鬼滅の刃~蒸の呼吸~【完結】   作:木入香

23 / 35
 このまま自然消滅的に創里がフェードアウトして、ゆきちゃん戦記が始まったりはしないです。多分。
 この物語の主人公は一応創里ですので。ガンダム種死のように、途中から主人公が変わるような事態にはならないと思います。多分。
 寿命まで生きます(確定)。


 ちょっとお知らせという名の言い訳。
 評価、お気に入り、感想、誤字報告ありがとうございます。
 評価の分布を見ると、良いか悪いかで大体二分していますね。中間がない辺り、すごく好みが別れる作品だということが分かります。
 まぁ原作キャラほとんどいませんし、時代も江戸と誰得ですし、大衆受けするものではないと思っていましたが、意外と評価されて驚いています。
 常にネタ切れ、時間のなさと戦っていますが、なんとか終わりまで走れるよう頑張ります。
 それと誤字脱字に関してですが、毎日の投稿を目指すあまり、確認作業がおざなりになっていることは事実です。申し訳ありません。
 極力なくすよう努力は致しますが、このペースを維持する為にどうしても不十分になることが多々あるかと思います。その際はご協力お願いします。


第弐拾参話 新たな武器

 本格的な修行が始まったのは、三ヶ月後。春になってからであった。

 理由は、修行に使える刀がないというもの。予備の日輪刀(にちりんとう)などなく、また仮にあったとしてもゆきの鍛錬に用いることは出来ない。よって、貴重な猩々緋(しょうじょうひ)の金属を用いない、ただの鉄等を加工した、あくまで練習用の刀としてかなり無理を言って特別に発注したのだ。

 作ったのは、創里(つくり)日輪刀(バスターソード)を打った能面のような仮面を被った鍛冶師、鉄仞(てつじん)である。

 本人もこのような注文は初めてだとブツブツ言っていたが、とりあえず模擬刀は完成した。ただ、とても長い。非常に長い。創里の日輪刀よりも長い。そもそも、刀の形をしていない。

 

「……糸?」

 

 刀身の部分をツンツンと(つつ)くゆきが、疑問を口にする。

 

「俺は注文通りに打っただけだ。聞きたいことがあるなら、そこの生意気な(わっぱ)にでも聞け」

 

 そう言って鉄仞は屋敷を去って行った。

 残されたのは、ゆきの前に鎮座する謎の模擬刀。試作品ということで鞘には入っていない。合う鞘がないというのが正しいか。その刀身は、一本七毛(約0.2mm)以下の太さの非常に細い針金(ワイヤー)である。それが一〇〇本、束になっている。針金の長さは七尺(約2m)程度と非常に長い。

 長さだけを見れば、刀身四尺半(約1.3m)と巨大な日輪刀として知られる創里の刀よりも、一.五倍も長いことになる。

 (つか)の長さは七寸(約20cm)程度、直径一寸半(約4cm)の円柱となっている。

 余計な装飾もなく至ってシンプルな刀……ではない何かである。

 

「今日からこれで修行を始める」

「うん」

「内容はこれまでの麻紐を使ったものと同じだ。ただし、長さ、重さ、本数、細さ、危険度。どれを取っても比べものにならない。心して掛かれ」

「分かった!」

 

 二人で庭に出る。その様子を、他の住人が縁側から眺めている。今回は、下手したらすっぽ抜けて危険があるかもしれないので、念の為、離れて見るように言付(ことづ)けている。

 

「すごい、重い」

「それを、今までと同じように振るんだ」

「……こう? っ! ぐっ!」

 

 試しに振ってみる。長い地道な基礎訓練のおかげで身に付いた筋力で、特に問題なく振れたように見えた。しかし、先端に力が行き渡った時に遠心力が働き、身長四尺七寸(約140cm)で体重の軽いゆきは身体が引っ張られるが、すぐに腰を落として踏ん張ることで耐えた。また柄を手放すこともなく、しっかりとその小さな手に握られている。

 最初の一振りで耐えられたのなら、今後も問題ないと創里は判断する。

 

(ワイヤーの細さは変わらないが、先端に向けて重心が集中しているっぽいな。上手く扱えば、狙った所に確実に攻撃が出来るようになるか)

 

 そうして新たに始まった訓練。最初の頃は、まだまだ武器に振り回されている感じがしていたが、一〇日、二〇日と日を追う(ごと)に改善していき、地面に一切触れることなく半日振り続ける所まで来た。

 そうなると次の段階へ移行する。これまではただ振るだけだったが、ここに、新体操のリボンのような、あるいは舞踊のような動きを混ぜ始める。

 その舞いの一連の動作の中で、型となるものの動きが加わるようになった。型、剣技の一部は、創里が提案したもので、ゆきはそれを取り入れて自身の動きに合うように調整していく。

