鬼滅の刃~蒸の呼吸~【完結】   作:木入香

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 あらかじめ注意です。サブタイトルは普通だったり巫山戯(ふざけ)ていたりする場合があります。わざと変にして内容をぼかす狙いがあるという浅知恵です。


第弐話 鬼殺隊

 少年が目を覚ました時、そこはどこかの屋敷の一室であった。少なくとも、兄と一緒に暮らしていたような年季の入った長屋ではなく、またかつて家族四人で暮らしていた家よりも上等そうな造りの建物のようだと感じる。幼い頃に亡くしたとはいえ、大工の次男である。父の職場へは何度も足を運んで建築風景を眺めていたことで、何となく良い建物だという印象を持つ。

 

「夢じゃ、なかったんだよな……というか、ここどこだ?」

 

 そう呟き、少年は自身の記憶を探る。そして、いつの間にか着替えさせられていて白い着物を身にまとっていたこと、それと全身のあちこちに施された治療の跡を見て、あの時の出来事が夢でも何でもなく、現実に起こったことだと認識したことで、やはり“鬼滅の刃”の世界に来てしまったのだと、改めて思うのであった。

 彼には前世の記憶がある。この時代よりも(はる)か未来。そして、この世界のことが物語として(えが)かれている違う世界の人間の人生を前世と呼んでも良いのかは疑問に残る所であるが……

 

(でも、アレって大正時代(たいしょうじだい)がモデルだろ? 今って確か寛永(かんえい)だから、江戸時代(えどじだい)ってことじゃん。しかも結構初期。原作キャラに会えないじゃん。いや、鬼には会えるのかもしれないのか。会いたくないけど。会った瞬間に食われて死ぬ未来しかないから。この時代に生きている原作登場する鬼って、必ず”十二鬼月(じゅうにきづき)”じゃん。もしくはそのボスの鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)。あ、珠世(たまよ)さんがいたか。というかこの時点で十二鬼月っていたっけ? 確か江戸時代に無惨の気紛(きまぐれ)れで作られたってあったけど、まぁいなかったらいなかったでまぁ良いか。あ、でも一応、黒死牟(こくしぼう)はいるか……だけどあれ、倒せるんか? とりあえず、横に置いておこう。敵ばかり見てても仕方ない。とはいえ、珠世さんにしても、隠れながら逃げ続けているから、こちらも遭遇(そうぐう)確率限りなく低いよな。うん。あ、でも、この頃はまだ愈史郎(ゆしろう)はいないから、もし出会えたら独り占め出来るのか。それはちょっと魅力だな。しないけど)

 

 一人悶々(もんもん)と考えを並べていると、音もなく(ふすま)が開けられ、一人の年配の男性が現れた。背は低く、腰も曲がっていて、表情からして物腰柔らかそうな雰囲気(ふんいき)を出している。白髪(はくはつ)で、この時代では一般的な細い(まげ)が作られていた。

 現代人がイメージするような時代劇で登場するような髷は、江戸時代中期をモデルにした『(あば)れん坊将軍(ぼうしょうぐん)』や『水戸黄門(みとこうもん)』の登場人物のようなものである。実際には、その作品に登場する髷は、江戸時代後期に入ってから登場したものだとする声もあるとかないとか。

 

「気が付いたようじゃの」

「は、はい。ありがとうございます。あの、つかぬ事を聞きますが、ここはどこなのでしょうか?」

「ふむ。ここは、かつて鬼に襲われながらも生き延びた先祖様から、その感謝と記憶を脈々と受け継ぐ家系の家じゃよ」

「それって……」

 

(藤の花の家紋(かもん)の家ということか。やっぱり、ここは鬼滅の世界か)

 

 何度も自問自答して出した答えを、第三者の言葉によって裏付けが取れた。そのこと自体は良いのだが、素直に喜んだり安心したりすることは出来ない。前世の記憶が(よみが)ったとしても、この身体はこの時代を生きている少年の歴史も詰まっている。つまり、両親の死、そして兄の死を受けた悲しみは、未だに晴れることなく心の奥に重石(おもし)としてのし掛かっている。

 そこに、年配の男性の後ろから一人の青年が入室してきた。

 

「男児よ。目覚めたか。もう少し寝ているものと思ったが、意外と早起きなのであるな。まだ昨夜の傷も()えておらぬだろうに。痛みはないか?」

「はい。大丈夫です。助けて頂き、ありがとうございました」

「うむ。動けるか?」

 

 朱色(しゅいろ)生地(きじ)に、黒と黄色の刺繍(ししゅう)で花のような模様がいくつも散りばめられている着物を着た、しっかりとした身体付きの快活(かいかつ)そうな青年は、腕を組みながら(うなず)く。そして、手を差し出してきた。その手を少年は(つか)み、立ち上がる。

