鬼滅の刃~蒸の呼吸~【完結】   作:木入香

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 いきなりあの二人が登場します。
 救えない命はありますが、救わないとは言っていません。ちなみに発動する特殊能力はご都合主義です。
 本文の中で、時間があっち行ったりこっち行ったり。仕様です。
 それと以前にも述べたと思いますが、当時の遊郭事情に関しては完全に適当にでっち上げたものなので合っているか分かりませんし詳しくありません。ご了承下さい。


第拾玖話 兄妹

(何でこうなった……?)

 

 創里(つくり)は、目の前で繰り広げられる光景にそう思うしかなかった。

 現在、屋敷の庭では、三人(・・)の子供が雪遊びに興じていた。創里はその様子を縁側に座って眺めている。

 

(確かに、一〇〇年以上昔と原作にあったから、それが二六〇年前でも確かに間違いではない。間違いではないが……)

 

たろう(・・・)! おうめ(・・)ちゃん! ほら! うさぎ!」

 

 ゆきが、雪で作ったウサギを二人に見せる。

 

「おお、かわいいんだなあ」

「ふん! わたしだって、もっとかわいいのつくれるもん!」

 

 顔に血の染みのような(あざ)のある男児はその出来に素直に感心し、それを見た幼いながらも見目(うるわ)しい女児は負けず嫌いなのか、ゆきが作ったのよりも一回り大きいウサギを作っていた。大きいのが可愛いのかはともかくとして、そうやって三人仲良く遊ぶのが日課となっていた。

 屋敷に連れて来た当初は、警戒心剥き出しで、酷く怯え、やつれ、やせ細り、疲れ果て、光を映さない濁った目をしていたが、数日ここで暮らす内、次第にここの住人の人の良さを知り、徐々に心を開くようになっていた。何よりも自分達とほぼ同年代のゆきがいたことが大きかった。元々遊郭(ゆうかく)で暮らしたこともある彼女の存在は、同じ遊郭出身の兄妹(・・)からしたら同族のようなもので、初対面から警戒心が少なかったように感じる。

 そう、この兄妹。原作で上弦(じょうげん)(ろく)である、妓夫太郎(ぎゅうたろう)堕姫(だき)であった。

 

「ほら(うめ)、手が赤くなってるんだな。手ぇ貸してみろ」

「うん、お兄ちゃん」

「ちゃんは()めろと何度も言ってるだろ」

「あー、いいなー二人ともー。私も混ざるー!」

 

 未来の上弦の鬼達がここにいることを知るのは創里だけ。だからものすごく違和感があるが、三人の様子を見ているとそんなことどうでも良くなる。

 この兄妹を見つけたのは本当に偶然であった。趣味の遊郭通いをしていた所、取り立てを終えて鎌を片手に歩く顔に大きな痣のある少年を見つけて、何となく気になって後を付けた。そしてそのまま遊郭へ入ると、梅が禿(かむろ)として働いているのを見つけ、一瞬目眩(めまい)がしたような感覚に(おちい)った。

 何故この時代にいるのかと。

 だがそれはゆきとて同じこと。ただ、鬼になる前のゆきの過去は明かされていないので、もしかしたらいてもおかしくない程度には思っていた。しかし、この兄妹がいるには(いささ)か早過ぎるのではないかと思ってしまった。

 しかし、見てしまった、見つけてしまった以上は放っておくことは出来ない。もしこのまま原作通りの流れで進むとしたら、少なくとも梅は確実に死んでしまう。童磨(どうま)という元凶を消し去ってしまった以上、鬼として復活することが出来なくなったからだ。そして、妹の死に関わった人へ兄は復讐をするだろう。そしていずれは討ち取られるか、投獄。いずれにせよ死を待つのみとなってしまう。

