鬼滅の刃~蒸の呼吸~【完結】   作:木入香

29 / 35
 投稿一時間前にギリギリ書き上げました。間に合いました……
 そういえば、ゆきちゃんの日輪刀の色の話、出していなかったですね。確か。
 極細なので分かりづらいですが……


第弐拾玖話 雪は舞い散る

 ゆきと黒死牟(こくしぼう)の戦いが始まって一刻(約2時間)が過ぎた。

 未だにゆきは健在で、黒死牟の猛攻を(しの)ぎつつ、ほんの少しの(すき)を狙って反撃に移っている。

 戦いながら場所を移動し、今は街から大きく離れた場所。ゆきが街へ被害を出さないよう誘導しつつ撤退。黒死牟も誘われていることを理解していたが、かといって見逃す訳にもいかなかった。

 自身には及ばないものの、こうしてもう何十合と刀を重ねてくる程の手練(てだ)れ。ここで彼女を(のが)してしまえば、今後に支障を(きた)すと判断した。また、目撃者を消すという目的もある。こちらの動きを観察し、的確に対応している。その情報を持ち帰られてしまえば、厄介なこと極まりないからだ。だが、あまり時間を掛けられないのも事実。よってすぐに終わらせるつもりであったようだが、ここまで膠着(こうちゃく)することは想定外のようである。

 最早引くことなど頭になく、何としてでも自身がお仕えする(あるじ)へ及ぶであろう害を駆除することに専念していた。

 

(まだ、何とか生きてる)

 

 ―― (かなで)の呼吸 四曲(よんきょく) 秘曲(ひきょく)揚真操(ようしんそう)

 

 地面スレスレの位置から上空へ向けて一気に切り上げる。数十本(・・・)もの細い桃色に染まった(げん)から繰り出される鋭い斬撃と、それに追随する形で鬼を切り(きざ)まんとする風の刃(鎌鼬)が飛ぶ。

 

 ―― 月の呼吸 捌ノ型(はちのかた) 月龍輪尾(げつりゅうりんび)

 

 対する黒死牟の鋭い横一閃と、それに(ともな)って発生する血鬼術(けっきじゅつ)の月輪の刃が飛ぶ。

 両者の攻撃は激しくぶつかり、そして相殺(そうさい)される。これの繰り返しである。

 

「……またか」

 

 黒死牟は、ゆきの持つ日輪刀(にちりんとう)を無力化しようと、相手の弦を斬ることで対処した。だがそれをすぐに理解した彼女は、弦の動きを制御(コントロール)して接触時に鬼の攻撃の威力が軽減するようにしたことで弦が斬られることを防いだ。それによって一時は優勢になったものの、流石は百戦錬磨(ひゃくせんれんま)上弦(じょうげん)(いち)。今度はそのズラされた打点に合わせて刀の角度を変えることで、対応してみせた。

 しかし、ゆきもただやられるだけではない。再び打点ズラしを再構成し、かつ今度は逆に相手の刀を(くだ)くように打ち付けた。

 現在、黒死牟の持つ刀は五本目。ゆきとの戦いが始まって、既に四本も消費したことになる。

 対するゆきの日輪刀も無傷とはいかず、元々一〇〇本あった弦も、残すは後八一本と二割近く減らされていた。根元からなくなった訳ではないので、完全に使えないという訳ではないが、長さは半分以下となり、また重心が七尺(約2m)の先端にあることから、仮に振るった所で重さも速さも鋭さもないこの状態では、ただの針金に過ぎない。

 互いに細かい傷は作るものの、鬼の黒死牟はすぐに回復してしまう為に意味がなく、対してゆきも切り傷や(かす)り傷はあるものの戦闘に影響はない。師匠であり家族である創里(つくり)からもらった大切な着物にも無数の傷が付けられ、血が(にじ)んで雪景色が赤く染まっていた。

 

(着物のことは後。呼吸をやり直す)

 

 今は戦って生き残ることを優先すべく目の前の敵に集中する。

 

「フュォォォォォォォ」

 

 何度目かの息継ぎ。透き通る世界を維持し続ける為に、定期的に正しい呼吸をやり直さなければならないのは、まだ修行不足であるのか、それともここまで追い詰める鬼のせいなのか。どちらにせよ。完璧とは言い(がた)いが、その状態のゆきの動きは目を見張るものがあり、同じように透き通る世界に身を置く黒死牟をしても、賛辞を贈る程である。

