鬼滅の刃~蒸の呼吸~【完結】   作:木入香

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 ゆきちゃんの初任務。
 そして、いつもいつも誤字脱字報告本当に感謝です。前にも言い訳しましたが、あぁいった事情で満足に添削出来ていない状態で投稿していますので、申し訳ないです。


第弐拾漆話 ゆきの初めての任務

 ゆきが最終選別を突破してから五日後。相棒の鎹鴉(かすがいがらす)芍雀(しゃくじゃく)から、初めての任務が言い渡される。

 

「西ヘ向カエ! 西ヘ向カエ!」

 

 昼前に告げられた指示に従って、ゆきは行動を起こす。

 本来なら方角だけを言われても、盲目であるゆきはどちらへ行けば良いか分からないはずである。しかし、彼女は特に問題なく西へと足を向ける。

 屋敷での遊びの中で石割り(・・・)をした時も、太郎(たろう)(うめ)を差し置いて圧勝であった。

 これは創里(つくり)が考案した遊びである。元々は西瓜(スイカ)割りの西瓜を石で代用したものだ。西瓜の日本への伝来は戦国時代より以前にあったとされているが、一般的に栽培はされておらず、薩摩(さつま)(現在の鹿児島県)や肥前(ひぜん)(現在の長崎県)等の一部の大名御用達(ごようたし)の農地にて細々と作られており、またその大きさや甘さも、未来の日本で流通している一般的なものよりも小さく甘みも少ないとされている。

 創里が産屋敷家(うぶやしきけ)での茶会に呼ばれた際に、お茶請けとして出され、食した感想がそれだった。他の柱は物珍しい果物に感嘆した様子だったが、この果実の未来を知っている創里からすれば、物足りないと思ってしまった。

 それはともかく、西瓜の代わりに石を用いたのには他にも理由がある。そもそも食べ物で遊ばない。これが原則である。食が飽和(ほうわ)状態である未来の日本では問題なく行うことが出来るのだろうが、まだこの時代、食うに食えない者達が当たり前に存在する時に、そのようなことは出来ないし、食べ物を粗末にするようなことを教えるつもりもなかった。

 そして、もう一つの理由としては、石である以上生半可な力では割ることは出来ない。しかし、屋敷の子供達三人共、練度に違いはあるものの呼吸を会得(えとく)しており、サッカーボール程度の大きさの石ならば問題なく割ることが出来る。

 後は西瓜割りのルールと同じだ。目隠しをしてグルグルと回し、石のある場所まで行って割る。ただ、周囲からの声掛けはない。事前に場所を把握しているので、後は自身の記憶と三半規管(さんはんきかん)が頼りなだけである。しかし、ゆきは最初から目が見えておらず、何十回転してもぶれなく一本の線のように真っ直ぐ歩いてそのまま割ってしまうので、全戦全勝である。

 方角、方向の特定とはまた違うが、そういった位置を間違えないという点で、ゆきは問題なく指定された場所へ移動することが出来ていた。最終選別でもそうだが、彼女の行動は普通に目が見えている人以上に動いている為、産屋敷家の関係者以外、あの試験を共に突破した者達は、彼女が盲目であることを知らないでいる。

 そんなゆきにも弱点はある。当たり前だが、目が見えない以上文字の読み書きは出来ない。

 一応、目以外の残された四つの感覚が鋭いゆきは、紙に書かれた(すみ)を指でなぞることで、非常に微妙な凹凸(おうとつ)(なめ)らかさ等を探り、文字を解読することが出来る。ただし非常に時間が掛かる上に、文字の綺麗さや書き間違い等でその精度はガラリと変わり、更に一文字一文字の意味、読み方等を把握している訳ではないので、特に難しい漢字とかだと幾何学的(きかがくてき)な模様か記号にしか感じられない。

 

「ココダ! ココダ!」

 

 案内された場所は、何かの建物の前らしい。

 

「ここは?」

「ココデ休憩! ココデ休憩! 鬼殺隊ノ協力者!」

「藤の家紋の家?」

「ソウダ! ソウダ!」

 

 藤の家紋の家は、創里からも聞かされている。鬼殺隊に助けられた先祖を持つ一般人が、宿や療養所として無償で助けてくれる家。

 早速中へ入り、家主の案内で部屋まで通される。家の中は家主の老婆と自分だけで、他に人はいないようだ。

 鬼が出没したと情報があった場所に最も近いのがこの家。ここで夜まで待機し、日が沈んだら行動開始である。鬼殺隊である以上、本来なら隊を組んで行動すると聞いていたのだが、どうやら単独での行動らしい。ちなみに、創里の同行は認められなかった。というよりも、ゆきに出動命令が下るよりも先に、緊急の伝令が届き、急ぎ出発しなければならない用事によって屋敷を()っていたからだ。よって、彼はゆきが今日初任務であることを知らない。

 

「とりあえず休もう」

 