 (さいわ)いなことに、柱として務めていたことで給金はたんまりとあった。それで二人合わせて五〇両という、禿と取り立てを買うには破格過ぎる金額で身請けした。そもそも遊女、花魁(おいらん)を身請けすることはあっても、禿、ましてや取り立て屋まで買うなんて事例はこれまで存在しなかった。

 太郎はともかくとして、梅はこの頃から既に美しい幼女として将来の花魁として期待されていたこともあって最初は渋られたが、芸の覚えはどうだとか、態度はどうだ等を問い、更に金額アップすることで折り合いを付けた。

 当初は一人一〇両で買う予定だったが、梅だけ四〇両まで引き上げられた。むしろ太郎は一両もいらないというレベルだったこともあり、実質梅一人で五〇両の金額を支払ったことになるが、多少(ふところ)が寂しくなっただけで特に困ることもない為そのまま引き取った。

 

「俺の名前は創里だ。新しくお前等の家族になる者だ」

「何で俺達を買った?」

 

 子供ながらに威圧するように睨み付けてくる。背に妹を隠すように立ち、(まさ)しく兄として立派な様子に思わず「良い兄妹だな」と呟いた。それが聞こえていたのか、二人して怯えながらもキョトンとした表情をする。

 兄の風貌(ふうぼう)は、ボロボロの着物に顔だけでなく身体中に細かい傷や汚れがあり、まともに食事を()っていないのか酷く()せていた。それ故に、子供とはいえその姿は幽鬼のようで見ようによっては恐ろしいだろう。生まれ付きの顔の痣もそれに拍車を掛け、想像を絶する程の地獄を味わってきたのだろう。創里はそれをただ察することしか出来ない。

 妹の方は、元々遊女見習いとして修行する身であったこともあり、食事はそれなりに悪くない程度のものを食べていたのか、痩せ気味ではあるが栄養状態は悪くないように見られた。着ているものも、兄程の品質の低いものではない。禿の頃に着ていたものは剥がされたので、これは誰かのお下がりなのだろう。

 とりあえず冬場にその格好は寒いので、着物を新調。その後は食事に連れて行き、好きなだけ食べさせた。

 太郎は中々信用してはくれなかったが、美味しそうな食事が沢山目の前に並べられたことで我慢出来なくなった梅が真っ先に箸を付け、それを兄が叱るも涙を浮かべて「おいしいおいしい」と食べている妹の姿を見るとその勢いも()がれ、自身もガツガツと食べ始めた。

 それから色々話をして、屋敷へ連れ帰り、ゆきと対面させ、使用人達に紹介し、一緒に暮らすようになって今に至るという訳である。

 

「そら! これでどうだ!」

「へへーん! 当たらないよー!」

「くそ、何でだ!」

「お兄ちゃんがんばって!」

「ちゃん付けは止めるんだな!」

 

 いつの間にか雪合戦へと変わり、しかし雪玉を投げ合っているのは太郎とゆきだけ。梅は、流れ弾が飛んでこないように少し離れた場所から応援していた。だが、鬼殺隊のしかも柱をも超えるだろう過酷な訓練を毎日休むことなく続けているゆきに対し、剣に多少の才がある程度の太郎では戦いになるはずもなく、盲目というデメリットはすっかり過去のものとなっていた。

 ゆきが鬼退治の為に剣の修行をしていると知った太郎は、戦いを挑んでものの見事に(やぶ)れてしまった。そして、創里へ指導を頼み込んできた。

 自分よりも年下の女児に、多少腕に覚えのあった武で負けたことが悔しいというのもあるだろうが、その瞳の奥にある、()を守りたいという決意を汲み取り了承した。とはいえあくまで武の修行のみで、鬼殺隊に入らせるつもりはなかった。

 

(もし、ゆきと同等の覚悟を見せた時は分からないが、まだこの段階なら軽く刀を振る程度で良い。まだ地獄から抜け出したばかりなのだ。時間はあるから、沢山食べて沢山寝て、沢山遊んで沢山学んでから決めて欲しい)