 正しい型の動きを知る為に、透き通る世界へは中々入ることが出来ないでいるが、それも少しずつ前進している。

 それから数ヶ月経ち、秋。

 夜明けから日暮れまで、一切の休憩を挟むことなく一つ目の技から最後の技までの全てを通して、息切れすることなく繰り返し舞うことが出来るようになっていた。

 

「相変わらず飲み込みが早いな」

「そうかな?」

「少なくとも俺よりは」

「そうなんだ」

 

 原作キャラは、どのキャラも本当に短期間で技を身に付けている。確かに単純な強さで言えば創里の方が上であろうが、長いこと熟成し、積み重ねてきたからこその強さであって、短期間では決して仕上げられるようなものではない。霞柱(かすみばしら)時透無一郎(ときとうむいちろう)のような天才ではないのだ。だが、時間を掛けてジックリ実力を付けたことで、一切のブレのない強さへと昇華することが出来ている。それをゆきも身に付けさせたいと考えている。

 

「焦る必要はない。急ぐ必要もない。一歩ずつ確実に。心を乱さず、呼吸を乱さず、動きを乱さず、思考を乱さず。これをとにかく無意識に意識(・・・・・・)し、それが当たり前にこなせるようにしろ」

「うん!」

 

 とにかくこれを口酸っぱく伝えている。大事なのはとにかく心を保つこと。そしてそれを理解しているゆきは常に平静を保ち、最初こそは(あら)の目立った動きも、不要な部分を()ぎ落としていくことで、洗練されたものへと変わっていく。

 それはまるで、一つの丸太を一本の彫刻刀で少しずつ削っていくことで、仏像を掘り出すような感じである。

 余分な力を抜き、無駄な部分を全て省いたことで到達することが出来る、透き通る世界。

 慣れてきたら、いよいよ屋敷の周囲にある山の森の中に入っての戦闘訓練だ。障害物の多い空間で、最大七尺(約2m)にもなる武器を振り回すのは簡単なことではない。それも移動しながらなので、難易度は跳ね上がる。

 

「木は極力斬るなよ? 生態系を壊すのは良くないからな」

「うん。分かってる」

「よーし、始め」

 

 そうして向かい合った創里とゆきは訓練を開始する。

 

「フュォォォォォォォ」

 

 ―― 全集中 (かなで)の呼吸

 

 呼吸の音が響き渡り、まだ型の名前もない技を繰り出す。

 自身の型だから名前は自分で付けろという創里の教えだが、知識に乏しいゆきは発想力がない。よって、屋敷の住人に相談したり知識を教えてもらったりしながら、技の名前を考えているようだ。

 

「随分と思い通りに動かせるようになったな」

 

 七毛(約0.2mm)以下の非常に細いワイヤーは非常に見づらく、一〇〇本がそれぞれ独立して動いているかのように操られ、創里へ襲い掛かる。しかしそれを難なく(かわ)し、間合いの内側へ飛び込む。創里の手に握られているのは木刀。高速で動くワイヤーが触れればたちまち切断されてしまうだろう。それはすなわち、彼も危険な状態であるのだが、本人は「大丈夫大丈夫」と言って戦い始めてしまった。最初こそ不安と戸惑いで比較的(ゆる)めの攻撃だったが、すぐに自身よりも格上であることを思い知り、今では最初から全力で戦闘を行っている。だが未だに傷一つ付けられず、全戦全敗である。

 猩々緋の金属を用いていないので鬼の(くび)を斬っても殺すことは出来ないが、確実に頸を斬れるだけの威力が乗っている。そのことは、ヒュンヒュンと音を斬る見にくいワイヤーの嵐の真っ只中にいる創里がよく分かっている。

 

(まるで弾幕シューティングゲームのようだな)

 

 ほんの微妙な隙間を見つけて飛び込み、木刀の間合いへ近付こうとする。しかし、嵐の中心部は更に激しさが増し、彼の接近を(はば)もうと竜巻のように荒れ狂っている。その中心であるゆき本人は、(まさ)に舞うかの(ごと)く、あるいはオーケストラの指揮者のような二面性を持つ印象を受ける動きをしていた。

 それによって生み出される技は、攻防一体。彼女をワイヤーの結界で守りつつ、間合いに入ってきた獲物へ容赦なく襲い掛かる。

 

(巨大な積乱雲で身を守る『天空の城ラピュタ』かな?)