 特に疲労はないが、かといって夜まですることはない。情報収集で街へ出ることも考えたが、今から街へ出ても中途半端な時間帯であり、また自身で(さぐ)った方が早いと判断し、留まることに決めた。

 それから数刻、日の入りを感じ取ったゆきは日輪刀(にちりんとう)を片手に立ち上がった。

 この藤の家紋の家は街の外れにあり、しばらく歩くと街に到着する。鬼の発見現場は、この街から少し離れた街道とのこと。人通りの一切がなくなった通りを、下駄を鳴らすことなく静かに、そして素早く移動する。

 

「ココダ! ココデ、鬼ガ発見サレタ!」

 

 そう言われて周囲を見渡すような動作をするも、特に変わった感じはしない。

 

「ここ?」

 

 相変わらず空を飛ばず頭の上に乗ったままの芍雀に聞くが、返答は変わらない。

 

「分かった」

 

 周辺に人の気配はない。動物も感じられない。変な匂いもない。痕跡(こんせき)らしいものもない。仮に血鬼術(けっきじゅつ)で何か罠を張っていたとしても、昼間の日差しで()かれて無効化されているだろうから、日没直後のこの時間ならまだ罠を仕掛けることは出来ていないはず。

 

「フュォォォォォォォ」

 

 ―― (かなで)の呼吸 二曲(にきょく) 雅楽(ががく)朗詠(ろうえい)

 

 藤襲山(ふじかさねやま)で使用した索敵用の剣技。使用している間は身動きが取れないという弱点があるが、ゆき自身の感覚だけでは(とら)えきれない非常に微妙な振動を、広範囲にわたって探ることが出来る。

 周囲に木はない為、一〇〇本の(げん)全てを地面に打ち込んで変化を拾っていく。

 

「?」

 

 気になる反応が数点あるが、距離があるからか詳細は不明。そこで今度は、自ら弦を(はじ)いて音を鳴らした。

 その音は、周囲の闇に溶け込み、消え……一つ()奇妙な振動が返ってきた。曖昧(あいまい)な部分が何か引っ掛かるが、向かわない訳にはいかない。

 

「見つけた」

 

 日輪刀を(さや)へ戻し、反応のあった場所、街へと走り出した。行動を開始したと同時に芍雀はゆきから離れ、上空へ飛び立った。

 彼女の素早い行動が功を奏したのか、まだ被害は確認されていない。どうやら獲物を物色しているようで、こちらには気付いていない様子。

 

(感じた違和感と違うけど、鬼は鬼。倒さなきゃ)

 

 とはいえ、距離が離れているので今すぐ手が出せないので、更に加速して距離を詰める。すると相手も接近に気付いたのか足を止め、ゆきへ視線を向け醜悪(しゅうあく)な笑みを浮かべたような気配がした。

 

女子(おなご)だ。若い女子だ。柔らかくて美味(おい)しそうだ」

「鬼を発見。討伐(とうばつ)する」

 

 そう言っていつでも刀を抜けるように構える。

 それと同時に心の臓は早鐘を打ち、体温が上昇する。

 左(ほお)にジクリとより熱を帯びるのを感じる。(あざ)が浮き上がっているのだ。しかし、顔のほとんどを前髪で隠しているゆきのその変化に鬼は気付くことはない。

 

「ちっ、鬼狩りかよ。だが、食っちまえば同じこと!」

 

 戦闘態勢に入った鬼は、全身に力を込めた。

 その瞬間、ゆきは咄嗟(とっさ)に技を繰り出した。

 

 ―― (しん)

 ―― 奏の呼吸 一曲(いっきょく) 雅楽・催馬楽(さいばら)

 

 前方から飛んできた無数の針を、グッと踏み込んで横へ一閃。全てを迎撃する。針の一本一本は筆並に太く、そして先端は非常に鋭い。しかも高速で複数本を同時に発射してきた。普通の人間なら、反応すら出来ずに全身を刺されて死んでしまうだろう。鬼殺隊の隊士だとしても、接近を(こば)むような遠距離攻撃は相性が悪い。

 しかし、それを漏れなく無効化したことで、相手の動きが一瞬止まった。

 

「何っ! 俺の針が! だが!」

 

 ―― 針

 

 一瞬の隙を突いて攻めようと足を前に出すも、その前に立て直されて先程よりも多い数の針が飛ばされる。

 血鬼術なのか、全身から針を生み出して、そのまま射出してくる能力のようだ。身体自体は縦にも横にも大きく、日中はどこに潜んでいたのかと思うくらいに大きいが、今はそれを考える時ではない。

 

 ―― 奏の呼吸 一曲 雅楽・催馬楽

 

 もう一度、針を消し飛ばす。

 距離が詰まったことで、発射されてから到達するまでの時間が非常に短い。その上に本数も増えているから、迎撃するだけで精一杯だった。

 距離は二丈(約6m)。間合いが広いゆきの日輪刀でも七尺(約2m)である為、微妙に届かない。それに、奏の呼吸は炎の呼吸の派生で、足を止めての攻撃が多い。一度足を止める必要がある以上、どうしても有効範囲まで近付くことが出来ないでいた。

