鬼滅の刃~蒸の呼吸~【完結】   作:木入香

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 しばらくゆきちゃんメインで進む予定です(今更)。
 創里が現状ほぼ敵なしなので、鬼狩りシーンを書いても「戦った勝った」と一行にも満たないレベルの瞬殺をしてしまい、非常に尺に困ります。
 そこでゆきちゃんをメインにすることで、既にとんでもない強さを持つ彼女ですが、一応成長が書けたら良いなと思っています。
 まぁそれでも、そんなに尺使わないでしょうけども……まだ明かしていない奏の呼吸もありますし、それを出して行きたいなと考えている程度です。


第弐拾陸話 藤襲山にて弦は舞う

「誰一人として欠けることなく、見事に生還したことを嬉しく思います。当主様もお喜びになると思います」

 

 最終選別を(くぐ)り抜け、最初の集合場所へ戻ってきた一同。それを出迎えてくれたのは、産屋敷家(うぶやしきけ)当主の産屋敷守通(うぶやしきもりみち)嫡子(ちゃくし)輝正(てるまさ)であった。

 

「では、まずは皆様にはこちらを……」

 

 そう言った所で、バサバサと羽音響かせ、合格者一人一人の(もと)へ一羽の(からす)が飛んできた。皆それぞれ腕や肩に止まっているが、何故かゆきだけ頭に乗っている。そのことに首を(かし)げるも、誰も何も言わないのでゆきも気にしないことにした。

 

「彼等は鎹鴉(かすがいがらす)という、伝令用の鴉です。鬼の位置情報や本部からの通達、または他の隊士との連絡に用いることが出来ます」

 

 まだ見た目、一〇歳前後だろうとしか思えない見た目の男児だが、ハキハキと話されており、またその声は幼さがまだ残るものの父の血を濃く受け継いでいるのか、聞く者を落ち着かせ自然と(とりこ)にさせてしまうような魅力があった。

 

「鬼が出没したらその都度(つど)、彼等を通して連絡が入ります」

 

 その後は、階級を手の甲に刻む作業があったが、人数が人数なのでそれなりに時間が掛かった。そしていよいよ最後の試練が現れた。

 

「こちらに、皆様が持つ日輪刀(にちりんとう)の素材となる玉鋼(たまはがね)をご用意しました。お好きなものを選んでお取り下さい」

 

 呼ばれて横一列に並んだ合格者達。

 そんな彼等から、戸惑(とまど)いの空気を感じた。

 

(つくりは、残り物を全部もらったって言ってたけど、今回は余りがほとんどなさそうかな? あ、そういえば)

 

「輝正様、聞いても良い?」

「何でしょう?」

「私、既に専用の日輪刀があるからこれで良いのだけど、私も選ばないと駄目?」

「そんなことはありませんよ。ゆきさん、貴女(あなた)の特殊な日輪刀のことは父、いえ当主様から(うかが)っております。でしたらご自由にどうぞ」

「分かった。じゃあ、帰る」

「はい、お気を付けて。創里(つくり)さんにもよろしくとお伝え下さい」

「分かった」

 

 そして誰よりも早く下山を開始したゆき、行きは道が分からなかった為に道案内が必要だったが、帰りは来た道を戻るだけなので案内がなくとも問題なく歩くことが出来た。

 その道中、新たな相棒と交流を深めるべく、ずっと頭の上に乗っている鎹鴉へ話し掛ける。

 

「私ゆき、あなたの名前は?」

芍雀(しゃくじゃく)ダ! 芍雀ダ! カー、ヨロシク! ユキ、ヨロシク!」

「うん、よろしく」

 

 師匠であり蒸柱(じょうばしら)の創里の鎹鴉は、とにかく無口だったので、皆そうなのだと思ったら、芍雀はよく喋るらしい。

 

「芍雀は、何か好きな食べ物あるの?」

「タケノコゴハン! タケノコゴハン!」

「た、タケノコ……ご飯?」

 

 まさかの返答に、ずっと平常心を続けてきたゆきの心が若干揺れた。

 

「そ、そう……贅沢(ぜいたく)ね」

「カー! アレハ美味(ウマ)イ! アレハ美味イ!」

「私も久しく食べてないんだけど……」

 

 別に創里の屋敷で出される料理が質素ということはない。むしろ時代を考えれば十分豪華(ごうか)ではあるが、それでも白米を食べられる機会はそう頻繁(ひんぱん)にある訳ではなく、月に何回か程度である。収穫期に、食べられる頻度(ひんど)が多少増える程度である。

 これは、創里本人が贅沢に慣れてしまうと駄目になってしまうという思いから、あえて質を下げている意図(いと)がある。彼の母が飢饉(ききん)の影響で倒れそのまま亡くなってしまったことで、贅沢のし過ぎを避けるようになっていることは、使用人含め、ゆきも知らないことであった。

