鬼滅の刃~蒸の呼吸~【完結】   作:木入香

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 「ゆきちゃんがピンチの時に、主人公何やってたんだよ!」
 という方へ向けた繋ぎ回。
 そして……
 「そんなものどうだって良いんだよ! 早く戦闘を見せろ!」
 という方へ向けた焦らし回となっております。

 ご都合主義タグは全力で呼吸しております。大丈夫です。タグ詐欺ではありません。
 残酷な描写タグも元気でいます。ご安心下さい。


第参拾話 現場検証

 時はゆきの初任務の日。創里(つくり)がまだ屋敷にいて書類業務を行っていた頃まで(さかのぼ)る。

 ゆきはまだ任務の連絡がなく、屋敷内で太郎(たろう)(うめ)と一緒に(くつろ)いでいた。

 そんな午前中に緊急の案件が飛び込んできた。

 創里の書斎に現れたのは、産屋敷家(うぶやしきけ)鎹鴉(かすがいがらす)である。足に(くく)り付けられた二枚の(ふみ)(手紙)を外し、まず一枚目に目を通す。

 

「っ!」

 

(昨夜……柱が二人……岩柱(いわばしら)三助(さんすけ)さんと雫柱(しずくばしら)のたえさんが死んだのか!)

 

 思わず声を上げそうになったのをグッと(こら)える。そして周囲を見渡し、他の屋敷の住人には気付かれていないことを確認する。

 

(岩柱が最初に接敵し、そこに雫柱が救援に入ったが、二人共返り討ちに遭った。柱二人が近い距離にいたということは、何らかの強い鬼の情報があったのか?)

 

 そこに、もう一枚の文に目をやる。それは文ではなく書類。

 

十二鬼月(じゅうにきづき)が潜んでいる可能性があるが詳細不明。要調査……か。ただ、被害のあり方が下弦(かげん)っぽいな。だが、下弦相手に柱が二人もやられる訳がない。となると、上弦(じょうげん)しかいないな)

 

 そしてもう一度、一枚目を読み進める。

 

(俺と、もう一人柱を加えての現場検証と言った所か。仕方ねぇ。ここ数年はてんで足取りが掴めていねぇんだ。例え(わず)かな痕跡(こんせき)だったとしても、絶対に捕まえてやる)

 

 そうして、急いで出撃の準備を整えて屋敷を出たのであった。その後ゆきに初任務が舞い込み、そして黒死牟(こくしぼう)と遭遇することなど、今の時点の彼には知る(よし)もなかった。

 道中合流したのは、かつての創里の師匠である炎柱(えんばしら)遠藤虎恭(えんどうとらやす)であった。彼の(もと)から独り立ちしてから早数年。虎恭も歳を取り、四〇代になっていたが、相変わらずの貫禄で(おとろ)えを見せていない様子である。

 

「師匠、今日はお願いします」

「うむ、それはこちらの台詞だ。最早、いや、もうとっくの昔に私はお前に抜かれている」

鬼殺隊(きさつたい)として必要なことは、貴方から教わりました」

 

 移動中、久々の再会ということもあって会話が(はず)む。

 同じ鬼殺隊に所属し、かつての師弟であったとしても、任務等によって互いの生活はバラバラ。また、二人共継子(つぐこ)を取っていることから、手の()いている時にはそちらの指導をしなければならず、こうして会うのは半年に一度の柱合会議(ちゅうごうかいぎ)以外では、全くと言って機会はなかった。

 話は世間話から任務のことへ切り替わる。

 

「柱が二人とのことですが、やはり……」

「うむ、十中八九、十二鬼月だろうな。しかし、そのことに関しては私よりもお前の方が詳しいはずだ。そちらの知見はどうだ?」

「俺は、上弦の鬼だと思います」

「ふむ、なるほど」

「戦闘での痕跡を見てみないことには何とも言えませんが、柱が二人掛かりで仕留められない所か瞬殺となりますと、相当なものです」

「うむ、だが、その上弦を単独で二体も仕留め、かつ鬼舞辻(きぶつじ)を撤退にまで追い込んだお前が言うと何か、説得力に欠けるな」

「それは俺が強すぎるからということで」

「ふむ、言うようになったな」

 

 急いで現場に駆け付ける必要がある為、移動は極力走って行われる。だが、二人共呼吸のスペシャリストである柱。長距離を走りながらでも呼吸を乱すことなく普通に会話を続けることが出来ている。

 数刻後、現場に辿り着いた時には(すで)に、全身黒ずくめの(しのび)のような格好をした事後処理部隊、(かくし)が活動していた。

 

(真っ昼間に顔まで隠すくらいの黒一色は、目立つよな……)

 

 そう感想を(いだ)きつつも、二つの死体に掛けられた(むしろ)()がして検分する。

 

「酷いな……」

「うむ……」

 

