だろうが関係ない。

 秋。

 創里が山に罠を張るようになった。流石に半年以上も同じ山で修行を続けていると、意識していなくとも地形が頭に入っていく。それを見越した上で、山のあちこちに罠を仕掛けた。

 落とし穴、ロープ、投石。最初の内は簡単なもの。何も知らずに山へ入ったゆきは、その(ことごと)くを引っ掛かり、泣いた。しかし、それでも追い掛けることを()めず、しつこく創里の背中を追う。

 段々と罠の難易度を高めていき、山全てが罠だらけになった。時々、正規ルートを外れた(かくし)の人が引っ掛かっているのが見られるが、創里は気にしない。引っ掛かるのが悪い。

 

(そもそも罠を張るって言ってあるし。しかし、鱗滝(うろこだき)さんの罠山の試練は本当に有効だな。同じ地形でも毎回罠が変わるから、良い訓練になる)

 

 それに狭霧山(さぎりやま)と違って、引っ掛かっても命に関わるものは一つもない。野生生物と共生する山なので、彼等に被害を与えることは本意ではないのだ。それでも時々熊が落とし穴の下にいることを見掛けることがある。

 

(まぁ熊は自力で脱出出来るから問題ないだろ)

 

 そうして季節は巡り再び冬。修行を開始して一年が過ぎた。

 遂に彼女は痣を発現。場所は、創里と同じ右目を囲む形の鬼のような模様。冬場という体温が上がりにくい環境でも安定して高温を維持することが出来、それによって爆発的に身体能力が向上した。

 修行を開始して僅か一年足らずで痣者まで到達したのは、ゆき自身の努力もあるが、創里が痣を既に出していることも関係していると思われる。まるで共鳴するかのように周囲へ伝播すると言われており、痣が出やすくなるというものだ。一概にそれが正しいとは言えないが、現に彼女は達人の領域へ足を踏み入れた。

 そうなると、そろそろ次のステップへ移行するものだが、相変わらず鬼ごっこは継続して行われ、呼吸の訓練も変わらずである。むしろ何も変えていない。

 痣を出すことは透き通る世界へ入る為の登竜門。むしろここからが本番だ。

 ここから木刀を使用した型の訓練を開始する。

 両手首、両足首に重りを巻き付け、負荷を掛けながらの素振りである。いきなり剣技を行うことはしない。今まで刀を握ったことがないのだ。まずは正しい姿勢、正しい動作で刀を振るえるように指導する。

 かの天才、時透無一郎(ときとうむいちろう)とは違うのだ。刀を握って二ヶ月で柱にまで到達出来るなんて普通は無理だ。創里でさえも長い下積みを経て尚、半年の期間も掛かったのだ。他者からすると十分過ぎる程に天才であるが、彼自身、それ以上の天才を知っているだけに、素直に受け入れることは出来ない。

 ただ、木刀の鍛錬にはもう一つの思惑があった。それは、ゆきに合った型を見つけることである。

 蒸の呼吸は、そもそも痣を無理矢理発現させる為に創里がオリジナルで組み上げた呼吸だ。そして、既に自力で痣を出しているゆきには必要ないものだ。そもそも身体を壊したり、改造したり、生死の(さかい)彷徨(さまよ)ったりと色々と危険なので、そもそも覚えさせるつもりもない。

 そうなると、炎の呼吸が有力だが、果たしてゆきに合うのかは疑問が残る。

 

(周囲の音を察知するのだとしたら、雷の呼吸、またはその派生。空気の流れであれば、風の呼吸系統になるだろうが……どちらも専門外だ)

 

 指導する型が見つからない為に素振りだけをさせているなんて、口が裂けても言えない。

 

(いっそのこと、更にオリジナルで呼吸を作るか……それでも、やはり元となる呼吸は必要か……)

 

 そこで、ふと、ゆきが趣味で琵琶(びわ)(いじ)っていることを思い出す。

 

(琵琶の弦を猩々緋砂鉄(しょうじょうひさてつ)猩々緋鉱石(しょうじょうひこうせき)で作るとかどうよ?)

