鬼滅の刃~蒸の呼吸~【完結】   作:木入香

8 / 35
 ほのぼの回。


追記:誤字報告ありがとうございます。


第捌話 幼女を拾った

「う、うーん……?」

 

 幼女は目を覚ます。しかし目蓋(まぶた)を上げてもいつもの真っ黒な世界が視界に映る。生まれ付き目が見えない為、手探りで周囲の様子を確かめる。

 

ととさん(父さん)……? かかさん(母さん)……? どこぉ? どこぉ……? ひっく、怖いよ……かかさん、ととさん……」

「大丈夫か?」

「ひっ!」

 

 聞き慣れない男の声にビクリと肩を(ふる)わせる。覚えのない声。しかし、どこかで聞いた声であるとも感じる。創里(つくり)の声はかろうじて記憶の片隅(かたすみ)に引っ掛かっているものの、残念ながら鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)の殺気にあてられて気を失った時に、同時に直前の記憶も恐怖の余り、抜け落ちてしまっているようだ。

 

「怖い思いをしたな。どこか痛い所はないか?」

 

 その声は、荒っぽく乱暴な感じがする。それ(ゆえ)に幼女は最初こそ(おび)えの表情を浮かべるも、よくよく聞くと暖かさ、優しさのようなものを何となくだが感じ取ることが出来た。

 

「だ、いじょう、ぶ……」

「そうか」

「うん……」

 

 話が続かない。

 どうしたものかと、創里は自身のボサボサ頭を()く。

 鬼殺隊(きさつたい)の一員として、鬼の犠牲(ぎせい)になる命を、たった一つとはいえ救うことが出来た。あの晩、趣味(しゅみ)遊郭(ゆうかく)通いをしていなければ辿(たど)り着かず、気付かなかった。そうなっていたら、この幼女も食われていたか、あるいは鬼にされていたかもしれない。

 屋敷にいた人は、この幼女を除いて全員の死亡を確認。あれだけ派手に(さわ)ぎを起こしていたのに、誰一人として様子を見に来なかったのは、無惨お得意の催眠術(さいみんじゅつ)血鬼術(けっきじゅつ)なのだろうかと考える。

 女は鬼にとって栄養価が高く、手っ取り早く力を付けるのに良いらしく、更にそれが若い女ともなればご馳走(ちそう)とのこと。

 昨夜、この屋敷をターゲットにしたのは、若い女性が多くいるから食べる為に来たのか。それとも、一部の死体は体内から食い破られ、そのまま食い散らかされたかのようにバラバラになっていたことから、戦力集めも兼ねて鬼を増やそうとしていたのかもしれない。ただ、全ての人間が無惨の血に耐えられる訳ではなく、適合者でなければ鬼になることすら出来ず、その命を終える。

 すっかり日が高くなり、屋敷の中は騒然(そうぜん)としていた。鎹鴉(かすがいがらす)権三郎(ごんざぶろう)に伝令を頼んでしばらく、事後処理部隊である(かくし)が到着し、急ピッチに片付けが進んでいく。その間、創里は唯一の生存者である幼女の面倒を見ていた。

 戦闘後、創里は幼女を瓦礫(がれき)の中から引っ張り出して、安全な庭に寝かせていた。無惨との戦闘前に柱を壊して天井を落としたが、丁度幼女の周りだけポッカリとドーム状の空間が出来るように調整して行ったので、見た感じで彼女に外傷はみられない。

 幼女を救出した後は、目の届く位置に寝かせ、自身は隠が到着するまでの間、出来るだけ多くの死体を見つけて上げようと奮闘(ふんとう)した。明らかに人間の死に方ではない。だからせめて、無縁仏(むえんぼとけ)だとしてもしっかりと供養(くよう)をして埋葬(まいそう)して上げたいと思い、バラバラになった四肢(しし)や内蔵までも集めていた。中には頭部だけ残っている人もおり、その閉じられた目から涙の跡が見えた時は、創里の中で無惨に対する怒りが込み上げてくる。

 

(落ち着け。怒りで我を忘れては駄目だ。平常心で、呼吸を整えるんだ)

 

 戦闘時は創里独自の呼吸法である、全身の細胞一つ一つから直接酸素を取り込む細胞呼吸(さいぼうこきゅう)というものを行っているが、日常生活、または簡単な鬼退治の時は右側だけ残った肺で呼吸をしている。

 

「あー、そうだ。まだ名前を名乗っていなかったな。俺は創里って言うんだ」

「……え?」

「名前だよ。俺の名前」

「つく……り?」

「おう」

「つくり?」

「そうだ」

「えへへぇ、つくり!」

 

(何だこれ、可愛いな。はっ、いかんいかん。俺はロリコンじゃない!)