 それはともかくとして、話が好きと思われる芍雀に対してゆきは様々な質問をし、それに相棒は答えていく。そうして賑やかになった帰り道は、行きよりも時間が過ぎるのがすごく早く感じ、気付けば創里の屋敷のある山の(ふもと)まで来ていた。

 

「久し振り……」

 

 たった七日離れていただけなのに、何故かすごく日にちが経ったかのような感覚になる。これまで山を出ることはあっても大体が日帰りで、夜を(また)ぐことはなかった。それが試験で家主(創里)が認可していたとはいえ、七日も帰らなかった。何だかそれだけで自分が悪いことをしているような感覚がし、子供心に今更ワクワクしている自分がいた。

 

(あ、私はもう子供じゃない。それに心を乱しては駄目っていつもつくり言ってた)

 

 すぐに自身を(たしな)め、軽く呼吸を整える。すると、普段の何事にも無関心そうな、落ち着き払ったクールビューティな女性へと戻っていた。

 透き通る世界の状態を維持する為に自身の感情を制御し、常に細波(さざなみ)のような平常心を心掛ける。創里程にまで極めれば、平常心のままで相手を(あお)り倒すくらいの領域に達することが出来るのだが、彼女としては別にそこを目指している訳でもなく、問題なく維持出来ていれば良いと考えている。

 

(そもそもよく分からないし)

 

 創里(師匠)の教えを柔軟に取り入れ、そのほとんどを自分のものにすることが出来ている彼女でも、その部分に関しては理解が出来ず、特に身に付けようとは思っていなかった。

 屋敷までの山を登る中でも、久々に嗅ぐ匂いに懐かしさを感じる。毎日過ごす中で、当たり前にある山の匂い。

 (はや)る気持ちを抑え、ゆったりとした動作で、しかしカランコロンと軽快な音を鳴らしながら実家へと進む。

 

「無事に帰ってきたみたいだな」

 

 もう少しで屋敷の門だという所で声を掛けられた。それはとても大好きな人の声で、多少乱暴な言葉遣いの中でも暖かさと優しさが(にじ)み出る不器用な声。ふわりと鼻を(かす)めたそれも、ずっと側で嗅いできた落ち着く匂い。

 

「楽しそうな音が聞こえたから、つい屋敷を飛び出して来ちまった」

「ただいま」

「おう、お帰り」

「ちゃんと、合格したよ?」

「分かってるよ」

「この子、芍雀」

「ほん? ゆきの鎹鴉か。コイツの面倒、ちゃんと見てやれよ?」

「カー、任セロ! 任セロ!」

「俺の権三郎(ごんざぶろう)よりも話すんだな。いや、アイツが無口過ぎるだけか。まぁ何にせよ。無事に帰ってきてくれて嬉しいぞ」

「私も……」

 

 寂しかった。そう言葉を出そうとするのを(こら)える。せっかく念願の鬼殺隊(きさつたい)の隊士となったのに、いつまでも甘えん坊では駄目だと自分を叱咤(しった)する。

 

「まぁ、ちゃんと帰ってくると信じていたからな。屋敷の皆で祝いの準備をしている。さぁ、行くぞ」

「うん」

 

 屋敷に入ると、太郎(たろう)(うめ)を始めとした住人達から祝いの言葉を贈られた。そのことに、ちゃんと帰ってこられたことを実感し薄らと涙を浮かべるも、長い前髪に隠れていたことで、多くの人は気付くことはなかった。

 元々は寂しがり屋で泣き虫な甘えん坊のゆきだが、創里の力になりたいと決意し覚悟を示してからは、泣くことはあっても泣き言を言うことはなく、トコトン心を平静に保ち、冷えた頭を(もっ)て感情を表に出さないようにしていた。

 だが、この人にだけはバレてしまう。

 グシ……

 不器用で多少乱暴ながらも、ゆきの頭を撫でる手。その手の先には彼女の大好きな人。創里にだけは全て見通されているかのようで恥ずかしくなるが、それと同時にどうせ見通すなら、自身の好意の強さにも気付いてくれて良いのにと不満を(いだ)くのであった。

 一応、創里はゆきの好意について全く気付いていないということはなかった。だが、それはあくまで父親へ向けるような親愛であって、異性へ向ける好きという感情に思い至ることがない。それだけで鈍感と言ってしまうのは酷というべきか、あるいは仕方ないというべきか。

 いずれにせよ、彼は彼女の本当の気持ちを理解していない。彼が彼女へ向ける気持ちが師匠と継子(つぐこ)であり、父と子であり、家族である以上は、そこから先へと進むことが出来ないでいた。

 そのことにやきもきしながらも、それでも今の状態も心地良いと感じているゆきは、無理にその心の距離を縮めようとは思っていない。ただ、いずれは振り向かせてみせると密かに意気込んでいるのであった。

 

「そうか。全員生還か」

 