 だが、ゆきに焦りはなかった。平静を保ち、常に隙間を見つけることに尽力する。むしろ、心を乱しているのは相手の方。自身の血鬼術に絶対の自信を持っていたようだが、その(ことごと)くを無効化されているのだから当然か。

 

「ま、まだまだ!」

 

 ―― 針

 

 更に本数を増やし攻撃してくるが、そこに隙間を見つけた。飛ばす針を増やせば増やす程、相手は体力を使い、集中力も乱れる。失った体力は一瞬で戻るとはいえ、その一瞬を見逃す程ゆきは甘くない。

 

「何!」

 

 今度は迎撃じゃなく(かわ)された。そのことに鬼は驚愕する。

 ほとんど(・・・・)隙間のない面攻撃。あれを()(くぐ)ることが出来るはずがない。しかし、現にゆきはやってのけた。本数は増えて、逃げ場などないように見えるが、針の数を増やすことに集中していたことで狙いが荒く、よって人一人が(すべ)り込めるような隙間を作ってしまった。

 普通であれば針の迎撃をしている間に体力を回復されてしまうのだが、そんな時間を与えるはずがない。

 (わず)二丈(約6m)の距離を一瞬で詰めた。そして……

 

 ―― 奏の呼吸 三曲(さんきょく) 雅楽・今様(いまよう)

 

 一〇〇本の弦を、螺旋状(らせんじょう)に回転させながら突き攻撃を放つ。その突きは相手の上半身の右半分を大きく(えぐ)り、貫通。右腕を吹き飛ばす。

 創里が考案した剣技。というより、ドリルである。

 高い突破力があるが、一方で動きが直線的になり、かつ面での攻撃が主体の奏の呼吸で、ほぼ唯一点での攻撃になるというものだ。これで()を飛ばせば倒せただろうが、ゆきの身長が微妙に足りず、また二丈(約6m)という短距離でも鬼の反応速度は(あなど)れず、咄嗟に身を(ひね)られたことで微妙に狙いがズレてしまった。

 仕留められなかったことを、微塵も気にする素振りなく、すぐに刀を引いたゆきは軽く手首を振って、回転によってまとまりそうになっていた弦をばらけさせて次の攻撃の動作へ移る。

 対する相手の負ったダメージは強烈で、これだけ大きい傷、大穴を()けられてしまったことで回復に時間が掛かる。

 

「ガァァアアアアアアアッ!」

 

 激痛によるものか、それとも精神的なものか。いずれにせよ、鬼である以上元からない理性が完全に吹き飛び、まるで獣そのもののように残った左腕で我武者羅(がむしゃら)に襲い掛かってくる。

 距離にして六尺(約1.8m)。瞬きする間もなく詰められる距離。しかし、これならばゆきの刀が届く。

 

 ―― 奏の呼吸 一曲 雅楽・催馬楽

 

 その攻撃は今度こそ鬼の頸を捉えた。

 左から右へ振り切り、鬼の()が飛ぶ。

 鬼は苦痛に顔を(ゆが)めながら、恨み言を叫び、そして灰が崩れるように消えていった。それと同時に残された身体も倒れ、同じように消滅した。例え鬼の頸を斬ったとしても、最後まで油断するなと言われていたので、完全に姿が消えたのを確認してから刀を納めた。

 

(勝った。けど、何か変。確かに鬼はいた。元々報告に上がっていた鬼は多分アレだと思う)

 

 初任務を無事に終えたにも関わらず、ゆきの気分は晴れない。元々任務を行うのにあたり、透き通る世界を持続すべく感情の揺らぎを起こさないように意識している為、彼女の表情に変化はないが、どうにも帯締めの位置が違うかのような、何かスッキリしない感覚が彼女を襲う。

 果たしてその感覚は正しかった。

 

「……柱を二人(・・)始末したが……あれに比べてお前は見所がありそうだ……」

 

(索敵に引っ掛からなかった)

 

 動揺しそうになる心を押さえ込んで呼吸を整え、いつでも抜刀出来る体勢になる。

 ゆきから少し離れた位置に現れたのは鬼。しかも、先程戦った鬼よりも遙かに強そうな感じがする。しかし、殺気というか敵意のようなものはあまりハッキリと感じられず、(かすみ)が掛かったように朧気(おぼろげ)で、曖昧なものであった。

 ゆきの前に姿を現したのは、右手に刀を持ち、紫と黒色の着物を着た、六つ目の鬼。

 

「お前……鬼になる気はないか?」

 

 絶望が今、彼女を襲う。




 江戸コソコソ話

 西瓜についての話ですが、これは諸説あるので、まぁそれっぽいものを適当にでっち上げただけで正しいものではありません。
 そして、親子参観出来ず創里ドンマイ。
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