 

 だが、太郎が鬼殺隊に入るとして、そうなると武器はやはり鎌だろうか。それに毒を塗って鬼を殺す。やっていることは上弦の陸の妓夫太郎と同じだな。鬼殺隊側だから胡蝶(こちょう)しのぶとも言える。

 

(太郎はこれから成長するだろうし、毒に頼らない技術も身に付けられるだろうけど、何らかの足掛かりだけでも未来に残しときたいし、毒物や薬草の書物でも集めてみるか)

 

 のんびりと考え事をしていると、庭が更に騒がしくなったように思い視線を向けると、目に映った光景に溜め息が漏れた。

 遊んでいるのは子供達だけではない。屋敷に住む使用人や(かくし)達もどこからか七輪を持ち出してきて、(もち)を焼き始めた。

 

(おい、その餅はゆきに食べさせる為に隠しておいたはずだぞ。何でバレた?)

 

 すっかり親馬鹿が板に付いた創里であるが、本人は気付かない。徹頭徹尾(てっとうてつび)とにかく厳しい育手(そだて)、師匠として、後輩の育成に尽力するだけであると心に決めているが、修行の時ならともかく、普段の日常生活での甘やかし振りを見て、その厳しい先達(せんだつ)という表現に首を(かし)げる者は多い。

 ちなみに、焼いた餅の匂いに釣られて梅がトコトコと七輪の近くにしゃがみ込み、餅が膨らむ様子を、目をキラキラさせて眺めていた。

 そして沢山遊んだことで空腹を覚えたのか、一時休戦ということでおやつタイムに移行。使用人達が丁度良い具合に焼いた餅を次々と器に乗せて子供達に配り、そこへすかさず(かくし)餡子(あんこ)を持って現れた。

 

(あ、それも秘蔵の……)

 

 創里は無駄な摂取をしない為、屋敷の彼方此方(あちこち)に隠された嗜好品(しこうひん)は、主にゆきの為に任務先の付近の街で土産(みやげ)として買ったものである。ちなみに創里もゆきも粒餡(つぶあん)派である。今度からは兄妹の好みも聞いて買ってこないとなと密かに思っているのは、完全に父親である。

 

「みてみて! うにょーん!」

 

 梅が餅を(くわ)えて思いっ切り伸ばす。

 

「おい梅、調子乗って(のど)に詰まらせんなよ?」

「ねぇねぇ、たろうたろう」

「何だ?」

「うにょーん!」

「だからお前も!」

 

 ちなみに年齢で言えば太郎が数えで一三歳。ゆきが一一歳で、梅が一〇歳である。

 

「おうめちゃん、おいしいね!」

「うん、おいしい!」

「はぁ、ったく。まぁ美味(うま)いけど」

 

 ゆきにとっては、歳の近い友人が出来たというよりも、まるで家族、兄と妹が出来たように喜んでいる。

 

(家族か……)

 

 一年前のゆきの覚悟の言葉を思い出す。

 創里達の帰る場所を守る。それは(すなわ)ち家族を守るということと同義である。

 

(俺も守らなきゃな……さてと、そろそろ仕事に戻るか……っとその前に)

 

 書類整理がまだ残っていたので、今の内に片付けてしまおうと腰を上げる。その時思い出したように庭で騒ぐ子供達へ告げる。

 

「あ、お前等、あんまり食べ過ぎると夕餉(ゆうげ)(夕食)入らなくなるから程々にしとけよ? つーか、焼き過ぎだろ、お前等もあんまり与えんなって」

「申し訳ありません」

「気を付けます」

 

 間食して食事が入らずに怒られるなんてこと今はほとんどない。修行に入ったのを機に、ゆきは極力節制をするようになったからだ。修行の一環として、正しい時間に正しく食事を摂ることも含まれる為だが、そのことに関して創里は口を挟んでいない。ゆき自身が自分で決めて行動していたのだ。

