現時点で原作よりも二五〇年以上昔ということで、黒死牟は拾壱ノ型以降はまだ使えないという独自設定です。
交錯する
戦闘開始して間もなく。しかし、既に状況は
「随分と
片や、巨大な
「……強い……その娘の師匠というのも嘘ではないな」
片や、戦いが始まって早々に追い込まれている
―― 月の呼吸
地面を這う幾本もの斬撃。そしてその隙間を埋めるように迫る大量の月輪が飛んでくる。
―― 炎の呼吸
しかし、それはたった一回の技で薙ぎ払われてしまう。
状況では確かに黒死牟が押されている。だが、創里の技が決定打にならない理由は、彼の後ろには意識を失ったゆきが倒れているからだ。駆け付けた時にはまだどうにか意識を保っていたが、創里の気配を感じて安心したからか、緊張の糸が途切れて呼吸が乱れた途端に激痛と疲労、そして死ぬかもしれない、大切な人に二度と会えなくなるという恐怖が押し寄せてきた。そういったものを全て受け止めるには、彼女はまだ成熟しきっていなかった。
修行不足と言うには酷である。今回は巡り合わせが悪かった。だが、それでもギリギリの所で間に合った。
「つくり……」
「よく持ち堪えた。頑張ったな」
「……ごめん……」
この短いやり取りの後に気絶した。それを背中で感じ取った創里は、届いていないと知っていながら「バーカ、そりゃこっちの台詞だ」と
意識のない人は
それを分かっているからか、黒死牟は距離を開けて斬撃を飛ばして戦闘を行っている。これで創里が避けようものなら、ゆきが切り刻まれてしまう。かといって、ゆきを
侍としての
まるで
「……化け物だな……」
「はん、そりゃこっちの台詞だよ」
―― 炎の呼吸
突如、急な踏み込みからの加速で接近し、斜めに振り下ろす
黒死牟の右手にある刀は
真っ赤に色付いた灼熱を放つ巨大な刀。
それを前にして、透き通る世界を維持すべく常に平静を心掛けている彼は、
本当ならこのまま逃げ出したいのが本音であるが、この微妙な距離だからこそ一見互角に戦えていることを理解している。これで逃げ出してしまえば、相手は、ゆきを近くで守る必要がないから全力で戦うことが出来るようになってしまう。
そう、創里はあえて深追いしなかった。それ以上距離を開けたら、追うぞという意思表示である。
それが分かっているからこそ、これ以上離れられない。だが、接近すればあの刀の
「何だ、逃げねぇのか?」
「……逃がしてもらえるのか……?」
「無理だな」
「そうであろうな……」
どちらも敵意も殺気もない、自然体のままで刀を構えている。そして先に動いたのは、創里であった。
―― 炎の呼吸
知覚困難な速度で振るわれた一閃。それによって生み出された、地面を這う複数本の炎の如き激しい闘気。それが黒死牟へ襲い掛かる。
―― 月の呼吸
横薙ぎの二連撃を放ち、それを防御する。そして返す刃で次なる攻撃へ移る。
―― 月の呼吸
一振りで広範囲を覆う程の、縦横無尽に走る斬撃が飛ぶ。
――
更に加速した創里の目にも留まらぬ動きによって、その
「これにも対応するか……」
「ったく、危ねぇなクソ」
「……あの御方が言っていた通り……口が悪いな……」
「俺ぁどんな風にテメェらんとこに伝わってんだ? それに、口が悪いのは、テメェら鬼がいるからだよボケが」
「……不思議だ……それだけ暴言を吐いているにも関わらず……やはり何も感じない」
「口先だけだからな。無駄な感情はコレには邪魔なんだろ?」
「……そうだな」
呼吸、動作、感情等、あらゆる無駄を
「あんまり時間を掛けられねぇからよ。そろそろ終わらせるぜ」
「……気付いていたのか」
「ったりめぇだろアホが。つーか、テメェのせいだろ。
透き通る世界を通して見たから分かる。体表こそは細かい傷や出血がみられるものの、さほど人体に影響があるように見えない。だが、心臓の鼓動、血流、内臓の動き、筋肉の動き、体内で起こるあらゆる情報を見通すことが出来るこの世界のおかげで、ゆきの左肺に異常があるのが分かった。
あろうことか彼女は、創里が使用する蒸の呼吸のように瞬間的に心臓をサイズアップして血流を増加、最後の攻撃を行っていたのだ。
(医学に
だから、ここで倒そうが倒せなかろうが、ゆきの救助を優先することに決めた。
――
―― 蒸の呼吸
強い踏み込みからの加速、それと同時に刀を地面へ擦り付ける。赤く熱を発していた刀身が、摩擦によって更に温度を上昇、白熱し始める。その際、周囲には耳を
