鬼滅の刃~蒸の呼吸~【完結】   作:木入香

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 感想を見て思い付いたエンディングまでの繋ぎ回。
 何か、ゆきちゃんがヤンデレ化しているような気がしますが、きっと気のせいです。あれ? 元々? 知らんな。


※追記
 コメントで様々なご意見がありますが、実際に起こった出来事が全て正確に伝わっているとは限りません。事実を隠蔽されていたとしたら断片的な情報しかないでしょうし。そして、その部分だけ抜き出して攻撃というのは、現代のネット社会でもよくあることですから、あまり不思議ではないのかなと思います。やられる側(創里)は良い迷惑でしょうけどもw


第参拾弐話 創里の罪

 黒死牟(こくしぼう)との戦いから数日。机の上にある書類の束の処理を終えた創里(つくり)は一息を()く。

 

「くぁー……終わった」

 

 相変わらず舞い込む書類の量が多く、また、柱二名が殉職(じゅんしょく)したことでより多くの処理をしなければならなくなっていた。

 

「今日の分はこれで良いとして……また明日来るだろうな……」

 

 ほぼ一日使って行われた作業に、体力よりも精神的にグッタリしながらも、これも柱の仕事、仕方ないと割り切る。そう、彼は現在も変わらずに柱を務めていた。

 あの戦いの翌日、緊急招集された柱合会議(ちゅうごうかいぎ)にて、産屋敷(うぶやしき)へ訪れた創里に待っていたのは、上弦(じょうげん)(いち)を取り逃がした責任の追及であった。

 屋敷内の一室で行われた会議という名の裁判は、一刻半(約3時間)も続けられた。

 鳴柱(なりばしら)釋縁連(しゃくえんれん)裁柱(さいばしら)作吉(さくきち)の長身宗教コンビの判断は安定の有罪。そして、水柱(みずばしら)(うた)波柱(なみばしら)九十九蓮滋朗(つくもれんじろう)の二人も創里を有罪とした。唄にとっては継子(つぐこ)、蓮滋朗にとっては妹弟子である雫柱(しずくばしら)のたえが殺された恨みから、それをぶつける相手がおらず、槍玉に挙げられている創里に向いている感じであった。

 一方で、炎柱(えんばしら)遠藤虎恭(えんどうとらやす)は無罪を主張。こちらは創里が継子であるというのもそうだが、それ以上に長年側で修行を見守ってきたことで、彼の強さや思想を把握していることから、仕方のないことだと判断した。

 四対一と、無罪側が圧倒的不利な状況で、意外にも無罪を主張したのが土柱(つちばしら)二兵衛(にへえ)だった。言い分は、これまで柱が誰一人として成し遂げられなかった上弦の鬼の討伐(とうばつ)。それも二体をいずれも単独で行ったことを挙げた。加えて、柱二名が殉職したこの現状で、創里の降格はともかくとして除隊や処刑等の処分は戦力を更に減らすことになるということだった。それらが「ぐひひひひ」と笑いながら、しかし喋る言葉はボソボソとしているので解読するのに多少の時間を要したが、結局の所、土柱は無罪寄りの保留という意見で共有された。直接の師弟等の繋がりはないが、系統が近い呼吸を使うということで岩柱(いわばしら)三助(さんすけ)と親交があった彼からの意見に、水の一門から質問が飛ぶが、二兵衛は「それとこれは別の話」と不気味に笑いながら答えた。

 そして、最終判断は鬼殺隊(きさつたい)をまとめる当主に(ゆだ)ねられた。

 前の当主であった産屋敷守通(うぶやしきもりみち)が二年前に亡くなり、その長男である輝正(てるまさ)が新当主として就任。十五にして隊をまとめる立場となり、忙しい日々を送っていると愚痴(ぐち)(つづ)られた(ふみ)(手紙)が書類の中に(まぎ)れ込んでいるのを発見した時は「お館(輝正)様、貴方も俺に愚痴を言うのですか」と呟いてしまった。そんな所まで父に似なくても良いのにと、文を受け取った創里は溜め息を吐いた。

 子供から大人へと移ろう微妙な時期。それでも柱達の注目を集める若き当主は、それを優しい笑みで受け止め、口を開く。

 

「甘いかもしれませんが、私としては今回の件は罪に問わないことにしたいです。隊律が大切なのは重々承知しております。しかし、こういう考え方は出来ませんか? 柱二名を倒す程の鬼を、撃退に追い込むだけで精一杯だったと」

 

 それを聞いた柱達は一同に息を呑む。すぐに我に返ったのは、釋縁連であった。

 

「そのような詭弁(きべん)を、我々に受け入れろと(おっしゃ)るのですか?」

「当主様には申し訳ないですが、わたくしもそこの僧侶(そうりょ)と同じく、それは受け入れがたいものです」

「私も同じだねぇ。大切な娘のような継子を失ったんだ。これじゃぁ収まりが付かないよ」

「師に同意する」

 