 

 とはいえ、そんな呑気(のんき)なことを考えていられる程度には余裕がある。

 相手も(あざ)を出し、今では激しい戦闘時でもコツを掴んだのか安定して透き通る世界へ入ることが出来るようになっている。しかし、柱でもあるこちらは何年もそれを使い、本気の命を奪う戦いを続けているのだ。素質はあり、一部柱に届くであろう能力を持ってはいるが、まだまだこれからである。

 削り出した仏像は、そのままではいけない。しっかりと(みが)いてピカピカにする必要がある。当然、そのままでも味わいがあって良いのだが、創里が彼女に求めているのは完成された仏像である。むしろ更に上からコーティングをしたって良いと思うくらいに、経験を積んで実力を伸ばして欲しいと考えている。

 とんでもなく過保護なのである。

 修行がとてつもなく厳しいのでとてもそうには見えないが、しかし彼がどこまでも彼女に対して甘いことを屋敷の住人は知り尽くしている。そしてそれはゆき自身も分かっており、だからこそその期待に応えようと時折涙を流しつつも全力で打ち込んでいるのだ。

 

「とりあえずここまで」

「うん、いつも、ありがとう」

「また明日もやるぞ?」

「うん!」

 

 午前中いっぱいを使った山での戦闘訓練を終えた二人は、特に呼吸が乱れることも怪我もなく、並んで屋敷まで移動する。

 

(最近の鬼の活動が何か妙だ……)

 

 現在は上弦(じょうげん)下弦(かげん)も現れず、目立った活動がない。むしろこれまで以上に弱小鬼が出没しているように思える。その場合は、その都度(つど)出撃要請はあるものの、大体下級隊士で解決出来るのではと思うような案件もあった。

 

(多分、鬼舞辻(きぶつじ)辺りが活動を自粛するよう命令しているんだろうな。しかも雑魚(ざこ)鬼が彼方此方(あちこち)で現れているから全然足取りが掴めん。カムフラージュ(偽装)ってやつか……これ絶対に俺のせいだな)

 

 単独で上弦の鬼を二体倒し、しかも全ての鬼を束ねる首魁(しゅかい)である鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)退(しりぞ)けた創里の存在。これこそが、現在の状況に影響を与えている。

 そのことは産屋敷守通(うぶやしきもりみち)も把握しており、だからこそ雑魚鬼相手でもあえて柱をぶつけることで、無駄に下級隊士を減らすことを防ごうと尽力している。

 創里が雑魚鬼と言ってのける存在だが、中には元武士であったり、武道を学んでいたりと、まだ戦国時代を終えて数十年しか経っていない江戸時代初期ならではの事情から、なりたてでもそれなりに強い鬼が(まぎ)れていることもあり、複数人の部隊で挑まなければ返り討ちにされてしまう例もある。

 ただでさえも消耗の激しい鬼殺隊(きさつたい)。随分と数の減ってしまった戦力を減らすのは極力避けたいし、このほんの(わず)かな期間でも次世代の育成に邁進(まいしん)するのは当然のことだ。

 

(どちらも兵隊を揃える準備期間、まぁ内政タイムといった所か)

 

 柱の忙しさは相変わらずだが、全体で見れば実質膠着(こうちゃく)状態となっている現状、どちらも下手に動くことが出来なくてある程度暇になると思っていた。だが実際はそういう訳でもない。

 鬼側が一般人を襲わず、経験の浅い隊士を狙って攻撃を仕掛けてくる例が何例か出ているのだ。一般市民に被害が出れば、例え小規模なものだったとしても柱を派遣する場合があるが、何となくそれっぽいものを見たという目撃情報だけでは柱を動かすには至らず、その確認の為に隊士を派遣したら被害に遭うという感じだ。

 実戦経験が豊富な柱やその一つ下の(きのえ)は数が非常に少なく、全国各地で発生する目撃情報全てに対応することが出来ない。そして実際、階級の高い隊士は被害のあった地へ(おもむ)く必要がある為、どうしたって手が足りない。

 そういったことを踏まえると、鬼殺隊、鬼、両方の勢力は互いに小競り合いを繰り返しながら、どちらも爆発的に数を増やすこともなく、微増しているという状況に(とど)まっている。これでもし柱が半数とかになっていたりしたら鬼殺隊側が崩壊していたかもしれないが、創里の尽力によって何とかギリギリの人員でこなすことが出来ている。

 最も、彼がいなければ普通に殺し殺されの関係で、両勢力共に増やし減らしを繰り返して原作へ突入することになるのだが、どちらが良い状況かは未来(原作)の知識を持つ創里以外知るよしもない。

 

(まさか鬼舞辻がこういう手に出てくるとはな……まるでモグラ叩きだ)

 

 伊達(だて)に長く存在していない。ただの自己中心的なパワハラ上司ではないということだ。

 

(こうなると、もう鬼舞辻を追うのは難しそうだ。やはり上弦に絞って捜査するしかないか……特に黒死牟(こくしぼう)を何とかしたいな)

 

 こちらも簡単なことではないが、自身の寿命が尽きるまでに何としてでも尻尾を掴んでやると意気込む創里であった。




 江戸コソコソ話

 原作の下弦の伍のことは気にしないことにしました。
 あれは糸でこちらは弦だ。と言い訳をしておけば大丈夫大丈夫。
 それと、次回は時間が大きく飛びます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。