 

「はい!」

「うむ! 良い返事だ。腹も減ったろ? 丁度朝餉(あさげ)(朝食)の時間だ。一緒に食べるぞ」

「はい」

 

 青年に手を引かれて部屋を移すと、そこには二人分の食事が用意され、先程の年配の男性が(ひざ)()いていた。

 

(え、俺ついさっき目覚めたよな? なのに準備出来てるの? というか雑穀米(ざっこくまい)も汁物も湯気が出ているから作りたてだろうし。そもそもこの人、つい今まで俺達と一緒の部屋にいたよな? いつの間にここに移動して食事を用意したんだ? やはり、この家系の人ってそういう早業(はやわざ)の特殊能力が宿るのか?)

 

 藤の花の家紋の家の住人の対応能力に驚愕(きょうがく)しながらも、少年は青年に(うなが)されてお(ぜん)の前に座る。

 本来なら食事をしながらの会話はマナー違反なのだろうが、何より青年の方から話し掛けてくるので、少年もそれに釣られてついつい口を開いてしまう。

 

「私の名前は松平治忠(まつだいらはるただ)だ。まぁ、徳川家(とくがわけ)とはほぼ繋がりはないがな。一応、三河(みかわ)出身で(つか)えていただけで、別に名も与えられたものではなく、勝手に名乗っているだけの下級武士だ。ただ、両親が鬼に食われてな。私は偶々(たまたま)お役目があって家にいなかったから助かったが。以来、仇討(あだう)ちの為に鬼を狩ることを生業(なりわい)としている」

 

 名を名乗られただけでなく、身の上話もされてしまえば少年も話さない訳にはいかず。自己紹介をする。

 

「俺の名前は創里(つくり)です。ただの町人(ちょうにん)です。父が大工の事故で、母が(やまい)で、そして昨日兄を強盗で亡くしました。鬼を見たのは昨夜が初めてです」

「む、そうなのか。傷が癒えれば家に帰すつもりであったが、男児……いや、創里と言ったな。お(ぬし)天涯孤独(てんがいこどく)であるか……」

 

 そこで治忠が何か考える仕草をするも、すぐにまとまったのか、口を開いた。

 

「ふむ、もし、お主に覚悟があるのであれば、鬼殺隊(きさつたい)に入らぬか? いや、答えはすぐに出さなくても良い。だが、前向きに検討(けんとう)してもらえるとありがたい。どうやら、素質もありそうだしな」

「やります!」

「む?」

 

 創里の話を聞く時には食べる手を止めて真剣に聞いていた治忠も、自身が話す時には食べるのと同時に話をするという器用なことをして、ペースを落とさずに話し続けていた。しかし、創里がすぐさま返答をしたことで、再びその手が止まった。

 

「歳は?」

「(数えで)一一(じゅういち)です」

「ふむ……即決するとは思わなんだ。では聞こう。お主に命を賭けて鬼と戦う覚悟があるか?」

「あります」

「鬼殺隊は厳しい。入隊試験で命を落とし、隊士にすらなれずにこの世を去る者も多いが?」

 

(この頃にはもう、あの七日間の山籠(やまご)もりか、もしくはそれに準ずる試験があるということか)

 

「何の保証にもなりませんが、覚悟はあります」

「ふむ。相分かった。では、私の方から炎柱(えんばしら)様に(ふみ)(手紙)を(したた)めるとしよう」

「ありがとうございます!」

「うむ! ではまずは(めし)だ! 腹が減っては鬼狩りなど出来ぬからな! そして食後には、少しの時間だが私が簡単な指導をするとしよう」

「よろしくお願いします!」

 

 それからは二人共(はし)を進め、綺麗(きれい)(たい)らげた。

 食後に一息入れた後、治忠に続いて創里は屋敷の庭へ出る。太陽が(まぶ)しく、思わず目を細める。こうして日の下に出られることを、心の中で感謝しつつ治忠と相対(あいたい)する。

 

「まずは基本だ。呼吸法というもので、戦う際に全集中の呼吸という特殊な呼吸を用いて身体能力を向上させて戦う。どうやら、昨夜にその片鱗(へんりん)があったようだがの? 誰かに教えてもらったのか?」

「いえ。あの時はとにかく無我夢中(むがむちゅう)で……死にたくないという(あせ)りと共に落ち着かなければという思いもあって息をしたら、一瞬だけ身体が軽くなったような感じがしました」

「無意識というものか。それで時間が(かせ)げて、私の到着が間に合ったということか。これは……」

 

