というかこれ主人公じゃね? 主人公だよね?
最終選別が始まった。
ゆきは特に決まった目的地がある訳でもなく歩いていた。第三者から見れば無警戒に思えるが、長年の修行の末に身に付いた透き通る世界と視覚以外の残った四感を用いた
(鬼と思われる気配がない……他の人も、探れる中にはいないのかな?)
すぐに鬼と出会うと思ったが、この辺りは鬼がいないのだろうか。一度深く捜査してみようと、
ゆき専用に特注で作られた日輪刀。刀の形をしておらず、
「フュォォォォォォォ」
――
流れるようなゆったりとした動作で振り上げたと思いきや、刀を思いっ切り振り下ろした。それによって一〇〇本ある弦が四方八方へ伸びる。木、石、地面、
それから微動だにせず、まるで死人か人形のように動かない。自身の
(多分コレ、この反応はきっと鬼。その鬼の数は、把握出来ただけで二六……違う、範囲外からも来た。三三、いえ三四。大体同じ方向へ向かっている? 半数以上が東へ向かっている……あれは)
そこで更に深く情報を見ていく。
(鬼とは違う……私と同じ人間……恐らく最終選別の参加者……範囲内で私除いて一六人。他は分からない。こちらも半数が東に向かっている……人間が東へ移動していて、鬼がそれを追い掛けている?)
そしてこちらに近付いてきている気配も、正確に感じ取っていた。
「あ! あんたは!」
「? 最終選別の参加者よね?」
相手はゆきのことを覚えていた。確かに人目を惹く見目の美しさに、他と違った空気をまとう女性。だが、ゆきの方はすぐに当主代理の話を聞きに行ってしまった為、他の参加者のことはサッパリ覚えていなかった。
「鬼に、追われている!」
「うん、知ってる」
焦っている様子の青年に対して、どこまでも冷静に答えるゆきに違和感を覚えるも、今は一刻も早く逃げなければと、彼女を説得しようとした時にそれらは現れた。
「人間! 若い女もいる!」
「肉だ! 久々の肉だ!」
「人肉-!」
鬼が三体。
「こ、殺される!」
青年を押し
初めての鬼。しかも数だけで言えば多勢に無勢。恐怖するだけの材料はある。しかしゆきの心は揺れなかった。
―― 奏の呼吸
刀を思いっ切り横へ、薙ぎ払うように斬る。普通の刀であれば、例え前方広範囲を攻撃出来る技だとしても、その線は一本となる。しかし、ゆきの日輪刀はその線が一〇〇本もある。それが、目にも留まらぬ速度で振るわれた。
「な、い、一瞬で……?」
その驚愕の声は誰のものか。
鬼達は、漏れなく
「あ、た、助かった。あんた、強いんだな? それに、変わった日輪刀だな?」
「うん」
会話終了。気まずい雰囲気が漂うが、それを感じているのは青年だけで、刀を納めたゆきは早くも次のことを考えていた。
(この人も東へ向かおうとしていた……朝日が昇る方角だから? 他の人達もそっちへ移動していたようだし、私も行った方が良いのかな?)
「ねぇ」
「うぇ? あ、お、おう」
「東に向かっていた?」
「あ、あぁ、そうだ」
「分かった。私も行く」
「じゃ、じゃあ、一緒に行こう!」
「うん」
そうして偶然出会った参加者と一緒に、東へ向かうことになったのだが、この移動一つ取っても自力の差がハッキリと出ていた。
「何で、そんなに、速いの」
「? んー、鍛えているから?」
「俺だって、鍛えて、いるのに……」
全力で走り息を切らす彼とは対照的に、ゆきは、まるでジョギングをするかのような感覚で、しかも一切呼吸を乱すことなく走っている。創里との鬼ごっこを思えば、この程度のただの移動は、何ら驚くようなこともない。
下駄という不安定な履物のはずなのに、まるで平坦で舗装された道を走るかのようにスイスイと移動し、また地面との設置時の音も、無駄な力が掛かるから反発して音が鳴るということで、接触する瞬間に速度を殺して優しく地面を撫でるのみ。
その一連の動作を、ゆきは意識することなく自然と行うことが出来る。普段、カランコロンと音を鳴らすのは、ただそれが面白いというだけで、いざとなればこのように静かな動きをすることも出来る。むしろこれこそが透き通る世界に必要なことの一部、正しい動作を正しい順序で余分な力を加えず、あくまで自然体で。
言葉で説明しようにも上手く言えないし、言った所で理解出来るものではない。どうすれば歩けるかを聞かれて、右足と左足を交互に出す以外にどう答えれば良いのかというような程の、彼女にとっては当たり前に身に付いた動作である。
「いた」
前方に固まっている集団を発見する。そして、同じように複数の鬼と戦闘に入っているようだ。
走りながら刀を構えて、鬼の背後から急襲する。
―― 奏の呼吸
地面を走らせるかのように、低空から上空へ向けて切り上げる。振るったのは一回。しかし斬撃は複数発生し、まるで見えない連続斬りを行ったかのような攻撃であった。
しかし鬼は死んでいない。当たり前だが、頸を斬らねば何度斬った所で復活する。一部、毒等の例外はあるとしても、頸以外を斬っても再生するのは鬼殺隊の隊員、そしてそれを目指す人にとっては常識である。
