鬼滅の刃~蒸の呼吸~【完結】   作:木入香

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 いよいよ始まりました創里vs黒死牟です。
 現時点で原作よりも二五〇年以上昔ということで、黒死牟は拾壱ノ型以降はまだ使えないという独自設定です。


第参拾壱話 黒死牟死す。デュエルスタンバイ!

 交錯する剣戟(けんげき)。打ち鳴らされる金属音。

 戦闘開始して間もなく。しかし、既に状況は(かたよ)り始めている。

 

「随分と(ねば)るじゃねぇかよ。流石、上弦(じょうげん)(いち)様はしぶといな」

 

 片や、巨大な日輪刀(バスターソード)を片手で難なく振り回している創里(つくり)

 

「……強い……その娘の師匠というのも嘘ではないな」

 

 片や、戦いが始まって早々に追い込まれている黒死牟(こくしぼう)

 

 ―― 月の呼吸 漆ノ型(しちのかた) 厄鏡(やっきょう)月映(つきば)

 

 地面を這う幾本もの斬撃。そしてその隙間を埋めるように迫る大量の月輪が飛んでくる。

 

 ―― 炎の呼吸 肆ノ型(しのかた) 盛炎(せいえん)のうねり

 

 しかし、それはたった一回の技で薙ぎ払われてしまう。

 状況では確かに黒死牟が押されている。だが、創里の技が決定打にならない理由は、彼の後ろには意識を失ったゆきが倒れているからだ。駆け付けた時にはまだどうにか意識を保っていたが、創里の気配を感じて安心したからか、緊張の糸が途切れて呼吸が乱れた途端に激痛と疲労、そして死ぬかもしれない、大切な人に二度と会えなくなるという恐怖が押し寄せてきた。そういったものを全て受け止めるには、彼女はまだ成熟しきっていなかった。

 修行不足と言うには酷である。今回は巡り合わせが悪かった。だが、それでもギリギリの所で間に合った。

 

「つくり……」

「よく持ち堪えた。頑張ったな」

「……ごめん……」

 

 この短いやり取りの後に気絶した。それを背中で感じ取った創里は、届いていないと知っていながら「バーカ、そりゃこっちの台詞だ」と自嘲(じちょう)するかのように笑みを浮かべた。そしてどちらが言うまでもなく戦闘が始まったのであった。

 意識のない人は足枷(あしかせ)になる。

 それを分かっているからか、黒死牟は距離を開けて斬撃を飛ばして戦闘を行っている。これで創里が避けようものなら、ゆきが切り刻まれてしまう。かといって、ゆきを()(かか)えて退避する暇を与えない程度には、上弦の壱は強かった。

 侍としての矜持(きょうじ)。それを持ち合わせているはずの鬼は、無意識の内に自身が生き残ることに必死となり、戦っていた。

 まるで双子の弟(継国縁壱)を相手にしているようだ。否、老いて尚衰え知らずの縁壱(よりいち)だったとはいえ、所々に全盛期程の力はなかったであろう。だが、目の前にいる存在は、瞬間的には全盛期の彼を上回っているように思える。

 

「……化け物だな……」

「はん、そりゃこっちの台詞だよ」

 

 ―― 炎の呼吸 壱ノ型(いちのかた)・改 不知火(しらぬい)電光石火(でんこうせっか)

 

 突如、急な踏み込みからの加速で接近し、斜めに振り下ろす袈裟斬(けさぎ)りを行う。それを黒死牟は、咄嗟(とっさ)に刀で防御することで一瞬の隙を作り離脱する。だが、創里は深追いせず、何かあればすぐにゆきの(もと)まで移動出来る距離に留まる。

 黒死牟の右手にある刀はまたも(・・・)破壊されていた。これで何本目か。打ち合う(たび)に破壊されている為、最早数えなくなってしまった。

 真っ赤に色付いた灼熱を放つ巨大な刀。赫刀(かくとう)……またも日の呼吸ではない者の使い手。

 それを前にして、透き通る世界を維持すべく常に平静を心掛けている彼は、(わず)かに揺らいでいた。

 本当ならこのまま逃げ出したいのが本音であるが、この微妙な距離だからこそ一見互角に戦えていることを理解している。これで逃げ出してしまえば、相手は、ゆきを近くで守る必要がないから全力で戦うことが出来るようになってしまう。

