鬼滅の刃~蒸の呼吸~【完結】   作:木入香

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 前話の更に補足的なもの。
 それと、鴉と鋼の順番を逆にしています。鴉はアッサリ終わりますからね。


第伍話 玉鋼と鎹鴉

(しかし、誰とも会わないな……)

 

 鬼殺隊(きさつたい)へ入れるかを決める試験、最終選別が今、創里(つくり)のいる藤襲山(ふじかさねやま)で行われていた。条件は七日間山籠(やまご)もりして生き残るだけ。ただし、人食い鬼がわんさか出るというものだ。

 

(全員東へ逃げたか、ほとんど食われたか)

 

 この試験の攻略法として、如何(いか)に自身の安全を確保するか。その為に日の出の早い東に向かうことが定石(じょうせき)とされている。

 

(だけど、東に行ったっきりだよな? ずっと中間地点で網張ってるけど、ほんと誰も来ない。日の入りは西だから、東に留まるとその分早く夜になると思うんだけど。それとも別の比較的安全なルートでもあって、そこを行き来しているのか?)

 

 創里は、西と東を繋ぐ一番の近道になるであろう場所を拠点として行動している。それ(ゆえ)か、それなりに鬼の襲撃(しゅうげき)は多い。

 

(後数刻で七日後の朝。試験終了か。何体斬ったっけな?)

 

 ()の呼吸を扱ったのは初日と三日目だけ。それ以外は炎の呼吸か、何の型もない、ただの斬撃のみで仕留めてきた。三日目に使用した理由は、雨が降っていたことで雨天時の体温上昇などの実験を行っていたのだ。

 

(結構水分消費激しいからなぁ……人体の七割(70%)弱が水分って言われていて、その中の二割(20%)を失うと死ぬ。一割(10%)でも痙攣(けいれん)などの人体に影響が出る。大体が四分(4%)、悪くても五分(5%)減った段階で手を打つべきで、何もしなかったら死へ一直線)

 

 しかし、蒸の呼吸は体温を急上昇させる。それも、普通の一般人では即死となる温度まで引き上げるのだ。それだけでなく、これまた並の人体では考えられない程のとんでもない身体能力を発揮(はっき)する。となると、余計に体内の水分が排出されるのは道理である。故に水分の定期的な摂取(せっしゅ)は必要不可欠である。

 

(塩分は、まぁ何とかなる。多分。それよりも水だな)

 

 現在の課題はここである。蒸の呼吸を(もち)いても排出される水分を半分以下に(おさ)えることが出来れば、継戦能力がグッと上がる。呼吸だけではなく、更なる()き通る世界の練度(れんど)向上を(はか)る必要がある。

 

(まぁ、透き通る世界がそこまで万能かは知らんけど、少なくとも(あざ)を出しただけで縮まる寿命を取り戻してくれるくらいには最強モードなのだから、何とかなると良いなぁ……ならないかなぁ……まぁそん時はそん時だ。それよりも)

 

「さぁて、狩りの時間再開だ」

 

 また一体の鬼が、鬱蒼(うっそう)()(しげ)る森の中を身軽に動き、真っ直ぐに飛び掛かってくる。

 

「直線的過ぎるだろ。馬鹿が」

 

 そして、もう何度も繰り返した、()れ違い様に()を落とす作業も初日に比べたらすっかり手慣れたものとなっていた。

 

案山子(かかし)相手では動かないからなぁ。こうして動くのが相手だと、良い鍛錬(たんれん)になる。まぁ知能が低下しているのか直線的な動きが多くて、すぐに慣れてしまったが)

 

 透き通る世界のおかげで、夜の森という視界最悪の状況でも、相手の位置、行動、予測が手に取るように分かることで、例え視界外からの奇襲(きしゅう)だとしても対処出来ている。

 

「そういえば、集合地点はあの広場で良いんだよな? 確か、こっちから来たから、こっちだよな?」

 

(まぁ、周りを藤の花で囲っているから、どこからでも出ることは出来ると思うが……あぁそうか、鬼は藤が嫌いだから、朝日と藤のコンボが出来る東端に集まる訳か。なるほどなるほど)

 

 そして、行き場を失った鬼が創里と遭遇(そうぐう)して狩られる。

 

(三二体は斬ったけど、山ん中の鬼、全滅してたりするんかね?)