 それに続くように作吉、唄、蓮滋朗と反対意見を述べた。やはり考えは変わらないようだ。彼等の話を聞きながら、一人沈黙を守る創里は、心の中でさてさてどうしようかと他人事(ひとごと)のように考えていた。除隊や処刑はあまり受けたくはないが、あくまでそれは自分が死にたくないということからではなく、自身が死んだのが確認された途端に、鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)や残りの上弦も活動を再開するのではないかと危惧(きぐ)しているからだ。

 たった一人の強者(縁壱)の存在に(おび)えて寿命尽きるまで隠れていた臆病者(おくびょうもの)だ。となれば、そんな臆病者をもう一度撃退した創里の存在は、目の上のたんこぶと同じはずである。

 だから、せめて除隊させるにしても日輪刀(にちりんとう)の所持は認めてもらいたいと考えている程度で、その他の処分であれば別に気にしないスタンスであった。

 そう考えていると、今度は有罪側に対抗して無罪側から意見が飛び出す。

 

「うむ、まず履き違えてはならぬのは、我々は鬼を滅する組織であって、人を裁く組織ではない」

「ぐひひ」

 

 土柱のは反論と言って良いのかは置いといて、一通り意見は出揃った。だが、すぐさま鳴柱が声を荒げる。

 

「その倒すべき鬼を見逃したから問題だと言っているのだ」

「うむ、だからと言って、隊律を盾に(いささ)か感情的ではないか?」

「そりゃ、自分の継子が殺されたんだ。感情的にもなろうさ」

「ふむ、であれば、創里は私の継子なのだがな……それに、大切な仲間であろう?」

「ですが、上の者がケジメを見せなければ、下への示しにもなりませぬぞ。事は大時化(おおしけ)(ごと)く重要です」

 

 議論は激しくなるも平行線を保ったままだ。このままでは(らち)が明かないと、輝正は会議が始まってからずっと(だんま)りの創里へ話を振った。

 

「創里さんはどう思いますか?」

 

 まさかここで意見を求められるとは思わなかった為、考えをまとめ、答えるまで少しの間が()く。

 

「そうですね……柱は強さが全てだと思っています」

「と、言いますと?」

「俺を裁きたいのでしたら、そんな回りくどいことなどせず、武力で分からせれば良い……と思います」

「む……」

 

 そこで有罪側に動揺が生まれる。今いる柱全員、それこそ有罪無罪問わず六人で掛かったとしても、創里には敵わないと理解しているからだ。

 追放されてしまったとはいえ、その実力の高さ、呼吸を開発した経緯等から鬼殺隊最高の剣士が継国縁壱(つぎくによりいち)とするならば、それを超えるかもしれない実力を持つ創里は、鬼殺隊最強の剣士と呼ぶ声もある。

 戦闘技術だけではない。ほんの少しの痕跡(こんせき)から遠く離れた鬼の行動を予測して追い詰める手腕。放っておくと死に至る可能性のあった継子を、治癒(ちゆ)してみせた医術。そして、全国の遊郭(ゆうかく)と繋がることで各地域の細かい事情に精通し、情報収集が出来る基盤。後ついでに書類業務の処理の速度と正確さ、そしてその量。

 どれ一つ取っても、とてもではないが勝てる要素がない。一応医術に関しては、本人は「心得なんてものはないから、とりあえず悪そうな部分を取り除いただけ」と言っているが、それで実際に回復してしまったのだから、医療の分野でも注目されている。この時代にはまだ、鬼殺隊用の診療所(しんりょうじょ)がないのだから当然なのかもしれない。

 仮に全員で掛かってこられたとしても、無傷で大勝する自信があるが、出来れば穏便に済ませたい。

 隊律は重要である。しかし、それで失うものが大きすぎる。岩柱と雫柱の実力の高さは皆も認めている所であるが、その二人で掛かっても上弦の壱には届かなかった。創里からしても、(あざ)も透き通る世界もないのに黒死牟相手に一撃を与えた雫柱は、相当な実力があったと思っている。

 

(まぁ、ここで俺の実力を疑うようであれば、申し訳ないがゆきを引き合いに出すことになる。柱二人でも倒す所か持ち堪えることすら出来なかった相手に、最下級()の新米隊士であるゆきは一刻(約2時間)も耐えた)

 

 これだけでも現役の柱よりも実力が高いことは証明出来る。そしてそれを育て上げた創里の能力も、相応に評価されることになる。

 誰一人としてゆきの名を出さない。だが、そのことは周知の事実だ。現在は自宅療養を言い渡されているが、既に傷は()え、ピンピンして屋敷の太郎(たろう)(うめ)と遊んでいることだろう。