 そう、創里はあえて深追いしなかった。それ以上距離を開けたら、追うぞという意思表示である。

 それが分かっているからこそ、これ以上離れられない。だが、接近すればあの刀の餌食(えじき)になってしまう。

 

「何だ、逃げねぇのか?」

「……逃がしてもらえるのか……?」

「無理だな」

「そうであろうな……」

 

 どちらも敵意も殺気もない、自然体のままで刀を構えている。そして先に動いたのは、創里であった。

 

 ―― 炎の呼吸 参ノ型(さんのかた)・改 野火(のび)怪火(かいか)

 

 知覚困難な速度で振るわれた一閃。それによって生み出された、地面を這う複数本の炎の如き激しい闘気。それが黒死牟へ襲い掛かる。

 

 ―― 月の呼吸 参ノ型(さんのかた) 厭忌月(えんきづき)(つが)

 

 横薙ぎの二連撃を放ち、それを防御する。そして返す刃で次なる攻撃へ移る。

 

 ―― 月の呼吸 陸ノ型(ろくのかた) 常世孤月(とこよこげつ)無間(むけん)

 

 一振りで広範囲を覆う程の、縦横無尽に走る斬撃が飛ぶ。

 ―― ()の呼吸 四速(よんそく)

 

 更に加速した創里の目にも留まらぬ動きによって、その(ことごと)くを無効化させていく。

 

「これにも対応するか……」

「ったく、危ねぇなクソ」

「……あの御方が言っていた通り……口が悪いな……」

「俺ぁどんな風にテメェらんとこに伝わってんだ? それに、口が悪いのは、テメェら鬼がいるからだよボケが」

「……不思議だ……それだけ暴言を吐いているにも関わらず……やはり何も感じない」

「口先だけだからな。無駄な感情はコレには邪魔なんだろ?」

「……そうだな」

 

 呼吸、動作、感情等、あらゆる無駄を(はぶ)いて、()ぎ落として到達出来る境地、透き通る世界。そこに至ることが出来たものは、例外なく強者と言える。そもそも辿り着ける者がほとんど皆無であっただけに、実例も自分達双子(継国兄弟)を除けば目の前にいる二人しか見たことがなかった。

 

「あんまり時間を掛けられねぇからよ。そろそろ終わらせるぜ」

「……気付いていたのか」

「ったりめぇだろアホが。つーか、テメェのせいだろ。コイツ(ゆき)、見た目じゃ分からねぇが、思ったより重症だ」

 

 透き通る世界を通して見たから分かる。体表こそは細かい傷や出血がみられるものの、さほど人体に影響があるように見えない。だが、心臓の鼓動、血流、内臓の動き、筋肉の動き、体内で起こるあらゆる情報を見通すことが出来るこの世界のおかげで、ゆきの左肺に異常があるのが分かった。

 あろうことか彼女は、創里が使用する蒸の呼吸のように瞬間的に心臓をサイズアップして血流を増加、最後の攻撃を行っていたのだ。(さいわ)い、肺の損傷は酷いものではなく呼吸状態も今は安定しているが、いつ状態が悪化するとも限らないので、このまま放置する訳にもいかない。

 

(医学に(うと)い俺では判断出来ないが、血胸(けっきょう)肺挫傷(はいざしょう)のようなものか。俺の時は、(あらかじ)め細胞呼吸という対策をしていたから良かったが、今のコイツは何もしていない)

 

 だから、ここで倒そうが倒せなかろうが、ゆきの救助を優先することに決めた。

 

 ―― 五速(ごそく)

 ―― 蒸の呼吸 壱式(いちのしき) 雲蒸竜変(うんじょうりょうへん)

 

 強い踏み込みからの加速、それと同時に刀を地面へ擦り付ける。赤く熱を発していた刀身が、摩擦によって更に温度を上昇、白熱し始める。その際、周囲には耳を(ふさ)ぎたくなるような不快な金属音が響く。

 一瞬で距離を詰め、独楽(こま)のように回転しながら刀を振るう。

 

  ―― 炎の呼吸 漆ノ型(しちのかた) 星火燎原(せいかりょうげん)

 

 鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)を追い詰め、童磨(どうま)を仕留めた技が、今度は黒死牟を食らい付くそうと襲い掛かる。