 

 そんなことを考えながら、ゆらりゆらりとのんびりとした歩調で歩き出す。そして、藤の壁に辿(たど)り着いた所で、日が差し込んで来た。

 

「良し。合格っと」

 

 意気揚々(いきようよう)と藤を越えて、最初の集結地点へ向けて移動する。

 広場には、まだ誰も来ていないようだ。

 

(早かったか? それとも全員死んでしまったか?)

 

 創里自身は特に積極的に協力して戦っていなかったが、それでも東に向かう鬼を見つけては数を減らしていたので、多少の援護(えんご)は出来ているものと考えていた。しかし、もしかしたらと思うと、もう少し他者の為に動くべきだったかと反省する。

 直後、気配を感じて振り返ると、そこに何名もの人がボロボロになりながらもここに歩いてきているが見えた。

 

(俺含めて一三人か。半数生き残ったと言うべきか、半数死んでしまったと言うべきか。だけど、全滅することも不思議ではない試験だ。それでこれだけ生き残れたのなら良かったと言うべきか)

 

 ぼんやりと考えていると、また以前にも感じた気配を察知(さっち)して振り返る。すると、二本の柱の間に、産屋敷家(うぶやしきけ)の当主産屋敷守通(うぶやしきもりみち)が立っていた。

 

「皆様、お疲れ様でした。さぁこちらに来て下さい」

 

 大きい声ではない。むしろ、周りが騒いでいたら()き消されてしまうような、そんな静かで自然な音。しかし、それはこの広場にいる全ての人の耳に届き、それに従って整列するかのように横一列で立つ。

 

「改めて、皆様、お疲れ様でした。今年は多くの方が無事に戻ってこられたことを嬉しく思います。これからは、鬼殺隊の隊士として、更なる過酷(かこく)な戦いになると思いますが、どうか皆様無事に帰ってきてくれることを、心から願います」

 

 そこで一度言葉を切ってお辞儀(じぎ)をした守通は、自身の背後にある机へ向かった。横長の机には、白い布のようなものが掛けられていたが、それが当主自らの手で()がされた。

 そこにあったのは、いくつもの石。光の角度などで所々光沢の見える、鉱石のようだ。その数は二七。丁度、最終選別を受けに来た人数と同じである。

 

(全員が生き残ると願ってのことか? だが、あの試験は、誰もが実戦は初めてだ。例え(うら)みのある相手だとしても、どれだけ鍛錬を重ねたとしても、トラウマなどの心に少なからずとも傷を持った人が、その恐怖の元凶と戦うのは難しい。何より、自らの意志で命を(うば)う覚悟が、奪われる覚悟がなければ一人(・・)で乗り越えることは困難だ。いや、一人だから駄目なんだ。皆で集まって力を合わせて対処すれば乗り越えられる。生き残れる可能性が増える。個人の力だけでなく、連携する能力。鬼殺“隊”ってことか)

 

 バラバラの地点から山へ入る初日の夜を何とか乗り切り、他の人と合流することが出来、更に協力関係を結ぶことが出来れば、かなり楽に突破出来る試験ということになる。

 

(なるほどな。全員生き残れる筋道はちゃんとあるってことか。そしてそれをあえて告げずにいたのは、自分達で気付かせる為。極限状態の中でその答えに辿り着けなければ、力がなければ死ぬってことか。この試験は、個の力か、数の力のどちらか、あるいはその両方がないと突破出来ない)

 

 合格者に人数制限はない。よって、結果次第では全員合格もあり()る。

 

(もっと早く気付くべきだったな。そうすれば、もう少しは多く生き残ることが出来たと思うのは、傲慢(ごうまん)か……)

 

 一人反省している創里を余所(よそ)に、守通の話は進む。

 

「皆様には、こちらから自身を守り、そして鬼の(くび)を斬る刀の素材となる、玉鋼(たまはがね)選んで(・・・)頂きたいと思います」

 

 その瞬間、周囲から戸惑(とまど)いの声が上がる。

 

「選べって……」

「どれがどれだか……」

「違いとかあるの……?」

「大きさや形に多少の違いはあるけど、それ以外は全部同じ……?」

 