 

 気を取り直して、今度は幼女の名前を聞く。

 

「俺は名乗った。じゃあ次はお前さんの番だ」

「私?」

「そうだ。いつまでもお前さんや女じゃ味気ないだろ? 聞かせてもらえないか?」

「……すず、むし」

「お前さんそりゃ源氏名(げんじな)だろ。というか見習いなのに源氏名持ってんのか?」

「ひぅ……」

「あー悪い悪い」

 

(まだ数えで一〇歳か、それに満たないくらいの見た目だ。ともなれば、良くて見習い。あるいは見習いの見習いか。その状態ではまだ源氏名はもらえないはずだが……)

 

 そう思いながらも幼女を観察する。しかし目が覚めてから本当によく泣く。

 

余程(よほど)昨夜のことが怖かったのか、それとも過去にトラウマがあるのか)

 

 昨夜の出来事について、幼女の記憶から抜け落ちていることを知らない創里は「無惨の野郎め」と(つぶや)き、無駄にヘイトを向けるのであった。

 

不謹慎(ふきんしん)だけど、声可愛いな。これで笑ってくれたらもっと可愛いのだろうけど……あぁ、そういうことか。“鈴”のようにコロコロと可愛い声の(くせ)して泣き“虫”。鈴虫か。ということは、同じ女盲目(おんなめくら)の集団の中でも(いじ)められていたのか)

 

 確かに、屋敷の奥の埃臭(ほこりくさ)納戸(なんど)のような所に一人ポツンといたのは変である。軟禁(なんきん)されていた可能性もある。

 

(ということは、無惨はこの()を食べるのではなく鬼にするつもりでいたのか。そして、恐らく適合者なのだろう。理不尽(りふじん)を味わっている人程、鬼になりやすい気がする。だから幼い子供が鬼になるケースが多いのかもしれない)

 

 静かに息を吐き、もう一度ゆっくり、出来るだけ優しく問い掛ける。

 

「お前さん、本名は?」

「……ゆき」

「ゆきか。何だ。ちゃんと良い名があるじゃないか。うん、そうだな、ゆき」

「え?」

「俺と一緒に来るか? それで一緒にゆきの両親を探そう」

「いいの?」

「おうよ」

「……行く。一緒に行く」

 

 そこには、先程まで泣き続けていた幼女の姿はなく、しっかりとした意志を感じた。

 

「分かった。じゃあ、まずは……飯を食おう」

 

 その後、残りの事後処理を隠と、引き継ぎに来た先輩だけど階級が下の隊士に後を(たく)して、二人手を繋いで街を歩く。

 街で遅めの朝餉(あさげ)(朝食)を()り、余程空腹だったのか、おかわりまでして元気良く食べる姿に創里は笑みを浮かべる。そして徒歩で移動し、途中で疲れたゆきを(かか)え上げて更に歩を早める。

 藤の家紋(かもん)の家を利用しても良かったが、今は迅速(じんそく)に家に戻るべきだと思い、(いま)だに住まいとさせてもらっている、炎柱(えんばしら)遠藤虎恭(えんどうとらやす)の屋敷へ急ぐ。

 到着(とうちゃく)したのは昼過ぎ。出迎えてくれたのは、虎恭の妻である、りよ。何でも、現在屋敷の(あるじ)は、産屋敷邸(うぶやしきてい)にて柱合会議(ちゅうごうかいぎ)が行われていて、それに出席しているとのこと。

 鬼殺隊の最高戦力を表す称号、柱。柱は九人で構成されており、それぞれ呼吸法と柱を合わせて呼ばれていたりする。虎恭は、炎の呼吸の柱であることから、炎柱としての出席だ。りよから話を聞くと、臨時の招集(しょうしゅう)だったそうで、早朝からバタバタと忙しなく出て行ったそうだ。

 話し合いの内容はおおよその検討(けんとう)は付く。

 

(俺ももしかしたら事情聴取(じじょうちょうしゅ)とかされるのかな?)

 

「所で、そちらの子は?」

「あ、忘れていました。今回、鬼の被害に遭った子供で、助けたは良いのですが身寄りがないので、引き取ってしまったのです。申し訳ないのですが、しばらく屋敷に置いてもらえないでしょうか? もし部屋が埋まっているようでしたら、俺の部屋を使ってもらって構いません。俺は外で寝ますので」

 

 ゆきは、創里の腕の中で「スースー」と気持ち良さそうに寝息を立てていた。結構競歩も顔負けの早足での移動だったにも関わらず、適度な()れと密着して感じる体温と心臓の鼓動(こどう)に安心した彼女は、そのまま眠りに()いてしまったようだ。

 

「私は構いませんよ。主人もきっと了承(りょうしょう)して下さるはずです」

「いや、その必要はない」

「え?」

「あら、お帰りなさい」

 

 振り返ると、柱合会議に出席していたはずの虎恭が立っていた。

 

「あの、必要はないって……」

「うむ。その娘と同じ部屋で過ごせば良いのではということだ」

「え、ですが」

「それに、いきなり知らぬ土地だ。戸惑(とまど)い、不安になることもあろう。その時に、少しでも関わりのある人と一緒にいた方が安心であろう」

「分かりました」

 

(そうだよな。こんな幼い子供が一人で部屋にいるって、それじゃあ、あの屋敷と変わらないもんな)

 

 創里が一人納得していると、虎恭がアゴに手を当てて「ふむ」と言った後に話を続ける。

 

「だが、もうすぐお前にはこの屋敷を出て行ってもらうことになると思う」

「え」

 

(お、追い出されるんですか! 何で? 異性を連れ込んだから? でも子供だし、それに同じ部屋で過ごすことは了承したじゃないですか!)