 避けられない。

 目で見ての反応すら出来ない。だが、反応した。無理矢理の動きに脚の筋肉が傷付き、痛みが生じることも構わず無理矢理後ろへ跳び、少しでも防御すべく刀を持つ右腕を出した。

 刀(ごと)ぶった切られた。一切の抵抗なく、まるで刀など最初からなかったかのように。だが、寸前に下がったことが彼の命を繋ぎ止めることとなった。

 星火燎原は大技であり、威力、破壊力は抜群だが、技の後に大きな隙が出来る。とはいえ、普通ならそこまで目立つ隙でもない。だが、そこにほんの僅かな空白が出来ることは確かだ。それによって、黒死牟は全神経を逃走することに(そそ)いでその場を離脱した。

 それを見送ることしか出来なかった創里は「フシュゥゥゥゥゥゥ」と口から蒸気を吐き出しながら、悔しさに顔を(ゆが)ませる。

 

「ちっ、腐っても上弦の壱だな。こんだけやってようやく腕一本かよ」

 

 そう呟くも、追うことはしない。まずはゆきの容態の確認をしてから処置をしなければならない。

 彼女をそっと抱き、その場を後にした。

 一方で、命からがら(のが)れた黒死牟だったが、現在、激痛に襲われていた。

 

「ぐっ……」

 

 ゆきに斬られた部分は、遅いながらも回復が始まっているのでそこは良い。問題は創里に斬られた右腕とその周辺(・・)である。右肩から先を失い、また右半身に大火傷(おおやけど)を負ったのだが、全く回復が始まる気配がない。そしてそれは、その命が閉じられるその時まで、永遠に治ることはなかった。

 右半身は酷く焼け(ただ)れ、赫刀状態でなくとも日輪刀で傷を作れば回復が非常に遅くなる状態。これは鬼舞辻の血を新たに得たとしても変わらなかった。そして遠い将来、隻腕(せきわん)の剣士として鬼殺隊(きさつたい)の前に現れることとなる。

 

「ガアアアアァァァァアアアアァァ!」

 

 だが、そんな未来が待ち受けていることなど知る(よし)もない彼は、ただただ今の痛みに耐え、屈辱(くつじょく)(さいな)まれながら闇夜を照らす月に向かって咆哮(ほうこう)した。

 その遠吠えが聞こえた訳ではないが、何かを感じた創里は、ゆきをお姫様抱っこした状態で振り返る。そして、何事もなかったかのように藤の家紋(かもん)の家へ向けて歩き出す。

 拠点へ到着してからは、すぐに支度(したく)を始める。家主を手伝わせ、手術を行うつもりだ。医療の知識など全くと言って良い程ないが、今誰かがやらなければ助からないか、後遺症が残る可能性がある。それに、透き通る世界のおかげで彼女の体内で起こっていることは全て分かっている。よって悪い部分も把握しており、そこさえ何とかすれば助かることは分かっていた。

 

「おい、ゆき、ゆき。起きろ、ゆき」

「つく……り……? 鬼……は?」

「すまない。倒せなかった。今から治療を行う。ものすごく痛いだろうが、我慢しろ」

「う……ん」

 

 呼び掛け続けることで、意識を取り戻したゆきにこれから行うことの手順を伝える。

 

「呼吸を安定させろ。人間には肺という空気を取り込む袋が左右に一つずつある。その左側に傷を負っていて、体内で出血している。その血をまず抜く。その間、右側の肺だけで呼吸しろ」

 

 無茶苦茶な指示である。

 だが、彼女は小さく頷き「分かった」とだけ言って、一旦息を止め、何かを探るようにした後、再び呼吸を始める。その様子を見て「良し」と呟く。この師匠にしてこの弟子である。

 次に取り出したのは、ゆきの大きく破損した日輪刀。その弦を使う。

 

「全集中の呼吸で出血を止めることは出来るが、流出した血を元に戻すことは出来ない。だからその血を抜いてやらないと駄目だ。だから、今から身体に穴を開ける」

「……分かった」

 