つまり、縦に何分割もされた鬼は痛みに苦しみながらも復活しようとし、背後から襲ってきた者を亡き者にしようと考える。そしてそれはただの妄想で終わった。
そんな復活する時間を与えてやる程、ゆきは甘くも優しくもない。
ひとまず鬼の攻撃の軌道を襲い掛かろうとした相手から逸らす為にやっただけのことで、最初から生かすなんてことはあり得なかった。
「た、助かった……のか?」
「良かったぁ……」
「ありがとう」
「助かったよ」
命の危機を脱したことで、
そこにいたのは、索敵した時に見つけた一四人。一人はゆきの後ろにいる青年。一人足りない。それに、他に三人程いたはず。そのことを尋ねようと、参加者ではなく最早生存者という
「他の人は?」
「ん? これで全員だが?」
「そう」
(もう一度、
「他にいないか捜してみる」
「今から捜しに行くのか? もうすぐ夜明けだからそれからでも良いだろ?」
「闇雲になってしまう。大まかに現在地を絞り込んだ方が良い」
「だけどどうやって……」
「任せて」
そう言って、また刀を上段で構える。
―― 奏の呼吸 二曲 雅楽・朗詠
そして、力強く振り下ろす。その勢いで再び弦が広がって蜘蛛の巣を張ったかのようになる。
「なっ!」
「一体何を……」
その様子を見ていた人達から、驚きの声が上がる。だがそれは彼女にとっては雑音。余分な音を切り離し、弦の捉える音にのみ集中する。後ろの人々の声等で振動が起こるが、
(一人は……近くにいる。怪我をしているのか、隠れて息を
「見つけた」
「……え?」
その言葉の意味を、正しく捉えることが出来た人はいない。だが、そんなこと知るかと言うかのように、納刀して歩き出すゆき。そこへしばし呆然としていた人達がハッと気が付いて引き留めに掛かる。これだけの戦力、自分達がこの七日間を生き残るには絶対に手放してはならない。
もし彼女の言う通り生存者の位置が分かったとしても、それとこれとは別なのだ。鬼は憎いし、殺したい。だが、それ以上に怖くなってしまった。覚悟をしていたつもりが、甘かった。中には恐怖よりも自身に実力がないからと思う者もいたが、いずれにしてもこの場での多数の意見としては、例え日が昇ろうともゆきを自由に行動させてはならない、であった。そんな思いで団結した彼等だったが、当人は知らないこと。知っていたとしても、生きている人がいるなら同じ人間として助けるべきだという思いから、行動へ移す。
カラン
そんな音がしたと思ったら、その場にゆきの姿はなかった。誰もが目を剥いた。あれは夢、幻だったのかと言い始める人までいた。まだ妖怪や幽霊の存在が、広く信じられている時代。そのような憶測も、彼等の中では真実となって刻まれてしまう。
本人を置いてけぼりにして、勝手に期待して、勝手に落胆し、勝手に恐怖されては、堪ったものではないが、幸いゆきはそこの所に関しては、もとい自身の家族以外に関しては鈍感なので、割と気にしていなかった。
移動開始して間もなく、先程の怪我をして孤立している参加者を発見する。人一人がやっと入れる程度の小さな洞穴に身を潜めていた。周囲は
「大丈夫?」
「だ、誰だ……って、お前……」
「? 大丈夫? 怪我してる」
何故会う人会う人、皆して自分を見て驚くのだろうかと内心首を
「あぁ、脚をやっちまった。
生きたいが、自分の力ではどうにも出来ない。だから諦める。だけど生きることを諦めたくない。そもそも死にたくない。
そんな様子を、鼓動、体温、息遣い、筋肉の動き等から導き出す。
「大丈夫。ここからそう離れていない所に、生存者が集まっている場所がある。そこに移動しよう」
「だが、足手まといになる」
「任せて、露払いはする」
左脚を負傷した青年を背負い、スイスイと移動する。
自身よりも小柄で
ともあれ、特に何か問題があったということもなく、
「お前!」
「ほら、見つけた。左の脚を怪我しているから、治療が必要。後、綺麗な水も」
「お前はどうするんだ?」
「私は、残る三人を見つける。一緒に行動しているらしいから、問題ない」
そう言ってすぐに移動を開始しようとした所を呼び止められる。
「おい、待て」
「何? 急いでいるんだけど」
「どうして分かる? 妖術か?」
「何ソレ?」
完全に
「違うのか?」
「ただの呼吸だよ」
「そう……なのか」
「質問は後……まぁ答えるかは知らないけど、とりあえず行ってくる」
「あ、あぁ」
それからは誰も止める人はおらず、ゆきは自由に動き回って
江戸コソコソ話
当たり前体操♪
奏の呼吸の多く(ほぼ全部)が、原作に登場する呼吸を参考にしています。
考えたのは勿論、原作知識のある創里です。
・奏の呼吸 一曲 雅楽・催馬楽
参考『炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり』
・奏の呼吸 二曲 雅楽・朗詠
参考『獣の呼吸 漆ノ型 空間識覚』
張り詰めた弦を嘴平伊之助の触覚に見立てて行う索敵方法です。一部鳴女の索敵能力も混ざっている気がします。
参考漫画『アラクニド』の蜘蛛の糸。
・奏の呼吸 四曲 秘曲・揚真操
参考『風の呼吸 肆ノ型 昇上砂塵嵐』