鬼滅の刃~蒸の呼吸~【完結】   作:木入香

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 ゆきちゃん回です。
 鬼と戦うパートとほのぼのパートのどちらかになってきました。
 ほのぼのパートは、ただひたすらゆきちゃんの可愛い様子が書きたい。遊郭兄妹の成長も描きたい。
 どんどんと捨て子や孤児を拾って、屋敷を孤児院か幼稚園にしたい。年齢的には小学生ですが。
 あくまでただの願望なので、書くとは限りません。


第弐拾弐話 ゆき

「みいつけた」

「みつかっちゃった」

「というか、おゆきはズルいんだなあ。最初から見えていないから、隠れてもむだだよなあ」

 

 現在、ゆき、(うめ)太郎(たろう)の三人は、創里(つくり)の屋敷の中で隠れん坊をして遊んでいた。現在の鬼はゆきであったが、どこに隠れようとあっという間に見つけてしまった為、すぐに鬼交代となってしまう。

 創里に拾われてから約一年半。そして彼の(もと)鬼殺隊(きさつたい)に入る為の修行を開始して約一年。(あざ)が発現し、透き通る世界も不安定であるが、入れたり入れなかったりを繰り返すようになった。勿論(もちろん)、屋敷の間取り全てが頭に入っている彼女相手に死角はなく、隠れん坊で無双をしていた。

 遊郭(ゆうかく)兄妹が家族として加わって数日経ち、すっかり屋敷の住人とも打ち解けるようになった。特に仲の良いゆきとは頻繁(ひんぱん)に遊んでいる。

 とはいえ、修行をサボっているということもない。修行に当てる時間が減ったことは確かだが、心のゆとりと絆作りも必要だと創里の判断で、こうして遊ぶことが出来ている。しかし、修行時間が減ったからといって(ぬる)くなることもなく、むしろ密度が上がってより大変になった。

 山での鬼ごっこと、呼吸の練習の時間を削った分、最近は奇妙な訓練が追加された。

 大工の次男である創里の手作りで用意されたもの。それは、一尺(約30cm)程度の短く細い木の棒の先に括り付けられた幾本もの細長い麻の紐だった。紐の長さは五尺(約150cm)程度と長く、それを木刀の素振りのように振るという訓練になった。

 疑問に思ったゆきは、理由を問うた。すると……

 

「ゆきは小さい。まだ成長する余地があるとしても、今のままではまともに刀を振ることは出来ない。そこでそれを使って、身体に合わせた訓練をする」

 

 ゆきはまだ幼い。数えで一一。実質一〇歳である。何歳に最終選別へ出すという明確に創里の中で決めている訳ではないが、ある程度身体が出来上がってからにするつもりである。それを受け入れたゆきは、以来、暇さえあれば庭でその奇妙な棒と紐を振り回すようになった。

 紐は軽く、風で(なび)く。それに逆らうように、風を切り裂くように鋭く振る。まだまだ未熟で思った通りに動いてはくれない。それに自身の身長よりも長い紐を扱うのは難しく、地面に付けないように振るだけでも精一杯だ。

 

「俺も負けないんだなあ」

 

 そうしてゆきが修行を始めると、決まって張り合うように太郎も木刀を持って参加する。それを梅が縁側に腰掛けて眺めるのが日課となっている。

 いずれは鬼殺隊に入るという目標を掲げているゆきに対して、太郎のそれは特に目的等がある訳でもなく誰かから強要されていることもない。()いて上げるなら、妹の梅を守れるだけの力を付けるということがあるが、今では自身よりも年下なのに自分よりも遙かに強いゆきにライバル心を剥き出しにして、いつかは勝ってみせると素振りを続けている。

 縁側で眺めているだけの梅の横には、いつの間にか使用人が現れて、一緒にあやとりをして遊び始める。

 そこでふと、ゆきが屋敷の門へと振り向く。そしてトテトテを走り出した。屋敷に来て日が浅い兄妹はそれを見て首を(かし)げるが、創里に屋敷が与えられてからずっと一緒に住む使用人達はいつものことと微笑ましい表情を浮かべる。

 

「つくり! おかえりなさい!」

「おう、ただいま」

 

 屋敷の主人(あるじ)の帰還である。

 今回、上弦(じょうげん)()を狩る為に数日屋敷を()けていたが、以前の上弦の(ろく)の時と違ってゆきが不機嫌になることもない。不安、心配はなくならないが、それでもあの時に覚悟を示した。その覚悟を胸に信じると決めた。だから、無事に帰ってくると信じ、こうして笑顔で迎えることが出来ている。

 

「それの訓練は慣れたか?」

「まだむずかしい」

「そうか。まぁそうだろうな。だが、きっと必要になる。頑張れよ」

「うん!」

 

 ゆきにとって、創里は命を救ってくれた恩人であると同時に、大切な家族である。元々の家族と仲が悪かったということはないが、自身を捨てたということは幼い彼女の心に傷を付けた。目が見えないこともあって、余計に知らない世界は不安で恐怖で、心細かった。いつか迎えに来てくれると信じていたが、それは叶わず、また別の場所へ引き取られた。そこでは直接の暴力こそなかったものの、暴言等の虐めに()い、生きる希望を失い始めていた。