 

 そんな創里の動揺(どうよう)が表情に出ていたのか。虎恭は慌てて補足(ほそく)する。

 

「いや、そういうことではない。丁度お前が帰ってきたことだし、もう一度招集を掛けると思うが……創里」

「はい」

「お前に柱就任の打診が来ている」

「へ?」

「時間が惜しいからすぐに移動するぞ」

「え、ど、どこにです?」

「お館様(やかたさま)の屋敷だ」

「えー……」

 

 その後は、いつの間にか現れた隠の集団に目隠しをされ、念の為と手足も拘束(こうそく)。その状態で(かつ)ぎ上げられて目的地へと移動開始することとなった。産屋敷邸の場所は隊士の間でも秘匿(ひとく)されており、会議などの用事で(おもむ)く際は、場所を把握(はあく)している専門の隠によって運ばれるというのが規則となっていた。

 創里が会議に出席している間は、りよにゆきの面倒を見てもらうこととなり、早速移動を開始する。

 どれくらいの時間そうしていただろうか。恐らく、もっと近い距離にあるのだろうが、場所を特定させづらくする為か、頻繁(ひんぱん)右左折(うさせつ)を繰り返し、時には一緒に移動していた虎恭とも違うルートを移動しているような感じもした。

 

「到着しました。拘束具を外させて頂きます」

 

 まずは目隠しが外され、その次にカチャカチャと手足の(かせ)の留め具を外されていく。その間、キョロキョロと周囲を見渡す。

 

「ここが……」

「そうだ。ここがお館様の邸宅(ていたく)だ」

 

 古き良き日本庭園のような整えられた庭。常に手入れを欠かしていないのだろう。余分な落ち葉はみられず、少々残っている落ち葉も、季節の変わり目を象徴(しょうちょう)するかのようにあえて残してある感じさえする。庭だけでもとても広い。見えている範囲だけでも十分テニスが二試合同時に出来るのではないかと思うくらいだ。

 

(横ではなく縦にコートを並べる形になるから、プレイしづらいだろうな。というか俺テニス経験ないし)

 

 と、的外れのことを考えると、虎恭に(うなが)されて屋敷の縁側の前まで移動する。自分達以外にまだ誰も来ていないようで、人が集まるまで創里は目の前ある建造物を見つめる。

 庭が立派ならば屋敷も立派だ。年季の入った木造建築であるが、古臭いなどの印象を与えない、落ち着いた雰囲気(ふんいき)(かも)し出している。見える範囲だけでなく、もっと奥行きがあるのだろうが、まさか探検させてくれと言えるはずもなく、どれだけ広いのか、ただただ想像することしか出来ない。

 これでも大工の次男である。精神こそ転生者のものとなっているが、その歴史が消える訳ではない。それ故か、ふとした拍子についつい建物の造りなどを眺めてしまうことがある。

 そうやって、ぼんやりと立ち尽くしていると、いつの間にか他の柱と思われる人達が集まりだした。創里含めて一〇人。柱は九人である為、殉職(じゅんしょく)などによる穴埋(あなう)めや繰り上げではないようだが、どういうことだろか。

 そんな疑問を口にする直前。以前に感じた自然の中にあって当たり前というような気配を感じ、慌てて片膝(かたひざ)()いて(こうべ)()れる。それに一瞬遅れ、ほぼ同時に左隣で虎恭も同じ姿勢を取る。その時に「ほう」と面白そうなものを見つけたというような声がしたが、創里は反応しない。気付けば、自分含めて全員が横一列となって膝を突いていた。

 その並びは、創里がほぼ中心となって左に虎恭を初めとした五人。右には創里よりも年上だろうが、若い女性を初めとした四人の計一〇人である。

 

「本日二度目の、突然の招集に集まって下さり、ありがとうございます。そして創里、最終選別以来ですね。お元気そうでなによりです」

 

 産屋敷家当主、産屋敷守通(うぶやしきもりみち)が現れた。




 江戸コソコソ話

 炎の呼吸 漆ノ型 星火燎原
 星火燎原とは、最初は小さい力のものが、成長して強大になり手に負えなくなること。「星火」は星の光のように小さなもの。「燎原」は広野を焼き払うこと。反乱や一揆が次第に大きくなっていき、防げなくなることをたとえたもの。だそうです(辞書片手)。
 まさに生生流転の炎版としてピッタリの熟語ですね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。