 

 ―― 奏の呼吸 一曲(いっきょく) 雅楽(ががく)催馬楽(さいばら)

 ―― 月の呼吸 弐ノ型(にのかた) 珠華ノ弄月(しゅかのろうげつ)

 

 両者の技が再び激突する。

 ピン

 また弦が弾ける音がした。残り七八本。

 これだけ長い時間死闘を続けていたことで、互いに互いの呼吸、動き、技のパターンを把握しつつあり、その息の合った攻防は見る人が見れば、とても美しい円舞に見えたであろう。しかし、並の人間では彼女達の動きを見る所か知覚することも叶わない。それ程にまで高度な戦いが繰り広げられていた。

 だが、ゆきは先日鬼殺隊に入隊したばかりの新米で、本日がその初任務。階級も当然、一番下の(みずのと)である。黒死牟が彼女の存在を知らなかったのも当たり前である。

 まさか自身とこうして交錯し合っている相手が、癸の隊士とは思いもせず、またゆきもわざわざ自分から言うこともない。だがしかし一方で、ゆきの方もこの鬼の前に戦った鬼の力量との差から、相手が十二鬼月(じゅうにきづき)と呼ばれる存在であろうことは薄々と勘付いているものの、黒死牟と名乗った鬼がどの位置にいるのか分からず戦っていた。他の十二鬼月との戦闘、もしくは何十体もの鬼と戦闘を行っていたらそれらが物差しとなって気付くことが出来たかも知れないが、結局は、もし、たら、れば、である。

 言葉(文字)にすれば、今ここで起こっていることは鬼の中で最強の上弦の壱と鬼殺隊最下位の癸が戦っているというもの。しかし、こうして刀を交えた以上互いの立場は関係なく、ただただ(おのれ)が存在する為に、または明日を生きる為に戦う。こうして互いの認識が微妙にズレたまま戦闘は激しさを増していく。

 

「……しぶとい」

 

 ここで黒死牟は、これまで使ってきた技とは違った構えを取った。

 それを感じ取ったゆきは、相手へ向かって加速した。

 

(上!)

 

 ―― 月の呼吸 玖ノ型(くのかた) (くだ)(づき)連面(れんめん)

 ―― 奏の呼吸 三曲(さんきょく) 雅楽・今様(いまよう)

 

 黒死牟の放った斬撃が、月輪と共に雨の(ごと)く降り注ぐ。

 そんな刃の豪雨の中を全速力で走り抜け、先程は失敗に終わった奏の呼吸の中でほぼ唯一の面ではなく点で攻撃する破壊力、突破力抜群のドリル攻撃が放たれた。

 しかし、またも攻撃は当たらなかった。すんでの所であったが、相手が避けたからだ。だが、止められたのではなく躱されたのであれば問題ない。そのまま走り抜け、鬼の横を通り抜ける。

 その間も、弦は回転を続け、どんどんと螺旋状(らせんじょう)に巻かれていく。そしてある形になった所で足を止めて振り返る。同じようにゆったりとした動作でゆきと対面する黒死牟。

 

「ほう……」

 

 彼女の手にあるものを見て、感心するような声を発する。

 ゆきの手には先程までの一本一本が独立した弦ではなく、それら全てがまとまった七尺三寸(約2.2m)の先端が鋭く(とが)った棒が出来上がっていた。

 

 ―― 奏の呼吸 弦槍曲(げんそうきょく) 猿楽(さるがく)錦木(にしきぎ)

 

 その棒を右手で刀の(つか)、左手でまとまった刀身を握り、半身の姿勢で槍のように構え、突撃する。

 

「むっ」

 

 その速さに、咄嗟に防御をすることしか出来なかった。

 先程まではここまでの速さではなかった。では、ゆきは手を抜いていたかというと、そうでもない。ゆきの日輪刀は一〇〇本の弦の集合体。それを一本一本の動きに気を配る必要があった為に、全力であっても全力でなかった。

 本来、炎の呼吸の派生の呼吸である以上、その技も足を止めて繰り出すものが多い。それ故に速さはどこか二の次にしていた部分もあった。速さがなくとも、面で全方位を攻撃出来る彼女の技はほとんど死角などなく、現にそれによって鬼の中でも最強格である黒死牟と互角の戦いに持ち込めているのである。

