「貴様、何者だ?」
「ただの鬼殺隊だ」
「何故私だと分かった?」
先程まで瞽女屋敷中の女盲目を殺して回っていたのか、鬼にする為に血を分けていたのかは分からないが、創里の目の前に立つ男、全ての鬼の首魁でありラスボス、鬼舞辻無惨は、屋敷の唯一の生き残りである幼女のことなど既に眼中にないようで、すっかり創里に興味津々のようである。
しかし、この場で戦えばこの盲目の幼女はそれに巻き込まれて死んでしまう。むしろ戦う前に邪魔だと殺されてしまう可能性もあるし、鬼にするつもりならこちらの隙を突いて行動してきてもおかしくない。
(とりあえず、挑発を続けるか)
「そんな不健康そうな身なりをしていて、そんで頭悪そうな気配振りまいていて、更に小心者の匂いがする。こりゃもう鬼舞辻しかいねぇなってな」
ビキリと何か音がした気がする。心なしか、殺気が強くなっている気がするが、元々息苦しいくらいに濃密なのだ。そこから多少濃くなった所でそう変わらない。
ちなみに、この殺気を間近で受けてしまった幼女は気を失っている様子である。
(まぁこれからする所を、目が見えないとはいえ意識がある状態でいてもらうと、肝心な時に発狂とかされて面倒になるからこっちの方が都合は良いわな)
「貴様は絶対に生きて帰さん」
「やってみろよ。小心者の臆病者が」
言い終えると同時に、創里は巨大な日輪刀を振り回し、無惨へ叩き付けて吹き飛ばした。その勢いは強く、壁をいくつも突き破っていったようだ。油断していたのかあえて受けたのかは分からないが、創里はすぐさま周辺の柱を斬って部屋の一部を倒壊させる。
天井が落ちて壊れた部屋を背に、ゆっくりとした動作で日輪刀を肩に担ぐ。すると、目の前にはいつの間にか無惨が立っていた。
「あれはまだ生きていたぞ? 生き埋めにするとは酷いとは思わないかね?」
「分かってて言ってんだろ。そんなことで動揺しねぇよ」
確かに幼女が気絶している部屋の天井を落とすなどして、表面上は瓦礫の下敷きになっているように見えるが、実際は彼女のいる空間だけポッカリと空くように計算して壊したから無傷なはずであるし、気配からしても気絶したままで落ち着いているのが分かる。
「卑怯者で用心深いおめぇのことだ。自分が不利になった時には人質にでもして逃げるんだろ。だったらほんの僅かでもその手間を掛ける時間を稼ぐ」
「どこまで私を怒らせれば気が済むのかね?」
「てめぇが死んでくれたら」
「殺す!」
「やってみろよ三下がー!」
―― 炎の呼吸 壱ノ型 不知火
一気に距離を詰めて袈裟切りにする。確かにダメージは通った。しかし斬って刃が通過した瞬間から傷口が塞がっていくのが見て取れた。
「本当に“Cheat”野郎だぜ!」
「何?」
聞き慣れない言葉に、ほんの一瞬だけだが動きが緩慢になる。そこを見逃さずにすかさずに次の技を繋げる。
―― 炎の呼吸 伍ノ型 炎虎
燃え立つような闘気で、相手を更に吹き飛ばす。
―― 炎の呼吸 陸ノ型 火魚
炎のような熱い闘気を、参ノ型の野火のような線ではなく弾として相手へ飛ばす。地面を跳ねるように相手に向かっていく様は、魚が水面から飛び出しているように見える。
「もういっちょ!」
―― 陸ノ型 火魚
続けざまに跳ね回る弾を、弾幕のようにして辺りへ飛ばす。
(コイツの対処法で負けない方法はただ一つ。再生が追い付かない速度で斬り続けて、それを朝が来るまで続けるだけ! だけど、とんでもなく無理ゲー!)
でもやらなければ自分は死に、あの幼女も殺されるか鬼にされてしまう。それに、ここで無惨を退けることに成功すれば、創里は第二の継国縁壱として近付くことが出来るかもしれない。
(相手はまだこちらの動きを見ているだけ。向こうから攻撃が始まれば、この程度では済まない! それまでに、一気に強化する!)