 ただ、やはりつらくないという訳ではなかったのか、太郎と梅の兄妹が屋敷に来てからは、修行と遊びの比率が段々と遊びの方へ(かたむ)いているように見える。特に今日のような間食は久々に見た。普段隠している土産は食後のデザートとして出す為に常備しているだけで、デザートなら食事と同じという多少強引な考えから。何もゆきにおやつを食べまくれと推奨している訳ではない。そうでないならそもそも隠さない。

 

(まぁ、俺よりも屋敷のことを熟知しているゆきが知らないという可能性は限りなく低いがな……まぁ隠れて食べている様子もないし、良いか)

 

 自室に籠もり、届いた(ふみ)(手紙)や報告書に目を通していく。

 

(柱は強ければ良いはずなんだけど、何故か多くの書類が舞い込むのは気のせいだろうか? というかこれ、俺じゃなくて水柱(みずばしら)案件じゃね? あ、これは岩柱(いわばしら)のか……うん? 土柱(つちばしら)に調査依頼の嘆願書(たんがんしょ)? 何でこっちに来てるんだよ)

 

 日に日に増えているような気がする紙の束。それは少しずつ少しずつ、当人が気付かない内に徐々に増え続け、柱に就任して一年後には約倍近くの量となっていた。これがただの自身の管轄内(かんかつない)での報告や、産屋敷家(うぶやしきけ)からの伝令のみであれば問題なかったが、明らかに他の柱へ回すはずであろう書類も回ってきたことで、疑問が確信に変わった。

 

(あの戦闘狂共、俺に書類整理丸投げしやがってんな!)

 

 柱の中で一番在位が短い新米ということもあって、強く出られないのを利用されたか、あるいは意外と書類業務の適正が高かったことが誰かの耳に入り、押し付けるようになったのか。その誰かというのは分からないが、ここで一枚の紙が出てくる。

 

(これは……最終予算報告書……って、これ署名(サイン)が産屋敷……)

 

 犯人が判明した。そもそも互いの処理能力等、他者が知ることなどないのだ。情報を一手に集める中枢(ちゅうすう)である彼が漏らさなければ……

 

(まぁ枚数は二枚だけだし、多分、他の柱が余りにもサボるから、誰かに手伝って欲しくて一部を流しているんだろうな……)

 

 上に立つ者が苦労していることは分かったが、だからといって自分まで苦労して良いということにはならない。何せ創里は継子(つぐこ)を取って育成に邁進(まいしん)している。彼の他には現在、炎柱(えんばしら)と水柱が育手となっていることは知っているが、その他の柱は継子を取っていない。

 

(だけど、あのコミュ障集団を説得するのも面倒なんだよな……特に岩と土)

 

 溜め息を吐き、内心愚痴(ぐち)を言いながらも整理の手は止めない。前世が社会人だったことが関係しているか分からないが、悲しい性分である。と、その時、一枚の報告書が目に留まった。

 

「これは……」

 

 元々別の柱へ向けたものだろう。紙に書かれていたことを読み、次の戦いは近いかもしれないと思う創里であった。




 江戸コソコソ話

 原作時点で、上弦は一〇〇年以上席が替わっていないとされています。
 しかし、獪岳(かいがく)のように元々鬼殺の剣士だったことからの下地があるならともかく、ただの腕の立つ取り立ての子供とその妹というだけでは、いきなりその地位に就くことは難しいと思われます。
 よって、鬼としての活動期間を考慮した時に、一〇〇年くらいあっても良いのではと思って、更に六〇年足して出しました。
 それと、妓夫太郎のことを太郎と呼んでいるのは、妓夫が役職名であり、その鎖から解き放ったことを強調する為です。
 梅がそのままなのは、名付けの経緯はともかく、普通に名前として良いからです。
 ちなみに、主人公が二人を引き取ったのは、妹の武士失明事件の約一年前になります。
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