一瞬で距離を詰め、
―― 炎の呼吸
避けられない。
目で見ての反応すら出来ない。だが、反応した。無理矢理の動きに脚の筋肉が傷付き、痛みが生じることも構わず無理矢理後ろへ跳び、少しでも防御すべく刀を持つ右腕を出した。
刀
星火燎原は大技であり、威力、破壊力は抜群だが、技の後に大きな隙が出来る。とはいえ、普通ならそこまで目立つ隙でもない。だが、そこにほんの僅かな空白が出来ることは確かだ。それによって、黒死牟は全神経を逃走することに
それを見送ることしか出来なかった創里は「フシュゥゥゥゥゥゥ」と口から蒸気を吐き出しながら、悔しさに顔を
「ちっ、腐っても上弦の壱だな。こんだけやってようやく腕一本かよ」
そう呟くも、追うことはしない。まずはゆきの容態の確認をしてから処置をしなければならない。
彼女をそっと抱き、その場を後にした。
一方で、命からがら
「ぐっ……」
ゆきに斬られた部分は、遅いながらも回復が始まっているのでそこは良い。問題は創里に斬られた右腕とその
右半身は酷く焼け
「ガアアアアァァァァアアアアァァ!」
だが、そんな未来が待ち受けていることなど知る
その遠吠えが聞こえた訳ではないが、何かを感じた創里は、ゆきをお姫様抱っこした状態で振り返る。そして、何事もなかったかのように藤の
拠点へ到着してからは、すぐに
「おい、ゆき、ゆき。起きろ、ゆき」
「つく……り……? 鬼……は?」
「すまない。倒せなかった。今から治療を行う。ものすごく痛いだろうが、我慢しろ」
「う……ん」
呼び掛け続けることで、意識を取り戻したゆきにこれから行うことの手順を伝える。
「呼吸を安定させろ。人間には肺という空気を取り込む袋が左右に一つずつある。その左側に傷を負っていて、体内で出血している。その血をまず抜く。その間、右側の肺だけで呼吸しろ」
無茶苦茶な指示である。
だが、彼女は小さく頷き「分かった」とだけ言って、一旦息を止め、何かを探るようにした後、再び呼吸を始める。その様子を見て「良し」と呟く。この師匠にしてこの弟子である。
次に取り出したのは、ゆきの大きく破損した日輪刀。その弦を使う。
「全集中の呼吸で出血を止めることは出来るが、流出した血を元に戻すことは出来ない。だからその血を抜いてやらないと駄目だ。だから、今から身体に穴を開ける」
「……分かった」
着物を
その冷たさに「ん」と声を上げるが、気にしない。
いよいよ手術開始である。
まずは弦を強く握って赫刀状態にし、メス代わりとして左の
「っ! んんんんんんんん!」
戦闘の時とは違う激痛が走り、身体を
麻酔などない。古来なら麻薬の原料となる草を噛ませて、脳を
傷口を開くが、出血はほとんどない。熱した弦で血管を焼いて塞いでいると同時に、ゆきも呼吸を使って止血を行っているからだ。そのおかげで余計な出血に邪魔されることなく、目的の場所へ辿り着く。
固まり始めている血を取り除き、まだ液状の血は和紙を巻いてストロー状にしたもので吸い取って布に吐き出す。
綺麗な状態になった体内、そして肺の状態を見て、これなら大丈夫と判断する。失った部分は取り戻せないが、普通に生活する分だけでなく、鬼殺も問題なくこなせるだろう。創里としては引退してもらいたいというのが本音だが、彼女は首を縦に振らないだろう。
傷口を
家主から
時間にして
「ふぅ」
手術を終えて後片付けをして一息
今は一人、縁側にて夜の庭を眺めていた。
「お疲れ様でした。お茶です」
「どうも」
「あのような治療があるとは、驚きです」
家主の老婆から湯飲みに入ったお茶をもらい、
「まぁな」
このこの時代の日本の外科手術と言えば、室町が起源の
(流石、藤の家の者は配慮が人並み外れているよな……)
そんなことを思いながら、ぼんやりとこれから先のことを考えていた。
江戸コソコソ話
アッサリ終わった黒死牟戦です。
サブタイはもうね。最近真面目なのが続いていたので、久々にネタに走りたかったのです。もう今後機会ないと思いますので。
色々ご意見あるでしょうが、彼は原作に残してあげたかったのでこうなりました。
これだけデバフが掛かっていれば、無一郎くんも玄弥くんも死なずに済むかな……済むと良いな……と思っています。
とりあえず、これで主人公がやるべきことは、大体終わらせました。後は未来に託すとして、その他色々とちょいちょい、まぁあるかなって感じです。はい。