 そしてあの夜。

 鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)によって鬼にされようとしたその時、創里は現れた。あれからすぐに気絶してしまった為、何が起こったのか分からなかったが、彼のおかげで光のある世界へ出ることが出来た。

 光を映さない自身の目であるが、彼の存在は不思議と眩しく、閉じられたままであるはずの目蓋(まぶた)に力が入り、所謂(いわゆる)目を細めたかのような変な顔になってしまった。そのことをゆきは自覚していないし、創里も前髪で隠れた彼女の目元の変化に気付くこともなかったが、その朝の邂逅(かいこう)からゆきは彼に()かれるようになった。

 最初、その気持ちが分からなかった。

 父親を彼の中に見ていたのか、自身の知らない兄という存在を見ていたのか、あるいはいたこともない友人か。

 彼女の中で両親の存在は、苦い記憶で終わっている為、そうでないと首を振る。しかしその他のことは経験がないから分からない。彼女は、その分からない気持ちを(かか)えたまま、今日(こんにち)まで過ごしてきた。

 一年前の覚悟を表明し継子(つぐこ)となった時に、改めて自分は創里の側から離れたくないことを自覚することとなったが、しかしそれがどういう意味なのかを理解するには彼女はまだまだ幼く、人生経験が未熟だった。

 

「創里さんお帰りだな」

「つくり。お帰り!」

「おう、ただいま」

 

 ゆきに遅れて兄妹が笑顔で創里を迎え入れる。

 

「お土産買ってきたから、夕餉(ゆうげ)(夕食)の後にでも出してもらえ」

「「わーい!」」

「分かったんだな」

 

 諸手を挙げて喜ぶ妹と義妹に呆れつつも、太郎も楽しみにしていたようで包みを受け取る。

 

「それと、ゆき、後で話したいことがある。まだ早いかもしれないが、善は急げとも言う。呼吸と型に関することだ」

「うん、分かった」

 

 身体の小さいゆきには炎の呼吸は難しいと言われ、かといって()の呼吸を継がせるつもりもないと創里から聞かされていた。それによって、決まった呼吸もなく、ただひたすら基礎となる呼吸を続ける訓練を行ってきたが、何か考えがあるらしい。

 

(私、今よりもずっとつよくなれる!)

 

 今の彼女の目標は鬼殺隊へ入り、創里の隣で刀を振ること。そして創里とその家族、家を守ることである。それに少しでも近付けるのであれば大歓迎である。

 話は報告書をまとめてからということで、それまでの間は素振りを再開することにした。未来の人が見れば、それはまるで新体操のリボンのように舞うような動きとなっていた。最も、長さ太さに大きすぎる違いがあるが。しかし、まるで舞踊のような一連の流れは、見る人を惹き付けるような何かがあった。

 しばらく訓練を行っていたら、創里が仕事を一段落させて庭に現れた。ゆきの動きを見て小さく頷く。それから彼女を自室へ呼び、話を始める。

 

「ゆき」

「うん」

「色々考えたが、盲目の女子(おなご)では、呼吸は出来ても剣技までの習得は難しいという結論に至った」

 

 そう告げられ、ゆきは身体がピクリと反応する。だが、声を上げたり動揺したりするような様子もなく、黙って続くであろう言葉をジッと待つ。創里はその反応に対して特に何も言うことなくそのまま続けた。

 

「だから独自に作ろうと思う」

「作る?」

「そうだ。元々は一つの呼吸が、使い手の身体能力、体格、性別、性格、武器等によって枝分かれして、今のように細分化されている。ならばゆき、お前もお前に合った呼吸を作るべきだ」

「私に合った……」

 

 呆然と呟く。

 一瞬、自分には鬼殺隊は無理だと告げられるのかと不安に思ったが、すぐにそれはないと否定されたことが嬉しく、しかしその意味がよく分からず言葉を繰り返してしまう。

 

「どうやって?」

 

 一拍開けて出て来たのは疑問の言葉。

 

「大丈夫だ。俺だって独自に呼吸を生み出したんだ。参考に出来る部分は少ないだろうが、俺の経験をお前に教える」

「……分かった」

「それを身に付ける為に、これまでの体力強化、筋力強化に加えて、身体の柔軟性も念入りに伸ばしていくぞ」

「じゅうなんせい?」

「あぁ、肩や股関節等といった関節部の可動域を増やすことで、より複雑な動きが出来るようになるし、怪我もしにくくなる」

「うーん……?」

 

 ゆきに理解出来たのは、怪我をしにくくなるということだけ。それより前の部分、複雑な動きというのは想像も出来ないし、更に前の間接云々(うんぬん)に関してはちんぷんかんぷんである。それでも、創里の言うことであれば間違いないと信じて疑わない彼女は、どうにか飲み込もうと首を(ひね)りながらも肯定の意を示す。