―― 全集中 蒸の呼吸
ドクンと心臓が跳ねる。
この半年で、更にギアの数を増やし、継戦能力も格段に上昇させた。しかし、最初から全力全開でやってしまうと長続きしないので、無闇にシフトアップしたりレッドゾーンに入らないように注意する必要がある。
(ラスボス相手に手加減しないといけないとはな!)
―― 二速
「っ! その痣は! それにその刀の色!」
「お楽しみはこれからだ。退屈はさせねぇよ。立派なNightpartyにしようぜ!」
「だからその言葉は何だ!」
「わりぃな。俺は少しばっかしグレートブリテン及び北アイルランド連合王国訛りがある田舎者だからな!」
あえて相手の分からない言葉を使うのは、無惨の集中力を奪うのと同時に、下手に創里の持つ情報を相手に与えないようにする為の咄嗟の対処である。今彼が持つ知識を無闇に開示してしまえば、将来的にそれに対して対策してくる。それを防ぐべく、まだこの時代の無惨の知らないであろう英語などの言語や、言葉遣いを用いてほんの少しでも混乱させる目的がある。
―― 炎の呼吸 壱ノ型 不知火
赫刀状態で切り裂けば、流石に回復は遅いようだ。だが、まだこの程度の温度では足りない。まだまだ温度は上げられる。
「てめぇは何分割にしたら尻尾巻いて逃げるかな! Dicesteak先輩、もといLastBossにしてやるよ!」
「貴様ぁぁああああ!」
遂に反撃をしてきた。自身の体内から血を噴き出させ、それを何本もの触手のようにうねらせる。その先端はどれも鋭利な刃物のようになっており、その硬さは並の金属を超えるであろうことは想像に難くない。血鬼術なのかただの技術なのか創里は判断が出来ないが、とりあえず食らえば終わりであることに変わりはない。
「回転数を五〇〇〇でKeep! 全部ぶった切る!」
目にも留まらぬ速度で飛んでくる多くの触手を、斬って斬って斬りまくる。勿論、触手にだけ気を取られてはいない。無惨本体もものすごい速さで接近し、爪、拳、蹴りなどによって攻撃してくる。それを全て叩き切る。
赫刀によって、修復速度は落ちているとはいえ、それでも十分脅威な速度でみるみる内に治っていく様子を見せられると、本当に終わるのかと呆れてしまうが、だからと言って諦めるという選択肢は最初からない。炎の呼吸の捌ノ型は絶対に隠しておきたい切り札。これは今無惨との戦いで使う訳にはいかない。使ってしまうと、もし生き残れたとしても対策を立てられてしまう。
(漆ノ型もまだ出すには早いし、蒸の呼吸の型も論外! 何とか粘らねぇとな!)
「ったくよ。本当に『NARUTO』の飛段、角都の不死身Pairみたいな野郎だ! それとも『SIREN』の屍人か! 宇理炎持ってこい宇理炎! それか須田恭也呼べ! SDK! SDK!」
悪態を吐きながらも刀を振る手は止めない。ついでに、これだけ喋り続けているにも関わらず、呼吸も型も乱れていないのは、長年の修行の賜物か。
「訳の分からんことばかり!」
そして、理解出来ない言葉のマシンガンによって、余計にイライラが募っているのであろう。動きのキレなどに変わりはないが、それでも集中力が少しばかり落ちているのが分かる。
―― 炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり
広範囲攻撃をしてきた為、それを一気に薙ぎ払う。そして間髪入れずに接近。
―― 炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天
素早く切り上げて無惨の身体に縦の線を入れる。そこから血が噴き出すが、それを浴びないように冷静に見極めて距離を取る。
「全く嫌になる! 『鋼の錬金術師』のホムンクルスだって死亡限界回数があるってのに! それか『Fate/staynight』のHerculesのバーサーカーか! あれも宝具が頭おかしいが、回数あるだけまだマシだよ! 『バッカーノ!』の酒を飲んだヤツだったら知らん!」