 有罪か無罪か。そして有罪だとしてもどう処分すれば良いか。

 重い沈黙が室内を(つつ)む。

 創里だけは、これ以上言うことはないと口を閉ざしている。もし口論となったとしても鬼よりも鬼らしい鬼以上の良い笑顔で、次から次へと暴言が飛んでくる。鬼の首魁(しゅかい)、鬼舞辻が認める口の悪さを誇る(アオ)リストに勝てる道理はない。そもそも実力を引き合いに出されれば、絶対に勝てないのだから仕方のないことかもしれない。

 その妙な静まりは、いつまでも続かなかった。

 

「結論を出しましょう。創里さんは無罪。今後も柱として鬼殺隊に貢献(こうけん)して下さい」

御意(ぎょい)

 

 輝正が決定事項だと言わんばかりに話をまとめ、終わらせてしまった。これには他の柱も口を挟む余地はなく「うぅむ……」と(うな)るしかなかった。だが、話はそこで終わらなかった。

 

「ですが、何も処分がないというのも示しが付かないことは確かです。よって、しばらくの間、謹慎(きんしん)処分とします。そしてその間は暇でしょう。ということで、書類業務をより一層(はげ)んで頂きます」

「は?」

「他の柱の書類の一部と、殉職された二名の書類、そして本部からの書類を何枚か送ります。迅速な対応をお願いしますね」

 

 ということで、ここの所、紙に忙殺(ぼうさつ)される勢いで事務作業に追われる創里であった。

 

「ったく、お館様め……引き継ぎだとか未提出案件だとか、未精算ものとか、それらをまとめて解決しておきたいからって全部丸投げしやがって……」

 

 そのおかげか、全く嬉しくないが鬼殺隊の予算の流れ何かも目を通す機会があり、(ふところ)事情にも詳しくなってしまった。

 

「はぁ……朝からやったっつぅのに、もう日暮れかよ……」

 

(これじゃあ、会社員かお役所と同じだ……公務員になったつもりはなかったんだがな……)

 

 口でも内心でも愚痴を(こぼ)しつつ、腰を上げる。

 部屋を出ると、丁度待ち構えていたかのようにゆきが立っていた。実際に、創里が仕事を終えるタイミングを見計らって来たのだろう。屋敷の中の構造だけでなく、その中で動く人の全てを把握している彼女からすれば、その未来予知のようなお出迎えなぞ、何ら珍しいものではなかった。

 

「つくり、お疲れ様」

「おう。疲れたぜ」

夕餉(ゆうげ)(夕飯)出来てる」

「ありがとよ」

「……」

 

 まただ。

 創里は謹慎処分。ゆきは自宅療養という形で、互いに屋敷に引き籠もっている状態であるから、顔を合わせる機会は当然ながら多い。むしろ、ゆきは変わらずよく話し掛けてくるが、時折、このように(ほお)を染めて黙ってしまうことがある。

 動悸(どうき)が激しくなり、呼吸もどこか湿っぽい。

 何の能力もなければ気付かなかったそれも、透き通る世界を見ている創里からすれば、その身体の変化は手に取るように分かる。そして、その原因と答えも、何となく察することは出来ている。

 

「……行くぞ」

「あ、うん」

 

 勘違いでなければ、彼女、ゆきは、創里のことを異性として好いている。ハッキリと断言出来るものではないが、そうではないかと思い始めている。切っ掛けは何だったか忘れてしまったが、ふとした時の彼女の動作、気配に疑問を(いだ)くことが出て来た。それが形となったのが数日前。黒死牟との戦いで治療した後からだった。

 元々好意を持っていたのだろう。そこに、命途絶(とだ)える寸前に助けに来てくれて、更に怪我を負った自身を治療までしてくれた。これで()れない等あり得ないとも思うし、それには彼も同意する。

 

(だがな……)

 

 ここでヘタレが顔を出す。

 どう答えて上げれば良いのか分からない。創里としては、ゆきの存在は妹であり、娘であり、家族であり、継子だ。

 その答えを見つけ出せないまま、彼は一時(いっとき)手に入れた小さな平和の中で、頭を悩ませるのであった。

 余談だが、もし柱合会議にて、創里が除隊や処刑になろうものなら、ゆきが直接産屋敷を襲撃して柱を相手に戦う可能性があったことを、創里を含めて誰も知らない。

 本来なら誰にも、それこそ味方にさえ本部の位置を知られないように、(かくし)を使って移動をするのだが、創里の行動の痕跡を辿れる彼女からすれば、迷路の中で順路が書かれているのと変わりない。怪我は完治しているので、すぐに動ける自信はあった。日輪刀は破損していて使い物にならないし、そもそもすぐに修理に出してしまって手元にはないが、彼女の実力であれば普通の刀でも柱相手でも大立ち回りが出来るだろう。ちなみに、その刀は、柱から奪う気満々であったことは、未来永劫(みらいえいごう)、絶対に知られてはならないことであった。




 江戸コソコソ話

 何でもこなせる創里強い。
 言動以外は意外とまともな土柱。
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