 口々に疑問が出、しかし選ばなければ刀は()られず、とはいえ、最初に動くこともこの多くの目がある前では難しい。もし、これが何かの試験だとしたら、最初に動いてハズレを引いたら不合格とか、そんな考えが突破者達の脳内を駆け巡る中、創里はただぼんやりとその様子を眺めていた。

 

(俺も違いは全く分からんが、多分ハズレとかはないと思う。まぁ誰かが動けば連鎖的に動くだろう。(よう)は最初のペンギンだな。誰かが飛び込めば、続けて飛び込んでいく)

 

 かといって、創里はそのペンギンになるつもりはなかった。自分は最後に行くと決めて、立ち続けた。

 どれだけの時間が流れたか。互いに牽制(けんせい)しあって動くに動けない状態。時間が掛かれば掛かるだけ、余計に動きづらくなる悪循環。守通は特に何も言わずにニコニコとその様子を眺めている。

 と、そこで(つい)に一人が動いた。髪は短めに切り(そろ)えられているが、十代後半の少女だ。

 

「これにします」

 

 すると、今度は同じく少女の合格者が前に出て、一つの鉱石を手に取った。

 

「わ、私は、こ、これにします!」

 

 受験者の中で女は二人。この二人は、見事にあの七日間を生き抜いたのだ。そして、女が先陣を切ったことに男達は次々と前に出て、思い思いの鉱石を手にしていく。そして、創里以外の一二人が玉鋼を選び終え、残すは創里のみ。皆の視線が集中する中、ゆっくりと机へ向かう。

 

(まぁ、どれが残ろうと最初から決めていたんだけどね)

 

「残り一五個。全部もらう」

 

 瞬間、時が止まったかのように辺りは静まり返った。そして、(わず)かな静寂(せいじゃく)の後にやってくるのは、非難の嵐であった。

 

「何だそれは!」

卑怯(ひきょう)だ!」

「選んでいないじゃないか!」

「そのようなことが許されるのか!」

「あり得ん!」

 

 まさかの暴言が浴びせられるとは思ってもみなかったが、すぐに立て直した彼は、次々と反論していく。

 

選べ(・・)と言われたから全部取ることを選んだ(・・・)。一つだけとは言われていない。卑怯かどうかは知らん。だったら最初に複数取れば良いのに、一つということに固執(こしつ)した結果だ」

 

 多少ムキになっていたこともあり、普段よりも二割増しで口調荒く、()げ足取りのようなことを言ってしまう。

 しかし相手も負けじと「屁理屈(へりくつ)だ!」などの声が出るが、これまでの様子をニコニコとした表情を変えずにジッと佇んでいた守通(もりみち)がスッと手を出して制止した。

 

「一つ聞きます」

「はい」

「刀は一五本の注文で良いですか?」

「へ? あ、いえ、失礼しました。一本にまとめて頂きたいです」

「ほぅ。そうなりますと、相当重くなりますが良いのですか?」

「構いません。私は、見事扱ってみせます。ただ、多少の形の注文をさせて頂けるとありがたいのですが」

「大丈夫ですよ。では、詳しいことは……」

 

 そう言いかけた時、空からバサバサと羽音がして一斉に上空を見上げた。すると、そこには一三羽の黒い鳥がいた。鳥はすぐに高度を下げて、一人につき一羽ずつ肩や頭、腕に止まっていく。それは見た感じ普通の(からす)であった。しかし、創里はこれが普通の鴉でないことを知っている。

 

「後程、こちらの鎹鴉(かすがいがらす)で連絡して下さい。皆様にも行き渡りましたね。彼等は鎹鴉と言って、鬼殺隊の一人一人の隊士に付けられる伝令係です。人語を(かい)し、また話すことが出来、それによって鬼の位置を(しら)せ、それを元に討伐(とうばつ)を行って頂きます。彼等も立派な一つの命ですので、乱暴に扱わないようお願いします。どうか、仲良くしてあげて下さいね」

 

 こうして、無事に最終選別を終えた創里達は、鬼殺隊の一員として鬼と戦っていくことになるのであった。




 江戸コソコソ話

 蒸の呼吸 壱式 雲蒸竜変
 雲蒸竜変とは「雲が湧き上がり、竜が現れる」様のことを言います。また、それに例えて「英雄や豪傑が現れ活躍する」ことを表す熟語でもあります。
 蒸の呼吸の基本の技であり、最も一撃必殺に長けた技です。
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