 勿論(もちろん)、普段の状態でも速いことは速い。それは黒死牟自身がこれまでの戦いの中で身を以て知ったから、今更言うことでもない。

 それが一本の棒になったことで弦の状態を意識する必要がなくなり、その分を速さに()くことが可能となった。

 

 ―― 雨月(うげつ)

 ―― 蝉丸(せみまる)

 ―― 通小町(かよいこまち)

 ―― 蟻通(ありどおし)

 ―― (ともえ)

 ―― 花月(かげつ)

 ―― 高砂(たかざご)

 

 怒濤(どとう)の連続攻撃を繰り出す。突き、払い、殴打(おうだ)。多種多様、変幻自在に次から次へ流れるような動作で、相手に反撃の隙を与えないように攻め続ける。

 バキン

 五本目の刀が砕ける音がした。それと同時に、ゆきの刀身を握る左手の平に、熱と痛みが走る。

 

「それは……」

 

 黒死牟が目にしたのは、桃色の刀身が赤く染まって熱を発する、赫刀(かくとう)であった。赫刀自体は知っている。以前までなら日の呼吸の使い手のみが使えるという認識であったが、それは数年前に改めさせられた。自身が主と(あお)鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)が日の呼吸以外の呼吸の使い手によって深手を負ったからだ。以来、どうすればその境地に辿り着けるのか、模索の日々を送っている。

 現在、赫刀が使える隊士は二人のみ。その内一人がゆきである。発動条件としては、火事場の馬鹿力のような握力か、刀同士をぶつけ合うことによる摩擦熱(まさつねつ)が必要になるのだが、小柄な彼女の細腕ではそこまでの握力は望めない。にも関わらずゆきは赫刀を行った。それは、ギチッという何かが締め付けられる音が答えである。弦同士が強く絡まる音。そして、そこに強い衝撃を与えたことで弦同士が(こす)れて熱が発生したのだ。

 

(くっ!)

 

 刀身を握る手が焼けるように熱いが、我慢する。そして槍先を相手へ向けて、再び突きを放った。

 それを黒死牟は、突き刺さる瞬間に刀を振って軌道をズラす。

 確かに、今の状態のゆきの動きは、上弦の壱であっても所々捉えきれない程のものを見せている。しかし槍は、点か線かの攻撃しか出来ず、先程までの弦による面で制圧するような攻撃は出来ない。そうなってしまえば、対処は簡単である。速くて威力が高くとも、一本しかないのであれば、それに対応してしまえば良いだけのこと。

 そして、それは防御でも同じ。広範囲を守るような手段が執れない以上、絶対に防ぐことが出来ない攻撃が出てくる。

 

 ―― 月の呼吸 陸ノ型(ろくのかた) 常世孤月(とこよこげつ)無間(むけん)

 

 一振り。そのたった一振りで無数の斬撃を生み出し、それが月輪と共に縦横無尽に動いてゆきを全方位から攻め立てる。

 

(まだまだぁ!)

 

 ―― 奏の呼吸 弦槍曲 猿楽・西行桜(さいぎょうざくら)

 

 しかしゆきも諦めない。すぐさま槍の状態を解除、桜が満開になるように弦を一気に拡散させる。

 

 ―― 奏の呼吸 五曲(ごきょく) 秘曲・流泉(りゅうせん)

 

 一曲、催馬楽のような前面の攻防を兼ねた攻撃ではなく、自身を中心とした全方位に向けた防御用の技。相手の斬撃の一切を通さない、真っ赤な半球(ドーム)

 赫刀状態によって、相手の血鬼術の(ことごと)くを切り裂いて無効化していく。どうにか防御が間に合ったことで、ゆき自身は傷が増えることはなかったが、日輪刀の方は悲鳴を上げていた。

 熱を帯びたことで所々(もろ)くなった部分が出、それが斬撃とぶつかったことで切れてしまったのだ。

 残り四六本。遂に半分未満となった。

 それでもゆきの闘志は消える所か尚も心の中で燃え盛り、閉じられた瞳の奥で光る強き意志は(かげ)りを見せない。

 

 ―― 奏の呼吸 終曲(しゅうきょく) 秘曲・啄木(たくぼく)

 

 強い踏み込みから一気に爆発する。

 

「何っ?」

 

 それは、先程の弦槍曲で見せた加速であった。と同時に五曲で行ったような激しい斬撃を繰り出す。

 それは(まさ)に嵐。斬撃から生み出される鎌鼬(かまいたち)は赫刀によって熱を帯び、熱風となる。地面は裂け、(えぐ)れ、吹き飛ばす。全方位を無差別に攻撃するように黒死牟へと襲い掛かる。