「戦っている最中なのに、よく回る舌だな!」
「口が悪いのが取り柄なんだよ!」
互いに暴言を吐きながらも、しかしその戦いは熾烈を極め、並の隊士所か“柱”でさえも介入出来ないのではないかという程の激しいものである。
無惨は爪を伸ばして剣のように振ってきたり、地面から大量のトゲを生やしたり。かと思えば、身体の一部を化け物のように変化させて襲い掛かってきたりと、多種多様な攻撃を放ってくる。
これらのどの攻撃一つ取っても、掠ることなく躱し、弾き、または切り倒して反撃しなければならない。言葉にすれば簡単だが、普通ならばここまで上手く捌くことは出来ないだろう。仮に赫刀を発現していたとしても、並の刀では、敵の攻撃の軌道を変えるのが精々で、そのまま斬ることは難しいと思われる。それを可能としているのは、創里の馬鹿力と、その力に振り回される大質量の刀。
速さは重さ。しかし、そこに実際の質量と硬さが伴わなければ、ただの速いだけの軽い攻撃になるのだろう。そして、逆もまた然り、重さがあっても遅ければ相手に届かないし、脆ければ砕けてしまう。
だが、創里の刀はそれら必要な三つの要素を全て持ち合わせている。振る速度は、下手したら音速を超える程の速度を出し、その重さも後の時代の桜餅の少女でなければ持ち上げるだけで精一杯。そして硬さに関しては、鍛冶師自らが折れない曲がらない刃毀れしないと太鼓判を押した頑丈さがある。
その刀と、正確な技と呼吸によって、無惨の全ての攻撃を無駄にする。
(あーもう! 忙しいな!)
息を吐く暇もないとはこのことだが、幸いなことに細胞呼吸によって、肺に空気を取り込む必要なく呼吸が可能となっている創里にとっては一瞬の隙でも出来れば問題ないものだ。
「さぁて、そろそろMaindishと行こうじゃねぇの! 六〇〇〇!」
ここで、二速の五〇〇〇で留めていた鼓動を、更に引き上げる。
「七〇〇〇! ShiftUP!」
―― 三速
「むっ!」
(コイツ! 明らかに動きが! 今までのより動きが速く、それに力も上がっている! どういうことだ!)
ここに来て、明確な動揺を見せる無惨だが、それでも創里の刃が届くには至らない。そこで……
―― 四速
更にギアを上げる。
屋敷は既にほぼ全壊状態で、床も死体もほとんど吹き飛び、地面が剥き出しになっている所もあった。しかしおかげで空の様子が分かる。星空の綺麗な晴れた空。後どれくらいで朝なのかは感覚が鈍ってきているので分からないが、まだまだ戦えると創里は柄を握る力を更に強める。
着物は戦闘の合間に上半身を完全に開けさせ、半裸の状態になっている。藁草履はとっくの昔にお亡くなりになり、今は裸足で地面を蹴っていた。
ギアを四速まで上げたことで、露出した肌は真っ赤になり、吹き出した汗が瞬間的に蒸発して蒸気となっていた。
―― 蒸の呼吸 壱式 雲蒸竜変
これまでと比較にならない高速移動からの水平切り。その速さは、無惨の動体視力を以ってしても捉えきれない程のものであった。
当然ながら無惨も気を抜いていた訳ではない。だが、縁壱以来の久々の長時間の死闘に集中力が切れ始めていた。しかし、それでもどうにか反応して後退したことで、頸を斬らせることだけは避けることが出来た。その代わりに胸部を大きく裂かれることとなり、その痛みと熱さに言葉にならない苦痛が駆け抜ける。
「っ!」
しかし、避けられることも考慮していた創里は流れるように次の動作へ移る。真っ赤な刀身を地面に擦り付けて力を溜める。その金属の擦れるギギギギという音が不気味に響く。
―― 炎の呼吸 漆ノ型 星火燎原
瞬間。カタパルトから撃ち出されたかのように一気に抵抗のなくなった刀が加速。そこに、自身を独楽の軸のように回転することで更に速度と接触回数を増やして、相手を斬り付ける。
(『モンスターハンタークロス』のディノバルドの回転切りと、水の呼吸の拾ノ型、生生流転を参考にした炎の呼吸のオリジナル技!)