 話は当然、試験の内容に及ぶ。そして、自身がどのように最終選別を突破したのかの話をすると、創里が感心したように(うなず)く。

 

「ということは、気付いたのか」

「?」

「ん? 違うのか?」

 

 彼が何のことを言っているのか分からず、ご飯を食べる箸を咥えたまま首を(かし)げる。

 

「気付かずにやって全員を導いたのか」

「? うん」

「まぁ良いや。俺からは特に何も言わん」

 

 個の力、もしくは集団の力、またはその両方を駆使して生き残ることが求められる最終選別。とはいえ、偶々(たまたま)運良く鬼に見つからずに過ごした場合や、または逃げ続け隠れ続けて突破することも出来る為、一概には言えないが、まともな手段で試験を合格しようと思えば、必要なものは上記の通りである。

 それを自身で気付いて行動して欲しいと思って、あえて明確なアドバイスをせずに送り出したのだが、本人は結局裏の意味に気付くことなく、しかし両方の力を用いて参加者全員の試験突破を後押ししたのであった。

 

「初めての鬼はどうだったんだな?」

 

 太郎の質問に、ゆきは少し考えて答える。

 

「悪者?」

「まぁそうだが……」

人食い(・・・)鬼は悪者」

「怖くはなかったのか?」

「ん……分からない。あんまりそういうこと、考えないようにしていた」

「ゆきの場合は、心を平静に保つことで感情を抑え込み、怖いだとか恐ろしいだとか思わないようにしていただろうしな。最終選別へ行く前にも助言したが、心を保つことが一番重要で、簡単なようでいて難しい。これを途切れさせずに乗り越えることが出来たのなら、これからも隊士として問題なくやっていけるさ」

 

 創里の助け船もあり、太郎は納得した様子で「心か……」と呟いていた。

 次に問い掛けてきたのは梅であった。

 

「ねぇねぇ、おゆきちゃんの他に強い人いた?」

「強い人……? ん……うーん……?」

「いなかったの?」

「私より強い人はいなかった」

「そうなんだ」

 

 こちらはすぐに引き下がった。

 梅の中での強さの物差しは、創里とゆきしかおらず、一般の隊士の実力を知らない。自分と兄の太郎は、まだ簡単な修行を始めたばかりだから比べ物にならないことは理解しているが、時折一緒に修行する仲であるゆきはどの程度強いのか気になる所であった。

 創里は、鬼殺隊の中でも最高の階級、称号である柱であるということから、とてつもなく強いということは分かる。そしてゆきは、それよりも劣る。それは確かだ。だが、そのとても強い人物から直接の指導を受けて弱い訳がない。そう思うも、他を知らないので結局、ゆきがどの程度強いのか分からないままであった。

 屋敷に仕える数名の(かくし)であれば、多くの隊士と仕事を共にしてきた経験から、ゆきの強さが並の隊士所ではないことは知ってはいるが、そのことを言うことはなかった。

 結局お祝いの会は日が沈むまで続いた。そして、創里の(もと)に権三郎が飛んできて任務を言い渡し、屋敷を出ることになったことでお開きとなった。

 

「ゆき、今日はしっかりと休んでおけ。本来なら、最終選別を合格してから最初の任務が言い渡されるまで、ある程度の空白の期間が出来るんだが、これは個人の日輪刀が仕上がるのを待つ必要があるからだ。だが、お前は既に特注の日輪刀を持っている。このことから、早ければ明日の夜でも初めての任務が言い渡されるかもしれない」

「うん」

「まぁ最初だから、出来れば俺も同行出来るように掛け合ってみるが……」

「分かった」

 

 ゆきの実力の高さならば、小隊を組むより個人で動かすだろうかと、かつての自身のことを考えつつも、それならば尚更同行したいと思っていた。そのことで、使用人達から内心「親馬鹿」と思われていたことは、当然彼は知らない。

 

「それじゃあ行ってくる」

「行ってらっしゃい」

 

 創里は迅速に出発の準備を整え、軽く挨拶をして屋敷を出て行った。

 それを見送ったゆきは、ギュッと拳を握った。

 自分は正式に隊士となった。鬼と戦える力があると認められた。だったら……

 

(だったら、私の、私達の家族は、絶対に守ってみせる。つくりの帰る場所を、私が帰る場所を、皆が一緒に過ごすこの場所を、絶対に守る)

 

 そう決意し、閉じられた目蓋(まぶた)の裏の瞳の奥では、決意と覚悟、信念とやる気の炎がメラメラと燃えていたのであった。




 江戸コソコソ話

 鴉なのに雀の字なのは別に深い意味はありません。ただ芍薬(しゃくやく)をもじった名前にしようとして出来ただけです。
 本文では特に明確な描写が出来ていなかったと思いますが、ゆきちゃんは一応軽いホームシックという感じになっています。上手く書けたら良かったのですが、まぁ無理でした。
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