 

「……惜しかったな……」

 

 だが、無情にもそれは彼には届かなかった。

 

 ―― 月の呼吸 拾ノ型(じゅうのかた) 穿面斬(せんめんざん)蘿月(らげつ)

 

 縦回転する丸鋸(まるのこ)のような斬撃。それが横一列にいくつも並べられ、月輪と共に津波の如く押し寄せてくる。

 技と技のぶつかり合い。それはこれまで何度も繰り返し行われてきたこと。だが、今回は相殺されず、ほとんど一方的にゆきの攻撃が打ち消されてしまった。

 弦の本数が減れば、その分斬れる数も減ることは道理。終曲は、相手をその技(ごと)飲み込むことを想定した攻撃。しかし本来の本数の半分にも満たない数では、どうしたって手が足りなくなるのだ。にも関わらず、ゆきはこの土壇場(どたんば)になってようやくこの技を出した。その理由として、一〇〇本のままでは終曲を出せないからである。

 幻想曲の時の速さと、複数本の弦を操ることの両立は非常に難しく、ゆきでもどう頑張っても五〇本が限界なのである。そうなると、残りの半分は遊ぶことになり、言うことを聞かない弦が暴れ、最悪自身を傷付けることになる。よって、出したくても出せない状態だったのだ。これがもし万全の状態であれば、ゆきの刀は黒死牟を仕留めることが出来ていたかもしれない。だが、これもあくまで、もし、たら、れば、なのである。

 

「ぐっ!」

 

 否、ほんの三本であるが届いていた。

 黒死牟の右肩を裂き、左下の目を潰し、左脇腹に浅くも傷を付けた。それらが全て赫刀状態で斬られたことで、鬼の生命力を以てしても回復が遅々として進まない。

 

「見事だった……」

 

 ゆったりと刀を構える黒死牟に対し、全身全霊の攻撃を放ったことで力尽き、地面に倒れ込んでしまったゆき。その右手には未だに日輪刀が握られているが、最早握力はないに等しく、そしてその刀身の代わりにあるべき弦は、上弦の壱に届いた僅か三本しか残されていなかった。

 絶体絶命。

 連れ去られるにしろ、ここで殺されるにしろ、ゆきのゆきとしての命はここで尽きる。

 

 そのはずであった。

 

 ―― ()の呼吸 壱式(いちのしき) 雲蒸竜変(うんじょうりょうへん)

 

 先程の終曲とは比べ物にならない程の速さと熱量が、二人の間に飛び込んでくる。

 

「何者……っ!」

 

 目の前に現れた人物に問い掛けようとしたその時、自身の右手にあったはずの刀が消滅していることに気付く。そして再び目の前に立つ男に目を向ける。

 その者は、橙色と水色の左右非対称の色と模様が描かれた着物を身にまとい、髪は白と黒のボサボサ頭。そして何より、その男の手にあるのは人一人を隠せるのではないかと思える程の巨大な日輪刀(バスターソード)。愛刀を片手でヒョイと肩に担ぐと、刀身に刻まれた悪鬼滅殺(あっきめっさつ)の文字が目に入る。

 

「よぉ、糞鬼(くそおに)。ようやく見つけたぜ。ウチの家族が、俺の継子(つぐこ)が、随分と世話になったなぁ」

 

 敵意や殺気はない。にも関わらず、黒死牟にはとてつもない重圧がのし掛かっているかのような錯覚に(おちい)る。

 鬼よりも鬼らしい。否、鬼以上に残虐(ざんぎゃく)な笑みを浮かべたその柱の男、創里(つくり)は続けて口を開く。

 

「落とし前、キッチリ付けさせてもらうぞ」

 

 絶望が今、始まる。




 江戸コソコソ話

 主人公!


・奏の呼吸 三曲 雅楽・今様
 弦を螺旋状に回転させながら突きを放つことで、ドリルのように相手を抉る。
 束ねられた弦は、槍として用いることも出来る。→ 弦槍曲

・奏の呼吸 五曲 秘曲・流泉
 参考『恋の呼吸 陸ノ型 猫足恋風』

・奏の呼吸 終曲 秘曲・啄木
 参考『恋の呼吸 壱の型 初恋のわななき』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。