摩擦熱によって、更に灼熱の温度へと達した刀による連続横回転切り。雲蒸竜変からまだ完全に回復仕切れていない所への追撃に、無惨はかつての苦い記憶が呼び覚まされる。
(また敗れるのか! この私が、あの縁壱の時のように! そんなのは許せん!)
しかし、先に動いたのは創里の方だった。
―― 蒸の呼吸 弐式 蒸着
技を発動した途端に刀身の表面が爆発する。そして、キラキラとした細かい粒子となって空間を漂う。赤く輝くそれを、創里は細胞呼吸によって両腕の肘から指先に掛けて付着させる。
(『宇宙刑事ギャバン』みたいに全身に出来れば良いけど、あれはあくまで変身ものだし、こっちで同じことやったらマジで呼吸出来ないからね。それにくっそ熱いし!)
一回り小さくなったように見える日輪刀を片手に、創里は刀を振りつつ殴り掛かる。
「ぐっ!」
そして無惨の反撃を腕で受けてはそのまま受け流し、手で受け止めては握り潰すなどのインファイトを行う。創里の両腕にまとっているのは日輪刀の金属。しかも赫刀状態である為、拳による攻撃も有効打となるだが、それだけでは決定打がない。
真の狙いは……
「うぉぉぉおおおおおお!」
右手の日輪刀を手放し、そのまま右腕で無惨の腹を殴り付ける。これまでよりも踏み込みがしっかりしたその拳は、無惨の皮膚、筋肉、内臓、骨を突き破り、貫通してしまう。
「Goodbye!」
―― 蒸の呼吸 参式 水蒸気爆発
付着させた金属粉を、今度は一気に爆発させる。それによって、無惨の身体も爆発四散してしまう。
ちなみに、「サヨナラ」を言うのはやられる側であって、今回のように技を仕掛ける側が言うのは間違いである。
(『ニンジャスレイヤー』の忍殺語は使い方が難しいからね! 素人が下手に手を出したら死んでしまうから注意しなければ……!)
そんなことを思いながら、白くなり始めた東の空を眺める。
気付けば、無惨の姿はなく、どこかに雲隠れしてしまったようだ。
(細胞レベルまで細かくなっても復活するんだよなぁ……本当にしぶとい。プラナリアかよ。いや、プラナリアは切断耐性があるだけか。あ、プラナリアと言えば『テラフォーマーズ』のエヴァ・フロストがいたな。まぁ、無惨のような悪意の塊と比較してしまっては、エヴァが可哀想だ)
しばらく警戒を続けたが、日が昇ってくるだけで、それ以外は何も動きは見られない。そのことにホッとしつつ、ゆっくりと息を吐き出す。
「フシュゥゥゥゥゥ」
口から蒸気を吐き出して一気に体温を下げていき、呼吸を整えつつ精神も落ち着かせていく。
「賭けだったけど、成功するかどうかは分からん。ただ、現時点でここにないということは、多分、今の所は成功したと考えて良いか?」
今回の弐式からの参式の流れ。本来ならあのまま星火燎原で押し切っても撃退出来る可能性はあった。しかし、それではただ追い払うだけになってしまう。それでは目的の半分しか達成出来ないことになるので、今回リスクを背負ってでもインファイトを挑んだのである。
(恐らく、無惨の体内には、俺の赫刀状態の金属粉が大量に混ざっているはずだ。毒を解毒するのとは違う。どのような手段で体外へ排出するかは分からんが、体内を灼熱の太陽のような金属の粒子が、無数に残っているはずだ。これで、しばらくは大人しくしてくれると信じている)
「権三郎」
「カー」
いつもは来てくれても無言でいることが多い相棒の鎹鴉だが、今回は一鳴きして返事をしてくれた。仕事だと理解しているのだろう。
「見ていたか?」
「カー」
「無惨発見と撃退。それと事後処理の隠の派遣。それと、刀の修理もだな。伝令よろしく」
「カー!」
元気良く返事をして、明るみを帯び始めた空へ飛び立っていく。
「さぁて、あの娘を助けなきゃな」
この盲目の少女を救ったことが後々の鬼殺隊に於いて、とても重要な出来事であったことに創里はまだ気付くことはなかった。
一先ずは、無事に生きて朝を迎えることが出来たことに、これまで関わってきた人達や経験に感謝するのであった。