 (まさ)凄惨(せいさん)と呼ぶに相応(ふさわ)しい状態であった。

 がたいの良い岩柱の両脚はなくなっており、腹が大きく裂けて内蔵が飛び出ている。日輪刀(にちりんとう)も砕かれ、全身に大小様々な傷があるが、致命傷となったのは腹の傷だろうと思われる。

 一方で雫柱の方は、刀を持つ右腕がなくなっている。まだ見つかっていない模様。そして(くび)が斬られて胴体と分かたれている。こちらは他に傷が多少あるものの、岩柱程はない。

 

(恐らく、岩柱は多少持ち堪えたが、雫柱はすぐにやられてしまったということだろうな)

 

 手を合わせて冥福を祈りつつ、次のことを考える。

 

(鋭利な刃物で斬られたような傷。地面にも多くの裂け目が出来ていることから斬撃系。上弦で斬撃と言ったら……アイツ(黒死牟)しかいねぇよな)

 

 仮説というよりも、ほぼほぼ決め付けによって犯人を絞り込む。

 

(アイツは移動したはずだ。柱を仕留めて足が付くのを恐れて、少しでも距離を作りたいはず。だがどこに行った……? 南……すぐ海にぶつかるからない。東……こちらは鳴柱(なりばしら)釋縁連(しゃくえんれん)さんがいるから、情報が入るはず。今回の現場に近いものの、逃げ場を封じる為に待機を命じられているらしいからな)

 

 普段から持ち歩いている簡易地図に脳内の日本の地図を照らし合わせて、大まかな動きを予想していく。

 

(となるど、残りは北か西か……北は保留だな。一応、下級隊士だが三個小隊が動いているが、全滅したとの報告は受けていない。西はどうだろう)

 

 そこで、自分達が来た道を思い返す。鬼だから馬鹿素直に街道を移動するとは思わないが、何も痕跡はなかっただろうか? こういう捜し物に関しては、自分よりもゆきの方が得意だと思っている。

 

(あぁ、ゆきを連れて来れば良かったかな)

 

 そう思うも、今から帰ってここまで引っ張ってくる気にはならない。

 

(移動出来る距離を考えると、西が硬いよな……東海道(とうかいどう)中山道(なかせんどう)北陸道(ほくりくどう)か。街道だけでも選択肢がこれだけあるってのに、それから鬼殺隊の網を潜って通り抜けることなんて……いや、この道はどうだ?)

 

 目を付けたのは、戦国時代に織田家(おだけ)武田家(たけだけ)が、西の京の都へ移動(進軍)することを目的として整備したとされる東山道(とうさんどう)。中山道よりもやや北部を並行するように伸びている道。

 行商の道として多少残ってはいるが、やはり宿場(しゅくば)等の整備が整っている中山道や東海道が主流。加納藩(かのうはん)(現在の岐阜市)の中を通過したかは定かではないが、その周囲に網を張っている鬼殺隊の情報網に引っ掛かっていないとなると、可能性はある。

 勿論(もちろん)、藩の中にも隊士は(ひそ)んでいるが、あまり大々的に動くと藩主(はんしゅ)奉行(ぶぎょう)に知られることになって面倒だから周囲を固めていることが多い。

 幕府非公認組織であり、表の人間にはほとんど知られていない鬼殺隊という組織。鬼を狩るという目的があるが、表の人間からすれば藩所属でない者が帯刀をして、集団で彷徨(うろつ)いているとなると最悪一揆(いっき)謀反(むほん)を疑われてしまうのは仕方ないことだと思う。

 つまり、藩の中を移動するだけならば、ある意味で鬼殺隊の目から隠れることが可能となる。

 

(これが確証バイアスって奴かな。だが、何も考えず立ち止まっているよりはマシだろう。このまま放っておいたら、どちらにせよ再び隠れられてしまう。そうなると、余計に探し出すのは難しい。せっかく見えた尻尾だ。例え外れだとしても、何かを掴みたい)

 

 まずは、どこへ逃げたかよりも、どのような戦闘があったかの検証を独自に行う。

 周囲は建物もない開けた土地。少し離れた所に木々が生い茂る場所があるが、森や林という程でもない。主要な街道からは大きく外れているが、誰かがここを利用するのだろう、馬一頭が通れる程度の道が地形に沿って蛇行しながら伸びているのが分かる。

 

(獣道ではないな。となると人の手が入った道。馬は無理でも(かご)とかなら何とか擦れ違えそうな道幅。道を外れても草原が広がっているだけで農地として利用されている様子はないな。一応区画整備みたいなものをした跡はあるが、多分飢饉(ききん)かそれ以前の(いくさ)放棄(ほうき)された土地だろうか)

 

「おい、あそこが戦った場所か?」

「え、あ、は、はい。恐らくは」

「ありがとう」

 

 近くにいた隠に確認を取り、その場所へ移動する。周囲が赤黒く染まり、地面にも染みが出来ている。草木や石、岩にも大量に付着していることから、血が激しく飛び散ってそれが乾いたものだろうと予想する。晴れているから乾燥も進み、酸化して黒くなっているが、日数が経ったものではなさそうだ。