 

 完全な悪ノリである。しかし、彼女がもしかしたらなったであろう鬼のことを思うと、琵琶を武器にするのも(あなが)ち変ではないのかもしれないとも思っている。

 甘露寺蜜璃(かんろじみつり)の、(むち)やリボンのように変幻自在に形を変える特殊な日輪刀(にちりんとう)があるのだ。弦にすることくらいは出来るだろうと勝手に思っている。そうなると、イメージするのは……

 

(『銀魂(ぎんたま)』の河上万斉(かわかみばんさい)の三味線。いや、『GetBackers(奪還屋)』の風鳥院花月(ふうちょういんかづき)もいたか。それか糸を操るってことで『ONEPIECE(ワンピース)』のドンキホーテ・ドフラミンゴのイトイトの実とか、『僕のヒーローアカデミア』のベストジーニストもいるか。イトイトの実はちょっと無理があり過ぎるか。それと一つだけマガジンが混じっているな。今更か)

 

 そもそも、糸と言えば原作の下弦(かげん)()(るい)がいるし、そもそも糸使いという分類だけでも数多くのキャラが存在する。参考に出来る部分はあるだろう。

 

(まぁ刀、型は追々決めるとして、今は、透き通る世界に入ることが先決だな)

 

 元々それが目的だったとはいえ、痣を出してしまった以上は寿命までのカウントダウンが開始したことになる。それを止めるには、透き通る世界は必須。その為に、普段の日常生活から創里と同じように決まった行動を行うようにしている。

 

(俺の頃よりも飲み込みが早いな。こりゃ思ったよりも早く到達しそうだな)

 

 そう思いながら、創里はこの一年のことを振り返る。

 基本的に日中はゆきの修行に付き合い、夜は鬼狩りの業務。強い鬼との遭遇はほとんどなく、一回だけ下弦の鬼と戦って勝ったくらい。上弦(じょうげん)の鬼の情報は全く入らず、途方に暮れていた。

 

鬼舞辻(きぶつじ)を撤退に追いやり、上弦の(ろく)も倒したから警戒しているのか? それとも偶々巡り合わせが悪いだけか? うーん、久々に遊郭(ゆうかく)巡りでもして情報を集めてみるか?)

 

「つくり?」

 

 唐突にゆきから声を掛けられる。

 いつの間にか規定回数の素振りを終えたのか、振り下ろしたままの軸のブレがない、綺麗な姿勢を維持したまま創里に顔を向けて首を(かし)げる。

 

「ん? あぁ、(わり)い」

「どうしたの?」

「うーん、そうだな……もっと沢山鬼を狩らないとなって考えてた」

「何で?」

「あー、えーと……嘘吐いて良いか?」

「だめ」

「駄目か……」

 

 素直に上弦の鬼を倒す為と言えれば良いのだが、その動機が原作を少しでも楽にという思惑がある以上、どうにも堂々と言うことが出来ない。そこでふと、丁度良い言葉が浮かんだ。

 

「そうだな。未来の為かな」

「未来?」

「あぁ、未来を生きる人達、その中にはゆき、お前も入っているが、そんな未来の人達に少しでも夜を安心して歩けるようにしたいなって」

 

 間違ったことは言っていない。実際に最強の一角を崩しただけで、どれだけの未来の人が救われることとなるのか想像も出来ない。

 

(とりあえず、童磨(どうま)を殺した以上は、胡蝶(こちょう)姉妹は死ぬこともないだろうし、嘴平伊之助(はしびらいのすけ)が鬼殺隊に入ることもなくなったと思う。流石に家庭内暴力に関しては俺では介入することが出来ないから、母親と一緒に少しでも幸せになってくれと願うしかないが……)

 

「私もつくりのお手伝いがんばるね」

「おう。期待している」

 

 空を見上げ、透き通る青が広がる寒空を眺めながら、未来が少しでもマシになっていると良いなと思う。

 しかし数日後、この屋敷に新たな住人が加わることを、創里達はまだ知ることはなかった。




 江戸コソコソ話は、ネタ切れです。また次回!
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