 着物を(はだ)けさせ、女性らしい(ふく)らみを持った胸部を露出させる。ゆきは恥ずかしさで(ほお)を染めるが、創里は真剣である。筒状に巻いた布を噛ませて口枷(くちかせ)をし、自身は酒精(アルコール)強めの酒で手を洗って消毒。同じようにこれから切る部分も酒を掛けていく。

 その冷たさに「ん」と声を上げるが、気にしない。

 いよいよ手術開始である。

 まずは弦を強く握って赫刀状態にし、メス代わりとして左の乳房(ちぶさ)の下を切り開いていく。

 

「っ! んんんんんんんん!」

 

 戦闘の時とは違う激痛が走り、身体を()け反らせる。それを藤の家の家主が押さえ付け、創里は手術に集中する。

 麻酔などない。古来なら麻薬の原料となる草を噛ませて、脳を麻痺(まひ)させ、痛みを軽減したのだろうが、今この場にはそんな都合の良いものはない。江戸のような大きな街の医者であれば、それに近い薬品かもしくは薬草を所持しているだろうが、主要都市から大きく離れたこの地では手に入らない。街と呼べるくらいには発展しているが、やはり田舎は田舎である。

 傷口を開くが、出血はほとんどない。熱した弦で血管を焼いて塞いでいると同時に、ゆきも呼吸を使って止血を行っているからだ。そのおかげで余計な出血に邪魔されることなく、目的の場所へ辿り着く。蝋燭(ろうそく)行燈(あんどん)しか光源のないこの時代の夜だが、透き通る世界によって見通すことが出来る彼に取って、そんなもの必要なかった。

 固まり始めている血を取り除き、まだ液状の血は和紙を巻いてストロー状にしたもので吸い取って布に吐き出す。

 綺麗な状態になった体内、そして肺の状態を見て、これなら大丈夫と判断する。失った部分は取り戻せないが、普通に生活する分だけでなく、鬼殺も問題なくこなせるだろう。創里としては引退してもらいたいというのが本音だが、彼女は首を縦に振らないだろう。

 傷口を縫合(ほうごう)する前に、見落としがないか等の最終確認を行う。

 家主から絹糸(きぬいと)をもらって縫い合わせる。手術用の糸がある訳ではないので、細長ければ髪でも麻糸(あさいと)でも、動物性、植物性関係なく効果は大体同じである。ただ、(あざ)が発現しているゆきならば、すぐに傷口は塞がるので問題ない。早ければ明日朝か、遅くとも昼には抜糸(ばっし)が出来るだろう。

 時間にして半刻(約1時間)足らず。通常の手術よりも断然早いが、透き通る世界、呼吸、痣といったチートがあるから出来たことである。これと同じことを今の時代に行おうとすれば、まず切る段階で待ったが入る可能性があるし、仮になかったとしても、ここまでスムーズに進むとは考えられない。

 

「ふぅ」

 

 手術を終えて後片付けをして一息()く。今ゆきは、安心しきった様子で眠りに就いている。

 今は一人、縁側にて夜の庭を眺めていた。

 

「お疲れ様でした。お茶です」

「どうも」

「あのような治療があるとは、驚きです」

 

 家主の老婆から湯飲みに入ったお茶をもらい、(すす)る。

 

「まぁな」

 

 このこの時代の日本の外科手術と言えば、室町が起源の戦傷(せんしょう)を治すものから来ており、つまり体表に目に見えて現れる傷などを治すものであり、身体を切り開いて体内を(いじ)くるようなものではない。これは、もっと後の時代の技術だ。だから、家主の感想に素っ気なく返すことしか出来ない。それを何となく感じ取ったのか、老婆はそっと席を外す。

 

(流石、藤の家の者は配慮が人並み外れているよな……)

 

 そんなことを思いながら、ぼんやりとこれから先のことを考えていた。




 江戸コソコソ話

 アッサリ終わった黒死牟戦です。
 サブタイはもうね。最近真面目なのが続いていたので、久々にネタに走りたかったのです。もう今後機会ないと思いますので。
 色々ご意見あるでしょうが、彼は原作に残してあげたかったのでこうなりました。
 これだけデバフが掛かっていれば、無一郎くんも玄弥くんも死なずに済むかな……済むと良いな……と思っています。
 とりあえず、これで主人公がやるべきことは、大体終わらせました。後は未来に託すとして、その他色々とちょいちょい、まぁあるかなって感じです。はい。
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