 その様子に、創里の表情に小さく笑みが浮かぶ。

 

「いつも身体を動かした後に、体操をしていただろ? あれだよ。あれを更に時間を掛けてゆっくりやることで、柔らかくしなやかな身体になる」

「つよくなる?」

「なる。絶対に」

「分かった!」

 

 創里が彼女に身に付けさせようとしているのは、原作に登場する柱の一人、恋柱(こいばしら)甘露寺蜜璃(かんろじみつり)の恋の呼吸を派生させたものだ。

 過去にある呼吸を派生させるならともかく、未来の呼吸を派生させるなど前代未聞(ぜんだいみもん)であるが、恋の呼吸だって元々は炎の呼吸の派生。ならば、同じ炎の呼吸を修めている自分自身でも教えられることはある。勿論、基礎となる炎の呼吸も教える。先程、ゆきには難しいと述べたが、あくまで実戦で用いるのに有効的でないというだけで、動きや呼吸自体は身に付けさせることが出来る。

 最初から教えなかったのは、迷いがあったからだ。炎の呼吸の適正がなければ、他の呼吸の使い手へ継子を渡す必要が出てくるかもしれない。それはこの子の面倒を最後まで見ると覚悟を決めた創里もだし、何より彼の側を離れたくないというゆきの思いも一致している。

 恋の呼吸の派生。正しく言えば、技等を参考にするというもの。炎の剣技も取り入れるし、またこの時の為に元風柱(かぜばしら)理太郎(りたろう)に頼み込んで、呼吸ではなく剣技のみを教えてもらった。

 これで準備は整った。

 

「ゆきの今後の身体の成長次第だが、少なくとも俺より大きくなることは難しいと思う。やはり、身体が大きいというのはそれだけ刀を振る時に力を入れられるし、そうすることで鬼の(くび)を斬れる。それが望めない以上、別のものを武器に戦うしかない」

「えぇと、ぶき……刀?」

「そうでもあるが、もっと根本的なものだ」

「あ、からだ」

「そうだ。そして身体だけでなく心、技術も必要だ。心技体。これらが合わさることで、本物の力となり、鬼の頸へ刃が届くようになる。まぁ、そのままではまともに刀は振れないから、そちらも改良するが……ここまで分かったか?」

「何となくだけど分かった」

「何となくかー……」

 

 言葉では突っ込むが、そこに呆れはない。彼女なりに今、そして後に必要なことを大体理解して、自分のものにしようとしているのが分かるからだ。

 恋の呼吸……ではなく、あくまで炎の呼吸を派生させる形で新しい呼吸を生み出す。流石に蜜璃のような、筋肉が凝縮されて常人を遙かに超える筋肉量を持つ捌倍娘(はちばいむすめ)ではないので、技を完璧に再現することは難しいだろう。そもそも、創里の考えているゆきの日輪刀(にちりんとう)は、かなり特殊なものになる予定。実際に実現可能かどうかはまた確認を取る必要があるが、実現不可能だからといって諦めるような職人達ではないことも理解している。きっと、思い通りの刀を打ってくれるだろうと信じている。

 これで、ゆきの覚悟良し。修行内容も良し。刀も多分良し。技も、今ある知識、特に前世のものを参考に、原作の『鬼滅の刃』だけでなく他の作品からも取り入れたりして、彼女に合ったものを作り上げるから良し。

 そこまで考えた所で、創里は「あ」と声を上げた。

 

「呼吸の名前、決めていないな。ゆき、何か良い名前あるか?」

「私がきめていいの?」

「当たり前だろ? 何せ、お前の、お前だけの呼吸だ」

「私だけの……」

「今すぐに決めなくても良い。じっくり考えて答えを出せば良い」

 

 そう助言するも、ゆきは首をフルフルと振った。

 

「決めた」

「早いな。最初から決めていたのか?」

「少しちがう」

「少し?」

「炎の呼吸も蒸の呼吸もむりって言われたから、じゃあどんな呼吸があるかなって、考えてた」

「なるほどな」

 

 それは漫画やアニメを観て、独自の呼吸を作るちょっとアレな病気的なものだろうかと脳裏を(かす)めるが、気にしないことにした。アレな言葉を使い始めたら矯正する必要はあるかもしれないが、未確定の先のことはとりあえず横に置いておく。

 

「それで、何て名前だ?」

(かなで)。私の呼吸の名前は、奏の呼吸」

 

 ここに、ゆきのオリジナルの呼吸が誕生した瞬間であった。




 江戸コソコソ話

 ゆきの会話の中で、漢字表記だったり平仮名表記だったりしますが、これはゆきは目が見えないので漢字、文字が分からないことから来ています。
 ただ、全てを平仮名にするとややこしいし面倒くさいので、必要な部分と、簡単な部分だけは漢字にしています。
 梅は、まだ幼いので(ゆきの一個下だが)漢字能力はまだまだですが、今後の成長でちゃんと覚えます。
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