 

(昨夜の戦闘の現場ね……)

 

 顔を上げて周囲を見渡すと、遠くで数頭の野犬がこちらの様子を(うかが)うように視線を向けていた。

 

(血の匂いに寄ってきたか……いや、一頭だけ口周りに血が……)

 

 素早く気配を消してその犬に接近。確保する。突然目の前に現れた創里に対し、警戒したり飛び掛かろうとしたりするも、すぐさま周囲を威圧することで萎縮(いしゅく)させ、撤退させる。

 自身の手で首を押さえられて大人しくなった野犬を観察する。まだ口から血が(したた)り落ちていることから、何かを口にしてから時間が経っていないことになる。そして、犬が移動したであろうルートを探す。すると、非常に分かりづらいが、点々と地面に血が落ちているのを発見した。

 それを辿っていくと、先程ちらりと目にした木々が生えている場所まで繋がっていることが分かる。

 

「これは……」

 

 そこには、行方不明になっていた雫柱の腕が、確保した野犬に食い散らかされた状態で放置されていた。残った死肉に、鎹鴉でない普通の(からす)や虫等が群がって(むさぼ)っている。

 

(むご)いな……)

 

 自身よりも少しだけ年上、二〇代前半から中頃という若い女性の肉体がこのような結末になるとはと、悲しみを覚えるも今は感傷に(ひた)っている場合ではない。彼等の無念を晴らし、今後の被害を減らす為にも、何としてでも見つけてやると意気込む。

 腕らしき残骸がある場所の近くには、血塗れの刀の(つか)も一緒に転がっていた。

 

(刀身がないな……それに、あの場所からここまで斬り飛ばされたにしては、距離があり過ぎる。となると、この犬が他の目を盗んで隠し場所としてここを選んだ。じゃあ、元々は別の所にあったということ)

 

 だが、死体そのものには戦いによる傷はあったものの、野生の獣に食われた痕跡はなかったことから、腕だけどこかに飛ばされていたことだけは事実のようだ。近くに大きな肉があれば、そちらに食い付くはずだからだ。

 それからは地道な捜査が続く。死体が隠によって運ばれ、現場の事後処理も着々と進んでここが戦場であった痕跡が消されていく。そして一人また一人と隠が退却する中で、捜索を続ける創里と、それを見守りつつも自身も見逃されたものがないかを捜す虎恭。

 そうして日は次第に傾いていく。

 すると、創里がようやく証拠を発見した。

 

「これだ……」

 

 雫柱の日輪刀の刀身の部分。現場から大きく離れた場所で、日中も日差しが入らないような草木が生い茂る場所にて捨て置かれていた。そこには血が付着し、半日以上が経過していることから他と同じように乾いている。だが、数滴分だけ、乾くことなく揺らめいている血液があった。

 

「これは……鬼の血か?」

 

 もしそうだとしたら、雫柱の刀は少なくとも一回は黒死牟に届いたことになる。その血が溜まっていた場所は、柱のみが許可されている悪鬼滅殺(あっきめっさつ)の文字が(きざ)まれた部分。日に晒されなかったことで血が残っていた。

 周囲が闇に(つつ)まれ始める中でも、それだけが怪しい輝きを放っている。

 

(ここに鬼の血があるということは、深々と根元まで突き刺すことに成功しているということ。だが、直後に刀身を両断され、腕も切断。そしてそのまま頸を斬ったということか)

 

 刀身が刺さったままでは回復出来ないから抜いて捨てた。わざわざ見つかりにくい場所に捨てる意味はない。むしろ日に晒された方が痕跡が消えるのだから、日当たりの良い場所に放置すれば良い。

 

(ということは……西か)

 

 予想が当たったようで、創里は虎恭に一言言って走り出す。

 まだ追い付けると。

 それからしばらく、彼の下に一報が入る。今向かっている方向にて、ゆきが上弦の壱と戦闘に入っているというものだった。

 

 ―― 全集中 ()の呼吸 一速(いっそく)

 ―― 二速(にそく)

 ―― 三速(さんそく)

 

 どんどんとギアを上げていき、加速する。

 そして一刻(約2時間)程走り通した時に、見えた。ゆきが技を破られて地面に倒れる所を……

 

 ―― 蒸の呼吸 壱式(いちのしき) 雲蒸竜変(うんじょうりょうへん)

 

 鬼を斬ることよりもゆきを守ることを優先し、振り下ろされそうになっている刀を吹き飛ばす。そして彼女を守るように立ち、下手人(げしゅにん)の姿を目に入れる。

 

「よぉ、糞鬼(くそおに)

 

 創里と黒死牟、最強の鬼殺隊士と最強の鬼の戦いが今、始まる。




 江戸コソコソ話

 江戸時代の現場検証のやり方等は知りません。完全に妄想です。資料として『名奉行 遠山の金さん』を参考にしております。松方弘樹さんの声、渋くて格好良いです。
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