(本当に才能があるのかもしれんな。この指導の様子を見てからになるが、炎柱様の継子(つぐこ)として推薦(すいせん)する必要があるのかもしれないな)

 

 治忠は、創里に期待しつつもそれを表に出さないようにし、静かに告げる。

 

「では、呼吸法を伝達する。しかと見よ」

「はい!」

 

 それからは、治忠の真似をしてただひたすら全集中の呼吸を繰り返すだけ。技所か身体を一切動かすことなく、互いに向き合って息の仕方を見る。

 

(うむ。荒削(あらけず)りであるが、何とか形になろうとしているな。この(わず)かな時間で、もうここまで身に付けたか。この乾いた砂に水が染み込むような物覚えの良さは(すさ)まじい。それに、ただ真似をして繰り返しているのではなく、何かを考えているな。何としてでも手にしようという気概(きがい)を感じる。うむ。良いな)

 

 一方で、創里は何度も繰り返すことで肺が痛むが、とにかく少しでもヒントを得ようと食らい付く。

 

(想像以上に苦しいし、痛い! でも、これを身に付けた上で、更に年中無休で睡眠時も休まずに続ける、常中(じょうちゅう)をものにしなければならない!)

 

 全集中の呼吸は、(いちじる)しく増強させた心肺により、一度に大量の酸素を血中に取り込んで、全身の末端(まったん)に至るまで行き渡らせることで瞬間的に身体能力を大幅に上昇させる特殊な呼吸法である。

 一足飛びで身に付く技術ではない。常中は今の段階では未熟過ぎて無理だ。まずはしっかりと全集中の呼吸を、安定して出来るようにする。その為には……

 

(その為には、口から取り込んだ空気が気道を通って肺へ送られ、肺胞(はいほう)の一つ一つに行き渡らせて血に混ぜる。その血が心臓へ送られて、そこから一回の鼓動(こどう)(たび)に押し出される。それは動脈を通って、そこから枝分かれして枝分かれして、更に枝分かれして……意識するんだ。血がどのように流れて、どこに行き着いて戻ってくるのか)

 

 前世があり未来の知識がある創里は、理科などの授業で人体の構造についても当然学んでおり、その毛細血管(もうさいけっかん)の図も漠然(ばくぜん)としか覚えていないが、何となく想像することは出来る。何も知識のない状態の場合と、どのような順路で血が流れるのかをうろ覚えとはいえ知っているのとでは、明らかに後者の方がイメージしやすい。

 

(……っ! ここだ!)

 

 何かが(つか)めた気がした。

 昨夜のような危機的状況からの無意識のものではなく、教えられた直後の荒いものでもない。ほんの一瞬とも言える時間ではあるが、明らかに洗練(せんれん)された全集中の呼吸を発動することが出来ていた。

 

(これ程とは……)

 

 治忠は、ただただ驚愕するしかなかった。僅か半日にも満たない者が、少し指導しただけで基礎の基礎の基礎とはいえ、形にしてしまった。

 元々炎柱に送ってちゃんとした指導をしてもらうつもりで考えていた。その中に才能があれば継子として推薦するのも良いと思っていたことも間違いではない。ただそれは、自身が見極めることではなく炎柱がいくらかの期間を設けて様子を見、判断するものと勝手に思っていた。

 

(開花と言うには言葉が過ぎるが、それでも、ただの種の状態からいきなり地面から芽を出しよった! これは、益々(ますます)強く()さねばなるまいな!)

 

 そう決意する治忠の目の前で、いきなり何の下地(したじ)もないのに肺に負担を掛ける全集中の呼吸を何度も繰り返したことで、肺の痛みに耐えられなくなった創里が(うずくま)っていた。

 

(ふむ。まずは基礎体力からだな。これも、炎柱様の指導があれば必ず伸びるはずだ)

 

 満足そうに(うなず)く治忠に対し、創里は、胸を押さえて痛みと戦っていた。

 

(ぐおぉぉぉおお! 苦しい! 痛い! 疲れる! マジか! 全集中の呼吸ってこんなヤバいのか! 舐めてたつもりはなかったけど、甘かった! これは基礎体力もちゃんとやらないと、肺だけでなく身体がもたない! でも、一歩……いや、半歩だけど……前に、進んだ!)

 

 その後は、創里の回復を待ちつつ治忠も仮眠を取り、夜に治忠が鬼狩りへ出掛けるまで、時間の許す限り指導を行い、更なる前身とそれに(ともな)う痛みを受け入れる創里であった。




 江戸コソコソ話

 主人公の名前は、大工の家の男児であることから、物作りに関連しそうでかつちょっと洒落た感じの名前ということで決めました。新しい呼吸を生み出すという意味も込められています。蛇足でした。
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